魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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機密保持に爆発は付き物

 USNA政府に人間主義と通じていたり、彼らを利用しようとしている輩は何時の時代も無くならない。悠元と元継、そして澪の会話は続く。

 

「……それって、USNA政府のスキャンダルってことだよね?」

「有体に言えば。まあ、しかもテロを起こそうとしている連中の支援すらしていますから」

「もしかして、エドワード・クラークもその一人か?」

「まあ、正解」

 

 北アメリカ合衆国国家科学局―――通称NSA(National Science Association)と呼ばれるこの政府機関なのだが、名前だけ見ても魔法関係か科学技術研究の機構という風に見えるだろう。表向きは情報セキュリティを含めた技術振興の為の政府機関だと謳われているが、実態は違う。

 NSA―――英語による正式名称は“National Security Agency”。これは、旧合衆国において国防総省の政府機関の一つであるアメリカ国家安全保障局(以後旧NSAと呼称)の通称であり、国家科学局は旧NSAの存在を隠す為に設立され、旧NSAのシステム設計に大きく関与している。その最たるものが全世界情報傍受システム『エシェロンⅢ』に他ならない。

 

 しかも、旧NSAの規則に存在した「NSAは中将によって指揮される」がNSAでも健在であり、現役の陸軍中将がNSAの長官を務めている。

 NSAは事実上USNA軍の組織の一部でもあり、『エシェロンⅢ』を含めた情報の機密保持の観点から一種の治外法権を得ている組織。そのシステムの開発者の一人であるエドワード・クラークはその功績を鑑みて実質的に少将もしくは准将クラスに近い権力を有している。これがスターズ総隊長であるリーナに対して強気でいられた理由の一つだ。

 

「そのエドワード・クラークって、どういう人なの?」

「表向きは情報セキュリティを主とした専門家、いわば学者です。その実態はNSAのエージェントの一人にして、世界を牛耳ろうとする野心家です」

「世界をって……USNAの大統領にでもなる気なの?」

「彼のプランの過程にはそれが含まれるかもしれませんね」

 

 内密に『エシェロンⅢ』のプログラムを覗いたところ、エドワード・クラークが手を加えた個所がいくつか見つかり、それを解析したところ……得られたデータの中で四葉家に関するデータをクラークの自宅にあるサーバに送信するよう仕込まれていた。明らかな私的流用に相当する行為だが、これを未だに咎めないのは国益に反する行為ではないとUSNA政府や国防総省が判断しているからだろう。

 仮にクラークがUSNA大統領になったところで、正直破滅の道しか見えないのは自分だけだろうか。「おい、達也を敵に回すとか正気か? 死ぬわ、アイツ」という感想しか出てこない。最悪USNAが氷河期と化すか、焦土と化すか、地球上から消えかねない未来しか見えない。

 『十三使徒』の一人である澪にこのことを話すのは、国家の守りを担う者としての役割に加え、将来の顧傑捕縛に協力してもらう腹積もりだからだ。

 

「……正直、スケールが大きい話だけど、USNAが本気で牙をむくと?」

「『灼熱と極光のハロウィン』が大きな要因でしょうね。間違いなくイギリスと新ソ連も首を突っ込んでくるでしょう」

 

 イギリスは『エシェロン』運用の片棒を現在でも担いでいる(元々『エシェロン(前世ではエシュロンと呼ばれていた)』はアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドで結ばれたUKUSA(ユークーサ)協定国で運用していると考えられている)ため、その繋がりでイギリスを引き込むことは十分可能。

 新ソ連の場合は『ハロウィン』でベゾブラゾフが悠元の戦略級魔法に押し負けたことから、その雪辱を果たさせるためにクラークが接近することはあり得る話だ。

 

「それに、USNAの場合は前例があります。昨年の冬、留学と称して派遣されたUSNAの面々の中に『スターズ』がいて、総隊長アンジー・シリウスまでいました」

「……ねえ、そんな報告なんて父から聞いていないんだけど」

「その事件の際に九島閣下がパラサイトと呼ばれるプシオン情報体を旧第九研に持ち帰り、その過程で作られた『パラサイドール』が九校戦のスティープルチェース・クロスカントリーで使用されました」

「は、え、ええっ!? 何でそんなことになってるの!? それこそ一番問題じゃない!!」

「……俺は予め聞いてたが、改めて聞かれるととんでもないことだな。十師族落ちじゃなく数字(ナンバー)剥奪でも足りんぐらいだ」

 

