魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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親切と甘やかすことは違う

「これについては、九島家先代当主・九島烈からどうにか出来ないかと相談を受けた。だが、お咎めなしではこちらの沽券にもかかわることになる。そのペナルティとして、今回の任に関して七草家に与える役割は“ない”。これは今代のみならず二家の先代当主も決めたことだ。反論は許さない」

 

 そもそも、テロリスト追跡という手前において体制を一本化しないといけないのに頭を増やして解決する問題ではない。原作だと克人が名目上の責任者として、弘一の長男である智一が実質的な責任者となっていた。

 七草家と十文字家の役割分担による弊害が露呈した形だが、それだったら少数精鋭でいい。調査に宛てる人員は七草家以外から引っ張ってこれば問題はない。その為に政府と国防軍から師族会議に関する権限を全て引き継いだのだから。

 人員を確保できる見込みが立ったため、七草家抜きでも顧傑を拘束できると踏んだ。そもそも、剛三からしたら周りでうろつかれる方が迷惑極まりないし、二次被害の犠牲になると見込んで七草家を参加させないことで合意した。

 

 顧傑を捕らえるのは、十師族としてではなくこの国の沽券にも直結し得る問題。USNAが動いていることなどとうに知っているし、仮に七草家が手を組むようなことがあるとすれば、今度こそ取り潰しは免れない。何も余計なことをさせなければ、そこら辺の動きも読めると踏んでのものだ。

 なお、悠元が口を開かないのは、下手すると弘一に対して今までの分の恨み言をぶつけてしまうと考えたからだ。

 

「異議や異論があるのならば俺が聞こう。如何か、七草殿?」

「……せめて、十文字殿の補佐として智一だけでも付けることは出来ませんか?」

「必要ない。余計なことをされる方が迷惑だ。どうしてもというのであれば、人間主義者の動きに目を光らせてもらった方がありがたい」

 

 弘一の提案に対し、元継は不必要であると断じた。周公瑾の一件が大きく尾を引いているためか、他の十師族の当主も積極的に弘一を庇おうとする様子は見られなかった。すると、ここで声を上げたのは真夜と克人であった。

 

「上泉殿。現状の体制では調査をするにも七草家抜きでは些か厳しいかと存じます。上泉家や神楽坂家からも人手を出していただけるのでしょうが、せめて都心部の調査を土地勘のある七草家に頼めませんか?」

「申し訳ない話ではありますが、自分からもお願いいたします。当主である前に大学生の身分である以上、動ける時間に制約がありますので」

「……神楽坂殿」

 

 真夜と克人の要望に対し、元継は悠元を見やった。悠元としてはこの要請を突っぱねることもできるが、特に四葉家は婚約者である深雪のこともある。緩和させるにしても相応の対価を求める必要があるわけだが、正直なところ、七草家が抱えているコネとかを貰っても場合によっては足枷になりかねない。

 弘一に対して一発殴る手段が一番手っ取り早い訳だが、今後弘一がまた四葉降ろしを繰り返さないとも限らない。

 

「十文字殿も学業がある以上、別途調査部隊が必要なのは確か。確かに道理ではある……では、七草家の担当は東京・千葉方面の調査に限定すること。そしてその方面の調査は七草殿のご長男が指揮を執り、立ち位置はあくまでも“有志による協力”とすること。ここまでが譲歩のラインだ」

 

 北関東(群馬・栃木・茨城)は上泉家でフォロー可能であり、都心を含めた東京・千葉を七草家で担ってもらえれば、伊豆半島を含めた神奈川にマンパワーを注ぎこめる。三矢・神楽坂に加えて四葉の三家による調査体制、そして周公瑾の知識を出す意味において余計な人間など入れたくないのが本音だ。

 それに、地域を限定するのは全く役に立たないという訳でもない。顧傑の動きに便乗して動くであろう人間主義者の動きを把握するという大任を任せるのだから、テロリストに扇動されて周囲への被害が起きる前に止められる可能性が増すことにもなる。

