魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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母の繋がり

 この世界に転生した時、病み上がりでベッドから動けない間、まず考えたのは自分の境遇だった。

 七人兄弟姉妹という構成は原作と同じだったが、長男の元治と末っ子の詩奈以外の構成が明らかに変化していたのだ。男子が元治と元継、そして悠元(じぶん)の三人。女子は詩鶴と佳奈、美嘉と詩奈の四人。

 自分がこれから魔法の訓練を行うにあたり、真っ先に自分の様子を窺おうと接触してくるのは佳奈と美嘉なのは時折部屋を訪れることからして間違いなく、早めに味方へ引き込む方策を考える必要があった。

 

 そして、転生特典のせいで魔法技能も現代魔法の水準を超えてしまう可能性があり、何も対策をしないようでは三矢家の家督継承に関わりかねない。家督継承を断ったとしても、家業を継げと言われるかもしれない。

 なので、父親の元から問い詰められたとき、俺はその時点で三矢の家督と家業を継がないと決めた。いくら魔法を極めてみたいからと言って、兄の居場所を奪うのは気分的にも宜しくないし、家族の軋轢を生むことになってしまう。

 前世で兄に恋人を奪われたことはショックで、大学進学を期に家を出て一人暮らしを始めたことは鮮明に覚えており、転生しても覚えていることに釈然としなかった。それが結果的にこの世界における恋愛感情の希薄化の原因となっていたわけだが。

 前世と今世の兄は別物―――そう割り切ったからこそ、元治に対しての感情は面倒見のいい兄に落ち着いたし、元治からも良く頼られる形に落ち着いた。

 

 元から問い詰められる前日に十山つかさ(当人は遠山つかさと名乗っていたが)と第三研であったが、彼女の何かを値踏みするような視線に対して気付かない振りをしつつ応対した。

 それで自分は「この女狐とどうにかして会わない方法を考えないと」と考えた矢先に元からの呼び出しを受けたので、いっそのこと三矢家を継がない選択を取った方が自分や兄の為にもなると考えた。

 結局、高校入学前の正月に襲撃を受けたわけだが、自分で言うのもどうかと思うが、お前がまともだという証拠を見せて見ろ、と言いたくなったほどだ。手に負えなくなる前に“再教育”しようとする時点で、達也を殺そうと画策した四葉分家当主と何ら変わらないと思う。

 

 家督と家業を蹴った話は直ぐに元治の耳に入り、元治からも聞かれた。それに対して「元治兄さんが継ぐのが一番合理的です。それでも不安に思うのなら、元治兄さん自身が強くなればいい」と言い含め、護身術程度でもいいから新陰流剣武術を学ぶべきと背中を押した。

 上泉家もとい剛三にはいたく気に入られ、北海道に連れてこられて矢車家で過ごすことが多くなり、長期休み中は三矢家に帰って侍郎や詩奈の面倒を見たり、佳奈や美嘉に混じって魔法の訓練をしたり、あとは剛三の誼で千葉家や吉田家を訪れることが多くなった。幹比古やエリカとはその頃からの付き合いだ。

 その当時のことを話すとエリカはノリノリで幹比古を弄り、幹比古は「やめてくれ!」と言うのがお約束となっていた。

 

 そんなわけで、自分自身は早々に十師族そのものに見切りを付けていた。十師族の直系として過ごした時間が短いのもあるが一番の理由は十山家の存在だろう。心の中で感謝はするが、言葉に出すことは絶対にしない。

 

 正直なところ、十師族を含めた師族会議のシステム自体がかなり浮ついているのが現状における問題だ。当時の政府の意向で作られた魔法師による魔法師全体を統制するシステムで、提唱者は国防軍退役少将の九島烈。現在の師族会議で力を有する四葉家と七草家の当主は九島烈の教え子である。この世界の三矢家は母方の祖父である上泉剛三の弟子ということもあり、十師族の中でも高い発言力を有する。

 

 この世界の古式魔法を統括するのは“導師”と呼ばれている古式魔法の家で、東道家と樫和家が主にこの役目を担っている。そして、それらの更に上位としているのが“護人”の神楽坂家と上泉家。更には国家の安定を担うための『元老院』がある。

 

