魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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降り掛かる責務と突き付けられる事実の羅列

 教室に鳴り響くチャイムの鐘が放課後の時間を告げる。授業端末などによってオンライン化した授業とはいえ、昔からの名残がそういったところに出ている。正直なところ、今日は特別だろう。

 

 西暦2096年12月25日。世間一般で言うところのクリスマスの日だが、魔法科高校にとっては2096年度2学期の最終日でもある。とはいっても、授業は午前中で終わり、終業式などの儀式的なものはない。

 あるとすれば、進級・卒業が危ぶまれる生徒が職員室に呼び出されるぐらいだが、成績優秀者で構成された2年A組で呼ばれる人間は流石に皆無だろう。呼び出される方も嫌だが、呼びだす方も要らぬ労力を使うので、お互いに気分が悪い後味しか残らないのだ。

 

 まるで経験したことがあるような言い方だが、あくまでも前世での話だ。尤も、自分の場合は身内の影響で胡麻を擂る人間が教職員にまで及んでいた。あの時は偶然学校の裏帳簿を手に入れて、教育委員会では握り潰されると判断して兄経由で知り合いの市議会議員に任せた。後日大々的なニュースとなって、自分に媚を売った人間が軒並み逮捕されて、内心で「ザマアミロ」と呟いた。

 そんなどうでもいい前世のことを思い出していると、一喜一憂しているクラスメイトの間を縫うように燈也が近付いてきた。どうやら達也らと一旦分かれて態々A組の教室に来ていたようだ。

 

「悠元、聞くまでもないですが評価はどうでした?」

「問題無かったよ。燈也もその分だと良さそうだな」

「ええ、まあ。尤も、僕の場合は憂鬱ですが」

「あー……あの件か」

 

 燈也が若干気怠い感じでいるのは、今月初めに魔法協会を通して十師族・師補十八家および百家に通達された件が大きく関係している。それは、六塚家現当主六塚(むつづか)温子(あつこ)が次期当主として燈也を指名することに加え、その婚約者として五十嵐(いがらし)亜実(つぐみ)とミカエラ・ホンゴウを迎えることを正式に発表した。

 この辺の話は事前に剛三と元継の耳に入っていたらしく、しかも元継は九重寺の武術指導で燈也と面識を持っており、その元継が上泉家当主として政府に働きかけたとのことだ。

 

「でも、先輩が好意を持ってるのは事実だろ?」

「まあ、それもそうなんですけどね」

 

 その一件以降燈也に対する視線の変化は顕著に表れており、3年生の国東(くにさき)久美子(くみこ)は今年の九校戦で燈也と同じロアー・アンド・ガンナーに出た関係で男女合同練習をしていく中、男子に対して恐怖心を抱いていた久美子は普通に接してくれている燈也に好意を抱いた。

 九校戦の時点では燈也が十師族直系ということで諦めかけていたが、燈也の婚約発表の際、現当主が現状は婚約者募集の段階であると明言しており、それを聞いた久美子も申し込んだ。それをどこからか聞きつけた亜実は久美子も引き込もうと画策していることに燈也は溜息を吐きたくなったという。

 

「何分、今まで信頼できる人間が少なかったのもありますけど、その僕がまだ二十代の姉に代わって当主なんて実感が沸かないんですよ。確かに、魔法師としての実力を考えるのならば分かりますが……」

 

 燈也が調整体という話は内密に本人から聞いたが、本当に神様の悪戯が働いたとでも言わんばかりに寿命も魔法力も遺伝子調整による欠損は認められなかった。彼を貴重なサンプルだと研究していた連中の気持ちは分からなくもないが、彼の尊厳を考えなかった時点で人として終わっている。

 確か、六塚家の現当主は現在29歳だったと聞いているが、十師族の当主としては若輩の部類だ。その彼女が当主の座をすんなり降りるというのが燈也にとっても懐疑的なのだろう。

 

「流石に仕事の全てを放り投げる訳じゃないんだろう?」

「それは流石に僕でも無理ですよ。今は高校生の身であって、六塚家の仕事全部は管理しきれませんから」

 

