魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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味の分からない闇鍋なんて腹を壊すだけ

 真由美は漸く新年の挨拶が一段落着いた、と思ったところでの父からの呼び出しに正直辟易していた。正装はドレス派の真由美からすれば、家の仕来りでやむを得ぬこととはいえ振袖姿で愛想を振りまくのには正直疲れる。

 だが、それ以上に真由美は父親であり、七草家当主である弘一のことを快く思っていない。真由美自身とて七草家の長女である以上、その役目も理解しているつもりだ。ただ、最近は親が婚約者として推してきた五輪家の長男と会わない(向こうは四国の本家へ帰ったままの為、疎通の状態が続いている)ことを一々煩く言われないために、夜な夜なパーティーに出掛けては真夜中に帰宅することが増えている。

 

 その根底にあるのは、昨年の論文コンペ前に起きた名倉が“殺された”件。

 達也に協力してもらう形で殺害現場を探ったが、特にめぼしい手掛かりは得られなかった。ただ、警察の人から名倉の第一発見者が悠元であることと、悠元は警察に名倉が七草家の関係者であることを伝えていたからこそ、被害者―――名倉の照会連絡が自分に掛かってきた。

 実の父親に聞き出そうとしても「お前には関係のないことだ」と一蹴された。それでも納得できない真由美が頼ったのは……他ならぬ悠元であった。

 

 コンペが終わって半月後、真由美は美嘉が仲介する形で悠元と会った。そして、その際に悠元から名倉が殺されたのは間違いないということ。犯人は横浜・中華街にいた華僑の方術士であることと、その人物は既に「自殺していた」ことも聞き及んだ。

 

「―――今の話は、本当なの?」

「ええ。自分の情報網を駆使して状況証拠を集めた結果、七草家当主が周公瑾を殺すように命令したのは間違いないでしょう。先輩に話さなかったのは、彼を殺す意味を悟られたくなかったかと」

 

 そして、真由美が弘一に対して最も抱いていた疑念―――名倉は父の命令で京都に出向き、その方術士を殺そうとして殺されたのか―――に対して、悠元は隠すことなく肯定した。

 しかも、件の方術士は昨春に弘一が神楽坂家と三矢家の代理として出向いた悠元と結んだ約定の対象人物であり、これには真由美も凍えると言っても過言ではないぐらいに全身の血の気が一気に引いた。

 

「そ、その……悠君は、神楽坂家は……どうするの?」

「……今七草家に潰れられても困りますが、正直七草弘一の行動は目をつむる度合いを超えました。尤も、自分は一応当主代理の権限を頂いていますが、この件に関して首を突っ込みたくありません」

「え、えっと……どういうことなの?」

 

 悠元はこの場で「取り潰し」を言われても可笑しくはないと思い込んでいた真由美に対して「面倒」とでも言いたげな答えを返した。これには流石の真由美もどう判断していいのか首を傾げてしまった。その反応は無理もない、と悠元はこれに関しての説明をする。

 

「ここから先の話は、決して誰にも口外しないでください。それが約束できないのなら、大人しくお帰り下さい」

「約束するわ。父が悠君との約束を破った以上、私も無関係で済まされないでしょうから」

「実を言いますと……次の師族会議に関してなのですが、師族が選出され直された後で師族会議のシステムそのものを作り変えます」

「……え?」

 

 本来国を護る役目を担う国防軍が縄張りとか軍閥とかの考えを持っていること自体、公僕の領域を超えており、滅私奉公の理念が完全に失われている。大亜連合やら新ソ連の問題もあるのに、同盟国なのに敵対心を持つ勢力があるUSNAといった軍の規模が何倍も違う周辺国家の情勢も考えずに政治家みたいな動きをする軍のシステムは明らかにおかしい。

 しかも、十師族当主が魔法師として表立って行動する場合には統合軍令部の同意を得る必要がある、という政府との非公式の取り決めが存在している以上、師族会議はどこまで行っても“軍人”に準じるようなものだ。これでは政府が本腰を入れて魔法師社会への配慮を行わないのも納得がいく。

