魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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四葉継承編
お前は一体何を言っているんだ


 論文コンペから1週間後―――西暦2096年11月5日。京都の『伝統派』が比叡山延暦寺(ひえいざんえんりゃくじ)を通す形で神楽坂家へ京都一帯の意思を伝えた。年末までの予定を無理やりにでも早めたのは、『聖域』の再構築がほかの『伝統派』の魔法師も感じていたからだろう。一部の魔法師は『聖域』の影響で強制的に気絶させられたことも大きい。

 

 主だった宗派に属していた元門人については神楽坂家を通す形で正統派に戻し、年齢などの関係で京都に居を残す者については、安宿家の配下に据える形で近畿方面の情報網として置かれることが決まった。大陸の方術士については『伝統派』だけの力で対処できないため、正当な宗派の力を借りる形で拘束し、政府経由で大亜連合へ強制送還の措置が取られた。

 

 これに危機感を覚えたのは奈良方面の『伝統派』であった。

 先日、京都一帯に構築された『聖域』により、京都方面の『伝統派』を“裏切り者”と処断することが事実上不可能となった。それに加え、金剛山(こんごうさん)などを筆頭とした奈良の正当な宗派の勢力が力を増し、「九」の家に復讐するという目的を果たすことが厳しくなった。

 その一件に関わったのが安倍晴明や賀茂忠行と縁の深い神楽坂家の人間であるのならば、ここで選択を誤れば自分たちの命にまでかかわると危惧した。「九」の家に従うことは出来ないが、同じ古式魔法の神楽坂家ならばまだ大丈夫だろうと判断した。

 

 神楽坂家としても無駄な血を流す必要は無いと判断し、正統派との和解を取り持った。但し、大陸の方術士に関しては京都同様の措置を取らなければ“国家に対する叛逆者”と見做す、という文言は彼らを怯えさせ、素直に従った。

 

 奈良・京都の『伝統派』の中で魔法の力を欲する古式魔法師に関しては、まとめて剛三の元に送り込んだ。剛三は嬉々として彼らを受け入れ、今は北海道にある大規模の演武場で文字通り“叩き込まれている”だろう。

 時々剛三と連絡を取っているが、その際にスピーカーから聞こえてくる怨嗟にも似たような呻き声が聞こえるほどだ。剛三に目を付けられた以上、彼らが逃げ出せる確率は“ゼロ”である。無駄に力を求めなければ地獄を見ずに済んだだろう……「ご愁傷様」という他ない。

 

 その地獄を乗り越えた時、一線級の実力を手にすることが出来る。代償として剛三に決して頭が上がらない構図まで出来上がるのはここだけの話だ。

 

 国防陸軍宇治第二補給基地の襲撃に関する報告書は響子を通じて風間に提出されたが、国防陸軍の失態を十師族が解決した、などと知られては風間の上司である佐伯の権力闘争に支障が出かねず、更には十師族依存の体制から脱却すべきという国防軍の意向に疑問を投げかけることになると判断され、風間の一存で独立魔装大隊内で収めることが決定された。

 そもそも、階級で言えば特務と言えども風間よりも悠元のほうが高いため、戦闘報告書というよりも“戦闘詳報”という体が正しく、特務少将として犯罪者を匿った国防軍を正しただけに過ぎない、と判断するよりほかになかった。

 なお、波多江大尉も含めた基地の部隊員は周公瑾によって操られていた事実が神楽坂家や京都の古式魔法師による診断で明確化され、本人たちの体調を考慮して1週間ほど基地内で経過観察の後、形式上の無罪放免となった。

 

 国防軍での昇進に関してだが、元々『上条(かみじょう)達三(たつみ)』の名で中尉相当官という体で特務士官になっているが、これは当時推薦した真田(さなだ)繁留(しげる)の階級が中尉であり、加えて自分の祖父である剛三から武術を学んでいたことからくるものだった。

 沖縄防衛戦後に特務少佐へと一気に昇進したが、これは国家非公認とはいえ戦略級魔法師が尉官扱いというのは外聞的にも宜しくなく、加えて人工衛星なしに戦略級魔法を自在に扱えることを考慮した風間が「可能であれば、本官と対等の立場に置きたい」の申し出を受けてのものだ。

 情報部(十山家)の一件に加え、第101旅団長による()()()()を重く見た剛三が蘇我大将に掛け合った(新陰流剣武術は非魔法師の門下生も多く、蘇我はかつて門下生だった)結果、神楽坂家の養子を期に特務少将への“三階級特進”が認められた。非常勤職とはいえ、少将という地位にしたのは九島烈が退役少将であった名残からくるもの、と剛三と蘇我大将から聞き及んだ。

