魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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風紀は何処に

 悠元と理璃の試合だが、結果を述べると悠元の『天壌流星群(ミーティアライト・フォール)』で理璃の『ファランクス』を破壊し、悠元の勝利が決まった。その後、風紀委員会本部を借りる形で悠元と理璃が向かい合った。

 

「まあ、十師族としては数ヶ月程度しか名乗っていなかったが……少なくとも言えることは一つかな」

「それは、なんですか?」

「中途半端は相手だけでなく、自分すら傷つける。それをよく理解しているからこそ、俺は武術でも魔法の訓練でも一切妥協しなかった。その結果としてこの強さに至ったという訳だよ」

 

 これは剛三の受け売りの部分も含んでいるが、ここまで強くなった自分でも一番感じたことだ。その上で、努力することを止めない人間こそが一番負けない人間になりうることも諭した。

 

「ありがとうございました、神楽坂先輩。少しずつではありますが、学んでいきたいと思います」

 

 理璃がお礼を言って生徒会室に戻っていくのを見届けた……までは良かったのだが、入れ替わりに雫が入ってきた。

 少し焦ったような表情に首を傾げそうになったが、開いている扉の方から冷気が漏れていることに気付き、視線を向けると頬を膨らませている深雪の姿があった。

 

「雫、どうした?……あー、事情は察した」

「委員長を呼んで戸締りするから、深雪をお願い」

「了解した」

 

 雫の横を通り過ぎ、深雪のもとに近寄ると……深雪は悠元の左腕に抱き着くような形で寄り添ってきた。

 これは大分ご機嫌斜めだな、と思いつつも深雪に話しかけた。

 

「あのですね、深雪さん。理璃ちゃんに恋愛感情は持ってないから」

「……分かってます。でも、悠元さんのジゴロは油断ならないんです」

 

 実を言うと、明日の達也の誕生日パーティーの準備で悠元は北山邸に泊まることとなっている。FLTでの会議に関しては『上条洸人』としての参加になるため、折りたたみ型のオンライン端末を持ち込む予定であった。

 すると、ここで助け舟を出したのは雫であった。

 

「なんだったら、深雪も泊まりに来る? もう少し増えても大丈夫だし」

「……お兄様を説得してきます」

 

 そう言って、深雪は悠元から離れると一目散に生徒会室へと向かった。そして、1分も経たない内に急いで戻ってきた。経過時間を考えると、達也が已む無く許可を出したことは明白であった。

 

「……根こそぎ取られそうな気しかしなくなってくるわ」

「それは冗談で言ってる?」

「気持ちの問題なんだよ。そこは察してほしい」

 

 昨年夏の神楽坂家での試しが行われた翌日、もしものことがあっては困るので事情を把握するために『天神の眼(オシリス・サイト)』で前日の夜のことを遡及した。

 すると、使われたお香の効力で大事になるのは避けられていたものの、見るに激しい光景が記憶に焼き付けられる羽目となった。前世で大学の友達から無理矢理渡されたそういう系統の映像作品よりも激しい光景であったのは間違いないだろう。

 ちなみにだが、深雪と雫、そしてその場にいた姫梨も完全に腰が抜けてしまっていたらしく、顔合わせが朝食後となったのもそのせいである。

 独占欲が自分が想定していたものよりも強いのでは……と自分を疑ってしまうほどだった。

 何はともあれ、深雪も加わったことで今後に関わる話がしやすくなったのはありがたいと思うことにしよう。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 達也からは「すまない…」とでも言いたげな表情を向けられたことに対して、これも自分がやってきたことの結果なので受け入れている、と返した。学校からある程度離れたところで北山家の迎えの車に乗り込み、三人は潮から歓迎される形となった。

 深雪の服関連は北山家へ行く途中で調達することになり、その際に試着室へ連れ込まれることとなった。いくら婚約者の前とはいえ、いくら試着室でも一応公衆の面前なので抑えてほしいと思う。店員を満面の笑顔で説得したことは褒めていいのか分からないが。

 夕食と入浴(雫と深雪に押し切られて一緒に入る羽目となった)を終え、雫の部屋でいつでも寝れる状態になったところで雫が尋ねた。

 

