魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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触れたくなくても寄ってくるもの

 慶賀会の進行は滞りなく進んだ。その場に次期当主たちがいなかったことも大きいのかもしれない。だが、彼らの気持ちも理解できなくはないつもりだ。かつての自分を重ね合わせたとき、いきなりぽっと出の人間に立場を掻っ攫われるのは納得できないであろう。

 

「母上、折り入って相談があるのですが……力を示すのはいかがでしょう?」

「……それが一番誰しも納得できる方法でしょうね。彼らにも同席させましょうか」

 

 いくら言葉で示したところで、いい感触は得られないであろう。千姫も悠元の提案に同意し、一同は中庭に移動する。神楽坂家の関係者や友人たちの前で披露するのは気が引けるが、どの道知られるのは時間の問題だ。そう割り切って悠元は[叢雲]を展開する。

 

「達也、あれって……魔法か?」

「古式魔法の類だとは思うが、幹比古は何か知ってるか?」

「……多分、神楽坂の秘術だと思う。詳しいことは僕も知らないけどね」

 

 レオの問いかけに対して達也はそう答えつつ幹比古に聞いてみると、聞かれた側も推測を述べるにとどまった。神楽坂家の関係者は悠元のしていることを理解すると同時に驚愕していた。それは悠元に突っかかっていた次期当主たち(無論服は着ている状態だが)も同様であった。

 そんな驚きを気にすることなく、悠元は[叢雲]を天に向かって突くように太刀を振り上げた。

 

「―――来い、[鳳凰]」

 

 その言葉と共に天から舞い降りてくる[鳳凰]が[叢雲]に吸収され、太刀から炎がまるで生き物のように悠元の周囲に展開し、悠元の瞳が紅に染まる。悠元が5メートルほど離れた円柱型の鉄柱に向かって[叢雲]を振るった瞬間、鉄柱が“蒸発”した。

 

「[鳳凰]を天刃霊装を介して、武装として使いましたね……」

「修司、いける?」

「行けねえことはないと思うが……天神喚起と天刃霊装の複合行使                                                                なんて、天刃霊装を編み出した三代目以来の快挙なんじゃないか?」

 

 姫梨、由夢、修司は悠元の成したことを冷静に分析しつつ、神楽坂家において天刃霊装の開祖のみが成し遂げたことを彼が再現してしまったことに驚愕を禁じえなかった。修司が横目で宮本家の次期当主である兄を見たところ、まるで信じられないものでも見たような表情だったことに内心溜息を吐いた。

 

「この事実を以て悠元が神楽坂の次期当主になることは確定だな。兄貴らには悪いが」

「修司はどうなの?」

「俺にそんな甲斐性などない。剣を振るうならばまだしも、大人相手の腹芸など苦手な分野だからな」

 

 神楽坂直系の正当性を説きたいという兄らの心情は理解できなくもない。だが、それを覆して余りある才覚を悠元が発揮した上、彼の次期当主を薦めたのは剛三と千姫の二人。名立たる彼らが認めている以上、撤回するには悠元との直接対決で認めてもらうほかない。

 ただ、超然たる事実を目の当たりにしてまで彼らの正当性を認めてもらうことは極めて皆無に近い……修司は言葉に出さなかったものの、そう感じていた。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 天刃霊装のお披露目も済んで一段落と行きたかった悠元だが、自室に戻った悠元を待つように出迎えたのは着物姿の二人の女性。彼女らと面識のある悠元は一息吐いたうえで言葉を発した。

 

「招いたのは母上なのでしょうが……お久しぶりですね、夕歌さん。沓子は九校戦以来になるか」

「そうね、悠元君。直接の面識は二年ぶりになるかしら」

「お邪魔しておるぞ、悠元」

 

 津久葉夕歌と四十九院沓子。かたや四葉の分家であり、もう片方は白川家のルーツを持つ古式魔法の大家。身内絡みで知り合った二人がここにいる意味は正月に千姫から聞いていたが、いざこうなると気苦労が増えることに対してため息の数が増える。

 その様子を見た二人は各々笑みを漏らした。

 

「私も母様から聞いたときは驚いたけれど、納得した上でここにいるから」

「……そうですか。母上はどこまで話しています?」

「わしらが許嫁になることと、あとは先んじて婚約しておる三人のことも聞いておる」

 

 神楽坂家が四葉家のスポンサーである以上、四葉家から嫁を送り出すことは想定の範囲内である。とはいえ、四葉家系統の同世代である深雪と夕歌の二人を送り出して問題はないのかと思いたくなってくる。しかも、沓子も深雪と夕歌の素性は聞き及んだらしい。

