魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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フィクションですら匙を投げかねない

 一息入れるという形で、悠元は神楽坂本邸の自室―――当主の執務室に戻り、そのまま畳の上に寝転んで瞼を閉じた。脳裏で今後の動きをシミュレートすることに集中力を傾けた。

 

(ジード・ヘイグ―――顧傑の動きは現時点で確認できない。横須賀から運ばれたコンテナは1つで、今のところ僵尸術によって動き出す気配はなし、か)

 

 正直なところ、僵尸術の破り方を周公瑾の知識で得ているため、その気になれば顧傑が人形を市街地で爆破させる前に止めることは可能だ。最終手段として『天陽照覧(てんようしょうらん)』を使うことも視野に入れる必要があるのは間違いない。

 ()()()()()、顧傑には箱根を離れるまで彼が思い通りに行ったと思わせる必要がある。選定会議の次の日に顧傑がメディアを通じて声明を発表するが、それに被せる形で政府による緊急会見を行い、顧傑の爆弾テロを「我が国の国民の命を脅かす極めて悪質なテロ行為」と非難させる。

 

 しかし、原作で顧傑が何故十師族選定会議の最中を狙い撃たなかったのかが気になる。いや、それで巻き込んで師補十八家の誰かが犠牲になれば、正当な理由で師族会議による報復行為が成立することになる。顧傑は十師族を社会的に抹殺すべく、それを効果的に演出するために十師族だけを狙い撃った。それも、無差別攻撃と見られがちな爆弾テロという形で。

 四葉の本家を狙い撃つような素振りは見られない以上、いくら『フリズスキャルヴ』でも四葉本家の場所は突き止められなかった、とみるべきだろう。

 

(しかし……復讐の理由がそう簡単に忘れられるものなのか?)

 

 周公瑾は特殊過ぎるが故に例外だとしても、顧傑に愛国心があるとするならば、それを滅ぼした四葉家だけでなく大亜連合にも向けられるべき感情の筈だ。なのにも拘らず、顧傑は四葉家だけにその復讐の矛先が向かっている。

 しかも、顧傑が北米に亡命したのは2054年頃―――彼が54~55歳の頃。四葉の復讐劇がその8~9年後の話だから、62~63歳の時に四葉への復讐心を抱いたことになる。若い頃の恨みが積もり積もってというのならばまだ分かるが、その年齢の人間だと復讐心を抱くには遅すぎるはずだ。 

 むしろ、約10年という遅延のタイムラグに耐えうる魔法があったのかと考えた際、前世の創作物関連で一つ心当たりがあった。

 

 それは、薬物などによる身体・精神を著しく先鋭化した強化人間を安定化させるため、精神的な同調を施すだけでなく一つのブロックワード―――本人と最も密接に関係している“キーワード”を用いることで人間としての記憶を隔離し、命令に忠実な兵士を作り上げるという事柄。

 顧傑が北米へ亡命する際、それを手助けした人間によって“崑崙方院”もしくは“大漢”、それと“四葉”というキーワードを条件に復讐心を抱くよう仕組まれていたとすれば、ある程度の辻褄は合う。

 

 周公瑾の知識を見る限り、四葉の復讐劇が全世界に広まったのを起点として顧傑は大漢(ダーハン)の亡命難民によるネットワークを構築し、闇社会(アンダーグラウンド)に浸透していくことで復讐の為の力を蓄えてきた。

 つまり、2054年時点で四葉を脅威と考えていた人間でなければ、顧傑を使おうなどとは考えられない。更に、顧傑は崑崙方院の主導権争いに敗れて国を追われた身。この策を目論んだ人間は、顧傑の崑崙方院に対する無念や後悔といった感情を利用した形になる。

 そうなると、真夜の誘拐に端を発した四葉の復讐劇も顧傑に埋め込んだ復讐心を抱かせる“楔”を発動させるために起こした可能性が高い。『元老院』が積極的に関与したのもそれを確実的なものにするためだったとみるべきだ。

 

(その時点で脅威に考える人間がいるとするならば……古式の術者か『元老院』の四大老、それに()()()

 

 原作だと、達也や深雪(主に達也の方が強かったが)を気に掛ける素振りが多く、かつては真夜や深夜の魔法の教師役をしていたことがあった。ならば、四葉家先々代当主・四葉元造とも面識はあって当然と考えられる。

 では、第四研の四葉家と第九研の九島家の接点は一体どこにあったのかと考えた際、一番考えられた線は元造の妻・真夜と深夜の母親である阿部(あべ)泰夜(やすよ)であった。

 

