魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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適度な休息は大事

 悠元と琢磨の模擬戦。結果は琢磨が完敗を喫した形となった。

 琢磨としては一切手を抜くどころか、ルール上では使用すら難しかった[ミリオン・エッジ]の制限が解除された状態での敗北。しかも、相手は[ミリオン・エッジ]が解除された数多の紙片を操って琢磨を無力化せしめた。

 相手に譲歩してもらっておきながら敗北を喫した事実は琢磨にとって衝撃だったが、琢磨にとっての苦難は家に戻ってきてからが本番だった。

 

「琢磨さん、先生がお待ちです」

「……分かった」

 

 今日は真紀との会談はないため、そのまま帰宅した琢磨を父親の助手が待っていた。先日の時とは打って変わって真剣な表情を垣間見せていたせいか、琢磨は父親が何故呼び出したのかを自ずと察していた。とはいえ、今の自分に断る理由もないと判断して伝言を受け取り、書斎に足を向けた。

 琢磨は自分の父親の為人を良く知っている。琢磨が真紀と[新秩序(ニュー・オーダー)]の画策をしている部分についてもそれとなく掴んでいたが、琢磨に深く追及しなかったのは見逃されていた部分が大きかった、と今にしてそう思っていた。

 そして、琢磨が書斎に足を踏み入れた瞬間、この前とは明らかに違う雰囲気が書斎を満たしているのが肌で感じ取れ、これまで幾度となく父親と衝突してきた琢磨でさえも知らない師補十八家・七宝家当主こと七宝拓巳の姿がそこにあった。

 

「琢磨、掛けなさい」

 

 ここまでは先日の時と変わりないように見えるが、言葉の一つ一つに圧を感じて琢磨は言われるがまま応接ソファに腰を下ろした。それを見た上で拓巳が琢磨と向かい合う様な形でソファに座った。

 

「さて、琢磨。私が今“怒っている”というのは言わずとも感じているだろう。何故だと思う?」

「……それは」

 

 第一高校に国会議員が来訪するため、琢磨に学校を休むよう言い付かった時、琢磨は『いくら気にくわない相手だからと言って、後先考えずに喧嘩を売ったりしない。俺はそこまでガキじゃない』と拓巳に公言した。その日は拓巳の言い付け通り学校を休んだため、来訪した国会議員やメディアと揉めごとを起こすことは避けられた。

 だが、琢磨はその言いつけをあっさりと破った。自分が恨めしく思っている七草家の人間に対し、功績を立てたことが腹立たしくて挑発した。

 

「[恒星炉]実験の授業の折、お前は『たとえ気に食わない相手でも、後先考えずに喧嘩を売らない』と述べていた。だが、その翌日に七草家の人間に喧嘩を売るどころか、相手を攻撃する魔法まで使おうとして危うく停学どころか退学にまで及ぶ話だったそうではないか。何故そんな事態を引き起こした。答えろ、琢磨」

「それは……七草が……」

「私は、お前を自分の発言に責任を持てないような人間に育てた覚えはない。ここまで来て物の一つ覚えのようにしか“七草が悪い”としか言えないのか」

 

 父親との約束を軽んじただけでなく、その結果として琢磨自身の進退に関わる問題にまで発展したこと。そして、そのことを拓巳は悠元から事情を聞かされるまで知らなかったこと。

 なお、拓巳は悠元からの説明の中に“秘密事項”として『今回の一件は下手すると四葉家の怒りを買うところでした。このことは息子さんは無論のこと、誰にも話してはなりません』と聞き及んでいる。それがどういう事情なのかはさておくとしても、国家一つ潰した四葉家の怒りなど買おうものなら七宝家が潰されてもおかしくはないと判断し、拓巳は自らの内に秘めた。

 

「今回のお前に関する事情は全て神楽坂殿から聞いた。お前の我儘で今日模擬戦をすることもな……その様子からするに、完敗したのだろう?」

「……ああ。[ミリオン・エッジ]の使用制限がない状態での戦闘だったのに、副会頭に傷を付けるどころか[ミリオン・エッジ]の紙片をあっさりと制御していた」

 

