魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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表側の依存、裏側の人任せ

 神楽坂家別邸での九校戦に向けた資料作りはトラブルもなく無事に終わった。夕食の為に食堂へ降りてきたところで悠元とセリアはとある男女―――修司と由夢の二人と鉢合わせする形になった。

 

「修司に由夢か。久しぶりだな。話は母上から聞いていたが、実際に会うのは正月の慶賀会以来か」

「そうなるな。で、そっちのお嬢さんが例の……」

「エクセリア・シールズです。お兄ちゃんの婚約者ともいいますかあべしっ!?」

「……なんだか、仲良く出来そうだね」

 

 何かを思い出したように照れながら自己紹介するセリアに対し、「少しは真面目にやれ」と言わんばかりに悠元のチョップがセリアの脳天に直撃して、彼女は涙目で頭を押さえる。その光景に既視感を覚えた修司は頭を抱え、由夢はジト目をしつつセリアに親近感を覚えていた。

 修司と由夢もセリアに自己紹介をした後、互いに夕食を取りつつも会話に花を咲かせていた。その後、食後のお茶となったところで悠元が問いかけた。

 

「それで、母上からは神楽坂家の試しの儀も込めての事だと話してはいたが……お前らの実家の事情も含んでいると睨んでいるが、どうだ?」

「……それはあるかもね」

 

 由夢が言うには、今年の正月にあった慶賀会で見せた悠元の天刃霊装が起因している、とのことらしい。天刃霊装の技術は神楽坂家3代目当主が成した功績だが、その強さを危ぶんで封印された代物。それに限りなく近い代物―――新陰流剣武術における『心刃(このは)』のレベルならば問題ないと踏んで、天刃霊装の修得に至る方法は上泉家と神楽坂家で分割された。

 

「高槻家というか、出雲大社に伝わる口伝の中で天刃霊装を仄めかすものはあったかな……それを私が持つなんて思ってもみなかったけど」

 

 そう言って、由夢は目の前で天刃霊装を展開する。その形状は柄の両端に騎士剣の両刃を備えた武器―――両剣(ダブルセイバー)と呼称される武器で、由夢の天刃霊装『雷切(らいきり)』である。流石に食堂のテーブルを斬るわけにもいかないため、感触を少し確かめてから展開を解除した。

 

「春休みに事情説明で実家に戻ったところまでは良かったんだけれど、うちのバカ兄貴が悠元の天刃霊装を見たせいで無茶をしそうだったから、私が『雷切』で叩きのめしたの。そしたら、うちの親族が私を次期当主にしようと動いたのよ。これにはうちの父さんが本気で怒っちゃって」

「……俺も似たようなものだな。流石に親父が一喝と共に鉄拳制裁をしたが」

「大変だね……私は人のことを全く言えないけど」

 

 家としての力を落としたくないどころか、折角のチャンスだとみたのだろう。高槻家のみならず、宮本家でも起こり得ていたことにはセリアが同情を仄めかすような言葉を述べた。正直に言うなら、筆頭主家である伊勢家が割と穏便に済んだのが奇跡だろう。

 

「俺が天刃霊装を教えたのは、あくまでもパラサイトを中心とした妖に対処するための手段を持つためなんだがな……ああ、言っておくけどセリア、お前も修得してもらうから」

「それって、失敗すると仮面とか被っちゃう感じ?」

「どこの創作物の話だよ。安全マージンは完全に確保してるから問題ない」

 

 セリアは将来の身内になることもそうだが、単独で霊子構造体の対処法を学んでもらう方がいいと判断した。その意味で一番手っ取り早いのは天刃霊装の修得になる。この辺りのことについては事前に千姫から許可を貰っている。

 その辺の話をこれ以上したところで心労が嵩みそうだった為、九校戦に話題を切り替えることとした。こちらはこちらで問題を抱えているわけだが、喫緊の課題になりかねないものを見過ごすという判断は取れないと見た形だ。

 

「九校戦の競技変更はもう既に知っていることだろうが、国防軍関連の事情調査を一条家に頼んでおいた」

「一条にか? 悠元の実家じゃなくて?」

「追加された競技の性質上、軍事訓練の色が強いからな。4年前の佐渡防衛戦の際、国防軍の指揮官をしていた酒井(さかい)大佐はそのまま新ソ連への逆侵攻を主張したそうだ。結局は一条家当主と折り合いが合わずに立ち消えとなったが」

 

 この辺の事情は全て剛三から聞き及んだものと国防軍の書庫にある持出禁止の戦闘報告書で確認している。無論、三矢家にも国防軍関連の情報提供は頼んでいるが、その情報が下りてきているであろう独立魔装大隊や第101旅団からの音沙汰はない。

 いや、むしろこれが正常なのだろうと割り切っていたし、独立魔装大隊にいる響子の母親は九島真言の妹である以上、藤林家が九島家に近い立場と見られていてもおかしくはない。既に何らかの監視の目が向けられていても、軍としては当然の対応となるであろう。

 

