魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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今回は短め


不審者に鉄槌(物理)を

『「伝統派」が関わってるとなれば、神将会も表立っては動けないというわけか』

「下手すれば、『護人』に迎合する形で正統派の古式魔法師だけでなく、比叡山や金剛山をはじめとした大きな派閥まで動く事態になりかねない。そうなると、京都と奈良を起点とした古式魔法師同士の内戦となる。国内に少なくない被害が出るし、諸外国に付け入る隙を与えかねない」

 

 今回の目的はあくまでも周公瑾の捕縛(千姫の依頼では、止むを得ない場合は殺害も許可すると含まれていた)であり、別に『伝統派』そのものを相手にするわけではない。だが、周公瑾の巧みな話術と方術によって洗脳されて襲撃してくる可能性があり、もしくは今年の九校戦の前に彼が手引きして入国した大陸の術士が『伝統派』に匿われていることもある。

 

「ただ、相手が達也や深雪のみならず、近しい人にまで手を出す可能性が極めて高い。雫、ほのかを暫く北山家で預かれないか?」

『それは可能だけど……論文コンペのこともあるの?』

「昨年があんなことになったからな。尤も、相手が国内の魔法師に代わるだけかもしれないが」

 

 流石に人型兵器といった大型の物理兵器は持ち出してこない可能性が高いだろうが、相手がいくら古式魔法師と言えども最終手段として物理兵器や自爆特攻紛いの呪術を持ち出さないとも限らない。昨年の論文コンペは大亜連合という国家が相手にしてきたが、流石にそこまでの規模にならないと思いたい。

 奇しくも、周公瑾という存在が2年連続論文コンペの舞台で暴れまわっているのは間違いのない事実ではあるが。

 

「修司と由夢は暫く行動を共にしたほうがいいだろう。姫梨とセリアまでいて余計な手を出すとは考えづらいが……」

「悠元さん?」

「いや……こうなると、居候している俺の関係者も手を出してくる可能性があると思ってな」

『一番怖いのは侍郎と詩奈か。父には俺から話そう。丁度連絡を取る予定があったからな』

 

 なお、レオに関してはエリカの伝手で暫く千葉家に置いてもらうことで話を進めることとした。燈也はその気になれば単独で対処できるが、居候している新発田家に迷惑を掛けるのは拙いと言うことで、ミアの家(六塚家が用意した住居)に暫く泊めてもらうこととなるだろう。

 メンバーの中で一番非力になる美月については、幹比古と佐那に任せることで一致した。

 

「詳しい事情はまだ先の話になるが、今回は京都ということで会場警備の下見をすることになる。万全を期して[聖天八極護法式陣(せいてんはっきょくごほうしきじん)]の打ち込みもしておきたいからな……どうした?」

『なあ、悠元。その魔法って前にお祖母様から聞いたんだが、確か安倍晴明(あべのせいめい)にしか使えない探査結界術式のはずじゃ……』

「俺も使えた代物じゃなかったんだが、爺さんの世界旅行に付き合ったせいで覚えた魔法で解決した」

 

 [聖天八極護法式陣(せいてんはっきょくごほうしきじん)]―――天神魔法において最上級の難易度を誇る探査結界術式。あらゆる(あやかし)を悉く滅ぼすだけでなく、術者に敵意や害意を持つ者を一切の容赦なく滅する感情をトリガーとした魔法。

 本来は儀式のために龍脈を把握したり高価な触媒を用いることが必要なわけだが、それを解決したのはエジプトで修得した[陽光疾走(サンライズ・オーバードライブ)]だった。触媒の代わりにその魔法を保存した札を埋め込むことで、簡単に陣の敷設が可能となった。尚、[霊亀]や[麒麟]の敷設の技術はその方法を応用したものだ。仮にその札を他者に見つけられても、使用者である悠元以外のサイオンを受け付けない仕様となっている。

 

 その陣を敷設するのは至って簡単な理由で、原作では探査の式を飛ばしていた幹比古の負担を軽くするための一環である。それに、論文コンペ会場を起点として打ち込んでも京都市全域は容易にカバーできるため、周公瑾の居場所を簡単に突き止めることが出来る算段だ。

 

『……悠元には頭が上がりませんね』

『まあ、姫梨は悠元に身も心もあべちっ!?』

『真面目な話の時にふざける奴がいるか、阿呆が』

『大変だな、悠元も』

「元治兄さんや元継兄さんが逆に羨ましいと思うよ……何がとは言わないけど」

 

