魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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道徳の概念は何処にあらんや

 旧長野県にほど近い旧山梨県にある一つの村。そこから少し離れた開けた場所―――周囲はおおよそ陸上トラックが丸々収まるであろう広さ。雪が降りしきる純白の光景の中、一つの黒い点が存在する。その点の正体は濃い紺色を基調としたセーラー服を纏った一人の女性。

 その女性に対して、突如鳴り響く発砲音と降り注ぐ銃弾の雨。その銃弾によって雪が舞い上がり、天然の煙幕を生み出す。その中に入らないようにして周囲に降り立ったのは十人のフル武装の兵士。その手には対魔法師用のハイパワーライフルとは言わないまでも十分な殺傷力を有するアサルトライフルを構えていた。

 

 その一撃で勝負が決したとは思わないまでも警戒を緩めない兵士らに対し、煙幕の中から突如何かが飛び出して兵士の一人の喉元を正確に貫いた。それを見るまでもなく残った兵士らがアサルトライフルを撃ち込んでいく。

 兵士らの銃撃を意に介することもなく、煙幕の中から飛び出していく何かによって兵士らの急所を的確に撃ち込んでいき、兵士らは何をされたのかも分からずに絶命していく。残った一人がナイフを持って突撃するも、ナイフを持っていた手を切り落とし、続けざまに放った“魔法”で兵士の心臓を貫いた。

 そして、煙幕が収まったころにはその女性以外に立っている人間は存在しなかった。

 

「ふう……」

「お見事です、奥様」

 

 その女性に対して声を掛けたのは一人の男性。彼が差し出したタオルを受け取りつつ、その男性に話しかけた。

 

「ありがとう、葉山さん。にしても、この格好ってどうなのかしら」

「それは奥様が何分お洒落に着こなせる衣服をお持ちではありませんので、こうなりました次第です」

「それって、私が子どもっぽいってことかしら?」

 

 少しむくれ気味に話す女性だが、その女性こそ十師族・四葉家現当主にして「極東の魔王」

などと呼ばれることのある人物―――四葉真夜その人である。

 真夜が何故この格好をしているのかといえば、魔法訓練をする際はできる限り動きやすい恰好かつお洒落に着こなせるものという注文を受けた葉山がチョイスした結果である。紺色が基調となっているので返り血自体目立たないし、そもそも彼女がへまを打つとは思えないからこその結果ともいえる。

 実戦的な訓練を考えるのならばそれこそ『ムーバル・スーツ』のようなものが好ましいが、“記録化された”過去の経験からして意味をなさないと考えている。

 

「まあ、いいわ。それで例の連中が入り込んだの間違いなさそう?」

「こちらでも確認いたしました。その絡みで深夜殿の別荘に侵入を試みたそうですが、偶然来ていた千姫殿によって追い返されたそうです」

「存外運がない連中のようね。せめて達也さんのように出来なければ厳しいわ」

 

 例の連中―――USNAの『スターズ』で起きた脱走兵の一部が日本に密入国したという事実。その彼らが深夜の別荘に忍び込もうとしたが、追い返されたということもあわせて葉山が報告すると、それを聞いた真夜は辛辣な評価を交えつつ返した。

 達也の実力は葉山も知っているからこそ、『スターズ』と同列に語られてしまう彼の異質さを思いつつ少し苦笑を浮かべた。

 

「その後東京方面に逃れた模様ですが……七草家と十文字家にはお伝えいたしますか?」

「お伝えしてくれるかしら。国防軍の絡みであれこれやってくれたのは痛手ですが、こちらとしても突っぱねる理由はありませんので。ただ」

「ただ、何でございますか?」

「“先生”が動いているみたいなのよね」

 

 真夜が先生と呼ぶ相手はただ一人。その人物が今回の騒動で何かしら動いている情報を得た結果、何かしらの楔を達也か悠元、あるいは両方に打ち込むことも想定される。上泉家と神楽坂家の関係者とも繋がりがある以上、その彼も下手なことはしないだろうと思われるが油断はできない。

 かといって他の十師族―――今回の場合は七草家と十文字家も邪険にはできない。国防軍のセクションの横槍のせいで痛手とはなったが、それを知った三矢家との情報コネクションを強化できる機会となっていたため、真夜は割り切った上で会話を続ける。

 

