魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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桜に撒いても花が咲かない灰

 この世界では深雪とほのかが同じ相手を取り合うことが起きていないため、生徒会の中も和やかな雰囲気を保っている。その反面、自分の影響で達也と深雪の素性を“些事”の如く片付けられることは何だか癪だった。

 ともあれ、悠元は部活連会頭として風紀委員会室を訪れていた。特にクラブ活動のトラブルは起きていないし(CAD規制が緩む新入生勧誘週間を除く)、校内でトラブルめいたことは確認されていない。

 

「悠元。呼んでくれればこっちから出向くのに」

「幹比古だってそうそう暇でもないだろうに……これ、巡回メンバーからの報告だ」

「ありがとう、助かるよ」

 

 流石に風紀委員だけで取り締まるのは限度があるため、部活連の巡回当番と協力して校内の違反行為に目を光らせている。普段なら誰かに頼むところだが、今回ばかりは悠元が動くべきだと判断した。その内容はメンバーから受けた“気になる報告”が主であった。

 

「……部活連でも同じ報告があったのか」

「ああ。実際の被害は出ていないし、警察に届け出ても取り締まっていないそうだ。被害が無ければ動けないからな」

 

 それは、最近魔法科高校の生徒を対象に盗撮やストーカー行為を働いている、というものだ。年明けからそういうものがあったことは気付いていたので、その連中の顔を見て調べたところ、人間主義者の団体ということは直ぐに分かった。

 明らかに昨年まではなかった動きとなれば、外部から入り込んだ面々なのは間違いなく、調べたところではUSNAで活動している日系人の反魔法主義者の団体があり、そこが関与している。言うまでもなく顧傑の息が掛かった連中なのは間違いない。

 

「暴言を放つ時点で大人げないだろうが、この先エスカレートしないとも限らない」

「正当防衛で魔法の使用をすることに対して過剰防衛だと謳うってことかい?」

「可能性は大いにある。これは直ぐに生徒会へ報告しよう」

 

 今すぐ対処しないのは、彼らに暴力的な行動を起こさせることを目的としているからだ。万が一魔法技能を喪う生徒が出た場合、その部分の対処はきちんと請け負うつもりでいる。

 ああいった声が大きいヒステリックな連中程、焚き付ければ簡単に攻撃してくる。顧傑からすれば焚き付けるための燃料を持ってきたつもりだろうが、生憎それで焼かれるのは顧傑本人だ。尤も、死に掛けの老人を焼いても何の有難みも湧かないし、灰を桜に撒いたところで桜の木が腐りそうな気がする。

 そんなことはともかく、幹比古と一緒に直通階段を通じて生徒会室に向かい、このことを報告した。無論、報告を受けたのは達也だった。

 

「ふむ……なら、全校生徒に注意を促した方がいいだろうな」

「それと、出来る限り一人で登下校しないように注意を促そう。流石に複数相手なら手を出しにくくなるだろうから、当分はそれで様子を見たほうがいいだろう。生徒会長はどうかな?」

「ええ、ではそのように対処します」

 

 下手に手を出しにくくするには、今のところ複数での登下校が望ましいと考えた。

 悠元は少し考えた上で、幹比古にお願いをすることにした。

 

「幹比古、被害にあった生徒の状況を今のうちに纏めてほしい。今後の被害の推移は予測できないが、傾向は掴んでおきたい。部活連の方は俺が責任を持って纏めるから」

「分かった、出来るだけ早く纏めるよ」

 

 その被害を受けた場所や時間帯(少なくとも制服を着ている平日の登下校が多いと思われるが、休日に狙われている可能性もある)、可能であれば相手の身なりを確認することでどれだけの組織が関わっているのかを炙り出す。部活連に来ている分は既に詳細の情報を纏めているが、風紀委員会や生徒会との情報を合わせればより正確なデータが取れると踏んでいる。

 

「なら、生徒会の方は俺が纏めておこう。悠元はそれでいいか?」

「ああ、構わない。ま、一時的なもので済めばそれで良しとすればいいし、また再発した時の参考にもなるだろうからな」

 

 尤も、この犯罪まがいの行為は少なくとも続くのは明白。何せ、これを煽っているのは顧傑も一枚噛んでいるが、人間主義者を煽り建てている人間は他にもいる。()()()()がUSNAの大統領次席補佐官ケイン・ロウズを含む議会のグループに他ならないのだから。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 1月19日、土曜日。