 師族会議の構成自体が政府の意向を受けているようなもので、千姫と剛三が意図した“国防軍の腐敗を防ぐための役割”自体が陳腐化してしまっている。師族会議の成立過程を見ると、本来は現在百家と呼ばれる家も含めるべきという案も存在したが、師族会議自体の収拾がつくギリギリを考慮した結果、切り捨てざるを得なかったらしい。

 

 師族会議自体は民間組織だが、政治家や国防軍などの軍事や外交といった国家の対外政策に大きな影響を与える部分に干渉できる存在を“民間人”と呼ぶのは流石に限界があるだろう。とはいえ、下手に権力を与えれば確実に魔法師社会で内乱が発生する。

 何もかも「事なかれ主義」で進めてきた結果がコレという有様だ。

 

 おまけに、現在の魔法教育も軍人魔法師を前提にした部分が多く、それ以外の進学先の開拓も昨年の『トーラス・シルバー』によって魔法医療技術の国家プロジェクトが動き出したばかりだ。

 その手始めとして今年の4月、旧群馬県に国立魔法医科大学(通称:魔法医大)が開校した。全寮制・全日制のカリキュラムで、講師は魔法大学附属病院などで経験を積んだ医師や技師が担当することになり、今年度は定員50名に対して受験者数が200名を超えた。国内のみならず国外からも問い合わせが殺到していて、SSAのディアッカ・ブレスティーロ大統領の来日日程には魔法医大の視察も含んでいるほどだ。

 

 なお、ここの技術を盗み出そうとする輩もいるが、そういう連中は新陰流剣武術の門下生が拘束して警察や公安、国防軍に引き渡している。魔法医大を建てた場所が旧群馬県なのは、上泉家の保護を受けやすくするためのものだ。

 ……素直に頭を下げて見に来ればいいものの、それが出来ない時点で人としての礼儀を欠いていると言わざるを得ない。なお、スパイの比率は新ソ連、大亜連合、USNA、そしてイギリスの順で多い。本当にバカばっかりだと言い放ちたくなる。

 

 魔法師を縛る法の理があっても、納得しようとしない輩は多い。人間主義者は自然のあるがままにとか宣っておきながらアンティナイトを用いている時点で支離滅裂の極みだ。某映画の元大佐風に言うなら「アンティナイトなんて捨ててかかってこい」と言うべきだろう。

 

 原作で相手が魔法師とはいえ女子生徒を取り囲んでいる絵面が出来ている時点で「変質者の集団が女子生徒に乱暴を働こうとしている」と言っている様なものだ。大体、魔法云々で罪の軽重が変えられるというのなら、法を軽んじているのはそれを宣う当人たちに他ならない。

 

 魔法一つで力関係が劇的に変わると言うのなら、その対抗手段として拳銃を持つことが許されるのか。銃の携行許可を緩和したところで、銃を使った犯罪が横行するのが目に見えている。それは刃物なども同じだろう。対抗手段を持とうとしても、結局はその対抗手段を用いた犯罪が横行し、メディアによって謂われなき批判を魔法師が受けることにも繋がる。

 

 だったら、認めるべき権利は認めるが、その対価と義務を与えることで相互にとっての利を追求した方がまだいい。いっそのこと、この国の政府が魔法結社という形で認めるのも一つの手段だろう。幸い、政治家の改革はこの間の選挙で大分進んだので、後は官僚の部分の“大掃除”を残すのみだが。

 

 大体、現行の師族会議のシステムだと、師族が入れ替わっても師族各々の監視基盤をそう簡単に引き継げない部分が問題として存在する。その中の一つが全国に存在する魔法技能師開発研究所の管理問題だ。

 監視・守護の担当と研究所が密接にリンクしてしまっているため、これを引き離すのは魔法技術の漏洩の観点からして難しい。なので、第四研を除く閉鎖された研究所をいっそのこと解体して、その跡地に魔法研究のための施設でも作る方が効率的だと思う。

 

 第一研の跡地に金沢魔法理学研究所を設立したように、他の部分でもそれは十分可能だろう。この辺は上泉家が得意とする部分なので、元継に話は付けている。魔法技術の秘匿云々というのなら、政治家の連中の尻をバットでフルスイングする勢いで叩いて、政府として責任を負わせる形で主導する。

 

 第四研に関しては表向き解体の方針としつつ、生きている設備を継続させはするが、将来的に研究施設の移設をするべきという打診を既にしている。四葉家が管理する巳焼(みやき)島に移設することも既に聞き及んでいる。

