魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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歩く人間ドミノ製造機

 西暦2097年1月4日。『神将会』の会談があった翌日、悠元は滅多に袖を通さない国防陸軍の軍服(とは言っても礼服しか持っていない)を身に纏っていた。しかも、予め中将の階級章が付けられている新品の制服という有様だが、一々目くじらを立てても仕方がないと諦めた。

 本来なら、非常勤職とはいえ幹部クラスである中将となれば、昇進のための式典を執り行っても不思議ではない。だが、それは一切せずに陸軍最高司令官である蘇我大将との会談に臨んでいた……その場所は、防衛省内にある国防陸軍総司令部であった。

 

「上条達三特務少将。本日を以て特務中将並びに陸軍総司令官直下の特務参謀に任ずる」

「はっ、微力を尽くして任務にあたらせていただきます」

「うむ……正直なところ、私が頭を下げねばならん立場なのだが、儀礼故に許してほしい」

「いや、二言目にそれを言われましても困るのですが……」

 

 悠元と蘇我は年齢こそ離れているし、立場も異なる。それでいて蘇我が悠元と友好的に接しているのは、同じ新陰流剣武術の門下生であることが起因している。蘇我からすれば悠元は弟弟子であり、蘇我は上段まで行ったが悠元は師範の目録を有している。神楽坂家も含めたそんな事情が色々絡み合って、儀礼以外だと蘇我は悠元を格上のように扱い、それに対して悠元が窘めるという構図が出来ている。結果的に言葉遣いだけは年功序列に沿う形となった。

 

 その事実は陸軍総司令部の中で既に公然の秘密となっており、剛三のシンパが多いこともあって顔見知りが多いのも悠元の総司令部入りが受け入れられた理由の一つだ。尚、悠元の素性は九校戦のこともあって知られているが、誰が聞いているのか分からないこともあって基本的に『上条達三』の名で通されるが、蘇我と2人で話す際は神楽坂悠元として呼ばれることが多い。

 

「それで、風間達にも挨拶はしていくのかな?」

「直行したら要らぬ詮索をされそうですから、日を改めるつもりです」

 

 一時期のUSNAによる監視の目は鳴りを潜めたが、それでも最近は新ソ連やらイギリスの情報員がうろついている。なので、適当に気絶させて粗方の情報を引っこ抜いている。別に目ぼしい情報を拾うための苦労ではなく、彼らの素性を調べ上げてその背後にいる人間関係を洗いざらい探るための方策に過ぎない。

 大体、『神将会』で触れた米英の国債についても、正式な購入方法よりも更に畏まったやり方を取っている。イギリスの国債は剛三経由でイギリス王室にお伺いを立ててから(ゴールディ家の一件を片付けた際、剛三の繋がりで国王から叙勲を受ける羽目になった)イギリスの国家元首の許可書を得て購入しているし、USNAに関しては大統領に直接質問状を送り、大統領のサインが入った国債購入許可書を得た上で購入した代物だ。

 向こうもまさか個人単位かつ兆円規模で購入してくるとは思っていなかったようで、双方共に100兆円に達した段階でストップがかかったのでそこで止めたのだ。そして、その情報は日本政府にも入り、神楽坂家を訪れた財務大臣がいの一番に土下座した時は思わず首を傾げたほどだ。

 イギリスの諜報機関(某スパイ映画でよく聞く諜報機関)が探りを入れてきたこともあり、全員気絶させて八雲に引き渡した。なお、それを聞いたどこかの四大老の一人の顔が青ざめていたそうだが、そんなことは自分の知った事ではない。

 

 閑話休題。

 

「要らぬ詮索……情報部も入っているのかね?」

「ええ、まあ。尤も、身内に手を出した場合は苛烈に行きます。本気で痛い目を見ても分からなかった場合は、唆した連中も含めてあらゆる手段を以て抹殺します……すみません」

「悠元君が謝る必要などない。沖縄の件も佐渡の件も、そして横浜の件でも君は十分な功績を果たしている。寧ろ今すぐ大将に推薦したい気分だ。大友参謀長も君が望むなら参謀長の椅子を明け渡してもいい、と言っているほどだからな」

「いや、それはそれで問題大有りですからね?」

 

 沖縄防衛戦における大亜連合による侵攻の察知と部隊・艦隊の撃破、新ソ連の佐渡侵攻に関する事前情報、そして横浜事変における民間人の軽微な被害と大亜連合と新ソ連に対する強烈な打撃。これらが成し得たのは全て悠元のお陰であることを蘇我は知っている。その彼がいくら冗談でも大将への昇格を仄めかしたことに悠元は固辞した。