 そして、九校戦の対大亜連合強硬派による介入の謀略を阻止したことに加え、周公瑾によって操られた国防陸軍宇治第二補給基地の部隊鎮圧の功績をたたえる形で、特務職とはいえ軍人魔法師としては初めてとなる中将に昇進する。

 

 各方面から要らぬやっかみを買いそうではあるが、自分から決して国防軍内の派閥争いに関与する気はない。大体、同じ日本人でありながら民間組織である十師族と縄張り争いを続けているのは十師族の設立理由からくる名残だろうが、身内で足の引っ張り合いは止めてほしいものだ。

 そもそも、十師族や師補十八家はともかくとして、軍人は公僕たる存在のはずなのに独断で犯罪者を匿ったり権力を振りかざして九校戦に介入している時点で“腐っている”と判断できなかったのだろうか。

 

 この辺については千姫や剛三に尋ねたところ、『元老院』で処断を止めてほしいと主張した四大老が存在していた。周公瑾の捕縛はおろか、中華街における実質的な治外法権の取り上げに関しても難色を示したせいで実行できなかったと述べていた。

 だが、周公瑾が横浜事変で大亜連合の特殊部隊を密入国させたことで渋々認めたそうだ。この辺は国会の野党勢力が大きく減少したことが強く影響しており、先日のメディア買収に合わせて野党のスキャンダルを千姫が積極的に推したのは、彼に対する鬱憤が相当溜まっていた証左なのだろう。

 

 そのついでに千姫へ与党の国会議員に近々実施される参議院選挙に合わせる形で衆議院の解散総選挙を行い、野党勢力を大幅に削る提案をしたところ、千姫も賛同した翌日に臨時国会で衆議院解散による衆参同時選挙が決定された。千姫の“要請”にはさしもの総理大臣も首を縦に振らざるを得なかったのだろう。

 先日の政治献金スキャンダルで足並みが揃わない野党議員に対し、更なるリークを追加して人間主義者の影響力を極力まで削る。与党一強の状態を作るのはUSNA政府からの圧力を受けやすくなるデメリットもあるが、ここに関しては何個か手を打つつもりだ。

 

 名倉(なぐら)三郎(さぶろう)改め支倉(はせくら)佐武郎(さぶろう)―――再構築された周公瑾(しゅうこうきん)の肉体に名倉の精神が宿った姿―――から、周公瑾の殺害を七草家当主こと七草弘一から指示を受けた事実は、直ぐに悠元から千姫へ伝えられた。

 実行しようとした人間がこう言っている以上、紛れもない事実だろう。千姫も支倉が嘘をついているという印象は無いと判断した。なお、この事実を四葉家に伝えるかは七草家の正月の動き次第という形で決着を見た。

 

 そして、悠元は周公瑾が持っていた仙術・道術・方術などの大陸系古式魔法の知識を吸収したことで、魔法の幅が更に広がった。魔法のみならず、周公瑾がパラサイトを人間に寄生させる際のプロセスを含めた魔法技術まで知識として得たことで、古代魔法や古式魔法も含めた全魔法対応型CADの着手に取り掛かっていた。

 今まで得た『ワルキューレ』と『オーディン』をはじめとした戦闘データを統合し、更なる完成形となる二丁銃形状汎用型CAD―――『セラフィム』と『ラグナロク』の開発に取り掛かっていた。自身のCADの名に“熾天使”と“神々の黄昏”という名を付けるのは躊躇ったが、『殲滅の奇術師(ティターニア)』と呼ばれていることを考えれば、これぐらいのインパクトはあっても申し分ないと納得させた。

 

 ―――西暦2096年11月26日。

 

 悠元はFLTの魔工技師“上条洸人”に宛がわれた研究室で一人モニターと向き合っていた。今開発を進めているCADに搭載するプログラムに関しては、ハード内に搭載するブラックボックスの関係で達也の手を借りれないため、『フォース・シルバー』シリーズの基礎システムをベースに膨大な量のプログラムを組んでいる。

 

 水面下で進めている『ESCAPES』計画については、四葉家と神楽坂家の共同出資という形でプラントを二ヶ所に構える予定になっている。FLTの筆頭株主は深夜で、次席株主が悠元のために起こり得ていることだ(なお、深夜が現在持っている株は将来悠元に譲渡される予定だったが、四葉の資金源になっていることも鑑みて固辞し、達也へ譲渡される予定)。