 この世界の場合、泰夜は土御門家の傍系(神楽坂家は安倍・賀茂氏系列の家と江戸時代に一度袂を分かったが、明治政府成立に際して明治天皇より安倍氏と賀茂氏の嫡流として認められた)にあたり、その母親は神楽坂家の人間―――千姫の伯母にあたる人物だった(千姫の叔父の息子が元造であり、元造と泰夜は従兄妹同士で結婚したことになる)。そして、泰夜の父方の従姉が九島烈の妻であった。つまり、九島烈と四葉元造は土御門家を介する形で義理の従兄弟の関係ということになる。

 

 原作の古都内乱編で達也たちが嵐山の『伝統派』と戦った後、陰陽道系の古式魔法師である警察官から執拗な取り調べを受けていた。その一方、第九研による古式魔法の現代魔法化への協力に陰陽道系の土御門家が協力的だったのは、九島家もしくは「九」の家と土御門家に何らかの血縁的関係がある可能性を推察したが、この世界では血縁関係という形で証明されたことになる。

 

 話を戻すが、烈との会談の際、実はこの部分についても問い詰めた。

 すると、烈は後悔の念を吐き出す様に全て話した。

 

 その当時、『元老院』の四大老である東道氏と樫和氏から相談を受けるだけでなく、四葉の弱点となるような要素を執拗に尋ねられていた。その際、烈は真夜と深夜の存在だけでなく、彼女らの固有魔法―――真夜の『流星群(ミーティア・ライン)』と深夜の『精神構造干渉』まで全て話したらしい。

 その資質が後の世代に継がれることを危惧した彼らは、烈に対して七草弘一と四葉真夜に台北で行われる少年少女魔法師(マギクラフトチルドレン)交流会に出席するよう強制した。その引き換えとして、当時千姫と剛三が進めていた十師族による魔法師社会の秩序の担い手に烈を推挙するという餌を与えた。

 この事実は、悠元に話すまで烈と東道氏、樫和氏の三名しか知る者はいないということも付け加えられた。

 

 自ら力を欲した烈は分の悪い賭けに勝って力を得た。だが、生まれつき特異的な魔法を有する四葉の魔法師である元造を烈は羨んだ。それが本人の気付かないところで憎しみや妬みへと変化し、終いには彼らを“売った”。力を求める在り方は十師族らしい考え方に基づくものだが、やっていることは七草家の四葉降ろしよりも遥かに酷いだろう。

 

 正直、今まで剛三はおろか千姫にすらバレていないのは驚きしかなかった。

 この辺は自分の推測も混じるが、恐らく九島家の御家騒動で九島家と神楽坂家に確執が出来てしまい、千姫も九島家の衰退を見越して放置する方向に舵を切ったのだろうと思う。それと、東道氏の“四葉殺し”がその隠れ蓑として機能してしまった結果、千姫ですら気付かなかった可能性が高いと踏んだ。

 身内のことが大きすぎて、それに烈が関与したというところまでは読み切れてなかったのだろう。それに、命を落とした東道氏も死の間際まで烈の名前を出さなかったことを見るに、師族会議体制の成立にそんな裏があったことを知られたくない、という思いがあったのかもしれない。既に亡くなっているため、真偽のほどは不明だが。

 

 なので、烈には全てを清算する意味で自らが旗頭となってきた師族二十八家体制に終止符を打つ役目を担ってもらうつもりでいた。事情はどうあれ、長年この国の為と働き続けた功績だけは認める。だが、真夜の幸せを奪い、深夜を苦しめ、剛三を悩ませ、元造を含めた四葉を殺した罪は消えない。この国の体制を揺るがそうとする輩を育ててしまった罪は、九島家の十師族落ちも含めた態度で示してもらう。

 烈がこの先何年生きるかなど不明だし、原作のような死を回避できたとしても想定外の事態によって命を落とすことも有り得る。万が一のことも含めて、全て今年の春までにケリをつけてもらうつもりだ。

 

(……まずは顧傑を捕らえる。仮に死んだとしても、彼自身に掛けられた魔法の情報履歴は決して消えない)

 

 生死を問わず顧傑を確保することが最重要であり、仮に死体が消滅しても最終地点さえ分かっていれば『天陽照覧』で復元・蘇生させることは可能。先日の周公瑾に使った『天陽照覧』はその確認も含めてのものだった。彼に植え付けられた“楔”が死に至らしめるトリガーを有していなければいいが、保険の為に天仙結界で遮断して取り除くことも考慮に入れて行動するつもりだ。

 

