魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

228 / 551
ヤバいわよ(競技的な意味で)

 理璃が蘇我大将から暗号メールを貰ったのが6月中旬。6月の初めから九校戦の準備を進めていたあずさにとっては驚くものだったが、何とか気を取り直してメンバー選定はほぼ形となっていた。

 前人未到の4連覇が掛かっている以上、空回りしない様に五十里もフォローしているわけだが、その様子を時折勘違いしてしまう花音を諫めるので労力を使っていた生徒会メンバーであった。

 

 第一高校でそんな騒ぎとなっている中、箱根の神楽坂本家では現当主の千姫と向き合う形で一組の男女―――第九高校2年の宮本修司と第二高校2年の高槻由夢が正座をしつつ頭を下げていた。

 二人からすれば、突然の呼び出しに驚くのも無理はない話だ。千姫とて彼らの学業を妨げない様に配慮しているため、本来ならば急に呼び出すことは避けたかった。だが、態々呼ばなければならない理由があるからこそ、二人の通う学校に断りを入れた上で呼びだした。

 

「頭を上げてください、二人とも……由夢、修司とはどうですか?」

「まー、いつも通りです。もう少し悠元のようにがっついてくれたらあびゅっ!?」

「阿呆。俺と悠元じゃ置かれている立場が違い過ぎるだろ」

 

 遠距離恋愛の状態なので、それこそ顔を合わせるのは神楽坂本家か『神将会』の会合ぐらいである。いつでも構わないと言い放った由夢に拳骨を落とした上で修司は冷静に呟いた。

 

「俺はお祖母様の愛弟子であり、悠元はお祖母様の養子で神楽坂家次期当主。求められているものが違う以上、同じ括りに出来るか……っと、申し訳ありません」

「いえいえ、いいのですよ。ここには身内しかおりませんから」

 

 この大広間には、千姫と修司、由夢しかおらず、残りの使用人は持ち場についているし、精々いると言えば『九頭龍』の護衛が数人程度。筆頭執事である忠成は広間の外で待機している。

 身近に護衛を置かないのは、千姫が万が一の襲撃を迎撃する際に却って邪魔となってしまうからだ。

 修司の謝罪を窘めつつ、千姫は手に持っている扇子を広げて仰ぎ始めた。

 

「修司に由夢、悠君と伊勢家から報告がありました」

「悠元は分かるけど、伊勢家? 姫梨じゃなくて?」

「はい。先日、奈良に出向いて第九種魔法開発研究所を偵察したそうです」

「旧第九研……九島家の時点で嫌な予感がするのですが、お祖母様」

 

 パラサイトのことは、修司と由夢も現地―――USNAに留学した際、雫と協力して対処した経験がある。日本で起きていたパラサイト事件の顛末は『神将会』で情報共有されているが、その中には四葉家と九島家が封印されたパラサイトを分け合って持ち去ったことも含まれている。

 四葉家のパラサイトについては神楽坂家から霊的な封印・制御術式の提供を行い、精神構造・魔法演算領域の研究に用いるという条件付きで保有を認めた。四葉家自体強固な結界を有しているため、外部と遮断しやすく秘匿するには問題ないと判断した結果だ。

 

「その予感は正しいですよ、修司。連中はどうやら、『パラサイドール』なるものを作り出したようで」

「『パラサイドール』……パラサイトを用いた兵器、ということですか?」

「ええ。しかも、今年の九校戦でそれをテストするようなのです」

「運営委員会は正気ですか? そもそも、パラサイトの性質を理解していれば、あのようなものを兵器に転用なんて正気の沙汰じゃないと思います」

 

 思わず耳を疑いたくなったのは、修司だけでなく由夢も同様であった。USNAで消滅させた6体のパラサイト(調査の結果、ダラスとは別の場所にある研究所で発生させたマイクロブラックホールによるものだと判明した)の性質は、並外れた力を有する彼らの敵ではなかったにせよ、普通の現代魔法師からすれば十二分に脅威的なものであった。

 それを兵器に転用して使おうとすること自体、とてもではないが正気を疑う所業だと思うほどだ。

 

「といいますか、九校戦の競技に『パラサイドール』なんて使えるものはないはずでは?」

「今年の九校戦は国防軍の対大亜連合強硬派が捻じ込んで、一部の競技を変更しました。新たに入った競技の中にスティープルチェース・クロスカントリーがあります。恐らくはその競技に『パラサイドール』を投入するつもりでしょう」

