魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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慢心は出来ぬ

 大会3日目はシールド・ダウンのペアとピラーズ・ブレイクのペア決勝リーグが行われる。午前中は男子の試合で午後は女子の試合となるため、達也の担当が被ることはない。悠元はその様子を本部テントで見つめつつ、手元にある折りたたみ型端末を弄っていた。

 

「悠元君はいいのかい?」

「修司とレオの最終調整は昨日の段階で済ませていますからね。そもそもの話、予選の段階でレオの防御が突破できなかった時点で相手の負けは決定したようなものですし」

 

 シールド・ダウンのペア練習に付き合っていた時も桐原の『高周波ブレード』はおろか、沢木の『圧力波(マッハ・パンチ)』すら防ぎ切っている時点で、レオの防御力はかなり高い精度へと極まっている。これでもレオからすれば横浜事変やパラサイト事件の時の経験からして「まだまだだぜ」と述べてしまうほどにそう感じている。

 レオの防御魔法だけでも厄介なのに、修司の火属性の天神魔法は相手の情報強化すら嘲笑うかのように氷柱を斬り落としていく。現に、モニターに映っているピラーズ・ブレイク男子ペアの決勝リーグ第一試合では、もう既に相手陣地の氷柱が残り2本となっている。

 

 物体を切断するというイメージが強いのは専ら木属性(風属性)だと思うが、その気になれば他の属性でも物体を切断することは可能である。それに、修司は宮本家の人間なので剣術に長けており、物体を斬るイメージに関してはかなり長けていると踏んでいる。

 加えて、天神魔法の特性―――現代魔法を『喰らう』ことによって威力が増すため、情報強化はかえって逆効果になってしまうという訳だ。下手をすると会場を壊しかねないが、その辺は修司も考慮して威力を抑えている。

 ピラーズ・ブレイク男子ペアの決勝リーグに関してほぼ盤石となっているし、女子ペアについても最悪は雫の『フォノンティアーズ』で纏めて吹き飛ばす方法もあるため、特に心配はしていない。

 達也のことだから、その辺も見越した作戦を二人に伝えるのは既定路線である。

 

 シールド・ダウンの男女ペアについては、正直仕上がっているという他ない。男子ペアの十三束については、自身の魔法特性から『接触型術式解体(グラム・デモリッション)』や触れているものならば得意だが、自身のサイオンを飛ばすという遠隔系は苦手であった。

 十三束が昔魔法学者に言われたこと―――彼の“核”がサイオンを強く引き寄せる性質を持っている―――即ち『リンカーコア』の性質によるものと推察していたことを思い出し、改めて『天神の眼(オシリス・サイト)』で内密に解析した。その結果、十三束の『リンカーコア』はかなり特殊ということが判明した。

 

 『術式解体(グラム・デモリッション)』が最強の対抗魔法でありながらも普及しない理由は、消費するサイオンが高いとされていることだが……これは明らかに間違いである。

 魔法演算領域を経由こそしないが、『リンカーコア』から放出するサイオンを収束するという方法を取っているため、その際に制御しきれていないサイオンが大気中に放出されることで余計な消費が掛かっているのだ。

 達也の場合は桁外れた想子保有量もそうだが、本来普通に生活していても漏れ出ているサイオンすら制御していることで無自覚的に『術式解体(グラム・デモリッション)』の効率的な使い方を会得している。この辺は「流石、お兄様」と褒める以外の言葉が出てこないだろう。

 

 話が逸れたが、十三束の『リンカーコア』は一般的な魔法師よりもサイオンの収束・放出率が極めて高く、本来『ゲート』を通して発動する魔法の中で十三束から離れようとする魔法式に含まれるサイオンを大気中に含むものと認識して吸収してしまい、結果として遠隔操作系や放出系の魔法が上手く使えないという結果に至っている。

 

「でも、まさかあんな形で十三束君の悩みを解決するとはね」

「ちょっと考え方を変えてやっただけですよ」

 

