魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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愚痴の一つや二つ

 旧神奈川県厚木市にある三矢家の本屋敷。悠元と深雪からすれば約4ヶ月ぶりの訪問であり、それ以外の面子で訪れたことがあるのはエリカと幹比古ぐらいであった。流石に北山家の屋敷と比較すると規模は小さいが、それでも一流階級を彷彿とさせる屋敷には驚きを見せるものが少なからずいた。

 

「こりゃすげえな。悠元はここで暮らしてたのか」

「とはいっても、屋敷を使ってたのは小学校の前半ぐらいまでだ。それ以降は上泉家にお世話になることが多かったからな」

 

 小学校の前半はそれこそ自分自身が転生する前の話なので、殆ど学校に通っていなかったことぐらいの記憶しかない。きっと歯痒さのようなものを感じていたに違いないと思う……流石にその心境まで汲み取ることまでは出来ないのだが。

 とはいえ、既に別の家の人間となっている以上は礼儀を弁えつつ門を通ると、正面玄関前には三矢家の使用人である矢車仕郎が悠元たちを出迎えた。

 

「お久しぶりです、悠元様。この場合は神楽坂殿とお呼びすればよろしいでしょうか?」

「今回の訪問は公的なものではないのですが、お久しぶりです仕郎さん。父はいらっしゃいますか?」

「ええ、書斎にてお待ちしております。他の皆様もようこそいらっしゃいました。どうぞ、案内いたします」

 

 本来は父親呼びすること自体おかしいことだとは思うが、達也と彼の父親の関係のように冷え切っているわけではなく、むしろ良好といってもいい。自分のしでかしたことで父に苦労を掛けていることに関しては「申し訳ない」という気持ちが強いのも事実だが。

 書斎に通されることとなるが、流石に書斎の中に11人は多すぎるため、悠元が代表として元と対面していた。

 

「今回はこちらの我儘を聞いていただき、感謝しています……って、何かしっくりこないのは自分だけなのでしょうか」

「ふふっ、その気持ちは分らんでもないな。さて、うちの地下訓練場を使いたいという件だが既に義父殿から聞き及んでいる。スターズのことも考えれば協力するのが筋だろう」

 

 ついこの前まで本当の親子関係だったのが血縁関係だけのものとなった。しかも、公的な場では神楽坂家当主代行である悠元の立場が上となっている。とはいえ、今までそうしてきた慣習がすぐに修正できるはずもないので、悠元の言葉に元も思わず笑みを零した。

 

「それは助かるよ。ところで、師族会議―――他の十師族からは何か注文を受けたの?」

「詩鶴や佳奈が協力員として出張っているので、今のところは何も言われていない。ただ、強さの根底を探ろうと七草家お抱えの魔法師を監視に付けているようだが」

「……ねえ、父さん。七草家って恋愛事が絡むとポンコツになるって遺伝でも持ってるの?」

 

 ただでさえ多方面で迷惑をかけているのなら、警戒を緩める方面に舵を切ればいいものを逆のベクトルに切ってしまっている。自分の想子制御を見ただけで盗んで修得できるなら是非やってほしいと思わなくもない。

 お前がそうぼやきたくなる気持ちもわかる、と元は苦笑を見せることで悠元からの質問の返事としていた。

 

「ところで悠元、USNAの件で何か監視でも付けられたのか?」

「おそらく『スターダスト』の連中が数人ほどかな。ついでにUSNAが所有している軍事衛星数基で俺の動きを監視していた。戦略級魔法無力化のためならあらゆる手段も辞さないという気概だけは褒めてやりたいけど」

 

 達也に関しては今のところ軍事衛星による監視まで付けられていない。そこについては『八咫鏡』で確認しているので間違いないだろう。

 力を危惧する意味合いは分からなくもないが、この小国において戦略級魔法の有無は国家としての存続に直結しかねない。力をつけると出る杭のごとく干渉するのはそれこそ“内政干渉”の領域に踏み込んでいることを理解しているのならば話は別だ。