 自分自身の力は無論自覚しているし、この世界の魔法使いの事情も理解している。婚約のことについても納得した上で受け入れても、やはり隣の芝が青く見えてしまう様な印象は拭えないのだった。

 

「追加の話になるが、周公瑾が根城にしていた中華飯店の私室跡を探った。流石に本人の行き先に関する手掛かりは得られなかったが、一つ気になる痕跡があった」

『痕跡?』

「国防軍情報部防諜第三課がその調査に立ち入っていた。恐らくだが、四葉家の特殊部隊を秘密裏に監視している可能性が高いだろう」

 

 国防軍情報部はその性質上、市街地監視システムの使用を認められている。先日の黒羽の特殊部隊に関しても事前に見張っていた可能性が高い。七草家と周公瑾の明白な繋がりは確認できていないが、七草家当主の腹心である名倉が周公瑾と繋がりを有していることは事実。

 とはいっても、あくまでもビジネス面での一時的な協力という側面が大きいが、名倉の端末を解析して得られた情報履歴を見るに、周公瑾は密かに七草家へ協力もしくは隠れ家の打診をしていた可能性がある。

 

『…ねえ、そのセクションって確かパラサイト事件の時に動いていたっていう?』

「その通りだよ、由夢。達也とリーナが戦った際、達也が倒した『スターダスト』の連中を拘束したのが彼らだ。しかも、四葉家が回収したパラサイトを強奪しようと目論んだようだが、姫梨と佐那が頑張ってくれた」

「悠元さん、色々と初耳なのですが?」

「余計な心配を掛けたくなかったからな。言っておくが、四葉家のパラサイトは神楽坂家の助言を受けて厳重に管理されているから問題は無いと思っていい」

 

 レイモンド・クラークの誘導によって第一高校の演習林に集結したパラサイト。集合体に含まれずに封印された2体のパラサイトを四葉家と九島家が持ち去ることとなった。その際、四葉家側の引き取った側となる亜夜子は防諜第三課の襲撃を受けたが、姫梨と佐那が撃退している。

 

 師族会議で七草家が問題提起する可能性はあるが、そのカウンタープランは既に構築済みだ。最悪神楽坂家の名を出すことも必要だろう。

 そもそもの話、七草家が四葉家に執着しなければそんなことを考える必要もない訳だし、兵器としての宿命ではなく真っ当な人間を目指してほしいというのならば直接言えばいいのに、昔の婚約関係が完全に尾を引いてしまっている始末だ。

 

『……なあ、悠元。七草家が事態を余計にややこしくしているのは気のせいか?』

「それは言わないで、元継兄さん」

 

 魔法使いとして強くなりたい向上心は尤もだが、七草家はとりわけ十師族の中でも表と裏の両方に精通してしまっている。裏側の火遊びは結構だが、それでも結局は表側の人間である七草家現当主と四葉家では住む世界が違う。

 別に真由美や香澄、泉美と絆を結ぶことに異存はなかったが、弘一の前妻の子である長男と次男に関しては積極的に関わりを持つ気などなかった。剛三と行動していた時もそれは同様で、泉美との婚約を持ち出して味方として引き込もうとしてくることも考慮しなければならない。

 神将会としての今後の方針を話し合った後、話し合い自体は30分ほどで終わったのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 最近の達也の行動ルーティンはFAE理論を用いた魔法の開発に殆どのリソースを注いでいた。その影響で牛山から悠元に対してその魔法を使うためのアタッチメント型CADの開発を依頼されており、その辺は達也も勘付いているのだろうが、特に何か言われることは無かった。

 そして、悠元は自室でモニターに映る魔法の起動式と睨めっこしていた。論文コンペについては春の[恒星炉]実験における議員や記者らへの対応を評価されて免除の権利を貰っており、それを躊躇いなく行使した。

 

「『ブリオネイク』から得た直線放出の記述改造はこれで問題なし。[死翔の槍(ゲイ・ボルグ)]の反復元力投射記述もこれでいけるか」

 

 既に現行の現代魔法から遥かに進んだことをしている悠元だが、これはあくまでも魔法の民生利用をするための位置付けとして組み立てている魔法。魔法技術の軍事的云々を言う様な輩は少なくないが、民生品の殆どが軍事的に利用できるものばかりであり、それを魔法だけの問題で片付けるのはおかしな話である。