 拓巳の説教に琢磨は降参の意を含めながら悔しさを滲ませていた。だが、今日の琢磨の相手は一条家の[クリムゾン・プリンス]すら完膚なきまでに打ち負かした人物。それも、七草家がかつていた第三研出身である三矢の血筋を引く魔法師。

 

「琢磨、彼と戦ってどう思った?」

「……何も通じなかった。策を弄しても、真正面から簡単に叩き潰され、覆され、蹂躙された。[クリムゾン・プリンス]が彼に勝てなかったのも分かる気がした」

 

 彼―――神楽坂悠元に油断や慢心は無い。相手の手段や方法に応じた魔法を適切に選択し、更には周囲への被害を考慮して広範囲に効果を及ぼす魔法は一切使用されなかった。その前の七草姉妹との模擬戦では周囲への被害を考えずに魔法を行使していた事実と比べると、魔法を巧く使う点において琢磨は悠元に完敗を喫した。

 

「そうか……神楽坂殿からは『頭を冷やさせるために一発殴ってしまいました』と謝罪されたが、私のほうから謝らせてもらった。これでお前が言い訳を続けるようならばこの場で一発殴っていた」

「あ、あはは……」

 

 琢磨の気性の粗さを暴力的に止めたことはともかく、拓巳としては父親の代わりに殴ってでも止めてくれたことに関して、悠元に七宝家として謝罪した。拓巳の冗談とは思えない言葉に対し、琢磨は苦笑を漏らすことしかできなかったのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 師族二十八家の本屋敷に訓練のためのスペースを設けている師族は、実は意外と少ない。何せ、十師族に限定しても三矢家が最大規模を誇っており、これ以上となると旧第四研を抱える四葉家ぐらいであろう。

 その次に大きい訓練スペースを有しているのは、首都防衛の要としての役割を目的とした魔法を有する十文字家―――地下の訓練場で、黒のシャツにスパッツを身に着けてバーベルを使ったトレーニングに勤しんでいた。

 

「ふう……」

 

 見た目こそ女性らしい体つきだが、理璃が蘇我の姓を名乗っていた時から筋力トレーニングは続けている。診断した医師からの説明では、理璃の筋肉は量ではなく異常なまでの密度を有しており、蓄積できる想子も桁外れに大きいとのことだった。

 理璃が一息を入れていると、スポーツドリンクが差し出されたことに気付いて理璃は視線を上に向けた。そこにはトレーニングウェア姿の克人がいた。

 

「あ、ありがとうございます、克人兄さん」

「気にするな。しかし……200キロのバーベルをベンチプレスするとはな」

 

 200キロのベンチプレスは、それこそ筋トレを長い事続けている高体重の男子でないと出来ないレベルだ。克人でもまだ手を出せていない領域をこなしている理璃は、間違いなく常人のカテゴライズから逸脱しているだろう。

 

「兄さんでも難しいのですか?」

「この間180キロが安定するようになったからな」

 

 体格が高校生離れしていても、まだまだ研鑽を積まねばならないと克人が強く感じたのは様々な要因があるが、その一端に理璃がいるのは間違いない。何せ、彼女の『ファランクス』の精度はまだ粗削りの部分があるが、それでも十文字家においては歴代最強となりうる可能性を秘めている。

 

「そういえば七草から聞いたが、この間神楽坂と模擬戦をしたそうだな?」

「はい。あんなあっさりと『ファランクス』を破られるだなんて……昨年、兄さんが破られた時とは異なる魔法でした」

「……そうか」

 

 悠元の元実家である三矢家は『多種類多重魔法制御』を得意とし、十文字家の『ファランクス』にもその技術が使われている。次々とあらゆる魔法を生み出している悠元は、間違いなくこの国において最強の名を冠しても不思議ではないだろう。

 

「しかも、『ファランクス』の亜種魔法まで披露していましたから」

「何? 三矢の人間もやろうと思えばできなくもないだろうが……本当か?」

「ええ」

 

