魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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彼(女)が言うと嘘に聞こえない

「悠元君、西城君の前でそれを言っていいのかい?」

「レオは横浜の一件で知っていることですから」

「まあ、悠元がすげえのは4月の時から理解してたからな」

 

 レオは横浜事変で悠元が『神将会』の一員であることを知っている。時折失言をしたりすることはあるものの、義理堅さに関しては信頼できるレベルだと判断しているからだ。寿和との対話にレオがそうつぶやいたところで稲垣が悠元に尋ねた。

 

「それで、悠元君。十師族のほうに対しては?」

「まあ、今は好きにやらせていいと思います。うちの実家も一枚噛んでいますが、あくまでも協力の範疇ですし師族会議を通した案件ですから」

 

 正直なところ、十師族が独立した捜査チームを組むことぐらい想定しなかったわけではない。ましてや今回は七草家の魔法師も被害に遭っていることからして、七草家が単独で動くのは想像に難くない話だ。

 現状は三矢家も協力員として七草家との歩調を合わせているが、必要以上の情報は流さないように判断しているようだ。そこには七草家現当主の四葉に対する感情が大きく関与している。

 

「寿和さんのご実家にも話は通しました。その際にエリカを押し付けられるような格好になったようですが」

「あの親父は……君とエリカに恋愛感情なんてないと分かっていることだろうに」

「警部……」

 

 神楽坂家単独で動けないこともないが、スターズの脱走に一枚噛んでいる可能性が最も高い存在を考えれば今ここで神楽坂家の規模を悟られるのは宜しくない。それに複数の捜査系統自体不便ではないが、横の連絡体制位は整えておくべきだと判断した。

 これで神楽坂家・上泉家を主体とし、『神将会』を主軸とした警視庁・警察省の捜査チームに千葉家が加わる形となる(吉田家にも声を掛ける算段でいる)。現状で三矢家を入れていないのは、今回が『パラサイト』絡みという点に加えて七草家と“九島家”にも大きく関係している。

 なお、千葉家現当主は悠元の嫁にエリカを出すこと自体諦めていない様子で、これには寿和が大きく息を吐きつつぼやくような口調で呟いた。いくら魔法師同士の婚姻が政略結婚の面を含んでいるとはいえ、本人同士にその意思がない以上は破談しか考えられない台詞に、稲垣が珍しく寿和を気遣うような表情を見せた。

 

「何にせよ、変に飛び出されるよりはマシだと思っておきます。レオ、そろそろ行くか」

「お、おう」

 

 稲垣でも両手を使わないと動かせなかった気密ロックのハンドルを片手で回し、悠元に続く形でレオも外に出た。

 あまり人気の少ない公園に移動したところで、悠元はレオに向き直って言葉を発した。

 

「本当ならレオに首を突っ込んでほしくないんだが、状況が状況だから話しておく。先日の横浜とは規模も訳も違うからな」

 

 今度の相手は現代魔法単独で太刀打ちできなくもないが、かなり厳しい相手になること。元継や剛三の鍛錬を通して強くなってはいるが、それはあくまでも現代魔法での範疇に過ぎない。悠元以外の近しい身内で対処可能とするなら、現状だと深雪と幹比古あたりに限定されてしまう。三矢家を頭数に入れなかったのはいくつかの懸念事項も想定されるからだ。

 では、現代魔法だけだと対処できないのかと尋ねられると必ずしもそうではない。霊子自体に直接干渉できる魔法の数が極端に少ないだけで対処は可能だ。尤も、物理法則改変主体の現代魔法に『超能力』レベルの対処が極めて難しいことは言うまでもないが。

 

「何かオカルトじみてる気がするな。けど、お前に言われると急に現実味がでてきちまうが……それで、どうにかできるのか?」

「してもらわないと話にならんからな。それで、こいつを渡しておく。腕に着けるタイプのCADだ」

 

 悠元がレオに放り投げたのは、一見すると単なる黒いリストバンド。レオは悠元に言われるままそれを腕に装着するが、今のところは大きな変化も起きていない。監視システムを欺くための結界術式を展開しつつレオに提案した。

 

「レオ、適当に得意な魔法を発動させてみろ」

「え、こいつがCADなのか? ……『装甲(パンツァー)』!」

 

 レオの込めた想子に反応し、黒いリストバンドにレオの想子光が回路のような模様を描き出す。そして、瞬時にレオの衣服を含めた全身が硬化魔法で覆われた。レオは魔法の感触をひとしきり確かめた後に解除すると、リストバンドも元の真っ黒な状態へと戻った。

 

「すげえ……今まで使ってたやつより段違いだぜ」

「それは重畳。実をいうと、知り合いの魔工技師が試作した次世代型デバイスなんだが、俺が使うと足枷のレベルになりかねなかったからな。タダであげる代わりにテスターをしてほしいんだ」

 

