P94に憑りついたパラサイト。今後はピクシーと呼称することになる存在との邂逅。これには生徒の大半が驚いているが、一部の面々―――古式魔法に詳しい姫梨と佐那、そして悠元は驚く素振りを見せなかった。それに気付いたのか、ピクシーは視線を悠元に向けていた。
『―――驚かれないのですね』
「内心驚きはしてるけどな。今の様子を見る限り、達也の命令なら何の制約もないように見えたし」
そもそもの話、ピクシーに関しては原作知識で存在を認識しているため、論文コンペに関してはピクシーに存在を悟られないよう気配を偽っていた。本来なら達也との会話に集中するはずが、こちら側にも話題を振ってくるあたりはほのかの思念波だけを拾った場合と異なっている。
だが、姫梨や佐那も驚きはしていなかったのに何故なのか……という疑問はピクシーが先んじる形で答えた。
『光井ほのかの思念波を受け取った際、その中には貴方に対する感謝の念も含まれていました。ガレージ周辺に張った結界術式は見事という他ありません』
「ああ、成程ね……無機物干渉も含めて疑問は多くあるけど」
ほのかと達也を上手く引き合わせるようにセッティングしたのは間違いなく悠元だが、ほのかの一途な思念の中に上手く紛れ込むというのは……奇跡の所業と評することしかできないだろう。
憶測にはなるが、人工骨格フレームの改変は悠元という存在を通して実現できた、という結論しか出てこない。加えて、結界術式自体が物理法則の改変難度を下げる役割を果たした。セリアに気付かれないために強度自体はかなり高めとしていたが、それが『ブリオネイク』の結界容器と同じ働きを果たしていた。
ピクシーの一言で達也たちの視線が悠元に向けられたということもあり、観念したような口調で話す。
「……薄々気付いているかもしれないが、この前学校を襲撃したパラサイトと同一だ」
「そんな気はしていたが、どうして消滅させなかった?」
今までその方法が通用しなかったが、今後もそれが通用するとは限らない。何せ、今後のことも考えるとパラサイトを増やす方法がある程度確立されているのは間違いないと踏んでいい。その最たるものが“パラサイドール”だ。
「仮に消滅させて、他の仲間が躍起になってパラサイトを無秩序に増やされたら堪らなかったからな。少なくとも、ここにいるピクシー……と呼称すればいいか?」
『ええ、元からそのようにお願いするつもりでした』
正直なところ、パラサイトを兵器として利用する方法は理に適っていない。現行の術式では不確実性の要素で制御や拘束術式が破損しうる可能性を含んだ状態で運用しなければならない。いくらサイキックが強力とはいえ、万が一その力が味方に向かえばどうなるかぐらい分かっているはずだ。
兵器に一番求められるのは「いかに自軍の安全を確保するか」だろう。核兵器に厳重なセキュリティーを掛けているのは、それが敵に渡った時のリスクが極めて高いということを認識しているからだ。
十全の安全も確保できない博打要素に賭ける前提の兵器なんて、正直に言えばお断りである。それを言ってしまえば『アリス』のことも似たようなものになってしまうが。
「俺が判断する限りだと、ピクシーがパラサイトの生存本能に従って何か害を為すようには見えない。姫梨と佐那の判断はどうだ?」
「そうですね……私も悠元さんと同じ意見です」
「同意見です。ピクシー、貴女は私たちに害を為すつもりはある?」
『いいえ、それは一切ありません』
ほのかとリーナ―――二人の思念波を受け取ったことで、達也に尽くしたいという気持ちが強く反映されているものの、ほのかの慎重さとリーナの積極さが上手くいいとこどりでミックスした形となっているのが確認できた。
人工骨格フレームの変化はリーナの“アンジー・シリウス”としての運動能力が反映された結果なのだろう。それでいて元々内蔵されている燃料電池だけで事足りてしまうのはもはやチートレベルでしかない。
達也とピクシーの問答の中で達也に対する熱い感情を吐露している傍で、恥ずかしさのあまり叫ぼうにも取り押さえられているほのかの姿があったのは言うまでもないが。結局、ほのかの心が先に折れてしまって叫ぶことすら叶わなかった。