 

「理由は至って単純で、各々の数字(ナンバー)を有する師族と各魔法研究所の結びつきが切り離せなかった結果、師族の地域固定が常態化してしまったことです。仮に功績や優秀さで選出するとしても、担当地域の重複で同じ数字を有する師族の選出は色々混乱を招くでしょう」

 

 正直、第二次大戦前の大日本帝國時代と戦後の日本国時代、そして魔法という要素を全て突っ込んで煮詰めた闇鍋状態の様相としか言いようがない。『元老院』の連中は大概50歳代から60歳代の年齢が多く、奇しくも世界群発戦争に被る形で生まれている。現行の『元老院』の面々は第三次世界大戦後のゴタゴタで成り上がった古式魔法師の子女が大半であり、それを知っていた連中の一部が政府に協力し、『元老院』になれなかった古式魔法師が『伝統派』へと変貌したのだろう。

 

 なら、まだ食える食材を拾うよりも一度鍋の中身を全部捨てて鍋料理を作り直した方がまだいい、と判断した。

 

「大体、この国を護るという意味では国防軍と同じなのに、縄張り争いなんて労力の無駄遣いです。しかも、魔法師という貴重な戦力を師族と国防軍で取り合っている。これで国を守れるなんて保障が国民に対して出来ると思いますか?」

「一般論で言えば、確かに出来ないでしょうね。だから、師族会議のシステムを作り変えるっていうの? それこそ混乱を招くわよ?」

「問題ありません。いざとなったら今上陛下に頭を下げて、この国の根幹を成す法律を一度壊します。魔法界が変わらぬというなら、日本という国そのものを変えることで変革を促します」

「……はい?」

 

 原作は西暦1995年(日本の元号では平成7年)からの歴史が分岐した架空の近未来、という設定になっている。現代魔法の発祥とされるターニングポイントが1999年に狂信者集団の核兵器テロをある一人の超能力者が未然に阻止し、「超能力」の研究が始まったわけだが、それならば1999年からの歴史が分岐したことにしても良かった筈なのだ。この年でなければならなかった理由―――思い当たるとすれば、この年の政権がイデオロギーで対立関係にあった政党同士が手を組むという大連立に近い野合(やごう)政権であり、しかも第二次大戦終結から半世紀の節目として、時の内閣総理大臣が終戦記念日に際して第二次大戦に対する談話を発表したのもこの年だ。

 大体、第二次大戦終結から150年以上も経っているというのに、この国には呪縛が多すぎる。ならば、この国の根幹となる“憲法”を今の時代に即した方向性に変えるしかない。

 それが可能なのかと言われれば、実は『できる』のだ。例えば、日本国憲法の条文には改正自体にかなり高いハードルが設けられている。だが、この憲法を一度破棄した上で新たな憲法を再制定するハードルは条文に存在しない。この辺は勝者側の連合国が憲法を破棄してまで喧嘩を売るという力が無いと見越してのものなのだろう。

 

「大体、師族会議自体が九島烈という存在に頼り切っていたのも事実。別に高齢の人間が精力的に働くことを否定するつもりはありませんが、彼の後継たる存在がこれまで出てこなかった。彼の愛弟子ともいえる先輩の父親がその立場になれなかったことからして、閣下の立場に足るだけの信頼がない。俺自身も過去の一件で信用など皆無です」

 

 何故師族会議のシステムの再構築に憲法の再制定が必要なのか。それは今の師族会議のシステム上だと“固定化”が免れない上、国防軍との連携も儘ならないのだ。ファンタジー物でみられる騎士団と魔導師の対立構図の近未来風みたいなものだが、外国の脅威を退ける意義を本当に理解しているのだろうかと尋ねられると、正直怪しいと思う。