 十文字家でも当主代理をしていた克人の領分自体は限定されており、学業でフォローできない分に関しては和樹が担っていた。恐らく、温子はそこら辺を参考にしてまずは六塚家当主としての体裁を整えるために婚約発表(婚約者募集)に踏み切ったのだろう。

 その辺は神楽坂家次期当主兼当主代行である自分も無関係ではなく、政治家や皇族の方との折衝役が現状における仕事内容となっている。神坂グループに関する決裁や書類仕事も増えてきているが、国防陸軍兵器開発部の仕事で身に付いてしまった『自己並行加速(マルチタスク・アクセラレーション)』によって瞬時に片が付いてしまう。

 そのせいでグループの役員からは「残業時間が少なくなって助かる」とか「書類が早く片付いて助かっています」とホワイト傾向が強まったが、この遠因となる七草家の長女に対して素直に感謝など言えるはずない。言えば調子に乗るのは彼女の父親譲りであるだけにだ。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 時間は午後5時。授業が午前中に終わると言っても生徒会や委員会活動、クラブ活動を終えた達也たちは行きつけの喫茶店であるアイネブリーゼに集まっていた。

 

「それでは、一日遅れというのは気にせずにご唱和ください。メリークリスマス!」

『メリークリスマス!』

 

 エリカの音頭に合わせて一斉に唱和する。こういうのは役目だろうと言われがちだが、こういうのはやりたい奴にやらせればいいと思いながらドリンクを口にした。

 

「欲を言えば日があるうちにやりたかったんだけどねえ」

「そこはしょうがないよ、エリカっち。皆役員だったりクラブ活動だったりしたし」

 

 部活連でも2学期の締めくくりとなる活動と挨拶はあった訳だが、その中で悠元の言葉を誰一人も遮ることなくきちんと聞いているメンバーの姿を思い出し、悠元は怪訝そうな表情を浮かべた。

 

「悠元、部活連で何かあったのか?」

「……挨拶しないで引き籠りたくなったわ」

「仕方ねえだろ? あの雰囲気じゃ俺やエリカでも口を挟めねえよ」

「別に責めるつもりはないんだけどな」

 

 何があったのかと言えば、2学期の締めくくりの挨拶と冬休みに関する連絡事項を述べた後に、構成メンバー全員が風紀委員会でするような敬礼のようなポーズが一人も乱れることなく揃っていた。

 なまじ深雪の恋人という事実が広がっている上、彼女のストッパー役を担っている以上は仕方のない事だが、こちらは別に部活連を軍隊のように統率しているつもりなどない。修司やレオの言葉に対して別に異論はないと言い含めるように答えた。

 

「しかし、今年のクリスマスイブは各々パーティーで忙しかったな」

「そうよね……あの親父はこっちの足元を見やがって」

「あはは……」

 

 本当なら24日にパーティーをするつもりだったが、参加予定の大半が家の都合でパーティーに駆り出されていたのだ。悠元は皇族の招きに与る形で皇居の晩餐会に参加し、その後は今上天皇との対談で今後の世界情勢に関する意見を述べた。

 不満を漏らしたエリカは千葉家長男の寿和の付き添いで関東地方警察のパーティーに送り出された。彼女曰く、レオとの交際を認める代わりに突き付けられたらしく、今までロクに本家の人間扱いしてこなかった父親に怒りを抱いても仕方がないのだろう。その愚痴の矛先は当然同行者であり未だ婚約者のいない寿和に向けられた。

 苦笑する幹比古は、吉田家一門の若手組によるパーティーに駆り出された。女性比率が高いということで固辞したかったが、兄に監督役を頼まれて強情を貫けなかった。その代わり、パーティーには美月と佐那がそのお手伝いということで参加したとのこと。

 

「悠元が別件で外せないって聞いたときは航が残念がってた」

「仕方が無いだろう? 今上陛下直々のご招待は無碍に出来ん。断る方が不敬に思われるからな」

「そ、それって皇居に行ったってことですよね?」

 

