魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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今回は切るタイミングの関係で長め。


在るべき輪廻に還れ

 セリアによる『ヘビィ・メタル・バースト』を撃ち込まれた直後、国防陸軍宇治第二補給基地は騒然としていた。基地の北部で起きた大規模のプラズマ爆発のみならず、電磁波によって通信機能が軒並みやられる状態となり、指揮系統が混乱していた。

 その一室で、周公瑾は膨大な想子の波動を感じた。最初は『霹靂塔』を疑ったが、とても市街地で使えるような代物ではない。大亜連合といえども自分を“裏切者”と断定して送り込んだにしては手際が良すぎる。

 すると、周公瑾が無実だと信じ込ませた軍人こと波多江(はたえ)大尉が駆け込んできた。

 

「周先生、どうやら基地が襲撃を受けているようです」

「……成程、恐らく狙いは私でしょうね」

 

 元々この基地を狙う戦略的価値などない。そうなると、この基地を混乱に陥れてでも狙うべき対象を考えた場合、周自身以外に存在しえないとすぐに察した。ならば、この基地にこれ以上長居する必要もないと判断した周はこの混乱を逆に利用した。

 

「なら、皆さんは襲撃者を迎撃してください。基地の全戦力を使って」

 

 そう呟いた直後、波多江のみならず中隊全員に電流が走ったような衝撃を受けた。周は車の鍵を差し出す様に波多江へ告げると、ぎこちない動きで鍵を周に差し出した。そして、周の煽るような口調で放たれた言葉に、波多江は感情の籠らない口調で指示を飛ばす。

 

「……しかし、荒っぽいやり方をする人もいたものですね」

 

 国防陸軍の基地をあっさりと襲撃することなど、愛国心が薄い周でも考えが及ばなかった。北側は無論の事、恐らく東西も守りを固められている筈だ。ならば、南側を突破して宇治川を超え、奈良方面に逃げれば『伝統派』もいるため、まだ機会はあると踏んだ。万が一の場合は『鬼門遁甲』で逃げることも考慮に入れた上で。

 

 だが、彼は気付いていない。

 神楽坂悠元によって伏せられた仕掛けは、確実に周公瑾を捉えているということに。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 セリアの『ヘビィ・メタル・バースト』に紛れる形で基地に降り立ったエリカとレオ、そしてセリアと姫梨。兵士が無力化用のゴム弾を放ってきたため、対物障壁が付与された想子障壁(サイオンウォール)で防ぎつつ、眼前にいる兵士を見据えていた。

 

「どうする?」

「攻撃された以上は反撃するしかねえ、だろ?」

「分かってるじゃない」

 

 レオの返答を聞いて笑みを零したエリカは『疾風丸(ハヤテマル)』の刀身部を展開し、身体強化で姿を消すと、向こうにいる兵士の悲鳴が聞こえてくる。彼女の速力は雷属性の天神魔法に長けた由夢に匹敵しており、並の軍人では太刀打ちすることすら難しいだろう。

 

「アイツは……ま、援護してやるか」

 

 仕方がない、と思いつつもレオがブレスレット型CADで『ドラグーンブレス』の起動式を読み込み、正面にいる残存の兵士を吹き飛ばす。威力は弱めに設定しているので、死ぬことはないと判断した。

 すると、セリアは遠くからくる物体に眼を顰めた。

 

「装甲車はまだしも戦車って……」

「魔法師をそれだけ警戒しているということなのか、もしくは」

「操られてるという可能性もあるって訳ね」

 

 この状況だと、誰が操られているかの判断は難しいだろう。現に自分たちが基地を襲撃した以上、外敵を退けなければ国防軍の威厳に関わる話だ。それに、手早く済ませないと異変を知った他の基地から救援の部隊が差し向けられかねない。

 そこまで察した上でセリアは『アルテミス』を戦車に向けた。

 

「セリアさん、戦車は行動不能にするだけで構いません」

「それは分かってるよ―――『ガングニール』、発動」

 

 セリアの『アルテミス』から放たれた電磁波収束魔法『ガングニール』―――高密度の電磁波を纏った想子弾が戦車の目前の地面に着弾し、炸裂するように広がる電磁波の嵐によって戦車が行動不能となり、キャタピラの強い摩擦で急停止した。

 何が起きたのかと焦って運転席から出てくる兵士に対し、姫梨は風属性の天神魔法『春風(はるかぜ)』で兵士たちを地面に叩き落した。これにはセリアが思わず苦笑を漏らした。だが、そんな思考は次々と来る兵士の姿と彼らが持っているライフルで消え去ることとなる。

 