「それで、悠元。かなりの仕込みをしていたけれど、どういう意図があるの?」

 

 雫は、悠元が今回の一連の流れを仕込んだということを予め聞いていた。琢磨が七草家の人間に対して暴走する可能性もあったため、もしもの時の抑止力として雫に頼んでいた。深雪にも『神将会』に連なる人間として事情は説明している。

 

「なあ、雫に深雪。今の魔法師社会で確実に足りないのはなんだと思う?」

「足りないもの、ですか?」

「……情報の発信力かな」

「そう、それ」

 

 影響力こそ大きいが、この世界の人口比で行けば魔法師は間違いなく少数派(マイノリティ)の部類に属する。政治や経済、軍事といった部分に接しているが、魔法使いの性質に見られる秘密主義や内向的な性格もあって、何を考えているのか分からないと思われていることも少なくない。加えて、十師族を含めた師族二十八家の体制上、下手に舐めた態度は権力を持つ非魔法師が余計に付け上がらせることへと繋がる。

 ロンドンに本部を置く国際魔法協会であっても、全ての魔法師を常時管理できるシステムになっていない。魔法協会はあくまでも核兵器に対する抑止を目的としたものでしかないからだ。この国だと魔法師ライセンスに基づく協会所属の管理体制は法律として定められているが、そこに強制力というものは存在していない。日本魔法協会が強制力を行使できるのは、あくまでも核兵器(正確には放射能汚染の危険性が極めて高い兵器)に対する抑止という前提が無ければ成立しない。

 

 悠元が神楽坂家や自身のコネを使ってメディアを買収したのは、何も真紀や琢磨のように魔法を大道芸で使おうなどいう“浅ましい魂胆”で決めたことではない。

 民間企業であるメディアには必ずと言っていい程株主―――スポンサーが介在しており、時として彼らの意向が報道姿勢にも影響されることが多い。前世における与党と野党の報道の在り方からしても、それがかなり顕著であった。

 政治的な話は面倒なので脇に置いておくが、魔法に関する知識はスポーツや芸術のような身近なものでないため、積極的な情報発信ができる場所の確保は必要不可欠であった。本来ならばそれを師族会議や魔法協会が自らやるべきことなのだが、何につけても後出しジャンケンの有様には剛三や千姫も呆れるほどだった。

 

「『沈黙は金、雄弁は銀』という言葉もあるが、それが通じるのは時と場合によりけりだからな。とりわけ師族会議の上の連中はプライドの衝突で即決が出来やしない……十師族の現当主全員と面識があるからこそ言えることかもしれんが」

「……そうですね。そうなのかもしれません」

「別に全員がそうであるとは言ってないよ。ただ、七草と九島はその辺が顕著だからな」

 

 物は言いようだが、この世界における魔法は人間による“技術”である。無論、そういう風にしてしまったのは旧合衆国で核兵器を用いようとしたテロリストを抑えた警察官が超能力を有していたことからくるものだが。

 

「秘密主義も必要だが、必要な情報を迅速に伝えるためのツールは必要不可欠だ。だからこそ、母上に相談して大々的なメディア買収に踏み切った。尤も、母上自身も大亜連合の動きを把握していたようでな。もしもの時は十文字家を焚き付けて警察省や公安で強制捜査も辞さないつもりだったらしい」

 

 そもそも、得意分野の違いはあれどメディア対策のほぼすべてを七草家に任せていたのは、あまりにも危険すぎるものであった。

 その辺は師族会議における共闘や共謀の禁止に繋がるとはいえ、それをあまりにも厳格に運用した結果が原作の師族会議における九島家の十師族降格騒動に繋がった。ひいては光宣を必要以上に追い詰めた形なので、彼が捻くれた原因は十師族を含めた師族会議そのものと言っても過言ではないだろう。

 

「そんなにヤバかったの?」

「大亜連合のスパイというか、特殊工作部隊が入り込んでいたらしい。処理自体は『九頭龍』お抱えの特殊部隊が担当したらしいので、俺は関与してないんだがな」

 