 神楽坂家当主は今上天皇より権限と権力の保持を認められた者。内閣総理大臣よりも格上となるため、国防軍の階級で例えれば間違いなく“国防軍全軍の最高司令官”という位置付けになってしまう。ただでさえそんな状態となっているのに、国防陸軍内で昇進するのは要らぬやっかみを抱えることになるため、本来ならば最悪佐官クラスで事を済ませようとも考えた。

 

 だが、それを許さなかったのは佐伯の動きであった。戦力としての召喚命令は契約に含まれなかったものの、技術士官としての召喚命令で無理矢理動かしたことは流石に看過できなかった。その腹いせで出来てしまった木彫り熊という名の精霊標の存在もあるわけだが。

 余談だが、あの木彫り熊『ハルノブ』は富士山麓神宮の拝殿に置かれ、それに対して願い事を呟くと御利益があるということで一種のパワースポットとなっているらしい。あまり関与したくないので聞かなかったことにしたかった。

 

「本当ならば、ギリギリ大佐までが許容できる範疇だったのですから……佐伯少将のせいで受け入れざるを得なくなりましたが」

「しかし、まさか佐伯がそこまでやるとは……防衛大からの報告を聞いた際は耳を疑ったほどだ」

「その原因は大方師族会議といいますか、十師族当主と政府の取り決めが間違いなく影響しているかと」

 

 国防陸軍のみならず国防軍全体の勢力争いに対し、悠元は神楽坂家当主として統合軍令部を前に「国内・国外情勢が緊迫状態にある中、貴方方軍人は勢力・派閥争いに(かま)けて国防軍本来の任務を疎かにしている。そのようなことで最高司令官たる内閣総理大臣と隊務統括を担う防衛大臣に顔向けできるのか」と痛烈な言葉を発した。

 

「その様子だと……いや、(まつりごと)は本官の領分でない以上、聞くことも野暮だな」

「国防軍を本来の在り方に変えるというだけですので、大将閣下が直接害を被る話ではございませんが」

「いや、大亜連合との戦争、そして講和条約は私自身の考えも改めさせられた。これを期に国防軍本来の任務へ注力できるような仕組みづくりが求められている。これは陸軍の最高司令官たる私の喫緊の課題でもあるだろう。ところでだが、君の戦略級魔法に関する扱いは現状維持という認識でいいのかな?」

 

 悠元が放った圧倒的な気配に押し黙ってしまい、反抗する者は誰もいなかった。あれで威圧でなかったのだから末恐ろしく、威圧だけで人間をショック死させる存在となると、他に出来るとすれば蘇我の師である剛三ぐらいかもしれない、と蘇我が思うほどだった。

 悠元は新陰流剣武術の師範の目録を有しており、この肩書が飾りでないことは国防軍でも選りすぐりと言われる沖縄方面部隊の兵士を一人残らず打ちのめしたことで証明されている。

 

「自身の戦略級魔法である『天鏡霧消(ミラー・ディスパージョン)』と『星天極光鳳(スターライトブレイカー)』……そして、先日完成した対消滅粒子収束魔法『太極八卦陣(コスモ・ノヴァ)』のトリガーを自身で管理することを上泉家と神楽坂家の先代当主の二者による合議で決定しています」

「……いやはや、君自身が3つの戦略級魔法を扱えるとはな。私は白旗を挙げることしかできぬよ」

 

 厳密にはUSNAの『ヘビィ・メタル・バースト』や『リヴァイアサン』、新ソ連の『トゥマーン・ボンバ』と『シムリャー・アールミヤ』、大亜連合の『霹靂塔(へきれきとう)』、旧EUの『オゾンサークル』など、『十三使徒』の戦略級魔法まで把握しているだけでなく、それを封じるための魔法も既に完成している。それが先程悠元が口にした新型戦略級魔法『太極八卦陣(コスモ・ノヴァ)』。

 この魔法は古代文明魔法に使われている特殊な記述を用いており、起動式をそのまま読み込む“術式順転(じゅつしきじゅんてん)”によって魔法式に組み込まれた戦略級魔法発動に必要とされる前提条件の記述を全て書き換える―――戦略級魔法を無効化する戦略級魔法『太極順転(たいきょくじゅんてん)蒼穹(そうきゅう)』。