「とうとう実弾まで……こんなことなら、リーナに無茶を言って『ブリオネイク』の起動式でも教えてもらえばよかったかも」

「それは流石に死人が出るかと……」

「ちょっとした愚痴だよ、姫梨」

 

 すると、吹き荒れる風と共に吹き飛ばされていく兵士。その中心にはエリカがいた。

 

「アンタら、いっぺん精神叩き直してきなさい! 『我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)』!!」

 

 本来、天刃霊装の発現状態でないと繰り出せない“伐刀絶技(ばっとうぜつぎ)”をエリカは何と『疾風丸(ハヤテマル)』の状態で繰り出している。これは、CAD自体に守護霊(サーヴァント)の護石が組み込まれているからこそできる芸当。

 そんなハード面の理由のみならず、エリカ自身レオに負けたくないという意地もあるのだろう。流石にレオの方は天刃霊装を展開するわけにもいかないので、硬化魔法や『ドラグーンブレス』で兵士を薙ぎ倒している。

 

「やれやれ……この感じは」

 

 すると、セリアの事象を認識する能力―――彼女が名付けた名は『森羅万象の眼(イデア・サイト)』が達也と将輝の様子を捉えた。彼らは問題ないが、思ったよりも敵となる兵士や兵器の数が多いと判断したセリアは、その全てを“捉え”、『アルテミス』を上空に構えた。

 

「……―――穿て」

 

 上空に展開する無数の雷の矢。そして、セリアがそう呟くと、基地の向こう側に落ちていき、蒼穹の雷光と共に轟音や兵士の悲鳴が聞こえた。先程の『ガングニール』をセリアなりに改造した魔法『オーバード・ガングニール』は的確に達也や将輝の敵を大幅に減らすことに成功した。

 

「セリアさん、まだ来ますよ」

「分かってる。全く、お兄ちゃんが怒る理由もわかっちゃうな」

 

 姫梨の言葉にセリアはそう呟きつつ、『アルテミス』を襲い来る兵士に向けた。軍人としての矜持は理解できなくもないが、この国の軍人として本当に守るべきものを理解しているのかと問いかけたい“兄”の気持ちが分かる気がした。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 悠元は宇治橋の東側で静かに事を見守っていた。基地の東ゲートについては正統派の魔法師にお願いをし、西ゲートは『伝統派』の魔法師が守りを固めている。最早彼にこの先を見届けさせる気はない。

 基地から聞こえてくる爆音や轟音を聞きつつ、あそこで戦っている面子を思っていると、光宣が話しかけてきた。

 

「悠元さん、南ゲートの方からセダンが一台、こちらに向かってきてます」

 

 光宣が達也と同じく『精霊の眼(エレメンタル・サイト)』を持っていることは悠元も気付いていた。だが、同じ『エレメンタル・サイト』であっても、光宣の場合は古式魔法に精通しているためか、古式の術に見られる想子の流れを把握している。

 そのセダンには周公瑾が乗っているのが確認できたため、悠元は躊躇うことなく『オーディン』の引き金を引き、『千鳥』でセダンの衝突防止装置を強制的に起動させる。それを見た光宣の右手が車に差し伸べられ、魔法によってエンジンが爆発する。

 

 周公瑾は間一髪で脱出し、幻獣による攻撃を繰り出すが、届き切る前に幻獣が霞となって消え去る。こんな経験は周が今まで生きてきて初めてのもので、それを成した原因が分からない以上、周公瑾が取った判断は逃亡だった。

 その場には九島光宣だけでなく、周が一番警戒している人物―――神楽坂悠元の存在があった。昨春における嫌な予感を信じるのならば、戦うこと自体“自殺行為”と考えた結果の行動だった。

 だが、悠元は周公瑾を追跡しようとしなかった。その理由は、悠元の隣で顔色が悪くなっている光宣の存在があったからだ。

 

「追いますか?」

「いや、そちらには達也と将輝が向かっている。光宣は休んでろ。顔色が悪いぞ?」

「あっ……すみません、悠元さん」

 

 多少無理を押していたことがあからさまだったが、周公瑾を追い込んだ実績は紛れもなく光宣の功績だ。欄干に凭れ掛かって休む光宣の面倒は理璃に任せることとし、悠元の視線は下流側に向けられた。

 やはりと言うべきか、周は高架橋の下側を通る形で川を越えようとしていた。だが、橋の上には深雪と水波、そして沓子が待機しており、それに追いつく形で将輝と達也が周公瑾を追い詰めた。 確認したところで悠元は頭上に信号弾代わりの閃光を発する魔法を空中に発動した。