 雫は父親の経営する会社のパーティーに参加していた。『娘同然』ということでほのかも駆り出されていた。悠元は一度断りつつ、その代理として暇だった修司と由夢を神坂グループ代表代理ということで駆り出した。由夢は露出の高いドレスを選ぼうとしたので、それを見た修司が拳骨を落としたのはここだけの話。

 

「その席に私まで呼ぶのはどうなのよ、お兄ちゃん」

「最も適切な人選をした結果だ」

「確かに、悠元さんの傍に居て問題が無い人選はかなり限定されますからね」

 

 セリアは書面上帰化したとはいえ現USNA大統領の孫娘という肩書があるため、形式は悠元の護衛ということで皇族の招待を受ける形となった。文句を漏らしたセリアに悠元が淡々と答えると、それを聞いて納得したように声を上げたのは深雪であった。

 そんな事情が重なった結果、友人同士でのパーティーが今日にずれ込んだというわけだ。

 なお、今日のパーティーは悠元、達也、深雪、レオ、エリカ、幹比古、美月、佐那、燈也、姫梨、セリア、雫、ほのかと2年生だけ。1年生組はクラスのパーティーに出席している。

 

「今年ももう終わり……というより、本当に1年経ったのか疑問に思っちゃいますね」

「同感ですね、美月」

 

 美月の言葉に姫梨が同意するほど、確かに今年はハプニングを通り越してあわや国際問題になりかねなかった案件ばかりだった。その先陣を切ったパラサイト事件はセリアも当事者の一人なだけに苦笑を漏らした。

 

「あはは……そういえば深雪から聞いたけど、ピクシーの告白事件は秀逸だったね」

「何なら当時の書き起こしもあるぞ。リーナの心境も聞き出してるし」

「マジ!? お兄ちゃん、後で頂戴!」

 

 あの場では聞かなかったが、後日ピクシーからリーナが抱いていた心境を聞き出しており、それを『記憶編纂(メモリーライズ)』で電子データ化して保存している。悠元の言葉を聞いたセリアが食いついたことに、その感情を向けられる側である達也が悠元に視線を向けた。

 

「……悠元、後で相談がある」

「分かった。悪用はしないから安心してくれ」

「そこに関しての不安はないんだがな」

 

 多分、リーナのことに関することを聞きたいのだろうが、本来深雪にしか向けられない情動がリーナとの関わりによって緩みが生じてきている。この辺は自分が教えている想子制御の部分も大きいとみている。なお、ピクシーの想念形成に大きく影響しているほのかの顔が真っ赤になっているのは言うまでもない。

 

「南盾島も今年なんですよね。そういえば、九亜(ここあ)ちゃんたちは元気でやってるのですか?」

「ああ。クリスマスプレゼントは郵送したが、お礼のメールが届いてな。みんな喜んでたよ」

 

 わだつみシリーズに関しては神楽坂家と上泉家主導の協議の結果、上泉家本邸で預かることになり、元継と千里が親代わりとして面倒を見ている。魔法行使による自己喪失状態も回復し、彼女らには自ら治療を施して人並みの寿命に改善されたが、九亜や四亜(しあ)たちは魔法師を目指して勉強している。千里も魔法のことで苦労していた経験からか、九亜たちの母親代わりとして奮闘しているらしい。なお、剛三は九亜たちから「お祖父ちゃん」と呼ばれて満足気らしい。

 

「七宝絡みも今年なのよね。『恒星炉』実験は本当に凄かったわ」

「ホントだぜ」

「それで九校戦の競技変更もあったな」

「……本当に濃密だよね」

 

 神田議員のアポなし学校訪問に合わせて実施された『恒星炉』実験、国防軍対大亜連合強硬派による競技変更にパラサイドール、極めつけは京都でのトラブル……口に出すのもなんだが、七草家が十師族のネックになってしまっている。“十師族版十山家”と言っても過言に聞こえないのは何故だろう、と思う。

 真由美や香澄、泉美に罪はない。強いて言うなら赤い機体が特徴的な某ロリコン仮面曰く『君の生まれの不幸を呪うがいい』の一言に集約されると思う。別に飛行艇に乗って特攻させるつもりなどないが。

