魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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逃げることも時には大事

 話が天神魔法関連に逸れてしまったので、本来の目的である九条家の話に戻す。

 現在の師族会議を構成する師族二十八家。その母体となったのは各々の素体世代とされる古式魔法師の存在があった。だが、呪殺などを恐れる政府の高官クラスが古式の術者をそう簡単に説得できる筈がない。困っていた政府に手を差し伸べたのは『元老院』の存在だった。彼らは全国に点在する魔法技能師開発研究所のオーナーとなることで、その影響力を強めると共に実行力の伴う力を求めた。

 

 正直、この『元老院』の役目が最初見た時は疑問に感じた部分があった。それは、メンバー自体に人数のばらつきはあれど、四大老になれる家が固定されていることだ。「裏」の秩序を守るとはいえ、いくら複数人による合議統治だとしても腐敗するリスクがないとは言えない。それこそ四家全てが腐敗する可能性だって無きにしも在らずなのだ。

 

 この世界の四大老は神楽坂(かぐらざか)上泉(かみいずみ)東道(とうどう)、そして樫和(かしわ)の四家で構成されている。

 正直これだけで何を意味しているかなんて分からないに等しい。だが、特定の家のみが特定の官職に就けるという現代日本における法の常識から逸脱した行為には前例が存在する。それは中世の日本における摂関家の三公(律令制における太政大臣・左大臣・右大臣。のちに、左大臣・右大臣・内大臣の三職)、そして藤氏長者(とうしのちょうじゃ)(藤原氏一族全体の氏長者)に関する決め事に近い。

 その仕組みと当時の公家と武家の関係性を照らし合わせれば、師族二十八家―――師族会議はいわば武家のような存在に成り得るわけだ。この場合、『元老院』は天皇を飾りとして政に関与させない朝廷のような立場になる。

 

「向こうは元老院の構成メンバーの一角で、こっちは四大老の一角。正直無視しても良かったのだけれど、樫和のアホンダラまで諫めに来てね。その面を凹ましてやろうかと思ったほどよ」

 

 神楽坂家を定義する場合、血族としての家柄で言えば皇族かつ陰陽道の賀茂氏・安倍氏に連なる家と見做されている。だが、土御門家と袂を分かった際に衰退の兆しがあった勘解由小路(かでのこうじ)の家号を受けるだけでなく、明治以降の即位式において新天皇に灌頂(かんじょう)(種々の戒律や資格を授けて正統な継承者とするための儀式)を授ける即位灌頂の儀を掌る役目を二条家より引き継いでいる。その際、仏教的要素を排除して神道的要素を取り入れた結果、名称も皇範伝授(こうはんでんじゅ)と名を変え、第二次大戦後の憲法による文言で象徴化した今でも神楽坂家の専任事項となっている。ビジネスネームとして用いられている神坂(かみさか)の家号はその際に下賜されたものらしい。

 その際に二条家の娘を娶っていたため、広い目線で見れば藤原氏九条流の流れを汲む一派と見做すこともできるが、流石にそれは道理が通らないと感じた。それを諫める形で首を突っ込んできたのは、樫和氏だった。

 

「周公瑾に関する報告を全部流したら押し黙って帰ったけどね。ザマアミロって思ったわ」

「九条家はかつての栄光―――五摂家のようになりたいのですか?」

「まあ、樫和を排除したら考えなくもないけど、それをやるメリットもないのよ」

 

 かつての朝廷と武家の関係と異なる点があるとすれば、それは『元老院』自体が権威だけでなく権力まで有していることに他ならない。

 中世の公家は元々荘園などを所有していて、それなりに力があったところを武家による戦乱が彼らを困窮させた。土地本位から金本位となった現代において、魔法の力を保持するということがどういう意味を齎すのかも『元老院』は分かっていながら、現代魔法師を囲んで彼らに役目を押し付けた。やっていることはさながら公家による武家への復讐のようなものだ。

 魔法師の基本的人権の保障を基本理念とする師族会議において、その動きに真っ向から対立しているのは『元老院』ではないか、と思ってしまうほどに。

 

「悠君はどう思ってるの?」

「一定の強固な統治システムは確かに必要ですが、上が腐り続けないという保証なんて誰にも出来ません。人という存在が介在している以上、絶対という道理が通じるものなんてありませんから」

 