 起動式を逆から読み込む“術式反転(じゅつしきはんてん)”により、相手の魔法式の投射先を投射元と入れ替えてしまうだけでなく、投射先の発動必要条件をすべて引き継がれた上で反転される一種の“呪詛返(じゅそがえ)し”の戦略級魔法『太極反転(たいきょくはんてん)煌星(こうせい)』。

 

 流石に“対戦略級魔法特化型戦略級魔法”なんて言えるはずもないし、一応この戦略級魔法は順転と反転の2つを同時展開して融合発動させることで対消滅反応粒子による攻撃魔法『太極八卦陣(コスモ・ノヴァ)』と化すため、間違ったことは言っていない。それに、起動式の読込手順を変更できるのは悠元が会得した精霊魔法式(エレメンタル・マギテクス)による部分が大きいため、おいそれと他人に教えられないのだ。

 そして、この戦略級魔法を難なく発動させるためにも新型CADである『セラフィム』と『ラグナロク』の開発が必要だったというわけだ。

 

「現段階ではあくまでも懸念事項でしかありませんが、佐伯少将が独立魔装大隊に所属している戦略級魔法師・大黒竜也特尉に加え、大隊技術士官の自分を抑え込もうと画策するかもしれません。なので、蘇我大将には然るべき時に御助力をお願いする事も出てくることになるかと」

「分かった。最近の国内・国際情勢は予断を許さないことも把握している。十師族を含めた師族会議とのかかわり方も含め、私も統合軍令部の人間として防衛大臣に進言させてもらうつもりだ」

「感謝いたします」

 

 その上で、蘇我に悠元は非常時における命令系統などの打ち合わせを綿密に行い、神楽坂家に帰宅したのであった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 悠元が独立魔装大隊への挨拶に関して日を改めるのは、達也が明日出向く(今日は改めて八雲のところに挨拶へ伺っていて、深雪も同行している)のでそれに同行するつもりであったこともそうだが、蘇我に言ったことも決して間違いではない。更に付け加えるならば、悠元の婚約者との約束を優先した結果であった。

 神楽坂家当主として新年の挨拶周りは欠かせない訳だが、それでも悠元は未だ高校生の身分。そして、婚約者に対するフォローは欠かさずに行っている。ただ、同じ一高メンバーや夕歌、そして専属使用人の面々は機会が多いため、自ずと三高メンバーと中学生メンバーのフォローに絞られることとなる。

 

 魔法科高校の新学期開始は1月8日からなので、それまでは新年の挨拶をこなしつつ相手をしているわけだが、今日はアリサが「どこかに出掛けたい」ということで、アリサと一緒に横浜ベイヒルズタワーに来ていた。茉莉花も入り口まで一緒だったのだが、一緒に来ていた愛梨や沓子と先に入っていった。

 アリサの様子を見るとどこか照れているような様相を見せていて、別れる直前に茉莉花が小声で呟いたことが大きく影響しているのだろう。

 

「アーシャ、大丈夫か?」

「う、うん。もう、ミーナってば……」

「ともかく、のんびりウィンドウショッピングでもいい気はするが……ん?」

 

 すると、悠元から見て後ろの方向から女性が「きゃっ!?」と所々から聞こえる有様が気になり、悠元は視線を向けた。すると、その原因となる私服姿の少年の姿を見て、悠元は女性の悲鳴がその美少年に見とれて他の人にぶつかるトラブルのせいであったことをすぐに察した。

 隣にはビクビクしながら少年の腕にしがみ付いている少女の姿があり、どことなくあずさのような小動物的な雰囲気を感じてしまった。

 アリサは目をパチクリさせて、その光景を見てどうとも言えないような表情をしていたところ、少年が悠元の姿を見つけたので近寄ってきた。

 

「光宣、理璃ちゃん。新年おめでとう」

「あけましておめでとうございます、悠元さん」

「か、神楽坂先輩、新年おめでとうございます。ところで、そちらのかたは?」

「ああ、俺の……戸籍上だと義理の妹になるけど。アーシャ、2人は九島光宣君と十文字理璃ちゃんだ」

「(九島に十文字……)長野アリサといいます。お兄ちゃんの恋人でもあります」

 

 アリサの自己紹介を聞いて、光宣と理璃は驚くどころか逆に納得するような素振りを見せていた。ただ、理璃の方はアリサの様子を見て疑問に感じているようだが、ともあれお互いに自己紹介をした上で、悠元は提案をした。

 

「ともかく、移動しようか。光宣の姿を見て人間ドミノが出来かねんからな」

「あ、そうですね。お手数をお掛けします」

 