 レオに渡したデバイスは、厳密に言うなら世界のCADメーカーが躍起になって現在開発中の思考操作型CADを更に発展させた「並列思考操作型CAD」。簡単に言うなら、パソコンで言うところのCPU(中央演算装置)にあたる感応石を特殊な方法で精製しており、従来一つの魔法に一つしか対応できなかった魔法演算処理を並列・高速化することに成功した。

 本来魔法発動時に露出してしまう起動式だが、これをリストバンド内部に仕込んだ特殊な回路に流すことで対抗魔法の挙動を遅らせる。リストバンドに走った光は特殊回路―――仮想魔法領域が稼働しているサインみたいなものだ。仮想魔法領域の電子回路化という技術は表に出せない代物のため、設計と作製はFLTで私的に使っている部屋に設備を搬入してもらい、そこで作ったものだ(司波家でやると色々目立ってしまうため)。

 その大本は「ワルキューレ」と「オーディン」に搭載されており、世界でもトップクラスの軍事機密レベルに該当する。なので、リストバンドには登録者の想子パターン以外で起動した場合や無理に解析・分解しようとした場合、周囲に超高電圧(最低でも100万ボルト)の電流が流れる仕組みだ。

 

「……リスク高すぎないか?」

「高性能のCADは得てしてそういうものだよ、レオ」

「そう言われちまうと、絶対に失くさないようにしねえとな」

 

 プログラム自体は「ワルキューレ」と「オーディン」の基本プログラムから必要な機能だけを抜き取ったものなので、要は使いまわしに近い。使いまわしのプログラムで現状でも数世代先を行く達也の非凡さは流石『ミスター・シルバー』と言うべきなのかもしれない。

 そんなことを思っている悠元も大概おかしいのは言わずもがな、というべきだろう。

 

 なお、CAD自体の耐久度テストは既にクリアしており、象クラスの負荷を10万回以上与えても正常に稼働するレベルだ。素材自体は高密度のカーボンナノチューブを採用していて、それについては剣術の修行で『相転移装甲(フェイズシフト)』による失敗から生まれた大量の残骸―――そこから拾い上げたものなのは、ここだけの話である。

 

「ちなみに、それも現状は試作型だから」

「……嘘じゃねえんだよな。殊更悠元が言うと現実にしか思えねえよ」

 

 残念ながら、事実である。

 正直継ぎ接ぎに近い代物なので、派手に使っても問題ないかどうかのテスターとしてレオを抜擢した。実はエリカに対して新型のCADを渡しているので、レオに渡すことで帳尻を合わせる形とした。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 西暦2096年1月15日、午前1時30分。普段なら就寝しているリーナとセリアであったが、同居人のシルヴィアにたたき起こされた。軍人である二人からすればこの程度の緊急事態など茶飯事であり、すぐさま意識をクリアにした上でシルヴィアに尋ねた。

 

「何事ですか?」

「カノープス少佐からの緊急連絡です」

 

 連絡先の相手はベンジャミン・カノープス少佐―――曲者揃いのスターズにおいては常識人級の良識と礼儀を弁えているほどの人物。向こうも現地時間の違いを考慮して連絡をしてこなかった理由とすれば、彼の性格からして緊急性の高い連絡だということはすぐに理解できた。

 リーナが通信機に向かったのを見計らって、セリアはシルヴィアに問いかけた。

 

「この時間に報告となると、おそらく例の脱走者の件ですね」

「恐らくそうでしょうが、何か懸念事項があるのですか?」

「リーナがフォーマルハウト中尉を()()した後、調査で判明した残りの脱走者の痕跡が綺麗に消されていたことです。軍関係に詳しい誰かが手引きしたのは間違いないかと」

 

 スターズでも屈指の実力者であるアルフレッド・フォーマルハウト中尉の脱走の一件は、エリア51演習場におけるアンジー・シリウスが何者かに敗れた一件以来の衝撃を与えた(後者に関しては戦略級魔法の発動テストのために目撃者が軍首脳部の一部とスターズのごく一部だったため、箝口令自体はスムーズに行われた)。

 その後、フォーマルハウト中尉だけでなく七名の魔法師が同時期に脱走していたことが判明し、更なる衝撃を与えていた。スターズで最下級とはいえ衛星級(サテライト)の魔法師も含まれており、リーナがカノープス少佐に託した任務はそれらの脱走者の追跡と処分であった。

 

「リーナが驚いていますが、只事ではないのでしょうね」

「やけに落ち着いているようにも見えますが」

「まさか。私の探知すら欺いたのですよ……匿った人間は、少なくともスターズの―――いえ、国防総省(ペンタゴン)でもトップクラスの情報収集能力を有した人間。例えば、一部で噂になっていた“七賢人”の可能性もあるかと」

 

 セリアの探知能力はスターズでもトップクラスに位置することをシルヴィアは知っている。それすらも欺き切ったということは、脱走した彼らが変質化した可能性だけでなくそれを匿った存在も世界トップクラスの情報収集能力を有している存在でないと成立しない。

 シルヴィアはセリアの言葉に対して何かしらの返答をする前に、通信を終えたリーナが真剣な表情を見せつつもどこか困惑を隠しきれていなかった。

 

