悠元とアルトリアの戦い。それは最早人という次元の戦いではなく、普通の人から見れば衝突音と剣劇―――金属がぶつかる音、それに伴う衝撃波しか見えない。アルトリアの振るう「エクスカリバー」はとても女性の腕力から想定できない威力を有するが、それに追随している悠元も「天叢雲」で互角の戦いをしている。
「……凄いわね」
「ああ……」
今までアルトリアと2対1で戦っていたレオとエリカですら、今の悠元の戦いには見ていることしかできなかった。だが、レオもエリカも天刃霊装を解除せずに警戒はしたまま。それは、悠元がアルトリアへ歩み寄る前にレオとエリカを見やった目が物語っていた。
確かに彼は“死合う”と口にしたが、正々堂々の勝負をするとは一言も発していなかった。この状況を脱するには、レオとエリカを含めた協力が必要だと算段を弾いた上でアルトリアとの勝負に挑んでいた。
明らかにエリカの身体強化術式よりも精度の高い速力で切迫する。レオとエリカの二人掛かりで戦っていた時よりアルトリアも剣を振るう速度が増している。人智を超えた先の戦いとは……多分こういうことを言うのではないのかと思ってしまったエリカであった。
その衝撃波は空間全体に連続して発生しており、イメージするならば九校戦の新人戦女子スピード・シューティングで雫が使った『アクティブ・エアーマイン』のように豪快な波動が響き渡るような印象に近かった。
「……『アリス』、いくぞ」
『心得ました、我が主』
悠元は小声で「アリス」に対して呟くと、悠元と「アリス」の
アルトリアは袈裟斬りを繰り出すが、それをすり抜けるがごとく悠元がすれ違い様に振るうと、彼女を身に着けていたマントが床に落ちた。レオやエリカですら傷一つ負わなかった彼女の装飾品を落としたことに、アルトリアは笑みを零した。
「強い。実に強い。これは―――っ!?」
「いつまで王様気分のつもりだ、お前は」
その暇を逃すつもりなどなく、悠元は新陰流剣武術の奥義である『霊亀烈破』を放った。間一髪躱すものの、彼女の右肘から先の袖が完全に斬られる形となった。これにはアルトリアも驚愕しつつ、斬られた袖を床に落として「エクスカリバー」を握った。
城の本丸の壁が一瞬で治ったことを思い出しつつ、悠元は「天叢雲」を構え直した。
(心象次元の制御から外れている以上、装飾品の再構築や修復が出来ない。アルトリアはあくまでも「エクスカリバー」の力を振るうための
だが、そのことに感傷など抱くつもりもなく、悠元は力強く一歩を踏み出してアルトリアに再び切迫する。アルトリアも悠元の存在に気付いて剣を振り下ろすが、剣が到達した瞬間に悠元の姿が霞となって消えた。
姿を探す前にアルトリアが脇腹に痛みが走り、咄嗟に「エクスカリバー」を突き刺して堪えた。その悠元はというと、横を通り過ぎたはずが目の前に立っていた。
「何故、それ程の強さを持っていながら……貴方は王となろうとしないのですか?」
「興味がないからだ。過ぎた力で統べても、結局は自滅するだけだ」
世界最強という称号に興味はないし、世界統一なんてする気もない。相手が礼を以て接するのならば礼儀正しく対応するし、敵意を以て襲ってくるのならば完膚なきまでに叩きのめす。自分の魔法が世界のバランスを壊してしまうと理解しているからこそ、必要以上の干渉はしない。それが、他でもない俺―――神楽坂悠元の決めた道である。
「ならば……貴殿が目指すその道、押し通してみせよ!!」
アルトリアは床から「エクスカリバー」を引き抜き、頭上に構えた。持てる力の全てを用いての「エクスカリバー」による光の斬撃。食らえばひとたまりもないだろう……悠元は一息吐いた後で、「天叢雲」を構えて霊気を収束させる。
「レオ、エリカ。いけるか?」
「おうよ」
「寧ろ、ここで踏ん張らないとあたしらの世界がピンチなんだもの。やってやるわ!」
レオは「バルムンク」を、エリカは「クラレント」に自らの魔法の力を収束させる。なお、沓子らは幹比古の張る結界の後ろに移動している。
「さあ、受けてみよ。エクス、カリバァァァァッ!!」
アルトリアの全力を以て放たれた光の奔流。それをレオとエリカが各々の天刃霊装で迎撃する。
「いくぞ、『
「いくわよ、『