「スティープルチェース・クロスカントリー……?」

「陸軍の山岳・森林訓練に使われる軍事訓練の一つだ。ただ……下手すればドロップアウトが出かねない訓練を競技に採用するとか、魔法協会は抗議しなかったのですか?」

 

 修司が魔法協会という言葉を使ったのは、上泉家と神楽坂家はその状況を鑑みた上で国防軍を抑え込むと判断したからだ。九校戦は日本魔法協会も関与しているため、師族会議も含めての対応を尋ねた。

 

「形として抗議文は送ったようですが、運営委員会は会場提供を受けている国防軍の側に舵を切ったようです……少し時期は早いかもしれませんが、これも時の流れなのでしょうね」

「お祖母様?」

「修司さんに由夢さん。お二人には東京の別邸で暮らしていただきます」

「……はい?」

 

 一体何がどうなっているのか……という風に疑問を浮かべる修司に対し、恋人と暮らせることにウキウキしている由夢。そして、開いてた扇子を閉じた上で千姫はこう告げた。

 

「そして、既に関係者へ話をつけていますが、お二人には第一高校へ転入していただきます」

 

 いくつかの思惑が存在するが、そのことを敢えて述べることなく千姫は二人に転校を命じたのであった。これが結果的に功を奏することとなったのは、この時は誰も気付いていなかった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 西暦2096年7月2日。九校戦の運営委員会から魔法科高校九校に通達された内容。

 一部の競技―――『スピード・シューティング』『バトル・ボード』『クラウド・ボール』が入れ替え対象となり、『ロアー・アンド・ガンナー』『シールド・ダウン』『スティープルチェース・クロスカントリー』が追加。

 更に『スティープルチェース・クロスカントリー』以外の競技と掛け持ちは禁止され、『ロアー・アンド・ガンナー』『シールド・ダウン』『アイス・ピラーズ・ブレイク』はソロとペアでの出場となる。

 

「うちは十文字さんのお陰でそこまで混乱にはなってないけど、掛け持ち競技が限定されるのは痛いね」

「そうですね……」

 

 二人がそう零した理由は悠元と深雪にあった。彼らは二種目ともに優勝しており、総合優勝を狙うには本戦二種目を確実に取れる要員だからだ。

 とはいえ、ここで愚痴を言っていても仕方がない、と思ったところでノック音が鳴り、あずさが入室を促すと服部と悠元が入ってきた。

 

「中条。メールは見たが、開催要項に変更があったのは本当か?」

「あ、はい。それが……」

 

 あずさは服部に一連の事情を説明した後、服部は少し考え込んでから悠元に視線を向けた。

 

「神楽坂。2年で有力なメンバー選定はお前に一任しても構わないか?」

「ええ。3年生については会頭にお任せします」

 

 短いやり取りだが、大まかなメンバー選定は事前に仮組しているため、後は掛け持ちできなくなった競技の穴埋めと新規に追加された競技のメンバー選出を行うことで決着したことを確認すると、服部は生徒会室を後にした。その場に残った悠元はワークステーションに座るとキーボードを叩き始めた。その様子を興味深そうに達也や深雪、泉美とセリアも見ていた。

 

「お前ら……ま、いいか。俺と深雪はピラーズ・ブレイクのソロで行くつもりだが、異存はないか?」

「はい、大丈夫です悠元さん」

「悠元がそっちで行くということは……『クリムゾン・プリンス』対策か?」

「まあね」

 

 そもそも、一条家の『爆裂』を使える競技となればアイス・ピラーズ・ブレイク以外にないし、モノリス・コードで『カーディナル・ジョージ』と組んで点数稼ぎという算段も考えられなくはないが、魔法を見せつけるという意味ではモノリス・コードだとインパクトに欠けてしまう。

 今回の大会ルールを考えるならば、いくら『カーディナル・ジョージ』でも『クリムゾン・プリンス』と組んで圧倒するだけでは総合優勝には届かないだろう。

 

「ロアー・アンド・ガンナーだが……ソロは燈也と……セリアに行ってもらうか」

「え、私? かなりヤバいけどいいの?」

 

 セリアがヤバいと発言したのは、ロアー・アンド・ガンナーの競技そのものの由来に起因する。

 ロアー・アンド・ガンナーとは漕ぎ手(ロアー)射手(ガンナー)がペアとなり、無動力のボートを動かして水路内を走破しつつ、水路脇や水路内の的を狙撃する競技。水路の走破タイムと命中した的の数で競うものだが、これは元々USNAの海兵隊が上陸訓練の一環で行っていたものだ。