 

「閃光の魔法……分かったよ、悠元。護法式陣、発動!!」

 

 それが『聖域』発動の合図だと察した幹比古は札に想子を込めると、嵐山・比叡山・石清水八幡宮・稲荷山に敷設された触媒により、京都の上空に市街地が丸ごと入るかのような大きさの魔法陣が展開した。

 この神秘的な光景に、達也たちだけでなく周公瑾まで目を奪われるほどだった。だが、その感慨に耽っている暇は周に与えられなかった。

 

「ぐ、がっ、こ、これは……!?」

 

 悠元が睨んだ通り、周は普通の人間ではなかった。安倍晴明が編み出した護法式陣は自然の摂理から外れた結びつきを祓う護法陣。本来、周の肉体に宿る精神ではない“彼ならざるもの”は急激に肉体への支配力を失っていく。

 その摂理で言うと悠元やセリアも対象内に入りそうだが、乗っ取ることと転生することでは肉体や想子体への影響が大きく変わるのだろう。現に、『聖域』内に入っている悠元自身が苦しんだりすることはなかった。

 そして、達也と将輝にじりじりと距離を詰められている上、先程発動した魔法陣によって道術『神行法(しんこうほう)』が安定して発動できない。これでは『鬼門遁甲』も同様だろう。最早打つ手がない、と周は高らかに笑った。

 

「ふ、フフ、フハハハハハハ………お見事と言っておきましょう。だが、たとえここで死すとも、私は在り続ける!!」

 

 そして、周公瑾は最後の力を振り絞って全身から血が噴き出し、赤い血は赤い炎となって燃え上がり、肉体は骨の一欠片も残すことなく燃え尽きた。だが、肉体は滅びていても、精神体―――“亡霊”は上流へ上ってきた。

 

『神楽坂悠元、我と一つになれ!』

 

 ここで働いた『プラスワン』、いや『アナザーワン』とも言うべきことが起きた。本来なら動けない光宣を狙うのではなく、悠元を狙ったのだ。

 周公瑾の判断は決して間違っていない。九島家は古式魔法にも精通しており、その九島家の人間を狙ったところで支配できるか疑わしかったのだろう。理璃を狙うことも考えられたが、周としては一番実力がある悠元を狙うことで、更なる力を手に入れようとした。

 確かに、現代魔法を統べる単なる十師族であれば、自分を乗っ取って支配することもできただろう。だが、今の自分は古代文明魔法、古式魔法、現代魔法の三系統魔法を会得している身。加えて、守護霊(サーヴァント)である『アリス』の存在もある。

 

「……判断は間違っていない。それだけは立派だと思うよ、亡霊風情(しゅうこうきん)。そろそろ、永き時を彷徨う時間は終わりだ。在るべき輪廻に還るがいい―――『万華鏡(カレイドスコープ)』、発動」

 

 悠元が発動させた魔法は固有魔法の一つ『万華鏡(カレイドスコープ)』。“概念干渉”という現代の魔法水準を超越した力により、周公瑾の亡霊は瞬く間に朽ちていく。その上で、周公瑾の持つ魔法知識全てを吸収した。その全てを吸収し終えた時、周公瑾の亡霊は誰の目にも止まることなく夜空の闇に消え去った。

 悠元は一息吐くと、光宣に近付いた。

 

「周公瑾は消え去った。光宣の功績も相まって、無事に終わったようだ」

「そ、そうですか……コホッ、コホッ」

「やっぱり、無理をしてたな。先にホテルに送るから、ちょっと待ってろ」

 

 そう言って悠元はエンジンが爆発したセダンに『再成』を掛けて瞬時に直した。これには光宣や理璃も驚いていたが、悠元の非常識さは今に始まった事ではなく、魔法については一切詮索しないと心に決めた。

 

「俺が運転するから、二人は乗ってくれ」

「え、免許を持っているんですか?」

「ハハ……悠元さんは何でもありですね」

「はいはい、病人は大人しくしてなさい」

 

 悠元は雫に連絡して達也らはティルトローター機で回収してから愛宕山に降りるよう指示を出し、光宣と理璃は悠元の運転する車で宿泊先のホテルに送った。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 目を離すのは拙いので光宣の看病を理璃に任せることとしたわけだが、光宣を見ている目線が熱っぽい理璃が光宣に話しかけられた瞬間、慌てて立ち上がって「何か飲み物を買ってきます!」といって出て行った。

 

「え、えっと……」

「惚れられたな、光宣」

「ええ……どうしたらいいでしょうか、悠元さん」

「まあ、腹を括るしかないだろうな」

 

