魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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嵐の前の静けさ

―――西暦2095年10月29日、土曜日。

 

 本来なら魔法科高校は通常通り授業が行われているが、悠元と姫梨は学校にいなかった。東京の皇居や霞ヶ関に程近い場所に神楽坂家の別邸―――表向きは皇宮警察を担う旧宮家の屋敷という体を取っている場所に来ていた。

 その屋敷で一際大きい大広間には、五人の男女が顔を合わせていた。

 

「では、明後日の動きとしては、先日話し合った通りということだな」

 

 そう切り出したのは、神将会第二席であり上泉家当主である上泉元継。

 神将会としては、非魔法師の殆どを当日までに横浜から遠ざけることにしている。その上で、中華街に対しては何ら警告を発していない。その理由は『自分勝手に治外法権を振りかざしている中華街に対して、政府の干渉が及ばないのなら放置するしかない』という今までの状況をそのままそっくり利用したものだ。

 

「ああ。これで連中が中華街を攻めなかったとしたら、裏切り者のはずの連中と手を組んでいた―――いわばグルだと疑念を抱かせることになる。まあ、現状でもお互いに利用しあう形で足の引っ張り合いをしているようなものだが」

「かつての敵は敵のまま、ね……周公瑾もそうだが、その上にいる奴も手駒としか思ってないんだろうな」

 

 第一席こと神楽坂家次期当主である神楽坂悠元の言葉を聞いて、第四席こと宮本修司は吐き捨てるようにそう述べた。ここにいる面々は全員周公瑾とその上にいる『七賢人』の一人のことまで既に知っている。

 完全な協力体制とはいかないまでも、陳祥山と周公瑾は協力関係にある。このことは『九頭龍』の調査で既に判明している事実だ。

 

「その二人だが、日付で言えば本日の未明に中華街で会談をしていた。どうやら本国から艦艇が派遣されるらしい……3年前の復讐戦でもやるつもりなのか、と愚痴りたくもなる」

「いつの間に……てか、よく掴んだね」

「九校戦の時に式神の監視網を中華街に張り巡らせたからな。爺さんが派手にホテルの最上部を吹き飛ばしたのがいい目晦ましになったようだ」

「あの……式神の維持はかなり負担が掛かる筈なのですが……」

 

 悠元がサラッと述べた事実に対して、第五席である高槻由夢、第三席である伊勢姫梨は揃って苦笑を漏らした。

 天神魔法とはいえ、式神の維持には膨大な想子量と術式制御が必須となるのが通例。かつての安倍晴明でも同時に12体の式神を操っていたが、それと同等レベルのことをやってのけている悠元に感嘆にも近いような笑いが漏れたのは言うまでもない。

 

「『霊亀』を使って中華街に限定しての監視をやってもらってるだけだ。いくら周公瑾が相手とはいえ、どこにいるかも分からない相手を見つけるのは至難の技だろう」

「四霊クラスの喚起魔法って、お祖母様を超えちゃってるよ……」

 

 喚起魔法は上級クラスになればなるほど、制御だけでなく存在を掴むだけでも並の魔法師には出来なくなる。相応の魔法制御能力を持っていないと難しいため、四霊クラスを式神として制御していることに驚きの声が上がった。

 

「何言ってるんだ。お前らにも相応の実力はあるだろうに」

「少なくとも、俺らが束になっても悠元には敵わんだろうよ」

 

 話が脱線しかけていることに悠元は面白くなさそうな表情を浮かべつつ、神将会の長として軌道修正をするように話題を変えることにした。未来の話よりも先に解決すべきは喫緊の課題である大亜連合の特殊部隊が主導となる横浜侵攻計画についてだ。

 

「戦線をある程度維持しつつ、魔法協会支部のメインデータバンクから魔法技術を盗むことは分かっている。呂剛虎が横須賀の外国人刑務所に移送されるのが明後日に急遽決まった……間違いなく政治的介入の影響だな」

「それは見逃すのか?」

「そこまで構っている余裕がないからな。それに……最低でも彼と陳祥山には生き残ってもらわないと困る」

 