 一つは四葉所有の島で、もう一つは国防海軍の研究所があった南盾島に建設される……いや、南盾島に関しては既に地下にプラントが完成して恒星炉を用いた核融合発電のテストが進められており、『ブリオネイク』の結界容器の仕組みと術式から組まれた超高密度想子粒子ビームによる遠距離送電システムの実験も合わせて行われている。先日京都で使った『音速瞬動(ソニック・ドライブ)』はその送電システムの根幹を成す魔法だ。

 この仕組みが安定化すれば、送電ケーブルを介することなく送電設備と受電設備、そして蓄電施設を置くだけで恒星炉による多大な恩恵を国内のみならず国外も受けることが可能となる。

 スポンサーや政財界との交渉事はともかく、根本的なシステムは達也が担うことになるために悠元はこうやってCAD開発に没頭できるわけだが、今日は珍しく第三課の女性職員から通信が入った。

 第三課の人間は悠元の素性を全て知っているが、FLTではあくまでも『上条洸人』という魔工技師としているため、職員もそれに倣って悠元に接してきた。

 

『上条さん、失礼いたします。黒羽貢様と名乗る方が面会を希望されているのですが、如何なさいますか?』

 

 悠元はその名前を聞いて考えこんだ。

 

 直接の面識は4年前の沖縄防衛戦の前、個人的なパーティーで顔を合わせた程度だ。だが、あの時は長野佑都としての面会であり、十師族・三矢家や護人・神楽坂家の名字を名乗ってからは一切会っていない。

 彼の子である文弥や亜夜子とは学生としても四葉家の裏家業絡みでも親交を持つが、別に黒羽へ便宜を図りたいがためにしたわけではない。

 

 大体、黒羽家からすれば四葉の資金源であるFLTは管轄外だし、達也ならばまだしも自分に会いたいという意味が不明だ。神楽坂家が四葉家のスポンサーだという情報は知っていてもおかしくないだろうが、この時期の面会となると来年正月にある慶春会―――“四葉継承”に関わる話なのは明白だった。

 ここで推察しても結論は出ないため、悠元はその申し出を受ける形とした。

 

「分かりました。オフラインの応接室でお願いします」

『畏まりました』

 

 悠元が研究室を出て応接室の中に入ると、部屋には既に貢が座っていた。その表情が真剣な様子を窺わせていることから、これは一筋縄ではいかないとすぐに察しつつ挨拶を交わした。

 

「お久しぶりです、貢さん。お会いするのは4年ぶりになりますね」

「ああ。文弥や亜夜子が世話になっているようで感謝する」

「いえ、良き友人として接しているだけです。それで、どのようなご用件でしょうか?」

 

 明らかにぶっきらぼうな言い方だが、同じ当主(悠元の場合は当主代行だが)でもかたや四葉分家の当主、かたや神楽坂家の次期当主。力関係で言えば悠元に分があるのは貢と言えども理解していた。

 だが、ここは年上としての年功序列を優先する形で貢が話し始めた。悠元もそれに関して咎めることはせず、向かい合わせの形でソファーに座って貢の言葉を待った。

 

「悠元君、正月に四葉の慶春会が開かれることは知っているか?」

「ええ。尤も、自分は神楽坂家の次期当主なので正月には慶賀会がありますし、そもそも自分は四葉家の人間ではありませんので、出席の資格も当然ございません」

「それは承知している。悠元君、恥を承知での頼み事だが……我々の味方をして頂けないか?」

 

 正月に開かれる慶賀会の話を持ち出し、その上で貢は“我々”という単語を持ち出して味方になって欲しいというお願いをしてきた。この時点で大方の予想は付くが、こればかりは貢の口から説明させるのが良いと判断した上で悠元は質問を投げかけた。

 

「貢さん、それでは話が見えません。慶春会で貢さんを含めた“誰”の味方をしろなどといわれても、納得しかねる話です」

「そ、そうだな……周公瑾の件は君も関わっていたから知っているだろうが、あれは彼の四葉に対する忠誠心を測るためのものだった」

 

 その辺のことは先月前半の段階で葉山から聞かされていた内容だが、ここはあえて「そうだったのですか」と適当に相槌を入れた。そして、達也という名前を使わずに“彼”という表現を使った時点で、達也に対してどのような印象を抱いているのか自ずと分かってしまう。

 敢えて述べるのならば、それは次期当主候補である文弥に対しての“脅威”ではなく、達也という存在に対しての“恐怖”ともいうべきものだった。

 