ほぼ同時に放たれた光の奔流でも、「エクスカリバー」がやや優勢。だが、悠元はまだ動かない。何故ならば、ここに頼もしい援軍が駆け付けたからだ。
「エクスカリバー」の光の奔流が突然消えた。これにアルトリアが驚く暇もなく、飛来する鉄と風、氷の銃弾の嵐が降り注ぐとともに、「エクスカリバー」の攻撃が無くなったことで押し止められていたレオとエリカの攻撃がアルトリアを襲う。彼女はエクスカリバーを盾にするように攻撃を凌ごうとするが、身体総てをカバーできるわけでもなく、攻撃の余波によって多くの切り傷を負う。
光の奔流が途切れたことで安堵したアルトリア。だが、ここで一人の人間の存在を一瞬でも忘れてしまったことが彼女に隙を生んだ。
「―――っ!?」
「終わりだ、騎士王」
―――新陰流剣武術が
新陰流剣武術において唯一無二の一撃必殺に主眼を置いた奥義。かの剣聖こと
剣の形は変幻自在。故に各々の真に極めた一撃必殺の技こそが「一之太刀」。悠元は自らの技に無から有を生み出す意味を込めてその名を付けた。そして、「アリス」との同調で発動している『一刀修羅』を斬撃の刹那に収束させて数千倍の威力を叩き出す『
斬られた「エクスカリバー」の刃は床に突き刺さり、刃を断たれた剣を持ったまま地に倒れたアルトリアを悠元は静かに見守っていた。彼女は薄れゆく視界の中、悠元の姿だけはハッキリと捉えていた。
「お見事でした。我が剣を斬るという所業……これほど満足したのは、何時ぶりでしょう……」
それは剣を引き抜いて王に選ばれたときなのか、心ある多くの部下を得た時か……それは、彼女の記憶を遡ってもハッキリしなかった。
彼女自身、勝つこともあれば負けることもあった。だが、「エクスカリバー」を斬った者など今までに誰もいなかった。神が造りし勝利を約束された剣を破るなど、最早神業以外の何物でもない。それを、目の前にいる少年が成し遂げた。
「最期に……貴方の、名を……」
「神楽坂悠元。お前のことは忘れない、騎士王アルトリア・ペンドラゴン」
アルトリアが瞼を閉じた瞬間、黄金の光がその空間を瞬く間に満たしていた。その中で……消えていく彼女は、充足感に満ち足りたような表情をしていた……そんな気がしたのだった。
それと、悠元の脳裏に一つの言葉が聞こえた。それは、間違いなく空耳などではない感謝の言葉であった。
―――ありがとう。
何故、感謝の言葉を投げかけられたのかは正直分からない。結局はこちらの都合で倒したことに変わりはない。
もしかしたら、彼女は消滅の間際に自身の役目と自身の存在がこの世界によくない結果を齎すと悟ったのかもしれない。その意味も含んだ感謝の言葉……だったのかもしれない。
◇ ◇ ◇
凡そ数秒……数分にも感じられたほどの黄金の光。それが収まると、悠元らは「水鏡の儀式」の場所―――奥宮に戻ってきていた。すると、ほのかが達也に抱き付いていて、佐那が幹比古に声を掛けていた。
「達也さん、大丈夫ですか!?」
「あ、ああ。平気だから、ほのかも落ち着いてくれ」
「幹比古、怪我はしていませんか?」
「う、うん。できれば離れてくれると助かるんだけど」
どうやら、ほのかと佐那、そして水波は鏡の先―――心象次元に入ることなく奥宮に残ったままとなり、慌てふためくほのかを佐那が宥めつつこちらの帰還を待ってくれていたようだ。そして、経過時間はというと……佐那の体感で1分ぐらいであったらしい。「霊水鏡」は儀式の役目を終えたのか、すっかり光が消えていた。
「あれだけのことしてたった1分って……夢だったって思いたいけど」
そう呟きつつエリカは「クラレント」を展開した。この武装で今までの出来事が夢ではないと現実を見せられる羽目となったのは言うまでもないが。すると、佐那が驚きの声を上げた。
「エリカ、天刃霊装を会得したのですか!?」
「あー、うん。裏技みたいなもんだから、悠元のようなものとは言い難いけど。コイツやミキもそうね」
「僕の名前は幹比古だ。にしても、あの光の奔流を消したのは達也なのかい?」
「事実としてはそうなるな。ただ……」
アルトリアの光の奔流を消したのは達也が「クロス・エクセリオン」を介して『
達也を皮切りに、周囲の人々の視線が悠元に注がれる。これには流石の悠元も苦笑を滲ませていた。達也らが天刃霊装を会得する切っ掛けを作ったのは紛れもなく自分自身なので否定など出来ないが。ちなみにだが、深雪は目を輝かせていた。