 

「九校戦のこともあるから納得はできるが、愛梨や栞には到底言えぬというのがのう」

「俺としては、これで手打ちになってほしい感が満載なんだが。敬語が抜けてしまったな」

「今の時点で五人だものね。私は気にしないわよ……深雪さんあたりが気にするかもしれないけど」

 

 だが、まだ終わらないというのは嫌でも理解している。理解はしていても納得できないし、要らぬ恨みや妬みは御免被りたい。気が付けば夕歌に対しても敬語抜きで話していたが、これについては夕歌がそう答えた。

 

「一番の厄介な問題は一条家関連の問題になりそうだがな」

「あー……将輝のことじゃな」

「え? あの『クリムゾン・プリンス』がどうかしたの?」

 

 単純に将輝と深雪の問題ならばそこまでではない。だが、茜が悠元に恋慕している問題が連結すると余計ややこしくなると踏んでいる。一条家の現当主も親馬鹿な側面があるだけに尚更だろう。

 七草家の場合はどうなのかといえば、あれはどちらかといえば家庭内での問題なのでそこまでの事態にはならないだろうと思いたい。

 

「将輝のやつ、深雪に恋慕していてな……アイツが奥手だからまだ助かっているが、変な時期に余計なことが起きそうな気がしてな」

 

 “原作”では深雪が四葉家の人間だと公表したこと(メインは四葉家の次期当主に推薦したことと達也との婚約)で諍いが発生した。この世界では深雪が自身の婚約者序列第一位になっており、しかも『神将会』の第六席に就いている。

 このことからして深雪が四葉家の次期当主に推薦される確率は極めて低いが、その関連の情報を公表した場合、深雪に対して婚約を申し込もうとする輩が出てくるだろう。大仰かもしれないが、九島家もその可能性の範疇に含んでいると思っていてもいいかもしれない。

 

「九校戦で将輝を下しておるし、神楽坂家の次期当主であるお主と深雪嬢が婚姻しても異論はないと思うがのう」

「俺が次期当主に選ばれた経緯自体特殊の範疇だからな。加えて、血縁上の関係はともかく十師族としては縁を切っているようなものだ。魔法の如何に関わらず、多少なりとも文句を言いたい輩は多いのさ」

「……そういうのを聞いてると、話を受けてよかったって思うわ」

 

 なお、夕歌は前もって深雪と話し合い、お互いに悠元を支えあっていくことで合意したらしい。変な修羅場を起こされるのは御免だったのでありがたい話だと思う。

 そもそも、魔法使いの家系は実力主義優先の政略結婚が主なので、恋愛結婚なんて望めるべくもない話。師族としての力の維持に多大なコストが掛かるのは致し方ないことだが、女性の側としても望むべくもない婚姻は嫌ということなのだろう。

 優れた魔法使いになればなるほど容姿も整っているという世界の摂理には少し感謝したくなる。盛大に声を上げて喜ぶということはする気もないが。

 

「まあ、気の滅入る話は後にして……今年は今年で大変な一年になりそうだからな。沓子も他人事じゃ済まないだろうし。というか、惚れさせるようなことなんざしてなかったはずなんだが」

「わしも最初はムキになってしまっての。気が付いたらお主に惚れておった感じじゃ」

 

 気が付いたら恋心になっていた、というのは実に乙女らしいと思う。正直な話、人の感性に対して深く言及するつもりはないが、前世での兄の気質が乗り移ったのではないかと疑いたくなってくる。

 別に恨む気など更々ないが、そういったところは受け継いだ気もない。

 

「別に競争心とか嫉妬とか煽った覚えはないぞ? いや、マジで」

「……強いて言うならバレンタインのお返しかしら。あんなに美味しいものを作るのは卑怯よ」

「同じことを深雪や雫にも言われてるんですがね……まだまだだと思ってるぐらいですよ」

「その謙虚さが尚更なのじゃが」

 

 なお、ここでも菓子作りのことを言われた悠元は不服そうな表情を見せたのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 神楽坂家での行事も終わり、東京に戻ってきたところで改めて初詣に行くこととなった。神楽坂家自体神道系の趣も持ち合わせているが、本当のところは八雲が悠元や達也の友人と会いたいという希望であった。

 その道中でとある少女の姿に達也が目線だけを向けていた。

 

「達也、面白いものでも見つけたのか?」

「いや、変わった服装だなと思ってな……」

 

