魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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入学編
僕は今、北の国にいます


―――西暦2095年4月6日。

 

 日本が桜舞う春の季節。今日は国立魔法大学(こくりつまほうだいがく)付属(ふぞく)第一高校(だいいちこうこう)の入学式。前世も含めれば2度目の高校生活。

 今までは本当の名を名乗っていなかったが、居候の件も含めてあの二人に自分の事情をちゃんと説明できるかどうか緊張する。特に自分が十師族・三矢家の人間であるという事実に関して上手く話せるかどうかについて。別に相手が同じ立場―――十師族直系ともなれば尚更だろう。

 

「―――呑気に考えられれば良かったんだろうけれどな」

 

 人生で味わうことがない二度目の高校生活に、これから本格的に関わることとなる司波兄妹との生活。そんな不安半分、嬉しさ半分の状態だった数時間前の俺を返せ、と言いたくなった。それほどにご立腹を隠しきれなかった。

 

 「何故?」と問われたら、理由は実に簡単(シンプル)だ。

 

 長野佑都(じぶん)―――もとい三矢悠元(おれ)は今、第一高校がある東京ではなく北海道にいた。それも、華やかな雰囲気とは真逆の砲弾や人が飛び交う戦場の真っ只中に。

 

「―――あんのクソ上司、これが終わったら覚えてろ! お土産にでっかい木彫り熊を送り付けてやる!! 自主返送(クーリングオフ)拒否でな! 文句など何一つ言わせねえからな!!」

 

 そんな悪態をつきながら、襲い来る兵士―――とは言っても、その兵士は全員防衛大学校の士官候補生であった。殺傷性の高い魔法は使用できないため自己加速術式を駆使し、手早く手刀で気絶させる。相手は平気で武装一体型デバイスを振り回してくるが、それを払いのけるとすれ違いざまに気絶させて次の相手へと視線を向ける。

 

(大体、相手は銃弾アリでこちらが接近戦オンリーとか……しかも、装甲車ならまだしも戦車まで持ち出すとかなんだよ!?)

 

 候補生は平然と国防軍で制式採用されているライフルを使ったりしているが、悠元に関しては一切銃器や真剣などと言った武器の使用を禁止されている。彼らが使っている武装一体型デバイスはおいそれと使えないため、ただ投げ返したりするしかできない。

 更には、悠元自身が使っていい魔法も自己加速術式と防御系統および対抗魔法のみという徹底ぶりであった。

 

 どうしてこんなことになったのか、順を追って説明する。

 

 悠元は上条(かみじょう)達三(たつみ)特尉(とくい)として国防陸軍第101旅団・独立魔装大隊(どくりつまそうだいたい)に所属している。そして、彼の場合は達也と違って国防陸軍の兵器開発部からの出向という形のため、大隊内で使用する魔法技術による兵装の特別技術顧問まで担っている。

 真田(さなだ)繁留(しげる)大尉(沖縄侵攻の一件で中尉から昇進)もお気に入りであり、他の独立魔装大隊の隊員からも一目置かれている。加えて十代で新陰流剣武術師範代の印可を貰っている。

 つまり、兵装の耐久実験として悠元に白羽の矢が刺さるのは無理からぬことだったし、悠元もその点に関しては納得していた。

 

 ()()()()()()()()()()()()という点を除けば。

 

「俺はねえ! 大人やあんたらの都合の良い討伐対象(モルモット)じゃねえんだよ!」

 

 そう叫びながら前進してくる戦車の弾丸を素手で掴むと、砲弾の推進力を体の捻りによる回転力に生かしつつUターンさせるがごとく投げ返して戦車の足元で炸裂させた。その衝撃で戦車は走行不能に陥る。

 

 今日は第一高校の入学式だと気を引き締めて家を出たら出合い頭に“出頭命令”を出されて北海道に強制連行される形となった。

 本来、こういった軍関係の特務士官としての出頭は普通なら珍しくもない(非魔法師ならばともかく、軍人魔法師自体が少ないために軽度の緊急時でも呼ばれることがある)が、自分の場合は魔法兵器開発がメインの特務士官であり、戦闘面での出頭は基本的に“想定してはいけない”話だ。それこそ、沖縄の様な国家の存亡に直結し得る緊急事態でない限り。

