原作主人公に平穏という二文字は遠い
新学期となり、新生徒会が発足して1週間が経った。
悠元はあずさの頼み(あずさに会長への立候補を打診した際の交換条件ともいう)もあって生徒会副会長になっていた。周囲からはあずさの次の生徒会長の有力候補とも言われているが、それと同じぐらい生徒会長の候補に挙げられているのは深雪である。
「お待たせしました、お兄様」
「お疲れ様」
元々、生徒会室を食堂代わりに使っていたのは、真由美の(ある意味)職権濫用でもあったため、生徒会の体制も変わったので食堂を利用するようになった。
一科生(A組の悠元、燈也、深雪、雫、ほのか、姫梨)と二科生(E組の達也、レオ、幹比古、エリカ、美月)では実技科目の関係で授業のカリキュラムも異なるので、どちらかが席を取るのが当たり前になっていた。
「すみません、達也さん。私のせいで遅くなっちゃって」
新生徒会のメンバーは、生徒会長・中条あずさ、副会長・神楽坂悠元と司波深雪、書記・光井ほのか、会計・五十里啓の5名で構成されている。
その裏では、部活連の新会頭である服部が悠元を副会頭に据えたがっていたが、生徒会のデータベースシステムを使いやすく弄った悠元にはその引継ぎも含めて生徒会に在籍してほしい、というあずさの懇願があったことを悠元は知っている。
「気にする必要はない。最初は戸惑うことも多いだろうからね」
ほのかは、夏休みの海水浴の一件以降、達也に対してやや積極的に声を掛けるようになっていた。その点については、達也も嫌がったりせずにしっかりとフォローしている。それを見るに、気があるのかどうかまでは分からないが。
まあ、変な趣味嗜好があるという噂に繋がる可能性は低くなるので、それだけでも深雪の溜飲は下がるだろう。
「しっかし……自分でやりたくないからって人頼みとかふざけてるとしか思えんぞ」
「悠元、それは思っても口に出して欲しくなかったんだが」
「ああ、すまん。分かっちゃいるんだがな」
当初の予定では、あずさは達也も生徒会に引き込みたかった。その理由は深雪に対してのストッパー的役割を頼みたかったのだ。
悠元は生徒会副会長とはいえ、彼頼みにするわけにもいかないし、何より新学期に入ってから軽運動部に入部希望者が増えてしまってその対応に追われていた(現状は秘匿すべき部分があるため、大半の入部希望を断った)。
兼部は可能としているので、バイアスロン部の雫とほのか、山岳部所属の燈也とレオ、剣道部に一応入っているエリカ、部活に入っていない幹比古と美月も軽運動部に入ることとなった。加えて姫梨も軽運動部に入ることとなった。
今挙げた面子からわかると思うが、部活動において一科生と二科生の部活動の線引きが自然とできている中、軽運動部は一科生と二科生の混成メンバーのために部外者を下手に入れるわけにはいかないのだ。
なお、この状況でも達也は軽運動部に加入していない。別に幽霊部員扱いでも構わないぐらいだが、変なところで律儀な部分がある。
その達也なのだが、生徒会入りを反対したのが新風紀委員長である花音。曰く「彼に抜けられると事務仕事が回らなくなる」と達也やあずさの前でハッキリと言ったのだ。結果的に、今年度は風紀委員会、来年度は生徒会役員になることで達也の処遇が決まった。
「軽運動部も元々は便宜上のものだったのにな……半分新陰流の道場みたいなことになってしまったし」
「いや、正直言って実家の鍛錬よりもキツイわよ?」
「そりゃ、エリカとそれ以外でメニューを変えるのは当たり前だろうに。千刃流の印可を持ってる奴に基礎の素振りだけなんて失礼にもほどがあるだろ?」
「いや、それはそうなんだけれどね……」
元々は深雪に武術を学ばせる意味合いが強かったのだが、雫に伊勢神道流を教える関係で運動系の部活として機能する形になっていた。とはいえ、エリカとそれ以外では練度に大きな開きがあるため、メニューは完全に分けている。流石に悠元が剛三から受けた訓練をそのまま引用することはしていないが。
「以前千刃流の道場へ赴いた時の経験を生かして、寿和さんや修次さんレベルに設定はしているが、それでもついていけてるのはエリカが腐らずに鍛錬を積み重ねている証拠だと思う」
「や、やっぱり兄貴たちレベルに設定されてたのね」
新陰流剣武術と伊勢神道流は天神魔法のような表裏の関係に位置する。新陰流における秘術が身内にしか修得できないのは、伊勢神道流の奥義に属するものを学ぶという意味合いがあり、数代おきに婚姻を結ぶ際に武術の継承ミスを起こさせない工夫ともいえよう。
それを聞いたとき、鍛錬を免除された理由も自然と腑に落ちた。
「爺さんにそのあたりを聞いたら、エリカの親父さんが頼み込んできたらしい……十中八九、誼を結ばせてあわよくば、と考えたんだろうな」
