魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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現実を見ていない者たちの哀れさ

 神田議員と取り巻き記者はきっと、軍にそう教育されたからだとか、魔法師だからとか言わせたかったのは目に見えていた。だが、非常事態を除いて未成年を軍役へ強制徴用することを禁じている法がある以上、大半の国防軍の軍人はこの国の憲法に定められた“職業選択の自由”の権利を行使した上でその道を進んだに過ぎない。

 彼らにそうさせたとする理由はいくつか存在するだろうが、その根底に存在するものは間違いなくこの意思に他ならないと悠元は考えている。

 

「実に単純な事ですよ。国を護ろうとする心―――この場合は愛国心と申しましょうか。魔法の有無に関係なく、自身が生まれ育った国を守ろうとする心を強く持つ者たち。自己評価をするようで癪ではありますが、自分を含めた彼らが死力を尽くして奮闘したお陰で、この国は平和を保っているのです」

 

 それは、沖縄防衛戦における自分と達也もそうだが、佐渡では「クリムゾン・プリンス」をはじめとした一条家、横浜では自身を含めた『神将会』による働きで国外勢力を排除することに成功した。

 だが、その陰で死力を尽くして奮闘していた人々がいたからこその結果である。この国を本気で守ろうとする心がなければ、きっと成し得なかったことだろう。この国を売ろうなどという腐り切った心を持っている人間がいるのも事実ではあるが、彼らに比べれば愛国心を有している人間のほうが多いだろうと思う。

 

「魔法師は軍人としての適性が一般の人よりも高い事に加え、国を守りたいという意思の強さは卒業生の進路にも強く影響しています。昨年度の魔法大学の卒業生の約45パーセントが国防軍関係の進路に進んだのもその意思を物語っているでしょう」

「それは、世間の風潮や軍が強制しているからではないのですか?」

「軍関係を嫌って魔法技術者として進む人もおりますし、軍以外にも警察、消防や医療、災害救助などといった道に進む人もいます。今日の実験は自分たちが目指している未来の為に行ったことです」

 

 いくら軍関係に行ったからと言って、その全てが軍人魔法師になるわけではない。魔法技能が足りず一般兵士という形で軍に入る人もいれば、魔法技術を生かそうと後方支援などの非戦闘分野に進む人間もいる。

 警察の一例としては、エリカの兄である寿和や千刃流の門下生である稲垣が該当する。尤も、彼らの場合は特定の部署に配属されずに全国各地を飛び回る便利屋扱いだが。

 消防に関しては、難所での人命救助や救急救命の部分で被害を軽減する魔法の需要が大きいし、前世で言うところの自衛隊や海上保安庁が担っていた大規模災害などによる救助・救援を専門に行う部隊―――第三次大戦後に設立された『克災(こくさい)救難(きゅうなん)隊』に進む魔法師も少なくない。

 医療については、昨年秋に発表した魔法技術を用いた新型の医療技術に伴って、魔法大学からその方向に進む医療従事の魔法師も出始めている。

 

 その意味で師族二十八家や百家の当主らも軍人魔法師の軛から外れた存在と言えるだろう。彼らが本格的に軍と関われば、間違いなく国防の中心を担ってしまうだけの実力を有するだけに、独立魔装大隊などという十師族に頼らない実験部隊が出来たのも道理だろう。

 ただ、この国に存在する戦略級魔法のほぼ全てが十師族に深く関わっているという点からすれば、十師族なしにこの国の独立が保てなくなる現状を誰しもが深く受け止めなければならない……最悪、魔法師排斥を唱える連中が『売国奴』とレッテルを張られることにも成りかねないということも含めて。

 

「そもそもの話、魔法科高校は“魔法技能師”を育成するための高等教育機関であり、ここで得た経験と知識を以て社会にどう貢献してくかの判断は本人たちの意思に委ねられています。大体、パーセントの高さだけで比較すること自体おかしいのですよ」

「どういう意味ですか? 昨年度の第一高校卒業生の約65パーセントが魔法大学に進学しているではありませんか」

「魔法科高校は全国に九校存在しており、1学年当たりの定員数は1200人。第一高校はその内の2割にも届きませんし、第一高校から魔法大学への進学者は魔法科高校全体でみれば1割前後を占める程度です。そして一番重要な事ですが、昨年の魔法科高校卒業生と魔法大学卒業生を何故同列に扱えるのですか? そんな言い方はどちらの卒業生のみならず、在校生や教職員にも失礼極まりない言動です。即刻取り消していただきたい」