 

 その辺の事情を掻い潜って戦闘に参加させられる人間は二人しか存在しない。その二人の片方かあるいは……裏で指示を出した人間も掴んでおり、その辺は次兄と彼の幼馴染に話してあるため、既に対応待ちといった状態だ。

 

「こうなりゃヤケだ! まとめて掛かって来いやぁ!」

 

 ちなみに、悠元は戦闘用の特殊スーツを着ておらず動きやすい服装に試作の対魔法防御コートを羽織っただけ。一応防御魔法として硬化魔法は使っている。というか、硬化魔法だけで物理防御はおろか魔法防御まで『事足りる』状態になっていた。ただ、顔バレを防ぐためにムーバル・スーツに採用する仮面を身に着けている。

 その様子を演習場から遠く離れた場所に設置された天幕―――備え付けのモニターで見ていた真田は、同じく独立魔装大隊に所属する(やなぎ)(むらじ)大尉に話しかけた。

 

「派手にやるね……柳、お前にあれができるか?」

「やろうと思えば真似出来なくはないが、ムーバル・スーツなしで戦車を相手にするのは御免蒙る。そんな命令を出されたら、命を捨てるものかと異論を唱えるだろう」

「だよな。俺だって御免だわ」

 

 今回のプログラムは防衛大学校の入学式の一環で行われている魔法戦闘のデモンストレーション……その相手に彼を選んだ上司は『意地が悪い』と二人は思った。

 

「そもそもの話、いくらデモンストレーションとはいえ、彼は表に出さないという話ではなかったのか?」

「僕もそう思ったし、上司に確認は取ったさ」

「それで、回答は?」

「師団長の命令だそうだよ」

 

 何せ、国家非公認の戦略級魔法師という事実に加えて新陰流剣武術の上段者を平気で倒すほどの実力を有する。これでは、下手すれば候補生のメンタルを折るようなものではないか……すると、二人のもとに一人の女性士官が近寄ってきた。

 

「お二人とも、こんなところにいたんですか?」

「藤林少尉か。データのほうは?」

「バッチリというか十二分に取れていますが……けれども怒ってますね、あれは。まあ、無理もないでしょうけれど」

 

 女性士官こと藤林(ふじばやし)響子(きょうこ)少尉はモニターに映っている光景―――近代兵装はおろか魔法師も含む防衛大の候補生相手に無双している悠元の姿を見て深い溜息を吐いた。

 それも無理はない。彼が今日第一高校の入学式に出るはずだったことと、新入生総代ということも含めれば欠席なんてもってのほかだった。それも単なる魔法使いの家系ならばともかく、十師族の一角を担う三矢家ならば尚更だろう。

 

 だが、その彼を北海道に連れ出したのは他ならぬ真田と柳であり、悠元の参加を指示したのは直属の上司である独立魔装大隊(どくりつまそうだいたい)・大隊長の風間(かざま)玄信(はるのぶ)少佐だということも……その命令を下したのが師団長という事実も響子は知っている。

 

「この分ですと、お二人が出る幕はなさそうですね……」

「これで僕らが出張るとなると、それこそ対象が戦争になってしまうよ」

「真田……笑いごとにならん冗談はやめろ」

 

 実際のところ、デモンストレーションには真田と柳も出る予定だったのだが、強引に連れてこられて不機嫌この上なかった悠元が『標的役は自分だけでいいです。お二人がいると手が滑ってフレンドリーファイアしかねませんので』と言い放って、必要最低限の戦闘用装備を付けて出て行ったのだ。

 三人が見つめているモニターに映る候補生や戦車の状態。下手すると戦場跡でも見ているかのような光景から、彼の言ったことは非常に正しかったと納得せざるを得なかった。

 

「第一高校と彼のご実家には先程連絡しました。明日の午前までの予定も合わせてですが」

「いやあ、仕事が早くて助かる。流石は[電子の魔女(エレクトロン・ソーサリス)]だ」

「そう仰るのでしたら、お二人も悠元君のフォローをしてくださいね? 本当なら第一高校の入学式に出席して、達也君たちに今日会う予定だったんですから」

「返す言葉もない。にしても、達也君か……彼らが直接戦ったら、どうなるんだろうな?」

 

