魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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一度殴らないと恋に目覚めない理論

 北山邸で雫との会話を終えて司波家に帰宅した悠元。それを待っていたのはエプロン姿の深雪であった。いくら家の中とは言っても服装の露出がやや高めになっているが、それでも“裸エプロン”をしないだけマシだと割り切っていた(一度やろうとしたところを必死に止めた)。

 

「おかえりなさい、悠元さん」

「ただいま、深雪。達也は……またFLTか?」

「ええ、夕食までには戻ると言っていました。そういえばセリアからメールが来まして、後で連絡してほしいと」

 

 リーナとの対決が契機となったのか、達也は独自の魔法開発に取り組んでいた。その実験のために使うデバイスの設計図を見せてもらったが、設計・開発自体は悠元の手を極力借りないと言っていた。とはいえ、極秘裏に牛山からデバイス設計のアドバイスを求められているため、間接的に関わっているのは言うまでもない。

 FAE(Free(フリー) After(アフター) Execution(エグゼキューション))理論に基づく魔法開発―――日米共同研究の後、ステイツでの独自研究によって「ブリオネイク」という完成形を確立させた理論を応用した魔法。正直な話、その解決法を独自に導き出して『星天極光鳳(スターライトブレイカー)』を編み出した悠元からすれば“通過点”の部類となってしまうが。

 

「セリアからか……わかった。というか、連絡先は教えている筈なんだが」

「私も気になって聞いたのですが、『悠元に直接連絡して空気を壊したくないし』と仰っておりました」

 

 変に空気を読むあたりは前世の天才ぶりの一端なのだろう。ともあれ、深雪に着替えてくる旨を伝えてそのまま自室に入ると、置かれていたノートパソコン(厳密にはそのタイプの高性能端末)を起動させて通信を入れると、表示されたのはセリアだった。

 

『ハロー、お兄ちゃん。連絡入れてくれたってことは司波家にいるんだよね?』

「先程戻ってきたばかりだけどな。別に俺の端末へ連絡を入れても良かったのだが」

『いやー、雫ちゃんの機嫌を損ねたくないからね。一応外様みたいなものだし』

 

 パラサイトや戦略級魔法の件では悠元以外の面々と直接対決していないにしろ、“セリア・ポラリス”のことは達也と深雪にまで知られている。その意味で深雪のご機嫌取りも兼ねた行動だったようで、これには悠元も苦笑を禁じえなかった。

 

「言い分は受け取るが……それで、何か用事でもあったのか?」

『えっとね……リーナからやたら長文のメールが届いてね。半分以上愚痴で埋まっているから何事かって見ていったら、アルバカーキに到着してすぐにホノルルへ飛ぶように言われたらしくて』

「……それ、絶対軍の命令絡みだろ」

 

 これだけでも下手に連絡をしなかった理由が理解できた。というか、情報検閲が絶対引っ掛かりそうなものだが、普通に届いたということは軍のフィルターを辛うじて突破できたのだろう。若しくはセリアがリーナの持っている端末に細工でもしたのかもしれない。

 しかし、リーナが“アンジー・シリウス”として求められるような諸外国の動きは見られない。新ソ連も『ハロウィン』の一件で大分ガス抜きが出来たようだし、それにプラスしてウラジオストクの魔法拠点が使い物にならなくなった。大亜連合にも軍事的に大きな動きは見られない。そうなると……嫌な可能性が脳裏に過った。

 セリアと連絡を取りつつ、手元のコンソールに触れて別のモニターを起動して情報検索を始める。

 

「太平洋方面にとんぼ返りの恰好か……だが、東南アジア方面やオーストラリア方面にも大きな動きは見られない……なあ、セリア」

『どうしたの、お兄ちゃん?』

「リーナのそのメールだが……十中八九、国防海軍絡みの可能性が高い」

『ええ……って、劇場版じゃん!? って、ゴメン』

 

 悠元の画面には『八咫鏡(ヤタノカガミ)』を通して得た全世界の潜水艦分布マップが表示されている。

 一個人が全世界の軍を把握できる能力―――風間がそれを最もよく知る人物であり、沖縄侵攻や佐渡侵攻、横浜事変でも悠元の情報がなければ死傷者がさらに増えていた可能性もあった。なので、彼は絶対に敵対しないと心に決めている。