 達也と深雪、そして悠元の噂も落ち着いて普段通りの生活へと戻っていた。一部で変化はあったものの概ね平穏を取り戻している中、昼休みの食堂では香澄と泉美、そして理璃が昼食を食べていた。そしてこの三人、奇しくも婚約者として申し込んでいる、或いは婚約を認められた者同士という組み合わせだった。

 

「ここ数日、あの噂も大分落ち着いたよね」

「達也先輩と深雪先輩、それに悠元兄様の噂ですか。いつまでも賤陋(せんろう)な性根でいられると困ります」

「……『せんろう』って何?」

「身分とか人格を指す言葉で、卑しくて品がないって意味だよ、香澄」

 

 泉美の時折難しい言葉に香澄が疑問を唱え、それに対して理璃が答えている。元々七草家と十文字家は同じ関東地方の監視・守護を担っていて、更には卒業生の克人と真由美が同学年ということもあり、三人が一緒に居ることをごく自然のことだと周りの生徒は見ていた。親衛隊と呼ばれる様なものこそないが、「昔のアイドル」のような扱いを受けている形だ。

 

「よく知ってるね、理璃」

「私は元々そういう家系の生まれだからね。まあ、要するにいつまでも野次馬根性で騒ぐな、って言いたかったんでしょ?」

「ええ、理璃さんの言う通りです」

 

 理璃からしたら、香澄ですら知らない言葉を一体どこから吸収しているのか疑問に思うほどだったが、香澄は率直な意見を口にした。

 

「だったら最初からそう言えばいいのに」

「私は上級生の皆さんを『下衆』だなんて呼びたくありません。当校の生徒は皆様紳士淑女だと信じたいですから」

「ねえ、香澄。私は泉美が一番容赦ない言葉を浴びせてる気がするのだけれど、気のせいかな?」

「大丈夫だよ、理璃。私もそう思ってるから」

 

 泉美がそこまで辛辣な言葉を述べていることに、その理由が泉美の好いている相手が含まれているからだと察しつつ、理璃は香澄に尋ねると、香澄もそれには同意するように呟いた。すると、泉美は二人の会話が聞こえているのか、笑顔を浮かべたままこう言い放つ。

 

「そんなことはありませんよ、香澄ちゃんに理璃さん。私は皆様の本性が下衆だと断定して述べているわけではなく、一時の気の迷いで卑しい興味に取り憑かれたと思っているだけですから」

「難しい言葉を使えば本音を隠せるものでもないと思うけど……」

「何か言いましたか、香澄ちゃん?」

「な、何でもないよ! ね、理璃!」

「う、うん!」

 

 理璃も香澄や泉美と関わることで泉美の本性を知ることとなり、その意味では香澄の苦労人気質を一番理解する人間となった。泉美の追及に対し、食事のマナーを盾にどうにかやり過ごしつつ、香澄は理璃と泉美に尋ねた。

 

「そういえば、生徒会はどう? 特に変わりない感じ?」

「そうだね。無理をしているような感じもなかったし」

「寧ろ、予め覚悟を決めていたような雰囲気を感じました。もしかすると、心を許せる方々には予め知らされていたことかもしれません……まあ、単なる予測ですが」

(泉美の場合、その勘が当たっていそうだから怖いんだよね……)

 

 実際のところ、生徒会メンバーの中で一番驚きそうなほのかですら特に動揺することなくいつも通りに仕事をこなしており、悠元が来ても深雪が惚気る様子もなく、キチンと一線を弁えている様子が見られた。それを見た泉美の乙女の勘めいた予測に対して香澄は内心で毒づくように呟いた。

 

「何にせよ、当人たちが弁えているのに、不躾な目線を向けて無責任な噂話に興じる方が多いようでは、雰囲気が多少悪くなったとしても不思議ではありませんね……あくまでも一般論ですが」

(いや、思いっきり私情入っているよね?)

