魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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平穏な未来への一石

 旧群馬県高崎市にある上泉家の本屋敷。その離れにて、剛三は目の前にあるモニターと向き合っていた。88歳という高齢ではあるが、現代魔法の知識を吸収するために機械関連の知識や操作も今の若者と互角以上に使いこなしている。

 そして、剛三が今話している相手は神楽坂家現当主である千姫であった。

 

「本来ならば顔を合わせるべきだろうが、多忙故にすまないな」

『いえ、ローゼン・マギクラフト関連のこともあるでしょうし、お気になさらず』

 

 上泉家はローゼン・マギクラフトのことと国防軍が九校戦で暗躍した件も含め、上泉家が主導する形で九校戦の運営体制を見直すこととなった。昨年の『無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)』による浸食も含めれば、その対応は妥当ということで国防軍や魔法協会は拒否できなかった。

 その辺りの領分は本来現当主である元継が担当すべきなのだが、彼は今別件で上泉の本屋敷を離れており、加えて上泉の人脈という観点から剛三がその役割を請け負っていた。

 

「先日の東京オフショアタワーの件だが、進人類フロントのメンバーが本来スターズでしか公開されていない『ダンシング・ブレイズ』に加えて『キャスト・ジャマー』を使用していたと悠元から聞き及んだ」

『その報告はこちらでも聞いています。パラサイト事件の時に周公瑾がその情報を得た可能性もありますが……問題は、進人類フロントがUSNAにおける魔法結社のいくつかと繋がりを有していた事実です』

 

 魔法師社会は全人類の人口比で見れば少数の世界。単独では力が及ばないからこそ、協力体制を築くことは自然の流れとも言えよう。数年前の旅行で剛三や悠元にちょっかいを掛けようとした組織をある程度は“間引き”したが、利口な連中は剛三や悠元への手出しを控えてその被害を免れていた。

 

顧傑(グ・ジー)は面倒な相手よの……己がUSNAに利用されているとも気付かずに。いや、この場合はエドワード・クラークに利用されている、と言うべきか」

『確か「エシェロンⅢ」の開発者の一人でしたね』

「情報で世界の覇権を握りたい欲は理解できるが、そのとばっちりを受ける側からしたら面倒なものとしか断言できぬがな」

 

 剛三や千姫は、かつて世界群発戦争で全面核戦争の回避を行うために国際的な超法規的遊撃部隊の一員として参加していた。それはあくまでも核の傘を自力で持たないこの国を護るための戦い。結果として周辺国による侵略で被害は受けたものの、国家としての体裁を守ることは出来た。

 海洋国家であるこの国を護るために戦略級魔法は必要不可欠。現にこの国への欲を持っている大亜連合や新ソ連は無論の事、USNAや欧州もその対象に含まれている。その彼らがこの国の魔法を損なおうとするのならば、例え今の味方であっても容赦するつもりなどなかった。

 

「対大亜連合強硬派と烈は何とか抑えられたが、佐伯の奴が何かを画策し始めておる。恐らくだが、悠元と達也君の持つ戦略級魔法を抑え込むつもりのようだ」

『それは……お義兄様の勘ですか?』

「否定はせぬ。だが、連中は分かっておらん。我らとは異なり、十師族とて民間組織の領域は逸脱できぬ。その一員が国家を揺るがしかねぬ力を有するのは危険だと思うのは理解できなくもない」

 

 いち民間人が国家を揺るがす力を持つことに危険視する意味は剛三とて理解している。ならばこそ、相手との利害が一致するように意見をすり合わせるのが筋ではないのか、とも考えている。魔法という要素に囚われ過ぎてそれ以外の要素に目を瞑るのは“節穴”と評したいのが剛三の偽らざる見解である。

 