 幸い、USNAの大統領に送り付けた手紙が無事に届いたようで(『ミラーゲート』でホワイトハウスの大統領執務室のデスクに放ったので届かない道理はないが)、剛三に対して謝罪の言葉を述べたという連絡は既にもらっている。

 

「戦略級魔法という存在は今の世の中において“核兵器”に匹敵するからな。何人か余計な監視がいたので、こちらで対処しておいた」

「ありがとう父さん。正直なところ、『パラサイト』のことだけに対処したくてもスターズが鬱陶しいからどうしようか思ってた」

「ふむ……強制的に排除はしないのか?」

 

 元の問いかけは尤もである、と思う。それが単なる外国人の案件なら手打ちにするのも簡単なのだが、相手が軍人―――それも魔法師部隊であるスターズの一線級の実力者を含めた複数人の脱走者に加え、それを密かに手引きした人物の存在もある。

 USNAにいて尚且つこの国の力が削がれることを期待する人物は多いが、その中で魔法師だけを狙い撃ちにする『パラサイト』の性質を理解している人間となれば……対象はかなり絞られる。

 恐らくだが、手引きしたのは周公瑾……そして、“七賢人”の一角である顧傑。ここが最有力ではないかと踏んでいる。極めて技量の高い華僑(チャイニーズ)のネクロマンシーとなれば、間違いなく後者の可能性が高い。

 

「向こうの政治家――USNAの大統領に対して、『パラサイト』のことと新ソ連や大亜連合の関連情報を流したら『軍部を抑える』と爺さん経由で連絡があった。変にプライドの高い魔法先進国のお手並み拝見と行きたいけど……待っている悠長な暇はないと思ってる」

 

 時系列を変に狂わせたくないわけではなく、レオを助けた(それとパワーアップの手伝いをした)ことで本来の時系列自体意味をなさないことなど理解している。これ以上余計な増援など呼ばれたくないため、修司と由夢に雫を留学に出すことを決めた。

 秘密裏に処理すること自体簡単だが、敢えてスターズの連中にやらせることで『超能力』持ちの連中に現実を見せることが現時点での目的だ。とりわけ現代魔法が主体の現役軍人魔法師が多数を占めている以上、その意味が理解できないはずなどない。

 

「……推測でも構わないから父さんに聞きたいんだが、この国の魔法監視システムでUSNAの連中の魔法発動の痕跡を辿ることは可能かな?」

「そうだな……恐らく出来ないことはないと思うが、どうしてそのことを?」

 

 加えての話だが、ここまでスターズが大っぴらに動いているのに“原作”では情報セクションの部分で引っ掛かっていなかったことに疑問を抱いていた。響子曰く古式魔法でも監視システムに引っ掛かると明記している以上、リーナの『仮装行列(パレード)』がこの国の魔法監視システムに引っ掛からない道理がない。仮にリーナ自身の位置が特定できなくとも、『パレード』による事象改変作用はセンサーに引っ掛かる筈なのだ。

 なお、自身の魔法については『万華鏡(カレイドスコープ)』という反則技によって使った痕跡すら消してしまうため……というか、想子制御訓練の産物として外部に想子が漏れないために発動兆候が直前まで察知されないため、結果として事象改変の痕跡ぐらいしか残らないと響子から言われたときは疑うことしかできなかったが。

 

「藤林さんから聞いた情報を自分なりに噛み砕いた結果だけど……国防軍か日本政府、もしくは七草家がUSNAの連中の動きを握り潰してる可能性がある。昨日のことは聞いてる?」

「いや、義父殿から聞かなければ知らなかったこととなれば、十文字家はともかく他の家も知らぬことだろう」

 

 あれほど内ゲバするなと釘を刺しておきながら、やっていることは内ゲバである。そこまで頭の回転が遅いはずなどないのだが、長年の恋が拗れに拗れたと考えれば辻褄が合うのかもしれないが……未練をスッパリ断ち切ることが出来た側としては呆れる他なかった。