 悠元の言葉を聞いたセリアが口にした部分の知識は一応あるにはある。なので、その予防線として戦闘空母である「ずいかく」を建造・就役させた。だが……歴史の修正点というべきか、あるいは人の欲と言うべきなのかは不明だが、小笠原諸島方面に大亜連合の潜水艦が一隻。それと、同海域にUSNAの潜水艦「ニューメキシコ」も近付いている。

 更に軍関連のデータベースを探ったところ、国防海軍による小笠原方面の動きが少し活発になっているのが確認できた。更に付け加えれば、大規模の魔法行使を行った形跡が小笠原諸島方面から感じられたのは間違いない。

 

「周りに誰もいないから問題はない。だが、人が苦労して『ずいかく』級空母の就役にまで踏み切ったのに、強欲にも程があるだろうが」

『やっぱりお兄ちゃんが関わってたんだね……』

「まあ、雫絡みでその方面に出向くからいいが、問題はスターズだ」

 

 いくら現代魔法の先進国とは言え、やっていることは旧合衆国がかつて掲げた「世界の警察」理論に基づくもの。日本政府や国防軍、あるいは師族会議に申し入れしているのならば一応の筋は通る。先日の“失点”を鑑みれば一報でも入れればまだ違うのだろうが。

 個人的にコンタクトを取れる軍関係者の一人であるバランス大佐は特使の関係で日本にまだ滞在している。彼女を通して日本政府に伝達すればいいのだろうが、辛酸を味わう形となった軍上層部は意固地になっているのかもしれない。

 

「場合によってはスターズと対決しなければならんが……仕方ない。セリア用の専用CADを急ピッチで仕上げるか」

『そんなのを作ってたの?』

「試作品かつ“特注品”すぎて司波家では調整できないんでな。後で主任には連絡を入れておかないと……」

 

 達也たちの現在の魔法力ならば問題はないだろうが、念には念を入れておく。四葉家と風間に達也の『マテリアル・バースト』解禁要請を、千姫と剛三に『スターライトブレイカー』の使用解禁を要請する。

 それと、スターズを抜けたことで「レーヴァテイン」がなくなったセリアの専用CADを仕上げることにした。元々はコスト完全度外視の耐久度を誇るFAE理論兵器の試作品だが、それが幸いにも「レーヴァテイン」に近い仕組みだったので流用することにしたのだ。

 尤も、「レーヴァテイン」とは異なり形状自体は弓をモチーフとしている代物で、詩鶴に渡そうと作っていたCADだったのはここだけの話。名前はさしずめ「アルテミス」といったところだ。

 

『お兄ちゃんって、この世界の支配者でも目指すの?』

「誰がそんな面倒なことをするか」

『デスヨネー』

 

 なお、元同僚のスターズ隊員も含めた面々と対立することについてだが、セリア曰く「一部を除いて奇人と変人しかいない連中に掛ける情けはないよ」とのことらしい。せめて身内であるリーナにぐらいは加減位してやれと言ったのだが、「軍をスッパリ辞めてお兄様にアタック掛けないヘタレは一度殴らないと目覚めない」と返してきた。

 達也も達也だが、戦略級魔法師は恋に対して奥手になる傾向があるのだろうか。その一端である自分が言うと変な説得力を持ってしまうのは納得がいかないが。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 ―――西暦2096年3月18日。

 

 夏の時は気候が安定していたのでクルーザーだったが、今回は他の島への移動も考慮してVTOL機での移動となる。姫梨を含む神将会の他のメンバーには一応声掛けをしたが、元継以外は各々次期当主を説得する意味で実家に帰ったらしく、元継は侍郎と詩奈の面倒を見るために三矢家へ出向いているらしい。

 

「悠元はこんな時でもデバイスの調整だなんて、熱心ね」

「茶化すな、エリカ。使わないに越したことはないが、あんなことがあった後だからな」

 

 端末とケーブルで繋がっている先には弓型CAD「アルテミス」が接続されている。セリアと連絡した翌日に急遽FLTへ出向いてセリアの使う魔法のインストールを手早く済ませ、機内に持ち込んで調整を行っている最中であった。こんな作業をしているものだから、何かあると勘付いている連中が多いのはありがたいと思うべきか。それとも、困ってしまうと思うべきなのか。