 

 魔法の有無に関わらず、高校と大学の役割ぐらい彼らとて分からないはずがない。彼らの言い分を鵜呑みにするとなると、まるで魔法科高校と魔法大学が同じ教育しか受けていない様な言い方にも捉えることが出来てしまう。これは生徒のみならず双方の教職員、ひいては魔法大学の学長ならびに魔法科高校の校長らに対する侮辱にも等しい。

 

「ですが、魔法大学から軍及び関係機関に進んだ卒業生は約45パーセントもいるではないですか!」

「……ならば、軍人魔法師として志望されたのは、その内訳のどれほどを占めているのかご存知の筈。無責任にもその全てなどと仰るわけではありませんよね?」

 

 魔法科高校に進むことが出来なくとも、特筆すべき実績を挙げて魔法大学に進んで軍関係に進んだ魔法技能保有者もいたりする。そもそも、初めから軍人を志すのならば防衛大学校に進学した方が早く、そこから溢れた受け皿として魔法大学に進学しているケースもあるのだ。

 彼らが主張したいのは、その45パーセント全てが軍人魔法師志望というシナリオだが、実際にはそこまで都合よく出来ていない。だからこそ、パーセントの高さだけをピックアップして国民の目を欺こうとする意識誘導を意図的に行っている。

 

 大体、魔法科高校の教職員人事を担っているのは魔法大学だし、中立派の百山校長が軍事色の強い教職員人事など絶対に受け入れないであろう。軍が強制しているというのであれば、それこそ廿楽やジェニファーのように大学から爪弾きに遭ったような人選など絶対にありえないのだ。

 もし軍事色を入れるとするならば、格好の的になるのは担当教官のいない二科生だろう。だが、そうなっていない事実を考慮するならば、彼らの論理は最初から破綻しているに等しい。どうせならば「見えない力が怖いから」と正直に吐露してくれればまだ対処しやすいだろうが、魔法の使用自体にも厳しい制限が掛かっている現状を彼らは理解しているのだろうか。

 

「……魔法を政府で管理すべきという声もありますが」

「必要ありません。既に十師族という秩序に置かれていることに加え、法体制の面ではライセンス制度や殺傷性ランク、魔法の使用制限や魔法監視システムなどといった体制や法律が既に存在しています。これ以上厳しくするというのなら……それこそ、税金で魔法師を養うことになりますよ」

「はっ!?」

 

 記者たちが何とか食い下がろうとするが、何も分かっちゃいない。

 魔法は確かに体系化された技術だが、それには行使する魔法師の存在が必要不可欠である。この前提が崩れない以上、魔法の管理は魔法師―――魔法因子保有者の管理と直結することになる。現在でも諸外国への渡航禁止を含めて厳しい管理を強いられている因子保有者を更に法で拘束するとなれば、その見返りとなる法の保護も手厚くせねばならない。

 

 仮に政府が魔法を管理することになれば、態々権威を捨てた十師族に最低でも“名目上の権威”を与えねばならなくなる。権威を与えずに政府が強制なんてしようものならば、魔法という返す刃をもって政府が滅びかねない。

 過去に四葉が起こした復讐劇なんてその最たる例で、数十人の魔法師で一つの国を滅ぼしたようなものだ。それが師族二十八家を筆頭にクーデターなんて起こされようなものなら、一日も掛からずにこの国は瞬く間に魔法師の支配する国家へと早変わりする。

 第一、十師族体制の目的は国家権力の横暴に対抗して魔法師の人権を守るという存在意義がある以上、政府による魔法管理など真っ向から対立しかねない話だ。

 

 権威という一つの前例を与えれば、少数の魔法師が大多数の非魔法師を支配するシステムになりかねない。だからこそ、それを防ぐために護人の存在があり、護人の二家が権威を捨てないことで、十師族以下の魔法使いの家へ権威が波及しない様に防ぐ役割も兼ねている。

 

 目に見えない力に怯えるという意味は理解できるし、彼らの言い分も理解できなくはない。

 だが、この世界において魔法師無き世界が実現できるとするならば、その時に待ち受けているのは核兵器による地球滅亡のカウントダウンか、宇宙に脱出した魔法師が“新たな人類”として自称し、非魔法師を“旧人類”と称して滅ぼす未来。