 悠元と理璃の模擬戦は、何も瞬殺で終わらせたわけではない。理璃は『ファランクス』の多重展開で悠元を吹き飛ばそうと目論んだ。だが、悠元は何と多重障壁をぶつけ合って理璃の『ファランクス』を破壊したのだ。

 悠元が編み出した魔法は、対抗魔法用の『キャスト・サイレント』を組み込んだ想子障壁・情報強化・領域干渉に加えて、定率制御(フラットドライブ)フィルターの大本となった零加速結界障壁(ゼロ・アクセラレーション・ウォール)が含まれた多重結界障壁魔法『ミラーフォース』。

 

「尤も、流石に魔法の詳細を尋ねるのはタブーですから、詳しくは聞きませんでした。その代わり、私の『ファランクス』に関してアドバイスをいくつか貰いました」

「成程。理璃は、神楽坂をどう感じた?」

 

 克人からすれば、昨年度の新入生総代にして元十師族の人間。九校戦では三高の『クリムゾン・プリンス』を完封し、横浜事変では古式魔法で侵攻してきた敵兵を難なく焼き尽くした。その実力を目の当たりにしてきたからこそ、同じように実力を肌で感じた理璃に尋ねた。

 

「先輩は、間違いなく十師族直系の中で最強に相応しい実力を兼ね備えています。私との戦闘もそうでしたが、七宝君との戦闘では相手の魔法を利用して追い詰めるという手法を披露していました。正直、私でも難しいことを難なくこなした先輩を同じ魔法師として尊敬します」

 

 恋愛感情としてのものというよりは、同じ魔法師としての尊敬の念に近い。それを口に出した理璃に対して、克人は何も言わずに少し考えた後、自身のトレーニングへと戻っていったのだった。それを見た理璃は克人が何を考えたのか……それを何となく察して微笑んだのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 横浜・中華街の一角にある中華料理店。その奥にある薄暗い部屋で、モニターを見つめる周公瑾は神妙な表情を浮かべていた。モニターには魔法師排斥のメディア工作の進捗状況がデータで表示されているが、『恒星炉』実験以降は一気に下降した挙句、主だった魔法師排斥寄りのメディアが軒並み買収によって方針転換を余儀なくされた。

 その結果、魔法師排斥の流れは完全に下火へとなってしまっていた。

 

「神坂グループ―――いえ、神楽坂家ですか。よもや、ここまで動いて来るとは……」

 

 国内のみならず国外の主要メディアまでも買収し、その総額は50兆円超―――国家予算クラスの金額を投じて人間主義の勢いを大幅に削いだ。更には、メディア内部にいた大亜連合の特殊工作部隊まで排除した。周に対して、師である顧傑だけでなく大亜連合側からの問い合わせも含めてかなりの数となっており、いくら裏工作に長けている彼でも疲労の色は隠せなかった。

 

「政治や経済だけでなく、メディアの力学や性質までも熟知している。これが『護人』の一角を担う彼らの……もしや、彼の仕業なのでしょうか?」

 

 周の予測では、神楽坂家が何らかの手を打ってくることは予測していたが、ここまで大規模な手を打ってくることは想定を超えていた。もし、これが昨年春に自身を捕捉した“彼”が絵を描いているのだとすれば、一応の辻褄は合う。だが、十代半ばの人間にここまでの神算鬼謀が可能なのか、と周は疑いを持っていたことも事実であった。

 彼は知る筈もない。神楽坂悠元の持つ最大の秘密―――彼が“転生者”だという事実は、ごく一部の人間にしか知りえないことなのだから。

 

「昨年の春以降、こちらを警戒してくることも想定していましたが、相手は大師(マスター)に意識が向いている。そして、私を監視している素振りは一切見られない……分かりませんね」

 

 周は判断しかねていた。これで何らかの監視を受けているのだとすれば、これでも視線に敏感な周自身も勘付くはずだと。昨年のブランシュの件で監視を受けることも警戒していたが、その素振りが見られないことに判断材料が不足していた。