 魔法を技術の一つとして見做せば既存の法律を修正するだけで済む。だが、軍事的な要素を含んでしまっているために刑法上の判断も厳しい。その為の監視システムのはずなのだが、取り締まれても一定レベル以下であり、つまるところ「ないよりはマシ」程度のものでしかない。

 

 だから、師族会議―――十師族当主が表立って動くための権限を政府および統合軍令部から剥奪し、当分は護人の二家による合議制とする。『元老院』に関わらせないのは、連中の大半が結局自ら手を汚すことを畏れて権限を乱発させかねないからだ。

 国防軍の増長の遠因は間違いなくこの十師族当主に関する非公式の取り決めのせいだと考えられる。十師族の基本理念の中に「国家権力の横暴に対抗して魔法師の人権を守る」というものがあるわけだが、政府との取り決めによって統合軍令部にいる幕僚は十師族という“後ろ盾”を得ていると広義的に解釈が可能となる。そして、十師族の理念の一部を曲解して国防軍にも国家権力の横暴に対抗する権利があるのだと思い込んだのかもしれない。

 

 だったら、国防軍の立ち位置とその権限全てを政府が一元的に管理するべきだ。それでこそ民主主義の文民統制(シビリアンコントロール)の範疇にあたるし、軍人は便宜上“公務員”の立場にあたって公僕としての義務を負う。大体、ここ5年で2つの国に四度の侵攻を受けたのだ。軍人としての道を自ら選んだのであれば、その責務を果たすべき時が来ただけなのだ。

 

 憲法の再制定は国防軍の在り方と明確な交戦規定―――積極的自衛権の行使を明記することとなっている。メディア辺りが何かしら言ってくるだろうが、憲法を悪用して自分たちの権力を主張している彼らが言う筋合いなどない。

 憲法に定められた自由はあくまでも国家における「基本的人権の尊重」を前提とした“法治の上に基づく秩序ある自由”なのだから、それを破っている側が我が物顔するほうが大問題なのだ。

 

 正規の軍籍を持つ魔法師は軍人魔法師として政府が一元的に管理し、警察や公安などの治安組織に所属する魔法師は各々が管理責任を負うべき問題。民間魔法師に関しては、今の魔法師ライセンスで管理できないのならば国独自で例えば“国家(こっか)魔法(まほう)技術師(ぎじゅつし)”などの名称による政府公認の国家資格を与えればいい。

 要するに、憲法の再制定は基本的人権の尊重を魔法資質の如何を問わず等しく与えること。法律の理によって民間魔法師と軍人魔法師で明確な線引きを行うこと。いくら魔法師が国の戦力になると言っても、まともな戦闘訓練を受けていなければ単なる的にしかならないことは魔法の有無以前の常識だ。

 

 そのついでに、いい加減人間主義などの差別的な主義・主張を繰り返して、あまつさえ危害を加えたりする輩を政府に対する“国家の力を低下させようと目論むテロリスト”と認定すべき時に来ている。その前例として『ブランシュ』やら『無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)』がいたのだから、出来なくはない筈だ。

 かといって、魔法を使える人間を“新たな人類”と論ずるつもりなどない。魔法はあくまでも技術の領域を超えてはならず、過ぎた力は要らぬ欲を周囲に与えてしまう。それを許した先に待っているのは、少数の魔法師が大多数の非魔法師を支配する世界に他ならない。

 主義・主張ぐらいは別に構わないが、暴力まで伴えばそれは最早テロリストと変わりないのだから。

 

 そして、魔法使用による司法判断も刑法に基づく同等の扱いとすることを明記する。“魔法を使ったから”という恣意的な理由による刑罰の軽減を認めるのは、それこそ既存の刑法に喧嘩を売っているのと同義。なので、達也に協力を仰いで『トーラス・シルバー』の名で魔法可視化監視システムを発表する。

 目に見えれば誰しもが魔法を使用したと認識できるし、システムの構築が間に合わないのであれば、CADのハードウェア部分を少し改造するだけで魔法の可視化は十分可能なラインとなる。民間魔法師が魔法の可視化処理で困ることはないし、民間用と軍事用でCADの仕組みを区別すればいい。魔法式を見ただけで相手の魔法が分かるのならばまだしも、使った魔法の起動式まで分かるわけではないのだから。