 達也が[バリオン・ランス]で使うことになるアタッチメントも並行作業で進められているわけだが、原作と比べて大分強化されている今の達也でも[分解]と[再成]以外の魔法の干渉力を持たせるという作業は難しいようだ。

 

「起動式の読込補助はいけるとしても、問題はアタッチメントの形状だな。場合によっては『トライデント』の本格的なハード調整も視野に入れないといけないし……ん?」

 

 すると、司波家に張り巡らせている[麒麟]に動きがあり、意識を向けると家の塀の延長線上に浮遊しているサイオンの塊を発見する。それには悠元も心当たりがあった。

 

(人造精霊―――式神か。分解するのは容易いが、少し趣向を凝らすか)

 

 単純に達也がやっているように[分解]するのが手っ取り早い訳だが、彼らの目的を探るには一番早い方法を取ることにした。悠元は[ミラーゲート]で玄関にある自分の靴を引き寄せると、再び[ミラーゲート]を展開してその式神の発信元―――司波家から500メートル離れた公園に降り立った。

 司波家を探っていたのは、式神の術者と認識阻害の術者の二人。その二人は背後から近づいてくる悠元の姿に気付いていない。完全に気配を偽っている悠元が近付くと、式神を放っていた術者が驚くような反応を見せた。どうやら達也も式神の存在に気付いて[分解]を使ったとみられる。

 一体何が起きたのかを把握できていない二人に気遣ってやる必要もなく、悠元は手を翳した。

 

「さて、どちらにせよ敵意を向けたんだ。天神喚起―――来い、『応竜(おうりゅう)』」

 

 悠元がそう呟いた瞬間、周囲に満ちる風の気質が記述された高密度のサイオンが吹き荒れ、ベンチに座っていた二人の術者もその波動に気付いて慌てて立ち上がったが、常軌を逸した高密度の情報体による“支配”で身動きが一切取れなくなっていた。

 

「な、なっ……!?」

「りゅ、竜の喚起魔法……!? それに、お前は……!?」

「流石に顔は覚えられている訳か。大方誰の差し金なのかは察しが付くが……とりあえず、眠ってもらおうか」

 

 公園に吹き荒ぶ風が二人術者を舞い上げ、地面に強く叩きつけられる。威力軽減はしているので死に至るケガなどはないが、急激な身体の揺さぶりによって意識をブラックアウトされた術者は気絶していた。

 悠元は『応竜』を解除して、気絶した二人に触れて彼らの記憶を魔法で読み取る。彼らは『伝統派』に雇われた野良の古式魔法師で、周公瑾や大陸の方術士に繋がる様な手掛かりはないようだ。

 

「(どちらにせよ、『伝統派』の一派が達也や深雪を古式魔法師と見ている可能性はある。まあ、俺の存在もあるのかもしれんが……)さて、後はお任せしても宜しいですか?」

 

 悠元がそう呟いた先にいたのは、一人の僧形。偽られた気配からするに三人はいるとみていい。僧形は悠元の言葉に僅かな頷きで返しており、二人の術者に関しては彼らに任せても問題ないと判断した。

 悠元は再び意識を偽ると、茂みの中に姿を晦ませて[ミラーゲート]で司波家に帰宅したのだった。

 

 悠元が自室に戻ってリビングに移動したところで見た光景は、涙目の深雪と少し慌てている達也、昼食の準備ということでキッチンに向かう水波の姿であった。恐らくは原作のワンシーンだと思い、悠元が冗談交じりに声を掛けた。

 

「やーい、達也。妹を泣かしてやんの」

「俺が悪いのは認めているから、これ以上焚き付けないでくれ……それで、悠元は公園に行って何をしていたんだ?」

「流石に気付くか。式神の術者をボコって、そいつらは九重先生のお弟子さんに引き渡してきた。彼らは戦えなくてやや不満げだったが」

 

 本当ならば、彼らだけでも十分に拘束できる算段があった訳だが、その手柄を横取りした格好となった。とはいえ、魔法だけでなく武術も卓越した腕前を持つ悠元相手に挑むほど彼らも愚かではない、と達也は推察した。

 

「流石悠元さんです。……お兄様はもう少しご自身を労わって欲しいと思うのですが」

「長年ガーディアンとしての役割が染み付いている達也にそれは酷だと思うぞ、深雪。とりあえず、昼食が優先だな」

「……そうだな」

 

 それぐらいは自分でも分かり切っていることだが、改めて面と向かって言われるのは何だか納得がいかなそうな様相を見せる達也だった。

 

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