「USNA方面の情報も欲しいので、三矢家とも密に連携をしたほうが良いかもしれません。葉山さん、そちらはお任せしてもよろしいかしら?」

「畏まりました。ところで、魔法の制御訓練はいかがでしたか?」

「悪くはないわ。ふふっ……四葉の柵がなかったら、彼に求婚していたかもしれないわね」

 

 真夜は昔の事件で女性としての幸せを奪われた。だが、そこから端を発した世界に復讐するという目的よりも大事な目的ができた。その影響で魔法の訓練を再開した真夜の実力は世界最強の名に恥じないものとなりつつある。だが、今の実力でも勝てないだろうと真夜が思い浮かべる人物は二人存在する。

 その片方に自分の双子の姉とその娘が恋慕していて、娘のほうは公表されていないが婚約関係となった。既成事実とも言える関係に至ったことまでは既に把握していて、これには思わず笑みを禁じえずにはいられなかった。

 彼の存在は十師族はおろか、いずれこの国を起点として世界にその名を刻むことになると真夜は確信に近いものを感じていた。

 

「『流星群(ミーティア・ライン)』を更に研ぎ澄ませるだなんて、普通は考えてもみなかったことだけれど……私もまだまだ子どもなのかしらね。葉山さんはどう思うかしら?」

「強さは時として己を苦しめる武器です、とだけ申し上げておきます」

「そうね。でも、彼を苦しめる障害はきっとないに等しいんじゃないかしら」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 新年が明けて学校での変化に止まらず、学外でも一つの変化が起きていた。変化というよりは『事件』ともいうべきものだろう。その情報の一端が達也らに齎された。

 

「―――妙な連中、ですか?」

『ええ。恐らくは「デーモン」……いえ、「パラサイト」だと千姫さんが仰っていました』

 

 深夜が生きている影響は今のところ限りなく最小限に止まっている。それはこの世界の利便性に加えて今まで療養生活の長かった深夜自身の行動力に起因するところが大きい。だが、今回の場合は深夜を狙い撃ちにされたような格好である。

 悠元とセリアが竹刀で切り結んだ(というよりは一方的な突っかかりに近いが)日の夜、司波家のヴィジホンに掛かってきた電話を達也が取ると、画面に映ったのは深夜であった。深雪については自室で勉強していて、悠元は地下室に籠っていた。

 

『千姫さんの話では東京方面に逃走したようです。貴方達が直接狙われるとは思えませんが、気にかけておくのが良いでしょう。今回のことに関しては、十師族があてになるとは思えませんから』

「そうなると……悠元の力を借りることになりますが、母上はよろしいのですか?」

『達也。私はあくまでも現当主の親族であって、必要以上に贅沢を言える立場ではないのですよ』

 

 達也の問いかけに対して深夜は苦笑を混ぜつつ答えを返した。

 古式魔法に詳しくない達也でも『トーラス・シルバー』の絡みでパラサイトのことについての文献に目を通したことがある。その推測からすれば、知り合いで最も古式魔法に精通している悠元の協力は不可欠と考えている。加えて、固有の精神干渉系魔法に加えて古式魔法を学んでいる深雪が身内にいることは大きなアドバンテージといえるだろう。

 

『“シリウス”のこともあって大変となるでしょうが、私は事情があって手を貸すことができません。なので、無事を祈るぐらいしか出来ません』

「母上は大丈夫なのですか?」

『それについてですが、神楽坂家に暫くお世話になることになりました』

 

 話の流れとは言え、神楽坂家が深夜の保護を申し出たことは非常にありがたかったと達也は内心で呟いた。正直なところ、今まで四葉の使用人のような扱いをされてきた母親の心変わりを受け入れつつも、どう接すればいいのかという思いもあってか深雪経由で話すことが多い。

 深夜との話を終えた後、地下室に向かった達也は悠元に「パラサイト」のことを尋ねることにした。

 

「―――ということなんだが、詳しい話を知らないか?」

「そうだな。『パラサイト』の文献ぐらいは達也も目は通しているだろう?」

「ああ」

 

 超常的な寄生物(PARANOMALPARASITE)―――妖魔、悪霊、ジン、デーモンなどといった“妖”を国際的に定義した存在で、人に寄生して人間以外の何かに作り変えてしまう存在をそう呼んでいる。そもそも、精霊魔法の時点で独立した情報体の存在が定義されていても、それを感知できない人間からすれば単なる未知の恐怖でしかない。

 

「伊豆方面に姿を見せて、そのまま真っすぐ東京方面に移動したことを考えれば……最近の怪奇現象も一筋縄じゃ行かなそうだな」

「そんな話は聞いていないんだが」

「話してなかったし、ごく一部の人間で動くようにしていたからな」

 