 軍事用CADの横流しが出来ないよう管理体制が銃刀法以上のことになるだろうが、そこは仕方がない部分だろう。

 

 更に、師族会議で正式に選定された十師族の当主に対し、皇居で今上天皇による承認を受けることをルールとして明確化する。元々日本という国家に物申すための組織ではあるため、十師族・師補十八家の管理権限は政府にも魔法協会にも存在しない。

 師族会議自体が完全な自治組織と化している以上、誰かがその存在を認める必要があると考えた時、権力に依存しない相手となれば皇族以外に選択肢はなかった。

 

 魔法は都合の良い慈善事業の為の道具ではなく、時として国家を守るための剣であり盾でもある。だが、行き過ぎた特権思想は将来へ遺恨を残す。ならば、国家の象徴である天皇が師族会議を軍とは異なる“国防の要”として存続を認めることが必須。それは特別扱いではなく、天皇から与えられた役割―――国防を果たす義務の対価として十師族の特権を保障する等価交換によるもの。

 この国に生きる以上、この国の象徴を無視して生きることなど不可能なのだから。それ以前に“不敬”に値する。

 

 正直な話、何で政治家でもない自分が政府の尻に核弾頭を撃ち込む真似をしなければならないのだ、と愚痴りたくなるほどだ。真由美に対してそのことを話しているのも、それに対するストレスが溜まっているせいなのかもしれない。

 

「そもそもの話、十師族も含めて師族会議自体が地域に根付いてしまっているため、師族間の代替わりもロクに出来ていません。俗に言う“固定化”によって、万が一師族の交代が起きても場合によっては監視・守護地域に空白が空きかねません」

「それは分かるけど、でも、どうする気なの?」

「十師族の椅子を増やします」

「え?」

 

 現行のシステムだと師族の交代による弊害が発生しかねないのに、何故十師族の椅子を増やさなければならないのか、と思うだろう。これは、国防軍から完全に切り離す目論見に加えて、師補十八家に甘んじているいくつかの家に北海道もしくは沖縄方面の監視・守護体制を構築する必要があるからだ。

 そして、悠元は現行案として三矢家に北海道方面か沖縄方面の監視・守護を担ってもらいたいと考えている。沖縄方面なら既に一線を退いている三矢家先代当主の協力を得られるし、北海道方面なら矢車本家の協力も得やすくなる。

 何より元に渡した[精霊の鏡(カーヴァンクル)]であれば家業の面で調整は必須だが態々厚木にいる必要がなくなり、第三研の管理は共同管理している三日月家に魔法技術を叩き込むか、或いは侍郎を三日月家の養子兼次期当主にしてしまう手もある。そうすれば、三矢家も侍郎の第一夫人として詩奈を送り出すことの重要度が増すことになる。

 空いた屋敷はそのまま三日月家に引き渡せば有効に使ってくれるだろうし、第三研自体は元々他の師族に対しての魔法技術提供も視野に入れているため、他の研究所に比べればまだ融通が利きやすいと思っている。

 

 そして、七宝家と並んで師補十八家の中で実力のある一色家には三矢家で担当できない地域を担ってもらう。一からのスタートとなるため、早急な監視・守護体制を築くという意味で自分も神楽坂家当主として積極的に関わる。『ESCAPES計画』の骨子や基本計画を前倒しにしてでも進めたのは、師族会議の改革案を早急にまとめるためでもあった。

 あとは、婚約者の一人として一色本家の愛梨を娶るので、彼らも一条家と同じ十師族の立場に上がれば、一条家の外戚という立場から同等の立場へ昇格できることになる。尤も、十師族当主としての品格は別の話であるが。

 