「色々驚きはあるけれど……悠元君、どうするんだい?」
「そうですね……」
ここにいる面子の中で最も家格の高い立場にいる悠元。ピクシーの安全は確保できたとしても、目先の問題は今夜実施される予定の“襲撃”だ。
悠元は事前にセリアから情報を貰っているが、下手な勘繰りを避けるために達也へ忠告はしている。以前のチャールズ・サリバン軍曹のこともあってか、達也もその忠告は素直に聞いていた。
「ピクシーは学校に所有権がありますから、一介の学生に手を出せる範疇じゃありません。なので……俺が母上に話を通すので、ピクシーの件はこれで一旦しまいにしてください。ちょっとした“学校の七不思議”ということで片付けましょう」
「その筆頭がそれを言っていいの?」
実際のところ、ピクシーの件については予め千姫に話を付けており、ピクシーの現在の所有権は達也に移っている。ようは達也が大本の管理者権限を有していて、魔法科高校にその権限の一部が貸与されている形へと既に変わっている。
達也が卒業後は新たな3Hを配備することも既に決まっていて、その資金はというと「トーラス・シルバー」としての儲けの一部を使っている。尤も、その穴埋めという形で四葉家から謝礼金が支払われたのはここだけの話だが。
エリカの言葉に納得いかなかったが、話が進まないと判断して無視することにした。
◇ ◇ ◇
ピクシーの一件が“一応”一区切りついた形となり、悠元は司波家のリビングで一人端末を叩いていた。
ここにいない達也と深雪はといえば、深雪の稽古事の送迎に達也が同席している形だ。悠元も最初は同行してほしいとお願いされたが、ピクシー絡みで早急に片付けなければならないことがある、と述べると深雪は渋々ながらも引き下がってくれた。
その件も確かにあるのだが、久々の一人きりになった状態を作り出したのはセリアと以前語っていた“茶番”にも大きく関係している。その空気を呼んだかの如くリビングの着信音が鳴ったので悠元がパネルを操作すると、映し出されたのはセリアの姿だった。
「意外にも早かったな。もう少し掛かるものかと思ったけど」
『まあ、元々「ブリオネイク」を使うとなったら私のフォローは要らないからね。大佐殿の目を欺くのは骨が折れたけど……でも、本気でやるの?』
セリアの表情はいかにも「悠元を敵にした場合、達也と深雪から敵対の姿勢を向けられないか」という一点に尽きていた。まあ、ほぼ半自動で蘇ってしまう無敵超人の
「本気でやらんとバランス大佐から疑いを持たれかねんだろうが。しっかし、前日にバレンタインがあってのこれだからな……深雪の機嫌を直すことの方が労力を使いそうだ」
『……お兄ちゃんって、もしかして絶が付いちゃうアレ?』
「それ以上言うと、『レーヴァテイン』を推進力にした太平洋横断ツアーもしくは世界一周旅行へ強制ご招待するからな?」
「レーヴァテイン」のスペックは予め
今回の通信はセリアが持つ転生特典に依存した能力で行われているため、『フリズスキャルヴ』でも読み取り不可能という有様。何せ、情報次元を通信回線として利用する方法など現代の魔法技術では確立していない。
『そ、それは勘弁……でも、否定はしないんだね』
「俺も男子だということは自覚してるつもりだからな」
『これは、私も倒された後にお持ち帰りされる流れ?』
「現状曰く付きすぎるお前に手を出すメリットが皆無だ。なので却下」
『うー……お兄ちゃんのイケズ』
一応これから本気の命のやり取りをするはずなのに、とてもそんな雰囲気に見えないというのは否定できない事実だろう。だが、その点に関してはお互いに納得した上で話を進める。でないと、色々ややこしいことになってしまうからだ。
「お前が納得したとしても、お前の二人の祖父―――USNAの大統領閣下と九島将軍閣下というハードルがあるからな。前者は乗り気だったが、万が一後者が日本に戻ってきたら事態がややこしくなるわ」
『あー、それがあるよね、うん。九島閣下の弟というだけでも巻き込まれるのは必至かぁ……もう、なんで私はこんなことになってるのかなあ!?』