 何にせよ、理璃がここにいないことは好都合だった。一々呼び出すにしても都合を付けるには双方の距離がネックとなるためだ。

 

「光宣、九島閣下から聞いているとは思うが、お前の治療をする。その際の条件も聞いてはいるか?」

「はい、そのことは僕も納得しています。ただ、1年生まで二高に通わせてほしいんです」

 

 光宣が生徒会副会長になっているため、その辺の引継ぎや整理で時間が欲しいというお願いであり、悠元も生徒会役員の経験をしているため、光宣の言い分を認めることとした。

 

「光宣は『精霊の眼(エレメンタル・サイト)』を使えるようだが、自分のことは視れないのか?」

「ええ。あくまでも敵意や悪意のある相手や古式の魔法を感知する程度のもので……悠元さんも使えるのですか?」

「自分の場合はその上位互換だな。相手の精神体まで視ることができる。ただ、そのせいで亡霊とかに襲われることもあったわ」

 

 見え過ぎるのも困りもの、という言葉は言わなかったものの、そう言いたげな悠元に光宣は思わず笑ってしまった。確かに、力があることは自分の意思を通せるが、要らぬやっかみを買ってしまうこともある。ただでさえ優れた容姿の為に同じ男子から嫉妬の視線で見られたこともあった。

 

「光宣の想子体は異常な活性を起こしていて、そのせいで想子体の“管”が破壊される。その反面修復スピードも尋常じゃないから、健康と病気の状態を行き来している有様だ」

「もしかして、精神のリミッター説が大いに関係しているのですか?」

 

 元々、人体そのものが魔法を稼働させることに適しておらず、魔法の行使を100パーセント抑制するリミッターが存在するという説。そのリミッター云々はともかくとして、悠元は自身の眼と原作知識を駆使してあらゆる検証を重ねていた。

 

 この世界の人間は、肉体・想子体(幽体)・精神体の3つで構成されている。肉体を実体的な存在と例えるならば、想子体は(ことわり)―――理性的な存在であり、精神体は本能的な存在であると悠元は考えている。

 肉体の定義と精神の定義を繋ぐのが想子体の役割で、精神が変調を来たせば、その情報が想子体を介する形で肉体へ影響を与える。魔法は想子という理を以て実体次元に術者の精神で望んだ現象を描き出す技巧ではないか、と仮定した。

 

 肉体的に変調が無く、想子体が異常に活性化しているとなれば、残るは精神体に問題があるとしか考えられない。事細かく視ていく悠元は、光宣のリンカーコアを見て驚きを隠せなかった。

 

「……光宣、よくこんな状態で魔法を行使できたな」

「え? 原因が掴めたのですか?」

「ああ……これから話す言葉は信じられないだろうが、よく聞いてくれ」

 

 魔法のリミッター説―――予測が正しければ、これはリンカーコアに備わっている制御機構が正常に機能していないのが大きな原因である。

 本来、魔法のリミッターを担うリンカーコアに関わる因子は魔法演算領域の有無を決定づける因子に紐づけされている。だが、現代魔法を研究する上で判明したいくつかの因子のうち、その半数以上が遺伝子調整によるリミッターの抑制減少をした場合、元来備わる筈のリンカーコアの機能を損ない、実に9割近い確率で想子の異常活性による病弱や虚弱体質、寿命減少を起こす結果が得られた。

 この事実は、悠元が国防陸軍兵器開発部にいた時、管理されている強化サイキックや調整体などのデータを虱潰しに見た中で判明したものだ。こんな無茶な実験を平気でやっていたことに怒りを通り越して呆れたほどだ。

 

 光宣の場合、リンカーコアが半壊―――この場合は“欠損”という言い方が望ましいだろう。精神体が想子体に見合った霊子を送り出そうとしてリンカーコアの欠損によって狭まった経路を通る際、その圧力が想子体に反映されて異常活性を起こし、結果として想子体の管が破壊されて体調を崩していた。

 ようは、ホースの口を狭めることで水の流路が限定され、本来よりも圧力の強い水の流れが起きる現象―――それが光宣の体内で起きていた、ということだ。

 

「魔法師に備わっている“核”―――リンカーコアというプシオンのみで構成された器官がある。光宣はそのコアが半壊している状態だ」

「……そのコアが治れば、僕も悠元さんや達也さんのようになれますか?」

「健康体になるのは間違いない。ただ、俺や達也のようになって欲しいかと言われると微妙だな」

 

 何せ、深雪のように女性の目線を釘付けにしかねないのだ。正直なところ、しっかり制御しないと流されるがまま複数の女性と婚姻を結ばされるだろう……同じ境遇の自分や達也が言えた台詞ではないが。

