魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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書いていったら8000字になっていました。
切るに切れなかったのでそのまま投稿。


諭したら妹が増えたあの日

 西暦2096年12月26日。魔法科高校も短いとはいえ年末年始の冬休みに入った。流石に国策機関である以上は公務員である教員たちも休みたいのが本音だろう。精々、クラブ活動や自主練で学校に来る人間はいるかもしれないが。

 

「おーい、無事か?」

「……あと5分休ませて」

 

 富士の麓にある神楽坂家が所有する修行のための訓練所。その一角にある滝の上から声を掛けると、滝の下で大の字になって横たわっているセリアの声が辛うじて聞こえた。

 何をやっているのかと言えば、セリアの天刃霊装を完全修得するための修行。この修行のことは事前に説明したにもかかわらず、セリアが夜這いしに来たので“返り討ち”にしてやった。その後、姫梨や深夜まで乱入したのはここだけの話。

 12月ともなればこんな寒い時期に修行をする意味があるのかと思うだろうが、これも想子制御を行うための修行の一環なのだ。前に沖縄でやっていた温度調整はその修行の一つで、今回の場合は周囲の気温との摩擦を考慮して18℃に保ちつつ天刃霊装を展開し続けるというもの。転生者というこの世界でも屈指のスペックを誇るセリアでも、滝の水を浴びながら6時間以上霊装を持続させるというのは大変なことだった。

 自分の場合はというと、剛三との旅行で新ソ連を横断した際、マイナス40℃以下の極寒の中で常時18℃に保つことを最短でも24時間は行使し続けていた。これは自身の規格外すぎる想子保有量と魔法演算領域を更に鍛え上げるという意味で必要だったことだ。

 

 すると、修行所に張り巡らされた結界魔法が来訪者の存在を感じ取ったため、悠元は修行を切り上げて滝の上から飛び降り、滝壺の上に“立った”。そのまま岩場に飛び乗り、セリアに対して『癒しの風(フローラル・ウィンド)』を掛けると、体調が瞬時に整ったセリアは思わず飛び起きるように上半身を起こした。

 

「お兄ちゃん、誰か来たの?」

「ああ……姫梨だな。で、何で態々背中から抱き着くんだ?」

「悠元さん成分を補給したくて」

 

 セリアと悠元の言葉に反応する形で、悠元の背中に抱き着いてきた姫梨。正面から来なかったのは恐らく姫梨が天神魔法を使って悠元たちの背後から来たからだ。別に敵意や害意はなかったので気付かない振りをしていたが、昨晩あれだけのことをしておいて足りないというのはどうかと思うし、そもそもそんな成分がどこにあるのかと疑問を呈したい。

 

 あと、姫梨は婚約者の中で最もボリュームがあるし、おまけに下着を身に付けていないのか感触がダイレクトに感じられる。しかも、何だか擦り付ける様な動きをしており、時折感じているような息遣いが漏れている。

 これに気付いているセリアは何も言わず、寧ろ「やっちゃえ」と言わんばかりに期待の眼差しを向けている。公衆の面前ではないにせよ、もう少し淑女としての慎みぐらいは持ってほしいと思う。

 結局のところ、訓練所の小屋に2人を連れ込んだ後のことは……想像に難くないと思うが口に出すのも恥ずかしいので控えようと思う。

 

「それで、姫梨は何か用事があってきたんだろう?」

 

 一通りの事を終えて身だしなみを整えたところで悠元が切り出した。明らかな婚前交渉の行為に対することは今更なのでツッコミを入れないが(恐らく千姫か由夢がその辺を煽った可能性が高い)、本当の用件を尋ねた。

 

「そうでした。実は、悠元さんを呼んで欲しいと御当主様から仰せつかりまして。その際、かこつけて押し倒してもらいなさいと」

「……いくら何でも、高校生の段階で“仕込む”つもりは毛頭ないのだが」

「その気遣いが平然と出来るから、お兄ちゃんの嫁になりたい人が増えるんじゃないかな」

「婚前交渉を平気で認めてる時点で頭のネジの去就が不安になるレベルだわ」

 

