エリカを皮切りにレオ、ほのか、雫、燈也、佐那、美月、幹比古、姫梨、そしてセリアが合流してきた。下校時に一緒になるのは珍しくないが、登校時に一緒になるのは久しぶりだ。特に雫は留学前の昨年末以来の話になる。
顔ぶれは同じでも、彼らが身に着けている制服は異なっている。美月と佐那、燈也のブレザーには達也と同じ八枚歯のギアを意匠化した刺繍―――魔法工学科のエンブレムがついていて、レオとエリカ、幹比古の胸には八枚花弁をかたどった一高の紋章のエンブレムがつけられている。
「幹比古、一科生の制服の着心地はどうだ?」
「からかわないでよ、達也。まあ、僕よりもレオやエリカのほうが着慣れてないだろうけど」
「それを言うなよ、幹比古。ま、昨年のトラブルもあったからな。そっちの立場になるって実感がどうにも慣れねえんだ」
「……不服だけど、あたしも同感ね。あれだけ優秀と声高に叫んでた連中と机を並べるって怖気が走りそうだわ」
達也の意地の悪い言葉に幹比古は苦笑しつつも満更ではなさそうな表情を見せていた。その上で幹比古は同じく一科生に転籍となったレオとエリカに話題を振ると、二人は揃って疲れたような表情を登校時から見せていた。
その理由はだれしも納得がいくものだった。昨年の入学式の翌日に一科生と二科生が揉めるトラブルが起きた(この場合は一科生側が起こしたと言うべきなのかもしれない)際、最前線に立っていた二人だからこそ「あんな連中と一緒くたにされたくない」という気持ちがあるのだろう。
「連中のプライドなんて紙切れみたいなものだがな。吹けば簡単に飛んでいくようなものだ……実力を見せれば嫌でも黙るだろうさ。そうでなければ単なる愚か者だが」
「そんなことを言えるのは悠元ぐらいかと思いますよ。複数工程を要する魔法で人間の限界速度を切るなんて人間業じゃありませんし」
昨年度―――初めての魔法の授業では、CADを使った全5工程の物体往復の魔法術式を1000ms以内で完成させるという課題を与えられた。周囲の目線が鬱陶しかったため、CADが耐えきれる限界の想子を流し込んだ。ただ、CADに内蔵されている術式の記述ではあまりにも遅すぎたため、CADに内蔵された起動式を介せずに「ライトニング・オーダー」で魔法式を展開して魔法を発動、その結果として94msで魔法を行使して見せた。
これにはクラスメイトのみならず教官まで度肝を抜いていた。
「少しやり過ぎたことは反省するが、一科生としての誇りがあるんなら二科生の数倍以上は努力しろって言いたい」
「あー……お兄ちゃん、それは流石に酷すぎるんじゃないかな?」
「そうか? 一科生は二科生と違って“教官がいる”というアドバンテージを貰ってるんだぞ? それで二科生に負けてるようなら努力が足りてない証拠だよ」
悠元の言葉にセリアが冷や汗を掻きつつも窘めたが、続けて放たれた言葉にセリアも納得せざるを得なかった。
自助努力が基本となる二科生と異なり、一科生は教官に見てもらえるというアドバンテージを得ている。それを生かし切れていないようでは、魔法科高校を卒業しても立派な魔法師には到底なれないだろう。
まあ、元二科生組となる達也らは一般的な二科生の範疇に収まらないことに加え、原作なら二科生のままだったレオとエリカは悠元の影響で一科生クラスの実力を得ることに成功した。美月もこれまで直接の戦闘はしていないが、自衛のための魔法習得は既にしている。
達也たちを一般的な二科生として語るつもりはないが、魔法理論などの勉学面に関しては彼ら自身の努力の結果だ。それを認められないようでは『己を律する』ことを唱えた魔法師が草葉の陰で泣き崩れるだろう。
「いつにも増して毒を吐くね。何かあったの?」
「強いて言うなら、要らぬ因縁をつけてきそうな輩の存在かな」
「そうなりますと……七草家のですか? それとも七宝家ですか?」
「主に後者の存在」
今年は七草、七宝、そして十文字という三つの師族の関係者(正確には水波を含めれば四つ)が入学してくる。先程の視線は悠元と深雪に向けられたため、殺気で追い返した。前者の場合は昨年度の新入生総代であることが要因だろうが、後者の場合は次席入学なので深雪に視線を向けるのはよほど強い理由でもなければ難しい。
