魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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尻拭いする羽目になる悲しい現実

 「聖遺物(レリック)」。当時の技術では説明不可能な出土品であり、オーパーツという呼び方のほうが分かりやすいかもしれない。ちなみにだが、アンティナイトもこの類の代物に含まれている。

 リビングに移動した達也がテーブルに置いたのは、小百合から押し付けられた代物。瓊勾玉系統のレリックが置かれた。自分も含めて3人分のコーヒーを置いた深雪も興味津々だが、悠元に関しては怪訝そうな表情を見せていた。

 それを見た達也は、悠元が国防陸軍の技術顧問であることを思い出しつつ問いかけた。

 

「悠元、このレリックに心当たりがあるのか?」

「心当たりがあるも何も、陸軍で解析の手伝いをしてたから」

 

 兵器開発部において一番解析能力が高かったこともあり、国防軍で所有・保管しているレリックやオーパーツの解析を頼まれることが多かった。手伝いとは言ったが、解析のメイン担当に据えられていたことは流石に話せないだろう。

 正直な話、解析したはいいものの、どれか一つ表に出すだけで軍事バランスを壊しかねないものばかりだ。なので、達也が押し付けられた勾玉の観測報告に関しては大雑把にしていたのだが……それがこの勾玉だとは知る由もなかった。

 

「あの、初耳なんですが……」

「一応軍事機密だからな。細かいところまで行くと流石に話せないけど」

 

 結論から言えば、その勾玉には魔法式の保存機能だけでなく、特殊な方法を用いることで外部から想子を取り込む機能も備わっている。勾玉を複製して特殊な魔法式を用いることで十全に使えるようにし、兵器の核にでもすれば非魔法師でも動かせる魔法兵器が出来かねない。

 だから、その時点では大雑把な形にして国内外からの視線を逸らそうとした、というわけだ。早い話が自業自得ともいえるだろう。

 

「俺が把握しているのは、魔法式の保存機能らしい代物が観測結果で得られているってぐらいかな。それ以外のことはメインで担当していた人しか知らないことみたいだから」

「……成程、あの人の言っていたことは事実というわけか」

「そういえば、雫からのメールで知ったんだが、論文コンペのサブメンバーになったんだって?」

 

 達也は、論文コンペのサブメンバーを結局辞退した小春の代わりとして鈴音が推薦した。達也が言うには、春の時に紗耶香の呼び出しを受けてカフェテリアで話していたとき、鈴音もその場にいたというか監視の役目を担っていたと推察したとのこと。ただ、本人にはそのことを問い質すつもりもないと断言した。

 

「ああ。その際、お前の姉がやらかしたということも市原先輩から聞いたぞ。お前も含めてだが……」

「ああでもしないとコンペのメンバーに選ばれそうだったからな。それが回避できたところで、今度は会場の警備に回されるオチなんだろうが」

 

 現在から遡って四代前―――詩鶴が会長の際、兵器としての魔法の有用性という論文を書いて事前審査で却下。三代前の佳奈は大量破壊兵器に代わる魔法の有用性という題目と基本コードに関する論文の2本を書き、片方が審査で却下。美嘉に関しては魔法教育システムの抜本的改善策という題材を無視した形となり、これも却下された。

 何で知っているのかと聞かれれば、本人たちから直接聞かされたと答えるしかないのだが。

 

 補足説明になるが、決して変に目立とうと思ったわけではなく、ただでさえ九校戦で優秀な成績を上げている以上、三矢で論文コンペの話題を独占すれば要らぬやっかみを受ける為、派手にぶっ飛んだ内容を持ち出して正当な審査による却下を食らう形にしたというわけだ。

 

 悠元の言い放った言葉は、結局のところフラグ回収でしかなかったのは言うまでもない。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 論文コンペの警備は9つの魔法科高校で代表メンバーを選出しての合同警備となるが、そのリーダーを務めるのは九校戦本戦のモノリス・コードの優勝校が不文律となっている。少人数でのチームであるモノリス・コードがそのまま大人数の統率ができるのか、という疑問は当然あるのだろうが、今年に関しては問題ないといえよう。

 

「―――以上が論文コンペでの警備の大まかな内容だ。それで神楽坂、引き受けてくれるか?」

 

 元部活連会頭となった克人が今回の警備隊のリーダー。十師族というネームバリューに加えて、警備や護衛となれば十文字家の『ファランクス』は適材適所ともいえよう。彼からの要請に対し、悠元は静かに頭を下げた。

 

「はい、よろしくお願いします、先輩。ただし、家の都合で動く場合はその限りでなくなりますが、よろしいでしょうか?」

「ああ……正直なところ、断るのではと思っていたが」

「まあ、毎年トラブルが起きている論文コンペをせめて今年ぐらいは無事に終わってほしい、という思いで微力を尽くすだけですが」

「いや、お前が微力なら大半の連中は塵に等しくなるぞ……」

 

