魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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タワー一つ直せずして世界相手に戦えない

 『進人類フロント』による爆破予告の映像が切れた後、東京オフショアタワーのスカイラウンジは瞬く間に騒めきへと変わった。海抜2000メートルという高所に閉じ込められた状態なので、我先に逃げ出そうとする人も多い。この場にいる参加者の大半が非魔法師なので致し方ないだろう。

 

「……仕方ないか」

 

 この場にいるタワーの警備員の負担を減らすため、悠元は『流星雪景色(ミーティア・スノーライト)』に情動干渉系魔法『梓弓(あずさゆみ)』の効果を乗せてこの場にいる参加者全員に放つ。魔法が放たれた後、先程までのパニックが嘘のように消え、警備員の声が通るようになったお陰で綺麗に列を成していた。

 それを見届けつつ、悠元はほのかにデバイスを差し出した。

 

「悠元さん、これは?」

「飛行デバイスだよ。ただ、緊急時に使うものだと考えてほしい。雫は自前のものがあるし、俺らは自分用に調整したものを持っているから安心してくれ」

 

 ほのかは自前の飛行デバイスを持っていないが、内蔵されている起動式は達也がほのか用に調整済みのもの。ちゃんとしたものは後日達也が渡すとのことだが、まずはこの状況を切り抜けるのが先。雫は家族のこともあるので、ほのかに同行するよう言い含めている。

 

「悠元に深雪、水波。気を付けて」

「その、無理はしないでくださいね」

 

 これから何をするのかという察し方をされていたが、必要以上のことを聞かずに去っていく二人の後ろ姿を見届けると、葉山の姿を視界に一瞬入れてから深雪と水波のほうを向いた。

 

「深雪、水波。俺らも行こうか」

「はい」

「分かりました」

 

 三人は葉山に近寄り、悠元が率先して声を掛けた。

 

「葉山さん。今回の状況をどこまで把握されていますか?」

「悠元様や達也殿とほぼ同じ程度のものです。タワーの爆破を回避できれば、それに越したことはございませんが……」

「それは、『あの方々』も同様と捉えて宜しいですか?」

 

 正直なところ、『元老院』が何らかの保険を四葉家に掛けているのは予想していたが、葉山がその『元老院』のエージェントを兼ねているのは息子の忠成から聞かされるまで知らなかったことだ。

 悠元の発言に深雪は訝しむがそれ以上のことは聞けず、葉山はその問いかけに対して頷く形で肯定の意を示した。その上で葉山は悠元にお願いをした。

 

「悠元殿。本来ならば神楽坂家の貴方様に出張って頂くことではございませぬが、どうかお願いできますでしょうか?」

「事態は急を要する以上、ここで見て見ぬふりは出来ないでしょう。そのお願い、引き受けさせていただきます」

「分かりました。水波、深雪様と悠元殿をしっかりとお守りするように。それが奥様からの伝言です」

「は、はい! 承りました!」

 

 伝えるべきこと伝えた上で離れていく葉山。テロリストもとい進人類フロントのリーダーは“1時間”と言っていたが、そんなに悠長な暇を与えてくれるとはとても思えない。ともあれ、地下1階の管理センターに向かう必要がある。

 

「悠元さん、どうやって下に向かうのですか? エレベーターでとは言いませんよね?」

「それこそまさか。一番手っ取り早い方法を使うまでだよ」

 

 悠元ら三人が向かった先はタワーの外壁部のすぐ内側。悠元は持っていた『オーディン』で外壁に向かって魔法を放つ。すると、外壁の一部に円形の映像のような描写―――壁の外側に映る風景が映し出されている。

 

「あの中に飛び込めば、すぐ外に出る。いいか?」

「はい」

 

 先んじて悠元がその魔法―――『鏡の扉(ミラーゲート)』を飛行魔法を展開した状態で飛び込む。深雪も水波と一緒にその中へと飛び込む。補足しておくが、水波には予め彼女専用の飛行魔法デバイスを渡している。

 三人が高度2000メートルにも達する上空に移動したところで悠元は『ミラーゲート』の発動を停止した。気分はさながらパラシュート無しの疑似スカイダイビングだが、楽しんでいる余裕がないのも事実だ。

 地上との相対距離に合わせて飛行魔法を発動し、悠元が地上に降りてから続いて降りてくる深雪と水波に手を差し伸べる。二人もその手を取ってゆっくりと降下したが、水波は高高度からの着地は初めてのようで、思わず腰が抜けてしまった。