 七草家が自分との約定を無視したせいで、どの道九島家の十師族落ちは避けられない状況になりつつある。なので、九島家が抜けた穴を埋める一助として京都の『聖域』を構築し、最終的に『伝統派』との和解へ漕ぎ着けた。

 光宣にも九島の十師族落ちの可能性とその原因を話しており、光宣としても実家が十師族落ちするのは悲しいが、「達也さんと悠元さんにまで迷惑を掛けた以上、僕からは何も言えません」と述べ、こればかりは当然の報いであると納得していた。

 

「何にせよ、当主でない七草先輩にはあまり関係が無い部分になるので……先ほども言いましたが、このことは内密に」

「それはいいけれど……ちなみに、あの時父と約束した中で復活という文言を使っていたけど、あれは泉美ちゃんとの婚約の事?」

「正解です。別に待遇の部分で差を設ける気はなかったのですが、目に余り過ぎる行いのペナルティとして正式に婚約が決まり次第、泉美ちゃんの籍を七草家から抜きます」

 

 籍を抜く―――つまり、婚約が正式に決まった際は泉美を七草家の娘として扱わないということを意味する。そして、泉美の養親とする形で六塚家当主・六塚温子が法的後見人となり、温子の娘として嫁ぐことになる。このことに関しては既に六塚家当主から了解を得ており、その仕事の責任を以て当主の座を退き、燈也が六塚家当主の座に就くこととなる算段だ。

 

 この手法は十文字家の隠し子であるアリサを三矢家の養女として引き取った事例を応用したもので、同じ十師族の娘として嫁ぐし、別に名字が変わったところで問題など生じない。七草家が何かしら言ってくるだろうが、約束を先に破った側である彼らに言われる筋合いなどない。

 最悪の場合、名倉もとい支倉から聞き及んだ周公瑾殺害に至る経緯の電子データを全て四葉家へ引き渡す覚悟だ。師族会議における七草家の評価はガタ落ちだろうが、元はと言えば十山家の件も含めてしつこい程にパワーバランスという名目で行っている“四葉下ろし”のせいだ。

 自業自得であって、いい加減別居中の妻と本気で向き合え、と言いたい。弘一(アンタ)は娘たちを自分の都合の良いように動く道具としてしか見ていないのか、と。

 

 閑話休題。

 

 悠元から事前に七草家に対するペナルティは聞かされていたが、そのどれもが扱い上において“国家重要機密”に準ずるため、真由美はそのことを気取られないようにしていた。その意味で、先陣を切る形で弘一に話しかける。

 

「お父様、ご用件は何でしょうか?」

「お前たちにはまだ教えていなかったが、昨日魔法協会を通じて、四葉家と神楽坂家が師族会議ならびに百家などの有力な魔法師に公表があった」

「神楽坂家は悠兄の今の実家だけど、四葉家も……どんな内容だったのですか?」

 

 弘一の言葉に対し、普段はあまり丁寧な言葉を使わない香澄が問いかけた。というのも、神楽坂の名を聞いた瞬間に泉美が悠元のことを思い出したようで、妄想に耽っていたために香澄が已む無く問いかけた上で泉美を現実に引き戻した。

 

「重要な話だ。二家にとっても、お前たちにとっても」

「私達にも、ですか?」

 

 ここで疑問の声を上げたのは泉美であったが、弘一は勿体ぶることなくその答えを提示した。

 

「まず、四葉家の方だが、次期当主に第一高校2年の司波達也君を指名した」

「ええっ!?」

 

 声を上げたのは真由美だが、泉美もこの事実には目を見開いており、香澄も今しがた自分が耳にしたことへの理解が追い付かず、俄かに信じがたい表情を浮かべていた。すると、ここで尋ねたのは香澄だった。

 

「お父様、達也先輩が四葉の人間であった、ということですか?」

「そうだ。それも、現当主である四葉真夜さんの実子だと書状に書かれており、戸籍データと2人のDNA鑑定データまで丁重に送られてきた」

「……」

 