 

「なあ、達也。今年は横浜の一件よりも大変だった気がする」

「奇遇だな、悠元。俺もそう感じていた」

 

 悠元と達也はそのトラブルの当事者兼対処した張本人なだけに気苦労も人一倍感じており、来年こそは穏便に過ごさせてほしいと願いたい。

 尤も、結果に差こそあれど原作通りに進んでいる流れを鑑みた場合、来年というか、これから起こりうることに対する気苦労を考えると、正直寝正月で過ごしていた前世が少し羨ましく思えてならなかった悠元だった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 午後7時。パーティーもお開きとなり、店の前に出た。ほのかが達也に初詣の提案をしたが、達也は正月に用事があると言って丁重に断った。すると、達也の隣にいる深雪がどこか浮かない表情をしているので、悠元は深雪の頭を撫でた。これには深雪も気持ちよさそうに瞼を閉じていた。

 

「深雪、すまないな。俺も家の用事があるから、正月までは動けなくなりそうでな」

「い、いえ……すみません」

「別に謝ることじゃないだろうに。そしたら達也、深雪を頼むぞ」

「言われるまでもないが、悠元も気を付けてくれ」

「ああ」

 

 一応、先月貢と話したことは達也にだけ伝えた(流石に千姫や剛三から聞かされた四葉家の事は内緒のままだが)。いずれ深雪にも勘付かれるだろうが、話すタイミングは達也に一任した。

 達也も流石に貢らが悠元に対して刺客を差し向けるとは思えない。寧ろ返す刃で責任追及をされた場合、神楽坂の権力と国家規模の資産を持っている悠元に対して如何なる対価を支払えるかという問題になるためだ。

 普通なら3人で帰るところだが、悠元はこの後箱根の神楽坂本家に出向かなければならない。これは現当主の千姫から“厳命”と強く言われたことだ。本当ならパーティーも欠席するはずだったが、それを聞いた千姫からは「暫く深雪さんと会えなくなるでしょうから、いい思い出を作ってください」と念を押されてしまった。

 離れていく達也と深雪の2人を見つめたが、心の中で「頑張れ」と呟いてその場を後にした。

 

 久々に2人で帰ってきた司波家。玄関に上がったところで達也は深雪に声を掛けた。

 

「深雪、体調が戻るまで部屋で休みなさい。食事の支度は後でいい」

「……はい、分かりました」

 

 達也でなくとも、明らかに体調が良くない様子の深雪。その状態で無理はさせられない、という達也の気遣いに対し、深雪は反論することなく素直に頷いた。

 断熱材の入った家でも流石に冬の寒さを半日以上凌げるはずもない。深雪は魔法で部屋を暖めた後、暖房のスイッチを入れた。流石に温度変化も含めた科学変化の持続的な部分では機械に分がある。

 

 コートと制服を脱ぎ、私服に着替えたところで深雪が机の上に置かれている招待状の封筒を手に取った。中に入っている案内状は来年正月に四葉本家で行われる慶春会のご案内。今までは招かれなかったが、今回は真夜の直筆サイン入りで出席を命じるもの。その意味を深雪は自ずと理解していた。

 

(叔母様は、四葉の次期当主を指名なされるおつもりなのね)

 

 四葉家の次期当主候補は4名。現当主の姪である司波(しば)深雪(みゆき)黒羽(くろば)家長男の黒羽(くろば)文弥(ふみや)新発田(しばた)家長男の新発田(しばた)勝成(かつしげ)、そして津久葉(つくば)家長女の津久葉(つくば)夕歌(ゆうか)。そして、客観的に見た場合、この中で魔法力に優れているのは深雪に他ならない。そうなると、真夜が次期当主に指名するのは自ずと深雪に絞られることとなる。

 

 ここで気掛かりなのは、神楽坂家次期当主である悠元の婚約序列に深雪も入っているという点。しかも序列第一位と最も近しい地位を与えられていて、他の婚約者よりも恵まれた環境での生活を許されている。

 四葉の次期当主に興味はないが、自分が次期当主となることで自ずと達也の立場も次期当主の側近となり、今まで四葉家内において疎まれていた達也の立場が大幅に改善されることとなる。