 十三束の認識を変えたのは達也であり、『爆風(ブラスト)』の起動式を改良したのは千秋の功績。そして、そこにダメ押しという形で悠元が一つの起動式を提供した。

 その魔法は『防壁解体(シールド・デモリッション)』―――十三束の得意とする『接触型術式解体(グラム・デモリッション)』を疑似的にシールドで再現するだけでなく、硬化魔法の特性も併せ持っている。相手のシールドに展開した防御術式を無効化するだけでなく、そのまま相手のシールドすら叩き割ることも可能。

 

 離れた場所が苦手でも、手に持っているシールドを十三束の()()()()()として認識させる魔法―――加えて、硬化魔法は収束系魔法の一種なので、遠隔操作を一切必要としない。

 十三束には空気を扱う魔法が使えない、という情報を鵜呑みにしていた相手選手からすれば対処方法が一気になくなるだけでなく、十三束にヘイトを集めることで桐原が自由に動けるメリットも生まれる。

 

 男子リーグ決勝は一高と二高、三高による組み合わせとなったが、一高と三高がそれぞれ1勝ずつとなったところでの事実上の決勝戦。前情報を当てにしていた三高の選手は圧縮した空気塊を防ぎ切った十三束に驚愕していた。

 ここで勝負を決めに出た桐原が振動波の合成でリングを揺らし、相手の足元を揺らがせる。そして、桐原と十三束が相手ペアのシールドを破壊して優勝を勝ち取ったのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 3日目の結果はというと、ピラーズ・ブレイクの男女ペア共に1位。シールド・ダウンの男女ペアも共に1位を取っていた。

 シールド・ダウンの女子ペアは予選で三高と同じ組み合わせになるも、紗耶香の剣士としての見切りに加え、最早音速レベルといってもいいぐらいの動きを披露するエリカに翻弄され、相手選手はあっという間に場外へと弾き飛ばされた……主にエリカの高速移動による衝撃波のせいで。

 これにはエリカも不満気であったが、レオが来た途端に軽口を叩いていた辺り、彼女も素直ではないということなのだろう。この辺は幼馴染としての長い付き合いからくるものもあるわけだが。

 

 ピラーズ・ブレイクの女子ペアに関しては、完全に達也が真紅郎の作戦を読み切った形となった。氷柱を角の一点で立たせることで花音の『地雷原』を防ごうと目論んだのだろうが、練習の際に花音へ渡していた共鳴振動領域魔法『迅地雷源(じんちらいげん)』と雫の『フォノンティアーズ』で相手の氷柱を全て破壊しきり、優勝を勝ち取った。

 ペア4種で全て1位を取ったことにより、3日目を終えた時点で一高の点数は460点。2位を確保した三高は260点と大きく引き離しにかかっている。

 

 そして、大会4日目。今日はピラーズ・ブレイクの男女ソロ決勝リーグが行われる。午前が女子、午後が男子の予定となっており、出場選手となる悠元と深雪のコンディションは十全な状態となっていた。

 

「……分かってはいたことだが、エグイな」

「言葉にしないでくれ、悠元」

 

 深雪は決勝リーグの2試合を『凍刃爛舞(シヴァレイド・エッジ)』と『氷結六花(ダイアモンド・ダスト)』でほぼ10秒以内に完封するという強さを見せつけた。下手すれば相手選手にトラウマを植え付ける様なものだが、深雪はそれを気にするような素振りを見せず、寧ろ深雪の浮かべる笑みに魅入っていた。

 試合の関係で控室から見ていた悠元の言葉に対し、達也が窘めるように呟いた。

 

 悠元自身CADの調整はできるし、天神魔法の関係もあって他人に触れさせるのが難しい。だが、今回は達也も把握している魔法しか使わないため、仕上げの最終調整を達也に頼んだ。そこには深雪からのお願いも含んでいるのは言うまでもないが。

 

「調整が終わったから、確認してくれ」

「……ん、問題ないわ。いい仕事するよ、本当に」

 

