魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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名は其方に、実は此方に

 4月17日、午後3時。

 三矢家と四葉家、そして神楽坂家の連名による臨時師族会議が開催されようとしていた。各当主がオンラインによる参加だが、発起人となった神楽坂家現当主こと神楽坂(かぐらざか)千姫(ちひろ)は横浜の日本魔法協会支部から参加していた。流石に横浜で単衣は身に付けられないためにレディスーツを身に纏っているが、着こなしだけでなく彼女自身から発せられるオーラも相まって、やり手の女社長のような雰囲気を纏わせていた。

 各当主のほとんどが真剣な面持ちを浮かべている中、参加者の中で年長者が議長役として音頭を取るという不文律で本来ならば九島(くどう)家当主こと九島(くどう)真言(まこと)が声を発するべきなのだが、この場には十師族ではないにせよ更に年上の存在がいるために躊躇っていた。それを察してしまったのか、千姫が端を発するように呟き始めた。

 

「まずは急な申し出にも拘らず、各々貴重な時間を取っていただいたことには感謝しておる。元々の発起人は息子であり次期当主の悠元じゃが、事のあらましは全て聞いておる。さて、七草。此度のことについて詳細を尋ねたい。隠し事は一切許さぬから、そのつもりでな?」

『その辺りは重々承知しております。書面では既にお送りいたしましたが、この場をもって説明させていただきます。反魔法主義―――いえ、この場合は人間主義と述べた方が正確でしょう。その主義を掲げる彼らによって魔法師を否定する論調が活発化しており、昨年の暮れ辺りからUSNAで起きていた魔法師狩りと呼ばれる魔法師排除運動の影響は否定できません』

 

 千姫の言葉を受ける形で弘一が昨今の反魔法主義―――正確には人間主義者による魔法師を否定する論調がこの国で活発化し始めたことから話し始めた。すると、九州地方を守護・監視している八代(やつしろ)家の当主こと八代(やつしろ)雷蔵(らいぞう)、東海・中部地方を守護・監視している四葉(よつば)家当主こと四葉(よつば)真夜(まや)が付随する形で声を発した。

 

『そちらと直接関係があるかは不明ですが、博多や長崎、佐世保でも同じような現象はみられているようです』

『私どものほうでは名古屋でUSNAの人間主義者が動かれていたようです。善良な市民を装って世論を盛り上げるつもりのようでしたが、対処は迅速に行いましたので関東ほどの小火にはなっておりません』

『九州や名古屋でもですか。それは初耳でした』

 

 対馬―――ひいては大亜連合にほど近い博多は無論の事、東シナ海を挟んで大陸と向き合っている長崎と佐世保での動きは八代家も監視体制を強めていた。そして、思わぬ形で四葉家からも人間主義者の情報が出たことも各当主が関心を寄せる形となった。

 東のみならず西でも似たような動きがあることに弘一は少し驚くようなそぶりを見せつつ説明を続けた。

 

『話を戻しますが、この運動を一度は……いえ、一時でも収束させる必要があります。そしてこの非論理的な論調を抑え込むとなれば、方法は二つ。一つは言論弾圧ですが、これは言うべくもないでしょう。そして二つ目は……論調そのものを燃え尽きさせること』

 

 弘一の前者の方法は完全に論外、ということは各当主も納得していた。ここで疑問を呈する形で三矢(みつや)家当主である三矢(みつや)(げん)が弘一に問い質す様な口調で声を発した。

 

『七草殿。そのやり方はただ人間主義者を増長させるだけではないのか? マスコミを煽り、反魔法主義の論調を加速させるだけのようにしか思えないのだが、その辺については如何なされるおつもりだ?』

『ええ、三矢殿のご指摘の通りです。私もその懸念を第一に考えた上で、対策は取っておりました』

 

 魔法という力が権力の一端になってしまっているため、十師族自体政治の世界と距離をある程度置いていることもあってか、弘一の説明では納得しかねる様相を見せた当主もいた。

 無理もないな、と千姫は内心で独り言ちた上で弘一に問いかけた。

 

「あまり饒舌に語るのは敵を作りかねぬぞ、と釘を刺したいが、今は置いておこうかの。して、七草よ。そこまではいいとしてその後はどうするつもりだったのじゃ? よもや……息子が危惧していた“かの者”とコンタクトを取るつもりだったのであろう?」