 現に、そういった思想を掲げて活動している魔法結社がUSNAにあることで、『そういった未来』もあるという可能性を秘めてしまっている……どこぞのロボットアニメかSFアニメの話かよ、と内心で吐き捨てたほどだ。そして、そんな世界に生まれ変わってしまったことで実感を得てしまった。

 

―――これが文字の羅列(しょうせつ)描写(マンガ)映像(アニメ)ではない『現実』であるのだと。

 

「……敢えて言わせていただきますが、先程からの貴方方の論理で語れば、軍人を志した非魔法師は全て物理的な殺戮兵器になると言っているようなものです。この国の未来ある若者に対してあまりにも無礼極まりない決めつけであり、そんな下らない思想など押し付けないでいただきたい。貴方方はもう少し世界の現実を知るべきだ」

 

 そもそも、人口の多数を占める非魔法師の代表である政府に魔法師が管理される関係性を果たして魔法師社会が許容できるのか、という問題にも繋がる。政府は国民の信を受けて代表となった国会議員の多数決による力関係によって形成される公的な権力だが、その権力如きで実行力の伴う魔法師社会を押さえつけられる訳がない。

 更に押さえつけるような真似をすれば、それこそ亡命という形で諸外国に魔法師が逃げる可能性だってある。そうなれば、この国の力が弱まることを歓迎する勢力の思う壺である。

 

 だったら、初めからある程度の影響力は仕方ないと割り切り、非魔法師の人々の利となる部分は守ってもらうように折衝する―――その役割を国会議員が中心となって担う。つまるところ、この世界の国会議員や官僚は“外れくじ”にほど近い立ち位置とも言えよう。その代わりに高い収入と豊かな生活を得られるのがメリットと割り切れるかどうかは……その道を目指した者たちのメンタルの強さに期待するほかない。

 

「いい加減にしろ!」

「そうだ、十師族とはいえ言っていいことと悪いことがあるだろう!」

 

 悠元の発言に対し、記者たちが「横暴だ」と言わんばかりに悠元を責め立てた。これは拙いと神田が声を発する前に、悠元は鋭い視線と共に冷え切った―――いや、この場合は『凍える』ような声質で言い放った。

 

「成程―――貴方方の本音は、魔法師をこの国の国民ではなく『兵器』だと断じ、故に人権など必要なし、と。軍から魔法師を解放して保護するなどという名分も、所詮は貴方方の都合の良い『戯言』であったということですか。魔法科高校と魔法大学の卒業生を同列に扱われる意味が良く理解できました……確かに『兵器』なら同列に扱っても何ら問題は生じないでしょうからね」

 

 神田は冷や汗を流していた。そして、それは取り巻きの記者たちにも同様であった。魔法師の人権保護を高らかに掲げるつもりが、逆に魔法師排斥主義を掲げている者という位置付けにされてしまった形だ。これが一番大事なことだが、ここにいる悠元は第一高校の校長代理としていることを彼らは頭の片隅に追いやってしまっていた。

 見かけに騙されて人の話をきちんと聞いていないからそうなる、と態々忠告してやる義理など持ち合わせていないため、彼らの言い訳を待つことなく悠元はきっぱりと言い放った。

 

「貴方方の発言と思想は、一言一句違うことなく三矢家当主も含めて十師族の各当主と日本魔法協会にお伝えさせていただくと共に、所属する報道機関に対して厳重な抗議を行わせていただきます。そして、お忘れでしょうが今日の私は第一高校の校長代理でもあります。百山校長が出張より戻られ次第、ここでのやり取りも全て過分なく報告させていただきます。無論、魔法科高校を付属学校としている国立魔法大学の学長にもですが」

 

 ここはハッキリと述べておくことでこちらが本気だという姿勢を見せることにする。彼らが素性を名乗らなくとも、どの報道機関のどの記者なのかまで既に把握している。尤も、抗議に対する回答文を作っている間にメディアの買収工作が一気に進むこととなるため、彼らの悠長な延命などさせるつもりもない。

 原作だと廿楽が自らのコネを駆使して対応していたが、今回は師族会議と日本魔法協会、第一高校に加えて魔法大学、更にその延長上で防衛大学校と政財界にも抗議声明を出してもらう。その止めという形で今上天皇による「おことば」を賜り、それを全国に生中継する―――これが第二段階目の大まかな内容だ。