「貢さんとしては、達也の忠誠心に不安があるから味方をしてほしい、と仰るのですか?」

「いや、そうではない……先日のことだが、真夜さん―――御当主様から来年正月の慶春会で次期当主を指名すると話があった。恐らく、選ばれるのは深雪だろう」

 

 貢はそう話したが、四葉家の水面下では真夜と深夜や葉山、ごく一部の人間によって深雪に代わる次期当主候補の発表を準備している。真夜に対しては忠誠を誓っている貢にすら伝えていないところを見ると、達也の次期当主候補の発表に関する部分は仮に漏れていても噂程度に収まっているとみるべきだ。

 そもそも、四葉の大半の人間から疎まれるような扱いを受けてきた達也がいきなり次期当主候補になるなど現実味がなさ過ぎて“有り得ない”ことだろうが、この世界における真夜と達也の関係性に加えて四葉家における当主の権限、そして封印されている達也の能力を考えれば実現可能となる。

 

「しかし、ある重要な案件が片付くまで次期当主の指名を延ばすべきだと分家当主の大半が一致した」

「……黒羽以外にどこが賛同なされたのですか?」

「君は立場上四葉の事情に詳しいから隠さないが、椎葉(しいば)真柴(ましば)新発田(しばた)(しずか)も賛同したことだ」

 

 四葉家は本家以外に8つの分家があり、直系に近い司波(しば)家と津久葉(つくば)家、武倉(むぐら)家以外の分家当主が深雪の次期当主指名を時期尚早だとした理由。深雪が次期当主となることで起こりうる事象の中で彼らが望まないものとなれば、それは達也が四葉家内で確固たる地位を確立することに他ならない。

 そして、悠元の予測は貢の言葉で証明される形となった。

 

「……達也の処遇ですね」

「その通りだ」

 

 貢が言うには、あと2年もあれば水波は深雪のガーディアンとして相応しい実力を手にする予測でいた。そうすれば、達也を『トーラス・シルバー』として縛って四葉の資金獲得に貢献させる“飼い殺し”をするつもりのようだ。

 国防軍の特務士官に関しても辞めさせるつもりだが、それを辞めさせたことによる抑止力のリスクが悠元に圧し掛かってくる。目の前にいる人間は達也の事ばかりに目が行き過ぎて、彼を世界から隔離することによって生じるデメリットを考慮していない。

 

 大体、FLTの件はともかくとして、国防軍の特務士官の件は真夜と佐伯少将で交わされた契約だ。慶春会の出席に関する書状はまだ来ていないようだが、現当主の意向を無視して“現当主の実子”である達也の出席を阻止するような真似をすれば、最悪達也が結界を『分解』してでも四葉本家に来る可能性を分家当主達は考慮しているのだろうか。

 仮にそうなったら、最悪自分が尻拭いをする羽目となる。その対価となりうるものを彼らが支払えるのかと言われると、かなり懐疑的にならざるを得ない。

 

「ちなみにですが、四葉の御当主様にお伺いはしたのですか?」

「何度も翻意を申し入れたが、聞き入れてもらえなかった。だが、君からの申し出ならば御当主様も考え直してくださると思ったのだ」

 

 ほう、と悠元の中で何かのスイッチがカチッと入るかのように、無意識的に抑えていた気配を全開にした。これには四葉の裏の家業を数多くこなしてきた貢でさえ、全身から冷や汗が噴き出るような感覚がまるで槍で突き刺されたかの如く受ける羽目となっていた。

 

「貢さん。貴方は神楽坂家を何だと思っていらっしゃるのですか? いくら黒羽が神楽坂の傍系に連ねる立場とは言え、“本家”に連なる人間を捕まえて達也を世界から隔離するために手伝えと?」

「き、君も分かっている筈だ! あの男の魔法を!」

「“あの男”? 言っておきますが貢さん、俺も達也と同じ国家非公認戦略級魔法師ですよ。その表情を見るに、どうやら知らなかったようですね」

「な、なんだと……(何だ、この恐怖は……まるで、すぐそこに“龍”でもいるかのようだ……)」

 

 貢の達也に対する呼び方を聞いた瞬間、悠元は応接室の中を高密度のサイオンで満たした。貢は悠元の背後に龍が佇んでいるかのような恐怖を植え付けられていた。

 そして、悠元が言い放った言葉を聞いて貢は唖然としていた。貢は悠元が達也に匹敵しうる魔法師だということまでは知っていたが、彼に関する詳細な調査は真夜の一存で差し止められていた。その彼が達也と同じ戦略級魔法の使い手という事実に言葉が出てこなかった。