 セリアから内密に聞いていたが、スターズではこれよりも更にレベルの高い上陸訓練を課されるため、それをこなした経験のあるセリアがロアー・アンド・ガンナーに出ればほぼ優勝のラインに乗せられることとなる。

 

「セリアでどうこう言うぐらいなら、『クリムゾン・プリンス』と『カーディナル・ジョージ』だって反則の極みだろう。というわけで、決定な」

「ま、いいけどね。ただ、中継を見たリーナから何て言われるか……」

 

 男子ソロを燈也に据えたのは、恐らく三高から『カーディナル・ジョージ』が出てくることが想定されるためだ。それに、燈也自身バイアスロン部でも時折練習に混じっており、ソロでボードを制御しつつ的に命中させる技術は高いと雫やほのかが述べていたからだ。

 ロアー・アンド・ガンナーの女子ペアは片方を英美に担当してもらうつもりだ。もう片方は3年生でボート部の国東(くにさき)久美子(くみこ)がいるので、あとは英美の射撃術式を見繕うぐらいで問題はないだろう。男子ペアは森崎と五十嵐を考えている。昨年の新人戦モノリス・コードのことを考えれば、彼らを組ませるのならば問題はないと判断した。

 

「問題はシールド・ダウンだな。女子だと壬生先輩とエリカは確定として……男子は悩むな」

 

 男子の名立たる実力者で行くと、3年生の沢木や桐原、2年生なら十三束とレオが候補に入る。服部に関してはモノリス・コードに据える関係上、シールド・ダウンの候補からは外れる形となる。ただ、十三束の特性を考えるならば、シールド・ダウンのペアとして桐原が入るのが望ましい。そうなると、折角の実力者であるレオを余らせるのは不本意……と、悠元はとある案を思いついた。それに気付いた達也が尋ねた。

 

「悠元、何を考えたんだ?」

「いや、どうせだったらレオにピラーズ・ブレイクの男子ペアに入ってもらう方がいいかな、と思ったから」

 

 遠隔操作系はレオ本人曰く苦手だが、その辺の制御も最近はできるようになりつつある。モノリス・コードという方向性も考えなくはないが、直接攻撃系の戦闘方法が多いレオにとっては少し厳しいだろう。

 それに、遠距離攻撃が可能な『ドラグーン・ブレス』を有している上にレオの硬化魔法のバリエーションを増やせれば、彼の祖父に名付けられていた『城塞(ブルク・フォルゲ)』の名に恥じぬ活躍を見せられるだろう。レオ本人に付随する問題は発生するだろうが、場合によっては『神将会』やドイツ政府を動かしてでも事態の収束を計るつもりだ。

 攻撃の役割を担うことになるペアの相手をどうするかが鍵となるが……ここは保留としておく。

 

「確かにレオの防御力をピラーに反映できれば強いだろうが……どうするつもりだ?」

「そこは練習で感覚を掴んでもらうさ。加減をする気もないけど」

 

  ◇ ◇ ◇

 

 達也たちは行きつけの喫茶店「アイネブリーゼ」に集まっていた。2年生の一科生(悠元、深雪、雫、ほのか、姫梨、セリア、レオ、エリカ、幹比古)と魔工科生(達也、美月、燈也、佐那)に加えて、1年生の水波も加わっていた。泉美も加わりたそうにしていたが、そこは香澄が諫めたようだ。

 殆どが2年生なので水波としては居心地が悪そうにしていた。それでも、先に帰るという選択肢はないようだが。

 少し落ち着いてから幹比古が切り出す形で会話が始まった。

 

「そういえば達也、九校戦の競技が変わったって本当かい?」

「ああ。スピード・シューティングとバトル・ボード、クラウド・ボールが外れてロアー・アンド・ガンナーとシールド・ダウン、スティープルチェース・クロスカントリーが追加された」

 

 達也はその上で追加された3つの種目に関しての説明をする。その中でもスティープルチェース・クロスカントリーは異質である、と達也は念を押す様に説明したところでエリカが口を開いた。

 

「……ねえ、悠元は部活連の副会頭でしょ。もうメンバーの選定は決めてるの?」

「大体はな。今の段階では3年生の選出をしている服部会頭とのすり合わせが必要だが……燈也とセリアにはロアー・アンド・ガンナーのソロに出てもらいたいと思っている」

「まあ、理には適っていますけど……セリアが女子ソロですか」

 

