魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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強化されると際立つ怪人の硬さ

 七草家代表代理としてその場にいる真由美の正直な言葉に、十文字家代表代行である克人は苦笑を禁じえなかったところで、真由美に対して率直な言葉を返した。

 

「やはり、そういう対象には見れないか」

「別に十文字君が悪いわけじゃないけれど、入試からのライバルだもの。それにね……」

 

 十師族が“最強”という存在証明のため、お互いに制約がありながらも切磋琢磨してきた。ただ、その二人にとってもさらに高い壁というものが存在しているのも事実。その一端は既に1年生の時に受けていた。言うまでもないことだろうが、悠元の姉である佳奈と美嘉によってだ。

 

「神楽坂の姉達―――佳奈殿と美嘉殿だな」

「ホント、聞けば聞くほどデタラメに聞こえてしまうって末恐ろしく思っちゃったけどね。っと、そろそろ本題に入らないと……七草家当主、七草弘一の言葉をお伝えします。七草家は十文字家との共闘を望みます」

「いきなり『協調』ではなく『共闘』とはな。事態はそこまで切迫していると認識していいのか?」

 

 克人は真由美の―――七草家当主のメッセージを聞いた上でそう問いかけた。

 関東地方において「表」の役割を担う十文字家は情報収集を七草家に依存している部分がかなり多い。これは十師族の監視体制故の側面もあったりするが、上泉家の一件も含めた絡みで十文字家は上泉家や三矢家との接触を行い、軍事関連も含めた情報提供を受けるという緩やかな協調関係を結んでいる。

 克人が詳しく知らないのは、現当主の和樹が本格的に当主業務の復帰を果たしており、克人の立ち位置は魔法科高校を通じての折衝や当主の補助に止まっているからである。

 

「十文字君の父から何も聞いていないの?」

「暫く学業と魔法の訓練に専念しろ、と言われていたからな。今回の一件も父からの頼みを受けただけに過ぎん」

 

 忘れがちになるが克人と真由美はお互いに受験生の立場。ただ、推薦が決まっている克人に対して実の父親がそういい含めた。恐らく悠元の存在が一番影響しているのだろう、と克人は内心でそう推察していた。

 生徒会役員に関する不文律のために一般受験となる真由美からすれば、自分よりも自由に動ける立場の克人に対してそういい含めた十文字家当主の深慮がどこから来たものなのかは明らかである、と少し笑みを見せた。

 

「吸血鬼事件のことだけれど、どこまで把握している?」

「報道されている範囲内のことならな。それ以上となれば父に聞く必要があるかもしれんが」

「十文字家は一騎当千がモットーだものね。で、数だけは無駄に多い七草家の調べでは、被害者は報道されている数の約三倍少々。幸い命を落とすという事態にまでは至っていません」

 

 オカルト的な側面を持っているが、物語における吸血鬼と遭遇した場合、大抵は血をほぼ抜き取られてミイラのごとく干からびるのがお約束みたいなものだ。一方、真由美の言葉は瀬戸際で救命することに成功している、と言わんばかりの説明であった。

 

「被害地域は都心部にほぼ集中しているわ」

「……つまり、その中に七草の関係者も含まれているのか?」

「半分正解ね。父から聞いた話だと、最初に被害に遭ったのは悠君の姉たち―――詩鶴さん、佳奈、美嘉の三人なのよ。そこから端を発して魔法大学の関係者や、調べていた七草(ウチ)の魔法師が被害に遭った形ね。あ、ちなみにだけれど詩鶴さんたちは無事よ」

 

 その『吸血鬼』は恐らく彼女らの異質的な力を狙おうとしたのだろう、と克人は真由美の説明を聞いた上でそう察した。だが、初手で難しいところを狙うとは正気の沙汰と思えない。ましてや、彼女らが仮に帰らぬ人となった場合、悠元が動くのは自明の理だ。

 

「あの三人を狙った『吸血鬼』が哀れに思えてしまうな。別に同情や憐みなど持つ気もないが……今の話を聞く限りだと、魔法師だけが狙われているように聞こえたが」

「正解よ、十文字君。現状だと単独犯・複数犯の判別はつかないけれど、『吸血鬼』が魔法師を狙っているのは確実」

「ただ、七草家お抱えの魔法師を害するとなれば、一線級の魔法師か強化兵でもない限り無理だろう。上泉家や神楽坂家の可能性はほぼないだろうからな。となれば……」

 

 国を守る『護人』の二家がこの騒動を起こす可能性を考えた場合、過去に悠元と国防軍の一件があったとはいえ、国の防衛体制を長期的に乱す可能性のある要素など招きたくないだろう。克人が至った可能性は外国人ではないか、という推測に真由美は躊躇いがちな口調と仕草を見せた。

 