となれば、真紀が達也と深雪は七草家―――この場合、真由美と深い関係にあるという嘘を琢磨に吹き込んだ可能性が高い。琢磨は七草と聞くと敵愾心に近い対抗心を抱くため、真紀の嘘を織り交ぜた言葉に気付かないのだろう。
「何か、七草先輩と関係が深いという風に教え込まれたような視線だった。尤も、俺は個人的な誼を持っていても七草家とは因縁持ちなんだが……ほのか、気を付けておけよ」
「え、私ですか?」
「まあ、ほのかの性格と胸ならお近づきになろうとする男子は多いと思う」
「雫!!」
真由美、香澄と泉美とは友好的な関係を築いているが、俺自身が対象となった十山家の誘拐未遂を七草家が見逃したこと自体忘れるはずなどない。一応手打ちになったとはいえ、七草家が隙あらば四葉の力を弱体しようと目論んでいることなど知っているし、周公瑾によって今現在行われているメディア工作を把握していることも掴んでいる。
話を戻すが、仮に自分が捕まっていたら三矢家だけでなく上泉、神楽坂の護人の両家に加え、あの場にいた関係者筋で千葉家や藤林家、果ては同じ十師族の四葉家だけでなく五輪家や一条家、終いには九島家まで波及していただろう。その状態になってしまえば、いくら十文字家や九島烈でも七草家を庇い切れなくなり、最悪のパターンとして御家の取り潰しよりも惨い結果になったかもしれない。
上泉家では、基本的に正月の時期は他の流派の人間を招き入れたりしない。恐らくだが、神楽坂の天文占術による連絡が上泉家に届けられ、その情報を基に千刃流や独立魔装大隊の人間を招いたのだろうと推測される。とはいえ、過剰戦力とも言える面子を揃えた時点で剛三の怒りも納得できる……孫が可愛く見える爺馬鹿なのは否定できない事実でもあるわけだが。
あれだけ痛い目を見た上で詩奈を唆した場合、元継以下五人の兄弟姉妹を中心として国防軍の連中を叩きのめすことは既に決定事項である。尤も、お姫様を助ける王子様の役割は侍郎に担ってもらう腹積もりだ。
「今年度から俺は部活連の副会頭なので頻繁に顔を出せるわけじゃないからな。てなわけで達也、そっちのフォローは任せた」
「……分かった」
今年度からは達也が風紀委員から生徒会副会長となり、悠元は部活連副会頭となることがあずさ、花音、服部の三者で決められた。更には雫が部活連推薦枠で、幹比古が生徒会推薦枠で風紀委員に選ばれた。
そこに含まれた意図として、昨年行われた生徒会長選挙の結果からすれば、このまま生徒会に二人を置けば学校内で対立派閥が出来る。かつての傷害沙汰となった生徒会長選挙を危惧したのだろう。尤も、悠元と深雪にそんな派閥意識などないわけだが、服部は克人からの助言を受けて生徒会から悠元を引き抜いた。
そうなると、今まで深雪のフォローをしていた悠元の代わりを達也が担わなければならない。次善策として、あずさが悠元のIDカードによる認証システムの登録は外さずにそのままとすることで決着を見た。つまるところ、部活連副会頭兼生徒会の協力員的なポジションに収まった形だ。
なお、生徒会の臨時役員をしていたセリアはそのまま生徒会書記となり、レオとエリカは副会頭補佐役として悠元が抜擢した。元々トップで決めていたことを本人の事前承諾なしで決めたことなので、多少の無茶は押し通させた。服部も元二科生である二人を入れるという意味は昨年摩利が言っていた台詞にも繋がるため、渋々認めることとなった。
その際はレオとエリカが嫌そうな表情を表向き見せつつも内心では嫌がっていないことに気付いていたが、黙っておくこととした。なお、補佐役の推薦人は燈也も関わっていたりする。
◇ ◇ ◇
魔法工学科の教室はE組なため、昨年度はよくE組に顔を出していた悠元からすればそこまでの苦労を感じはしなかった。クラス分けは悠元と深雪、姫梨に雫とほのかがA組となり、セリアと幹比古、レオとエリカがB組となった。昨年度まで二科生だった側のレオやエリカからすれば、周囲の視線を鬱陶しく感じるのも無理はなかった。二人が一緒のクラスという事実を嫌がるよりもそっちに意識が向くのは仕方のないことだ。
「あたしらは客寄せパンダじゃないって言うのに……」
「物珍しさには誰だって目を向けてしまうだろう」
「そりゃそうだけどよ……」