 片や非公式の戦略級魔法師にして“四葉”の一族。片や“三矢”の系譜を継ぐ技術士官メインの非公式戦略級魔法師。配属上は同じ部隊だが、お互い滅多に本気を出すことがない上に二人が揃うこともない。その意味で柳の興味を抱く発言は尤もだろう。それを聞きつつ、真田は苦笑を漏らした。

 

「その時は、僕らの手に負えない範疇の戦いが繰り広げられるだろうね」

「……その意見は的を射ているな」

「二人には決して唆さないでくださいね? 上司が胃痛で倒れたりお二人が始末書の山に埋もれたとしても、面倒は見れませんから」

 

 モニターには倒された兵士とひっくり返った戦車の惨状……まるで暴風でも通り過ぎたかのような光景が映し出されている。それでも、修理不能状態まで破壊したり死者を出していない辺りは流石の手際と言わざるを得なかった。

 これには真田のみならず、柳や響子も苦笑を禁じ得ずにはいられなかった。

 

「にしても、三矢の一族は一高の『触れ得ざる者』と呼ばれてるらしいが……こりゃ、納得かな」

「……今日の夜か明日あたり、富士の演習場に精巧な木彫りの熊が置かれるだろうな」

「はぁ……(師団長に少佐、ちゃんと責任を取ってくださいね? 私はそこまでフォローする気はありませんから)」

 

 デモンストレーション戦闘の後、富士の演習場に精巧な木彫り熊が降ってきて、軍関係者が宿泊するホテルのロビーに展示されることとなるのは別のお話である。そして、結果的に入学式を欠席する羽目になった悠元の機嫌を直すために、風間とその上司は揃って苦慮することとなる。

 

 敢えて言うなら“二人の自業自得”という他ない、と響子は内心で今回の悠元の動員をそう評したのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 時をほぼ同じくして、東京・八王子。

 

(はぁ……どうしたものか)

 

 国立魔法大学付属第一高校の入学式。これからそのリハーサルが行われるわけだが、講堂の前で納得できないと声を上げたのは深雪であった。これには達也も溜息を吐きたそうな表情が垣間見えていた。

 

「やっぱり納得できません! どうしてお兄様が補欠なのですか!」

 

 事の起こりは今朝のことだった。司波家に一本の電話が入って深雪が出たところ、伝えられた連絡事項に対して深雪が驚きの声を上げた。

 

『わ、私が新入生の答辞をですか!?』

 

 本来新入生総代である人が急遽家の用事で行けなくなり、新入生で次席となる深雪に白羽の矢が立った。幸い答辞については予め用意しており、それを読み上げるだけでいいと伝えられた上で電話が切れた。つまり、深雪に拒否権がないというわけだ。

 そうなると、筆記の成績が良かった達也にその資格があると蒸し返される形となる。新入生総代が十師族である以上は家の都合もあるのだろうが、何故だか文句の一つぐらいは言いたくなってしまったのだった。

 別に、自分らが()()()()()()()()、という理由は一切含まれていないわけだが。

 

「深雪、解っているはずだ。俺の事情も、それができない理由も。仮に俺が深雪の希望を叶えたとしても、余計に目立つこととなってしまう。それが何を齎すのかは聡明なお前なら一番理解している筈だ」

「……はい」

 

 [再成]と[分解]―――魔法師においても異質な達也の能力は表に出せない。それだけならばまだしも、自分たちが()()()()だと知られるのは現時点でマイナスでしかない。最近は鳴りを潜めているとはいえ、十師族の中では悪名高いレベルだからこそ尚更なだけに。

 表向き『四葉』を名乗っていなくとも、一族に名を連ねる身として当然解っているからこそ、深雪は残念な表情を見せつつも素直に頷く。それを見た上で達也は深雪にこう呟いた。

 

「代理とはいえ折角の晴れ舞台なんだ。この駄目兄貴に深雪の堂々とした姿を見せてほしい」

「お、お兄様はダメ兄貴なんかではありません。ですが……解りました。行ってきますね」

 

 達也の期待を込めたような言葉に少し照れつつも、深雪は決心したように講堂の中へと走っていく。それを見送ると、適当なところで時間を潰そうと歩き始めた。

 