「外国人というと、USNAから留学生の魔法師や魔法技術者が来ているけど……十文字君はその線を疑っているの?」

「あくまでも可能性の範疇だ。この学校にも留学生が来ているが、犯人ではないだろう。当面は放置しても問題はないと考える。ただ、ここまでの事態となっている以上は神楽坂や四葉にも協力を仰ぐべきだと思うが」

 

 克人の尤もな提案に対して、真由美は顔を顰めた。

 ただでさえ悠元の元実家である三矢家や上泉家とトラブルを起こしただけでなく、横浜事変後に悠元が七草家を訪問したことからして、神楽坂家と四葉家も七草家の態度に憂慮の姿勢を見せている。

 そこに加えて四葉家絡みでトラブルを起こした父親に対し、真由美は実の父親に煩悩の数でも足りないような恨み辛みの数々を吐き捨てたくなるほどだった。

 

「私もそうは思うんだけれど、不文律(ルール)を破ったのはこちらの責である以上、父の方から頭を下げないと関係修復は難しいわ」

「弘一殿にその意思はなし、か。しかし、最近の四葉家からすれば珍しいかもしれんな」

 

 3年前の沖縄防衛戦を転機として四葉家の態度は大きく変わっていた。今までの自主路線(悪く言えば唯我独尊的な独自路線)による魔法力の強化から、監視体制の縄張りを持たない三矢家と関わり持つようになっていた。そのあたりから現当主である真夜の態度も幾分か柔らかくなっていた(七草家を除く)。

 その時点で三矢家は長男以外の四人が優れた魔法師としての実績を挙げており、四葉のみならず他の十師族もその強さの根源を知ろうと探りを入れるほどだった。その起点となっていたのは間違いなく悠元の存在にある、と七草家や九島家、そして四葉家は把握していた。

 中部・東海地方の監視体制を正式に担っている十師族の一角と対立路線を敷いたことに、克人は少なからず疑問に思っていた。

 

「私も詳しくは知らないんだけれど……四葉家の息が掛かった国防軍情報部の某セクションに、うちの親父がこっそり割り込みを掛けたらしいのよ。それがバレちゃったらしくて……」

「……なるほど」

 

 それを聞くと真由美の苦労も幾分か察することができる、と克人は短い受け答えをするに止めた。短くない時間が経過した後、平静な様子を取り戻してから克人に話しかけた。

 

「それで、共闘の返答についてはいかがでしょうか?」

「父からは七草との交渉事について任されている。ここまで聞けば断る方が不義理というものだろう。弘一殿にも話を受けると伝えておいてくれ」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 奇跡的に死者が出ていないとはいえ、被害が出ていることに変わりない。東京スカイツリーの展望フロアの屋上にて、悠元は探知魔法で気配を探っていた。すると、妙な気配を渋谷方面から感知すると同時に通信端末の着信が鳴り響く。

 

「レオからのメールか……当たりを引いたか」

 

 レオからのメールは位置情報公開の状態で送信された事から“当たり”を引いた、ということなのだろう。悠元は特注のサングラスを身に着けると、展望フロアの屋上から地上に向かって飛び降りていった。

 余談かもしれないが、こんなことをしたら普通の人間は間違いなくお陀仏なのでマネしない方が賢明である、と述べておく。

 

 メールを手早く送ったレオはというと、公園の更に奥深くへと踏み入れていた。正直なところ興味本位の側面は否定できないが、自身に対する本能の警告より善意が勝った形となった。公園を少し探索すると、ベンチでぐったりしている若い女性に近づく。確証はなかったが、レオの肌で感じ取った感覚からしてこの女性が「吸血鬼」ではない、という推測の結論で動いていた。

 

「おい、大丈夫か……っ!?」

 

 レオは女性の首筋に手を当てる。脈はかなり弱弱しく、すぐに救急車を呼ぶべきだろうと思い立ったところでレオは迫りくる気配に気付いて戦闘態勢をとった。

 横浜事変前に元継や剛三から新陰流剣武術を叩き込まれたレオの気配察知は“原作”よりも格段に向上していた。それこそ学校内での視線に対して人一倍敏感なぐらいに。加えて悠元から想子制御の技術を教わっていたことにより、一科生クラスの魔法発動速度を得ている。

 それらと先日悠元が渡したCADを組み合わせた結果―――レオが反射的に『装甲(パンツァー)』を纏って繰り出した右の拳は謎の不審者の伸縮警棒を圧し折るどころか、相手の腹部に直撃させ、その不審者は数メートル以上吹き飛ばされた。

 一方、レオの場合は拳に感じた手応えからして明確なダメージを与えられていない、と判断していた。その感覚は剛三や元継との手合わせだけでなく、横浜での戦闘経験も大きかった。

 

「(あの人らに比べたら多少の手応えはあったが……)多分カーボンアーマーあたりでも仕込んでるのか。厄介だな」

 

 それ以上に、その不審者の出で立ちはあからさまという一言に尽きる。黒いハットに目の部分だけがくり抜かれた白い仮面。体のラインを完全に隠しているコートと言い、レオの目の前にいる人型の不審者がとても人間とは思えないような感覚に囚われていた。

 すると、レオの脳裏に妙なノイズと共に“声”のようなものが響いてきた。

 

(……彼は……がします……?)