『……彼のその後の提案がなければ、そうしていた可能性は極めて高かったでしょう』

 

 分断するまでは良かった。だが、その世論を縮小させるのではなく完全に沈黙させるまでのプロセスを弘一が考えていないはずなどない事は千姫も見抜いていた。とはいえ、七草家だけではそれに至る道筋など到底不可能という事実は千姫の計算でも覆せなかった。

 千姫の冷ややかな視線と共に放たれた鋭い指摘に対し、弘一は嘘など言えないと覚悟した上で正直に吐露した。これには北陸・山陰地方を守護・監視している一条(いちじょう)家当主、一条(いちじょう)剛毅(ごうき)が千姫に尋ねた。

 

『神楽坂殿。“かの者”とは一体何者なのですか? 差し支えなければ教えていただきたい。もしかすれば、今後の十師族の敵とも成りうるかもしれませぬので』

「……まあ、よいじゃろう。義兄上(あにうえ)からもそろそろ話すべきである頃合いだと伺っておるからのう。とりわけ、その者の存在は四葉と七草にとっては無視できぬ因縁の相手絡みとも言えよう」

 

 四葉と七草にとって無視できない因縁の相手―――その言葉で十師族の全当主が一体何を指しているのかなど、『当事者』である真夜と弘一にも理解したような表情をしているのを見やった上で千姫は手に持った扇子を広げ、それで仰ぎつつ話し始めた。

 

「お主等の世代―――ここにおる者だと一条に六塚、八代は先代から聞いておるかもしれぬが、32年前の四葉による崑崙方院(こんろんほういん)を含めた大漢(ダーハン)への復讐劇……その生き残りの弟子が首謀者の一人よ。しかも、驚くでないぞ? そやつは昨年の春から今年の冬にかけて起きていた事件すべてに関わっておる。南盾島の件も含めてな」

『な、何と……!?』

「こちらの調べでは大亜連合の潜水艦が小笠原諸島方面にいたことも確認しておる……国防海軍の怠慢のせいで妾もここ最近は忙殺されてしまったわ」

 

 パラサイト事件でUSNAは日本に対する警戒を強められたため、本来なら軍事的刺激を避けるためにスターズ自体が出張るようなことは愚策でしかない。だが、当該海域でUSNA軍が大亜連合の潜水艦を沈めたことは確認しており、スターズのメンバーが南盾島に来ていたことはリーナの絡みで無論把握している。

 何故大亜連合の潜水艦があのような場所にいたのか……そこから調べた結果、スターズを動かすように仕向けたのが顧傑と周公瑾によるものだとすぐに判明した形だ。

 千姫の述べた事実には四国地方を監視する五輪(いつわ)家当主こと五輪(いつわ)勇海(いさみ)が思わず反応したほどであった。

 

「そやつの足取りは掴み切れておらぬが、かの師と思しき黒幕の名は判明した。名はジード・ヘイグ。顧傑とも名乗っており、崑崙方院の生き残り。USNAで噂されておる『七賢人』の一人ということじゃ……かくいう妾もかつて『七賢人』の一人であったが、そやつも含めた他の六人の賢人とは面識を持たぬ」

『……その「七賢人」とは、いったいどういうものなのですか?』

「選定条件は知らぬが、どこかの物好きから一方的に『賢者(セイジ)』などと勝手に選定されただけよ。選んだ輩は姿も見せずに変声機まで使う徹底ぶりを見て、傍迷惑にもほどがあると言って称号を突き返してやったがの」

 

 周公瑾の足取り自体は把握しているが、下手に監視を強めれば地下へ潜伏されかねないためにあえて泳がせているような状況だ。尤も、千姫が後半で述べた事実が衝撃的だったようで、各当主の関心もそちらに向けることに成功した。

 阪神・中国地方を監視・守護している二木(ふたつぎ)家当主、二木(ふたつぎ)舞衣(まい)からの質問に対して千姫はやや気怠そうな雰囲気を纏わせながら答えたが、『七賢人』の実態が「エシェロンⅢ」のバックドアシステムである「フリズスキャルヴ」のオペレーターという事実は、下手すれば二国間の国際問題へと発展しかねない案件なため、その辺を誤魔化した形とした。

 そして、千姫は「フリズスキャルヴ」の端末を四葉家が所持しているのを知っているからこそ、余計な追及が飛ばない様に仕向けたのだ。これには真夜も千姫に感謝するような視線を送っていた。

 