 尤も、気付いたところで止められるかと言われれば微妙なところだが。

 

「七草家に対するペナルティはこの件が済み次第公表することになるが、先んじて一つだけ言っておく。七草家には護人の二家に対する謀反に等しき嫌疑を払拭する機会として、奄美・沖縄方面の監視・守護に鞍替えしてもらうことになる」

「神楽坂殿。その方面は国防軍の縄張りでは?」

「そのことだが、国防軍には本来あるべき文民統制(シビリアンコントロール)の統治下におくべく、組織そのものを刷新する。これに伴う空白地域を埋める役割を担ってもらうだけだ」

 

 元々関東方面に残す気でいたが、七草家に対するペナルティの一環で弘一には3年以内に当主を引退してもらい、七草家の家業であるベンチャーキャピタル経営に専念させる。そして、前妻の子(長男か次男)に七草家の家督を継がせて奄美・沖縄方面に鞍替えする。監視・守護地域が隣接していることで四葉家のことを意識するというのならば、十師族当主としての仕事から切り離した挙句、その対象地域を遠くに飛ばす。

 

 表と裏をうろつかれるぐらいならば、完全に表側の人間として確立させてしまえばいい。それに、七草家の家業がある関東圏ならば目の届く範囲に居ることになるので、万が一何かを企んでも対処しやすくなるメリットはある。政治家や国防軍とのコネクションを利用するデメリットは存在するが、遠くに引き離してごねるよりはマシだと思った次第だ。

 正直、何でまだ16歳の人間がいい大人である七草家当主の処遇を決めねばならんのだ、と思わなくもない訳だが。ちなみに、九島家との猶予の差は、現当主が抱えている仕事量の差による引継ぎに要する時間を勘案した結果である(九島家の場合、当主の仕事を烈が殆ど引き受けていて、真言は家業の仕事に専念するという分業制となっていた)。

 

「本来ならば、先代当主が揃って不満を漏らしていたことから取り潰しも検討されていた。その上でここまでの温情ある処分になった……これでもまだ不服があるか、七草殿?」

「……いえ、ありません」

 

 悠元の殺気が込められているような視線に対し、弘一は座ったまま深く頭を下げることしかできなかった。それは、円卓に座る人間が神楽坂悠元という存在を改めて心に刻んだことを意味していたのだった。

 

 そして、今回の事態に関するテロリストへの非難声明は十師族と日本魔法協会に神坂グループ、そして日本政府の四者合同によるものとなり、翌朝に正式の声明を発表する。

 さらに、先日施行されたテロ対策特別措置法(正式名称は『国家の存亡に多大な影響を及ぼす危険犯罪に対する特別治安維持対策法』)に基づき、テロの首謀者こと顧傑(ジード・ヘイグ)を“極めて悪質な無差別攻撃を行う犯罪者”―――国内指名手配犯として認定し、厳戒態勢が敷かれることになる。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 会議が終わって十師族の当主達が出て行った会議室には、悠元と元継が残っていた。既に会議が終わっているため、お互いに当主としてではなく兄弟としての接し方で元継が話しかけた。

 

「……悠元は、あれでよかったのか?」

「結局どこに置こうが、家督がある以上は企み事を捨てきれんだろうからな。ただ、直前に九島烈と話し合ったからか、何かと向き合おうとする姿勢は見られた……既に遅いことだが」

 

 既にペナルティの骨子が決まった以上、恭順の姿勢が見られたとしても今更それを軽減させるつもりなどない。謝って全てが解決するのならば警察など必要ないのだから。それに、この件が片付き次第、師族会議体制の刷新に取り掛からなければならない。

 四葉家と十文字家の申し出は予想の範疇であったし、何もさせないでいたらまた出し抜くような動きを見せるかもしれない。それだったら、本筋には関わらせないが人間主義の動向を監視してもらうだけでも十分役割を果たしていると言えるだろう。