 単に排除するだけならば簡単だが、陳と呂に“生き証人”としての役割を負わせる。大亜連合と顧傑の繋がりを決定的に絶たせ、彼をアメリカ大陸に閉じ込める。そのことを付け加えた上で悠元は言葉を続ける。

 

「警察の動員という形で十文字家と千葉家は動かせた。一条家からも湾岸警備という体で応援は来るとのことだ。流石に一条家当主自らは来ないが、十文字家当主が自ら陣頭指揮に立つそうだ」

「悠元、ちなみにだが七草家には?」

「……あの家に借りを作ったら、こちらの秘密を探りかねないと判断して俺から声は掛けなかった。実家経由ではお願いしたけどな」

 

 『ファランクス』という切り札が1つ増えるだけで選択肢の幅はかなり広がったと言ってもいい。前線に立つということはしないが、避難経路の安全確保を務めてくれるだけでも非常に助かる。

 七草家に対しては、三矢家経由で魔法科高校の生徒の避難支援を頼むこととした。当日は真由美も会場入りすることになるため、名分は立つだろう。いくら自分の娘が大事とはいっても、ここでそれ以外の生徒を蔑ろにすれば、魔法師を守るべき象徴である十師族の名に泥を塗ることになる。

 

「悠元の強さの秘密を探ってきそうな雰囲気は感じるが……大丈夫か?」

「真っ当な理由で強さを求めるならともかく、こちらの推測している理由で求めているのなら論外だ。ま、いざとなったら七草家に乗り込んで話はきちんとつけるつもりだ……別に滅ぼしに行くわけじゃないから、その表情はやめてくれ」

 

 強さに対して貪欲であろうとするのは別に咎めるつもりなどない。だが、その行き着く先が同じ十師族である四葉家を抑え込もうとするために使うのであれば、メディアの主導権全部を神楽坂家側に引き込むのも辞さない。

 個人に対して好意を持っていても、現当主に対する感情は別の問題でしかないと悠元はそう結論付けている。だからといって、何でもかんでも大事にするつもりなのでは、という視線は勘弁してほしいと思う。

 神楽坂家に入ってからにはなるが、やったことの大半は千姫と剛三が隠れ蓑になっている以上、自身に繋がる可能性は可能な限り証拠隠滅している。

 

「その気になれば嵐を起こすのもできますが、そこまではしなくてよいと?」

「横浜での“第一段階”は修司、姫梨、由夢、元継兄さんの4人で抑えてもらわないといけない。俺は論文コンペの会場警備がある以上、事情説明などの細かい仕事があるからな」

 

 現状の想定は、大亜連合の特殊部隊らによる第一段階、大亜連合本国艦隊による第二段階、そして……第三段階を考えなければならない兆候が別の国で起きていることを既に掴んでいる。悠元はそう言いながら、傍に置いていた折り畳み型端末を手に取って他の面々に見えるように端末の画面を見せる。

 そこに表示されているのは、本来ロシア語で書かれている暗号文を日本語に翻訳した文章であった。

 

「なっ!?」

「これは、本当なのですか?」

「綿密な調査と『モスクワからウラジオストクに送られた暗号電文』を解析した結果、確率は極めて高い。おまけに“イグナイター”がウラジオストクにいるようだ……彼が動いた場合、現状で対処できるのは俺だけになる」

 

 本来なら出張ってくるはずのない新ソ連の戦略級魔法師イーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフがウラジオストクにいる事実。こうなれば原作のような楽観視はできないと考え、最大限の警戒態勢を敷くように一条家へ連絡を入れている。

 最悪は横浜から遠距離狙撃も視野に入れることも必要だろう。

 

 剛三に頼むことも可能だが、彼が再び戦略級魔法を使えるようになったことは秘匿せねばならないし、内面上の年齢のせいで脅威に見られない可能性がある。そうなると、3年前のように達也と自分が動くことになるだろう。

 

「爺さんは……いや、爺さんの魔法なら防御に使うほうがいいな。そうなると、悠元が動くしかないというわけか」

「理解が早くて助かる」

 