 国防の為に抑止力が必要なのも理解はするし、その為の力が求められるのも理解はする。前世で原子力という力を封じたせいでどういった現象が起きたのかを知っているからこそ、国家経済を構成する力に強さが求められるのは仕方がない事だ。

 だが、だからといって頭ごなしに自らは動かず、ただ命令するだけの存在に成り下がるのは真っ平御免である。

 

「古式魔法の勢力バランスを考えて選出された四大老の一角が舐め切ったことを述べている以上、彼に遠慮する理由も無くなりました。東道殿にもそのことは伝えています」

「……まあ、悠君は間接的だけど狙われた側だものね。で、いつ実行するの?」

「それなんですが、『星見』からの報告でUSNAにきな臭い動きがあると。それを待ってからになりますね」

 

 その報告というのは顧傑(ジード・ヘイグ)絡みではなく、その後のイギリスも含めた諸外国の動きになる。

 ただでさえ表向き5つの戦略級魔法を有している日本に対し、それを排除しようと目論む輩の存在。その上で動いて来るのは『十三使徒』―――世界の秩序を謳っておきながら、新たな戦略級魔法の存在を認めない一種の老害のような存在。

 

 大体、国家公認だからといって相手の国へ戦略級魔法を使う時点で“宣戦布告”に等しい行為だ。自分のことを言うようで正直嫌な感じだが、戦略級魔法師は国際的な慣習や常識が欠如しているのだろうか、と疑いたくなる。

 どこかの戦略級魔法師は相手の魔法師を街中で平然と殺そうとしたり、別の魔法師は連邦構成国の兵士を唆して破壊工作を仕掛けさせたり、また別の戦略級魔法師は宣戦布告もなしに民間の別荘地や政府機関を攻撃しようとした。この事実だけ見れば、十分国際問題案件に成り得ると政府関係者なら盛大に頭を抱えてしまう事案だ。

 それを言ったら自分自身にも当て嵌まるわけだが、こっちの場合は相手から仕掛けられた喧嘩を買った形になる。自分だって魔法を使う相手ぐらいは選んでいるつもりだ。

 

 ただしテロリスト、テメーは見敵必殺(ダメ)だ。

 

「それと、イギリスも動いている節があるようで、香港経由で大亜連合にコンタクトを取っているようです」

「……講和反対派の軍人ね。ま、色々過去の影響が残っている国だから、小国であるこの国に頭を下げられないのでしょうけど」

「国の大きさに拘っている時点で器が小さいと思いますけどね。一部の連中は国防軍を“日帝軍”なんて呼んでるみたいですし」

 

 その根底に存在するのは間違いなく先進国に対する“劣等感”なのだろう。だからと言って攻め込んで奪おうとする時点で民度が窺い知れてしまうし、分裂と統一を散々繰り返してきた大陸の国家に詰られる謂れはない。

 

「……母上。先の話になりますが、もしオーストラリアが関与して来たらこちらで対処しても宜しいですか?」

「ふふ、当主は悠君なのだから、別に許可は要りませんよ。もしかして、例の技術を合法的に獲得するためかしら?」

「そんなところです」

 

 どうせイギリスが表立って関与してくるなんざ思っちゃいない。あの国はうまく立ち回って最終的に敵を盾にして逃げる事なんてお家芸のようなものだ。

 オーストラリアには正規の手続きで入ったことはあるが、本当に何もしていないのにオーストラリア軍の連中が自分と剛三を執拗に見張っていた。時には事故を装って襲撃してきたこともあった。なので、こればかりは剛三と意見が一致してオーストラリア軍を相手に戦略級魔法『オゾンサークル』で壊滅させた。

 即日オーストラリアを脱出し、東南アジア同盟(インドネシア)を経由してインド・ペルシア連邦に入国した。あの時は海を渡る試験を受けた経験が生きた形となった……その際、剛三が腹いせ代わりにオーストラリア海軍の軍艦を蹴り飛ばしたが、見なかったことにした(後日、ニュースでエアーズロックに軍艦が突き刺さったニュースを見て思わず冷や汗が出た)。

 

 原作で『十三使徒』のウィリアム・マクロードがエドワード・クラークやイーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフと手を組んだのだって、最終的には「二人を止めようと努力したが、それも叶わなかった」と言い逃れするための材料としての価値も含んでいたのだろう。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 2097年2月5日。師族会議は2日目を迎え、今後4年間の十師族を決める十師族選定会議が同じ会場で行われる。その様子を『神将会』の戦闘服に身を包んだ悠元がホテルの屋上から『天神の眼(オシリス・サイト)』で見つめていた。