 最終的には顧傑を拘束し、“国防軍”によってUSNAに輸送する。この辺は日米同盟に基づく共同基地協定により、同盟国内で指定された基地を共同利用することが出来る取り決めを利用する。USNA軍側が使えるのだから、国防軍側にも当然この権利を行使する資格がある。

 そして、その護送には独立魔装大隊を使うつもりでいて、そのついでにベンジャミン・カノープス少佐を同行させるつもりだ。

 

 剛三も悠元の案には賛成しており、彼が顧傑を“討つ”という文言は「一発ぶん殴らせろ」という言い草に近い。崑崙方院の生き残りとはいえ、顧傑が残っていればあのような事件は起きなかったかもしれないという抑止力を放棄したことへの鉄拳制裁をしたいだけ、とのこと。

 てっきり殺すつもりなのかと思ったが、「それでは顧傑を慕ってたやつらを絶望の淵に叩き落せぬじゃろうが」という理由を聞いたとき、USNAのアンダーグラウンドを合法的に壊滅させろ、という願いを聞いたような気がした。その辺は千姫から正式にお願いされているが、その理由を述べた剛三は顧傑の護送に付き合うと発言した。

 

 万が一、その飛行機を撃ち落とそうものならば、剛三は「国防総省に乗り込んで顧傑を押し付けてくる」と豪語しているため、剛三の命の心配はしていない。寧ろ、USNAの本土が落雷による被害で混乱しないか不安に感じるほどだ。独立魔装大隊のメンバーに誰を使うか次第だが、風間の場合だと剛三の無茶ぶりに付き合わされることになるだろう。カノープスも剛三を止めることなど出来ない、と匙を投げるかもしれない。

 

 某格闘漫画に出てくる主人公の父親よりは理知的だが、一度敵対するとそれよりも被害が可笑しいレベルに振り切れること間違いなしだ。

 何せ、滞在中に遭遇した爆弾テロによって倒れかけた自由の女神像に掌底を撃ち込んで強引に直立させた荒業は、世界中を探しても剛三以外に出来ないやり方だと思う(そのせいで所在がバレて、大統領府の人間の呼び出しを受けてホワイトハウスで大統領と面会する事態に発展した)。

 なお、その時の掌底の後は直さずに残したらしく、かの英雄の手形として新たな観光名物になったらしい。

 

 正直言って、誰かに尋ねたい。

 

 まるで「ハンス=ウルリッヒ・ルーデルに武術と権力と魔法のチートが備わって転生しました」というフィクションですら匙を投げかねない人物を倒せる手段があるというのなら、是非ご教授願いたい。

 俺の場合はって? 音速で飛んでくる某国民的人気アクション漫画みたいな存在なんて敵にしたくない。面倒この上ないと思う。正直、そんな存在が身内で助かったという意味では、自分は運に恵まれたかもしれないだろう。

 

 仮に剛三がファンタジー世界に飛ばされた場合、開幕魔神が飛んできて「お願いですから命だけは」と土下座する光景が見えてしまいそうになる、と思うのは自分だけだろうか。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 師族会議―――高校生にとっては、場合によって喧嘩のタネになるぐらいのものであったが、当事者側である大人達にとっては、命を賭けるような真剣な闘争の場となっていた。師族会議の会場となる神坂グループのホテル、その貸し会議室に置かれた円卓に次々と会議参加者が集う。

 

 日焼けによって赤銅色に染まっている身体に、ラフなセーター姿で席に座る“海の男”のような風貌を持つ男性は北陸・山陰地方を監視・守護する一条(いちじょう)家当主・一条(いちじょう)剛毅(ごうき)。先日42歳を迎えたばかりで金沢(旧石川県)在住、表向きは海底資源採掘会社の社長。

 

 髪をアップにした上品な和服姿の熟女は阪神・山陽地方を監視・守護する二木(ふたつぎ)家当主・二木(ふたつぎ)舞衣(まい)。芦屋(旧兵庫県)在住の55歳で会議参加者では九島家に次ぐ年長者。表の職業は複数の化学工業・食品工業の大株主。

 

 ポロシャツの上からジャケットを羽織ったラフなスタイルの、小柄ながらもがっちりとした体格を有する男性は、国際情勢を含めた国外の情報収集を担う三矢(みつや)家当主・三矢(みつや)(げん)。厚木(旧神奈川県)在住の53歳で、表の職業は国際的な小型兵器ブローカー(ブローカーとは名乗れないため、表向きは防衛省の兵器調達を専門に扱う貿易商という体になっている)。

 

 ワインレッドのフォーマルなワンピースを纏う美女は中部・東海地方を監視・守護する四葉(よつば)家当主・四葉(よつば)真夜(まや)。どうみても30歳過ぎにしか見えないが、実年齢は現在47歳。十師族の中では唯一表立った職業を有しておらず、現住所も公表していない。