 

 その泉美の言葉に心当たりがあったのか、周囲で聞いていた同級生が俯いて縮こまっていた。それを得意の空間認識能力で瞬時に把握した理璃は泉美の言葉に対して口に出すことなく、心の中で呟いたのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 おおよそ同じ頃、国立魔法大学の食堂も賑わっていた。

 その中には防衛大学校特殊戦技研究科からの聴講生も含まれており、あるテーブルに一緒に座る三人の内一人の女学生が防衛大で魔法士官として訓練を受ける魔法師の一人だ。とはいえ、見た目上は魔法大学の学生とそこまで大差があるわけではなく、明るく笑う姿は、魔法大学の学生はおろか一般的な女子大学生と変わりないものだった。

 

「もう、摩利! そこまで笑わなくてもいいじゃない!」

「すまんすまん。しかし、真由美がようやく重い腰を上げたのかと思うと、笑わずにはいられなくてな」

 

 笑った方の女学生―――元第一高校風紀委員長の渡辺摩利は謝罪しつつもまだ笑い続けており、これには向かい側に座る元第一高校生徒会長の七草真由美が摩利を睨みつけていた。

 睨んでいるのは怒りというよりも羞恥によるもので、何も笑う事じゃないだろうに、と言わんばかりに捲し立てつつ、真由美は摩利の隣にいる女学生こと元第一高校の五十嵐亜実に助けを求めた。

 

「つぐみん、摩利が私を重い女のように扱ってくるんだけど、酷いと思わない!?」

「いや、実際に重いんじゃないかな。主に家柄的な意味で」

「ぐっ……いや、そっちを抜きにしてもよ!」

 

 相手が十師族の直系だというのに、バッサリ斬り捨てるがごとく言い放たれた亜実の一言に対して真由美は一瞬言葉を詰まらせたが、それでも摩利の発言がどうにも納得いかなかった。

 昼休みの時間も無限ではないため、亜実は話を進める方向に舵を取りつつ会話を進める。

 

「はいはい、真由美の細かい事情は後日聞くとして。それにしてもねえ、摩利……」

「そうだな。まさか結婚に関する質問状を今の悠元君の実家に送り付けるとはな」

「結婚じゃなくて婚約よ!」

 

 亜実の場合は六塚家次期当主の婚約者としてすでに発表されており、摩利の場合は修次との付き合いだけでなく将来結婚することも視野に入っている(双方の親が認めている)ため、三人の中ではある意味“行き遅れ”状態となっている真由美の指摘に対して「どう違うんだろうか?」と揃って内心で首を傾げていた。

 

「真由美が悠元君に気があるのは知ってたけど……一高のあの噂もあるの?」

「……あれは噂じゃないのよ。昨春の入学式で会った時、二人が恋人だって認めてたのよ」

「その時には、か……」

 

 亜実が尋ねた噂というのは、第一高校の生徒である神楽坂悠元と司波深雪が恋人同士である、という噂であった。元々彼らが入学して1週間ほど経った頃に出た噂で、本人たちも特にその噂を気にするような素振りは見せていなかった。

 真由美はその噂が本当なのかどうかを確かめる意味でも悠元に対してスキンシップを取っていた。それによって深雪の機嫌が悪くなるという現象は三人の中で当事者の真由美を除けば摩利が一番目撃しており、よく拳骨を落として引き剥がすことが多かった。

 

 そして、昨年4月の入学式の際、真由美は悠元と深雪が本当に恋人として付き合っていることを知った。実を言うと、一昨年の8月の九校戦の祝賀会で二人の雰囲気の変化に気付いて真由美が問い詰めたが、悠元が一切ボロを出すことが無かったため、思い過ごしだったとその場は追及を諦めた。

 

「私は婚約先の関係で知ってるけど、摩利は二家の通達と書状ぐらいしか知らない感じ?」

「まあ、そうだな。渡辺家(うち)の義理の姉が三矢家に嫁いでいるが、それ以上のことは特に聞いていない」

「実はね、悠元君と深雪さんの婚約に対して、一条家が深雪さんと一条将輝君の婚約が可能かどうかの質問状を四葉家に送ったそうなの」

「は? いや、無理筋じゃないか?」

 

 実際の話、一昨年の九校戦終了後に行われたダンスパーティーで、一条将輝が深雪にダンスのパートナーをお願いして、一緒に踊ったという記憶は摩利も亜実もある。その時の将輝の表情が“恋を抱く男子”だということも二人は直ぐに読み取っていたし、真由美に至っては先日京都で一緒に行動していたことから知っていることだった。

 だが、いくら一条家の跡取りとはいえ、神楽坂家現当主の婚約者に実質的な“横槍”を入れる様な行いであり、正直神楽坂家の勘気を被ってもおかしくない案件に違いない。

 

「確かに一時期三矢家と四葉家の接近の噂は聞いていたが……あの三人が一緒に住んでいるとなれば、そう邪推する輩が出てもおかしくはなかったわけだ」

「えっ!? 何それ、初耳よ!!」

「え、知らなかったの?」

 