「七草よ。先日訪問したであろう息子が述べた契約も含めてじゃが、此度の反魔法主義への反攻(カウンター)(めい)は其方と十文字に譲るつもりじゃ」

『その提案に異存はありませんが、どのようなお考えなのかをお聞かせ願えませんか?』

「なに、単純な事じゃよ……子どもの喧嘩に対して、父親としてしっかりと責任を取れと言うておる。いくら七草が被害者とはいえ、七草(そちら)の今までの行いも一方から見れば『掻っ攫う』に等しいからの」

 

 魔法科高校で行う予定のデモンストレーション実験については、現時点で神楽坂家、上泉家、三矢家、そして四葉家だけが把握している状況だ。そして、千姫はその主導権を表向きだけでも七草家と十文字家が行っている(生徒会役員に両家の人間がいるため、名分は立つ)ということにすれば、七宝家の長男が功績を妬んで噛みついてくることも想定している。

 とはいえ、魔法科高校には千姫の身内である悠元に加え、真夜の身内である達也と深雪がいる。万が一七宝家の得意魔法である『ミリオン・エッジ』を使用したとしても安全確保も踏まえた対処は出来ると判断してのもの。

 現在の七宝家当主は七草家に対して堅実な評価を下している。だが、七宝家長男のように考える人間は、実際にはもっと多いかもしれないだろう。それこそ、彼自体が氷山の一角であっても何ら不思議ではない。

 つまるところ、千姫がそうした最大の理由は弘一に対して「自身も含めた七草家の過去と向き合え」と忠告した形だ。それが出来ないというのであれば、先日の契約もなかったことにするという意図も含めてのものに、弘一は真剣な表情を浮かべつつ目線を少し下に向けるような仕草を見せた。

 これにフォローするわけではなかったが、七草家と共に関東・伊豆半島を守護・監視している十文字(じゅうもんじ)家当主、十文字(じゅうもんじ)和樹(かずき)は千姫に尋ねた。

 

『神楽坂殿。確かに今年度は娘が新入生総代として入学しておりますが、とりわけ何かしたわけではありませぬ。精々独自で反魔法主義に関して調査をしていただけでしかありませぬが』

「なに、ご長男の誠実さは息子から聞いておるからの。それに少しばかり報いたかっただけじゃ。それと、蘇我大将とは個人的な誼もあってのこと。妾に感謝するならば其方の息子と娘にしてやると良かろう」

『分かりました。重ね重ね、感謝いたします』

「七草もよいな? 其方の(めい)は保障するが、その後の対応は妾も含めて護人の領分と心得よ。このことは総理や陛下、義兄上も了承されたことじゃ」

『……心得ました』

 

 恭しく頭を下げている弘一の様子を見て、これでは(わらわ)が一方的に悪者扱いではないか……とは口に出さなかったが、千姫は仰いでいた扇子をパチンっとわざとらしく閉じると、モニターに映る十師族の各当主に向けて扇子を突き出すように構えた。

 

「昨今の情勢は最早予断を許さぬ。過去の因縁を断つ意味でも、人間主義などという妄言に付き合う暇など我らには持ち合わせておらぬ。七草のメディア工作については黙認することといたそう……尤も、この様子では採決など必要なさそうじゃがな。のう、四葉殿に三矢殿?」

『四葉は今回の発起人ですので、異存はありません』

『右に同じく、三矢家も異存ありません』

 

 四葉と三矢を皮切りとして、一条(いちじょう)二木(ふたつぎ)五輪(いつわ)六塚(むつづか)、八代に九島(くどう)も了承し、当事者側となる七草と十文字も千姫の提案に了承して臨時師族会議は全会一致の形で終了したのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 神田議員とマスコミの視察に対するデモンストレーションの準備は順調に進んでいた。賛成はしたものの、いざ加重系魔法三大難問の一つに挑む実験となれば緊張はしていたが、ほぼ悠元による実験設備の調整によって魔法発動連携の練習自体もスムーズに行えていた。更には、佳奈と美嘉による助けもあって特に問題が起きることもなかった。

 そもそも、今回は論文コンペのように本格的な実験装置など必要なく、その仕組み自体を見せるだけのものだ。それに、必要な魔法やそれに伴う改変強度の計算は予め測定済みだ。

 