 大体、当主の命令に加えて唆すあたり、千姫も楽しんでいる節は否めない。普通は用事が済んだ後にそういう計らいをすべきものだが、この辺の常識を問いただすとキリがないので諦めた。

 

「まあ、分かった。とりあえず、姫梨はセリアの修行を見てやってくれ」

「え、まだやるの!?」

「言っとくが、達也らはともかくとして俺も含めた天刃霊装の習得者は最低でも24時間の常時展開が可能だからな。ビシバシ扱いてやってくれ」

「分かりました。遠慮なく行きますね」

 

 ちなみに、天神魔法に関する部分で言えば悠元はまだ優しい方で、姫梨は伊勢神宮の神職を担う立場の伊勢家の人間。故に、姫梨は天神魔法の修得に関しても厳しいスタンスを持っている。

 当主からの呼び出しということで、その場を速やかに離れた悠元。その後、訓練所からセリアの悲鳴にも似た声が聞こえたという噂の真相は……神のみぞが知る。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 神楽坂本家の千姫の書斎は、悠元が当主に宛がわれる部屋から代々の先代当主が住まう離れに移動していた。書斎とは言っても昔ながらの日本建築に見られる囲炉裏や薬缶があり、耐火性の保存魔法が掛けられた初代当主からの机の前で胡坐をかきながら仕事をしている。

 すると、身に覚えのある人の気配を感じ取った千姫は立ち上がって入室を促した。

 

「悠君、入っていいよ」

「失礼します。って、仕事はよろしいのですか?」

「ちょっと一休みしたいからね。丁度魚も焼けたし」

 

 食事というよりは軽食程度のものだが、焼きたてのシンプルな塩味の焼き魚と淹れたてのほうじ茶を頂きつつ、悠元が一息入れたところで千姫に尋ねた。

 

「それで母上。姫梨から呼び出しを受けて来たのですが、どういう用件でしょう?」

「実はね、この辺りを管理している人員で獣医が急遽北海道に行くことになってね。ようは故郷で開院したいってことだから、物入りのお金も“引っ越し祝い”で出すんだけど」

 

 神楽坂家が本拠を置く箱根一帯は今も国立公園の名残が残っており、稀少な植物や動物の保護は生態系の維持のみならず、ひいては龍脈の安定化にも結び付く。龍脈を安定化させることは自然災害の多いこの国において最も重要視されるファクターであり、護人である上泉家と神楽坂家が揃って関東地方に拠点を置くのは、皇族の守護だけでなくそれを支える国民や国土を自然の驚異から“護る”ことにも直結する、と千姫から聞いている。

 十師族の監視・守護はあくまでも治安的な要素が強く、医療や教育などの分野には強く関与していない。その反面、護人に連なる家はあらゆる分野にコネがあり、昨秋の『トーラス・シルバー』による魔法医療関連の口添えを千姫にお願いしたことがある。

 獣医自体は神楽坂家の経済基盤である神坂グループからの“業務委託”で管理しているが、その内の一人が親御の都合で北海道に戻ることとなったらしい。

 

「その引っ越しを手伝えと?」

「いやー、悠君の『鏡の扉(ミラーゲート)』は便利だけど、流石に引っ越し業者の仕事を奪う訳にもいかないでしょ?」

「それは確かに」

 

 自分で荷物を運んだりすることはあるが、自分の魔法で運ぶのはそれこそ極めて高い機密性が要求された場合だけだ。ともなれば、何故獣医の話を千姫が持ち出したのか……すると、千姫は含み笑いを見せた。

 