 まるで谷底に落とした挙句ダイナマイトを投下するようなものだが、ここから更に民権党の解体工作の一環で主要野党と大陸系献金のリーク情報をこの国全体にばら撒きつつ、与党議員数人に国会で議論してもらう。こうなれば選挙を先延ばしにせざるを得なくなるだけでなく、野党の勢力はかなり力を落とすことになる。まあ、与党の連中にもそう言った献金を受け取っている議員がいるため、彼らも追及の的になってしまうので、この場合は「痛み分け」の恰好となるだろう。

 

「え、いや、それは……」

「何か不都合がおありですか? よもや、神田先生も彼らと同じお考えであると仰りますか?」

「と、とんでもありません! 今日の実験は非常に有意義なものでした。社会の繁栄に貢献される姿勢はとても素晴らしいものです」

「そうですか」

 

 ここで神田にまで『魔法師排斥主義者』というレッテルを本格的に貼られれば、党の中でも積極的に魔法師排斥を唱える議員と同じ派閥にいる人間と見られるだけでなく、最悪十師族を含めた魔法師社会全てを敵に回すこととなる。そうなれば、次の選挙で落選どころの話で済まなくなるのは目に見えている。

 神田が何とか苦し紛れに出た褒め言葉を言い終えたところで、悠元は懐からデバイスを取り出して彼らに見えるように掲げた。

 

「神田先生、先程の発言は今回の実験に関わったメンバーにお聞かせしても宜しいでしょうか? 彼らにとっても先生の言葉は励みとなるでしょうから」

「え、ええ……構いません。生徒たちの励みになるなら何よりです」

 

 神田が悠元に軽くお辞儀をして「見送りは不要です」と述べた上で去っていき、秘書やボディーガード、取り巻きの記者たちが続く形でその場から去っていく。ある程度距離が離れたところで悠元は『万華鏡(カレイドスコープ)』で神田の位置を捕捉し、『聴覚強化』を使って彼の耳に直接話しかけた。

 

「神田先生。ああ、すみません。この声は神田先生にしか聞こえませんので悪しからず……これから言うことは独り言だと思って聞いてください」

 

 急に立ち止まった神田の姿に周囲は動揺するが、神田は「先程の動揺がまだ出ている」となんとか宥め、入り口まで歩いていくのを確認した上で話し続けた。

 

「言い忘れていた大事なことを一つお伝えしておきますが、先程のことに関しては上泉家と神楽坂家にも報告させていただきます。私の母方の祖父は上泉剛三であり、祖父の義妹が神楽坂家当主であり、今の私の母親でもあります。民権党の古株の方なら、護人という言葉を聞けば教えていただけるかと思われます……独り言は以上です。お気を付けてお帰りくださいませ」

 

 『聴覚強化』は切ったが『カレイドスコープ』で神田の様子を見たところ、剛三の名を出した時点で冷や汗を流していた。三矢家と上泉家の結婚自体は身内でやっていたため、魔法師社会ならばともかく非魔法師社会において三矢家と上泉家の関係性はあまり表沙汰になっていない。

 剛三の持っている功績自体が魔法師としてのものに加えて武芸の達人としてのものもあり、それら全てが非常識すぎて“二十一世紀の魔王(ルー〇ル)”とか“ウェブ辞典のパロディサイト(ア〇サイクロペディア)を完全敗北させた男”などという呼び名もあるほどだ。そして、そんな人間に育てられたらどうなってしまうか……自分は転生というチートでそれに耐えきった特異点なので、一例にはできないだろう。というか、してほしくもない。

 

 そんなことを考えていると、神田議員やその取り巻きを乗せた黒塗りの乗用車が学校から去っていった。それを確認したところで『カレイドスコープ』を解除すると一息吐き、校舎へと歩を進めるのであった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 悠元は校舎に戻ったが、直接教室に戻らずに“あるもの”を回収するため、放射線実験室の前に来ていた。悠元が左手を翳すと、床から生えてくるような感じで1枚の札が出てきて悠元の手に収まった。

 札には精霊魔法のような術式ではなく、どちらかと言えば西洋魔術のような紋様が刻まれている。その札は使用者が指定した範囲にいる対象物の記憶情報を読み取るための記憶情報読込()()魔法『記憶時計(メモリー・クロック)』―――国防陸軍の仕事でレリックの保存機能を解析した際に転生特典で会得した魔法が刻まれている。