 その特殊部隊なのだが、これにはちょっとしたカラクリが存在している。

 実は、先日のパラサイト事件でこの国に逃げ込んだ元々の宿主―――()USNA軍の軍人魔法師がその部隊に組み込まれているのだ。無論、悠元と相対したチャールズ・サリバン元軍曹も含まれている。彼らの強化措置については『天陽照覧』での蘇生の際に治療を施している。

 USNA政府は彼らを既に死亡扱いとしている(誰もパラサイトによる責任を取りたくないという思惑があった)ため、この国でひっそりと暮らす以外に生きる術を失った彼らを八雲が身元保証人として請け負っている。

 とはいえ、前線で戦う以外にも戦闘訓練の教導などと言った後方支援に回った人もそれなりにいて、八雲曰く「軍の規律が厳しすぎて、ここでの自由さはまるで『天国だ』と揃って言っていたよ」とのことらしい。

 

「……大亜連合は、また攻めてくると?」

「現状結ばれているのは休戦条約だからな。明らかに再侵攻の意図が見え見えだ……尤も、その時は大人しく終戦条約を結ぶか、或いは国が亡ぶかの二択を迫るつもりだ」

 

 ただ、後者の選択肢に関しては『どうにもならない時の最終手段』の意味合いが強い上に新ソ連の躍進を許しかねず、最悪東シナ海・対馬海峡・日本海を挟む形で新ソ連と国境を接しかねない危険性を孕んでいる。

 国防軍の対大亜連合強硬派は『灼熱と極光のハロウィン』で用いられた戦略級魔法を頼みの綱としているようだが、ここに関しては予め蘇我大将に話を通している。あくまでも戦略級魔法は“抑止”のために用いられるべきであり、積極的に使用すれば新ソ連だけでなく欧米方面の警戒や干渉を受けることになりかねない、と釘を刺している。

 ただ、原作からの流れは未だに続いているような節が見られる。おまけに国内外における魔法師排斥の活動をほぼ壊滅に近い状態にまで追い込んだことを『追い風』だと勘違いしているようだ。

 

「さて……雫さんや。風紀委員が風紀を乱すのは如何な事かと思うが?」

「学校外だからセーフ」

「アウトだよ!? てか、深雪さんも何故にそうなる!?」

「ダメ、ですか?」

「……」

 

 何が起きたのかを簡単に説明すると、雫が身につけていたものを全て脱ぎ、それに触発された深雪も同じ状態になっていた。

 色に溺れたくはない訳だが、これでも学校ではきちんとしてくれているからこそ、まだありがたいと思う……いや、その反動でこうなっているのならば、責任を取らねばならないということなのだろう。

 

「俺の責任なのは自覚してるが……覚悟しろよ?」

 

 この後、二人に対してどういう行動を取ったのかというと……二人の姿勢を受け入れたということで納得してほしい。その代償として、深雪と雫の腰が抜けて数時間は動けなくなっていたことも含めて。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 琢磨に関しては、一応の解決を見たということになる。拓巳からは謝罪を受ける形となったが、今回はあくまでも“学生間の問題”ということで元々のトラブル相手であった七草家とも決着させた。

 雫の部屋で一夜を過ごした悠元はいつもの時間に目が覚め、シャワーを浴びてから動きやすい恰好でのんびりしていたところ、上条洸人用のアカウントに着信が入る。レシーバーを付けて起動させると、画面には達也の姿があった。

 

「お、達也か。会議の時間はまだ先だと思うんだが、こんな朝早くにFLTにいるのか?」

『少しやることがあったからな。それで……深雪は?』

「流石にまだ寝てるよ……正直なところさ、こうなったのは想定の範疇を越えてた」

 

 原作での流れを知っていたからこそ、深雪に対する干渉はあくまでも兄妹間の問題にお節介を焼く程度で済ませていた。だが、初対面で惚れられていたことは正直想定の範疇を越えていたのだ。

 その遠因を作ったのは、言うまでもなく自分の祖父こと剛三である。

 

「いやさ、当時から深雪って結構大人びた思考をしてたじゃない? その辺はそういう教育のせいもあるだろうけど。それからすれば、当時の俺は結構ガキなところもあったし、深雪の興味を持たれるようなことをしてるつもりはなかったんだけどな」