 この世界でも事件は起きていたが、不幸中の幸いとして死亡する前に何とか一命を取り留めている。その背景には悠元の知り合いが大きく関係しているわけだが、その辺をあまり触れることなく話を進めていく。

 現時点の規模だけで言えば神将会を動かす理由になっていない、というのが理由の一つ。そして、“原作”ではあまり触れられていなかった彼らを手引きした存在を明るみに出すことに注力していることも理由だ。

 

「七草と十文字が動いてくれるようだが、『パラサイト』の領分は特殊な眼がない限り完全に古式魔法の領分だ。加えてUSNAの横槍も想定される……その為に『バスター・ミスト・ディスパージョン』を渡してるからな」

「成程。だが、今後を考えるのならそれだけでは足りないだろう」

 

 達也が悠元に対して負けず嫌いな面があるのは理解している。それを見た悠元は苦笑しつつも達也に提案を持ち掛けた。

 

「なら、八雲先生にお願いでもしてみるか? 爺さん経由で話を通せば上手い落としどころを探ってくれるだろう」

「それはそれで魅力的だが……悠元、協力してくれるか?」

「俺は構わないが、達也はいいのか?」

 

 元々千姫や剛三経由で八雲に達也の手解きをさせるつもりでいた。古式魔法の秘密も外典の分野に止めれば問題はないという算段まで立てていたからだ。そこにきてまさか直接頼んできたことに驚きつつ、その理由について尋ねた。

 

「意地を張っていてもどうにもならない時はあるからな。癪に障らないと言えば嘘になるが、いざという時に深雪を守れないのでは話にならない……それが俺の理由だ」

「お前、一度職業病で病院に行ったほうがいいと思うぞ?」

 

 それは自身の身上故に解消できづらい問題だと分かっていても返してきた悠元に対し、最近は自分でもそう思いたくなってきたという心情を込めつつ、達也は言葉を続ける。

 

「それにだ。夢を叶えるためには俺自身も変わらないといけない……おかしかったか?」

「いんや、全然。俺も九校戦前までは別方面で変に意固地になってたからな」

「尤も、妹が時折過激なスキンシップをしていることは兄として悩ましいが」

「お兄様、それを態々私がいる前で仰いますか?」

 

 いつの間にか地下室に来ていた深雪へ聞こえるように言い放った達也の言葉に、悠元はどこか似ている自分の妹を思い出して苦笑を漏らし、深雪は頬を少し膨らませてやや不満げの様子を垣間見せていた。

 過激とは言っても……まあ、時折深雪が悠元の寝ているベッドにもぐりこんでくる回数が多くなったことぐらいだろう。流石に逆のパターンはない、というかそれをしてしまったらいよいよ本格的に歯止めが利かないし、ある程度の制御が利くとは言え深雪に『エレメンタル・サイト』のリソースを振り分けている達也に対してどのような影響を及ぼすか未知数のレベル。

 

「私としては、積極的にアピールしないと不安なんですから……特に母上が……」

「司波家というか、四葉家の道徳教育ってどうなってるんだ、達也?」

「俺に聞かないでくれ……」

 

 只でさえ、四葉家関連だと婚約者扱いである深雪と夕歌に加え、深夜からも好意的(というよりも恋慕に近い)感情を向けられている。更に聞いたところによると、深夜のガーディアンをしている桜井水波も悠元に好意的な感情を持っているとのこと。

 神楽坂家の次期当主になってなかったら、間違いなく四葉家側に引き込まれていたであろう陣容という他ない。そもそも、神楽坂家が四葉家のスポンサーという立場からして何らかのアプローチがあったことは想像に難くないと思う。

 

(最終的にどうなるんだろうって考えると……頭が痛くなりそうだ)

 

 女性を惹きつけていた前世の兄もこんな感じで苦労していたのだと思うと、変に恨まなかったことをよかったと思うべきなのかどうか悩んでしまう悠元であった。

 




 今回は四葉家の要素強めで。ちょっとした戦闘シーン演出の練習も兼ねて書いてみましたが、ボキャブラリー貧弱すぎて絶望した!(某先生風に)

 今年7月に来訪者編が放送予定らしいので、そろそろエンジン掛けて投稿のテンポ上げていこうと思います。それでも不定期更新は継続の方向なので宜しくお願いいたします。
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