 

(―――人形が動き出した。市街地に向かうことなく全てホテル内に潜り込ませるつもりか)

 

 既にホテル内は『幻影夜行(ナイトメア・ファントム)』による宿泊客に扮した幻影を置いており、天仙結界『金剛陣』の展開準備も完了している。相手を騙す魔法の精度は世界を渡り歩いた際に研鑽しており、古の魔法使いですら騙し切れる自信はある。

 会議室内では十師族選定会議が予定通り開かれ、補充メンバーとして入った七宝家がそのまま十師族の座に就き、一条、二木、三矢、四葉、五輪、六塚、七草、七宝、八代、十文字が今後4年間の十師族を担うこととなった。

 

『悠元、こちらは配置についた』

「了解。爆弾を付けた死体は全てホテルの中に入ったとはいえ、油断はできない。元継兄さんと修司、由夢は予定通り十師族の方々の保護を。可能であれば、爆弾の回収を頼む」

『オッケー。さて、ボコボコにしてやるわ』

『悠元の結界術があるとはいえ、程々にしろよ?』

 

 箱根の市街地がパニックに陥らないよう、事前にエリアメールを利用して『感染症対策に伴う不要不急の外出自粛』を呼び掛けており、外に出ている市民もかなり疎らである。今回は対策の一環で沖縄から知り合いの軍人魔法師に出動要請を掛けていて(統合軍令部の許可は得ている)、万が一の時は沖縄防衛戦の経験が生きることになる。

 

「雫と姫梨は下部のフロアにいる死体の殲滅を。リーナはそのフォロー役に置く」

『分かった』

『お任せください』

『……不満はないけど、ワタシがフォローってどういうことよ?』

「適切な人選の結果だ。『ブリオネイク』なら薙ぎ払いで殲滅できるからな」

 

 雫と姫梨、リーナに加えてセリアがリーナの魔法を制御することで爆弾を爆発させることなく死体を“殺せる”と踏んだ。古式魔法対策に関してはこの一件が片付いた後で対処することとする。

 

「達也は万が一市街地に死体が出た際の対処を。『雲散霧消(ミスト・ディスパージョン)』は俺の権限で使用を許可する」

『分かった』

「水波は達也のフォローを頼む」

『お任せください』

 

 そして、実戦力のある達也と水波を市街地の監視役に置き、どうせ黙っていることなんて出来ないであろうレオとエリカ、燈也と佐那は幹比古を主軸としたメンバーで固めて達也の補佐に回した。ほのかと美月は神楽坂本邸で留守番させている。

 なお、『神将会』の戦闘服に身を包んでいる深雪は自分の隣で静かに見守っていた。

 

「……ふう。これで一先ずは指示を終えた形になるな」

「お疲れ様です。それにしても、何故首謀者をこの場で捕らえる方向にしなかったのですか?」

「ああ、それね。ジード・ヘイグにはこの国が真に独立するための“踏み台”になってもらうためだ」

 

 テロリストを踏み台に使うという発想は本来有り得ないものだろう。だが、過去の歴史ではテロリストや大規模テロに直結するような大量破壊兵器の保持を疑惑として国際会議の場で持ち出し、合理的に戦争を起こした事例が存在する。まあ、USNAの前身であるUSAが起こした事なのだが。

 今回、ジード・ヘイグの所持している爆弾の大本となったミサイルの弾頭本体とランチャーはどうせUSNA国内で破棄されているだろうが、爆弾さえ回収できれば爆薬を起点として『天陽照覧』を使用するだけで大本の兵器が判明する。それを三矢家に調べさせて、USNAの責任の所在を明らかにする。

 

 間違いなくホワイトハウスとペンタゴンは大慌てになるだろうが、USNA国内で活動している人間主義者らが入国している情報も掴んでおり、それらも含めて明日施行される「テロ対策特別措置法」の記念すべき第一号となってもらう。前世のものとは異なってより実効性のある施策として成立することになり、これをより実効性のあるものとするために師族会議と国防軍の“分業”が必須となる。

 USNAが敵対するリスクはあるだろうが、こちらには多方向から攻めれるだけのカードを保持している。個人で保有している国債の売却を視野に入れると宣言した日には、向こうの金融長官がペンタゴンに殴りこむかもしれない。

 

「……始まるか。さて、こちらも始めよう」

「はい」

 