「リーナ、カノープス少佐からは何と?」

「それが……」

 

 カノープス少佐からの連絡では、脱走者がこの国に来ている事実に加え、この事態を重く見た参謀本部が追加のチームを派遣する決定を下した。リーナが現状請け負っている任務は第二位の優先順位となり、脱走者の追跡および処分を最優先任務と位置付けた。なお、日本政府に対してその説明は一切しないということも説明に付け加えられた。

 これに対してシルヴィアは黙って聞いていたが、セリアは最も気になることを問いかけた。

 

「で、お姉ちゃん。その情報先は誰なの?」

「それが、カノープス少佐も答えてはくれなくて……」

 

 リーナは無論だが、カノープス少佐ですらその情報提供先を知らないということにセリアは僅かに難しい表情を見せた。軍事関連のことについては表に出来ない情報提供者がいることも承知している。だが、USNAの魔法師部隊においてトップクラスのスターズであっても公表されないのは疑問に残る。

 これにはシルヴィアが気付いてセリアに問いかけた。

 

「気になるのですか?」

「少なくとも統合参謀本部は把握していると思われますが、その情報元を知らないというのは腑に落ちません」

 

 リーナが多少なりとも抜けていることは否定しないが、これでもスターズのトップである“シリウス”。情報の詳細が開示されないのは気に掛かる、とセリアは呟いた。更に、という形でセリアが口を開いた。

 

「来日する前、私は大統領閣下と面会しました。その中で閣下は『ミスター剛三の言うとおりになってしまった。私は彼に会わせる顔がない』と漏らしていました」

 

 ダラスでのマイクロブラックホール生成・蒸発実験についてはごく一部の人間にしか開示されていない。だが、セリアは身内である大統領からその話を聞いて愕然とした。国家において重要機密情報であるがゆえにここで全てを話すことなどできないが、脱走者とダラスでの実験当日にいたスターズのメンバーが奇しくも一致していることも把握している。

 

「それは、どういうことなのです?」

「我々が禁忌を犯した立場、と閣下は仰りたかったのでしょう。尤も、この部分については推測の域を出ませんが……寧ろ、厄介事が増えた印象です」

「セリアが言うと急に現実味を帯びるから止めてほしいんだけれど」

 

 軍人だからこそ守秘義務の枷は非常に多い。セリアの言葉に対してリーナが冷や汗をかくような表情で呟き、その言葉を聞いたセリアの反応はというと……こうなった。

 

「少しは危機感を持ちなさい、このバカ姉! 戦略級魔法のことだけでも大事(おおごと)なのに、脱走者がこの国に来ているって事実は色々ヤバいってことなんですよ!!」

「いったーい! 何でチョップするのよ!?」

 

 魔法以外のこととなるとてんでポンコツになってしまう姉に対し、有無を言わせずチョップを頭上に下ろした上で今置かれた状況を改めて口に出していた。口調はやや荒げているが、小声で話しているあたりは流石軍人というべきなのかもしれない。

 これにはシルヴィアがクスッと笑みを漏らした。

 

「その辺にするべきですよ、セリア。リーナが任務をこなす前に不貞腐れてしまいますから」

「シルヴィ……そうですね。2年前のように部屋に引き籠られるのは大変ですからね」

「シルヴィはどっちの味方なんですか!?」

 

 戦略級魔法『ヘビィ・メタル・バースト』の制御実験の際、基地に侵入した謎の人物と対峙した。仮面を被っていたが、外見からするに同い年ぐらいの人間。リーナと“同調”していたセリアもその存在を把握していた。

 リーナが彼に向かって『ヘビィ・メタル・バースト』を発動させようとした瞬間、強制的な定義破綻とともに事象干渉力が“喰われる”感覚を覚えた。そして、気が付けばリーナの気絶により強制的にセリアも気絶させられてしまった。

 その一件の後、セリアはすぐに割り切れた。だが、リーナは1週間ほど部屋から出る素振りを見せなかった。結果的にどうなったのかというと、セリアが強引に鍵を開けてリーナを説教する羽目になった。

 「私が姉なのにー!」と叫んでいるリーナに対し、心の余裕があるセリアと比べた時……これではどちらが姉なのかと苦笑してしまうシルヴィアであった。

 




 ペースを上げないと来訪者編が始まってしまう……でも、リアル事情ががが。




 九校戦編にてモノリス・コードの勝敗決定方法(一高と四高の試合)のコメントを受けて、七日目および八日目の一部演出を変更・加筆しています。
 当初はあのままでもいいような気はしたのですが(大会委員が妨害した事実は一部にしか知らされていないので、その辺をどう言いくるめるか判断に迷うところはまだあったりします)、その事実を隠せば一方的にペナルティを受けるのは確かにアンフェアと言えるかもしれません。なので加筆・修正に踏み切った形です。
 モノリス・コードの試合時間が“最長30分以内”という説明がなければ流石に難しかったかもしれません。
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