「その酒井大佐は確か、対大亜連合強硬派だったか?」

「知ってるのか?」

「親父の旧友や道場の門下生に海軍や陸軍の現役軍人もいてな。彼らが来た時に少しばかり聞いただけだ」

 

 修司の実家である宮本家は剣術の道場を営んでおり、輩出した門下生の中には現役軍人が多い。まさか九州で酒井大佐の名が出るとは想定もしていなかったが、佐渡侵攻のことを鑑みれば彼の名が出ても不思議ではないだろう。

 尤も、あの戦いで一番目立ったのは他でもない一条家の現当主こと一条剛毅、その長男である『クリムゾン・プリンス』こと一条将輝ではあるが。

 

「ねえ、悠元。九校戦のメンバーはもう決まった感じ?」

「由夢、お前なあ……」

「いや、急な競技変更もあって、再選出のすり合わせをやってる最中だし、ルールを読み込んだ上での資料作成をセリアに手伝ってもらってた」

「いやー、いくら元スターズだからっていいのかなって思うけれどね」

 

 セリアは自分が元スターズの軍人だということをあっさりと言い放ったが、悠元の立場をある程度聞き及んでいる上に婚約者序列第六位の立場にある。修司と由夢の実力を認識したからこそ、隠すのは無駄だと判断したわけだが……修司と由夢の反応は納得がいったような面持ちだった。

 

「なるほど、アンジー・シリウスのことは聞いていたが……セリアはいいのか?」

「もう軍人じゃないからね。隠さなきゃいけない秘密はあるけど、知らないことの方が多いし……それにお兄ちゃんの婚約者ですから」

「あっさり言っちゃうんだ……って、お兄ちゃん?」

「こいつの呼び方はもう諦めてるからスルーしてやってくれ」

 

 なお、セリアと由夢が性格面で似ているのもあって意気投合したのは言うまでもなく、悠元と修司は揃って溜息を吐いたのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 この時期の転校生は基本的に珍しいだろう。これに関しては魔法科高校という場所でなくとも興味本位で覗こうとする輩は多い。珍しいものを見たがるのは致し方のない事でもあるが。

 修司と由夢は2年D組になったのだが、当たり障りのない挨拶をした修司とは対照的に、由夢は開口一番に修司の婚約者であることを明かした。その直後、修司の拳骨が落ちたのは言うまでもない。

 昨年の九校戦においては、修司が本戦男子クラウド・ボールで優勝、由夢が新人戦女子クラウド・ボールで優勝という実績を挙げている。すると、放課後の部活連本部で作業中に服部から提案があった。

 

「―――転校してきた二人を九校戦に出場ですか?」

「ああ。昨年の九校戦で宮本は桐原を破っているし、高槻は一色を破った実力者だ。出場させないという選択肢はないだろう」

「確かにそうなんですが……」

 

 ここで悠元が懸念したのは選出メンバーに関してのことだ。

 各部活動での実績や活動報告、各部の部長からのヒアリングを含めた総合的な判断に基づいてはいるものの、服部との折衝の結果、現状においての本戦出場メンバーの大半が現2年生を占めている。

 

 まず、ロアー・アンド・ガンナーは男子ソロが燈也、男子ペアに森崎と五十嵐。女子ソロにセリアが入り、女子ペアは英美と国東が現時点でのメンバーだ。

 アイス・ピラーズ・ブレイクは男子ソロが悠元、男子ペアの片方がレオで確定していて、女子ソロは深雪、女子ペアは花音と雫が入っている。この時点で3年生が二人しか出ていない。

 

 シールド・ダウンは男子ソロが沢木、男子ペアは桐原と十三束。女子ソロはエリカ、女子ペアは紗耶香と千倉(ちくら)朝子(ともこ)が組む形だ。当初は実際に刃を交えたことがあるエリカと紗耶香で組ませる案もあったが、千刃流の印可を持つ人間と中学時代の剣道大会で全国準優勝にまでなった腕前を考慮した場合、反則レベルと化してしまうためでもあった。

 男子モノリス・コードは服部、三七上(みなかみ)ケリー、幹比古の三人が出ることになり、女子ミラージ・バットはほのか、スバル、そして姫梨の三人。

 

「修司をレオと組ませてピラーズ・ブレイクのペアに出しますか。ただ、由夢の場合はどうしましょうか……どうかしましたか、会頭?」

「いや、名前で呼んでいることからして知り合いなのか?」

「知り合ったのは昨年の九校戦からですが、今の実家では縁が深い間柄なもので」

 

 由夢の得意属性である金属性を鑑みるならば、シールド・ダウンかアイス・ピラーズ・ブレイクが適している。ただ、これ以上3年生の本戦メンバーを削るのはどうかという思いもあった。

 生徒会長であるあずさがエンジニアとして参加する以上、風紀委員長である花音を外す選択肢はない。かといって3年のメンバーを外すのもどうかと思案する悠元に対し、服部は真剣な表情で尋ねた。

 

「神楽坂。この際3年生のことは抜きにして、高槻はどの競技に入れるべきだと考えている?」

「会頭……なら、女子ペアを千葉エリカと壬生紗耶香の二人で、高槻由夢を女子ソロで入れて下さい」

「分かった。ただ、シールド・ダウンは練習相手も必要だから、千倉には俺から話をつけておく」

「お願いします」

 