 澪からすれば、五輪本家にいた間も父親である当主から師族会議の報告は聞いていた(健康になったことで、勇海も国防の観点から必要な情報として澪に話していた)が、パラサイト関連はおろかその過程に九島家が関与していたことはまさに青天の霹靂としか言いようがなく、大きな声を上げて驚いていた(言うまでもなく遮音の結界は張っている)。元継は『神将会』の絡みで予め聞いていたが、それでもその内容に驚きを隠せなかった。

 

 澪に対して言わなかったが、ここに至るまでに七草家も関与していると知ったら、澪は間違いなく絶句するだろう。あとで知ったことだが、五輪洋史と七草真由美の婚約を解消し、しかも五輪家が三矢家に対して婚約の打診をしたと聞いたときは、五輪家は辛うじて巻き添えを回避した形となったことに内心で安堵した。

 

「閣下がその行いに踏み切ったのは、孫である光宣にありました。まあ、その辺の処置は済んでいますが、九島家の目を誤魔化すために藤林家で療養してもらっています」

「……まあ、悠元君だから何をしたのかすぐに分かったけど。それで、私は何をすればいいの?」

「話が早くて助かります。実はこの国に対してテロ行為を働こうとする人間がおりまして、彼を抹殺しようとUSNA軍がスターズを送り込んでくると思われます。その際、澪さんにはUSNA軍の艦船を封じ込めるために『深淵(アビス)』を使用してほしいんです」

 

 達也の『質量爆散(マテリアル・バースト)』に比べれば澪の『深淵(アビス)』は規模も威力も十分調整可能なラインなので、USNA軍の艦船を封じ込めることは十分可能。その後USNAが何かしら言ってくるかもしれないだろうが、テロリストの国外逃亡を封じ込めるために使用したと政府に声明を出させることまで織り込んでいる。飛行デバイスを使用した場合は飛行術式に仕込んでいる“ブレーカー記述(セーフティーの一環で、術者の想子保有量が一定以下のラインに到達した場合、強制的に降下させる仕組み)”を強制作動させればどうにでもなると踏んでいる。

 

「予め民間の艦船にはテロ対策の厳戒態勢という名目で関東圏および太平洋側の夜間航行を禁止します。守らなかった船がいるとすれば、後ろめたい事情を抱えている艦船ぐらいでしょうね」

「顧傑が日本海側に逃げる可能性は?」

「それは難しいでしょうね。箱根に神楽坂、中部地方の四葉、群馬に上泉がいて逃げ果せたら神業と褒めてもいいぐらいです」

「あ、それは無理よね」

 

 何せ、剛三が顧傑を“自ら引導を渡す”と豪語している以上、上泉家による北関東の監視網がかなり厳戒な体制になるのは想像に難くない。師族会議が行われる箱根でテロ行為を働けば神楽坂家を本気で怒らせることになり、護人の二家は揃って政府にテロリストへの断固とした対応を迫ることになる。そうなれば、政府も弱腰だと非難される前に迅速な対応を迫られるだろうが、報復を恐れて何も出来ない可能性が高い。

 尤も、そうなってもいい様に打ち合わせは済んでおり、今上天皇には昨年末のクリスマスの会談で話を通している。いつまでも政府が弱腰のままでは国防軍が好き勝手するのも無理はなく、こちらとしても政府が本腰を入れて文民統制をしてもらわなければ困るのだ。

 悠元の言葉を聞いた澪は即座に不可能だと判断し、これには元継も苦笑していた。

 

「その首謀者は昨春の師族会議で母上が話した顧傑と呼ばれる人物です。彼が得意とする術は神仙術の一つで人体操作―――とりわけ死体を操る死霊使い(ネクロマンシー)です。生体を感知するセンサーでは当然感知できない対象です」

「悠元、もしかしてここ最近横須賀で頻発していた貧民の消息不明の事件と関係があるのか?」

「ほぼ間違いないと思う。顧傑はそれにUSNAで盗んだ旧式のミサイルの炸薬を括りつけ、自爆テロをする腹積もりだ」

 

 死体操作なら対象の抵抗を受けることがないし、必要最低限のコマンドを撃ち込むだけならそう難しくなく、爆破の際に接続を切れば顧傑が反動を受けることがない。だが、相手が師族会議を狙っているのであれば、それはそれで好都合。顧傑にノーリスクでテロが決行できると思ってくれればこちらとしてもありがたいのだ。