「その話は今度だな。周公瑾が討たれれば、今度は間違いなく顧傑本人が出向くことになるだろう。狙うとするならば……来年の師族会議だな」

『悠君からはその辺の対応を昨年の夏の段階で打診されました。なので、既に罠は構築済みです』

「……あ奴の頭の回転の速さは歴代の神楽坂家当主でも随一よの」

『お義兄様、彼はまだ次期当主ですよ』

「何を言う。当主の代行を務めさせている時点で実質的な当主と変わりないであろうに」

 

 剛三も千姫もお互いに“いい歳”とも言える間柄。ここから先は若者たちが担うべき世界であり、その為に剛三は後を元継に託し、千姫は後継者として悠元を選んだ。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 進人類フロントのメンバーは全員拘束され、本拠地や資金源は粗方洗い出された。彼らは独自にUSNAの魔法結社とも繋がりを有しており、一部のメンバーは魔法因子の保有を誤魔化して渡米したことも確認されている。

 彼らと関係を結んでいたFEHR(フェール)―――『Fighters for the Evolution of Human Race(人類の進化を守るために戦う者たち)』の略称で、バンクーバー市政府が認めた合法的な魔法結社―――は今回のオフショアタワーのテロが起こる1ヶ月前に進人類フロントとの関係を解消している。

 同じ魔法師保護に対して“積極的”というよりは“過激的”な側面を持っている彼らでも進人類フロントのやり口についていけないと判断したのか……別口の情報では、出所不明の情報提供があったという噂が存在していた。

 渡米したメンバーの殆どはFEHRに吸収される形となり、これに目くじらを立てたところで建設的な議論など出来るはずがないと判断してこれ以上の追及はしないこととなった。

 

「それじゃ行ってくる」

「いってらっしゃい。お土産とかはいらないからな……行ったか」

 

 出かけていく達也を見送った悠元。玄関の扉が閉まってから発した言葉の意味は単純で、今日のセッティングの片棒を担いでいたからだ。すると、深雪が物陰からひょっこりと顔を出す様にして悠元を見やった。

 

「悠元さん、お兄様はお出かけになったようですね」

「ああ。にしても、深雪が積極的に達也とほのかのデートを勧めるとはな」

「お兄様は女性の扱いに関して無頓着にも程がありますから」

 

 深雪の恋愛感情の矛先が変わったからというのもあるのだが、これには深雪が少し疲れたような表情を見せつつ呟いた。春の亜夜子との会話で見せた対応もあるのだろうが、これでこそ原作主人公らしいとも言えなくは無かった。

 玄関に立ったまま会話というのも変な話なので、リビングに移動して水波が用意してくれたコーヒーを飲みつつ、その話を続けることとなった。

 

「無頓着は……流石に少しだけ言い過ぎのような気もするが」

「私としては悠元さんのように積極的になって欲しくもあるんです」

「いや、俺の場合は予め外堀どころか内堀まで埋められた上に退路すら断たれていたからな?」

 

 東京オフショアタワーでの一件の後、司波家に帰った悠元を待っていたのは深雪からの積極的なスキンシップであった。心配をかけたことは自分の責任なので否定できないが、恋人としてのステップを踏まずにいきなり既成事実の領域まで踏み込んだせいもあってか、断るという選択肢は取れなかった。

 

 深雪と付き合い始めてかれこれ1年が経過したわけだが、対等な付き合いというラインはかろうじて維持されている。深雪から「従属したい」というレベルは何とか回避し続けているが、気が付けば複数の婚約者に加えて愛人枠まで出来ている。油断すると実現しそうなだけに気は抜けない。

 いくら魔法師社会の実力主義のために早婚やら政略結婚が望まれているとしても、節度はあってしかるべきだと思う。そうならない理由の一つに悠元自身の精力が常人を遥かに超えているという千姫の言葉には疑問を呈したい。

 

「それに、達也を好いている相手が軒並み洒落にならんレベルでヤバい」

 

 現状で言えば『エレメント』の一族であるほのか、USNAのスターズ総隊長『アンジー・シリウス』であるリーナ、そして四葉の分家の一つである黒羽家長女の亜夜子辺りが明確に好意を示している。