 

「……当分は、大師(マスター)のお小言とご機嫌取りをせねばならないでしょうね」

 

 周は当初、もし“彼”が動いているのならば、その周辺を切り離す策を考えてはいた。だが、彼の周囲に対する離間の計を仕掛ける場合、相手次第では逆鱗に触れかねないリスクを背負う必要がある。これで十師族の一角を担い、彼に対して好意的な印象があるという四葉家を動かすようなことになれば、いくら周でも無事に済む保証がない。

 暫くは憤る師を宥める役割を背負ってしまったことに、周はデスクに凭れ掛かるように深く座り込んだのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

『ご苦労様です、悠君。一先ずは懸案の一つが片付きましたね』

「いくつかの懸案の一つでしかありませんが……当分は平穏な学生生活を送れそうです」

 

 悠元は自室で千姫からの電話を受けていて、『恒星炉』実験を含めての報告を行っていた。魔法師排斥の運動は一旦下火となったが、それでも魔法師に対する偏見の目は一朝一夕で変わる様なものではないため、ここら辺は根気よく取り除いていくしかない。

 ただ、この動きを勝手に解釈する輩が出てくる可能性がある。

 

『婚約者たちと熱い夜を送っている悠君からしたら、平穏は遠いと思いますけど』

「それは言わないでください……」

『ふふ、そういえば七宝家当主から謝罪を受けました。悠君の手を煩わせたことは誠に申し訳ないと』

「正直、元十師族の人間の言うことを聞くかどうかは不明瞭でしたけれど」

 

 悠元に対しても謝罪をしていたことからすれば、悠元個人としては礼儀が成っているのでどこかの狸よりも良い印象を持てる。今悠元が進めている計画には拓巳の家業も大きく影響を受けることになるため、個人的な誼を持つことについては千姫も了解していた。

 

「……ところで、『元老院(げんろういん)』の方々から何かありましたか?」

 

 ここでの『元老院』というのは、明治時代初期に帝国議会開設前に存在した立法機関ではなく、その後継機関でもなければ憲法外機関の『元老』とも関係がない。

 四葉家のスポンサーとなり、凶悪犯罪を犯したり目論んだりする魔法師を捕らえ、処分させてきた秘密組織。ほぼ魔法力のみで十師族の座へ這い上がってきた四葉家が唯一伺いを立てるこの組織の存在は自分でも知らなかった。流石に十師族とはいえ、横の繋がりは十師族のルールに反してしまうので仕方がない事もである。

 

『彼らは悠君の動向が気になるようですね。いずれ世界をも巻き込んでいくのではないかと』

「……馬鹿馬鹿しい、ですね。世界を統べる気なんて毛頭ありませんよ、俺は」

 

 多少の警戒は止むを得ないとしても、単なる抑止力に押し止めるつもりならば『元老院』のメンバー全員の素性を全て調べ上げた上で社会的な抹殺を行う覚悟はとうに持っている。

 ちなみに『元老院』のメンバー構成に関してだが、全て古式魔法の大家で構成されている。まだ人間らしい彼らが十師族の一角に“兵器”の在り方を押し付けているのは問題大アリだろう。神楽坂家と上泉家は『元老院』に含まれるが、四葉家の扱いに関して他のメンバーと度々衝突しているということは千姫から聞き及んでいる。

 

 こちらから積極的に敵対したいという考えは持ち合わせていないが、相手が必要以上に枷を嵌めようとするのならば、返す刃で叩きのめすだけだ。『元老院』の警戒を抱く気持ちも理解できなくはないが、面倒は御免被る。

 

『悠君ならそう言うのでは、と釘は刺しておきました。……年は取りたくないものですね』

「その若さを保っている母上の言葉じゃありませんよ」

 

 年の功とはよく言ったものだが、あまり度が過ぎれば行き過ぎた保守になってしまう。『元老院』の中では年長組となる剛三と千姫だからこそ、四葉への行き過ぎた干渉は彼らを追いやってしまうだけだと一番理解していた。