 そして4月24日、火曜日。本番前日の放課後、放射線実験室にて最終リハーサルが行われていた。耐圧性の高い透明な高強度耐熱樹脂で作られた球状の水槽に重水と軽水を同じ比率で混ぜ合わせた混合水を注水する。なお、今日は大学の都合で佳奈と美嘉がいないため、悠元が代わりに定率制御(フラットドライブ)フィルターの展開を担っている。

 

「じゃあ、はじめよう。深雪」

「はい」

 

 達也の合図で深雪が重力制御を発動する。続いて、香澄と泉美が第四態相転移(フォースフェイズシフト)を、ほのかと理璃がそれぞれガンマ線フィルターと中性子バリアを展開するのを申告のみならず自らの「眼」で確認しつつ、ステップに至ったところで深雪に再び呼びかける。

 

「焦点を固定しました」

「セリア」

「電磁的斥力中和、スタート」

 

 セリアの魔法を確認した上で悠元が定率制御フィルターを展開する。最後の安全弁が解除され、機器に陣取るメンバーからチェックの声が飛び交う。その声を聴きながら、達也は悠元に視線を向けていた。

 

(大気中の内外を隔離しつつ、他の魔法に一切干渉しない魔法……本人は精査が足りないと述べていたが、この魔法一つで世界の常識が間違いなく変わるだろうな)

 

 彼からすれば“まだまだ”なのだろうが、他の魔法の干渉力を受けない魔法など、現代魔法からすれば未知の領域となってしまう。これを内包した魔法を三矢家が秘術扱いにしているのも納得がいく話だ。しかも、この魔法によって核融合反応による温度上昇の影響を外部に漏らすことなく稼働できるという夢のような話が一気に現実を帯びてきた。

 とはいえ、今はまだ核融合発電への実用化にはまだクリアせねばならないハードルが存在するのも事実。反応によって光り輝く水槽に目を移しつつ、己の夢への第一歩を冷静に見据えていたのだった。

 

 最終リハーサルは無事に終了した。これが単なる実験であれば満足のいく結果が出たと終わるところだが、本番は明日に迫っている。悠元は一息吐いたところで達也に近付いた。

 

「達也、問題はなかったか?」

「寧ろ上出来すぎる結果とも言えるな。……あの魔法はいつ考えたんだ?」

「あれか……確か、爺さんの無茶ぶり世界紀行で思いついたんだよ」

 

 それは、剛三がエベレスト登山を登山装備と酸素ボンベなしで山越えするという無茶ぶりを聞いた際、長時間自身の周囲の大気を持続させる魔法で越えられないかという思い付きから転生特典がフル回転して出来上がった魔法。日本に帰ってきてその魔法をあれこれ実験した結果、魔法に干渉しない魔法という特性まで持っていることが判明した。

 そのデータを頑張って解析して、試行錯誤の末に一応完成したのが『定率制御フィルター』ということだ。とはいえ、この事実全ては言えないために剛三との旅行中に死に物狂いであれこれやってたら出来た、ということにした。広義的には間違っていないと思うので問題はないだろう。

 

「悠元の非常識さは祖父譲りという訳か」

「ああ。爺さんに掛かればモーセの海割りなんて児戯に等しくなるからな」

 

 そんな非常識な親友を持っていた自分らの祖父も大概だな、とは流石の達也も思わなかったが(そもそも生まれる前に亡くなっているので、先代当主からの話でしか知らない)、戸締りについてはあずさと五十里がやってくれるということなので、達也らは実験室を後にした。悠元はこっそり札を取り出して床に放ると、札はまるで床に溶け込むように消えた。

 達也と悠元の後に深雪とほのかにセリアが、その後に泉美と香澄、そして理璃と続く形で連鎖した。生徒会室に入ると留守番を頼まれていた雫が声を上げた。彼女は風紀委員であって生徒会役員ではないが、基本的に留守番を頼んでいたのだ。

 

「お疲れ様、雫」

「特になんもなかったよ」

「そうか……雫」

「分かってる」

 

 婚約者以前に仲の良い友人でもある悠元の目配せと言葉で雫は察すると、ほのかの鞄からラッピングされたプレゼントを取り出してほのかに持たせ、達也と向かい合う形で立たせた。ほのかの表情は今にも顔から火が出そうなぐらい真っ赤だったが、勇気を振り絞るようにギュッと目を瞑って、達也に小箱を差し出した。

 

「あ、あの、これ、達也さんの誕生日プレゼントです! 一生懸命選びましたので、どうか受け取ってください!」

「もちろん受け取らせてもらうよ」

 