 調整は『万華鏡(カレイドスコープ)』を併用する裏技を用いて短時間で終わらせた。聟島に着くと、各々水着に着替えて海で泳ぐことにした。そこにエリカがスイカをこっそり持参しており、主に二科生のメンバーと佐那、それとセリアでスイカ割りを始めた。聞けば、千葉家の訓練のお楽しみとして恒例行事でやっているとのこと。基本的に率先して泳がないタイプの達也や悠元は別荘のテラスでのんびりしつつ、北山家特製のトロピカルジュースを口にしていた。

 

「その、悠元さん。私の水着はどうでしょうか?」

「よく似合ってるよ。まあ、深雪なら何でも着こなしそうな気もするが」

 

 深雪のものはフリルが付いたタイプのセパレートで、非常によく似合っていると思う。流石に美月やほのかほどではないが、リーナやセリアと同等以上のプロポーションへと成長しているのは間違いないだろう。元々の魅力に加えて女性らしい体つきになっている。悠元の言葉に深雪は嬉しさで頬を赤く染めていて、もし獣の耳があればピコピコと激しく動きそうな喜びようだ。

 すると、二科生とセリアのスイカ割りを見ていたほのかと雫が三人の座るテーブルに座った。

 ほのかはフリル付きとはいえ、前回よりも胸元を強調したタイプのセパレートとはだいぶ思い切った形だろう。大分成長―――具体的にはエリカよりも胸が大きくなり、メリハリの付いたプロポーションとなった雫はワンピース形ではなくセパレートタイプの紫色主体の水着を選んだ。ちなみにだが、美月は佐那とエリカの企みもあってシンプルだがビキニタイプの水着を選んでいて、エリカと佐那はシンプルなセパレートの水着を選んでいた。

 美月、ほのか、深雪、セリア、佐那、雫、エリカ……何の順番かは察してほしい限りだ。

 

「雫、一気に成長したよね」

「そうね。一気に女性らしくなって……悠元さんあってこそでしょうけど」

「ん。そのお陰で何度も新調する羽目になった。お母さんに根掘り葉掘り聞かれたし」

「やれやれ……」

 

 雫もそうだが、深雪の成長の裏側に何があったのかを達也は聞き及んでいる。

 実際のところ、夏休みに神楽坂家を訪れて以降は深雪が悠元の部屋で寝ることがかなり多くなった(実を言うと、悠元が居候し始めてから時折添い寝してほしいと深雪が頼み込み、結局深雪のほうが耐えきれずに自室へ戻ることがあった)。

 深雪の体調を気遣うならば悠元の取った行動は適切だが、そもそも深雪の側から仕掛けているようなもの。加えて雫や姫梨、最近では夕歌も彼と関わっている。それでいて良く正気を保てるものだ、と同じ男として悠元をある意味褒めたくなった。

 

「これは美味しいな」

「黒沢さんの特製だからね。悠元なら完璧に真似出来るかもしれないけれど」

「魔法ならいざ知らず、料理はそう簡単にいかないだろうに。そういや、スイカ割りのほうはいいのか?」

「あ、そうそう。セリアさんがスイカを綺麗に“斬って”たんですよ」

 

 本来はスイカ“割り”のはずなのだが、何をしたのかは予想が付く。大方原作アニメでエリカがやったことを応用したのだろう……無駄に洗練された無駄な使い方という言葉が一番しっくりくると思う。セリアのやったことは『聴覚強化』で聞き取っていて、感心するように声を上げたレオとエリカの様子が掴みとれた。ほのかの言葉を聞いて達也と深雪も察していたようだ。

 

「悠元に達也さん、深雪も来てくれてありがとう」

「唐突になんだよ」

「そうよ、雫」

「二人の言う通りだな。それに、春休みにこうやってのんびり楽しく過ごせるんだ。感謝こそすれ迷惑と思ってないさ」

 

 雫としては、達也と深雪の事情を理解している上での言葉。だが、それを気に病む必要はないと悠元も含めて雫に返した。それを聞いた彼女は「良かった」とでも言いたげに柔らかな笑みを見せた。

 

 だが、そんなバカンス気分を一瞬にして吹き飛ばす音―――飛行艇のエンジン音に、真っ先に悠元が気付いて視線を西方向の上空に向けた。

 

「悠元さん?」

「……悠元の予想通り、ということか」

「間違っていてほしかったがな」

 