 燈也もパラサイト事件や南盾島の件に少しは関わっているため、リーナの事からしてセリアの素性にも気付いているのだろう。その疑問に答えるようにセリアが口を開いた。

 

「ま、向こうでやってた()()よりはイージーだと思ってるかな」

「……セリアはバイアスロン部の上級コースでパーフェクトを叩き出してるから、嘘はついてないね」

 

 セリアの言葉に補足する形で述べられた雫の言葉に、一同は様々な反応を見せていた。とりわけ素性を知る側である達也からすれば、一つの安心材料と言うべきなのかは躊躇われた。そんな状況を横目で見つつ、悠元は説明を続ける。

 

「ほのかと姫梨はミラージ・バット、幹比古はモノリス・コード、深雪と雫や俺はピラーズ・ブレイクになるわけだが……今考えている案は、シールド・ダウンにエリカを、ピラーズ・ブレイクのペアにレオを入れようと思ってる」

「へ? こいつがピラーズ・ブレイクに?」

「こいつって言うんじゃねえよ。でもよ、俺は操作系が結構苦手なんだが」

「そこはちゃんと考えてあるから、問題はない……ん? メール?」

 

 すると、悠元の端末にメールが届き、素早く操作して中身を確認する。すると、それを見た悠元の表情が険しいものとなっていることに深雪が尋ねた。

 

「悠元さん? 何かトラブルでもあったのですか?」

「……ここにいる連中の殆どが知っている人間が二人、明日転校してくる」

「殆どと言うと……まさか、神楽坂家で会った二人の事か?」

 

 差出人は千姫からであり、内容は宮本修司と高槻由夢の二人を神楽坂家の別邸に住まわせるというもの。そして、それに合わせる形で第一高校に転入する旨も記載されていた。これを喜ぶべきなのかはものすごく疑問に残るところだ。

 

「その解釈で間違ってはないよ。しかし、この時期に転校とは……多分、二人の家の後継者問題もあるんだろうな」

 

 今年の正月、悠元を襲撃した主犯格とも言える宮本家と高槻家の男子たち。その件を重く受け止めた現当主らは、生まれ順に拘らない後継者選びへとシフトしつつあった。それで分家の次期当主らが逆上して悠元へ危害を加える可能性もあるだけに、悠元としては穏便に済ませるようお願いした。

 修司と由夢、それと姫梨が愛弟子となる際に『各々の家の次期当主候補に選ばない』という口約束が組まれていたわけだが、能力的なことを考えれば各々の家で筆頭格となってしまうのは言うに及ばず。将来の御家騒動を避けるべく、千姫が一計を案じた形だろう。

 

「うぇー、考えたくもないわね」

「右に同じくだがな。聞けば二人は許婚の関係らしいから、母上が神楽坂の分家として独立させる気なんじゃないかとは思うが」

 

 現代魔法の家と異なり、分家制度が未だに残っている古式魔法の家は多い。上泉家でも嫁いだ家の数で言えば両手で収まるレベルになっている。神楽坂家でも上泉家、鳴瀬家、高槻家、宮本家、伊勢家との繋がりを有している。

 修司と由夢は悠元の影響を受けてかなりの強さを有しているため、悠元が三矢家から神楽坂家へ移ったのと同じように、二人を関東地方に呼び寄せた上で新たな家を興させる気なのだろうと推測される。

 

 この話のお陰で、この場で九校戦の競技が軍事訓練寄りになったという話題に向けられることは無くなったので、それはそれで良かったと思うことにした。

 




 修司と由夢を割と出しやすくする意図もあったりなかったり……二人を次期当主候補から外すという約定は一応組まれていますが、ある意味三矢家にいた時の主人公と同じような道を進んでいる形です。各々の家内でそう決められたとしても、唆す輩は一定数生じかねませんから。

 元々セリアはプラスワン要素としての登場だったわけですが、スティープルチェース編を読み直した結果「あ、これヤバいわ」という結論に至りましたが……このまま押し切ります。

 レオにモノリス・コードという案も考えなくはなかったのですが、ブランシュの時にやっていたこと(自走車に硬化魔法を展開したこと)から一捻り加えてアイス・ピラーズ・ブレイクに出場させる腹積もりです。
 まあ、モノリス・コードだとエルンストが全く動けない状態で九校戦が終わり、その後に誘拐騒ぎを起こすリスクがあるわけですが。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。