 その拗れの結果としてこちらにまでとばっちりが飛んでくるのは勘弁願いたい。ましてや、こちらはその拗れた恋心の被害者側なのだから。彼とて四葉の情報を必死にかき集めているのだから、四葉家先々代当主と親友関係だった剛三のことを熟知しているはずだ。なにせ、真夜と弘一の仲人をしたのは他でもない剛三なのだから。

 

「昨晩はそれらしき気配を感じたから任せてみたが……あの程度の存在をハッキリと認知できないと世界最強の名が泣くと思う」

「そう言い切ってしまうお前が本当の世界最強の魔法師かもしれんな」

「そんな称号に興味もメリットもないんだけれど」

 

 捻くれているかもしれないが、そういう強さを誇張するものは時として余計な枷になってしまう。そもそも、他国の戦略級魔法を覚えるに至ったのは重力制御型熱核融合炉に至る道筋の為に“参考程度”で起動式を見ただけであり、新陰流剣武術や天神魔法だって自身が生き残るための術として身に着けたものだ。

 現時点で頭一つ以上抜けていることは認めざるを得ないとしても、今代のシリウスとの初対面はある意味不意打ちで勝てたようなものだし、“イグナイター”ことベゾブラゾフだって剛三の戦略級魔法のお陰。その意味で運に助けられた部分があるのは否定できない事実である。

 それも世界最強の要素だと言われてしまうのは何故だか腑に落ちない、というところまでが自身の思うところだ。

 

「興味もメリットもない、か……ははっ、成程な。その意味だと倒れる前までのお前と大差ないだろう」

「……そうなの?」

「ああ」

 

 生まれ変わる前の三矢悠元は、烈の孫である光宣のように優れた魔法師として生きようとしていたわけではなく、魔法という力が使えなくとも真っ当な人生を送りたいという渇望を人一倍有していた。それが結果的に三矢の名を捨てることになっても構わないと元に漏らしていたらしい。

 結局のところ、結果だけ見れば彼の願いを半分叶えてしまったと言えるかもしれない。真っ当な人生という概念から激しくかけ離れてしまったが。

 

「すまない、悠元。お前には黙っていたことだが、お前がそういう存在だということは詩奈と侍郎以外―――三矢と矢車の関係者は知っていたのだ」

「……まあ、九校戦の時に爺さんから問い詰められた時点で察しはついてたけど。咎めはしないのか?」

「今更咎められるわけなかろう。十山家のこともそうだが、お前が三矢家を十師族のトップクラスに引き上げたのだ。気苦労こそ増えてしまったが、元継と悠元が別の家に行くことで元治への継承路線も固まったからな」

 

 元が言うには、三矢家としての路線で考えるなら必要以上の力を持つことは逆に警戒されかねないとのことらしい。情報を手にするには相応の力がいることも理解しているが、そのつり合いは非常に難しいとのこと。

 

「それに、最初は警戒こそすれお前の行動を自由にしたのは私だからな。今更咎めるとするなら、まず私が当主の座を退かなければならない」

「今だから話しますけど、『ナインローダー』で九種の魔法を全待機状態のまま殺気を向けられたときは全力で逃げることも辞さないつもりでしたよ」

「ははっ……まあ、その時はお前という存在を掴み損ねていたからな。それぐらいの警戒は許してくれ」

 

 元の言い分はご尤もである。別に今更掘り返す話題ではないのだが、懐かしむように漏れ出た悠元の言葉に元は苦笑を含ませつつ返していた。

 その頃の自分は魔法という存在に四苦八苦していた(正確に言えば、転生特典のせいでほぼ無尽蔵に生み出された魔法)のせいで家のことなんてあまり深刻に考えていなかった。今世の血の繋がった父親に「好きにやれ」と言われたからそうしただけの話だ。

 

「十山家をどうにか出来たのは向こうの自爆に近いけど。それで、師族会議はどう動くつもりなのか聞きたいんだけれど」

「この前―――とはいっても4日前の話になるが、臨時の会議で今回の事件については七草が音頭を取る形だ。三矢も情報と戦力の提供をするに至った。弘一殿からはお前をどうにか引き込めないかと打診されたが」