 達也も自分のできる限りにおいての笑みを見せていた。受け取った瞬間にシャッター音を聞き取ったのでその方向に視線を向けると、端末を持っていた悠元と隣で微笑ましく見ている深雪の姿があった。

 

「一つ聞くが、何で撮ったんだ?」

「別に疚しい事じゃないよ。敢えて言うなら、達也の青春の一ページを彩るためのものだ」

「……せめてバラまくとかは止めてくれよ」

 

 気が付けば、プレゼント渡した側のほのかが悠元にさっきの写真データをせがんでいたため、この辺は深雪からのお願いもあるのだろう。これには流石の達也もデータを消せとは言えなかった。なので、せめて不特定多数への配布だけは勘弁してほしいと言うことしかできなかった。

 すると、雫が思い出したように声を上げた。

 

「そうだ、達也さん。今度の日曜日空いてる? 達也さんの誕生日パーティーをやりたいんだけど、いいかな?」

「時間は?」

「18時からにするつもり」

 

 『神将会』の絡みで雫もトーラス・シルバーのことを知っているため、FLT開発第三課で完全思考操作型CADの開発会議の予定を踏まえた上で時間設定をしてくれたのだろう。達也雫の提案を了承し、ここにはいない水波には後で確認すると伝えた。

 雫の用件が済んだのを見計らってセリアが達也に近付いてきた。彼女は徐にラッピングされた箱を達也に差し出した。

 

「達也、これはお姉ちゃんから達也にって。誕生日プレゼントだよ」

「リーナが? というか、誕生日の事など教えていなかったはずだが……まあいい。申し訳ないが、リーナに宜しくと伝えておいてくれ」

「了解」

(セリア先輩の姉って…)

(留学生で来ていたアンジェリーナ=シールズさんですね)

 

 恐らくは先日の事件でパーソナルデータを調べ上げたことから誕生日のことも気が付いたのだろう(明らかに軍事目的で調査した個人情報の私的利用だが、見なかったことにしておいた)。深雪から特にリーナが達也のことについて聞き出そうとはしていなかったので少し疑問に感じていた。ともあれ、プレゼントを貰ったことに関しては感謝しておいた。

 セリアがここで渡さなかったのは、パーティーの際に渡すということも察していたためか、達也も特に追及はしなかった。香澄は小声で呟き、それに対して泉美も小声で香澄に簡単な説明をした。

 

「そうそう、物騒なものが付いていないか確認はしてあるから」

「一応、後学の為に聞いておくが……何かあったのか?」

「以前、お祖父ちゃんからのプレゼントの中に盗聴器が仕込まれていてね。速攻で取り出して至近距離で黒板をひっかく音をリピート再生しまくったよ……お祖父ちゃん自身が仕込んだ訳じゃないのはすぐに分かったけど」

 

 恐らく悪い虫が寄り付かないかの意味も込めてのものだろうが、傍迷惑だと零したセリアの衝撃発言に、達也はセリアに対して何かしらのシンパシーを感じてしまうのだった。なお、セリアが名前を省いてお祖父ちゃんと呼ぶのは健に対してであり、もう片方の祖父である大統領については、名前を付けて祖父呼びをするか大統領閣下と呼ぶことしかない。

 尤も、彼女の発言で周囲の人々が冷や汗を流していたのは言うまでもない。

 




 本来であれば九島家当主が議長役として音頭を取るのですが、「九」の家と古式魔法使いの確執に加え、神楽坂家と九島家の関係もあって声を発するか躊躇ったため、千姫が止むなく進行を務める形となったというわけです。この辺は古都編でのネタ稼ぎとも言いますが。
 名実の分け方は、七草家のやったことに対してそのフォローを同地域の監視・守護を担う十文字家にも行ってもらうため、せめてもの功績を与えるためです。その引き合いとして蘇我大将の名を出したのは「理由付け」の意図も含まれています。
 あと、七草家を敵視する人間に燃料を投下する意図も含まれています。

 というか素朴な疑問ですが、いくら昨年の九校戦のことがあるとはいえ、魔法師排斥運動がこの後一時的に失速した後で国防軍の過激派が図に乗ったということは……また周公瑾の仕業か(全てがゴルゴムの仕業理論みたいなものですが、国防軍の基地へと逃げ込む伝手を持っている時点で怪しすぎるんですよね)

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