五十音順の関係で悠元と雫の席が隣同士となるため、その場所を起点として人が集まるのは無理からぬことだ。エリカの言葉に悠元が窘めるが、レオは納得がいかなそうな口調で呟いた。あまり前例のない二科生から一科生への転籍だが、学年末試験では二科生ながら上位に食い込んだ三人に注目が集まってしまうのは無理もないだろう。特にエリカは千葉家の人間としての評価を上げる形となっただけにだ。
ちなみに、1年3学期の学年末試験(魔法実技・魔法理論の合計点)の結果はこうなった。
1位 1-A 神楽坂悠元
2位 1-A 司波深雪
3位 1-A エクセリア=クドウ=シールズ
4位 1-A 六塚燈也
5位 1-A 伊勢姫梨
6位 1-A 光井ほのか
7位 1-E 吉田幹比古
8位 1-E 西城レオンハルト
9位 1-A アンジェリーナ=クドウ=シールズ
11位 1-E 柴田美月
12位 1-E 千葉エリカ
100位 1-E 司波達也
留学の関係で雫はいないが、友人グループで固まった形だ。なお、順位自体はこうなっているが、合計点数の差は上位12名で比較すると十数点差のレベルになっている。リーナとエリカの順位が思ったよりも低いのは、魔法理論の筆記テストで成績が振るわなかったせいである。達也が2回連続で100位を取ったことで「本当に狙ってやってるのでは?」と疑われて当人が溜息を吐きたそうにしていた。
「にしても、美月はともかくとして燈也と佐那が魔工科に行くなんてね」
「燈也は元々魔工技師志望のようだし、佐那も興味があったと言っていたからな」
エリカは一科生の優秀な生徒が魔工科に転籍する、という事実に驚きを見せていた。それが自身の友人から出たとなれば尚更だろう。だが、魔法工学を専門で学べるとなればその機会を逃せないと考えるのはごく自然の流れとも言える。
何も魔法科高校に入ったからと言って、その全てが実戦可能な魔法師となるべく進学するわけではない。魔法大学と防衛大学校から国防軍関連に進んだ割合は昨年度の卒業生で合算すると約55パーセント。一部の連中はこぞって軍との癒着を煽りたがるが、魔法と軍事の結びつきが強いのは現代魔法の出発点が「核兵器の抑止」にあるためだ。
そのことを忘れて人権だ何だと言うのはそれこそお門違いの話になってしまうし、魔法大学も魔法科高校も国策機関の学校であり、魔法科高校の入学志願は余程の事情がない限り本人の意思に基づいた選択だ。その証拠として、古式魔法使いの人間が魔法科高校に必ずしも通っているわけでないことは佐那の存在で証明済みだ。
「まあ、達也からしたら見知った顔がいるのは嬉しいと思うけれど……深雪さんとしてはどう思っているんだい?」
「そうですね……お兄様は然程気にしませんでしょうが、美月や佐那、燈也君がいることは決して悪くないと思っています」
魔法科高校に入ったことは達也にとっても決して悪くなかった、と深雪は幹比古の問いかけにハッキリと答えた。すると予鈴が鳴り響いたので、各々のクラスや席に移動するのであった。
◇ ◇ ◇
一時限目は履修登録だったが、二時限目からは通常のカリキュラムによる授業が開始された。一般的な高等教育よりも過密な魔法科高校のカリキュラムを考えれば、登校初日からの授業は想定していた。
魔法工学科の教官は国立魔法大学から派遣されたジェニファー・スミス先生―――18年前に帰化したUSNA出身の女性教員で、悠元が魔法大学に在学している佳奈や美嘉に聞いたところ、彼女らが在籍している研究室の担当副教官と聞き及んだ。
偶々ジェニファーと廊下で出会った際、どうやら佳奈や美嘉から話を聞き及んでいたようで、興味津々といった表情を向けられたことには苦笑しか出てこなかった。その時に深雪と雫が不機嫌そうな表情を見え隠れさせていたのは言うまでもないが。
時間は昼休み、悠元は生徒会室に来ていた。
2096年度第一高校新体制の顔合わせといえば聞こえはいいが、本来ならいてもいいはずの部活連会頭こと
その原因は服部と達也の確執……というか、服部が一方的に達也を認められない癇癪を起こしているだけで、そこには前会長である真由美も大きく影響している。好きならばハッキリと気持ちを伝えるべきなのだろうが、魔法使いの家柄という問題が服部を足踏みさせる原因であった。
