その頃、北山邸で大型の端末に座っている幹比古と佐那、それを見つめているセリアと深雪であったが、ここでセリアの脳裏にリーナが『ヘビィ・メタル・バースト』を南盾島のロケットランチャーに向けて放つ映像が流れ込む、その直後に電磁波障害が発生して端末の音声にノイズが生じた。
「……リーナが来てる」
「それは、本当なのですかセリア?」
「今『ヘビィ・メタル・バースト』をロケットランチャーに向けて放った映像がね……」
「南盾島の南東―――海軍の防衛陣地が炎上しているようです」
電磁波の影響によって映像がブレているが、セリアの言葉を裏付ける状態が映し出されていた。すると、深雪が端末から聞こえてきた単語が気になり、声を上げた。
「今、所属不明の潜水艦という言葉が聞こえませんでしたか?」
「僕にもそう聞こえました」
幹比古が備え付けられたレシーバーで正確な音声を拾おうと試みる。そこからは民間人の避難警報が発令したという情報も付け加えられた。これを聞いて憤っていたのはセリアであった。
いくら戦略級魔法の無力化を目的にしているとはいえ、国内ならばともかく国外―――しかも同盟国の軍事施設を破壊するという軍事行動自体“内政干渉”の領域に踏み込んでしまっている。
スターズ総隊長には連邦軍刑法特別条項に基づく権限を有していて、その中には国外における行動規定も確かに存在する。だが、同盟国内でそれを行う場合は対象国の政府に許可を得なければならない。非常事態に属する事項ならば事後承諾も確かに可能だが、戦略級魔法を取り除くという理由はそれに該当しない。
「あのバカリーナ! 南盾島の民間人が退去しきっていない状態で作戦を決行するとか正気の沙汰じゃないわ! 恐らくベンもいるはずでしょうけど……雫。この状況なら国防軍の飛行艇が速いから、伊達さんにお願いして私らを南盾島まで送ってほしい」
「私らって……うん、分かった」
セリアの言葉に雫は疑問に思ったが、近くにいた深雪の表情を見て察したのか、頷いてその場を離れた。そして、セリアは近くに置かれた「アルテミス」を手に取った。
リーナがちゃんと民間人の退去を確認していれば、ここまで気に病むことなどなかったが……今のセリアはれっきとした日本国籍の人間。いくら双子の姉相手とは言え、彼女がこれからやろうとしていることを考えた場合、黙って見過ごせるレベルをとうに過ぎてしまった。
『分子ディバイダー』のことを考えると知己もいるのだろうが、リーナに軍人として律してもらうために民間人の存在を無視する形としたのなら一応の筋は通る。
「ごめんね、深雪。勝手に話を進めてしまって」
「いえ……ありがとう、セリア」
「そんな深刻そうな表情をしてたら、連れて行かない理由がないでしょう?」
達也のこともそうだが、悠元のこともあって深刻そうな表情を見せた深雪をここに残しても、理由を付けて無理矢理付いてきそうだとセリアは判断した。それに、彼女の力は十二分なほどに戦力としても数えられる……達也から小言は貰うかもしれないが、その時は深雪から諫めるようにお願いをしようと結論付けた。
(お兄ちゃんとお兄様がいてしくじる可能性は限りなく低いけれど……
セリア自身、規格外のことをやってきた自覚はある。それを必要以上に畏れた挙句、結局スターズの序列から外したのも軋轢を生まないための配慮だということは理解できなくはない。だが、それが結局“特別扱い”と認識されることもあり、参謀本部の連中がご機嫌取りも兼ねたセリアに与えた階級も結局は逆効果でしかなかった。
加えて、リーナもそうだが自分のことをいやらしい目で見ていた連中も少なくはなく、手を出そうとしたロクデナシ共を返り討ちにしたことは……3桁に到達した時点で数えるのを止めた。
余談だが、九島健が孫娘の要望を叶えたのは、彼女の戦略級魔法師としての資質がUSNAでも制御できないと判断したからだが、それに加えて自身の兄に対する意趣返しも含まれている……世の中、知らなくても良いこともある。
◇ ◇ ◇
四亜や数人の研究員を先導する形で敷地内を進んでいた悠元らだったが、あと少しで基地と空港を繋ぐ橋に到達するといったところで、悠元は足を止めた。本来ある筈の橋が綺麗に斬り落されていて、その手前には国防軍のスーツではない二人組が立っていた。
すると、スーツを着た片割れの男性が四亜たちに気付く。
「おんやぁ……隊長、あの子らは……」
「恐らく、例の戦略級魔法のオペレーターたちだろう。だが……」