「そっか、悠君は当時三矢の姓も名乗ってなかったから、いくら十師族の生まれでも十師族もとい師族二十八家との関わりはお義兄様の事を除けば薄かったんだっけ。師族会議もとい彼らの成り立ちは悠君も知っているよね?」

「ええ、まあ」

「なら、“数字落ち(エクストラ)”のことも当然知ってるでしょ?」

 

 知らない筈がない。原作知識も含めると一花(いちはな)家(市原鈴音、十七夜栞)、三咲(みさき)家(岬寛)、七倉(ななくら)家(名倉三郎、現在の支倉佐武郎)ぐらいが関わりのある、もしくは関わりのあった人々だ。

 ただ、自分の知り合った人間でそれらしき人はいなかった筈だ。この辺は調べれば分かるのだろうが、何分達也や深雪から敵対しない事を優先していたため、それに敵意を向けてこない人間に関して興味など持てなかった。

 すると、千姫はこう述べた。

 

「実は、矢車家の伝手でちょっと頼み込んでこようかと思ってる人がいて、何とね、そこの娘さんと居候している女の子を婚約者にって矢車家から申し出を受けたの」

「……え? ちょっと待ってください……」

 

 『九頭龍』の一角を担う矢車家の担当地域は北海道全域。となれば、矢車本家で過ごした小学3年から中学1年までの間に自分が知り合った人の中にいる、ということになる。そして、千姫が最初に述べた獣医という言葉に加え、女子2人を含む家族構成を自分が知っているとなれば、矢車本家を除くと一つしか該当しない。

 悠元は当然、その名字を知っている。

 

「母上が声を掛けたいのは遠上(とおかみ)家の方ですか?」

「正解。第十研の数字落ち(エクストラ)十神(とおがみ)と名乗ってた一家だよ」

「……ミーナ―――茉莉花(まりか)の奴が数字落ち(エクストラ)の一族。となると、もう一人は伊庭(いば)アリサってことになりますね」

 

 2人の女の子―――遠上(とおかみ)茉莉花(まりか)伊庭(いば)アリサの出会いは、悠元が『長野佑都』を名乗って過ごしていた時に遡る。

 

 悠元が小学3年生の時、父親である三矢元の勧めで上泉家で修行することになり、更には剛三の提案で北海道の矢車本家に連れてこられた。最初は三矢家と矢車家の繋がりからくるものだと思っていたが、話を聞くに三矢家の“素体”となったのは当時の矢車家当主であったことを知った。

 矢車をそのまま捩ると「八」の家―――第八研出身と勘違いされてしまうため、第三研の出自と矢車の姓を合わせて「三矢」と名乗った、という事実を本家の人間から聞き及んだ。本来折り合いが難しい現代魔法と古式魔法の家が雇用主と使用人の関係を築けているのは、元は同じ矢車の血族だからであった。侍郎と詩奈の進展に前向きなのはその辺の事情も含んでいる。

 

 話を戻すが、矢車家は古式の術式を使う関係で動物を介した術も会得しており、近くの町で動物病院を営んでいる遠上家と親交があった。アリサは母親と一緒に遠上家で暮らしていたが、その母親が亡くなったのだ。

 当時、悠元の年齢はまだ8歳で、アリサと茉莉花は5歳。自分の実の妹である詩奈よりも更に年が2つ下。悠元が2人と出会ったのは、アリサの母親である伊庭ダリヤの葬式に矢車家の付き添いで出向いた際、アリサと茉莉花の面倒を見てほしいと茉莉花の兄である遠上(とおかみ)遼介(りょうすけ)に頼まれたからだ。

 ダリヤには親戚がおらず(矢車家の人から葬式の後で聞いた)、幼いアリサに喪主が務まるはずなどない。その為、親交が深かった遠上家が喪主として忙しなく動いており、遼介もその手伝いとして駆り出されていた。

 

―――おかあさん、どうしてなの。

 