 お互いに『仮装行列(パレード)』の刻印術式が刻まれた仮面を身に付け、悠元の髪の色が銀色となり、深雪の髪の色は漆黒からプラチナブロンドへと変化する。そして、悠元は床に手を付いてプシオンを込める。

 

「天仙結界―――『金剛陣』、発動」

 

 悠元がホテルの構造物全体に対する状態固定の魔法『金剛陣』が敷かれた瞬間、ホテルの一角で爆発が発生した。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 十師族選定会議の後に開かれた師族会議の最中だった面々は、扉の外から感じた振動に警戒した。だが、ビクともしていない扉に克人がゆっくりと近付き、扉を開けると忽ち爆薬の焼けた匂いと死体の悪臭が会議場に流れ込んできた。

 

「これは……死体の臭いですか?」

「そうでしょうな。ですが、考えられる爆発の規模からすると、誰かが建物に魔法を掛けているかもしれません」

 

 立ち込める臭いに顔を顰める七宝(しっぽう)拓巳(たくみ)に、防御魔法に関して得手のある十文字(じゅうもんじ)克人(かつと)が答えた。このホテル全体となればいくら十師族の当主でも長時間耐えうるだけのものではない、と判断して元は『スピードローダー』を改良した『ラウンドオーダー』を展開する。

 

「そうなると、早めに脱出すべきでしょう。いつまで無事でいられるか分からないでしょうからな」

「……っ、三矢殿の意見には賛成だ。どうやらパペット・テロのようだ」

 

 この中で有機物干渉系に長けている剛毅が魔法で操られている人形の存在を感知した。下の階に行けば行くほど人数が多いため、この場合は上の階に行くのが最良であると感じた。

 すると、扉の方から漆黒の仮面を身に付けた戦闘服姿の男性が姿を見せた。

 

「生きているな、十師族の方々」

「何者だ! 貴様がテロの首謀者か!」

「死体を操る禁術を使う下衆な輩と一緒にしないで頂きたい。総長の命により、貴殿らを守りに来ただけだ……信用するかどうかはともかく、死にたくなければ付いてこい」

 

 剛毅の物言いを涼しく受け流しつつ、そういって去っていく男性に一同はあっけにとられるが、下の階の方から響いてくる振動で意識を取り戻す様に克人が声を発した。

 

「今は避難することが先決でしょう。彼の正体如何を問うのはそれからでも遅くありません」

「……そうですね。急ぎましょう」

 

 これには弘一も納得した上で男性の後を追っていく。扉を出たところで爆弾を括りつけられた複数人の人間が襲い掛かるが、十師族当主の隙間を縫うように放たれる雷の斬撃が死体を吹き飛ばす。すると、そこにいたのは格好こそ似ているが、両刃剣を携えた黄金色の髪を持つ女性の姿だった。

 

「行きなさい。“副長”は上に向かったわ」

「君は……」

「喋る口があるのなら動きなさい。さもないと、是非を言わさず“斬る”わよ?」

 

 その少女が放った尋常ならざる殺気に、いくら十師族の当主と言えども恐れを感じるほどであり、今はただ少女の言うことに従って彼の後を追うように面々が駆けていった。その姿を横目で見送りつつ、少女は両刃剣を振りかざして別の階段に向かって雷撃を飛ばした上で耳に付けた通信機のスイッチを入れる。

 

「……こちら由夢。十師族の方々はそちらに向かったわ」

『了解した。上の階は片が付いたから、爆弾を回収してくれ』

「ほいほい、了解したよ、“総長”」

 

 先程の殺気を垣間見せた姿とは打って変わり、のんびりとした口調で話した少女もとい由夢は、通信機の向こうから聞こえてくる“総長”の指示で爆弾を回収するために動き出した。

 

 上の階へ向かって行く十師族の面々だが、その途中には爆弾を抱えた死体が四肢を斬られている惨状が所々に見られた。これには克人が問いかけた。

 

「今のところ死者や怪我人は見られませんね。逃げ遅れた人はどのくらいいるのでしょうか」

「分からないが、このホテルは神坂グループ―――神楽坂家の管轄だ。もしかすると、先導している彼や扉の前で会った彼女もその関係者なのかもしれないな」

 

 十師族の当主の中で『神将会』のことを知っているのは、実際に姿を見たことのある克人だけであり、真夜も存在自体や深雪が所属していることは聞いているが、その活躍自体を見たわけではない。