 

 だが、神楽坂家次期当主夫人と四葉家次期当主の座は両立し得ない。前者の家は護人の一角を担う陰陽道系古式魔法の大家、後者は現在の十師族において最強格の勢力を誇る一族の家。両者に遠からぬ血縁関係は存在するが、次期当主である悠元が自ら出た形とはいえ三矢家から籍を抜けたことからも分かり切っている話だ。

 もし後者を選んだ場合、当主の責務として結婚相手が付随する。それも、自ら愛している悠元ではない誰かと結婚する可能性も残ったままだ。何せ、悠元との交際はおろか、神楽坂家の婚約に関する部分について真夜は深雪に対しての言及を避け続けてきたからだ。

 

 愛する者と添い遂げたい女性としての想いと、敬愛している兄を認めてほしいという妹としての我儘。その二つの間で揺れ動く深雪が姿身を見ると、そこには深雪の守護霊(サーヴァント)―――平安時代に名を馳せた女流作家、清少納言(せいしょうなごん)がジト目をして深雪を見ていた。これには深雪も思わずたじろいだ。

 

「え、せ、清少納言さん?」

『……あのさ、深雪。本当にどっちかを選ばなきゃいけないの?』

「でも、叔母様の……」

『いや、だってさ』

 

 どう返そうか悩む深雪だが、そんな深雪の事情も吹き飛ばすが如く清少納言が言い放った。

 

『態々夜這いまでしに行って、それはそれは熱い夜を何度も過ごしてるのに?』

「え、あの」

『抱かれてるときは悠元さんの名前を連呼して、気絶するまで求めちゃって』

「ちょ、ちょっと」

『挙句の果てには、とてもメディアでは放送できないような行為とか言動を連発してるのに。<――――――(禁則事項です)>とか、<――――――(とても表現できません)>とか、<――――――(想像にお任せします)>とかもあるし、終いには』

「ス、ストップしてください!!」

 

 容赦のない恥ずかしい事実の羅列に加え、とても公衆の面前では言えない言葉が言い放たれたことに、深雪は頬を真っ赤に染めて止まるように懇願した。自身と契約した守護霊(サーヴァント)は契約した者の全ての事情を把握できる立場にいるため、それに対してのツッコミは出来ない。

 気が付けば、悩んでいることよりも自分が使役している守護霊(サーヴァント)を止めることで疲れていた深雪に対し、清少納言はクスクスと笑みを零しながらこう告げた。

 

『何にせよ、行っていきなり四葉の慶春会があるわけじゃないでしょ? 深雪の叔母さんに、次期当主の辞退と引き換えにお兄さんの地位改善を申し出れば済む話でしょ?』

 

 確かにその通りである、と深雪は自分の考えの浅さを内心で恥じた。ただ、いくら自分の身内とはいえ、四葉の当主である叔母が何を考えているのかは深雪でも推し量るのが難しかった。

 

「……その考えはありませんでした。ただ、叔母様が素直に呑んでくれるかどうか」

『大丈夫だよ、深雪。もしかしたら、私の言ったことが現実になるかもしれないし』

 

 そう言って、姿見から消えた守護霊。深雪は徐に姿見に触れるが、何も反応は返ってこない。だが、彼女が嘘をついているとは思えなかった。

 

「何にせよ、まずは叔母様に会わないと。その為にも、絶対に慶春会の出席に間に合わせないと」

 

 そう呟いた深雪の表情は、先程までの暗い様子が綺麗に吹き飛んでいた。これでは自分の師匠もとい婚約者に笑われてしまうわね、と呟きつつ、元気付けてくれた自分の“相棒”に心の中で感謝したのだった。

 




 気苦労が増えていく燈也。主人公と達也、光宣、将輝と同年代にして『カーディナル・ジョージ』を破っているので、実はファンが多いです(補足説明)。
 深雪の場面は方向性を変えて、別の意味で疲れる形になりました。守護霊(サーヴァント)の見た目は基本的に某ゲーム準拠となっています(今更な説明)。

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