 達也からの後押しを受ける形で、午後から始まったピラーズ・ブレイクの男子ソロ決勝リーグ。男子の決勝リーグは悠元と将輝、そして二高の選手という組み合わせとなった。

 第1試合の悠元と二高選手の試合は、開幕直後に『天壌流星群(ミーティアライト・フォール)』を発動させて、相手の最前列の氷柱4本を破壊し、それを触媒として大量の霧をフィールドに展開する。

 サイオンを知覚する術に長けていたとしても、視野が限定されたところに魔法を投射する技術は魔法科高校のレベルだと極めて難しいだろう。いや、現代魔法の範疇に広げても難しいのは否定できない。

 こちらの氷柱を視認できなくなったことで動揺する相手選手を待ってやる義理など無く、残り8本の氷柱を『天壌流星群(ミーティアライト・フォール)』で破壊し、勝負を決めた。

 第2試合は将輝と二高選手の戦いとなり、危なげなく将輝が『爆裂』で勝利を収めていた。

 

 そして、悠元と将輝が1勝同士で迎える第3試合。実質的な決勝戦だが、昨年の新人戦ピラーズ・ブレイクでは悠元が『天照絢爛(てんしょうけんらん)』で瞬殺して勝負を決めている。だが、同じ手段で悠元が勝つ気などない事を将輝は知る由もない。

 

 試合開始を告げる青色のランプが点灯した直後、悠元はフィールド全体に魔法を投射する。

 それを知ってか知らずか、将輝は『爆裂』を悠元側の全ての氷柱を範囲内に収めるように魔法式を投射する。

 

(今年は邪魔してこない?……なら、その油断を突かせてもらう!)

 

 将輝は『爆裂』を展開できたことに訝しむが、悠元が昨年の事から油断したと結論付けて疑問に思うことなく『爆裂』を発動させる。

 その時、将輝は気付いていなかった。悠元が僅かながら口元に笑みを浮かべていたことに。

 

「―――将輝。いくら昨年のことがあったとしても、俺が油断や慢心をするとでも思ったか?」

 

 将輝が『爆裂』を発動させた直後、フィールド全体に霧が発生する。これだと第1試合と同じように思えるが、霧が発生した直後に将輝は思わず顔を顰める。

 

「ぐっ……!?(な、何だこの膨大な量のサイオンは……)」

 

 相手への直接攻撃は禁止されているため、高密度に満たされたサイオンは24本の氷柱が置かれた競技フィールド内にしか発生していない。だが、サイオンを知覚することで魔法を行使している魔法師は嫌でもサイオンを知覚させられることになるため、競技フィールドに向けて魔法を行使している将輝が影響を受けている形だ。

 そして、将輝の放った『爆裂』による影響はというと……将輝側の前列4本がその被害を受けていた。

 

 悠元が行ったのは、昨年の新人戦モノリス・コードで使った高密度の霧とサイオンフィールドを発生させることで指定した相手の知覚を狂わす天神魔法『五里霧中(ごりむちゅう)』と『相転移炸裂弾(フェイズ・バースト)』、そして『ミラーフォース』のマルチキャスト。

 将輝の『爆裂』の威力を一時的に蓄積させ、将輝側の氷柱に対して『相転移炸裂弾(フェイズ・バースト)』で返しただけというシンプルな話だ。将輝側の氷柱全てを壊さなかったのは、悠元がこれから使う魔法を将輝に対して披露するためだ。

 魔法行使の動きが見られない将輝に対し、悠元は眼前に広がっている霧に向けて手を翳した。

 

「俺に『爆裂』は通じない―――王手(チェック・メイト)

 

 右手に持っている汎用型CADから起動式が読み込まれ、悠元は魔法―――『天澪環海(ゼロ・オーシャン・ブラスト)』を発動させる。その直後、将輝側のフィールドから噴き出す様に舞い上がる大量の水蒸気。そして、その水蒸気が霧雨のシャワーとなって観客席に降り注ぐ。