 難なくホテルの屋上へ到達すると、先程出会った“副長”と思しき男性に加えて一組の男女の姿があった。仮面で顔を隠して髪の色も変わっているが、真夜は少女が自分の身内であるとすぐに気付き、その傍らにいる少年が誰なのかも想像が付いた。

 

「総長、無事にお連れしました」

「ご苦労様です、副長殿。さて、仕上げと行きましょう。お願いできるかな?」

「畏まりました、総長殿」

 

 仮面を付けた少女が恭しく頭を下げると、一切サイオンが漏れることなく魔法が発動してホテル内部にいる死体に掛けられた魔法の刻印を“凍結粉砕”させる。ホテルにいた死体全ての僵尸術は確認できないが、顧傑が射程範囲である10キロメートルの範囲から出て行かない以上は魔法の再発動もありうるため、“総長”と呼ばれた少年は『白牢陣』を敷いて僵尸術の発動を封じる。

 それを敷き終えた上で十師族の当主らに向き直った。

 

「さて、我々の役目は終わりました。とはいえ、ここもまだ危険ですので、早めに避難されると宜しいでしょう」

「待て。お前たちは何故我々を助けた? それだけの力を持っているのであれば、我々が知らない筈など無い。お前たちがテロを起こした首謀者という嫌疑もある」

「……」

 

 確かに剛毅の言い分も道理ではあるだろう。心配そうに見つめる少女の頭に手を置いて安心させるように宥めた上で少年は口を開いた。

 

「助けて貰っておいて随分と上からの目線で語るんだな、一条家当主・一条剛毅。生憎こちらにはアンタらの嫌疑に答える義務なんてものはない」

「なっ、何だと!?」

「何が最強だ。強すぎれば杭を打ち込むが如く干渉を平気でするような組織に従う義理はない……帰るぞ」

「ああ」

「はい」

 

 少年―――悠元は剛毅らの問いかけを斬り捨てるように厳しく言い放った上で飛行魔法で空高く飛び上がり、“副長”もとい元継と、少女こと深雪も短く答えた上で空高く飛び上がっていった。これには剛毅が『爆裂』で撃ち落とそうとしたところに克人が止めに入った。

 

「十文字殿、何を」

「……彼らは横浜の時に見たことがあります。その際、皇宮警察本部特務隊『神将会』と名乗っていました。誰の命令かは分かりませんが、我々を助けるためだったことは事実かと思います」

「……あれが、『神将会』」

 

 克人はその構成メンバーに悠元と深雪、そして雫がいたのは確認していたが、今回は悠元と深雪と思しき人物以外に別の二人が確認できた。

 十師族の当主となった克人とてその素性を明かすことは禁じられているため、彼らが『神将会』なる存在であるとだけ答えると、勇海が驚くような素振りを見せつつ呟いた。そして、その後方では真夜が口元に笑みを浮かべていた。これには雷蔵が気付いて声を掛けた。

 

「四葉殿、如何なされましたか?」

「いえ、八代殿。我々以外にも心強い方がいると思うと、思わず笑みが出てしまいまして」

「……そうですな」

 

 正直なところ、真夜のように言えたらどれほど気楽な事か……と、雷蔵は内心で自身の無力さを感じずにはいられず、苦笑にも似た乾いた笑みを見せていた。

 




 世代ごとに代わるわけではなく、元老院の四大老の家自体が固定化されているとなれば、考えられるとしたら財閥的な考えよりも朝廷のような考え方に近いと思った次第です。
 自分が考えている本作の四大老の家系のルーツは以下の通りです。

神楽坂家→賀茂氏・安倍氏嫡流、皇族分家(神楽坂宮)
上泉家 →上泉氏本流、箕輪長野氏家号継承、神楽坂分家
東道家 →東叡山寛永寺円頓院宗家(八雲と顔見知りであることと、当人が出家していることから天台宗同門のほうが一番しっくりくる、と考えたから)
樫和家 →百家の十六夜家を部下に加えていることから、密教系もしくは陰陽道系(呪詛返しの類がその系統になる)の趣がある可能性あり(敵対行動を起こしているため、四葉と東道青波を快く思っていない可能性大)

樫和家の考察が雑だと思われるかもしれませんが、続編小説2巻で初登場の名前の家なんて考察が難しすぎるんですよ。犯罪者を匿う時点でロクじゃないということぐらいしか分かりませんので。
割と雑になってるのは認めます(ぇ

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