 達也自身、妹のファッションというか買い物に付き合っているお陰なのか、その辺の流行には敏感なのだろう。正直なところ、自分の場合はと言えばそこまで古いファッションとは思わなかったわけだが……その理由は、自分が転生した存在というのが大きい。

 見た目は上半身だけ見れば正月っぽいのだが、スカートという時点で一体何を参考にしたらそうなるのか、という疑問視か出てこない。

 

「変わってるというか……あれは寧ろ浮くな」

「外人さんは君や達也君に興味津々のようだね」

「絶対に嫌な方向での興味だと思いますが」

「同感だな」

 

 少し考えてみてほしい。自身がいきなり約70年後の世界に飛ばされ、自身の感覚では約30年前のファッションを見たときに“少し懐かしい”なんて言葉にしたら、間違いなく年齢を疑われるだろう。

 なお、同様のファッションが前世における自分の母親の遺品の中にあったことはここだけの話にしてほしい。

 

「悠元さんはああいう子がお好みなのですか?」

「いや、流石に正月の慣習をはき違えている人間はちょっと……当たってるんだが?」

「当てておりますので」

 

 向こうは気付いていないようだが(そもそも襲われたときは仮面で顔を隠したので何とかなった)、アンジー・シリウスもといアンジェリーナ・クドウ・シールズがそれとなく接触してきたことにため息の一つでも吐きたくなる。魔法力自体は、悠元の想定する範囲なのも間違いはないと『天神の眼』で確認している。

 その少女は去り際にわざと近付くような形で神社を去っていった。

 

 そんなこともあったり、空港での茶番に近いような寸劇もあったりなど、慌ただしい冬休みも過ぎて三学期の初日。ある意味テンプレに近いような始まりであった。

 

「今日からこのクラスに入ることとなった留学生です。シールズさん、自己紹介を」

「はい。アンジェリーナ・クドウ・シールズといいます。みなさん、よろしくお願いします」

 

 “原作”だと達也の視点になるため、この辺の知識など皆無である。単純にそれだけならば問題はないのだろうが、リーナの隣にいる銀髪の少女の姿に悠元は内心で妙な警戒を抱いた。

 

「妹のエクセリア・クドウ・シールズです。姉共々宜しくお願いします」

 

 髪の色こそ違えど、顔つきからして一卵性の双子なのは間違いないだろう。魔法力の波長もほぼ同一のものに違いない。その際、彼女と目線が合った瞬間に向こうが微笑んだ時、妙な既視感を覚えたのだ。まるで以前出会ったことがあるかのような……そんな感じだった。

 だが、少なくとも彼女と初対面のはずなのは断言できる。そうなると前世の可能性を疑わざるを得ないが、この世界でその存在を下手に明るみにすれば、最悪[パラサイト]扱いされてしまう。自分の場合はまだ穏便に済んだほうだと思うし、反省すべき点なのは分かっているので深くは突っ込まないでほしいと思う。

 アンジェリーナ・クドウ・シールズもといリーナの席は雫の席が宛がわれ、そのひとつ前の席にエクセリア・クドウ・シールズもといセリアが座ることとなった。その直後の休み時間は、クラス中だけでなく他のクラスの生徒も教室の外から見ているほどの盛況ぶりだった。

 

「人気なことだな」

「まあ、見ているだけで絵になるというのは否定できませんからね」

「まるで他人事に言ってますよね、二人とも……」

 

 ほのかのツッコミも御尤もだが、こちらから分かり切った爆弾に首を突っ込む自殺願望など持ち合わせていない。燈也の場合も既に婚約者がいる身という身上もあったりするが。

 

(それに、僕としては嫌な予感もしますからね)

(その嫌な予感が当たらなきゃいいんだがな)

 

 小声で懸念を示した燈也に同意しておくが、残念ながらあの姉妹の存在自体が災いの元と言っても過言ではない。厳密に言ってしまえば[パラサイト]を手引きしたであろう黒幕の存在がもっと面倒だろう。

 すると、深雪が目線を悠元に向けてきた。生徒会役員である以上は留学生の案内は避けられないということを考えつつ、悠元は燈也とほのかから別れて深雪のもとに移動することとなった。

 そこまではいいのだが、クラスメイトが道を開けるように避けていったのは正直傷つくから止めてほしい。割と切実に。

 




 1か月ぶりの更新&新年初投稿です。
 遅れた理由としては、この後の展開を少し整理していたためです。何せ、原作では簡易的に済ませられる展開でも優等生側ともなれば書くことが増えるためです。
 そしてまた増える新キャラですが、その実力は追々書き記していきます。
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