 舞い上がった水蒸気の余波でフィールドに展開していた霧も晴れ、無傷の状態となっている悠元側の氷柱だけが残っている状態となっていた。呆然とした表情を浮かべている将輝に対し、悠元は一息吐いてから真剣な表情を浮かべると、瞼を閉じて静かに頭を下げた。

 悠元が将輝に完勝したことで、悠元の決勝リーグ成績は2勝0敗。男子ピラーズ・ブレイクのソロで優勝を飾ったのであった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 大会4日目の結果はというと、ピラーズ・ブレイクの男女ソロで1位、シールド・ダウンの男女ソロで1位を取り、総合2位の三高を完全に引き離していた。現2年生の構成が大きく変わっているため、この成績は納得できるものであった。

 シールド・ダウンに関しては由夢と沢木がそれぞれ全試合で速攻を掛けて試合を決め、問題なく優勝を勝ち取っていた。

 

 ここまでに使用した魔法に関して問い合わせが相次いだが、それを一括で拒否した。起動式の改造自体は悠元が多少なりとも関わっているため、神楽坂家として魔法技術の漏洩を防ぐ意味でも問い合わせを拒否したのだ。

 国立魔法大学から『魔法大全(インデックス)』への登録を匂わせる様な問い合わせを受けたが、今春の魔法師排斥運動に対するカウンターを担った神楽坂家の次期当主である悠元に対して強く出ることが出来なかった。加えて、上泉家と神楽坂家の釘差しによって以後の問い合わせは起きなかった。

 

 そもそもの話、その起動式を一つ公表するだけで現代魔法の先進国であったUSNAは大幅な方針転換も含めて混乱を回避できなくなるだろう。仮説上の代物であった『リンカーコア』の存在が明るみに出れば、態々『ゲート』を経由しなければならない現代魔法は次第に廃れていく可能性があるからだ。

 悠元とて国外勢力の我が物顔をするような干渉は許さないが、現代魔法を飛躍的に進化させたいという欲は持ち合わせていない。レリック関連についても複製方法は確立しており、実験で完全再現可能だと判明しているが、表に出すのが拙いと判断して上泉家に預けている。

 

「……深雪、凄くご機嫌だね」

「そう言いつつ脇腹を抓らないでくれ、雫」

 

 雫とて自分の立場ぐらい理解しているし、深雪が悠元の部屋で寝ていることも把握している。いくら婚約者の一人とはいえ、春休みの際に腰が抜けるほど愛されてしまった経験からか、悠元に依存しすぎるのは宜しくないと思っている。

 なので、せめてもの抵抗として悠元の脇腹を抓っていたのであった。

 

「由夢も優勝おめでとう」

「ありがと、悠元。正直拍子抜けだったけれど」

「無理言うな。知り合いの同性だとお前の速力についていけるのがエリカぐらいしかいないだろうに」

 

 なお、三高の知り合いだと沓子がロアガンの女子ソロで2位、栞がピラーズ・ブレイクの女子ソロで2位を取っていた。彼女らも弱い訳ではないが、セリアと深雪が規格外なだけである。

 今日のお茶会はというと、さすがに知り合いだけで集まっても多すぎるため、達也、深雪、悠元、姫梨、由夢、修司、雫、ほのか、そしてケントであった。それ以外の面子は燈也がいる作業車でお茶会を楽しんでいる。

 

「えー、深雪と雫、それに姫梨は付いてこれると思うんだけどなぁ」

「由夢……そんなことをしたら、会場が壊れかねません」

「それは同意する」

「私でもそこまでは無理ですよ」

 

 由夢の言葉に対して、窘める姫梨に同意する雫、そして深雪は謙遜するように呟いた。実際のところ、『神将会』として力を磨かねばならないことは理解しているが、九校戦でその実績を披露するつもりなどなかったのは由夢とて納得している。

 その最大の理由は迫りくるスティープルチェースとドイツ絡みのせいなのだが。

 

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