 千姫に対してツッコミを入れるような形で放たれた悠元の言葉に、千姫は思わずクスッと笑みを零した。

 

『そうそう、義兄様(にいさま)が烈と会談したそうですが……回収(よこどり)したパラサイトについては沈黙を貫いたようです。「決して善良な人々に害を為すような真似はしない」と話してはおりましたが』

「……何か懸念事項が?」

 

 剛三と烈の会談は、剛三から奈良の九島家本屋敷に出向いて話したらしい。元々京都方面の偵察のついでで実現したものだが、烈はUSNA絡みのパラサイトについては秘匿するようなそぶりを見せた、と千姫は剛三から聞き及んでいた。

 いくら昔からの顔なじみとはいえ、全面的に信頼できる要素がない……とでも言わんばかりの千姫の様子に悠元が尋ねた。

 

『彼の孫の事です。悠君なら、彼のこともどうにか出来ますか?』

「やろうと思えばできなくもないですが……爺さんからもストップが本格的に掛かりましたからね」

 

 烈の孫である九島(くどう)光宣(みのる)とは個人的な誼を有しているが、彼は優秀な魔法師であるにも拘らず、一年の約四分の一をベッドの上で過ごすという病弱的な体質を抱えている。ただ、医学的な観点からいえば光宣は至って健康である、というのが彼を診断した医者の見解だ。

 彼のその体質の原因は想子体のアンバランス―――いや、厳密には想子体を流れている想子を光宣自身が制御しきれていない。しかも、光宣自身がそれをしようとしても、本来備わっている筈の想子体のリミッターが存在していないのだ。

 いくら精神が想子体のリミッターを発動させようとしても、元々ないものを発動させようとしているため、結果的には意味がない。寧ろ想子体を逆に活性化させてしまうため、余計に体調を崩してしまう。

 

 雫の弟である航も魔法演算領域に封印が掛けられている理由は、光宣と同じ状態になることを危惧してのものだが、航の場合は想子体と肉体のバランスが取れていないだけであり、想子体の制御技術と肉体の成長が進めば、そう遠くない未来に魔法演算領域の封印は解除できると見込んでいる。

 

『あら……多分、藤林家のお嬢さんを利用するのを防ぐためでしょうね』

「恐らくは」

 

 光宣を治療できないこともないし、想子体に関する事象は澪の治療で把握できている。ただ、間違いなく九島家の現当主は婚姻などを駆使して誼を結ぼうとしてくるだろう。しかし、剛三が強権を用いて九島家からパラサイトを回収しなかったのは意外だった。これについては千姫から補足説明が入った。

 

『……妖魔を用いる兵器の存在は明らかに危険です。ただ、現時点で九島家を潰せば、「伝統派」が勢い付くことになるでしょう。それに』

「それに?」

『神楽坂家の伝統の儀である「月夜見(つきよみ)の儀」が近い以上、機が熟すのを待つ方が良いと判断しました』

 

 神楽坂家の力試しの儀式である『月夜見の儀』が控えているため、九島家がパラサイトを用いた兵器を何らかの形で表舞台に引っ張った時を狙い撃つのが良い、という判断を聞き、悠元もそれに異論を唱えるつもりはなかった。

 しかも、今年の正月からずっと動きっぱなしだったため、神楽坂家全体としても一旦体制を整える時間が必要になった側面もある。ここいらで少しの休息を入れても問題はない筈だ。

 

『それでは、おやすみなさい』

「はい。母上もおやすみなさい」

 

 通信を切ると、悠元はベッドに潜り込んで瞼を閉じた。

 考えるべきことは多いが、それでも一つずつ丁寧に片を付けねばならない……と思いつつ、襲い来る睡魔に身を委ねたのだった。

 




 色々オリジナル要素を含んでおりますので、ご了承ください。
 前話でも触れましたが、これにてダブルセブン編は終了して、次回からスティープルチェース編に入ります。
 色々変更点が増えますので、その都度後書きで解説を入れたりする予定です。

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