 真由美は達也が深雪や悠元と一緒に登下校しているのは目撃しており、もしかしたら2人が『四の数字落ち(エクストラ)』ではないか、と推測したことがあった。だが、弘一の述べたことが事実とするなら、悠元は多かれ少なかれ達也が四葉の人間であるという事実を知っていた、ということになる。

 すると、ここで泉美が深雪の存在に触れつつ問いかける。

 

「お父様、そうなると深雪先輩も四葉家の人間という認識で宜しいのでしょうか?」

「その通りだ。司波深雪嬢は四葉真夜さんの姉にあたる旧姓・四葉深夜さんの娘で、戸籍上は達也君と深雪嬢が従兄妹の関係となる。そして神楽坂家の方だが、神楽坂悠元君が元日を以て正式に神楽坂家当主を襲名した」

 

 一昨年の時点で既に神楽坂家の次期当主という事実は通達されていたが、高校生の身で当主を襲名することに娘たちは驚きというよりも聞いたことが信じられないような気分であると弘一は見抜いていた。尤も、泉美の方は「流石です、悠元兄様」と笑顔を浮かべていたので、機嫌を損ねない内に弘一は話を進めることとしたのだった。

 




 魔法なのに近未来的なことというより現実的な要素が多分に入っています。でも、仕方がないのです。魔法師としての人権を得るとしたら、まず間違いなくいの一番に片付けなければいけないのは国内体制に他なりません。分岐タイミングからしてロクな政治体制になっていない可能性が高いと踏んでの独自背景設定も多分に含んでいます。

 本文では語らなかった補足説明ですが、現実の自衛隊よりも権限がかなり増えていて、禁じられている「軍事法廷」まで復活したことと日米共同基地の存在からして、多分USNAが対大陸国家(大亜連合・新ソ連)を見据えて戦時中にかなりゴリ押した可能性があると思います。
 武器に関してもある程度は共通の規格を使っていないと共同利用なんて難しいですし、強化調整体の存在をUSNAが知っているという時点でUSNAに手綱を握られているに等しいです。

 魔法が体系化されている技術ではなく軍事力も孕んだ要素となっている上、十師族当主が動くために非公式とはいえ軍の認可を得るという取り決めがある以上、人権をきちんと保障するためには政府と対等の立場に立つことが一番だと考えた結果です。
 一種の特権階級になる可能性と固定化の回避には今のところ繋がっていませんが、少なくとも現当主世代で片が付く問題でないのも確かです。その意味で、九島烈の影響力を完全に排除しないことには師族会議の改革は完了したと言えません。
 天皇の承認を受けるのはあくまでも当主のみで、その当主が都合上役目を果たせなくなった時の当主代行・代理の権限はそのまま生きています。これでとある家が増長しないかどうか心配される方もいるでしょうが……師族会議でボコボコに叩かれます(確定事項)

 固定化を回避するためには、十師族の各々が担っている家業と家督を切り離さないと難しいんですよね。魔法師も人ですので霞を食べて生きられるわけではないですし、収入源は確かに必要です。
 その部分を解決する方法もいくつかありますが、一番いいのは魔法師としての本家と血統の保護と家業を担う分家に分けるのが良いですが、これで問題になるのは分家が本家の力を上回った場合、分家が家督と家業を独占しようと本家を呑み込むパターンが起こる可能性があることですね。この辺の影響や余波などを嫌って政府は分家制度を認めなかった可能性があります。つまり政府が貧弱すぎる上に及び腰なのが悪い(ぇ
 ただ、どう足掻こうが十師族・師補十八家当主の椅子は各々一つしか存在できない以上、誰かが妥協するしかないのは明白です。

 その点、三矢家の家業であるブローカーは明確な連絡手段と足(移動手段)さえあれば後は信頼で成立する話なので、研究所と家業の問題さえ解決すれば、現行の十師族の中で三矢家はフットワークが軽いメリットを有することになるかと思います。元々監視・守護地域を有していないからこそのものでもありますが。
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