「それ以上は言わないでくれ。やったら出来たというのが正しいし……ん?」
すると、悠元は自分のポケットに何かが入っていることに気付くと、手を入れて取り出した。それはサイコロ状の結晶が2つ……しかも、この結晶から感じられる力が「アリス」と似ていることからして、
原作のこともあるのに、面倒事はこれ以上増えないでほしい……と内心で呟いた悠元であった。
◇ ◇ ◇
事態は無事解決を見た形となった。沓子のことについては暫く経過観察だが、世界の危機を救う羽目になるというファンタジー要素はこれっきりにしてほしいと思う。水奈子に事態の解決と「霊水鏡」を返却し、詳しい内容を全て話しておいた。ただ、2つの魔法結晶については四十九院家で扱い切れる範疇を超えているために神楽坂家というか悠元が預かることとなった。
「ねえ、悠元……」
「諦めろ。こうなった以上はどうにもならん」
幹比古の問いかけに対してぶっきらぼうな口調で答えた悠元。何が起きているのかというと、四十九院家の露天風呂に男女問わずメンバー全員がいるためだ。流石に女性は湯着なのだが、男子にしてみれば目の毒になってしまうようで、幹比古が落ち着かないのはそのためであった。流石に滑りやすい場所で目隠しはできないので、悠元に関しては気配の察知で移動する関係で瞼を閉じている。
発起人は沓子で、沓子が女性陣に色々吹き込んだ結果こうなってしまった。レオも女性陣には多少反応していたが、エリカが強引に引き離した形となった。達也はというと、ほのかが恥ずかしながらも背中を流していた。彼女の胸の大きさだと普通に当たってしまうのはお約束みたいなものだが。
「達観してるけど、何かあったのかい?」
「実家だと高度なCADの調整の関係で下着姿になるんだが、妹がな……相手を選べよと思うわ」
姉の佳奈と美嘉は下着姿(それでも勝負下着のような派手な奴が多かった)なのは百歩譲って許していたが、詩奈の場合は時折服の下に何も着ないで来て、オールキャストオフ状態で調整機のベッドに乗ることがあった。頼むからそういうことをする相手はちゃんと選んでくれと説得してようやく下着姿での計測に落ち着いた。
これで血が繋がってなかったらと思うと……思わずゾッとする出来事なのは間違いなかった。ある意味原作における達也の気持ちがわかるような気がした。
「それにしても、幹比古も天刃霊装を会得するとはな……」
「あまりおいそれとは使えないし、悠元みたいな正規の方法じゃないからね」
「正規の方法を使ったら、ある意味人間を辞めることになるがな」
悠元と幹比古の近くには、二人の関係者―――深雪と雫に姫梨、佐那と美月に沓子がいた。ガールズトークに花を咲かせており、邪魔をする気にはならなかった。岩陰に隠れる形でレオとエリカが何やら話し込んでいるが、今回は『聴覚強化』で聞くのは止めておくことにした。
天刃霊装を会得する正規の方法は本来長い時間(概算した結果は最低でも10年以上)を掛けなければならないため、
だが、達也らが会得した天刃霊装は守護霊を介することで発現に成功した。守護霊の大本となったパラサイトの潜在能力の高さは恐るべきものだろう。本来は「
尤も、自分の場合は「アリス」との契約前に七聖抜刀まで至っており、今回は彼女の力を想像上の能力の制御と処理を任せた形だ。
「一言だけ言えるのなら、もう少し穏便に過ごさせてほしいわ」
「それは同感かな」
とはいえ、力というものは多かれ少なかれ災いを呼び寄せてしまう。そもそも、達也という某掃除機メーカーも驚きなトラブル吸引力の高さと安定さを持つ原作主人公がいる以上、無縁などとは楽観視など出来ないだろう。
駆け足気味ですが、七聖抜刀編終了です。正直、ちょっとしたトラブル程度で片付けるエピソードのつもりが、自分の中で話が余計に膨らんだ結果です。またの名をノリと勢いで書いただけ(『ミスト・ディスパージョン』で吹き飛ぶ)
他作品要素も結構盛りましたが、特定の作品名は入れずにクロスオーバータグで通せると判断してタグは弄らない予定です(タグ入れすぎると検索妨害になりかねないと思ったためです)
次回よりダブルセブン編です。
原作と展開が変わってくる部分があるので、その都度後書きで補足説明を入れていきます。