 摩利はおろか亜実ですら達也と深雪が住んでいる家に悠元が居候している事実を知っていたが、真由美は初耳とも言える情報に声を荒げた。二人はてっきり七草家の人間である真由美なら既に知っているものと勘違いしており、真由美の新鮮な反応に思わず目を丸くしていた。

 これは一昨年のバレンタインの際、真由美のふとした思い付きに便乗した弘一が悠元の素性を調べたことに起因する。三矢家の役割を阻害するような行為に対して厳重な抗議を受けたため、真由美は悠元に関することの調査はしないように心掛けていた。それも、生徒会長なら閲覧しようと思えば見れる現住所などのパーソナルデータも見ないようにしていた。

 

 なお、同じ家に住んでいるかどうかの真偽はともかく、達也と悠元、深雪(彼らが2年となってからは水波も加わる)がほぼ一緒に登下校しており、生徒たちの間では近所に住んでいるのでは、と憶測が飛び交うほどだった。

 今回の発表によって悠元と深雪が婚約者となったことで、別段同じ家で暮らしていてもおかしくはないということに加え、校長室での会話を偶然聞いた生徒から二人が同居(同棲とも言えるが)している事実が広まった。

 

「真由美が意外と乙女だったとはな」

「……ねえ、摩利。私を何だと思ってたのよ」

「猫被り腹黒女と評価すればいいか?」

「それはもう悪口じゃない! 私はあのタヌキじゃないもん!」

「もんって……」

 

 狸親父の娘が猫というより“女狐”というのは親子間の化かし合いにしかならないな、と摩利は思いつつも、話を一条家の質問状に関することに戻した。

 

「あたしは一昨年の九校戦で見ていただけだから、そこまで詳しいという訳じゃないが……少なくとも、その気はあったと思ったな。その辺は真由美が詳しいんじゃないか?」

「そうね……実は昨年のコンペの時に同行したんだけど、一条君が深雪さんに熱い視線を向けていたのは確かよ。悠元君は黙ってたけど、あれは間違いなく機嫌が悪かったと思うわ」

「そりゃそうでしょ。悠元君からしたら自分の恋人に一条君が色目を使ってるようなものだし……それで、便乗して真由美も悠元君との婚約が可能か打診したってこと?」

「び、便乗ってそういう訳じゃないでしょ! 大体、悠君のことは……」

 

 話題が悠元のことになると急にトーンダウンする真由美に対し、摩利と亜実は顔を見合わせて頷いた。これはもう、真由美が悠元に対して好意以上の感情を抱いているのは間違いない、と踏んだ。

 

「じゃあ、何で尻込みしてるの? 家柄で言っても悠元君は元を辿れば真由美と同じ十師族の人間。婚約者となった深雪さんが十師族・四葉家の人間であったとしても、家格だけで見れば同等の立場だよ?」

「……なあ、真由美。以前お前の妹が悠元君と婚約していたが破棄されたと言っていたな。それが関係しているのか?」

 

 踏ん切りがつかなそうな態度を見せる真由美の様子に対して問いかける亜実の言葉を聞き、摩利は思い出したように以前真由美が話した内容に触れると、真由美の表情が強張った。摩利の予想が当たった形となったため、真由美は観念したように話し始める。

 

「泉美ちゃんの婚約の件なんだけど、昨年の春に復活していたの。ただ、その際に交わした条件を父が破っていると悠君から聞かされてしまって……」

「……また破棄されちゃうの?」

「ううん。ここから先は本当に秘密にして欲しいんだけれど、泉美ちゃんの婚約が決定次第、泉美ちゃんは七草家の人間じゃなくなるの。うちの母も既に了承していることよ」

 

 泉美に関する婚約の約定はほぼ全て秘密にされているが、「婚約が決まり次第七草家の人間でなくなる」ということだけは秘密を必ず守れる人にだけ明かすことを求めている。真由美は内密に母親のもとへ赴き、泉美に関することを尋ねると全て事実であると認めた上で弘一を通さずに神楽坂家と約定を交わしたことまで知らされた。

 

「成程な。ここでもし真由美(おまえ)が悠君の婚約者に名乗り出れば、お前も妹のように七草家の人間でなくなる公算が高い、ということになるな」

「……真由美は七草家の人間として生きたいの?」

「分からない。ううん、分からなくなってしまったの……」

 

 今まで十師族・七草家の人間として振る舞い、それを誇りに思い続けてきた真由美からすれば、泉美のように愛する人の為ならば躊躇いなく家の名を捨てることが出来なかった。かといって、父親の言いなりになるのが嫌で勧めてきた縁談に乗り気でなかったのも事実だった。

