魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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教えられない秘密は山ほど

 そこから少し遡ること数十分前。

 コンペ会場の駐車場には数台の大型バスが停まっており、その傍には数台の装甲車が停まっている。それらはすべて国防軍第101旅団・独立魔装大隊所有の特殊装甲車であり、運転席に座る陸軍の軍服を纏った男性は静かに呟いた。

 

「やれやれ、少佐殿も人使いが荒いね」

「今回ばかりは同意しておこう」

 

 そう述べたのは独立魔装大隊の幹部メンバーである真田と柳の二人。「ムーバル・スーツ」のデモンストレーションを明日に控えているのに、まさか論文コンペ会場周辺の警備をすることになるとは予想外だったと二人揃って同じ意見だった。

 だが、藤林から聞かされた情報からして冗談で済む範疇を遥かに超えていた。時計が15時半を示したと同時に見えた黒煙と爆発音。この時点でただ事ではないと察してしまった。

 

「さて、忙しくなりそうだ……柳のスーツはいつでもいけるから、遠慮なくやってくれ」

「そういうところは仕事が早いな」

 

 愚痴というよりも信頼から来る柳の言葉を聞いて、真田は苦笑しつつも兵器の準備に取り掛かる。柳は素早くムーバル・スーツに着替えると、向かってきている兵士らに向けて魔法を放っていくのであった。

 流石に体術面で優れている柳といっても、“彼ら”のような動きや魔法運用など難しいのは明白なことだが、贅沢も言っていられない状況だ。真田はムーバル・スーツを装着した他の隊員も見つつ、自分もスーパーソニックランチャーを準備してミサイルなどの対応に備えた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 悠元たちがホールに戻ると、先ほどの振動音で動揺を隠しきれないことに加え、困惑しているような状況だった。ともあれ、この場を収めてもらうための適任者のもとに向かうと、鉢合わせする形で真由美も近づいてきた。

 

「あ、悠君たち……って、悠君。その恰好は……」

「今はお教えすることができませんし、優先順位が違います……中条先輩。いえ、中条生徒会長。あなたの魔法でこの場を収めてほしいです」

「わ、私がですか!?」

 

 あずさは悠元からのお願いに驚き、達也たちはあずさの魔法のことなど知らないため、疑問を浮かべるような雰囲気を見せていた。それを見て疑問を投げかけたのは真由美だった。

 

「悠君、どうしてあーちゃんの魔法を知ってるの?」

「俺には個々の魔法が“視える”からです。中条先輩がここで魔法を使っても、口外しないことを約束します……七草先輩が」

「わ、私!? いや、まあ、それをお願いするつもりだったから吝かではないけれど……」

 

 真由美の驚きで誤魔化したが、悠元の言葉には一切の誇張や嘘など含まれていないことを察していたのは、恐らく達也と深雪ぐらいかもしれない。

 少し悩んだ後、あずさは胸元からペンダント型CADを取り出し、情動干渉魔法[梓弓(あずさゆみ)]を発動させる。攻撃魔法ではなく、対象範囲の情動を平常な状態にリセットする魔法。

 その魔法で会場が静まり返ったのを見て、現在の状況を真由美が説明した(あずさが悩んでいる間に悠元が真由美に避難方法を伝えた)。その言葉が終わるとともに、各校ごとに避難を始めていく。

 

「さて、俺らがデモ機を処分するので、会長たちは裏口から避難してください」

「悠君はどうするの?」

「俺にはやらなければならないことが山積みなんですよ。この格好自体は伊達や酔狂でしているわけでもありませんから」

 

 相手がテロ紛いの行動をしているとはいえ、この先は“戦争”の領域に踏み込む。その為、この場に残せるのは最小限度の人数。正直な話、ほのかや美月だけでなくレオやエリカ、幹比古にも退去してほしいぐらいだ。

 デモ機の解体となれば自分でも行けるが、達也と分担したほうが遥かに速い。すると、通信が入ったのでそちらに意識を向ける。

 

『総長殿、第六席と第七席の装備を届けに参りました。“第十三会議室”にてお待ちします』

「了解しました。雫に深雪、先に向かってくれ」

「分かった。それじゃほのか、気を付けて」

「う、うん。雫も気を付けてね」

「お兄様、一旦失礼します」

「分かった。安全になったとはいえ、気を抜かないようにな」

 

 手早く通信を済ませると、雫と深雪が先にホールを後にした。一分一秒でも無駄にしたくないと歩を進めようとしたところで、その動きに待ったをかけたのは真由美や合流した摩利であった。

 

「待って。悠君、どういうこと? どうして北山さんと深雪さんが貴方の命令に従うような素振りを見せたの?」

 

 ほのかはともかく、達也に対して飛び火しなかったのはありがたいと思ったが、こういうところは父親によく似たものだと思う……などと言ったら、真由美本人は顔を赤くして怒りそうなものだと思いつつ、悠元は視線だけを真由美に向けて問いかけた。

 

「それは、先輩一個人としての質問ですか? それとも、七草家代表代行としての問いかけですか?」

「……無論、後者のほうよ」

 