 

「あ、す、すみません」

「いや、水波の反応が普通だよ。ともあれ、急ぐぞ」

 

 タワーの正面から避難で無人になっている1階を通過して地下への階段を下りる途中で、悠元は踊り場で屈んで『天神の眼(オシリス・サイト)』で地下の様子を探る。

 

「地下1階の管理センターに五人。地下2階から地下34階、地下36階は無人。地下35階に35人……非常事態に備えている筈の魔法師が昏睡状態に近い形で眠らされているな」

「タワーにいる進人類フロントの人数は五人ですか?」

「いや、地下35階にいる魔法師全てが正規の人間とは限らない……近くの湾岸で銃撃戦とは、かなりの組織力を持っている……ん?」

 

 湾岸に意識を向けたところで、悠元は微かなサイオンの揺らぎを感じた。そして、『聴覚強化』で本来人間では捉えることが出来ない波長―――地震波を感じ取った。それを認識した悠元の対応は早かった。

 

「二人とも、直ぐに屈め!」

「っ!? ……これは、爆破ですか?」

「違う、地震だ」

 

 救いなのは、シャフトを含めた耐震システムが非常用の状態で稼働しているため、タワーに対しての被害はほぼないだろう。ただ、これが自然の地震なのかという疑問は残るわけだが……厄介なのは、この地震によってエレベーターが緊急停止によって地上181階で停止している上に、そのエレベーターには雫とほのかが乗っている。

 

「今の雫の魔法力なら、エレベーターにいる人間全員を無事に地上へ降ろすことは出来るが……エレベーターを通常稼働に戻した方が早いだろうな」

 

 悠元は先程の管理者コードでエレベーターを独立稼働状態に戻した。このタワーへのメイン送電システムは一つだけだが、不測の事態に備えての予備システムが3つほど存在しており、その内の一つを稼働させてエレベーターを通常稼働状態に切り替えた。

 

「これでタワーに残ることになるのは、俺らと進人類フロント、そして地下35階にいる魔法師や警備員らだけになる……5分待ってから動くぞ」

「はい。それにしても、流石は悠元さんですね」

「大したことはしてないよ」

 

 これだけの超高層建築物に何の対策も施さないのは危険極まりなかった。何せ、この世界は魔法の力があるだけにだ。なので、そのタワーの話を聞いたときに剛三へ随分無理を言って計画に参加させてもらう形とした。

 深雪からの誉め言葉に対して謙遜気味に返しつつ、エレベーターが無事に1階へ到着し、雫たちが外へ出たところを確認してから動き出す。

 

 地下1階の管理センターに続く通路を極力音を立てない様に近付き、『天神の眼(オシリス・サイト)』で相手の動きを見る。すると、先程まで管理センターにいた五人の内、二人がライフル銃を手に見張っていた。

 相手のメンバーの中には知覚系魔法の持ち主がいて、視られていた感覚は既に感じていた。彼らの配置変更でそれが確証に至った形だ。

 

 悠元は歩いて彼らに近付く。彼らは不審者だと判断して悠元にライフルを構えて放つが、そこで水波が単層障壁を展開して悠元への物理攻撃を無力化し、その反射した弾が彼らに向かう形となって彼らが退いていく。

 タワーには地上部分に誰も残っていないため、別に交渉する必要などない。だが、彼らの真意を聞くべきだと判断して悠元はそのまま歩を進める。すると、向こうから先程の男性二人に加えてもう一人の男性が姿を見せた。

 モニターではガスマスク越しに話していた人物なのは間違いなく、その彼は自らを『カンペール』と名乗った。

 

「これはこれは……お待ちしておりましたよ、三矢悠元殿。失礼、今は神楽坂悠元と名乗られていましたね」

「……待った覚えも何も、俺はあんたらの事など知らないんだが?」

「これは失礼を致しました」

 

 恭しく挨拶をする『カンペール』もとい(みさき)(ひろし)に対し、悠元は警戒するような視線を岬らに向けた。

 彼の視線は以前似たような感覚―――昨年春におけるブランシュの一件で、達也の持っていた『疑似キャスト・ジャミング』を欲した(つかさ)(はじめ)が達也をブランシュの同志に勧誘した時と似たような感覚に極めて近かった。

 

「元は十師族・三矢家の人間でありながら、貴方の兄や姉らが覚醒していく中で家を追い出される憂き目に遭った。我々はその才能を非常に惜しんでおります」

 