 それ以外で言うと、平河姉妹も好意のようなものを覗かせており、卒業生という観点から鈴音も達也に興味を寄せているが、好意とまで行くのかは不明。スバル辺りも達也に興味があるのは否定できないし、三高の十七夜(かのう)(しおり)も達也に関心を寄せていると沓子から聞いている。あと、最近だと香澄が達也に関することを聞いてきたりしているので、関心があるのは間違いないだろう。

 

「ま、最近の達也は魔法の修得で九重寺に籠り気味だったし、達也のデートには九重先生も賛成してくれたからな……面白がって賛成した線は否めないが」

 

 達也が『分解』の通用しない相手に対する近距離直接攻撃魔法を開発しているのは知っていたし、その協力を八雲がしていることも知っている。というか、その魔法を使うためのハード面での設計の手伝いをしている以上は筒抜けにも等しいが、敢えて尋ねるようなことはしていなかった。

 

「悠元さんはお兄様の新魔法の開発をお手伝いしていないのですか?」

「達也から『これは俺自身で導き出さなきゃいけない』と断られたからな」

 

 FAE(フリー・アフター・エグゼキューション)理論の証明は『ブリオネイク』で示されたわけだが、これを安定した技術として利用する手段は確立していない。何せ、サイオン自体の復元力が高すぎるが故に「1ミリ秒以下の時間で次の魔法を発動させる」という極めて厳しい条件が付き纏ってしまう。

 これではまともに使い物にならなくなると考えた悠元は独自でPFE(サイオン・フリー・エグゼキューション)理論を編み出し、物理法則改変の束縛を突破している。達也に対して軽く説明はしたが、達也はあくまでもFAE理論を用いての新魔法に拘っている。これはリーナに対する対抗心も含んでいるのだと思う。

 

「それに、俺は俺で新魔法の開発で忙しいからな……どうした、深雪?」

「いえ、叔母様の魔法をあれだけアレンジできても尚必要なのかと思いまして」

「そう言われるのも無理はないけど」

 

 『灼熱と極光のハロウィン』の時点では威力制御が未完成だった『星天極光鳳(スターライトブレイカー)』を完成させること。そして、対古式魔法も視野に入れた完全非殺傷性の有機物干渉魔法の開発に注力していた。

 後者の魔法は情報を有さないサイオンが物理現象に変化を齎さない現象を利用したもので、対象者である魔法師の体内に存在するサイオンを強制睡眠状態のレベルにまで活性度を低下させる。『夢世界(ドリーム・ワールド)』のダウングレード版ではあるものの、魔法演算領域を持たない非魔法師をほぼ無傷で無力化できる。

 “ほぼ”という表現を使ったのは、眠った際に床への衝突があったり、人混みの中で使えばドミノ倒し状態になってしまう危険性もあるためだ。

 

「俺が考えているのは、自衛の範囲を越えない程度での魔法行使を市井に認めさせること」

 

 相手に物理的な損傷を与えない形で現代魔法を使うとなれば、精神干渉系や情動干渉系―――つまるところ、現代魔法では忌避されがちな有機物干渉系の魔法となる。

 別に高度な魔法を使う必要などなく、防犯ブザーのようにサイオンの情報に人間が嫌がる音の波長を情報として付与し、それを発動するだけなら基礎単一工程の魔法程度の処理で済む。相手の敵意や害意を削いでしまえば、こちらから必要以上に攻撃する必要もなくなる。

 

「というか、魔法師の基本資質は本人たちの身体能力にも依存しているところが多いのに、魔法科高校だと一般的な体育のレベルになっているのも問題だと思うわ」

「悠元兄様、それは……」

「水波の言いたいことも理解するが、実戦レベルになれば立ち止まったまま魔法を使えるなんて状況はまず発生しない。それこそ水波や十文字先輩、理璃のように強固な障壁魔法を持たない限り、そんな戦い方は出来ない」