 

 整ってはいるが、参加者の中では“地味”とも言える風貌―――まるで垢抜けないビジネスマンのような男性は五輪(いつわ)家当主・五輪(いつわ)勇海(いさみ)。宇和島(旧愛媛県)在住の49歳で、表の職業は海運会社の重役だが実質オーナー。

 

 栗色のストレートヘア、パンツスーツ姿のグラマーな女性は東北地方を監視・守護する六塚(むつづか)家当主・六塚(むつづか)温子(あつこ)。仙台(旧宮城県)在住の現状の十師族では最年少となる29歳で、表の職業は地熱発電所掘削会社の実質オーナー。

 

 20世紀後半(1980~90年代)のエリートビジネスマンを思い起こさせるかのようなやや古風な人物は関東地方を監視・守護する七草(さえぐさ)家当主・七草(さえぐさ)弘一(こういち)。東京在住の48歳で、室内であっても外さない薄い色の付いた眼鏡が彼の特徴となっている。表の職業はベンチャーキャピタル経営。

 

 ノーネクタイのスーツ姿で髪を立て気味の七三分けにした男性は対馬・沖縄を除く九州地方を監視・守護する八代(やつしろ)家当主・八代(やつしろ)雷蔵(らいぞう)。31歳で福岡(旧福岡県)在住。表向きは大学の講師と複数の通信会社の大株主。

 

 海外ブランドのスリーピースを着こなした白髪の紳士は京都・奈良・滋賀・紀伊(和歌山)方面を監視・守護する九島(くどう)家当主・九島(くどう)真言(まこと)。生駒(旧奈良県)在住の64歳で、表の職業は様々な軍需産業会社の株主に加え、出資者と債権者も担っている。

 

 羽織袴姿の剃髪した男性は七草家と共に伊豆半島を含めた関東地方を監視・守護する十文字(じゅうもんじ)家当主・十文字(じゅうもんじ)和樹(かずき)。東京在住の44歳で、表の職業は国防軍を得意先とする土木建設会社のオーナー。

 

 これが現十師族の各家当主だ。なお、ここにいる参加者の中で十文字家だけが、和樹の長男で一時期当主代行を担っていた克人を伴っている。

 当主全員が席に着き、ドアが閉まる。その際の役目は最年少である克人が担う形となった。

 

「十文字殿、昨年の師族会議から復帰なされたとはいえ、今日は克人殿を伴われて如何なさったのですか?」

 

 まず口を開いたのは、ここにいる参加者の中で最年長となる真言であった。

 十師族は基本的に各家平等であるが、進行役がいなければ会議は進まない。そのため、年長者が音頭を取るという不文律が出来ていた(2089年以前の師族会議では九島烈が議長役を担っていたため、この不文律が定着していた)。

 昨春の師族会議(南盾島の調整体魔法師に関わること)では、真言を含めて十師族の当主が2年ぶりとなる和樹の復帰に喜んだわけだが、その和樹が克人を伴っているのは「健康上の理由があるのか」と訝しんでのことだった。

 

「それについて、皆様にご報告したいことがございます」

 

 真言の言葉を受けて、和樹が立ち上がった。本来ならば座ったままの発言がスタンダードとされている師族会議において、彼のその振る舞いだけで重大なことを告げるのだと他の参加者は察しつつ和樹の言葉を待つように見つめた。

 

「突然な事ではございますが、私、十文字和樹は十文字家当主の座を隣にいる息子の克人に譲ります。つきましては、ここにいる皆様方に家督継承の立会人となって頂きたいのです」

「それはまた……急な事ですな」

 

 参加者の誰しもが勝手なお喋りをしない中、代表するような形で真言が正直な心境を吐露した。そう言われるのも「無理もありません」と言いたげな表情をしつつ和樹は続けた。

 

「以前、私は魔法力低下の病に罹っておりました。その為に一時期は克人に当主代理としてこの場を任せておりましたが、その病も無事に完治いたしました。皆様の不安を払拭するために説明しておきますが、これは十文字家特有のものの為、皆様を含めた普通の魔法師が罹るものではない、と断言いたします」

 

 和樹が説明したことに対する問いかけに先んじる形で補足説明を入れたため、これには何か聞きたそうにしていた弘一も納得したような様子を見せた。その一方で、剛毅が一番の疑問を和樹に対して尋ねた。

 