 

「テロに関しては何かあるんでしょうから、これ以上は聞かないけど……それで、九島家のことはどうするの?」

「無論、責任は取って頂きますが、九島烈には師族会議の提唱者として最後の仕事をしてもらわないといけません」

「……切腹?」

「何でそうなるんですか。戦国時代でもないんですから……九島家は次の選定会議で師補十八家に落ち、基本15期60年間、師補十八家から十師族への昇格を認めません」

 

 この“刑期”設定は旧第九研設立から計算した年数で、本来なら『伝統派』の和解を積極的に行うべき責務を放棄したものとして見做し、国益に適うだけの働きをすればそれに応じて期間の短縮も認めるというもの。

 どんな事情があろうとも、少なく見積もっても30年以上『伝統派』の問題を放置し続けたことは言い逃れできない事実。それは九鬼・九頭見の両家にも言えたことだが、近畿地方の守りを疎かにするわけにもいかない為、彼らは今回対象に含めなかった。

 

「更に、現当主である九島真言は1年以内に当主の座を退き、九島家次期当主の任命権を藤林家に委ねます。藤林家は九島閣下の末妹が嫁いでいますし、パラサイドールの一件では九島家の動きを看過したのですから、それぐらいの責務は負ってもらわねば話になりません」

「ほ、本気で言ってるの?」

「至って本気ですよ。今まで九島烈に頼りきりだったツケが回りまわった結果です。ちなみにですが、光宣は選定会議の前に壬生家へ養子に出すことが決まりました。名目上は国立魔法医科大学に併設する附属病院への入院です」

 

 壬生家の大黒柱である壬生勇三は新陰流剣武術の門下生であるため、その縁を頼った形だ。何で他人の家督継承に口を出さなければならないのかと思うところだろうが、これで九島真言がパラサイドールの開発に注力すれば、それに協力している佐伯少将諸共“最前線送り”に出来る手筈が整うことになる。

 これは最終通告であり、これを機に足を洗って真っ当に生きるのならばそれで構わない。そうでないなら潰すだけ。立ち直るチャンスを与えたのだから、それを生かすか殺すかは今度の九島家次第という他ない。

 言うまでもない事だが、響子を通して四葉家に、光宣を通して十文字家に助けを求めようとしてもそれは絶対に許さない。自分が神楽坂家当主となった以上、神楽坂家と九島家の確執は既に他人事の領域ではないのだから。

 

「澪さん、ここで話した内容についてですが、顧傑が師族会議を狙っているという情報は既に四葉家と三矢家に伝えています。なので、そのことだけは五輪殿に伝えても構いませんが、いかなる電子媒体を決して通さないでください。それと、USNA関連と九島家のことも“国家機密”に準ずるものとして決して口外しないでください」

「それは分かったけど、オンラインを通してはいけない理由って?」

「顧傑はハッキングツールを持っています。ほぼ全ての通信や情報を傍受できるツールと言えばいいですか。なので、五輪殿にお伝えする際は遮音フィールドを必ず張って口頭だけで伝えてください」

「……分かった」

 

 明確に『フリズスキャルヴ』とは言わなかったが、ハッキングツールを有しているという理由で澪は事の重大さを悟り、頷いた。相手がこちらの情報を掴む手段を有しているというだけでも衝撃的だったのだろう。自分たちにもできるのだから、相手に出来ないなんて道理はない、と考えて行動するのが普通だと思う。

 ともあれ、五輪家にも師族会議が狙われる可能性がある、とだけ言い含めておけば協力も得やすいと考えた。師族会議の開催場所を意図的に隠さなかったのは、顧傑に確実に攻撃してもらうためだ。

 

 顧傑は何も理解していない。

 

 師族会議の開催場所である箱根で自爆テロを起こすこと。それは、顧傑が四葉家の居場所をこの国から無くすことではなく、彼を基点としてこの国の人間主義者の勢力がほぼ壊滅に追いやられることに。顧傑の行いが非魔法師による行き過ぎた魔法師への迷惑行為を非難することに繋がるのだと、彼はまだ知る由もなかった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 その頃、達也は『ESCAPES計画』の設計の取りまとめをしていた。魔法工学関連では超高校生級の達也でも非魔法分野―――とりわけ工業系統の技術は高校生の域を出なかった。

