魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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後は野となれ山となれ

 祝賀会では一緒に戻ってきたレオとエリカに対して追及が飛んでいたが、こればかりは彼ら自身の事なので助け舟を出す気もない……と、遠目で見ながら悠元は一息吐いた。

 

「本当にいいのかな?」

「下手に助けるとこちら迄火傷を負うぞ、幹比古。お前らも味わっていたわけだし」

「まあ、うん……そうだね」

 

 苦笑を浮かべる幹比古の横には顔を真っ赤にして俯いている美月がいた。二人は佐那の後押しで後夜祭のダンスを踊ることとなり、踊り終えた後で各々追及されていた。この辺を楽しんでいるあたり、佐那も父親譲りの性格をしているのかもしれない。

 

 国防陸軍の対大亜連合強硬派の中心人物であり、今回の九校戦の競技変更を推し進めた酒井大佐を始め、一派の中心人物は軒並み拘束された。その拘束に動いたのは他ならぬ剛三であり、作業車でピクシーと水波を守り切った上で駆け付けた警備員を黙らせ、その足で酒井大佐らのグループすら抑え込んだ形だ。これだけ精力的に活動したとしても、本人からすれば「準備運動程度」と片付けられることでしかないわけだが。

 外敵を早急に排除したいという思想は一定の理解を示すが、仮に大亜連合の力が弱まれば今度は新ソ連が出張ってきかねない。下手をすれば、この国と新ソ連の軍事衝突が発端となって四度目の世界大戦が起こる可能性もあるのだ。

 

 九島家をはじめとした「九」の家に対しては佐伯と風間が動く手筈となっていて、今頃はその辺の話し合いもしていることだろう。『元老院』の考え方自体は理解できなくもないが、この国が国家の体を成すために必要とされるものは大国と比べて遥かに大きい。

 その辺のことは千姫や剛三も理解していることなので、まだ救いはあるだろうと考えている。

 

「悠元にも言えることだよね。次の会頭になってほしいとお願いされたわけだし」

「それを決めるのは生徒の選挙だけれどな。お前も人のことは言えないと思うぞ」

 

 服部からは次の部活連会頭として悠元を指名した。とはいえ、CAD携行の関係で生徒会選挙を挟む形になるために決定事項とは言えないものの、昨年度の生徒会選挙で無効票ながらも全校生徒の約3分の1を得票している以上、ほぼ内定していることに関して悠元は内心で溜息を吐きたかった。

 更には、二科生から一科生へと上がったことで注目されている幹比古も次期風紀委員長の呼び声が高い。同じぐらいの評価を雫も得ているが、その雫は委員長という面倒な仕事を抱えたくないという理由で幹比古に押し付けようと画策している。

 

 前人未到の四連覇という偉業からくる喧騒を見つつ、この喜びも一時的なものに過ぎないことを悠元は誰よりも強く感じていたのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 西暦2096年8月16日。中華街の一角を襲っている黒づくめの集団を『霊亀』で感じ取っていた悠元は『天神の眼(オシリス・サイト)』をそちらに向けていた。なお、今悠元がいる場所は箱根の神楽坂家本屋敷の私室からだった。

 

(黒羽の部隊で、追いつめている対象は周公瑾……『元老院』の差し金の可能性が高いな)

 

 そもそも、彼の危険性を考慮するならば『無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)』や『ブランシュ』、横浜事変の折に排除しても不思議ではなかった。パラサイト事件のことも然りである。そうなると、今回の事件の裏にも周公瑾が大いに関係している証左だろう。

 単にパラサイドールを暴走させる術式を持たせた方術士を送り込んだ罪だけで動くわけもなく、周公瑾自身の正体に気付いてようやく動いた……その辺の因果関係は既に神楽坂家で把握していることだが。

 

 最初は加勢も考えたのだが、神楽坂家の試しの儀である『月夜見(つきよみ)の儀』が近いこともあり、自室での待機を命じられた。現場には達也と文弥が向かっており、相手が卓越した方術使いと言えども後れを取ることはないだろう。

 万が一を考えて遠隔からの魔法発動ということですぐ傍に『ワルキューレ』と『オーディン』を置いているが、『霊亀』から流れ込んでくる映像情報で周公瑾が化成術『哮天犬(シャオピェンチェン)』で黒羽(くろば)(みつぐ)の右腕を引き千切り、その隙に逃げ果せた。