 一体何が正しくて何が間違っているのか……質問状の件に関しても、結局真由美は“七草家の人間”としての前提が伴う考え方をしてしまっている。これでは父親が今まで持ち込んできた縁談と何が違うのか、と真由美は思い悩んでしまった。

 

「……これは重傷だね。摩利、いっそのこと真由美を七草家から引き剥がさない?」

「な、何を言ってるのよつぐみん!?」

「だって、このままだと踏ん切りがつかないんでしょ? 家にいたところで結局は七草の名が付き纏ってくるじゃない」

 

 亜実の唐突とも言える爆弾発言に真由美は反論を試みたが、亜実の痛烈な正論に真由美は完全に押し黙った。このまま七草家の娘として、父親の言いなりとして生きていくのか。それとも七草真由美という人間として生きていくのか。亜実の発言はこの選択に一石を投じる形となった。

 

 すると、三人の姿を見て近寄ってくる一人の女学生―――魔法大学3年にして元第一高校生徒会長の三矢佳奈であった。いつもは魔法科高校の魔工科の教官として教鞭を揮っている(実務経験と論文発表実績による特例という形で教員免許を取得した)が、月に一度魔法大学に来て所属ゼミの後輩の指導を請け負っていた。

 

「あれ、真由美に亜実、摩利じゃない。もしかして婚約絡みで深刻な悩み?」

「どうも、佳奈先輩」

「ええ、まあ……そうだ、佳奈先輩。真由美を三矢家で預かってもらうことは可能ですか?」

「ちょ、ちょっとつぐみん!?」

「……事情を聞いていい?」

 

 そうして、亜実が主体となって真由美に関する事情を話した。佳奈は少し考え込んだ後、真由美に対して普段は見せることのない“眼”を見開いて真剣な表情で真由美を見た。これには真由美も思わず息を呑むようにして佳奈の言葉を待った。

 

「真由美、隠し事はせずに正直に言って。弟の、悠元のことが好きなんだよね?」

「……はい」

「それは、元は同じ十師族だから? 悠元が優れた魔法使いだから?」

「違います! 悠君は、その……」

「うん、十分脈はあるという訳だね。いいよ、亜実。真由美、今すぐ家に連絡して。私も実家に連絡して事の次第を話すから」

 

 佳奈は真由美の心情を汲み取り、“眼”で彼女の気持ちに偽りがないのだと察しつつ、今は気持ちの整理が必要だと判断した。本来なら真由美の母親が諭すべきことなのだが、佳奈も七草家の家庭事情をそれとなく知っているため、あまり贅沢は言えないと内心で呟いた。

 

「父さんと、元継兄さんに……悠元にも話をしておこう」

「え、いや、そこまで巻き込むんですか!?」

「何言ってるの、摩利。元はと言えば家庭の和を保とうとせず、(はかりごと)(かま)けて居るあそこの当主が悪い」

 

 佳奈がいつになく辛辣な言葉を吐き捨てたことに摩利は冷や汗を流したが、そんなこともお構いなしと言わんばかりに連絡を取り始めた。

 

 将来四葉家に嫁ぐことをとうに覚悟している佳奈からすれば、四葉家に対して執拗に突っかかる七草家のことは弟の件も含めて許す気になどなれないが、ライバルであり可愛い後輩の一人でもある真由美を放っておくことなど出来はしなかった。

 なので、これが三矢家の人間として真由美にできる最後のお節介である、とそう思いながら佳奈は電話の向こう側にいる相手に事情を説明し始めた。

 




人間主義の部分は今のところ変化させません、“今”は。魔法師排斥運動を無くすと若手会議とかに影響はありそうですが……まあ、気にしないことにします(ぇ

泉美と香澄のところに理璃を加えましたが、理璃がいることで香澄の負担が緩和されている……とは思いたい。

そして、真由美のところは展開的にどうなの? という疑問はあるでしょうが、佳奈と真由美の個人としての繋がりを主軸として、七草家長女が一人でふらっと出歩くのは危険なので、三矢家で考えを纏める時間を与える形にしました。
弘一がこれを利用しようと企みそうな気はしますが、あくまでも佳奈は同じ高校の誼として真由美に助け舟を出しただけで、七草家に配慮したのはもののついでという形です。
荒っぽく直訳すると「お前が余計なことしなければお前のところの娘が思い悩んだりしてねえんだよ。わかってんのか、ああ?」みたいな感じです。

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