 トラブルが起こりうる可能性は既にあるわけだが、会場警備ができるというのならば、正式な手段でいたほうが面倒なことにならずに済む。それに、トラブルを好き好む連中に対して“助太刀”というお墨付きを与えられることにも繋がる。

 悠元の放った言葉に対して、桐原は頭が痛くなりそうな表情をしつつも悠元を窘めた。同席している服部は苦笑を漏らす。

 

「言葉のあやというものですよ、桐原先輩。それで、今後の予定はどのようになりますか?」

「他校との打ち合わせは俺が受け持つ。神楽坂に関しては、当日“遊撃”という形で動いてもらうこととなる。なので、それまでは空いてる時間で構わないから、警備隊の連中の相手をしてくれ」

 

 つまり、鍛え上げて欲しいというものだろう。この辺は今年の九校戦の結果(特に男子の結果)が見るからに落ちていたのも起因しているかもしれない。こちらとしても、当日に向けての調整になるので克人の提案に頷いて了承した。

 

「基本は俺と神楽坂で鍛え上げるつもりだ。なので、遠慮せずにやってくれ」

「分かりました……というわけで、頑張って生き残ってください、服部先輩」

「あ、ああ……(沢木あたりは嬉々としそうだが、この2人相手だと大半の連中は先に心が折れるんじゃないのか……?)」

 

 奇しくも、今年度の九校戦において克人は本戦モノリス・コード優勝の原動力、悠元は新人戦モノリス・コード優勝の立役者。その2人相手というのは一部の人間なら喜ぶだろうが、先に精神が降参するのでは……と服部は内心で独り言ちたのだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 論文提出を3日後に控えた日の夜、珍しく自室で授業の予習をしていた(知識は瞬間記憶でどうにでもなるが、気分的な問題でそうしていた)悠元だが、その作業はノックの音で止まる形となった。部屋に入ってきたのは達也だったからだ。

 

「どうしたんだ、達也? ハードがシステムのクラッキングでやられたか?」

「いや、そちらは問題ないが……どうしてそう思ったんだ?」

「そりゃ、先日のことを考えたら国防軍絡みの案件狙いだと思う、と推測しただけだよ」

 

 司波家のセキュリティは、下手すれば世界最高峰に近い代物と化している。浅めのハッキングでもそこまでの情報は出ないようになっているし、そこから深く潜ろうとしたら「エシェロンⅢ」クラスのスパコンを数台直結させないと無理な状態になっている。

 そもそも、大事なデータはオフライン端末の中にしかないので、いくら漁ろうとも無駄の極みと言う他ないが。出てくるとしたら、魔法使いとしての一般家庭が持ちうるきれいな情報ぐらいしかない。

 

「セキュリティは無事だ。逆探知は試みたんだが、攻撃元が切断されたので特定はできなかった。それで、悠元に頼みたいことがあるんだが」

「俺にその攻撃元のアドレスを割り出せ、とでも?」

「それができれば苦労はしないが、凄腕のプロ相手だと至難の技だろう。こういったことをする連中に心当たりはないか?」

 

 情報の痕跡自体は残っているので、特定することは“遡れば”可能だろう。恐らく、ここで情報が得られなかった場合は遥あたりにでも聞き出そうとするかもしれない。

 達也の親や身内あたりなら嬉々として情報提供したいと言い出すかもしれないが、頼らないのは実家に迷惑を掛けたくないのか、あるいは男としてのプライドがあるのかもしれない。

 

「先日の達也が関わった案件についての話になるが、真田大尉に頼まれて狙撃手が使ったと思しきライフルを解析した結果、大亜連合で制式採用されていたものだった。それも、特殊部隊仕様のものだということもな」

「つまり、同じ連中の可能性が高いと睨んでいるのか?」

「それは風間少佐も同意見だった。しっかし、普通は外国製のライフルなんて簡単に持ち込めないはずなんだがな……もしもの場合、『大黒特尉』の出番もあるかもしれないな」

「……そうか」

 

 3年前の沖縄戦で大亜連合の兵士と艦艇を殲滅した達也と悠元。その時点でも躍起になっていた連中が諦めたとは到底思えなかった。場合によっては『マテリアル・バースト』の使用も考慮に入れないといけないだろう。完成したばかりの「サード・アイ・エクリプス」の投入も具申するべきかもしれない。

 悠元はそう思いながら、机の上に置かれたケースに手を置き、言葉を呟く。

 

「空即是色、色即是空」

『パスワード、認証しました』

 

 静脈認証システムと音声認識のパスワード。二重のロックシステムを採用していることに達也は疑問を感じたが、その中に収められたものを見たことでその疑問は氷解した。中に入っているのは2丁の漆黒の拳銃型CAD。刻まれたレリーフは竜を模したものだった。

 

「達也が軍事行動をする際、一切の制約なく動けるほうがいいと思って組み上げたCAD。固有名称は『バハムート』で、スペックだけでいえば俺の持ってる『ワルキューレ』や『オーディン』に匹敵する。流石に『トライデント』を持ってることが魔法科高校の連中に知られてる以上、支障がないようにすることも大事だからな」