 認識している以上は魔法を使うことも出来たが、ここで周公瑾に退場されては困るためにその行使はしなかった。引き千切られた貢の腕は駆け付けた達也が『再成』で瞬時に治していた。

 これで一つの顛末を迎えたと判断して『天神の眼(オシリス・サイト)』の発動を止めると、扉の向こうから声が聞こえてきた。少なくとも屋敷の中で聞き覚えのない声だな、と思いつつも悠元は立ち上がった。

 

「若殿、奥様がお呼びでございます」

「分かりました……聞いてはいましたが、何をやってるんですか」

 

 悠元が扉を開けた瞬間、思わず目を見開いてからジト目に変わった。何故ならば、そこには使用人が袖を通す着物(温泉旅館の従業員が身に着ける様な軽装とも言えるが)に身を包んでいて、正座している深夜の姿があった。

 そして、それを微笑ましそうに見ているカジュアルな姿の千姫がその背後にいた。

 

「勿論、若殿の御世話役ですから」

「……とりあえず、部屋の中に入ってください。それと母上も」

「そうね、流石に部屋の外だと風邪を引いてしまいますから」

 

 この屋敷に入る際は姿を見せなかったわけだが、千姫の説明では次期当主となる悠元の世話役として深夜を宛がうことにした。いくら現状がシングルマザーみたいな状態とはいえ、婚約者序列第一位となっている深雪の母親を使用人として迎えるのは常軌を逸しているとしか思えなかった。

 部屋に備え付けられた炬燵に入ったところで千姫が話を切り出した。

 

「悠君なのですが、儀に関しては免除としたく思います」

「……理由をお尋ねしても?」

「『天照(アマテラス)』もそうですが、『月読(ツクヨミ)』の単独正式発動は現状だと悠君にしかできない所業です。この状態で力試しをしたところで他の参加者の心を折りかねませんから」

 

 ただ、要らぬやっかみを考慮して自室で待機するように命じられた、というわけだ。今頃は修司や由夢が儀式に向けての準備を進めていることだろう。その上で悠元はここにいる深夜についての質問を投げかけた。

 

「それは了解しましたが、深夜さんがいる前で話していいので?」

「深夜ちゃんは悠君の専属使用人にしますので、少しでも悠君のことを知ってもらうには丁度良いと判断したのです。勿論、深夜ちゃんをどう扱っても悠君の自由ですよ」

「どう扱っても、って……」

「性的なものも含みますね。所謂愛人ポジションよ」

 

 アッサリと言いのけてしまう性根の強さはさておくとしても、政略結婚した元夫が愛人と結婚したことを引き摺っていないのは確かだろうが、婚約者ではなく愛人ポジションで深夜が納得したことには驚きを禁じ得なかった。

 これに関しては深夜がこう説明した。

 

「私は表向きに見ればバツイチの子持ちだし、深雪の機嫌を損ねたくないもの。私は悠元君の寵愛を受けれれば文句はないし、お世話をしてあげたいって気持ちは本当だから。望むなら、いくらでも抱いていいのですよ?」

「……」

 

 ある程度の説明を終えると、千姫は「お二人でごゆっくり」と言いのけてその場を去った。しかし、外見は20歳代半ばぐらいとはいえ、実年齢は生まれの母である詩歩とほぼ同い年……それに、恋人もとい婚約者の母親を抱くというのは道徳的にどうなのかと悩んだ訳だが、そんな悩みは深夜が徐に立ち上がり、身に着けていたものをその場で脱ぎ捨てたことでその思考が綺麗に拭き取んだ。

 

「あの、何やってるのですか?」

「若殿……私じゃご不満でしょうか?」

 

 ある程度の自制は出来ていても、若さを保っている魅力的な身体に一人の男性として諍えるはずもなく……何かのスイッチが入ったように立ち上がると、そのまま深夜を押し倒したのだった。

 

「そうやって誘惑する以上、覚悟してもらいますからね?」

「はい。お好きなようになさってください、“ご主人様”」

 

 『据え膳喰わぬは男の恥』と言い訳するつもりはないわけだが、そうやって挑発する以上は何をされても文句は言えないという意味を込めて、気の向くままに彼女を抱いた。

 九校戦の時は何とか深雪の魅力に負けないように頑張っていたのだが、気が付かない間にストレスを溜めていたのかもしれない。何度も言っているが、それでも最後の一線だけは死守している。