 それに、ベゾブラゾフの『トゥマーン・ボンバ』にとって剛三の『雷霆終焉龍(ヘル・エンド・ドラゴン)』は相性が悪い魔法なのだ。

 『ヘル・エンド・ドラゴン』は戦略級魔法の中で最も性質が悪い魔法であり、その最大の特徴は全ての情報体を支配下に置いて、最大数兆ボルトという破格的な威力の電撃を広範囲に巻き起こす。そう、剛三が使う戦略級魔法は天神魔法をベースとした代物。だからこそ、元継は本気で教えさせるのを止めたというわけだ。

 

 異なる術者がそれぞれ現代魔法と天神魔法を同領域内で発動させた場合、強力な事象改変力を持つ天神魔法が現代魔法の事象改変力を“食らう”のだ。加えて、『ヘル・エンド・ドラゴン』は魔法の行使地点に存在するもの―――魔法を発動させた術者や物体にも強烈な雷撃によるダメージを与える性質を持つ。

 ある意味で四葉元造の『死神の刃(グリム・リーパー)』よりも性質が悪いと言っても過言ではないだろう。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 ウラジオストクにある新ソビエト科学アカデミー極東本部。その一室に公認戦略級魔法師であるイーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフがいた。

 新ソ連の情報部の調べでは、日本と大亜連合がもしかしたら開戦(3年前の一件があるため、一方的な休戦破棄と表現するのが妥当だが)するかもしれないという予測を受けていた。

 その情報をどこから嗅ぎ付けたのか、「日本への再侵攻」を一部将校が騒ぎ立てたのだ。そのため、前回よりも多い数百人規模の部隊が派遣される形となり、ヨーロッパ方面に睨みを利かせていたベゾブラゾフが「失敗の際の保険」という形でウラジオストクに派遣された。

 

(軍人たちにも困ったものですが……ですが、これは好機かもしれませんね)

 

 ベゾブラゾフは3年前の沖縄防衛戦について独自で調べていた。その中で彼が目を引いたのは、数十隻にもおよぶ大亜連合の艦隊をまるで手品のように消し去った戦略級魔法についてであった。

 大亜連合がその魔法を放ったと思しき魔法師のことを「殲滅の奇術師(ティターニア)」と呼称していた人物の正体は結局掴めなかったが、今回のことでその人物が出てくるかもしれない、とベゾブラゾフは予測していた。

 このことについては、同じ公認戦略級魔法師であるレオニード・コントラチェンコも同意見だったと先程まで繋げていた通信で話していた。

 だが、コントラチェンコは通信の際、ベゾブラゾフとの会話の中で懸念を口にしていた。

 

博士(ドクタル)。好奇心は結構なことですが、最悪は全てを切り捨てる覚悟も必要です』

「それは、相手が『深淵(アビス)』以外の切り札を持っているということでしょうか?」

『それもあるでしょう。儂が懸念しているのは、博士が気に掛けている「ティターニア」と呼ばれた魔法師の全容が未だ見えぬことです』

 

 コントラチェンコの言い分も理解できる、とベゾブラゾフは静かに頷いた。

 この3年間、かの国は大きな戦乱に巻き込まれていない。無論、それは当時いたであろう戦略級魔法師の存在を有耶無耶にしてしまい、日本政府はその事実を戦略級魔法の使用によるものと断言していない。

 そもそもの話、艦隊が消えたことは事実として残っているが、その過程に起きたことが痕跡として綺麗に残っていないのだ。そのため、いくら外側からの追及があったとしても、状況証拠がなければ一体何の仕業なのかも推測の域を出ない。

 日本の同盟国であるUSNAですら掴めていない以上、新ソ連でも当該の魔法師の情報は殆ど掴めていない。そもそも、そんな魔法師が存在するのかと疑問視する噂もあるほどだ。

 

 噂というものがある以上、“火のないところに煙は立たない”ことからして実在している。ベゾブラゾフは、艦隊の消滅を戦略級魔法と仮定しており、コントラチェンコも日本の戦略級魔法によるものだと仮定していた。

 

 今回の艦隊は全て旧式の装備で固められたもの。ガス抜きというよりも“廃棄処分”を兼ねたものに近い。前回の佐渡上陸作戦よりも質が劣る分を量でカバーした形だ。

 