 ただ悲しい、というよりもアリサの中にあったのは困惑だった。ただ、その時点で他人に等しい自分がどこまで関わっていいのかという疑問もあったため、様子を見ていた。アリサの傍で気遣っている茉莉花もどうしていいか分からずにいた。

 すると、アリサの目線がこちらを向いた。

 

「その、おしえてほしいんです」

 

 そう言って、アリサは話し出した。母親から「あなたの父親は遠いところで生きている。偉大な魔法師で私のことを愛してくれていたけど、どうにもならない事情があって私の方から別れを切り出したの。だから、どうか父親のことを恨まないで。すべては私の責任だから……」と何度も言っていた。その意味がアリサには分からなかったし、茉莉花もピンと来ていなかった。

 正直なところ、それを聞いた瞬間に自分の父親を連想したが、どこからどう見ても愛妻家である父が隠し子など到底想像できなかった。そもそも、魔法師らしい行動をしてなかったせいか、その自覚すら薄かった自分にはアリサの母親の心情を推し量るのは難しかった。

 だから、こう言うしかなかった。

 

「僕は君のお母さんの為人を知らない。けどね、きっと君のお母さんが言いたかったのは、君のお父さんのことについてはお母さん自身の問題で、君が恨む必要なんてどこにもない。ようするに、君のお母さんは君に幸せになって欲しいということだと思うよ」

 

 この時の自分は初対面のアリサや茉莉花の事すらロクに知らなかったのだ。ましてやアリサの母親であるダリヤの事など知る筈もない。ただ、アリサは茉莉花の家族を見て、自分に父親がいないことを不思議に思ったのだろう。それに対する答えがダリヤの言葉だとするのなら腑に落ちる。

 アリサからすれば、顔も知らないであろう父親のことを恨むかもしれない。「何故母を強く引き止めなかったのか」と思うかもしれない。でも、ダリヤは自分からアリサの父親に別れを切り出した。それは、その相手の幸せを慮っての事なのかもしれない。

 

 偉大な魔法師と称された実の父親が母親の葬式に出てこないことも問題だと思う。今更出てきて父親面出来るほど図太い性格ではなかったか、それともダリヤの死そのものを知らなかったか。どちらにせよ、それで偉大な魔法師というのは聞いて呆れる、と内心で愚痴った。

 悠元の言葉を聞いて、何かを考えるようにしているアリサ。茉莉花もアリサの様子を不思議そうに見ていた。すると、アリサは唐突にこう言い出した。

 

「あの、だったら、わたしのおにいちゃんになってください!」

「……はい?」

 

 もはや何が何だか分からなかった。自分は口説いたつもりもないし、自分が知る部分を総動員して至極真っ当な答えを返しただけだ。それがどう繋がって初対面の人間に対して「兄になって欲しい」と懇願されなきゃならないのだ……と思ったところで、口に出たのは疑問を浮かべた返事だった。

 

 アリサにとって唯一の血の繋がりを有していた母親が亡くなった。そして、遠上家と家族同然の付き合いをしていたアリサからすれば、兄がいる茉莉花が羨ましく思えてならなかったのだろう。その結果として自分に兄になって欲しいと懇願したことは理解しておく。

 

 初対面なので会った時に自己紹介だけはした(茉莉花とアリサは矢車本家の人とも交流があり、悠元はその本家繋がりの人間と紹介された)が、流石に行きすぎだろうと窘めようとしたところで茉莉花が詰め寄ってきた。

 

「アーシャ、ずるい! わたしのおにいちゃんにもなって!!」

「……」

 

 茉莉花(ブルータス)、お前もか。

 

 結局、5歳児2人のパワーに圧倒されて兄呼びを認める羽目になった。更には二人の呼び方をアリサの母親に倣う形で「アーシャ」「ミーナ(ロシア人女性の名前「ジャスミン」の略称からくるもの)」と呼ぶことになった。自分に対する呼び名はアリサが「佑都お兄ちゃん」、茉莉花が「佑兄」となった。