 普通に裁けない罪人となった魔法師を人体実験に使うのは黙認した。医学でも死刑囚などを使うことで発展させてきた経緯を鑑みれば、それぐらいは許容すべきと考えたからだ。変に飼い殺しをして手に負えなくなるよりはマシだと思う。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 遠上家が箱根へ移住する話は付いたらしく、箱根で開く予定の動物病院の建設や人員募集などは既に千姫が神坂グループを通して手配を済ませており、良太郎と芹花は神楽坂家が手配した引っ越し業者の出迎えの為に戻ったとのこと。

 茉莉花とアリサの部屋は流石に親でも触れない私物があると思うので彼女らも遠上家に戻る必要があるが、茉莉花とアリサは寂しそうにしていた。これは付いていくべきだと千姫を見やると、千姫は笑みを零した上で「構いませんよ」と答えた。

 

 そして、引っ越しの為の準備が大急ぎで進められるわけだが、実は事前にある程度の荷物を纏めてあったため、そこまで手伝う必要もなかった。重い物を率先して運んだ際、周りからは尊敬やら羨望みたいな目線を向けられたが。

 動物病院のほうは大丈夫なのかと思ったが、実は箱根で話していた獣医がそのまま建物と設備を活用するとのことで、引っ越し先の動物病院の設備は最先端技術のものを採用していて、全て神楽坂家で費用を受け持っている。その金額を小耳に挟んだ茉莉花の顔が青ざめるほどだった。自分がいまいちピンとこなかったのは、現在の自分の資産がえらいことになっているためかもしれないが。

 ともあれ、荷物運びをすべて終えたところでアリサが何かを持って悠元に近付いてきた。どこか申し訳なさそうな表情をしていたので、恐らくは彼女の手に持っているものの相談事であろう。

 

「あの、悠元お兄ちゃん。今大丈夫?」

「大丈夫だよアーシャ。それで、その手に持っているものは?」

「あ、うん……これ、お母さんから渡されたもの」

 

 アリサから渡されたのは差出人が書かれていない封筒と、数枚の絵ハガキ。なんでも、アリサの母親であるダリヤが亡くなる1週間前にアリサへ手渡したもので、実質的なダリヤの“遺言”なのは間違いないだろう。

 絵ハガキの方は、差出人の部分が黒塗りになっていた。恐らくダリヤがそうしたのだと思われる。

 

「ダリヤさんがアーシャのことを信頼できる誰かに渡そうとした……それも、差出人の部分を態々隠したってことは、相手方への迷惑を考えたのだと……待てよ」

 

 差出人のことに気が向いていた思考を一度リセットする意味で絵ハガキの絵の部分を見やる。すると、どこかで見覚えのある筆跡に加え、改めて絵ハガキの消印を見ると、旧神奈川県厚木市の郵便局から送られたものとすぐに分かった。司波家で居候しているため、どうしても重要な書類は送ってもらっていたからだ。

 

「こうなったら、魔法で巻き戻す方が早いな」

 

 こうなると、差出人を探るべく悠元は『天陽照覧』で絵ハガキを“巻き戻す”。幸いにも消印の日時は読み取れたので、その日の翌日ならばダリヤの手は入っていないだろう。そして、眩い光が絵ハガキを包み込んだ後、黒塗りの部分が綺麗に消えて差出人の名前が露わになる。

 その名前にアリサは声を上げた。そして、悠元は思わず頭を抱えた。

 

「この人、いつもお母さん宛に送ってた人で間違いない……お兄ちゃん?」

「……ここでそう繋がるか?」

「アーシャ、悠兄。飲み物持ってきたよ……って、どうしたの?」

 

 世界は狭い、というのは本当に出来た言葉だと思う。アリサが思わず声を上げたことと、魔法のことを説明しているとき、上泉の名に首を傾げていたこと。ここでそう繋がってくるのかと。

 そんな二人のもとにペットボトルを持って現れた茉莉花がその様子を訝しんだので、悠元が茉莉花に視線を向けた。

 