悠元からしたらしょうもないレベルの事情の為、副会頭である彼に白羽の矢が立つのは自然の流れとも言えよう。
生徒会長のあずさを筆頭に、五十里、花音、ほのか、雫、セリア、達也、深雪、幹比古、悠元の10人で昼食会となった。流石に大人数となったが、以前リーナとセリアがいた時に会議用テーブルを新調することとなり、そのお陰で10人でも余裕をもって座ることが出来ていた。そんな余裕があっても花音が五十里に引っ付くような形で座っている。ほのかも出来ればそうしたいが、深雪や雫、それにセリアが悠元と適切な距離を取っているためか踏ん切りがつかない様子であった。
昼食自体は和やかに進み、食後のティータイムは3H-P94もといピクシーによって各々の好みに合わせてコーヒーカップやティーカップが配られる。ピクシーは達也が管理者権限および所有者権限を有しているためと、ピクシー本人の“希望”によって今日から
ランチタイムも最初の内は新設された魔法工学科の話題が中心だったが、昼休み半ばに差し掛かると間近に控えた入学式の話題に移っていた。
「今日の放課後もリハーサルなんですか?」
「いや、今日はリハーサルというより打ち合わせだな。答辞のリハーサルは春休み中と式直前の2回だけだよ。それも段取りの練習がメインで、実際に読み上げたりはしないが……尤も、昨年の場合は空気を読まない大人たちの余計な都合で深雪にほぼぶっつけ本番を任せる形となったわけだが」
そう切り出したのは幹比古であった。だが、それには昨年の新入生総代である悠元が答えた。
彼の文言の中には防衛大学校のデモンストレーション戦闘を遠回しに言い含めており、これには周囲の人間が冷や汗を流す羽目となった。
「悠元、毒舌が漏れてる」
「分かっちゃいるけど事実だからな。深雪には本当にすまないと思ってる」
「いえ、悠元さんが悪い訳ではないというのは理解していますから」
「悠元君も大概だけど、ぶっつけ本番をこなした司波さんも凄いわね」
雫と悠元、深雪のやり取りを聞いて感心するように呟いたのは花音であった。普通ならどこかしらで言葉を噛んだとしても不思議ではない、と言いたげなニュアンスを含んでいたことに気付いたのは、花音の言葉を聞いて机に突っ伏しているあずさの姿が目に入ったからだ。
「いいですよ、どうせ私なんて酷かったですよ……」
「……何かあったんですか?」
「あー、本人の名誉の為にコメントは差し控えたいんだけど、いいかな?」
一昨年の新入生総代があずさだったのは知っている。恐らく、新入生の答辞で緊張して噛みまくったのだろうと察しがついたので、生徒会長の名誉の為にこれ以上の追及は止めてほしい、という五十里の提案を素直に受け入れた。花音は自分の発言が失言も含んでいたことに気付いてあずさを懸命にフォローしていた。近くに五十里がいるので更に墓穴を掘ることはないと思いたい。
「ま、新入生代表というのはどうしても緊張してしまいますからね。昨年度の答辞をしっかり読み上げた人間がおかしいというわけでもないですが」
「もう、悠元さん。私だっていきなり答辞の代理に抜擢されて緊張していたのですよ」
悠元の隣に座る深雪が、彼の膝に両手を重ねる形で置いて悠元の顔を覗き込むような形で近寄ってきたので、悠元は深雪の頭をポンポンと軽く撫でる様な仕草をすると、周りの目があるということを目線で訴えかける。それに気付いた深雪は頬を赤くしつつ自分の席に座りなおしたが、これには花音やセリアがニヤついた表情を浮かべていた。
原作だと二科生のままだったレオとエリカが一科生となるため、クラス構成もある程度は変化しています。ただ、二人からすれば昨年のこともあるので……幸いなのは同じクラスだった幹比古がいることぐらい。
新しく来た教官と主人公の姉らが繋がりを持つ点も追加しています。真由美と克人、亜実や摩利が進学したので相対的に出番は増える予定。
思い返すために原作12巻を繰り返し読んでいますが、七草という名前を聞いただけで条件反射的に怒りを覚えるなんて、お前は七草に親でも殺されたのか、とツッコミ入れたくなりました。
ちなみにですが、主人公によって三矢家の十師族としての格が変化したため、とある部分の会話の内容も変化します。