 

「爺さんや母上が三枝家を“大幅に削った”以上、その系譜に繋がる七草家に何のお咎めもなしとは言えない。九島烈に関しても大事な仕事をいくつかしてもらうつもりだからな。日本魔法界の長老として後の世代に後腐れなく全てを継承させなければならないのに、その教え子に甘い裁定なんて下せない」

 

 第三研の素体世代の系譜である三枝家に対しては、四葉の復讐劇が進行する過程でかなりの勢力を千姫が削り取り、一族全体の7割が息絶えた形となった。

 東道氏や樫和氏の後押しがあったとはいえ、内戦を仄めかす様なやり口は看過できないということで容赦なく殺したそうだ。神楽坂家に敬意を払う密教・修験道系古式魔法師が中心となって三枝家を抹殺し、当時は少年だった八雲もそれに参加していたらしい(見た目で忘れがちだが、彼の現在の実年齢は50歳代)。仏の心を説く人間が人殺しという禁忌を犯すのはどうかと思うが、この国は過去に前例があるために“今更”なのかもしれない。

 

 三枝家は穏健・非戦派だけが残る形となり、内戦を唆した罪を償うという体で奄美方面に居を移した。代替わりした当時の三枝家当主が「近くにいたままでは神楽坂を意識して復讐を謳う輩が出ないとも限らないため、離島に身を置いて罪を償いたい」という願いを叶えた結果、山梨方面も神楽坂家の管轄下となり、霊山である富士山を完全な支配領域に置いている。

 

 九島烈に関しては、正直色々功罪が積み重なり過ぎているため、まずは師補十八家に落ちた九島家だけでなく九鬼家・九頭見家への関与を今後禁止し、魔法協会に対しての口利きも禁じた。

 ただ、国防軍の魔法顧問の職は“命を賭して”完遂してもらう意味で継続させる。この辺は国防軍が再統制するとはいえ、反十師族・反師族会議の姿勢が強まらないとも限らないための対策だ。どこかの将校は嫌な顔をするかもしれないが、「十師族に頼らないこと」と「十師族を嫌う」というのはまた別の話であることを理解すべきだと思う。

 

 そして、彼には九島家の魔法全てを九島健の孫娘であるリーナとセリアに全て叩き込んでもらう。光宣を欠いた九島家に魔法技術の全てが余すところなく後世に継承されるか怪しいため、その保険としてのものだ。USNAへの技術漏洩の危険はあるにはあるが、セリアは言わずもがなだし、リーナも日本人に帰化する方向なので何ら問題は無いとみている。

 

「で、一条も参加させるようだが……」

「将輝絡みは面倒だが、早めに解決させないと面倒なことになる」

 

 前世でもそうだったが、恋愛事に関するトラブルは本当に面倒なのだ。前世の場合はとりわけその対象が兄(前世のセリアと従兄妹の関係であったことが判明したため、もしかすると従兄かもしれないが)だったから尚更だった。その時は自ら身を引いて未練を断ち切った。だが、今回ばかりは引くわけにいかない。

 

 というか、そんなに好きならとっとと告白すれば良かったのに、振られるのが怖くて出来ていなかった。十師族の跡取り息子である自分なら難しくないだろうと思いながら、拒否されることへの恐怖があった。

 自分の場合も自ら告白したわけだが、この時点で深雪が自分に対してどう思っているかなど散々知ってしまったから出来レースの様相になったことは否定しないし、仮に振られても覚悟はしていた。その場合、達也が深雪を宥めるという気苦労を背負う羽目になるわけで、最悪深雪に襲われていたかもしれないだろう……いや、襲われる時期が遅かれ早かれだっただけの話かもしれないが。

 

 そもそも、将輝が深雪のことをどう思おうが、深雪からすれば将輝への印象は良くない。その原因を将輝自身が気付けばいいのに、それを探る努力すらしようとしない。これでは恋が叶うはずもない。