「お、ありがとうミーナ」

「いいよ、気にしないで。それで、それは何?」

「アーシャのお母さんがアーシャに預けていた封筒と絵ハガキで、絵ハガキの差出人の筆跡を探ったんだが……何でその名前が出てくるかね」

「え? “上泉(かみいずみ)詩歩(しほ)”さん、って読むっぽいけど、悠兄の知り合い?」

 

 差出人の名前を悠元が知らぬはずなどない。悠元の母親である三矢詩歩。旧姓は“上泉”。そう、その名前は……旧姓表記とはいえ、自分の生みの母親なのだから。

 

「知り合いも何も、俺の生みの母親だ」

「え? お兄ちゃんのお母さん? でも、あの人―――千姫さんのことをお兄ちゃんは『母上』って」

「自己紹介の時に『養子』と言っただろ? ここに書かれている上泉詩歩―――現在は十師族・三矢家当主夫人、三矢詩歩と名乗っている」

「え、ええっ!? アーシャのお母さんが悠兄のお母さんと知り合いだったの!?」

 

 自分の生みの母親である詩歩は剛三の影響で各方面に顔が広く、とりわけファッション分野やアパレル界隈、アクセサリー関連のコネはかなり豊富に存在する。中にはどこでそんなコネを手に入れてきたのか謎な部分もあった。

 

「そうなると、この差出人不明の封筒はうちの母さん宛の可能性が極めて高い……そんな話なんて一度も聞かなかったんだが」

 

 上泉の姓でやりとりしていた(できていた)経緯も含めて詩歩から直接事情を聞いた方が早いと考え、悠元は折りたたみ型端末を床において、レシーバー経由で『五芒星(ペンタゴン)』を起動した上で三矢本家に連絡を入れる。すると、丁度書斎にいた元がモニターに映った。

 

『どちら様、っと悠元か。いきなり連絡をするとは珍しいな。両側にいるのは悠元の新たな婚約者か?』

「……まあ、間違ってないけどさ。2人は爺さんの関係で矢車家にお世話になった際、知り合ったんだ」

 

 ともあれ、通信モードをスピーカーモードに切り替えつつ、悠元は茉莉花とアリサのことをかいつまんで説明した。すると、元は思わず笑みを零した。

 

『千姫さんはお前のスペックを考えれば三人では到底足りないと言っていたが……元継も苦労しそうだ。っと、初めましてお嬢さんがた、十師族・三矢家当主、三矢元という。悠元は既に三矢の人間ではないが、今でも家族―――自分の息子だと思っている。悠元をどうか宜しく頼むよ』

「は、はい! 遠上茉莉花といいます!」

「伊庭アリサと申します。その、悠元さんの……婚約者です」

 

 まさかいきなり十師族の当主と顔を合わせるなど思っていなかったため、茉莉花とアリサはどこかぎこちなさそうに頭を下げた。すると、元はアリサを見て見覚えがあるような素振りを見せていた。

 

『これは丁寧に……悠元、伊庭さんがどこかで見た覚えがあるような気がするのだが』

「そうだった。父さん、母さんをこの場に呼んでくれ。隣にいるアリサが大きく関係する話だ」

『詩歩が、か……分かった、直ぐに呼ぼう』

 

 元が態々席を外したということは、詩歩の居場所が分かっているからだろう。時間にして1分ぐらい経つと、改めてモニターに映った元の隣に詩歩の姿が映っていた。どうやら書斎の隣の部屋(元と詩歩の部屋)にいたらしい。

 

『悠元、久しぶりね』

「はい、母さんも久しぶりです。最近は中々顔を見せることも出来ず、すみません」

『悠元が忙しいのは聞いていますし、婚約者と仲良くすることに専念して構いません。それで、大まかな事情は夫から聞きましたが……新たな婚約者はダリヤさんの娘さんに、芹花さんの娘さんと言ったところかしら』

「は、はい。伊庭アリサと言います」

「え、えっ!? お母さんをご存じなのですか!? す、すみません、遠上茉莉花といいます」

 

 詩歩は悠元の両隣りにいるアリサと茉莉花を悠元の婚約者だとそれとなく見抜きつつ、母親の名を口にしたことでアリサと茉莉花は驚愕を禁じえなかった。単に顔が広いだけでなく、読みの鋭さは流石剛三の娘であると言わざるを得ない。

 その一方、詩歩は微笑んでいて、元に関しては感服したように瞼を閉じて頷いていた。

 