 由夢の気質を考えるなら、ソロでやってもらった方がいい成績を残せるだろうという判断からくるものだった。女子ペアのメンバーは反則的な結果となったが、互いに気の知れた相手同士ならば、間の取り方も問題ないであろう。

 

 ただ、主戦力の殆どを2年生に依存するのは将来的に大変だろうと思う。作戦スタッフはそれこそ2年生と3年生―――その中には自分も選手兼務という形で入っている。これは、昨年の新人戦統括を務めていた経験からくるものであった。

 

 そこに関しては問題ないが、今回選出されたエンジニアはあずさ、五十里、達也に加えて美月、千秋と佐那、そして1年生ながら完全マニュアル調整の領域まで届いたケントが選ばれたのだ。その功績は言うまでもなく佳奈が徹底的に鍛え上げたからに他ならない。この辺は新陰流剣武術での手を抜かない方針が反映された形なのだろうと思う。

 

 加えて、新人戦では悠元と燈也がサブエンジニアとして参加することになり、泉美の熱烈な要望で悠元が彼女の担当をすることとなった。それを聞いた水波がやや不満げな表情を浮かべていたため、悠元は水波に対して専用の術式を渡すことで折り合いをつけた。

 とまあ、表のことに関して現時点で言えるのはここまでぐらいだろう。

 

 服部との話し合いを終えて部活連本部を出たところ、悠元を待っていたかのように立っている人物が二人いた。それは言うまでもなく達也と深雪であり、良く見ると……その後ろから丁度早歩きで来た水波の姿が見えた。

 

「おや、二人……と水波もか。待たせたみたいですまない」

「いや、丁度来たばかりだからな」

「すみません、お待たせして……って、悠元兄様も終わったのですか?」

「ああ。じゃあ帰ろうか」

「そうですね」

 

 基本的に悠元の隣を深雪が歩き、その隣に達也がいて、深雪から見て悠元を挟む形で水波が歩いている。特にトラブルが起きることなく、司波家に帰っていつも通りに深雪と水波が家事に勤しむ中、達也が悠元に相談事を持ち掛けた。

 

「―――差出人不明のメール?」

「ああ、昨晩届いてな。葉山さんには一応送信しているが……」

 

 達也はセキュリティーチェックを済ませた状態の文字データをモニターに表示させた。九校戦の急な競技変更が国防軍によるものと、九島家がこれに乗じて秘密裏に開発した兵器の性能実験を行おうとしていること。

 差出人を隠蔽して送信することが出来る人間と、九島家の内情に詳しい人間という素性。加えて、このメールの送り先を司波家―――達也に宛てたという事実からすれば、浮かぶ人間は一人しか存在しえない。

 

「今朝、師匠に相談はしたんだが……“P兵器”という符号しか分からなかったそうだ。なので、師匠の手筈で奈良に行こうと考えているわけだが」

「旧第九研か……」

 

 困った、と悠元は内心で呟いた。考えてみれば、パラサイト事件で封印した二体のパラサイトを四葉家と九島家が持ち去ったことを達也らは知らないのだ。となれば、“P兵器”もとい『パラサイドール』のことに行き着くのは難しくても無理はないだろう。

 悠元が旧第九研に偵察へ行ったことは、達也と深雪、水波には隠しているが、四葉家もとい真夜にはその調査内容を開示している。その理由としては、周公瑾に対する追い込みへの協力をしてもらうための対価でもある。

 そうした理由の一つは、九校戦の準備期間に入ると作戦スタッフメンバーである悠元はほぼ学校に通い詰める形となるためだ。なので、達也らが奈良に行くとしても同行できないのだ。

 

「達也と違って、俺は作戦スタッフ兼部活連副会頭である以上、九校戦の準備期間は休みの日を除いて登校することになるからな……無理はするなよ? 無事に帰ってくるのが一番の土産なんだから」

「分かっている。師匠の事だから、何かしらの土産は持って帰ってくることになるだろうが」

 

 その土産が物騒なものでないことを切実に祈りたいが、こういう時ほど悪い予感が当たるので困ったものだと思う。あと、帰りが遅くなる関係で深雪にかまってやれる時間が減ることを考えた場合、どこかしらで時間を作ってフォローしなければならないということも考えなければならない。

 結局のところ、何かしらで忙しくなるのは決定事項という有様に猫の手でも借りたいような気分を抱いたのであった。

 




 オリキャラを足しただけでエグイ陣容に化ける始末。あ、これ死んだな(相手の心が)

 来訪者編のアニメ11話を見忘れていたことを思い出し、視聴しましたが……しれっと数字落ち(エクストラ)の情報が出て来るとか驚きですよ。第三研出身だと5つの家が出てましたが、自分の記憶の範囲だと三咲家(みさきけ)三宅家(みやけけ)の情報なんて原作小説に一切出てきてない筈です。まあ、達也の立ち位置を考えると出てこなくても無理はないのですが。

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