 

 別に魔法科高校に軍事カリキュラムを取り入れろ、なんて行き過ぎたことを言うつもりはない。ただ、世の中で活躍している一線級の魔法師は身体能力の面でも秀でている部分が大きい。悠元自身も含めた三矢家現当主の子らがそれを如実に証明している。

 

「或いは深雪のように圧倒的な領域干渉を起こせるレベルでないと土台無理な話だと思う」

「お兄様はその典型的な例ということですね」

「本人は九重先生に勝とうと頑張っているがな」

 

 達也の魔法訓練については逐一八雲から聞き及んでいるが、九重寺の地下訓練施設の最下層にあるのは核兵器への対抗手段としての魔法開発を目的とした施設。尤も、達也が開発している新魔法は核兵器を無効化したり放射線を遮断する魔法ではなく、ある意味その逆とも言える魔法だが。

 

「悠元さんはお兄様が何の魔法を開発なさっているのかお分かりなのですか?」

「まあ、ハード面で牛山主任から相談されてはいるが……恐らく達也がやろうとしているのは、貫通力が極めて高い中性子を用いた近距離攻撃魔法だ」

「それって、放射線兵器に抵触しないのですか?」

「無力化する方法は達也の持つ魔法で解決済みだよ」

 

 二人には話さなかったが、悠元もPFE理論を用いた攻撃魔法をすでに開発している。この魔法はPFE理論で起こすサイオン構造の空白地帯を意図的に作り出すことで、軌道を変更したり相手の防御すら貫通させることが可能。

 達也の開発している『バリオン・ランス』とコンセプト自体は似ているが、別に中性子を用いた攻撃ではない。『流星群(ミーティア・ライン)』の基礎理論を用いた攻撃魔法で一度放たれれば相手に命中するまで止まらない一撃必中の魔法―――『死翔の槍(ゲイ・ボルグ)』という名を付けた。

 

「そうそう、水波にも防御主体の術式を組み立てているから、完成したら渡しておくよ」

「え!? いえ、悠元兄様にそこまでしていただくのは……!」

「―――水波。君は深雪のガーディアン見習いだが、俺からすれば家族みたいなものだ。何かあってから後悔なんてしたくないからな」

 

 東京オフショアタワーの一件を考慮し、既に知られてしまっている水波の障壁魔法を全てバージョンアップする腹積もりだった。その殆どは悠元の持つ『ミラーフォース』の下位互換となってしまうが、十文字家の秘術である『ファランクス』と同レベルに持っていくだけでも十分なレベルだ。

 そして、対戦略級魔法師との戦闘を見据える形で水波の魔法師としての能力を鍛えると共に、対戦略級魔法に特化した広域防御魔法を水波に提供する。このことは深雪や達也だけでなく、真夜や葉山からも同意を得て準備を進めている。

 

「今後、リーナの時のように国外の戦略級魔法師や欲をかいた連中が達也を付け狙わないという保証なんてない。それに、俺や達也が常に深雪の傍に居れるという確証もない。その時に深雪の傍を守れるとしたら、間違いなく水波の役目だ」

「悠元兄様……」

「そういうわけで、CADも含めた面倒を見ることになった……深雪、真面目な話をしているときに脇腹を抓らないで」

「水波ちゃんだけズルいです……」

「何故に」

 

 深雪が悠元に対してやきもちを焼いている光景に、水波はキョトンとした後に思わず吹き出す様に笑みを見せたのだった。

 




 リアルの仕事が立て込んでいる関係でほぼ週1ペースの更新に。
 後日談というか、古都内乱編への導入も含めての展開となりました。そして水波のパワーアップフラグも追加。その代わりにとある人物への恋愛フラグは完全に消え去りましたが。
 相手が相手なだけに、多彩な魔法を使える主人公でも一切油断はしません。
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