『それはもう、芹花さんとは学生時代に競い合った仲ですから。にしても、2人の娘と私の息子である悠元が出会ったのは何と言いますか……その、アリサさん。ダリヤさんは』

「その、8年前に……」

『そう、手紙が送られてこないからまさかとは思ったけれど……落ち着いたら墓参りに行かせてもらおうと思うのだけど、いいかしら?』

「はい。母もきっと喜ぶはずです」

 

 手紙のやり取りが途絶えた時点で詩歩はダリヤの死を推察していたのだろう。自分が伝えるべきことだったかもしれないが、あまり暗い話題を伝える気にもならなくて黙っていたし、ダリヤと自分の母親が知り合いだなんて知らなかった。

 詩歩とアリサが会話を交わし終えたタイミングで悠元が詩歩に話しかけた。

 

「さて、母さん。実はアーシャ―――アリサがダリヤさんから宛先が不明の手紙を預かっていまして。一緒に手渡された絵ハガキから察するに、おそらく母さんに宛てたものだと」

『成程、彼女の……実を言うとね、手紙のやり取りの中でアリサさんのことは全く触れていなかったの。多分、三矢家に迷惑が掛かると思って避けていたのでしょうね』

 

 詩歩が言うには、手紙の頻度からして北海道に移住したダリヤに子どもが出来たような感じはあったものの、それには直接触れないようやり取りをしていたらしい。名字の宛先自体を旧姓の上泉にしていたのは、ダリヤやアリサだけでなく遠上家のことも慮った結果だと詩歩は述べた。

 

『悠元、封筒をその場で開けて中身を読んで欲しいの』

「宜しいのですか?」

『ええ。その方がいいような気がするから。あなたもよろしいかしら?』

『この場合、私に当主の権限を振りかざす資格などないよ。悠元、読み上げてくれるか?』

「分かった」

 

 詩歩と元の言葉を聞いて、封筒の封を開けて中身を取り出す。中には便箋が一枚入っており、その内容を読み上げた。

 ダリヤと詩歩が出会ったのは19年前の話。亡命ロシア人だったダリヤが三矢家に招かれたのだ。この時点で五人の子どもを産んでいる詩歩は逞しかったわけだが、ある日詩歩は当時生きていた詩歩の母親にして剛三の妻―――上泉(かみいずみ)奏姫(かなめ)がダリヤを紹介した。

 それから友人としての付き合いをしていたが、14年前にダリヤは北海道へ突然帰った。詩歩はその少し前からダリヤから色々と相談を受けていて、ダリヤが十文字家の男性と付き合っていたことまでは読み取っていたと話す。

 ダリヤは北海道へ行く直前に詩歩のもとを訪れ、色々協力してくれたのに申し訳ないと謝罪したことを懐かしむような文面が見られた。その上で「この時点で女の子まで生まれていた詩歩は子育てなどで心を痛めているのに、何も恩返しできずに去ってしまったことを許してほしい」と書かれていた。

 

 北海道に移り住んで自身の死期を悟った時、ダリヤは詩歩に一つの頼みごとをすることとした。

 それは、「自分の娘であるアリサを詩歩の娘として育ててほしい」というダリヤの“遺言”が便箋に書かれていた。とはいえ、子宝に恵まれて子育てが大変な彼女にその役割を押し付けるような形となるため、ダリヤは相当悩んだ様子が文面から窺える。

 そこで、詩歩から送られた絵ハガキの差出人の部分を黒塗りで塗りつぶした上で、もし詩歩がアリサの持っている手紙と絵ハガキに気付いたら、その手紙の内容をどうか受け入れてほしい、と懇願していた。

 

 そして、「叶うのならば、詩歩の息子とアリサが出会って結ばれることを祈る」という文言と共に、便箋の文章は終わっていた。

 奇しくも、その願いはダリヤの死を切っ掛けにした出会いによって齎された形となり、縁結びの神様の気まぐれがダリヤの最期の願いを叶えたのかもしれない。

 




 前半部分は現状での解決すべき課題も含めての独白みたいなものです。原作だと提唱者は九島烈となっていますが、古式魔法の家が含まれていない時点で政府の干渉があった可能性が極めて高いでしょう。
 後半部分は主人公の母親とアリサの母親の繋がりを書きましたが、この後の展開はネタバレになってしまうので伏せておきます。

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