 こちらからの問いかけに対して少し考えてからの返答となったが、魔法師を守る立場である十師族からすれば当然の疑問なのかもしれない。だが、それに臆することなく悠元はハッキリと述べた。

 

「……七草先輩は、『神将会』の名をご存知ですか?」

「え? ええ、十師族でも一部しか知らないけれど、『スターズ』のような対魔法師戦闘に特化した部隊だと……まさか」

「これ以上のことは申し上げられません。それは、彼女たちに関しても同じことです」

 

 下手な干渉を許さない。それは雫や深雪、ひいては達也に対しても……という意味を含んでいる。それは即ち七草家がやっていることに対しての“釘差し”も含んでいるということ。

 皇宮警察自体は警察省の管轄下にある。しかし、『神将会』は表向き皇宮警察本部の管轄ではあるが、ほぼ全ての監督権限は今上天皇が指名した家―――上泉家と神楽坂家にある。

 そのため、干渉するためには皇族に許可を取らねばならず、世界的に見ても二千年以上続く国家の権威を犯すことは完全な“禁じ手”に他ならない。

 

「帰り道自体も安全とは言えませんので、先輩方は殿を務める形で東京方面に避難してください。あとは、ほのかと美月もそうした方がいいのだが……」

「だ、大丈夫です!」

「……私の力が役立てるかもしれませんので、残ります」

「そうか。なら幹比古、美月の守りは任せた。ほのかは……達也に任せていいか?」

「ぼ、僕がかい!? ……分かった。必ず守るよ」

「そうした方がいいだろうな」

 

 一通りの役割分担決めた上で、デモ機の処分に取り掛かっていく悠元や達也たち。それを見送るように立ち尽くす真由美に、摩利に加えて合流した鈴音が彼女の様子を見ていた。そこで摩利は事情を知っていそうな真由美に尋ねた。

 

「真由美……『神将会』とは何なんだ?」

「……皇宮警察本部の中にある対魔法師特殊部隊―――その名称が『神将会』なの。けれど、本来の皇宮警察の指揮系統とは全く別で、構成メンバーは一切の情報が開示されていないわ」

「先程の悠元君の言葉からするに、そういうことなのでしょうね」

 

 真由美が父親から聞いた話では、『神将会』の情報は国家重要機密に類するものであり、厳しい緘口令が敷かれている。その一部を開示したということは、真由美と摩利、鈴音にもその責務を負ってもらうということ。

 そして、その事実を例え身内であっても開示できないことを意味する。

 

「しかも、あの台詞は七草家(うち)に対しての完全な釘差しね。あのタヌキオヤジってば、私の苦労を増やすようなことをするんじゃないわよ……」

「ともあれ、速やかに離れましょう。デモ機に関しては司波君たちに任せれば問題はないかと思います」

 

 この場においては、鈴音の言葉が最も的確であった。いくら魔法科高校の生徒で荒事に耐えられるとはいえ、限度というものは存在する。達也のことを信頼しているかのような言葉に対して、疑問を呈したのは摩利だった。

 

「随分と信頼しているのだな?」

「セキュリティー面を担当していたのは司波君ですから。彼なら密かに自壊用のプログラムを仕込んでいても不思議ではないかと思います」

「それはもう高校生のレベルじゃないわよ」

 

 実際のところはそんなプログラムなど仕込まれていないのだが、ある意味“何でもアリ”ともいえる達也の評価など、鈴音はおろか摩利や真由美にも付けられるようなものではなかった。 

 先に誘導したあずさの後を追うような形で、真由美たちもホールを後にした。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 デモ機を手早く“処分”した達也たちは、悠元の案内でとある部屋に案内された。すると、そこには色合いこそ異なるが、悠元に似たような恰好をしている雫と深雪がいた。

 

「雫に深雪、その恰好って……」

「悠元と同じってことは……そういえば、『神将会』って言ってたけど、そういうことなの?」

「ま、身内に警察の人間がいれば気付くよな。正解だ、エリカ」

「マジで……ああ、また兄貴やクソ親父に言えない案件が増えていくじゃないの……」

 

 警察省に知り合いが多いエリカはその関連で『神将会』のことも知っており、そのメンバーが同級生にいるということを知って頭を抱えていた。これにはエリカとよく突っかかっているレオですら事の重大さを察したようで、苦笑が漏れていた。

 

「確か、皇宮警察の特殊部隊の名だと聞き及んでいたが……深雪は、いいのか?」

「無論です、お兄様。確かにつらい道かもしれませんが、悠元さんを支えると決めた以上、覚悟は既に決めています」

 

 妹の頑固さは親譲りでもあり、兄譲りでもある。こうなった深雪を止める術など達也にはなく、ならば兄として……彼女のガーディアンとしての務めを果たすだけだと心に決めた。その上で悠元に視線を向けた。

 

「分かった……それで悠元、この部屋は一見会議室のようだが、随分と手の込んだセキュリティーが敷かれているな」

「この会議室は本来皇族や総理大臣クラスなどのVIP用の会議室。非常時のシェルター機能も併せ持ち、更には国防軍などへの管制塔的な役割も兼ねている。その為に関係者もここへ呼び出したわけだが……来たか」