「あんの腐れ親父……」
「エ、エリカちゃん……」
エリカが千刃流の印可ということは知っているので、皆伝クラスに至るための鍛錬メニューを考案している。加えて夏休み中に頼まれたエリカ専用の新型CADも五十里と相談したうえで製作中だ。
(兼部のメンバーが半数以上だが)軽運動部の部員も増えたため、いつの間にか完成していた新築の演武場に割り当てられることとなった。その資金は上泉家と神楽坂家の折半だったらしく、上泉家お抱えの建築会社が関わっていたらしい。
すると、エリカが何かを思い出したようで、悠元に視線を向けつつ問いかけた。
「あ、そうだ。悠元、放課後空いてる?」
「今日に関しては生徒会もないと聞いてるが、何かあるのか?」
「えっと、うちの
特に用事は入っていないので、悠元は頷いてその用件を了承した。しかし、千葉家の頭領であり警察官の彼が、何故自分に白羽の矢を立てたのか……その答えは、彼との対談まで考える羽目となった。
◇ ◇ ◇
てっきりエリカも一緒に来るのかと思えば、今日は剣道部に顔を出すということで同行はしなかった。彼女自身、実家である千葉家に対して快く思わない部分があることは知っているし、彼女の素性を同年代で知っているのは、悠元以外だと幹比古しかいない。
そうこう考えている間に、悠元の乗っているキャビネットは千葉家の近くに到着した。一応周囲を警戒するが、特に監視の目などはなさそうだ。だが、油断はしないほうがいいと一歩ずつ着実に目的地へと歩を進めていく。
百家「剣の魔術師」千葉家。この家の構造を一言で言い表すなら「迷路」の言葉に尽きる。事実、最初に来た時は思わず迷いそうになったため、『天神の眼』で家の構造を写し取るという反則技で切り抜けた。
流石にそれは一度きりで止め、2回目以降は目視と記憶だけを頼りにするようにした。
とはいえ、今回はそこまでの必要もなかった。
何せ、道案内というかエリカ経由で呼びつけた当人―――千葉家長男である寿和が出向いていたのだから。これには悠元も彼の前に立つと、お辞儀をする。
「お邪魔致します。今日は自分に御用があると聞き及んだものですから」
「いえ、こちらこそよくお出で下さりました、
寿和が、悠元のことを名前呼びではなく名字を使う……今回の用件は寿和の個人的な用事というよりも、千葉家かあるいは警察官としての相談かお願い事なのだろう。
エリカが深く聞いていなかったのは、トラブルと聞くと動かないはずの無い彼女に対し、下手に首を突っ込んでほしくないという釘差しも含んでいるかもしれない。
案内された客間にて、出された緑茶と茶菓子に手を付ける前に悠元のほうから話を切り出した。
「それで、今回のお話は千葉家の頭領としてでしょうか? それとも、警察省の警察官としてでしょうか?」
「敢えて言うなら、“両方”と述べるべきでしょう」
そう言って、寿和は自身が関わった不審船に関する情報と、その船に乗っていたであろう人物が姿を晦ましたことを明かした。船に関しては当たり所が良かったので沈まなかったが、船籍などの基本的な情報しか手に入らなかったと話す。
「もしかしてですが、千葉殿は探していた当該人物が地下に張り巡らせられた水道を通ってどこかに逃げ込んだ、と睨んでいるのでしょうか? ……喋りにくいんでしたら、普段通りの言葉遣いで構いませんよ、寿和さん」
「助かります……奴さんの凡その目星は“中華街”だと思われる。そこしか大々的に匿える場所がないからな」
横浜の中華街は、前々から大亜連合からの亡命者を受け入れる“受け皿”となっていることは、元や剛三から聞き及んでいる。その特殊性ゆえに一種の治外法権が働いており、現政府でも下手に踏み入れない場所の一つとなっている。補足しておくが、大使館や共同利用基地などを除いてこの国に認められた公的な治外法権は存在しない。
寿和からその船の情報を貰い、そこから『天神の眼』で横浜山下埠頭に留め置かれた船の“航路情報”を読み取る。いくら乗組員が身を隠していても、船が通ってきた航路という情報を掻き消すのは至難の業。大陸の道術や方術でも大型の物体単位で秘匿・改竄は難しいだろう。そして、その航路を見た結果、内心で溜息を吐いた。
(何で輸送船が“大亜連合の軍港”を経由してるんだよ……こりゃビンゴかもしれんな)
おまけに、輸送船がもぬけの殻になる前に『鬼門遁甲』を使ったと思しき形跡があった。使った理由は、想定よりも早く魔法師が到着したときのことを考えて警戒したと思われる。警察省の警察官は大概現代魔法に通じているため、この国の古式魔法や大陸系の魔法関連となると弱くなる部分がある。この辺の解析が出来なくても無理はない、と思いつつ、悠元は真剣な表情で問いかけた。