「十文字殿がそう仰るのならば、その言葉を信じますが……では、魔法師としての力を取り戻された十文字殿が、何故当主の座を克人殿に譲ると仰られた理由をお聞きしたい」

「これは以前より考えていた事なのですが……理由を簡潔に述べるとするならば、私は“彼”に対する償いをするという意味で当主の座を降りる時が来た、と判断した次第です」

 

 和樹が述べた“彼”という存在に首を傾げる者や考え込む仕草を見せる者がいたが、ここで和樹の視線が元に対して向けられていることに他の参加者も気付いた。その一連の流れだけで“彼”が誰を指しているかなど一目瞭然であった。

 

「三矢殿。既に三矢の籍を離れたとはいえ、三矢殿の息子―――神楽坂殿も含め、三矢家に対して数々の非礼を働いたことは事実です。本来ならば当人の前で謝罪すべきことであり、上泉殿から勘気を被っても致し方が無いと覚悟していました。謝罪で済む問題ではありませんが、本当に申し訳ありません」

「十文字殿……頭をお上げください。そのことに関しては既に解決した問題であると私も認識しておりますし、神楽坂殿からも『克人殿からも詫びられたことなので、気にはしていない』と言付かっています」

 

 念頭にあるのは十山家による“再教育”の件と、理璃に関する部分だと元は察しつつ、事前に悠元から預かった言葉を含めて和樹に語った。だが、それでも和樹の意思は固いと元は直ぐに悟った。

 

「三矢殿と神楽坂殿の器の広さに感謝しておりますが、謝罪の言葉だけでは口先だけに終わってしまい、十文字家の当主としての沽券に関わると痛感した次第です。なので、未だ成人してはおりませんが、克人にこの先の十文字を託したいと考えます。皆様、如何でしょうか?」

 

 悠元を含め、三矢家に対する非礼の償いを口だけのものにしたくはない。それを形として示すために和樹は十文字家当主を克人に継承したいと告げた。

 

「十文字家のことは家内でお決めになられるのが筋だと思われますが、私は構いませんわ。喜んで克人殿への継承の立会人となりましょう」

「克人殿の為人は弟を通じてよく御存知ですし、一時は当主代理として立派に務めあげておりましたので、私も異存はありません」

 

 真夜の賛同に続く形で温子が声を上げた。温子は元々真夜に憧れている節があり、加えて師族会議のみならず弟の燈也を通じて克人と面識があるため、彼の実績を踏まえつつ温子も賛同した。

 

「残念な事ではありますが、十文字殿がそう決められたのならば引き留める理由もありませんな。喜んで克人殿への十文字継承に立ち会わせていただきます」

「……私も他家の家督継承にとやかく物言いをつけるつもりはありません。私も克人殿の当主就任を歓迎いたします。和樹殿には、違った形で魔法界に貢献されることを期待いたします」

 

 先程の謝罪に関することもあって元も積極的に賛同の姿勢を示し、弘一は少し考え込んだ後に賛成の立場に回った。

 十師族の中で勢力の強い四葉・三矢・七草が支持したことに続き、他の家の当主も和樹に対して労いの言葉を掛けつつ、克人の当主就任を歓迎した。

 

「それでは克人殿。新たな十文字家当主として、その席に座られよ」

 

 真言の言葉を受けて、克人の十文字継承は他の十師族に認知される形となった。

 

 和樹は口にすらしなかったが、この継承の背景には悠元の神楽坂家当主襲名が大きく影響している。まだ16歳、今年の2月に17歳になる人間が古式魔法の大家の当主となる意味―――それは十文字家当主である和樹でも無視できないものとなった。

 今まで上泉剛三の親族、十師族・三矢家の直系という立場で許されていた事も、彼が神楽坂家次期当主となったことで一変して許されなくなり、当主を襲名したことでそれが確定した。

 仮に悠元自身が許していても、そのことが明るみになれば十師族の一角としての沽券に関わる。和樹は今までの非礼を自身の責任として取る形で十文字家当主の座を降り、克人に家督を継承したという次第だ。

 

 それを後で聞いた悠元は「そこまでの覚悟が持てるのなら、自身の女性問題ぐらい向き合えただろうに」とやや呆れ気味に呟いたのは言うまでもない。

 




 烈絡みはオリジナル設定ですが、こんな感情を持っていてもおかしくは無いと思いつつ書きました。

 ようやく師族会議に入りましたが、十文字継承は原作だと「和樹の魔法技能の喪失」だったものが、和樹が三矢家・神楽坂家・上泉家への非礼を詫びる意味で当主を引退し、克人に継承すると宣言した形になりました。
 ある意味七草家や九島家へのプレッシャー案件でもあったりします。
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