 大体、茉莉花には実の兄がいるのにいいのか、と尋ねると、茉莉花は「りょうすけ(にい)はやさしくない」とぶった切るような発言が飛び出し、偶々近くにいた遼介が部屋の隅に移動して泣いていた。頑張れ遼介。

 

 それから4年間は家族ぐるみで交流を持つことになった。2人が小学校に上がってからは2年ほど同じ小学校に通っていたが、休み時間になるといつも遊びに来るようになり、同級生からは「未来の嫁さんが来たぞ」とからかわれ、2人も満更じゃなさそうな表情をしていた。その当時の自分は恋愛感情に希薄だったせいで適当にあしらっていたが。

 自分が武術を習っていることが影響してか、茉莉花が矢車家にある武術の道場に通い始め、アリサも茉莉花に連れられる形で習い始めた。なお、遼介も両親の勧めで通っており、「頑張れよ、未来の義弟(おとうと)」と言われたときは釈然としなかった。

 

 中学1年の終わりに身体面の成長を鑑みる形で新陰流剣武術の修行が一旦終了し、師範代の目録を渡されたことに加え、三矢家当主からの意向で東京に行くこととなった。引っ越しの1ヶ月前に遠上の一家とアリサに伝えたところ、自分を実の兄のように慕ってくれた2人は当然引き留めてきた。

 茉莉花の両親の提案により引っ越しの日まで遠上家で暮らすわけになったが、学校の時以外は常に傍から離れようとしなかった。寝るときは勿論、お風呂にも一緒に入る羽目となった。ちゃんとタオルで隠してはいたが、一度だけ迂闊にも下半身を見られ、2人は興味深そうな眼をしていた。特殊な性癖など持っていないので、流石に9歳相手に性欲など湧く筈もない。

 

 別れの日。お世話になったということで2人には髪飾りをプレゼントした。アリサには桜のモチーフの髪飾りを、茉莉花にはジャスミンの花をモチーフにして作り上げた。デザインの原案は自分で一から書き起こし、バランス調整はFLT・CAD開発第三課にいた職員にも手伝ってもらい、製作自体は自分一人で最後まで完成させた。

 この2人に渡した髪飾りは、後に深雪の手に渡ることとなる髪飾り製作のフラグになったという訳だ。

 

 けれど、これで二度と会えなくなるわけではなかったし、その気になれば連絡は取れるということで、プライベートナンバーを茉莉花の父親に渡した。流石に通信料を考えてメール主体ではあるが、魔法科高校に入った今でも続いている。

 最近は各々端末を持ったのか、茉莉花の父親経由のメールはほぼ無くなった。その代わり、父親である遠上(とおかみ)良太郎(りょうたろう)から「娘の親離れは早いかもしれない」と言いたげなメールが時折来るようになった。俺にその話題を投げられても正直困るだけなのだが、当たり障りの無い程度の返信はしている。

 しかも、良太郎だけでなく彼の妻である芹花(せりか)からもメールが来るようになり(アドレスは夫から聞いたと説明を受けている)、少なくとも良太郎と芹花は悠元が十師族・三矢家、そして現在の名字が神楽坂を名乗っていることも把握している節が見られた。

 「其方が良ければ茉莉花とアリサのどちらかを娶って欲しい」みたいな雰囲気を文面の各所から感じたのは……気のせいにしたかった。 

 

 ただ、茉莉花とアリサは九校戦をテレビで観戦していたが、『佑都の面影を感じる』みたいな文言があったので正直素性を伝えるべきか悩んだが、良太郎と芹花から止められている。多分だが、いくら数字落ち(エクストラ)に対しての差別が禁止されたとはいえ、多少の蟠りは燻ぶっているような状態だ。それは先日のオフショアタワーで対峙した岬寛がいい例だろう。

 