 

「リンカーコア自体の修復は直ぐに終わる。ただ、コアの完全治療によって体調の変化や変調を来たすことが多いから、最低でも1時間は安静にすることが絶対条件だ」

 

 これは、深夜や穂波、水波といった面々を治療した時の経験から算出した安静にすべき時間だ。コアの状態が正常になることで想子体や肉体の気の流れが大きく変わるため、しっかりと馴染ませる意味でも絶対に必要な行為だ。

 これを聞いた光宣はキョトンとした表情を見せていた。

 

「え? 丸一日安静とかではないのですか?」

「普通はそう思うし、今まで治した人からも言われたことだが、これはちゃんと検証した結果から得られたデータだから。まあ、光宣の場合は今までのことを勘案して、響子さんが来るまで寝ておいた方が無難だろう」

「そうですね。そうさせてもらいます」

 

 そして、悠元が『領域強化(リインフォース)』を発動させ、光宣の治療を行う。治療を終えると、今まで抑制されていた精神の流れが想子体や肉体を活性化させ、光宣は高熱を発して寝込むことになってしまった。

 これも光宣が健常者になるためのものだが、脳へのダメージを考慮して『夢世界(ドリームワールド)』で想子の動きを抑え、光宣をそのまま寝かせた。熱も一気に引いて平熱のレベルに落ち着き、落ち着いた寝息を立てて眠っていた。

 一通りの処置を終えたところで飲み物を手に持った理璃が姿を見せたので、理璃に光宣の様子を見るよう押し付けた上で部屋を後にした。

 

「え、ええ……と、とりあえず、様子を見ないと……」

 

 無論、押し付けられる羽目となった理璃は光宣に対して顔を真っ赤にしつつも頑張って様子を見届けた。疲れのあまりベッドの横で眠った理璃が次に起きた時には、光宣に頭を撫でられており、思考のオーバーヒートで気絶した。

 これにはどうしたものか慌てふためく光宣の葛藤は、迎えに来た響子が部屋の中に入るまで続いたのであった。

 

「―――てなことがあってね。それよりも悠元君、本当に御免なさい」

「別にいいですよ。既に終わった事ですので」

 

 響子から謝罪を受けたが、今回は自分が国防軍の軍人として“自浄作用”を促しただけだ。流石にセリアの『ヘビィ・メタル・バースト』を隠蔽するのに『エシェロンⅢ』のシステム自体にまで細工を施す羽目となったが、大して痛手にはなっていない。

 何にせよ、これで烈に提案した条件の一つを響子に提示することが出来る算段が付いた。

 

「そういえば、響子さんは身を固めないのですか? 婚約者のことは自分も聞いておりましたが」

「そうね、良い出会いがあれば考えなくもないけど……って、どうして悠元君が気にするの?」

「いやー、実は閣下との会談で響子さんにいい相手がいないか相談されまして、思い切って達也を推薦したんですよ」

「お祖父様ってば……」

 

 これは嘘である。正確に言えば、達也の魔法の詳細を知っている側である響子を味方へ引き込むため、達也が将来的に四葉の直系だと発表された際、烈に響子を達也の婚約者候補として送り出す様に条件を付けたのだ。

 リーナは九島の血縁とはいえ、大枠で見ればシールズ家の人間。響子も九島の血縁を引いているが藤林家の人間。なので問題はないとみている。それに、烈としても沖縄防衛戦で婚約者を失った孫娘が嫁ぐことになれば、祖父としても安堵できるだろう。

 

「まあ、響子さんは自分や達也の魔法を結構知っていますし……達也に送ったチョコは本命のようでしたし」

「あら、バレてたのね。達也君から聞いたの?」

「ええ」

 

 達也としても、自身のことを知っていて話せる相手となればかなり少ない。とりわけ四葉家以外ともなれば数えるレベルになってしまうほどだ。なお、達也からは「好かれること自体吝かじゃないが、どう答えるのが正解なんだ?」と聞かれた。

 なので、「気軽に話せる相手なんだし、話が来たら大人しく娶れ」とだけ言っておいた。ちなみに、深雪の意見は割と好意的だった事実も付け加えておくこととする。

 




 周公瑾、タイキック(成仏)。

 リンカーコアも含めたあたりは原作の設定を読み込んだ上で最も違和感が少ない扱いとしました。本来想子体が想定している圧力よりも高すぎるとなれば、精神体が異常を来たしている可能性が高いと判断しました。因果による結果がルールとして存在する以上、火のない所に煙は立たぬ、とも言いますので。

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