一条家からの質問状ということで、悩んでいる悠元に対して疑問に思う深雪。何故そこまでと思うだろうが、身近な例は実を言うと四葉家も例外ではないからだ。そう、モニターに映る真夜がかつて七草弘一と婚約し、それが破棄されたことで起こっているも過言ではない七草家の“四葉下ろし”があるからだ。
「悠元さん、何故そこまで悩まれるのですか?」
「うん、まあ、深雪がそう思う理由も分かる。だが、この問題を適切に処理しないと将来一条家が七草家と組んで嫌がらせしないとも限らないからな」
『……ああ、成程。悠元さんの御懸念はわかりましたわ』
何せ、あそこまで完膚なきまでに叩きのめしたのに、未だに深雪のことを諦めきれず、その止めと言わんばかりの婚約発表に茶々を入れる形で質問状を送ってきたのだ。送ったのは父親である剛毅だが、彼も出来れば息子が好いた人と結婚してほしい、と思っているのだろう。その遠因に悠元の兄である元治のこともあるのだろうが。
「……こうなれば、回りくどい手を使うのはやめよう。深雪、頼みがある」
「はい、何でしょうか?」
「将輝と一度話し合うための機会を設けたい。そこでキッパリと断って欲しい」
ようは、将輝と深雪のデートをセッティングする、ということだ。ただし、これに関しては一度きりで二度目はない。それを聞いた深雪が悠元に尋ねる。
「それは、一条さんに拒否を示すため、デートをしてやってほしいということでしょうか?」
「有体に言えばな。だが、深雪の言葉でないと奴は絶対に聞き遂げない性格だからこそ、深雪にお願いしたい」
「……分かりました。その代わりと言っては何ですが、その夜はたくさん愛してくださいね?」
デートの埋め合わせにデートを要求するかと思えば、それ以上のことをあっさりと言いのけたことに悠元は「やはりか……」といった感じで頭を抱え、達也は一つ深い息を吐き、真夜に至っては面白そうな表情を浮かべつつ笑みを零していた。
『あらあら、これは孫の顔が見れるのも楽しみですね』
「あのですね……高校生の身分で仕込めませんよ。せめて社会的な立場を確立してからになるかと」
『そうは言いましても、既に各方面で地位を確立している悠元さんがそう仰ると僻む者もいるでしょうね』
「……」
確かに、FLT絡みにしろ、国防軍絡みにしろ、そして神楽坂家絡みにしたって既に地位を確立したも同然の悠元だが、その殆どは神楽坂悠元の名を隠した上で行ってきたことだ。
ほぼ公然の秘密でバレている部分もあるわけだが、未成年という事由など神楽坂家当主となった時点で意味を成さないことも分かり切っている。ただ、非魔法師の観点から見て公然の肩書ぐらいは整えておきたい、という前世の平民感覚の部分を引き摺っているのは確かだろう。
「ともかく、師族会議で一条殿に質問状のことを聞かれた際は、最終的な回答としてそういう風に取れる様な受け答え方でお願いします」
『年末に渡してくれたデータについては如何しますか?』
「そうですね……一先ず十文字家にお渡ししてください。そこからなら七草家に渡ってもよしとしましょう。ただし、オフライン環境下での閲覧を念入りに推してください」
『……分かりました。それと、ありがとう悠元君』
そう言って通信が切れたところで、いきなり深雪に抱き着かれた。その深雪はというと、やや不満げな様子であった。先ほどの真夜の様子を見て何かを察したらしく、達也もこればかりは止められないと白旗を挙げている状態だった。
「ともかく、夕食にしようか。キッチンで水波ちゃんがこちらを見ているし」
「そうだな。深雪もそれでいいか?」
「……はい」
ともあれ、これで話す内容が増えたと思いつつ、夕食の後にそのまま浴室に行ったところで後から浴室に入ってきた深雪に襲い掛かられ、なし崩し的になってしまった(最後の一線は死守、これ大事)が、全員がリビングに集まって深雪がコーヒーを淹れてくれたところで悠元が話し始める。
「年末の話だが、真夜さんとの会談の際にジード・ヘイグ―――顧傑の術に関する情報を電子データで渡している」
「もしや、奴の狙いが師族会議だと言うのか?」
「その可能性は極めて高い。特に今年は十師族選定会議で箱根に集まるからな」