(それにしても、佑都が来るのは明日か…思えば、あいつの年齢を聞いたことがなかったな…)

 

 悠元の連絡先をFLT経由で聞いていた達也は、今朝早く『明日から司波家に居候することとなった』とだけ書かれていたメールを目にしていた。元々いつから来てもいいように準備はしていた(深雪が張り切って準備していたのは言うまでもないが)ので、それが正式に決まった程度であった。

 考えてみれば、彼の誕生日も祝ったことがなかったし、年齢も聞いていなかった。3年前に出会った時の容姿から推測するに、自分や深雪と歳があまり変わらないだろう、と考えられるのが関の山であった。

 

 今年は彼から『入学祝も兼ねて』ということで自分と深雪のCADをプレゼントしてもらい、深雪は大層喜んでいた。その反動が自分たちの片親達(父親とその愛人)の対応における差で深雪が拗ねて、已む無くフォローの言葉を貰ったわけだが。今度お返しに何かプレゼントしようと考えながら歩いていると、上級生らしき人物に声を掛けられた。

 

「新入生ですね。何かお困りですか?」

「いえ、大丈夫です(……CADを身に着けているのか)」

 

 達也は軽く頭を下げると、左腕にCADを身に着けているのが見えた。身長は深雪よりも低いが、スタイルは同年代の平均から見てもいいほうだろう。達也としては女性のスタイルに拘りなどないが。

 

「私は生徒会長をしている七草(さえぐさ)真由美(まゆみ)と言います。七草(ななくさ)、と書いて『さえぐさ』と読みます」

「(七草……今年の新入生総代に続いて『数字付き(ナンバーズ)』か……)俺は…いえ、自分は司波達也と言います」

「司波君……ということは、今日答辞の代理を務めてもらう司波深雪さんとは双子なのかしら?」

「いえ、自分は4月生まれで、妹は3月生まれです。それにしても、自分をご存じなのですか?」

 

 新入生総代の『三矢』に続いて『七草』と十師族が続く……それを表情に出すことなく、何故自分を知っているのか聞いてみることにした。もしかしたら『四葉』との関係を知られたかもしれないと探りを入れてみた。

 この時ばかりは感情に乏しい自分に感謝したくなったのは言うまでもないが。

 

「ええ。筆記試験では『悠君(ゆうくん)』と並んで歴代一位、魔法理論では満点で一位。教職員の間でもその秀才ぶりには驚かされていたわ」

 

 入試の結果というのは個人情報だろうに……そういうことを平気で喋っていいのだろうか、と達也は内心でそう思いつつ、その名前が気になったので問いかけてみた。彼女の口ぶりからするに新入生総代だろう、と達也は推測していた。

 

「……それは恐縮です。ところで、先程挙げた名前は誰なのでしょうか?」

「あ、知らないのも無理ないですね。彼は―――」

「会長! やっと見つけましたよ!! リハーサルが始められないじゃないですか!!」 

 

 真由美の口から語られる前に、別の女子が真由美を見つけて叱るような口調だった。とはいえ、低い背丈のせいで何だか可愛げがある先輩だと少し思う達也に対し、真由美は申し訳なさそうな表情を向けた。

 

「ごめんね、司波君。では、またの機会ということで」

「いえ、こちらこそすみませんでした」

 

 正直な気持ちとしては自身と同じぐらい優秀な人間の存在を知りたいという欲求もあったが、七草家の人間にこれ以上詮索されるのは拙いと思いつつ、達也は頭を下げた上でその場を後にした。

 

 講堂には既に全体の半数以上を埋めるぐらいの人数が着席していた。軽く講堂全体を見るに、前方の席には制服に花の紋がある一科生(ブルーム)、紋が無い二科生(ウィード)が後方という状態が見て取れた。前の席に座って下手に目立ちたくないと思っていた達也からすればありがたい話で、後方の空いていた席に座って式まで眠ろうと思ったところ、隣から声を掛けられた。

 

「あの、お隣宜しいですか?」

「ん? ああ、どうぞ」

 

 達也の隣に座る形で二科生の黒髪の眼鏡を身に付けている女子と濃い橙色の髪を持つ女子が座り、黒髪の女子の方から達也に対して自己紹介をする。

 