 

 悠元の言葉と共に姿を見せたのは、国防軍―――野戦用の軍服を身に纏った風間と響子だった。その二人をここに呼んだ理由は、今後の方針確認のためでもあった。

 

「はじめまして。皇宮警察本部・特務隊『神将会』が長、神楽坂悠元と申します。以後お見知りおきを……尤も、国家機密保護法に基づく守秘義務を負っていただきますが」

「……国防陸軍少佐、風間玄信です。所属に関しては事情により控えさせて頂きたい」

 

 悠元の格好だけでなく挨拶に戸惑いはしたが、培ってきた経験が風間の動揺を上手く隠し、挨拶に応じた。藤林が動揺していなかったのは前もって知らされていたからだと察しつつ、自分の部下の身内が『神将会』に所属していることもこの場で理解した。

 

()()、現在の情勢に鑑み、情報統制は解除されている」

 

 風間の言葉で達也は風間に対して敬礼の姿勢で応じた。これには周囲の人間が驚きを見せるものの、同級生の中で動揺していなかったのは深雪と悠元だけであった。そんな反応を見守る暇もないため、風間は藤林に対して告げた。

 

「藤林。現在の状況を説明してくれ」

「はい。横浜市街地も含め、非魔法師は全員避難が完了。敵部隊はこのコンペ会場と横浜ベイヒルズタワーの二方面へ部隊を展開。先遣隊と思しき敵部隊に関しては、我が軍の精鋭と有志によって撃退し、魔法科高校の生徒や関係者たちは東京方面への避難を行っております」

 

 補足説明になるが、橋梁などへの直接攻撃を防衛するために十師族当主である十文字和樹を筆頭に橋の防衛態勢が取られ、東京湾上には国防軍の防衛網が敷かれている。そこを抜かれれば東京が火の海になるという最悪の事態も起こりうる。

 そして、ベイヒルズタワー方面には魔法協会支部の防衛に『神将会』を置き、更には悠元の身内に声をかけている。対道術・方術のエキスパートを重点的に配置した意味は実に単純で、陳祥山を確実に拘束するための陣を敷いているからだ。

 

「さて、特尉。現下の特殊な状況に鑑み、“国籍不明”の敵勢力の排除が幕僚会議にて決定した。本隊はその先駆けとして敵部隊の排除を行う。国防軍特務規則により、貴官にも出動を命じる。皆様方に対して、彼に対して国家機密保護法に基づく守秘義務を課していただくことになります。神楽坂殿、よろしいでしょうか?」

「構いません。『神将会』は既に横浜ベイヒルズタワーを拠点とする形で敵勢力の排除を開始しています。三矢家の協力員もおりますが、そこはご了承いただきたい」

 

 この状況で十師族の力を借りないという選択肢はない。それに、悠元が述べた協力員はいずれも輝かしい功績を高校時代に残している世界レベルの魔法師。それを理解しているからこそ、風間はそのことに異を唱えなかった。

 

 すると、深雪が達也の元に近づいた。達也もその意図を理解してその場に片膝を付く。

 そして、達也の額に深雪の唇が触れ、それが離れると―――部屋を覆い尽くすが如く溢れ出る白銀の想子が達也を起点に発生する。

 その数秒がまるで数分にも感じられるほどの密度から解放されると、達也はいつの間にか立ち上がっていた。深雪に「征ってくる」を告げた上で、悠元と対面する。

 

「……これから待っているのは、間違いなく苦難の道だ。俺の助力は気休め程度にしかならんかもしれんが、そっちは任せたぞ」

「……ああ。そっちもな」

 

 お互いに突き出した拳同士が触れる。

 それは、お互いに知っているからこその言葉でもあり、約束でもある。

 達也は姿を見せた真田の案内でその場を去ると、風間は悠元に再び視線を向けた。

 

「それで、神楽坂殿。彼らについてはどうするつもりでしょう?」

「このまま東京に戻ってもらった方が身のためなんですが……予想以上に仕上がっているので、ベイヒルズタワーに向かいたいと考えています。実は敵のトレーラーを1台鹵獲することに成功しましたので、移動にはそれを使用します」

 

 そのトレーラーは、敵が会場近くに乗り捨てていたものだった。特に自爆用の術式もないため、そのまま移動用に使わせてもらうこととした。

 肝心な問題はその運転手なわけだが、これに関しても簡単な解決法を見出した。

 

「―――成程。こちらも応援に向かおうと思っていたから、実に都合がいい。問題は肝心の防御だが……」

「そこは自分が対処しますので、先輩は運転に集中していただければ幸いです」

「分かった」

 

 そう、克人を運転手として抜擢することだった。奇しくも大型トレーラー系統の運転経験があったので、今は緊急事態ということで頼み込んだ。レオたちを連れていくことは克人も悩んだが、戦力は一人でも多いに越したことはないし、春の一件のこともあって承諾した。

 




 原作との変更点で、達也と独立魔装大隊の関係性が七草家に知られない状態となりました。加えて、克人の行動パターンも若干の変更が加わります。
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