 そして、翌朝……悠元は一つ息を吐いて目の前に映る光景を見ていた。

 

「……自分の責任なのは自覚するが、深雪は積極的だな」

「だって、九校戦の時はしてくれませんでしたから」

 

 詳細を話すと、深夜との“夜間戦闘”の折に自室へ入ってきた深雪と沓子がそれを見て負けじと乱入する形となり、何が起きたのかを語りたくても語れない『あられもない有様』へとなってしまった。

 悠元の両端には一応布団を掛けて深い眠りに就いている沓子と深夜がいて、布団を掛けて仰向けに寝ている悠元に覆いかぶさる形で深雪が身体を密着させている。ようは悠元と掛布団の間に深雪がいるわけだが、この時点で何をしているのかは察してほしい。

 

「お互い競技がある以上は仕方ないでしょうに……怒らないのか?」

「お母様が悠元さんに向けている感情は気付いていました。でも、一番は絶対に譲りませんから」

 

 正直な話、どこまで耐久出来るのかと考えたことはある。だが、相手を肉体的にも精神的にも壊してしまう可能性があるため、無茶はさせない様に心掛けている。精魂が尽き果てるという感覚を味わうどころか、更に増している有様には……強靭となっている自分の身体に対して盛大な溜息を吐きたかった。

 別に魔法師として強くなる分には構わないが、前世のことも考えると相当抑え込まれていた欲が転生したことで吐き出されているのかもしれない。こうやって他人事のように話せるのはある意味達観しているからなのかもしれないが。

 

「序列に関しては俺が触れていい領分じゃないからな。そこに納得しているのなら口を出す必要もないし……どうした、深雪?」

「だからこそ、私も含めて色んな女性から好かれるんですよ」

「意味が分からん」

 

 別に女性たちの好感度を稼ごうとして目立っているわけではない。

 単に魔法師としての実力を“魅せる”という意味合いで目立っているだけだし、「クリムゾン・プリンス」に関しては完全に前世の兄の面影が見えてしまっているため、それにムカついてボコボコに負かしただけだ。

 深雪からすれば、そういう行動だけでも悠元への好感度がストップ高となってしまうわけだが。

 

 なお、沓子と深夜に関しては腰が抜けてしまい、結局は自分が治すことによって二人の好感度が更に上がってしまうこととなった。沓子曰く「愛梨に知られたら嫉妬で殺されそうじゃ」とのことらしいが……昨年の後夜祭で見せた嫉妬の様子からして冗談で済まなくなるので止めてほしい。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 そんな出来事の後、中華街での手助けを終えた達也を労う形で悠元が神楽坂家本屋敷の自室に招いた。使用人もとい深夜が出してくれた玉露と茶菓子に手を付けつつ、悠元が話し始めた。

 

「すまないな、達也。周公瑾絡みを四葉家に丸投げするようなことにしてしまって。本来なら俺も手助けするべきだったんだろうが」

「いや、悠元の場合はパラサイドールに加えてローゼン・マギクラフトのこともあった訳だからな。この場合はお互い様だろう」

「そういうことにしておこうか」

 

 ローゼン家絡みについてだが、バスティアン・ローゼンの遺言に基づきルーカス・ローゼンの名誉回復がドイツ政府の指示で成された。悠元が飛ばしたヴァールブルク姉妹の存在をドイツの国家元首が知り、更には千姫が直接ドイツにいる『十三使徒』ことカーラ・シュミットへその詳細を伝え、忽ちドイツ政府の知るところとなった。

 ルーカス・ローゼンの願いを聞き遂げるという意味でドイツ政府がローゼン・マギクラフトに対して従業員及びその家族に対しての雇用保障をサインさせ、更には当面日本を含めた東アジア方面への事業拡大策を禁じた。

 

「しかし、エリカのことは幹比古から聞いていたが、レオもその一人だったとは。春休みの一件で難しい表情をしていたのも頷ける」

「おや、達也は聞いてなかったのか?」

「迂闊に踏み込んでいい話題でもなかったからな。とりわけ四葉(うち)の事情は悠元も知っているだろう?」

「まあな」

 

 日本支社長であるエルンスト・ローゼンは支社長職を留任。だが、今回の事態は日独間の国際問題へと発展しかねない案件の為、ローゼン家の次期当主候補から外された。それでもローゼンの名を名乗り続けることは許されたあたり、身内に甘い裁定となったのは確かだろう。