 横浜事変のきっかけの一つとも言えるレリックに元々入っている保存機能よりもバージョンアップしている代物なため、迂闊に出すわけにもいかなかった。なので、何重にも構築された隠蔽術式と暗号化記述によって厳重なセキュリティを構築している。

 

 悠元が想子を流し込むと、札の紋様が光り輝いて記憶された情報が悠元に流れ込む。神田議員とその関係者に加えて取り巻きの記者に関する情報となると膨大な量となるため、普通ならば脳にかなりの負荷がかかってしまう。軽々しく使えないのはこの情報の読み取りがあるためだが、悠元と達也ならば問題ないという現実がある。

 

(……こちらから諭したとはいえ、神田議員に沖縄防衛戦の情報を与えたのはやはり七草弘一か。借りだなんて思いたくはないが、ただで転ばない辺りは“狸”だよ、アンタは)

 

 しかも、当日の動きを見透かしたように「三矢悠元」で伝えていた辺りは流石である。面と向かって褒める気にはならないが。

 だが、いくら七草家と言えどもこの先のメディア関連の対処に関与することは許さない。それよりも、七草家にはどうしても対処してもらう事項が発生しうるのが目に見えているからだ。今日、琢磨については学校を休んでいた。表向きは家の用事ということらしいが、恐らく七宝家現当主が琢磨にそう言いつけて休ませたのだろう。だが、学校であれだけの実験をかなりの生徒が目撃している以上、そのメンバーの一角である香澄と泉美が目立たないはずがないからだ。

 すると、気配を感じて札を懐に仕舞い込んだところで実験室の扉が開き、五十里が姿を見せた。実験メンバーは丁度後片付けをしている時間帯だったので、彼がいても不思議ではなかった。

 

「お、悠元君。丁度いいところにいたね」

「? 何かありましたか?」

「実は、今回の記念撮影をするって時に一番の功労者を省くのは拙いと思ってね。丁度呼びに行こうと思ってたんだ」

「一番の功労者って……まあ、いいですよ」

 

 どうやら、五十里は一度実験室を出て連絡を取ろうとしていたようで、彼の右手には通信用デバイスが握られていた。こちらとしては姉達も巻き込んで利用した側だというのに、それを功労者扱いされるのは何だか面映ゆい感じがした。とはいえ、今回の実験に関して撮影許可を貰っている以上、甘んじてその代償を受けることにした。

 部屋の中では既に記念撮影の準備が整っており、何故かあずさが中央のあたりで正座して座っていた。

 

「……何で正座してるんですか?」

「えっと、その、佳奈さんと美嘉さんが……」

「生徒会長だから一番目立つところにいるべき」

「右に同じく」

 

 ここには三代前の生徒会長である佳奈、先々代生徒会長の美嘉もいる以上、あずさも逆らえなかったのだろう。それに、生徒会長が隅っこにいるのは第一高校の生徒会長としては問題があるということでこうなったそうだ。

 なお、佳奈と美嘉については、あずさが逃げ出さない様にその両端をがっちりと固めていた。カメラの場所から見て左側―――佳奈の隣にほのかと理璃が、その反対側はというと、美嘉の隣にセリアと香澄が座る形となる。

 佳奈とほのかの後ろには五十里と達也が立ったのだが、問題は美嘉とセリアの後方に悠元が立つわけだが、その両端を深雪と泉美が固めていた。こうなるだろうな、とは思いもしたが、一応この写真データもメディアに“取材データ”として送信することとなる。

 これが世の中に出た時の反応は色々な化学反応を起こすことになるだろう……いい意味でも、悪い意味でも、今回の一件を機として神楽坂悠元の名は国内外に認知される。

 そんなことを思いつつ、記念撮影自体は割と緩い雰囲気で終わったのだった。

 




 結構書き直して………気付いたら8000字オーバーになってました。

 世界設定に関わる部分は原作やメイジアン編からも引用していますが、現時点(2096年4月時点)で存在していると思しきものに限定しています。

 原作23巻にて克人が達也に語っていた内容の中で、魔法師を人類とは別の種族とみている部分がありましたが、これってそういう過激な思想を持っている組織ぐらいあるのでは……と思ってたら出てきたことにびっくりです。
 
 余談ですが、エリート意識を持ってる一科生がそのまま世の中に出たら、己よりも魔法技能が低い人間どころか非魔法師ですら見下しかねない様な気がするのは私だけでしょうか(アニメ1期を見直していて思ったこと)。

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