現状ではまだ大きな動きになっていないが、顧傑と思しき人物がロサンゼルスの市街地で確認されている。彼が支援していた『ブランシュ』や『
船の積み込み状況から見て出航に掛かる時間は1週間前後。半月もあれば日本に到着する計算だ。USNA軍の施設から盗まれた小型ミサイルは計算したところ、おおよそ少なくても“50発”―――弾丸に搭載された弾薬量で言えば最低でも約350キログラムになる。
「だからこそ、今年の開催には神楽坂家と上泉家も関わる。具体的には建て替えのために営業していないホテルが一棟あって、そこの解体と建て替えを上泉家にお願いしている。更には、師族会議当日、新陰流剣武術の上段クラスに位置する面々がホテルの従業員に扮して師族会議メンバーを出迎える。一種の“貸切”だな」
この程度の情報など、『フリズスキャルヴ』を有している顧傑ならば既に知っていてもおかしくはない。それに、彼がメディアを通じて十師族を非難するつもりだろうが、その為に『神将会』の全メンバーを箱根に集結させるつもりでいた。
このご時世に限った話ではないが、どの船も船籍を有して航路申請を出さなければいけないことは国際法上において守らなければならない。そうでなければ“不審船”として軍の強制調査対象に含まれるからだ。
当然、顧傑が乗る予定の小型貨物船も横須賀港を経由して沼津港に停泊する申請を出している。横須賀港を経由するのは外国船の入港手続きがあるためだが、その時点で死体やミサイルなどが見つからなかったことがおかしい。まあ、その辺は便宜を図るなどの手段がいくらでも取れるため、これを怠慢などと罰する気もない。
「今回は深雪も加わってもらう。自分の補佐として、あるいは顧傑が万が一市街地を狙った際、俺の『
「悠元が直接やらないのか?」
「他のメンバーの指揮もあるし、ホテルに特殊な結界を張るつもりだからな」
「大丈夫です、お兄様。前にも仰いましたが、もう覚悟は決めております」
ホテルに天仙結界の一つ―――対象物を相対的に固定し、陣内で定義された物体だけは絶対に壊れない『
「……それだったら達也、深雪のフォローという訳じゃないが、四葉家への依頼として達也に箱根市街地の監視を頼みたい。顧傑が恐らく使うのは死体を使役する術だから、その辺のデータは後で渡す」
「分かった。悠元が相手なら別に依頼でなくてもいいのだが」
「そうしないと貸し借りの勘定を持ち出すだろうが、お前は」
気が付けば、こんな風にお互い軽口を叩き合える仲になっていたわけだが、これには深雪と水波が揃って笑みを零していた。そして、悠元は水波に視線を向けた。
「水波には達也の補佐を頼みたい。表向きはガーディアンとなった水波が達也からの指導を受けるための場という形だ」
「は、はい! 分かりました! でも、学校にはどう説明するのですか?」
「『師族会議の関係者』ということで話は通しておく。校長も春の一件の手前、嫌とは言わないだろう」
原作だと達也と深雪、水波は普通に学校へ行っていた。その流れを変えてまでもやらなければいけない。折角ここまで骨を折ったというのに、顧傑に卓袱台返しされるのは“気に食わない”からだ。
それに、達也が自爆テロを阻止した実績が“過去にあった”から悠元は達也に市街地の監視を頼んだ。それは今年の春―――厳密には西暦2096年5月15日にまで遡る。あの日は悠元と達也、深雪と水波で帰りの
その教団が反魔法主義を唱える『今よりも人間的な暮らしと社会を実現する会』という如何にも聞いただけで胸やけを起こしそうな組織と繋がっていることが分かったため、対処は上泉家に放り投げた。
『
ただ、身内が出張る以上は無視するわけにもいかず、しかも周公瑾ひいては顧傑が関わっているとあっては黙っても居られなかったために、『神将会』の仕事ということで出張った。
結果として、小西教団の“教祖”である
彼女の座っていた椅子には芋虫のようなものがあり、どうやら周公瑾に監視されていたようだ。一応術を誤発動させて小西が死んだと偽装したが、吸収した知識でも小西が死んだと思い込んでいたのは確かなようだった。
そして、その際に「