無論、この程度の会話でも悠元にはしっかり聞こえている。恐らくはスターズ―――しかも、片方は刀のようなデバイスを腰に携えている。もう片方はナイフを持っているようだが、まるで人殺しを楽しむかのような様子が言葉の随所に見られた。
「レオ、エリカ。彼女らを頼む」
悠元はそう言って『疑似瞬間移動』を発動させてクルーザーの近くにまで一気に飛ばした。連中はまるで手品でも使ったかの如く悠元以外の面々が消えたことに驚くが、周囲一帯が結界術式に覆われたことをスラスト・スーツ―――スターズで正式採用されている魔法戦闘用スーツ―――を纏った二人も認識したようだ。
「ユート・カグラザカ……」
「アイツが……隊長、やっちまってもいいんですよね?」
「……そうするしか突破口がないようだからな」
二人はこの結界を破る方法が悠元を倒す以外にないと察したようで、悠元は「ワルキューレ」を取り出しつつ「叢雲」を展開する。
サイコパス思想の男性兵士―――ラルフ・アルゴルは自己加速術式で悠元に切迫する。スターズでもいかれた思考の持ち主だが、二等星級に相応しい実力を備えている。だが、常識という概念を置き去りにした存在と相対し続けてきた悠元からすれば、彼の自己加速術式ですら『ハエが停まるレベル』になってしまう。
「叢雲」を逆手に持ち替えて柄尻で彼の腹部を強打させ、「ワルキューレ」で移動魔法―――「ライトニングオーダー」によって同系統の魔法を連結させることで魔法同士の合成を生み出し、破格的な威力を叩き出す技術を用いてアルゴルを吹き飛ばす。
「ゲホッ、ガハッ……スラスト・スーツを着ていてこの威力……こうでなくっちゃよお!!」
無駄にタフネスなのは確かなようで、そうでなければ第一隊所属の恒星級隊員という地位にいるはずもないだろう。この問題児を抑えているもう一人の人物には内心で称賛したいところだが、そんな悠長な暇など今はない。
アルゴルは直線的な動きで再び切迫しようとしている。これには思わずもう一人の人物―――アルゴルの上司であるベンジャミン・カノープスが制止の言葉を上げたほどだ。
「……スターズは分を弁える、という言葉を知らんのか。恥を知れ」
悠元は「叢雲」を構えると、力強く一歩を踏み出す。その踏み込みはコンクリート製の地面に亀裂を生じさせるほどの力。地の力を集め、己が体を通して
剣聖四大奥義、
“鳳凰”が太刀に苛烈な攻撃力を与えるのとは対照的に、“霊亀”の本質はいかなる防御ですら断つことに特化した奥義。態々奥義まで使った理由は、この光景を見たカノープスにこちらが“本気”であることを示すための一撃。
今の「叢雲」は“幻想状態”のために殺してはいないが、斬られた相手の肉体は実際に損傷したと錯覚するため、強烈な痛みとそれに伴う精神力の摩耗を引き起こす。アルゴルは痛みよりも先に精神の摩耗で気を失って地に伏せた。
「……さて、ベンジャミン・カノープス少佐殿。貴方は関与していなくても先日の件に続いてスターズが我が国に干渉してきた……その落とし前はどうつけるつもりだ?」
「っ!?……(これが、総隊長ですらも恐れ、“ポラリス”をも退けた当代において世界最高峰の魔法師……)」
滅多に発することのない殺気を込めた悠元の言葉に、カノープスは自分が震えていることに驚きを禁じ得なかった。
調査結果が元十師族で戦略級魔法の被疑者という情報以外全くの白紙、リーナからの報告でも目を疑うようなものばかりで、セリアを倒したという報告を受けても現実味が全くなかった。
USNAが誇る最新鋭の監視システムを備えた軍事衛星ですら欺く魔法師。その存在を目の当たりにして、今まで聞き及んだ話が全て事実であったと認識するに至った。
「こちらの要求は一つだけ。彼女たちの殺害や研究所の破壊は止めて直ちに軍を退け。今退けぬというなら、後日お宅らの最高司令官に直訴させてもらうつもりなので……覚悟しておけ」
「……今退けば、追撃はしないということか?」
元々、今回の作戦はカノープスらが失敗することも想定したうえでの作戦プランが練られている。カノープスは目の前にいる少年がその選択肢を選ばせてくれるだけ“温情”はあると判断した。
「ああ、
悠元はそう言って結界を解除した。カノープスは気絶したアルゴルを抱えると、飛行デバイスで飛び上がって南東方向へ撤退していった。彼が理知的ならばこれ以上の介入は控えるはずだ……だが、それを平気で破る奴が北西方向の上空に姿を見せた。
(リーナ……『ヘビィ・メタル・バースト』で研究所ごと……いや、島ごと吹き飛ばすつもりか!)