こればかりはこちら側も叫びたい気分だ。
九島健の情報については剛三から聞き及んだが、強化措置を受けた烈とは違って“先天的”の強大な魔法力を備えていたことは確認済みだ。このことは当然烈も知っている筈だが、息子・現当主である九島真言には恐らく伝わっていない可能性が高い。
リーナやセリアの名字に“クドウ”が名残として存在しているのも頷ける話だし、二人揃ってスターズに入隊したのも納得できる話だ。ただ、疑問に思うのは九島健が爺馬鹿であっても、そこまで若い姿を維持しようなどとは思わないはずだ。この疑問は追々にすることとして、話を詰めることにした。
「
『や、やっぱり……投擲榴散弾の件はリーナから聞いたけど……』
どうやら、達也は無意識的に仮想魔法演算領域を『分解』や『再成』の魔法演算領域と直結させて足りない出力を補っているのが確認出来た。つまり、相手の攻撃を分解しつつサイオンシールドを常に万全の状態で構築し続けている形だ。やっていることがある意味『ファランクス』の上位互換版という有様に「流石、お兄様」と褒める言葉しか出てこなかったが。
そんな達也の魔法強度だが、計算の結果……『ブリオネイク』を真正面から受け止めるのが可能、という結果が出た。あくまでも計算結果なので実際の結果は異なるかもしれないが、こんな無敵超人をどうやったら倒せるのか教えてほしいと思う。
『あ、そういえば国防軍絡みは大丈夫なの?』
「こっちの事情は問題ない。父も動かしたし……ただ、七草家と九島閣下が水面下で動いているのは間違いない。原因はこちらにあるから、こっちでケリを付ける」
本来ならエリカの兄である修次が達也の護衛と監視に入っていたが、今の達也にとっては“足手纏い”の部類になりかねない。なので、元を通じて国防軍に達也への横槍を防ぐよう要請した。元も達也のことは理解している立場なので、すんなり話が通ってくれたことには感謝している。
それでも万が一を考えて元継に掛け合い、修次を一時的に上泉家―――新陰流剣武術の訓練に参加させている。彼ほどの実力者を国防軍が放置するとは考えにくかったからだ。
ただ、その絡みで七草家が国防軍のセクションを使って達也に探りを入れていて、今夜の襲撃もどうやら“見逃す”つもりで動いている。現に、司波家周辺でも七草家お抱えの魔法師がうろついていることなど知っている。
しかも、その情報が流れている先に間違いなく九島烈がいることも掴んでいる。
『……
「俺が殆ど与り知らぬところでな」
泉美との婚約は元々親であった元の範疇であり、当事者である悠元がそれを知ったのは婚約解消後だった。
理由はいくつか存在するが、そのうちの一つが当時三矢の姓を名乗っていなかったことに起因する。十師族直系の娘を古式魔法の大家の親戚筋に嫁がせる、というのは魔法使いの風聞的にも反発することは目に見えていたため、婚約の発表自体は悠元が魔法科高校に入学して三矢の姓を名乗ってから、という段取りが既に組まれていた。
魔法師が早婚を望まれている以上、悠元としても知らぬ相手ではなかったから父の留飲を下げる意味でも受け入れるつもりであった。尤も、それを向こうからぶち壊した形になってしまったが。
「四葉とのこともあって結果的に功を奏した形になったわけだな。ただ、七草家に関してはどうなるか分かったものじゃないが」
『それを言ったら、うちなんて烈の
これから戦うことよりも、その先に待ち受けているものに対してお互いに溜息しか出なかったのは……生まれた国は違えども、同じ十師族の血を引く者としての“宿業”のようにも思えてしまったから、かもしれない。
原作と違って古式魔法使いの数も多いので、その辺の話は割と早めに済んだ形です。
九島健をそういう設定にしたのは、本来なら何かしらの手段で接触してもおかしくはない(リーナらは一応身内でもあり、情報ならば弘一か響子経由で知ることが出来るので)烈が接触しなかった理由の一端みたいなものとして加えました。その当時は魔法式がきちんと確立していなかったかもしれませんが、『