 だが、悠元は工業系統において「一流の科学者や技術者と遜色ない」という牛山の評価から、間違いなく世界でもトップクラスの実力であり、計画を進める上でなくてはならない存在とも言えよう。

 

(悠元が転生した存在というのも逆に頷けるな。寧ろ、こればかりは悠元に頭が上がらんな)

 

 達也は『ESCAPES計画』という名前が付く以前に悠元(その当時は長野佑都であったが)へ最初にこの計画の協力を持ち掛けた。すると、悠元は快く協力を引き受けてくれた。達也が考えた『ESCAPES』の綴りを見て、「これでは長すぎるし、メインコンセプトが掴みにくい」ということで、『特型恒星炉太平洋循環エネルギー送電システム』(Especially Stellar drive CirculAtion Pan pacific Energy line System)の名称になった。そして、達也が現在考えている4つのスキーム―――『恒星炉』による発電、生み出した電力と高熱を利用した高熱水蒸気電解法による水素ガスの生成、逆浸透法による海水から真水を取り出す、濃縮した海水から有用物質と有害物質を取り出す―――だが、これら全てを悠元は実行しようと言い出したのだ。

 

 現在、南盾島で既に『恒星炉』が稼働実験を行っており、魔法式の保存に必要な人造レリックに関しては完全に製造の目途が立った。既存の物質を特殊な条件下で生成することによって人造レリック『オモイカネ』が作られた。このレリックは現状24時間(現状は稼働チェックの為に12時間毎と規定)魔法式による魔法継続発動が可能となっている。

 このレリックには位置情報を認識する魔法式が予め設定されており、特定の処置を施した上で運ぶことが必須で、仮に盗み出して国外に持ち出したとしても24時間後に半径10メートル以内を巻き込む爆発を起こして消滅する仕組みだ。その時間内に解析しようとしても、特定の想子波長を同時に13個流さないといけない上、『オモイカネ』はそれぞれ固有の波長が割り振られており(一種のセキュリティキー)、その想子波を特定のタイミングで流さないといけない。3回失敗すると当然爆発する。

 

 もし、『恒星炉』の技術を国外に輸出する際、別の人造レリック『マジストア』を用いる。こちらの場合は『オモイカネ』と異なり、保存した魔法式で魔法を発動し続けられるのが現状6時間と設定されている(既に12時間に延長可能だが、当分は様子見としている)。当然、こちらのセキュリティも『オモイカネ』と同系統のもの(『オモイカネ』のものとは別物であり、解析による盗難を避けるための措置)を採用している。そのどちらも製造ノウハウを有しているのは悠元に他ならない。

 つまり、達也と悠元の両方に許可が出なければ『恒星炉』の技術提供を受けることが出来ないようになっている、というわけだ。

 

 達也も魔法協会を通じて非魔法分野の協力を仰ぐつもりだが、悠元が神楽坂家当主となったことでその傘下にある神坂グループ(存在自体は悠元から聞いている)には工業系などの非魔法分野が多く、彼の婚約者の一人である雫の実家こと北山家―――ホクサングループの協力も得やすい。

 

(悠元は俺のことを「二度と戦いたくない奴」と評していたが、俺からすればそれは俺が言いたい台詞だな)

 

 悠元は達也の力を認めているからこそ対立したくない、と述べていたが、達也は自身が持たない権威と権力を有する悠元を認めているからこそ対立したくないと思っていた。お互いに「一番戦いたくない相手」と評していることに、達也は思わず苦笑が漏れた。

 

 元々CAD設計能力の高さを見込んでの協力関係だったものが、いつしか親友・戦友の関係となり、そして魔法師を兵器という宿命から解放するための仲間となり、将来は従妹である深雪が悠元に嫁いで家族の関係となる。

 人の縁というものは本当にどう転ぶか分からないな、と達也はモニターに映る計画の概要文を見ながら笑みを零したのだった。 

 




 色々オリジナル設定とかウィキを参照した設定になっていますが、NSAに関しては調べた時点で「この線しかないな」と思い、エドワード・クラーク絡みも自然な形となるようにしました。九島家は一気に数字落ち(エクストラ)まで落とすと今後の展開に支障が出ますので、已む無くこうなりました。

 人造レリックに関しては、簡単に言うと特定の装置で取り外しを行うことが出来て、根本的なシステム構造は全てブラックボックス化する形になります。機密保持のために爆発はスパイ映画でよくあることですので。
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