 後で話を聞いた形だが、達也や深雪、水波に理璃と清水寺に続く参道を歩いていた際、光宣に見とれた女性が他の通行人とぶつかるハプニングが散発したらしく、これには流石の達也も苦笑を禁じえなかったらしい。

 今の状態でも割と大変だが、理璃の存在も相まって被害が拡大しない内にタワー内へと入ることとした。

 

 買い物自体はそれとなく順調に進んだ訳だが、アリサが「下着を見に行きたい」という提案に理璃が賛成し、更には自分と光宣まで巻き込まれた。

 今までロクに買い物すら来たことが無かった光宣は、当然女性に対しての免疫が十全にある筈もなく、目の前に広がる下着に恥ずかしがり、それに店員が見惚れる事態になっていた。喜怒哀楽だけで女性を惹きつける才能は別の意味で完成していると言えるだろう。

 

 それだけならばまだしも、悠元はアリサの、光宣は理璃の下着選びにまで巻き込まれることとなり、悠元に至ってはアリサによって試着室の中へ連れ込まれてしまった。それを見た店員が「あらら、お盛んな事ね」と咎める訳でもなく、寧ろ焚き付ける様な感じになっていた。

 こんな場所で流石に行為にまでは及んでいないが、心を冷静に保ちながら大人しく手伝っていた。アリサからすれば「お兄ちゃんのイケズ」ということらしいが、公衆の面前で中学生の女子に手を出していたら普通にヤバい話なのだ。主に法律的な意味で。

 ある意味、光宣の存在によって窮地を脱したようなものだ。

 

 そして、昼食も兼ねてレストランのテーブル席に座った4人。表面上は平然としている悠元に対し、光宣は少し疲れていた。こういう経験自体が初めてなだけに疲れてしまうのも無理ないだろう。

 

「ゆ、悠元さんは何で平気なんですか?」

「他の女子に散々付き合わされたからな。『平気』というより『諦めた』という方が正解だが」

「な、なるほど……」

 

 他の婚約者を例に挙げると、深雪、雫、セリアはアリサと同じような行動を取り、姫梨と夕歌は試着室で見せるのを恥ずかしがる(寧ろこれが普通だと思う)。沓子、愛梨、茉莉花、そして泉美に関してはまだ未経験なので述べることが出来ない。

 専属使用人の部分で行くと、深夜と怜美は試着室に連れ込んだ挙句押し倒されようと誘惑してくる(何とか言いくるめて、帰った後で埋め合わせしている)。水波がこうならないことを切に望む次第だ。

 

 すると、理璃はここで徐に手首に身に付けたCADを操作(FLTで開発された思考操作型CADを介する形だが)し、遮音フィールドを展開した。その確認をしたところで理璃が真剣な表情を浮かべて尋ねてきた。

 

「神楽坂先輩。その、アリサさんのことで聞きたいことがありまして」

「どうしたんだ?」

「……アリサさんから十文字家の魔法資質に酷似した資質を持っているように感じたのです。何と言いますか、その、私は魔法師の皆さんのサイオンの流れが見えるので」

 

 これにはアリサだけでなく光宣も驚きを隠せなかった。理璃は十文字家の中でも魔法資質で言えば現当主の長男である克人ですら超えている。流石に実戦経験の差で克人には勝てないが、理璃も経験を積めばそう遠くない未来に克人を超えるだろう。

 その理璃がアリサの体内にあるサイオンの流れを感じて、十文字家に見られる“何か”を感じ取ったのだろう。なお、光宣や悠元の場合だと濃過ぎて見えないらしい。理璃の疑問を下手に十文字家の人間に知られても困るため、悠元は一息吐いてからアリサを見やると、アリサは「悠元に任せる」といった感じで頷いたので、悠元はそれを確認した上で光宣と理璃に視線を向けた。

 

「……これから話すことは決して他言無用だ。それは絶対守って欲しい。何せ、理璃の指摘はある意味正しいからな」

「え? どういうことですか?」

「……アリサの父親は十文字家現当主・十文字和樹。アリサが保有している技術はこちらで何とか対処したが、血縁までは変えられんからな」

「隠し子、ということですか……」

 

 悠元の言い放った言葉にアリサは俯いており、光宣はまさか十文字家の当主が隠し子を作っていたことが驚きだった。すると、理璃は何かを思い出したように頭を抱えていたことに光宣が気付いて問いかけた。

 