 ……今更ながらに思うが、アリサが間違いなく母親似なのは葬式に出ていた関係で把握している。そうなると、アリサの母親ことダリヤが言っていた言葉が気に掛かる。

 『偉大な魔法師』という時点で、これがダリヤのみならず魔法師社会で知られている魔法師の男性なのは間違いない。『遠いところにいる』という文言が国内外のどちらを指すかは不明。

 一番問題なのは、『愛してくれていたけど、どうにもならない事情があって別れた』……これ、相手の魔法師が二股以上掛けていて、アリサを妊娠させておきながらその事実を知らなかった、ってことになるよな。護人の方針とはいえ、実質二股どころじゃ済まない自分が言っても何の説得力にもなりはしないが。

 あとヒントになりそうなのは、家族付き合いをしているときに茉莉花の父親から魔法の練習はしているのかと聞かれたことがあり、別段隠すことでもないので正直に答えると、「茉莉花やアリサには魔法を見せないで欲しい」と懇願されたぐらいだ。その時は魔法教育の根拠の薄い通説に配慮した結果だと納得していたが。

 何にせよ、結論に至るまでのピースが足りない。茉莉花のことも驚いたが、アリサに関しては只事じゃない素性が隠されていそうだ。もしかすると、自分の素性を2人に隠したい理由は茉莉花に対してというよりもアリサに対してのものかもしれない。

 

「それで、何時出発するのですか?」

「1時間後。ここからティルトローター機で羽田(はねだ)(東京湾海上国際空港)まで一度飛んで、新千歳(しんちとせ)を経由して矢車本家に向かう予定だよ」

「……まあ、いいですけれど」

 

 態々姫梨を煽らなかった方が時間的に余裕もできるわけだが、この辺の時間調整も見越しての発言ということは言うに及ばず、事前に泊まるための準備もして欲しいと言われていたので問題はなかった。

 あと、時間が取れるということは『セラフィム』と『ラグナロク』のプログラム調整の時間も確保できるということなので、調整用の端末と併せて一応持ってきてはいる。尤も、現状で使うのは『ワルキューレ』と『オーディン』、そして手首につけている完全思考操作型CAD『シャドウブレイズ』ぐらいだろう。

 

 別にベゾブラゾフや国家元首の書記長に対して“交わした約束の契約不履行”の理由で新ソ連へカチコミをするわけでもないので。

 




 主人公が知らない原作要素、キグナス要素追加。
 そもそも、この小説だと十文字家の隠し子(従妹)として理璃を入れた約2ヶ月ちょっと後にガチで出てくるなんて予想すらしてませんでした。

 ここで理璃を入れた経緯を改めて話しますと、横浜事変において達也が『再成』を使うシーンと『分解』をトレーラーに向けて放つシーンをカットしたため、真由美と摩利、啓と花音、桐原と紗耶香は達也の特異魔法を知りません。
 加えて、風間と響子が出てくるところで克人の出番をカットしたため、達也が国防陸軍の特務士官であることは達也の親しい友人関係にある人間だけしか知らない秘密になっています。

 なので、達也に代わる“国防軍の関係者”という部分がダブルセブン編の関係で必要となり、十師族でも従兄弟関係の人間はちらほらいることと、七宝と七草に匹敵させる立場として考え付いたのが十文字家の隠し子要素で、理璃は現当主の妹の子という形で登場させました。四葉関連にしなかったのは別の意味で問題が生じそうだと思ったからです。

 というか、克人の義弟(従弟)の“両親が相次いで亡くなったために引き取られた”部分が理璃と似通っている上に、名前が“勇人(ゆうと)”とまさかの主人公と被るとは思ってもみませんでした。
 彼らとの関わりに関しては本編で触り程度にしていますが、光宣絡みで触れる形になるかもしれません。

 三矢家と矢車家の関係に関しては一応オリジナル設定です。ただ、原作で出ている四葉家の家系図を見る感じ、そういう可能性があるのではと思ってこうしました。

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