 数字(ナンバー)を剥奪される理由とすれば、普通は既定の能力を有していないか人道的に憚る内容でないと辻褄が合わない。そもそもの話、悠元が転生して数ヶ月の段階で三矢の家や家業を継がないと現当主に宣言している事実はほぼ内輪の話に止められている。

 その部分と神楽坂家の本質を知らない人間からすれば、悠元の人並外れた能力を危ぶんで三矢家から追放された、と受け取ったとしても何ら不思議ではないのだ。まあ、原作では別の勢力が人外の存在を追放しようと目論んだりはするが、今は置いておく。

 

「我々ならば、貴方に然るべき立場と報酬をお約束いたしましょう。その上で我々が―――」

「言いたいことはそれだけか、カンペール。いや、(みさき)(ひろし)

 

 岬の言葉を遮る形で悠元は素早く『オーディン』を懐から取り出し、岬の両側にいる男性のライフルを分解し、更に男性二人に対して『ダイレクト・ペイン』で気絶させた。驚きを隠せない岬は叫ぶように悠元へ言い放った。

 

「何故ですか!? 貴方は悔しくないのですか!? それだけの力を持ちながら、十師族の立場を追われた貴方が!」

「追われた、というのは貴方方から見た推論でしかない。本当の事実も知らない貴方方が俺の何を知っているんだ?」

 

 岬らが知っているのは、悠元が三矢の姓を名乗らなくなったという事実だけ。もし、この時点で師族会議との確執があるようならば、そもそも九校戦で目立とうとはしないだろうし、実家との諍いがあれば何かと他の十師族が囲い込もうとしてくるだろう。

 

「……っ! やれっ!!」

 

 岬の命令に従う形で通路の曲がり角の先から飛んでくるダガータイプの武装一体型CAD。その術式がスターズで良く用いられている『ダンシング・ブレイズ』というのはすぐに分かった。だが、国家非公認の魔法結社の一つである『進人類フロント』のメンバーがその術式を使っていることには違和感を覚えた。

 そのCADは水波が障壁で防いだが、女性二人が両手を翳して発動させた『キャスト・ジャマー』によって水波の障壁が強制的に解除される。岬は倒れ込んでいる男性らの背中に手を当て、女性らは岬の肩に手を置く。すると、男性らが持っていた武装一体型CADも含めてかなりの数の武装一体型CADが悠元目がけて飛ばされる。

 

「―――俺が言えた義理じゃないが、身の程を知れ」

 

 悠元は『オーディン』を構え、『分解』で『キャスト・ジャマー』と武装一体型CADを消し飛ばした。それに動揺する岬らだが、間髪入れずに放たれた『零点銀世界(ゼロ・ニブルヘイム)』で岬らは瞬時に凍らせられた。

 気が付くと悠元の隣に深雪が立っており、先程の凍結魔法は深雪によるものであった。何はともあれ面倒事は回避できたと思っていた悠元だったが、地下35階で『共振破壊』の発動兆候を感じ、『術式解散(グラム・ディスパージョン)』で魔法式は速やかに破壊したものの、物理法則改変の影響がタワー最深部にあるシャフトに深刻なダメージを与えているのが確認できた。

 

「……やってくれたな」

「何があったのですか?」

「細かい事情は後で必ず話す……深雪に水波、今すぐタワーから脱出しろ。水波、深雪の守りは任せる」

 

 タワーのシャフトの修復を単体で行うのは簡単だが、こういった超高層建築物は緻密なバランスで成り立っているため、柱を1本ずつ修復したところで他のシャフトに負荷が掛かって結果的に全てのシャフト―――タワーそのものを修復しなければならなくなる。

 達也の『再成』では恐らく処理がぎりぎりのレベルになるであろう。そうなると、自分が出張るしかなくなる。その場に深雪を居合わせるのはリスクが大きいため、水波に深雪の護衛を優先するよう指示を出す。

 

「悠元さんは、どうされるのですか?」

「最深部に降りてこのタワーを修復する。……付いてきたい気持ちは分かるが、ここは我慢してくれ。っと、丁度迎えも来たな」

「悠元、深雪に水波。……どうやら、喫緊の事態のようだな」

 

 すると、タワーの異変を察してなのか、達也がその場に姿を見せた。達也もタワーの状態を深雪を経由する形で把握しているようで、こうなれば話が早いと悠元は達也のほうを向いた。