 この島に近付いてくるのは国防陸軍の水陸両用飛行艇。テラスにいた悠元らだけでなく、スイカを食べている面々もその存在に気付いた。こうなると、国防陸軍において位の高い自分が対応すべきと考え、飛行艇が着底した桟橋に向かって一気に跳躍した。飛行艇からは一人の陸軍兵士が降り立つ。その兵士はこちらを考慮してなのか独立魔装大隊の隊員で、悠元に気付いて敬礼をした。悠元もそれに倣って敬礼をする。

 

「これは特務少将閣下。休暇中のご訪問をお許しください」

「こちらこそ、このような恰好での対応になって済まない。それで、用件は?」

「少佐殿からの手紙です。一つは大黒特尉に渡してください……出頭命令とのことです」

「了解した。速やかに対応するので、少し待っていてもらえるか?」

「はっ」

 

 悠元が手紙を受け取って別荘に戻ると、出頭を想定してなのか達也は水着でなく動きやすい服装に着替えていた。悠元は達也に未開封の手紙を渡した後、自身に届けられた手紙に目を通す。

 

(……「サード・アイ・エクリプス」の使用許可の解除申請か。出頭命令でないのは、風間少佐なりの気遣いと言うべきか)

 

 自分がその場にいない際の解除手順は確かに存在しているが、セキュリティ上の問題もあるので風間にしか知らせていない。というか、生体解除キーとして登録されているのは悠元と風間の二人だけで、仮に上司が風間に解除を求めたとしても悠元が行う解除コードの送信がなければ「サード・アイ・エクリプス」は使えない。

 達也は手紙の内容を確認すると、深雪に封印の解除をお願いした。手紙には『マテリアル・バースト』を使用可能とした状態で出頭するようにとの要請があったためで、彼らの身内である真夜と深夜も同意している。達也の持つ戦略級魔法を使わねばならない事態というのは、それだけの危機が迫っているということぐらい深雪も理解できる。

 そして、深雪の唇が達也の額に触れ―――達也の持つ膨大な想子が部屋に吹き荒れたのだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 茨城にある国防陸軍の百里基地。達也はあまり袖の通さぬ軍服で風間と真田のいる執務室に入った。達也の敬礼を終えたところで楽にするよう風間は声を掛けつつ、本題に入る。部屋が暗くなり、部屋の横にある大型モニターには太陽系の天体図が表示されている。

 

「早速だが……地球と火星の公転軌道のほぼ中間宙域、小惑星の不自然な軌道変更が観測された」

「不自然な、でありますか?」

 

 その言葉を使うということは、他の小惑星を含めた物理的な衝突によるものではない、と内心で推測しつつ風間や真田の説明を聞き続ける。

 

「当該小惑星2095GE9―――コードネーム“ジーク”が地球に落下してくる確率は、特務参謀の計算結果ではほぼ100パーセント。九州地方で空中爆発を起こす確率は80パーセント以上とのことです」

「ほぼ確実に日本へ落ちてくる、ということですね」

 

 真田の言う特務参謀のことだが、十中八九悠元以外に思いつく人間が存在しなかった。小惑星による被害予測は現在でも難しいが、彼が言うと妙な説得力が生まれている……と思う。この状況ならば確かに『マテリアル・バースト』を使うのが一番の最善策というのも理解できるし、粉々にした破片程度ならば大気圏での摩擦熱で燃え尽きる算段も付く。

 そして、風間は達也に命を下す。

 

「―――大黒特尉に命じる。『マテリアル・バースト』を以て“ジーク”を破壊せよ」

 




 来訪者編アニメも始まりましたが……リーナがギャグキャラに見えるのは何故でしょうか(特に大統領と面会したことを達也の前で言ってしまった時)。
 達也よ、アンジー・シリウスが出てくるという時点で『マテリアル・バースト』を使う魔法師がそれだけの評価をされているって気付け、と言いたくなってしまいましたが。

 補足ですが、原作だと
 美月>ほのか>リーナ>深雪≧エリカ>雫≧(?)英美
 なのですが、本作は
 美月>ほのか>姫梨>深雪≧セリア>リーナ>佐那≧由夢>雫>エリカ
 みたいな感じです。どうしてそうなったのかは大体主人公補正のせい。
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