「それで、自分を呼んだ理由は何でしょうか? 一応言っておきますが、中華街に関しての手出しは控えてほしい、と母上より言いつかっております。それ以外でしたら、可能な限りでの協力となります」
「その連中の狙いが論文コンペかもしれない、と睨んでいる。悠元君を呼んだのは、その際に民間人への被害が及ばないようにしてほしい」
無論、寿和も警察官としてできることはするが、相手が“テロリスト”を超えて“軍隊”などとなれば、警察官としての職務の範疇を超えてしまう。
恐らくだが、三矢家や上泉家も寿和からの要請は聞き及んでいるだろう。こうなれば、論文コンペ当日は何らかの形で民間人全員を横浜から遠ざける方法が望ましいが……そうなると、前世であったような“特別厳戒態勢”が良いのだろうが、仮に情報が漏れても問題ない方便が必要になる。
「お話は分かりました。このことは母上にもお伝えしてよろしいでしょうか?」
「ああ、元々そのつもりで話したのだからな。コホン……それでは、改めて宜しくお願いいたします、神楽坂殿」
◇ ◇ ◇
論文コンペとなると、該当しうる事項は一つある。とはいえ、今まで原作とは異なる変化が少なからず起きているわけであり、改めて敵の洗い出しはやっておくべきなのかもしれない。
そんな風に考えながら司波家に帰宅すると、出迎えたのはワンピースにミニスカート、その上からエプロンドレスを身に着けた深雪。流石に10月という時期からして、ギリギリ家の中で着る分には問題ない格好だとは思うが、まるで誘惑しているようにも見えてしまうと内心で呟いた。
「ただいま、深雪」
「おかえりなさい、悠元さん。その、どうでしょうか?」
「月並みな感想だが、とても似合ってるよ。ところで、夕食の準備中なのに火元を離れていいのか?」
「もう出来上がっておりますので。後はお兄様の帰りを待っているだけです」
深雪から話を聞くに、二人の(表向きの)母親ともいえる
時折曖昧な表現なのは、小百合に対しての感情が見え隠れしている証拠なのかもしれない。
「間違っても達也がへまを打つとは思えんが……そしたら、着替えてくるよ」
「はい、わかりました」
私服に着替えてリビングに来たところで電話が鳴った。その着信音からして誰かからのものだと気付いた悠元は、そのまま通話ボタンを押すと、画面に表示されたのは悠元の予測通りの人物―――風間であった。
『おや、悠元か。達也は不在なのかな?』
「少佐、分かっていて仰いますか……大方その達也のことでしょう? とはいっても、詳しい事情は全く知りませんが」
『達也が魔法を使ったらしく、藤林がその痕跡を消すのに対応している。どうやら、相手は相当の手練れのようだ』
風間が“手練れ”という言葉を使ったということは、めったに被弾することのない(被弾しても瞬時に自己修復術式で回復してしまう)達也でも一筋縄ではいかない相手ということだ。そうなると敵対した人物は軍人、それも複数人で一人は狙撃手……その可能性を伝えると、風間も上がってきた報告からその可能性を予測していた。
「可能性の範疇は越えませんので、詳しくは達也から……っと、丁度帰ってきたようですね」
「悠元、それに風間少佐。その、お邪魔でしたか?」
『いや、構わない。今は達也のことについて話していたからな……早速だが達也、大まかの事情は察しているが、話を聞かせてくれ』
「了解しました」
そして、達也が小百合の乗っているコミューターに自走車から謎の集団が出てきて襲撃。その対処をしている最中に遠距離からの銃撃を受ける形となったが、かろうじて回避に成功し、『
この時、達也の口からレリックのことが口に出されなかったが、小百合は四葉の末端ともいえる人物なのは風間も知っているため、“彼女自身が目的で狙われた”という形にしたようだ。
恐らくはレリックを解析したい、という達也自身の知的欲求も含んでいるのだろうと思い、それ以上は口に出さないように努めた。
ボックスイベントやってたら更新は遠くなるよね。てなわけで、横浜事変編です。達也側の描写をすると色々引っかかるため、基本的に主人公の視点から見た描写が多くなります。
一応釈明というか説明ですが、あくまでもそれなりに好き勝手書いている部分が多いので、展開に余程無理が生じない限りは大きな修正を加えないつもりです。そうしないとモチベが続かないというリアル事情もあります。
で、ここから色々変化点が増えるため、if要素のオリジナル展開となっていきます。
アニメでは非魔法師の描写がなかったわけですが、原作を見た限りでも被害に遭ったという描写は自分の覚えている範囲で無かったので、その要素を入れるために千葉家を持ち出した形です。