(別の何かが近づ……います。時間は……)

 

 魔法という存在が体系化したとはいえ、その大本がオカルトの要素を含んでいることぐらいレオも理解していたが、少し前までの自分なら感じ取ることもなかっただろうな、と思いつつも気を引き締めた。

 不審者―――『吸血鬼』と思しき怪人は構えを取った。まるで中国拳法のような構えから、起動式を発動することもなく超スピードでレオに迫っていた。ここでレオは先日悠元からの忠告を思い出していた。

 

『レオ、相手は吸血鬼と言っても直接血を吸うような昔ながらの古風な吸血鬼じゃない。相手に掴まれたら拙いと思ってくれ』

 

 怪人の移動速度自体は確かに速いが、レオの身内にそれ以上の速力を発揮しうる同級生を思い出しつつ、レオは自身のCADに想子を流し込んで防御の体制を取る。怪人が振り下ろした手刀をレオは左腕で防御の体制を見せる。

 怪人は繰り出した手刀を変化させてレオに掴み掛かろうとしたところで、レオは防御の体制から体を屈ませて相手の虚を突き、自己加速術式で逆に距離を詰めた。

 

「おらぁっ!!」

 

 全身に硬化魔法を纏った状態のまま、怪人に接触した瞬間に『相転移炸裂弾(フェイズバースト)』を発動。カウンター技であるその魔法を一番難易度が高い状態から発動させたのはレオの成せる本能のお陰なのか……怪人はその余波で十数メートル以上吹き飛んでいくのが確認できた。

 レオが一息吐いたところで、後ろから歩いてくる気配に気付いて振り向くと、そこにはサングラスをかけている悠元の姿があった。

 

「お、悠元じゃねえか」

「派手に吹き飛ばしたな、レオ……ま、いいか」

 

 吹き飛んでいった怪人はというと、悠元は『天神の眼』で存在を既に捕捉している。先程のレオの一撃でカーボンアーマー越しとはいえかなりのダメージを負ったはずなのだが、強引に立て直してその場を去っていた。

 この場合は追撃すべきなのだろうが、『吸血鬼』と遭遇したレオに加えて要救助者がいる以上、その役目は()()()()()()()に任せることとした。

 

「って、追わなくていいのか?」

「今は追える状況じゃないからな。別方面の連中も動いているし、衰弱しきったそこの女性を救命するのが先だろう。そこはレオも我慢してもらうけど」

「いや、そこは俺でも手に負えるような奴じゃねえって理解はしてるよ」

 

 レオ自身それなりに強くなったという自負はある。だが、今の一撃を用いても倒せなかった以上は自分の手に余ると判断した。それに、悠元がいるとはいえ自分が追撃するという選択は現実的ではないだろう、との考えに至った。

 悠元としても目の前の要救助者を放置するのは拙いし、一度襲われたレオが彼らに目をつけられて再び襲われないという保障がない。原作からのレベルアップを勘案すれば、レオが彼らの目に留まる可能性もないわけではないからだ。

 

「しっかし、ありゃマジモンの化物みたいだったぜ。今まで聞こえたことのない“声”っつーか……どうしたんだ?」

「レオ、それは想子制御が大分染み付いてきたってことだよ」

 

 レオと話しつつ『天神の眼』で追跡の行方を観測していたが、別方面の追跡者は途中で止まってしまっていた。どうやら想子探知のみで追跡していたようで、現状の“アンジー・シリウス”は気配や存在の察知能力を有していない可能性が高い。

 自分が介入すれば手っ取り早く解決するかもしれない。だが、現状において脱走者の全容が見えない以上、下手に引き籠られるのは悪手になりかねない。「パラサイト」の思考ネットワークに介入するという手法はとれなくないが、乗っ取られる可能性に対する対策を立てないことには使えない手段。

 レオが倒れなかったことでこの先の変化は未知数のものとなった以上、原作知識を“参考資料”としてしか使えない。そもそも、沖縄の一件から介入してきた身としては今更な事かもしれない。逆に言えば、この一件でどこまでの修正力が働くかを見る目的もある。

 

 レオに女性を頼むと、悠元はその護衛に入った。結果として懸念された襲撃はなかったが、今回の一件についてはもう少し自分のしたことに関して自覚した方がいい、と改めて気を引き締めたのだった。

 




 レオの強化によって展開を変化させました。横浜編で呂剛虎と戦った経験も合わさって、敵を吹き飛ばすという展開にしました。即落ち2コマ的展開と言われたら否定できませんが。
 なので、レオ周辺の展開は原作にない展開となります。
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