 

 普段使うのは「トライデント」、軍人としての行動では「バハムート」を使用する。どちらもフォース・シルバーシリーズではトップクラスの代物のため、違和感なく使うことが可能だろう。

 フレーム設計はFLTで行い、システム関連は基本的に「トライデント」からのフィードバックで構築されている。達也の魔法特性に特化しているため、事実上の達也専用デバイスに仕上がっている。

 

「まあ、これ以上のことが何も起きずに論文コンペを乗り切れたら嬉しいんだけれどな」

「そういう言い方だと、起きてしまうようにも聞こえるんだが?」

「あー……すまん。ともかく、相手が国家ぐるみである以上、レリックの解析がすんだら俺のほうで引き取るよ。もしくは独立魔装大隊経由で戻すのもいいけど」

「……分かった。手間をかけるが頼む」

 

 達也とて知的好奇心には勝てないが、深雪のガーディアンである以上は自身に降りかかる危険が深雪に影響を及ぼさない、とは断言できない。

 だからこそ、悠元の提案を呑む形とした。FLTに持ち込んでも良いが、先日の襲撃者の素性を考えるならば悠元を頼るのも一つの手段として考慮することとした。

 

「それで、達也に試してほしいストレージを渡しておく。こいつには『ミスト・ディスパージョン』を更に改良した起動式が入っている。流石に普段使いはできないけど、そのデータは取ってほしい」

「向上心も流石だな。期限はあるのか?」

「特にないが、できれば年内のほうが望ましいとだけってぐらいかな」

 

 達也に渡したのは『爆裂雲散霧消(バスター・ミスト・ディスパージョン)』―――対象物を陽子・電子・中性子レベルに分解させて再構築・急速燃焼させることで中性子の無秩序放出を抑える魔法。傍からその魔法を見れば、達也の魔法で対象物が燃えて跡形もなく消え去った、という風にしか見えない。

 分子の再構築は魔法式で水素と酸素に予め設定されており、『トゥマーン・ボンバ』の発動工程を利用している。分子生成の構築魔法式自体世に出ていない技術だが、この辺は後に作るであろう『バリオン・ランス』へのヒントみたいなものだ。

 

 ただ、『ミスト・ディスパージョン』自体が軍事機密指定の魔法のため、特に期限は決めていない。いつ使えるかなんて分かったものではない、というのが最大の理由だ。

 

「さっきの心当たりの追加情報だが、エリカの兄である寿和さんと対談した。横浜や横須賀に密入国も相次いでいるらしい。口ぶりからするに、論文コンペを狙い撃ちにするつもりだろうと推測しているのかもしれない」

 

 横浜にある魔法協会支部のメインデータサーバをピンポイントで狙い撃ちにするのは、いくら凄腕のハッカーでも難しい……いや“不可能”だ。

 何せ、そこのセキュリティーに関してもテコ入れしており、エシェロンⅢクラスでない限りはプロテクトを敗れないように仕組んでいる。これを“電子金蚕”で潜り抜けた場合の対策も既に講じられている。

 

「どこまで話すかは達也に任せる。俺から話す気はないということだけ言っておく」

「どうしてだ?」

「そんな余裕なんてないからな。ただ、論文コンペの随伴人数は最小限に留めるべきというアドバイスぐらいはするけど」

 

 当日は“侵攻軍”の連中を止めるために前線行きを余儀なくされるのは確実。

 「そんな余裕」の意味は、論文コンペの警備の部分から表立っての補助ができないことに加え、足手まといに成り得る可能性のある人間は速やかに逃げるか、あるいは最初から会場に来るな、という意味を込めての発言だった。

 確実に人を殺す戦いとなるため、そんな覚悟なんて出来ない人に戦いなんて強制するつもりはない。ただ、魔法師ということで無駄に正義感の強い人が多すぎる……自分で言うのもおかしな話なのは自覚しているつもりだ。

 

「……悠元がそこまで言うと、論文コンペ当日に何かあると言ってるようなものだが、これ以上のことは聞かないほうが良さそうだな」

「助かる。達也は論文コンペの準備で忙しくなるから、そっちに専念したほうがいい。荒事の相談ぐらいは受け付けるからな」

 

 この話題が終わった後、悠元は自身の端末からどこかに連絡していたが……この行動がどういう意味を齎すのかなど、その時点で知っていたのは悠元本人だけであった。

 




 気付いたら通算UAが100万の大台を突破していました。正直な話、結構好き勝手書いているのにここまで伸びたことにビビりまくってますw

 そして、アニメ二期決定というお知らせ……それまでに来訪者編まで突入させる予定です。予定の見積もりが長いのはリアル事情が読めないからです。

 達也にテコ入れするのは、万が一のことを考えてのことです。オリジナル魔法は無機物に対する『再成』ならほぼノーリスクという点を発展させた結果です。いざとなれば古式魔法やら古代文明の魔法、超能力という逃げ道もあるので(ぇ

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