「あ、あの日記の文言はそういう意味だったの……」

「理璃さん、何か知ってるんですか?」

「えとね、私の両親が春に亡くなったんだけど、その遺品整理をしていた時に母の日記が出てきたの」

 

 理璃はマメな性格の母が日記を付けていたこと自体、別に驚くことでもなかった。ただ、母がどんな思いで過ごしていたのかが気になって開いた1ページ目の内容があまりにも衝撃的すぎた。

 何せ、日記の始まりが約14年前。理璃が生まれて1歳となった折につけ始めようとした日記(タイトルに「理璃の成長日記」と付けており、理璃の成長を綴るもの)だというのに、そこには理璃の母―――十文字和樹の妹が兄に対しての怒りをぶつけていたのだ。

 

―――あのバカ兄貴! ダリヤさんがいなくなったからってしょげてんじゃないわよ!

 

―――詳しいことは何も話さないけど、大方兄貴がダリヤさんを身籠らせたから、ダリヤさんが大人しく身を引いたんでしょ……とか言ったけど、兄貴は『そんなことはない……多分』と自信なさげに言っていた。その時点で心当たりあるってことでしょうが!

 

―――今すぐダリヤさんを追っかけてきちんと話し合え! って言ったけど、兄貴は動こうともしなかった。慶子さんと奏姫(かなめ)さんにどう説明したらいいのよ……あのバカ兄貴。

 

―――って、理璃の成長の日記に書いちゃった……これも自分への戒めだと思って、残しておこうかしら。本当はバカ兄貴が戒めるべきことなのに、何で私も巻き込まれてるのかしら。

 

「……その、何と言うか」

「……ダリヤという名前、うちの母の名前です」

「そして、現在の十文字殿の妻である慶子さんに、もう一人の女性は俺の爺さんの奥さん、俺の母方の祖母だな。元気になった時には亡くなっていて、会ったことはないんだが」

 

 理璃の母は兄が慶子とダリヤの二股をかけていたことをすぐに悟り、散々「十文字家の為を本気で思うのなら、ダリヤさんと別れろ。でなかったら十文字家当主の座を降りろ」と言っていた、と日記を読んだ理璃はそう強く感じたらしい(母の遺品の中でこのことに触れていたのはこの日記の1ページだけだった)。

 「なんでこんなことになるんですか……」と盛大にテーブルに突っ伏した理璃に対し、宥めている光宣、少し悲しげな表情を浮かべて悠元に凭れ掛かるアリサ、そして悠元はそれを支えながらアリサの頭を撫でた。

 

 その状況証拠だけでアリサが十文字家の隠し子だという重大な事実を知り、藪蛇どころじゃなかったと泣きたくなっていた理璃の姿を見て、それだけ大事な事なのだと光宣も察してしまった。正直なところ、俺だって泣きたい。何で他家の隠し子の問題を自分が解決しなければならないのだ、と。

 

「ともかく、このことは光宣と理璃ちゃんの胸の内にしまっておいてくれ」

「それは勿論です。というか、絶対に言えません。竜樹と和美が確実に反抗期を迎えることになりますし、兄さんに嫁ぐ予定の美嘉さんの気苦労が大変なことになります」

「……え? 確か、悠元さんのお姉さんでしたか?」

「ああ。兄弟姉妹の婚約とかの話は既に他人事みたいなものだからな」

 

 美嘉が克人に嫁ぎ、光宣と理璃が婚約することによって三矢・九島・十文字のラインが構築されることになる。尤も、光宣は壬生家に養子として出ることになるため、正確には三矢・壬生・十文字にプラスして桐原が間接的に親戚関係となる(聞いた話だと、桐原の父親と紗耶香の父親が知り合いらしく、双方共に前向きである)。

 更に付け加えるなら、自分の存在も含めれば一昨年春の『ブランシュ』事件関係者が繋がることにもなるというオマケつきだ……別に狙ったつもりもないが。

 

 ともあれ、この話題は早々に打ち切ってダブルデートと言う形でタワーの買い物を楽しんだのだった。九島の家を出ても別の意味で問題に遭遇する意味では、光宣は何かしら“持っている”のだろうと思う。

 




 前半は国防陸軍絡みのお話、後半部分はアリサと理璃の邂逅シナリオの為に書きました。
 前半で出てきた新しい戦略級魔法の技術は某漫画より引用する形を取っています。本来ならプログラムを逆から読み込んだところでまともに魔法が読み込まないでしょうが、この辺の詳しい解説は実際にこの魔法を使う場面でする予定です。またの名をネタ稼ぎ。
 

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