「閣下は、どのようにお考えなのでしょうか?」

『……勝手な想像ですが、儂はあの「繋がれざる者(アンチェイン)」をも上回る戦略級魔法師ではないか、という予感がしているのです』

 

 『繋がれざる者』上泉剛三。その存在はベゾブラゾフですら人伝に聞いた程度の知識しか持ち合わせていない。

 だが、コントラチェンコは違う。約40年前、コントラチェンコが極東の部隊で日本侵攻を行った際、その艦隊を全滅させたのは剛三の戦略級魔法であった。その上、彼は単独でコントラチェンコが乗船している艦船に乗り込み、魔法を使わずしてコントラチェンコを圧倒した。

 その後、彼は大漢での四葉家の復讐戦に参加し、正しく一騎当千の所業を成した。その後、彼が表舞台から退いたことでコントラチェンコは内心安堵していた。

 上泉剛三をよく知るコントラチェンコの言葉には只ならぬ重みがある。それを通信越しながらもベゾブラゾフは老将軍の言葉を黙って受け取っていた。

 

「下手をすればウラジオストクが失われる……そう懸念されているのですか?」

『それぐらいの覚悟を持たねば、兵を生かして帰すことなどできぬでしょう。儂はそう考察しております』

「分かりました。閣下のご忠告、忘れることなきよう心に刻んでおきます」

 

 3年前の佐渡侵攻の件は国として公に認めていない。今回の日本再侵攻も表向きは“新ソ連からの脱走兵”という体を取ることが最初から決まっている。兵士が全員生きて帰れば、ガス抜きとしてこれ以上ないほどの結果となるであろう。

 

(最悪、この施設を消滅させてくることも念頭に入れねばならない……ですか)

 

 そう内心で呟いたベゾブラゾフが窓の外から軍港の方向を見つめると、表向きはいつも通りの動きではあるが着々と進められていく出航準備。その光景に対して何を思ったのかは、ベゾブラゾフ本人にしか分かり得ぬことであった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 場所は日本に戻り、東京のとある高層ビルの最上階。そこは世界的に有名なグルメガイドに名を連ねた店。そして、その個室には一組の男女が向かい合う形で座り、料理に舌鼓を打っていた。

 

「悠元君からしたら、少し物足りないかしら?」

「爺さんや母上ほど舌は肥えていませんよ。そもそも、普通なら1年先まで予約が埋まってる三ツ星レストランに入れただけでも驚いてますよ、安宿さん」

 

 高校に入ってから初めて袖を通したスーツ(千姫に見立ててもらったものであり、それこそ政治家御用達のオーダーメイドもの)姿の悠元に対し、女性―――第一高校の養護教諭である安宿怜美はドレスアップとメイクをバッチリしてきた上で悠元の向かいに座っている。

 神将会の会合の後、八雲から「九頭龍の一人と顔合わせするように僕が頼んでおいた」との文言で、指定された場所がここだという始末。そのため、先日渡されたばかりのスーツを引っ張り出す羽目になった。

 

「ここは神楽坂がパトロンをしているの。『九頭龍』の面々が食事をしながらこういった秘密の会議をしたりするのには打って付けというわけ」

「……にしては、気合入れすぎじゃないですか? これじゃ、まるで見合いですよ」

「両親はその気があるんでしょうけれどね。私も、悠元君のことは遥から聞いてるけど……本気で狙っちゃおうかしら?」

 

 九頭龍関係で言うなら、鳴瀬家絡みで雫が婚約者候補になっている。他の九頭龍を担う家としても他人事ではなく、現に四十九院家では沓子を候補として千姫に推薦したらしい。現状三人でも身に余るというのに、先日の試しの結果からすれば“それでも足りない”とのこと。

 自分という存在がどういう枠組みなのか……それを本気で知りたくなったのは言うまでもない。

 なお、矢車家に関しては三矢家との友好関係のお蔭で、宮本家と高槻家は神将会のことがあったので無理に婚姻関係を結ばずに済みそうなのは重畳だった。

 

「安宿さんの容姿なら、逆に引く手数多のような気もしますけれど」

「魔法師って基本は政略結婚なのよね。それこそ、悠元君のご両親のような存在は稀有よ」

「理解はしているつもりですよ。あの四葉家もその類ですし」

 