「……はあ」

 

 師族会議では、今回の事件規模が都心に一極集中していることから七草家と十文字家が今回の担当となった。今回の事件に関わった面子を考えるのならば、三矢だけでなく国防軍にコネを持つ四葉にも関わらせるべきだが、そこは七草家が固辞した形だ。

 気怠そうな返事をしてしまったのは単純であり、これまでに受けた被害に対して謝罪だけで済ませられると勘違いされていることに対して呆れのような感情を抱いたからだ。血縁関係はまだしも戸籍という法的根拠からして自分は既に三矢の人間ではない。それは当然理解しているはずなのに、厚かましいとは思わないのかと問いたくなってくる。

 

「別の追跡している連中に“シリウス”がいる意味を理解してるのかな……そういえば、九島家の先代当主も東京に来てるって聞いたけど、何か知ってる?」

「今回の一件は古式魔法方面からのアプローチも必要とのことでな。弘一殿が独自に打診していたようだ」

 

 横浜事変後に渡した資料を鑑みて師族の中で古式魔法方面に詳しい九島家が抜擢された形だ。現当主に比べればフットワークが軽く、国防軍方面に顔が広いということも影響しているのだろう。元々暴走しないために渡したはずのものが要らぬ人物まで呼び寄せたことに溜息の一つでも吐きたくなった。

 

「私からも聞きたいんだが、神楽坂家はどう動く?」

「神楽坂というよりは神将会というべきかな。ただ、神将会が本格的に相手をするのはパラサイトじゃなくスターズになるけど」

「どういうことだ?」

 

 簡単な話だが、事態を余計拗れさせるぐらいなら大人しく帰ってもらった方が良いという判断からくるものだった。原作だと事態が拗れに拗れて最終的に深雪の『コキュートス』でなんとかなった。達也が『エレメンタル・サイト』を持っていたことも大きく影響している。向こうの想子追跡システムは確かに優秀だが、そのシステムでも悠元の存在を追跡できていない。

 

「『パラサイト』の全員の所在は既に把握している。昨日は今の“シリウス”の技量を測る目的もあったし、レオが連中に目を付けられて狙われないという保証がなかったから追わなかったけど」

「ならば、今回神将会が動く目的は『パラサイト』ではないと?」

「その目的もあるけれど、達也らには対スターズ―――対魔法師戦闘を本格的に学んでもらうつもりだ。数名はテロリストとの戦闘経験があるけど、テロリストと現役軍人魔法師じゃ性質が違うからな」

 

 パラサイトだけを区別して認識する魔法……ようは転生によって得たチート技能の産物のため、必要以上の言葉は言えなかった。元は悠元の強さの秘密を知る数少ない一人で、悠元の言葉に疑うどころか感嘆に近い表情を見せた。

 別に殺しを強要するつもりはないが、万が一の時に“正当防衛”ぐらいできなければ拙い。剛三と元継がエリカとレオに戦闘技術を叩き込んだのはその側面が極めて強い。それに、向こうは達也と悠元の友人についても身辺調査位はしていると思われる。流石に人質という卑劣な手段を初手で取るとは考えにくいが……保険はあってしかるべきであると推察した。

 

「達也と俺を無力化したいがために態々今代の二人の“シリウス”まで寄越した連中だからこそ油断できない。政治家や財界の連中のほうがまだリアリストだと思うわ」

「つまり、手を引いた人物が他にいると?」

「でなけりゃ、スターズの追跡を振り切ってこの国に密入国なんてできないよ」

 

 ちなみにだが、剛三との連絡の中で彼は顧傑の関与を強く疑っていた。何でもかんでも某特撮ヒーローのどこかの悪の組織のせいにするというわけではないが、世界屈指の魔法先進国であるUSNAの追跡を逃れた時点で関与を疑わない道理がない。

 

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