 

「達也、深雪と水波を連れて脱出してくれ。ここから先は俺がきっちりと受け持つから、心配しないでくれ」

「……分かった。帰ってこないと、俺が直接最深部に潜り込むからな」

「お兄様!? ……悠元さん、お気をつけてください」

「分かってるよ……それじゃ、行ってくる」

 

 ある意味心配されている、という達也の言葉を聞き終えた上で、悠元は凍らせた岬を無視して走り出した。最深部に繋がるエレベーターの空洞部を経由して最深部のシャフトと油圧式ダンパーが置かれた部分に到着する。

 柱の数本がひび割れを起こしており、このまま放置すればあと数分でタワーが崩壊を始めてしまう。悠元は『オーディン』をしまい、『ワルキューレ』を取り出して天井に向けて構えた。

 この状況で使う魔法は一つ―――天神魔法『天照《アマテラス》・五行相生(ごぎょうそうせい)天陽照覧(てんようしょうらん)』。これまで使ってきた規模とは桁外れとなるが、悠元に躊躇いは無かった。

 

「このタワーを修復できないようじゃ、この先世界を相手になんて出来る訳がないからな……やるか」

 

 悠元は『ワルキューレ』の引き金を引き、八重の起動式が展開する。それは『天陽照覧(てんようしょうらん)』を発動させるための陰陽五行七天陣を組み上げていくための魔法。

 

「エイドス変更履歴、取得。タワー構造情報、素材情報取得。タワー全情報統合完了。陰陽五行七天陣、効果対象をオフショアタワー構造体の全体に設定」

 

 『ワルキューレ』のリミッターをすべて解除し、桁外れた高密度のサイオンと『万華鏡(カレイドスコープ)』によって得た規格外の魔法演算領域で瞬く間に組みあがっていく魔法式。そして、崩れそうになるタワーを押し止めるために精霊の力でタワーそのものに重力制御を発動させる。

 

「さあ、いくぞ―――『天陽照覧(てんようしょうらん)』、発動!!」

 

 悠元の決意を込めた叫びにも近い言霊が魔法に乗せられ、タワーは眩い光に包まれていく。その光が晴れると、東京オフショアタワーは何事もなかったかのように健在していた。その様子をタワーの外で見ていた水波は驚きの言葉を口にしていた。

 

「これが、悠元兄様のお力……これが、人間の成せる業なのですか……?」

 

 水波は事前に達也や悠元の力を知識として知らされていたが、実際に目の当たりにした訳ではなかった。今回、悠元がこれだけの建築物を瞬時に直し切った悠元の力に驚愕せざるを得なかった。

 その一方、深雪は心配そうな表情でタワーを見つめていたが、正面玄関から少し疲れたような表情を見せる人物の姿に表情をほころばせ、一目散に駆け寄ってその人物もとい悠元を抱きしめた。

 

「悠元さん! ……おかえりなさい」

「ああ、ただいま。って、泣かないでくれよ……心配させたのは謝るけどさ」

 

 ただでさえ女性としての魅力が増している婚約者に抱き着かれること自体嬉しいことだが、性欲のほうも強まってしまうために抑えようと必死だった。そんなことを考えてしまうあたり、自分もこの世界に大分染まってきたのだなと思う。

 深雪に続く形で達也と水波も悠元の元に近付いた。

 

「お疲れだな、悠元。進人類フロントのメンバーについてはこちらで回収するように手配したが、大丈夫か?」

「ああ、構わないよ……達也、彼らは本来スターズが使っていた魔法をいくつか使用していた。詳細の報告は後でするが、単に“彼”の仕業だけではなさそうだ」

 

 四葉家だけではなく、岬寛のことも含めると第三研を管理している実家の三矢家にも連絡を入れなければならない。更には神楽坂家と上泉家にも今回の顛末を報告せねばならないと思うと、悩みごとが尽きそうにないと悠元はそう感じたのだった。

 




 リアル仕事が多忙だったため、更新頻度が下がってました。後はゲームのモチベが上がってきたのもありますが。
 進人類フロントの使っていた魔法がスターズが使っていた魔法も含まれていて、原作小説のほうでも別の数字落ちが過激派の魔法結社に参加していることを考えると、繋がりぐらいはありそうな気がします。
 後日談的な部分も含めてあと1話ぐらい書いた後、古都内乱編に入っていく予定です。
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