だが、悠元に焦りはなかった。少し離れたところに達也の姿を確認しているし、それにセリアの気配が感じられる。
リーナは装甲車に照準を付け、『ヘビィ・メタル・バースト』を発動させる。だが、それを食い止めたのは悠元でも達也でもなかった。装甲車を起点としてプラズマ状態となったところで、プラズマが“凍結”したのだ。この事態に一番困惑していたのはリーナであった。
「えっ―――定義破綻で『ヘビィ・メタル・バースト』が強制終了!?」
それを成した人物―――セリアは「アルテミス」を片手に小高い丘に立っていた。別荘は雫と佐那に任せて国防軍の飛行艇を使って急行、深雪や幹比古と同行していたのだが先んじて島に降り立った。
セリアが使用したのは『リバース・ヘビィ・メタル・バースト』―――戦略級魔法『ヘビィ・メタル・バースト』のセーフティーとしてセリアが独自に編み出したもので、発動初期のプラズマ状態から一気に固体化させることで『ヘビィ・メタル・バースト』に必要なプラズマ状態の定義を破壊する魔法。
この魔法自体、セリアがリーナの魔法領域と
リーナは気を取り直して研究所の建物を破壊しようとするが、研究所から立ち上がる煙……その煙が晴れると、建物自体綺麗に消え去っていた。目的である建物の破壊が目の前で起きてしまった以上、任務成功ということで帰還しようとしたリーナに声が響く。
「―――何大人しく帰ろうとしているの、お姉ちゃん?」
自分を姉と呼ぶ人物の声。この声をリーナが忘れるはずなどない。自身の片割れとも言える双子の妹の声……恐る恐る振り向いたリーナの視線の先には、満面の笑顔を浮かべた双子の妹の姿があった。
「キャー!? ゆ、ゆゆ、幽霊ー!? って、痛い痛い!!」
「……」
悠元から渡された飛行デバイスで空を飛んでいるだけだし、そもそも平気で飛行しているリーナに言われたくない……後でお仕置きすることも思いつつ、セリアはリーナの肩を本気で掴んだのだった。
スラスト・スーツを着ているはずなのに、その痛みでリーナの『
◇ ◇ ◇
南東側の『ヘビィ・メタル・バースト』による火災を深雪があっさりと鎮火させ、更には近くにいた上陸艇と潜水艦「ニューメキシコ」に対して『
(深雪、聞こえるか?)
(悠元さん。どうかされましたか?)
(達也もそうだが、セリアに加えてリーナも来る。心配はないと思うが、攻撃はしないでほしい……俺はこのまま別件を片付けるから、達也のことは任せた)
(はい……お気をつけて)
深雪自身、悠元が何をやろうとしているのかは分からないが、大変なことをしようとしているのは察していた。本当ならば婚約者として力になりたいが、今は自分のすべきことがある。それに、凍結して拘束している潜水艦らの対処もあるので、深雪がここに残るのは止むを得ないという判断である。
悠元との念話を終えたところで達也が深雪と幹比古のいる場所に降り立ち、続けてリーナとセリアが降り立った。蛇足だが、セリアはスカート姿だがスパッツを履いていたので飛行デバイスを使うことに躊躇いはなかった。
達也からUSNAの廃棄軍事衛星セブンス・プレイグが地球に落下してくること、それが24時間以内にこの一帯へと落下してくること。それを止めるためには達也の持つ魔法なら可能という点。
「最新の軌道予測データは悠元から貰ったが、万全を期すために高高度からセブンス・プレイグを無力化する。リーナにはそこまで俺を飛ばしてほしい」
「成程ね。お姉ちゃん、達也を高度140キロまで飛ばしてってことだよ」
「140キロ!? 殆ど宇宙じゃない!!」
驚愕するリーナだが、セリアは有無を言わせぬ表情をリーナに向けた。これには身内であるリーナもたじろぐほどだった。
「その理由はね……どっかの誰かさんがロクに考えもせず『ヘビィ・メタル・バースト』をぶっ放したせいよ。この際責任追及は二の次。達也に迷惑を掛けたんだから、お姉ちゃんも協力するのが筋でしょう」
「悪かったわね……ワタシが責任を持って送り届けるわ」
リーナがCADを構え、セリアがその制御補助を担う形で展開した巨大な仮想領域の柱―――目標高度まで達也を送り届けるための移動魔法。達也の準備が確認出来たところで、リーナのカウントが始まる。
「スリー、ツー、ワン……ゴー!!」
魔法が発動する瞬間に達也の着ているコバート・ムーバル・スーツのマント部分が変形して流線形となり、まるで電磁加速でもするかのごとく射出される。天高く飛んでいく達也の姿を深雪は彼との繋がりで確認した。
達也の無力化する手段―――『ホーリー・トライデント』であれば問題はないが、万が一の保険を考慮して深雪に達也の帰還の補助を担ってもらうことにした。達也からも深雪に無事帰還できるようフォローしてほしいと頼まれた。
今はその役割に徹すると決めた以上、深雪は空の向こうにいる兄をしっかりと見つめていた。
エリカとレオの戦闘シーンを端折って主人公に戦闘させましたが、レベルが違うと虐殺にしかなりませんね(今更かもしれませんが)
次回で劇場版の部分が終わりますが、春休み編はもう少しだけ続きます。