まあ、達也のことを何も知らなければ「殺そう」だなんて選択肢など取れないだろう。一応パーソナルデータ自体はあるのだし、母親の名に深夜がいることぐらい掴めた筈だろうに、とは思ったが、殺し屋としての矜持に火が付いた結果、黒羽家が出張る結果となったのは一番穏便に済んだ方ではないかと考える。最悪達也の『
何故この話をしたのかというと、その少女―――
「命あっての物種だろう? どうやら友達の件で恨んでたようだが……ふむ、二人とその友人とやらも鍛えれば
「は? 何言ってるんだ?」
洗脳されていた
自分に好意が向くのは困るため(マインドコントロール解除の反動による依存の危険があるため)、杏奈の忠誠心(好意)が文弥へ向けられるような形になるよう亜夜子へお願いをした。ハナについては一応『
どうやら有希は文弥に対しての特別な感情があるのは分かったが、それが愛情になるかどうかは本人たち次第だろう(いい雰囲気になるよう知り合いに手筈は頼んでいる)。気絶して数分後に目が覚めた有希は自分の胸が大きくなったことに対して噛みついてきたが、「じゃあ戻す?」という問いかけに対して「それはもっと嫌だ」と返してきたので、結局そのままとなった。
その際、「有希の手助けとフォローを文弥から頼まれた」と説明し、有希に起きた身体の変化もフォローの一環だと説明した。実際にそういうお願いをされていたので嘘は言っていない。その際、「あ、アイツ、もしかして……」と頬を紅く染めながら呟いていたので、脈があることは間違いなかった。
なお、その三人は年明けから上泉家で魔法師となるべく厳しい修行を受けている。魔法師ライセンスの評価基準に足りない魔法師の鍛え方は色んな人間で実践して開花させた実績があるので問題ない、と踏んでいる。「某ゲーム情報誌より信頼性は5000兆倍ある」と自負しているつもりだ。なお、その教官役は元継が務めるため、千里にやきもちを焼かれているらしい。
まあ、魔法師育成の結果が九校戦やらコンペなどでの実績に加えて、少なくとも
そのついでとは言うのもなんだが、文弥からのお願いもあって亜貿社の割と戦力になりそうなメンバーをその道に詳しそうな所に送り込んだ。国防軍に復讐心を抱くフリーの殺し屋なんて何処に送ればいいんだ、とは思ったが、それは八雲が引き受けることになった。その結果として『忍者』が魔法師になってしまうのはいいのか、と文弥に聞いたところ、「最悪黒羽の部隊に取り込めばいいので」と返ってきたのでそれで良しとした。
なお、文弥が有希を含めた女性三人に惚れられるプロジェクト―――『黒羽文弥婚約計画』のことは文弥に言わず、亜夜子にだけ伝えておいた。それを聞いた亜夜子は「悠元さんも
恋愛感情にはならないが、亜夜子とはいい友人付き合いが出来そうだと改めて感じた。重婚になりそうな場合はどうするのか、という疑問だが……その辺は総理大臣と伝手を持っているので、それこそ「例外が一つや二つ増えたところで今更だろう」という結論になった。
更に、四葉直系に近い分家の黒羽家の将来に関わることでもあるので、現当主の貢とその妻である
何にせよ、頑張れ文弥。黒羽家の未来は君に掛かっていると言っても過言ではないのだから。
閑話休題。
「当日は万全を期す意味で文弥と亜夜子ちゃんにも手伝ってもらうことにした。四高の校長には事前に話を通したし、貢さんに対しては真夜さんから直々に命令を下しているから嫌とは言わないだろう」
「レオやエリカ達には声を掛けないのか?」
「学校を襲撃するなんて阿呆なことは考えないと思うが、学校のセンサーをこっそり改造してUSNA軍の全兵装の爆薬を感知できるようにしたから、万が一襲撃されてもセンサーで引っ掛かるのは間違いない。相手が死体ならレオ達でも十分対処できるだろうしな」
あまり人手が居過ぎると逆に顧傑に警戒されかねないし、最大戦力と成り得るセリアを学校に残すのは原作知識からの乖離による想定外の事象を解決するために必要な人材としているからだ。それに、古式魔法に精通している幹比古や佐那もいるので、まず被害を受ける可能性は大分減ったと言えよう。