 怜美と会談することについては直前まで分からなかったし、下手すると泊りがけになるかもしれないということは八雲から示唆されていた(この辺は後で反応を見て楽しむためだろうが)ため、達也と深雪には「家の用事」ということで話はつけている。

 しかし、遥の面倒を一時的に見ていた上、怜美が八雲の実質的な部下になるため、神楽坂家がその気になれば第一高校の情報を手に入れやすい環境ともいえるだろう。

 

「私も結構両親から責付かれててね。多分、悠元君の婚約者候補には入れられてるんじゃないかって思うわ」

「何と言うか、達観しているような口ぶりですね」

「どこの誰とも分からない人相手よりは安心できるから」

 

 剛三と千姫は悠元の婚姻について一貫した考えを持っているため、婚約者が三人で済むというのは甘い考えでしかないし、気が付いたら両手で数える範囲を超えていた……というのが冗談で済まないと理解している。

 だからといって、自分の目の前にいる男子に対しての色仕掛けというかアピールは正直どうなのか、と愚痴りたくなってしまうのは……人間として真っ当な感覚を持っているからだと思いたい。

 

「尤も、爺さんと母上が三人で済ませてくれる保証なんて灰塵の如くのレベルですが」

「あら、これは私も戴かれちゃうパターンかしら」

「人を性欲の権化みたく言わないでください」

 

 そんな冗談はさておき、話は本題に入る。怜美が端末を取り出したので、悠元も端末を出してデータを受け取る。そのデータはUSNA関連の情報であった。予め八雲を通して大亜連合以外の諸外国の動きを見てもらっているが、ほぼ予測できる範囲に収まっているのは幸いだった。

 

「向こうは意図的に部隊の出撃を遅らせるみたいね。国防軍にはその情報が一切届いていないようだけれど……新ソ連のほうはどうするのかしら?」

「爺さん絡みの伝手を頼ることにしました。“イグナイター”が『トゥマーン・ボンバ』の使用に踏み切った場合、俺が対応することになるでしょう」

 

 3年前の沖縄防衛戦をよりスケールアップした形となるであろう横浜での事変。現在の状況を鑑みるならば、達也の『マテリアル・バースト』を使用せねばならないところまで差し迫ることになる。

 新ソ連については自身で対応しないと厳しい、と悠元は感じている。何せ、相手が戦略級魔法師である以上、今の一条家や国防軍では手におえない相手となるだろう。

 

「今日様子を見に行ったんだけれど、平河さんのマインドコントロールは解除されていたわ。本人は司波君に謝罪したいって言ってたけれど、論文コンペには連れて行かないことにしたわ」

「それがいいと思われます。現時点で危険が極めて高い場所に実力が半端な魔法師は足手纏いにしかなりませんので」

 

 現時点で九頭龍も大陸系の術者が千秋を洗脳していたということは判明しているし、それが周公瑾の仕業だということは八雲も把握している。それと、彼女を狙った一件の時に“妙に存在を誤魔化す感覚”を佳奈が掴み取っていた。

 

「神将会の長としては、初陣が凄いことになりそうね」

「トラブルを某メーカーの掃除機の如く吸い寄せちゃう人間がいますからね。まあ、それはともかく……周りの連中が平穏に過ごさせてくれないのなら、死ぬよりも辛い目に遭わせてやるだけですよ」

 

 傍から見れば大言壮語のようにも聞こえるだろう。だが、神楽坂悠元という存在は、彼自身が思っているよりも遥かに強い存在である。

 その意味を、向かいに座って微笑んでいる怜美も、このときはまだ気付いていなかった。

 




 原作よりも上乗せとなりますが、主人公の存在がベゾブラゾフを動かした形となります。コントラチェンコと剛三の関係はオリジナル設定です。

 ベゾブラゾフの文言を調べたら、レリック関連の発言が出てきたことに驚いていますが(借り物だったものをどうやって入手する形にしたのかは不明ですが)、本作はこの辺を変更します。どうするかは今のところ白紙に近いですが(ぇ

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