 演習林での戦闘データはヴァールブルク姉妹の記憶から完全に消し去っており、レオやエリカの持っている並行思考操作型CADのことは秘匿されたままとなった。

 

「パラサイトも面倒だが、国防軍も相当だわ……国外もそうなんだろうが」

「今日は何時になく辛辣だな」

「達也が来る前に九島烈と会っていたからな。深夜さんの姿を見て驚愕していたが」

「母上のことは俺ですら驚きを禁じ得なかった」

 

 エルンスト・ローゼンの遺産引継ぎは無事に済み、放棄していたアンナ・ローゼン=鹿取の遺産相続分の倍額に相当する金額をドイツ政府が“慰謝料”としてエリカとレオに支払った。二人は固辞しようとしたが、その引き渡しの代理人が剛三ということもあって断るに断れなかったのだ。

 

 烈との会談は30分程度のものだったが、彼の表情はどこか肩の荷が下りたような面持ちであった。だが、悠元は彼に鞭を打つような形でこう告げた。

 

『ならば、光宣(みのる)が誇れるような九島の在り方ができるよう、残りの人生を全て賭してでも成し遂げてください』

 

「―――とまあ、こんなところだろうな。もう少し普通の高校生らしい休みが欲しくなるわ」

「……悪いんだが、悠元。そうも言ってられなさそうだ」

「何かあったのか?」

 

 達也がそう言って差し出したのは一枚のデータカード。悠元は折りたたみ型端末をテーブルの上に置いてカードを差し込み、データをつぶさに確認していく。一通り見終えたところで悠元は深い溜息を吐いた。

 

「『進人類(しんじんるい)フロント』による東京オフショアタワー爆破計画……これをどこで?」

「中華街で周公瑾のアジトに乗り込んだ際、文弥が残っていた端末から見つけたものだ」

 

 最初は周公瑾の潜伏先を探るために端末を弄っていたのだろうが、そこから出てきたのは魔法師を新たな人類として主張する過激派の一つが超高層建築物(ハイパービルディング)を破壊しようと目論んでいること。

 東京オフショアタワーは高さ2000メートルという破格的な高さを有し、旧港区の人工島である“お台場”に建築された。四つの大陸プレートにより頻発する地震対策として、振動を吸収するための耐震装置だけでなく、FLTで開発されたジャイロドライブシャフトが常時回転することにより、高層建築物が影響を受けやすい風の対策も万全となっている。

 

「タワー爆破ってバカだろ……このタワーが万が一崩れたら、落下物による津波の被害が下手すると東京湾全域にまで波及しかねないんだぞ」

 

 万が一電力供給が止まった場合は地下35階で待機している魔法師によってシャフトを回転させることで対応することになっているが、彼らからすればそれが許せないのだろう。無論、危険が伴う仕事なので危険手当も含めればかなり高額な報酬が支払われる。それに目を瞑って実行するとなれば、単純に馬鹿としか言いようがない。

 津波の被害が起きた場合、近くに存在する東京湾海上国際空港が最も被害を受けることになる。最低でも数週間から1ヶ月は通常運行が不可能となり、その損害額は計り知れなくなる。下手をすればこの国の国際信用度にも関わってくる話だ。

 尤も、こちらから喧嘩を吹っかけてこなかったとしても、魔法という一要素で喧嘩を吹っかけてきている国外勢力とか国家とかもいるわけだが。

 

 タワーのプレオープンを記念してパーティーが開かれることとなっており、悠元もビジネスネームである『神坂佑都』として招かれている。尚、このパーティーには雫とほのかが参加する手筈となっていて、深雪と水波も同席する予定だ。ちなみに達也はパーティーに参加せず、テロ工作の対策として黒羽姉弟の手伝いをすることとなっている(本人曰く「目立つのは嫌いだからな」とのこと)。

 原作にない流れと展開に、正直なところ考えられるだけの対策は立てているが、あとはなるようにしかならないだろう。

 




 表現としてはどうなのかと思いましたが、小説のSS巻だともろに言葉として性交渉が使われてるので、この程度ならば問題はないと判断しました。いくら理性が働くとは言え、今の主人公は思春期の男の子ですので。
 本人としては流されたくないと思いつつ、魅力的な女性には諍えない。それでも一番は変わらないわけですが。
 後半は来訪者編アニメオリジナルへの展開も含めての流れで組み込みました。それをやってから古都内乱編に入る予定です。
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