「あの……私、柴田(しばた)美月(みづき)といいます。美月で構いません。よろしくお願いします」

「あたし、千葉(ちば)エリカ。あたしのこともエリカでいいわよ」

「司波達也だ。俺のことも達也でいい。よろしく、美月にエリカ」

 

 互いに自己紹介をし、エリカが司波、千葉、柴田で発音が似ていると言及したことに美月が笑みを零し、達也も少し笑みを浮かべる。それを見たエリカが意外そうな表情で達也を見ていた。

 

「どうかしたか?」

「いやー、達也君って顔に出ないタイプだと思ってたから、ちょっと意外ね」

「さっき出会ったばかりなのに、そういう言い方は失礼だろう。ところでエリカ、千葉家ってひょっとして[千刃流(ちばりゅう)]のことか?」

 

 『失礼だな』と思いはしたが、達也は少しお返しとばかりにエリカの名字について尋ねる。流石に魔法師で名の知られている家柄だということは自覚していたのか、エリカは苦笑を浮かべる。

 

「え、あー、まあね。やっぱり達也君も剣術に憧れがあったりする?」

「体術なら教わっているが、『君の場合、剣術の才能はからっきしだろうね』と、先生もとい師匠に言われたことならある」

「ず、随分ハッキリと仰る先生ですね……」

 

 今やっている体術の稽古には忍びの類になるような飛び道具の鍛錬もあったりするが、それは明らかに剣術ではない、と心の中で呟きつつ達也は言葉を続ける。

 

「変に濁されるよりはマシだと思っているから、気にしなくてもいい。俺は気にしてないからな。少なくとも、俺よりも剣術が上手な奴なら一人知っている。彼曰く『剛三の爺さんに叩き込まれただけだ』と教えてくれたが……エリカ?」

 

 その人物は沖縄防衛戦のとき、専用の刀剣一体型CADで敵を薙ぎ倒していた―――高プラズマ状態の刃で切断していた、というのが適当な表現だが、物騒なことを言うと余計な追及が来そうだったので“剣術が上手な奴”とマイルドに抑えた。

 後日、仕事の合間に悠元(達也の認識では佑都だが)から剣術のことを少しばかり聞きかじっていた。すると、「えっ?」と驚きを漏らしたエリカの様子に気付いて達也と美月が彼女のほうを見やる。

 

「エリカちゃん? どうしたの?」

「達也君、今『剛三』って言わなかった?」

 

 エリカは達也の口から出た言葉に目を見開いていた。まさかこんな形で自身の知己の名前を聞くことになろうとは……思いもしなかった、のかもしれない。

 

「ああ、確かにそう言った。師匠に聞いたら、上泉剛三ではないかと言っていたな」

「……その人ね、うちの千刃流からすれば本流、新陰流剣武術の総師範よ」

「エリカちゃんのお知り合いですか?」

「知り合いっていえばそうなるわね。あたしも数回手合わせしてもらったけど、一回も勝てなかったのよ。師範代クラスのうちの兄貴たちでも掠り傷がやっとってところ」

「それは凄いな……」

 

 千刃流のことは達也も知識として知っている。警察及び陸軍の歩兵部隊に所属する魔法師の約半数が千刃流の教えを受けていると云われていて、その師範代クラスですら掠り傷程度しか与えられないというのは、上泉剛三なる人物の凄さを物語っている。

 いや、上泉剛三は世界史においてその名を知らぬ者はいないほどの存在として知られており、この国において英雄に足る人物として名高い。彼は魔法師のみならず武術においても卓越した技量を発揮しており、若かりし頃は国内の剣道大会を全て総なめしたほどの実力を有していた。

 その人物に教わっていたとすれば、あの腕前も何となく納得できると達也は内心でそう感じた。

 

「しかも、兄貴たちは複数の魔法を使ってるのに、相手は硬化魔法以外使用していない。その人も凄かったけど、師範代クラスでも化け物よ。その人が連れてきていた二人の男子が兄貴達相手に完封しちゃったんだもの……同じく硬化魔法“だけ”で」

 

 エリカの言葉に武術のことなどからっきしの美月は首を傾げたが、達也は驚く。とはいっても、極端な感情が出ない以上顔に出ることもなかった。すると、入学式が始まるアナウンスが流れ、この話はまたの機会で、ということになった。

 

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