『……悠元。それはギャグで言っているのか?』

「至って本気だっつーの」

 

 今更言うことじゃないかもしれないが、原作における達也と深雪の関係性は少なからず知っていたからこそ、あくまでも友人に徹するつもりでいた。しかも、元々問題であった二人の関係性がこの世界では解消しきっている点がある。もし自分が介入しなければ、達也と深雪が結ばれていた可能性はあっただろう。

 

「大体、二人と知り合ったのはうちの爺さんの差し金だしな……そういや今更な話だが、昨年春の服部会頭との模擬戦があった夜、何があったんだ?」

 

 深雪が自分の婚約者となってからは、達也からも深雪の恋愛感情のことは聞いていたが、沖縄からのことを考えるとあの夜に達也が椅子から転げ落ちる様な被害を受けることがない筈だ。

 達也は少し考えた後、ゆっくりと話し始めた。

 

『実はな、深雪から「私には異性の魅力がないのでしょうか?」と問い詰められてな。そこから俺が七草先輩や渡辺先輩と話していたところから勘違いしたようで……深雪から対人戦闘用の拘束術式の被害を受けた』

「……で、俺が空気を読んで出て行ったところを更に勘違いされたってオチか?」

『そうなるな』

 

 あの時の自分には異性に対する遠慮というものがあったため、深雪がそう勘違いしてもおかしくはないだろう。その上で達也は説明を続けた。

 

『いくら深雪に対する情動があるとはいえ、兄妹でのライン越えは倫理的にアウトだからな。俺としては、4月の時点でお前と深雪が付き合っているという噂が流れて、そこから約4ヶ月で「やっと付き合い始めたか」という感覚だった』

「九校戦で父に諭されたからな。恋人としてのデートとか、婚約者の顔合わせの前に一線を越えたのは……驚きを通り越して何も言えなかった」

『意外だな。お前だったら色々言いそうなものだが』

「……俺も健全な男子だった結果、暴走したってオチだ」

 

 昨年夏から複数人の女性と関係を持っている―――字面だけ見れば、スキャンダル待ったなしの有様だ。色に溺れたくないとは言ったものの、好きな相手に迫られて性欲を抑えきれる自信は……恋愛感情を自覚してから本当に歯止めがかかっていない。

 それでも、高校を中退させたくないという思いは強いし、女性陣も納得している話だ。跡継ぎに関しては……今考えることではないため、最後の一線だけはしっかりと弁えているし、公的な場所では控えるように言い含めている。

 

「その意味じゃ、達也も他人事じゃ済まないと思うぞ」

『……頼むから、ほのかやリーナを焚き付ける様な真似は慎んでくれ』

「俺は流石にしないし、下手な知識を入れたら何をしでかすか分からん」

 

 達也が名を挙げた二人はスタイル自体良いし、セリアから聞く限りではリーナの達也に対する恋愛感情は「かなりヤバい」とのことらしい。これで変に偏った性的な知識を身につけようものなら、本当に大変なこととなるだろう。ほのかの依存癖は言うまでもないが。

 悠元がそう断言したのは、達也に恋慕している他の人々が焦って大変なことをしでかさない保障もないからだ。なので、深雪と雫にも恋人としての常識の範疇で対応するように言い含めている。

 

「達也の場合、ほのかとリーナ、亜夜子ちゃんに市原先輩、平河先輩にその妹も含まれるな」

『……大人になったら、酒を酌み交わそう』

「だな……」

 

 達也には言わなかったが、今朝早くに千姫から送られたメールにて“七人目”が追加されることに決まった。だが、このことは来年正月まで隠すつもりらしい。その理由は彼女がかつて婚約を結んでいた相手―――他でもない泉美だからだ。七草家にも婚約の復活自体はまだ伝えていない。

 

 それはそれで、また一波乱起きそうな気がすると思わずにはいられなかったのだった。

 

 




 一応これで一区切りといったところです。あとは、理璃絡みの後日談的なものを挟んでダブルセブン編が終わりとなります。
 次々回からはスティープルチェース編ですが、今まであまり明るみにしてこなかった面子の実力が明かされます。誰なのかはネタバレになってしまうので言えませんが。
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