ただ、四葉家と仲が良いという理由だけで三矢家もターゲットにする可能性もあるため、厚木周辺は既に厳戒態勢を敷いており、屋敷周辺のセンサーも許可を取った上で今回盗まれたミサイルの弾薬を感知できるように改造しておいた。侍郎には詩奈に近付く怪しい影が居たら「詩奈を連れて全力で逃げろ」と念を押しておいた。
「……今、USNA軍の兵装と言ったな。敵がUSNA軍の武器を用いてくるのか?」
「正確には旧式となった小型ミサイルの炸薬だな。現時点でその事実を知っているのは盗難に関与した人物と自分だけだ」
「何故分かったのですか?」
「まあ、俺の魔法―――『
原作知識である程度知っていたとはいえ、どこにどれだけの兵器を管理しているなんてUSNAぐらいの大国となれば調べるのに骨が折れる。そのことをあまり考えず、人間主義を利用しようとしていたケイン・ロウズを含む一派の動きを観察していたところで小型ミサイルの横流しを知り、それらの改竄記録まで既に押さえている。レイモンド・クラークがそれを知ったのが確か現地時間の1月23日(日本時間では1月24日)なので、2週間少し早く情報を押さえることが出来た。
「人間主義がまた飛び火しないかを見ていたところ、国外―――この国に人間主義の矛先を向けようとする政治サイドの一派が、顧傑を通して反魔法主義の火種を燃やそうとしていたのが分かった。その副産物として小型ミサイルの盗難まで掴んだという訳だ」
「成程。悠元兄様、何故USNAの彼らが同盟国であるはずのこの国を選んだのですか?」
「同盟国であり潜在的敵国、というのが彼らの認識だからな。彼らは怖いんだろうよ」
「怖い? 何がですか?」
「
かつての旧合衆国大統領のことを悪しく言うつもりなどないが、大陸の権益を守るために度重なる対中懐柔工作を行って日中戦争を泥沼化させた要因を生み出した人物なのは間違いない。しかも、日本の増長を認めないかの如く交渉を拒絶した挙句「ハル・ノート」まで突き出した人物の影響がここまで引き摺っている……とは思いたくないが、第三次大戦以降大統領が外遊しようとしなくなった時点で、USNAは覇権を欲しながらも報復を恐れたと言っても過言ではなくなった。
そしてそれは、同盟国である日本にまで潜在的敵国という印象を持っていることからしても明らかだろう。どうせ『積極的自衛権』を盾にしてスターズを派遣したのだろうが、やっていることは立派な内政干渉だ。だったら、ヴァージニア・バランス大佐との口約束や『セブンス・プレイグ』と『アルカトラズ』の時に結んだ約定を全部破棄することも視野に入れなければならないだろう。
ただでこちらの魔法技術で手に入ると思えば大間違いだ、ということをいい加減USNAの連中にも本気で“痛い目”を見てもらう時が来たのかもしれない。そして、顧傑にはこの国を本当の意味で独立国家としての体を成すための“礎”となってもらおうと思う。
てなわけで、スピンオフ作品である『暗殺計画』から何人か登場人物を引っ張ってくることにしました。整合性は最悪オリジナル設定という魔法の言葉でどうにかします(ぇ
元々達也絡みの手掛かりが無いか買うことにしたわけですが、前に触れていたクラーク親子が達也をトーラス・シルバーだという情報を掴んだと思しき文面が出てきたときは驚きしかなかったです。
彼女らを追加で達也の婚約者にするよりは流れ的に文弥の婚約者にしたほうがネタになるかと思い、こんな展開にしました。貢自身も達也が絡まなければまともな部類の父親ですし、早い所彼女の1人でも作って欲しいと思うでしょう。
本編ではとうに触れていますが、亜夜子が達也に嫁ぐことからしても、文弥が婚約者を求められるのは同世代の四葉関係者の図式がこうなるからです。
達也→四葉家次期当主・重婚を求められている(10人は下らない模様)
深雪→神楽坂家当主の婚約者・婚約序列第一位(本妻)
夕歌→神楽坂家当主の婚約者・婚約序列第五位
亜夜子→四葉家次期当主の婚約者候補
勝成→自身のガーディアンである堤琴鳴と結婚が決まっている(元々内縁の妻状態だった)
つまり、文弥が人知れずプレッシャーを掛けられることになるわけで、亜夜子としても文弥が心配になるのは無理もない事です。