 

「聞いていれば、先程まで貴方が仰っていたことは四葉家現当主の意向に対する叛逆の意あり、と取られかねないことです。神楽坂家は四葉家のスポンサーのひとつですが、四葉の当主を決めるのは四葉の家内の問題。私が四葉とどう付き合うかは、現当主も含めて次期当主と直接決めることです」

「し、しかし……」

「……貴方とこれ以上話すことはありません。お引き取りください。それでも食い下がるようならば、達也を世界から隔離したいあなた方の思惑を文弥と亜夜子にお伝えしても構いませんが?」

「!? そ、それだけはやめてくれ!」

 

 悠元の脅しも込めた言葉に対し、血相を変えて貢がそれだけはやめてほしいと言わんばかりに懇願してきた。

 

 四葉のほとんどの分家当主が達也の地位確立に難色を占めている背景も察しがついている。自分は達也よりも軍事・外交の情報を手に入れられる立場に加え、響子に自分の部屋を貸している対価として情報を提供してもらっている。

 

 その一つに『灼熱と極光のハロウィン』において達也が使用した戦略級魔法『質量爆散(マテリアル・バースト)』の存在がある。あの戦闘後、水面下では各国が戦略級魔法の使用も含めた対日軍事同盟や安全保障条約の締結に関する問い合わせや交渉が活発化している。

 なお、原作では新ソ連からの申し出も含まれていたが、ベゾブラゾフによる『トゥマーン・ボンバ』の攻撃が影響してか申し出は無かった。その代わりにSSA(南アメリカ連邦共和国)からの申し出があり、現在来日しているディアッカ・ブレスティーロ大統領はその条約も含めての交渉をしていると報告があった。

 

 なお、戦略級魔法『星天極光鳳(スターライトブレイカー)』に関しては、自分が達也の『質量爆散(マテリアル・バースト)』の最終トリガーにも関わってくるため、一切の情報公開はしないことが取り決められている。剛三曰く「他国が戦略級魔法の起動式を公開しておらん以上、親切心を見せる必要もない」とのこと。

 護人に属する人間の戦略級魔法は文字通り“世界を揺るがす”ため、国を護るための最後の切り札としての役割が求められる。尤も、自分の場合は『十三使徒』の戦略級魔法も使えるためになまじ国家公認の戦略級魔法師として表に出せないとのこと。

 

 四葉の分家当主達が望んでいるものは『何者にも害されない力』であり、『世界を揺るがす力』ではない。達也に確固たる地位ができれば、達也に向けられる矛先が自分に向けられるかもしれないという恐怖。その恐怖を取り除くため、達也を世界から隔離したいのだろう。

 

 本当に愚かとしか言いようがない。そんな都合の良い力を手にしたところで、その力を他者に知られれば力の本質など簡単に書き換わってしまう。結局問われるのはその力を揮う者の意思に他ならない。

 大体、四葉の復讐劇があったのにもかかわらず、四葉の一族が心を癒すことよりも世界への復讐として力を望んだ結果、この世に生を受けたのが司波達也という存在だ。

 

「……最後に一つだけ言っておきます。俺からすれば、達也は戦友であり親友です。その彼を世界から隔離しようとするならば、例え神が許しても俺は貴方方を絶対に許しません」

 

 悠元はソファーからゆっくりと立ち上がり、去り際にそう言い放って応接室を出た。

 貢が今の言葉を聞いてどう行動するかは彼の心次第だろう。そもそも、文弥と亜夜子が達也を信頼している現状に加え、もし実の父親が信頼している人物を世界から隔離するなどと知ったらどうなることか。

 正直なところ、達也に恋慕している亜夜子から親子の縁を切られても貢が弁解することもできないだろう。何せ、達也が生まれた時に四葉の分家当主らが彼を殺そうと目論んだ事実があるのだから。

 




 四葉継承編ですが、原作との変更点として

・主人公と深雪、夕歌が婚約関係にある(現状は神楽坂家と上泉家、三矢家に加えて四葉家のごく一部、主人公と親しい友人および関係者にしか公表されていない)
・達也の次期当主候補推薦への準備が進められている。
(この事実を知るのはごく一部の人間に限定される)

 主にこの2点となります。これ以前にある伏線のいくつかも回収していくことになります。
 掘り下げれば下げるほど複雑怪奇すぎる国内事情の巻。

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