 テロリストを捕まえられたら惚れてくれるかもしれない、ってどんだけご都合主義的な思考回路なんだ、と思いたい。せめて本気で体を張って死に物狂いで守るとかしないとダメだろうと思う……それは流石にリスクが高いのでお勧めする気にならないが。

 

 大体、こっちなんて達也に敵対しないルートを選択するべく、達也と上手に付き合いつつ深雪と友人的な意味で良い関係を構築しようと努力しただけなのに、深雪当人だけでなく母親の深夜にも惚れられ、更には彼女の叔母である真夜に婚約の公認と引き換えに男女の関係を迫られたのだ。

 それに、十師族も含めて色んな場所を訪れているわけだが、積極的に仲良くしない方針(分を弁える行動)を取ったら逆に興味を持たれたパターンもある。茜や泉美、夕歌はこの例に該当する。世の中の男子は礼儀という部分を著しく欠いているのか、と勘繰りたくなってしまう。

 こうなってしまったのは自業自得だと理解も納得もしているが、その苦労が将輝(おまえ)に分かるか? と問い質してやりたい。

 

「一高の百山校長と三高の前田校長に話は付けている。魔法大学のデータ回線を使えば、一高で授業を受けて三高の単位認定に充てれるし問題はないと判断してくれた」

 

 流石に全ての魔法科高校が同じカリキュラムで運営されていない(各校の校風が履修のカリキュラムに表れている)以上、全部をフォローしきれないが家庭学習を漠然とやらせるよりはいいと判断され、三高の校長から一条家当主に伝える形となる。

 なお、受け入れ先はリーナとセリアの留学実績から鑑みて2年A組に編入される形となるらしいが、正直嫌がらせとしか思えなかった。何せ、婚約している二人がいるクラスに捻じ込んでくるあたり、百山も分かった上でやっているようにしか見えないのだ。

 

「……美嘉姉さんの件の腹いせも兼ねてるのかね、クラス決めに関しては」

「流石にそれは大人げないにもほどがあるだろう……いや、美嘉の物言いにキレたことはあったらしいが」

 

 それは、美嘉が魔法科高校に在籍中、当時風紀委員長として禁止用語を伴う二科生いじめを制圧した結果、校長に呼び出しを食らった件のことだ。百山は美嘉を第一高校の生徒に相応しからぬ態度と見做して退学処分にしようとしたが、佳奈が剛三とも巻き込んでお咎めなしになった。

 その件以降、美嘉からすれば「何が魔法教育の権威よ。いじめや差別を助長するような学校システムを運営し続けてる人間に権威もへったくれもないでしょ」と底抜けの評価を下すほどに百山のことが嫌いとなった。

 卒業式の際、美嘉は卒業生代表として「一科生だからと甘えるな。二科生だからと卑下するな。自分の運命ぐらい自分で切り開けるように努力すれば、結果は自ずとついて来る」と答辞を全部丸投げにしてそういい放ち、壇上を降りた。これには当時生徒会長だった真由美が引き攣った笑みを浮かべていたらしい。

 

「でも、間違ったことは言ってないんだよね。問題なのは、魔法科高校の生徒に辛抱が出来ない奴が多すぎることなんだけど」

「確かに……」

 

 魔法科高校に入ったことで魔法師としての第一歩を踏み出すはずなのに、その一歩目でエリート気取りは正直頭を疑う話だ。いや、現実として体感した事なのは間違いない訳だが、本格的に魔法を学び始める段階で成績の低かった二科生を見下す魂胆がどうにもおかしい。

 学園ファンタジー系の物語ならば有り得る話だが、その場合は大抵が貴族の息子だったりする。原作やこの世界の場合だと森崎がその筆頭株となっていた。だが、その取り巻きが偉そうにできる理由なんざない。お前らは由緒ある魔法使いの家なのかと聞きたくなるし、そうでないとするなら一科生だという理由だけで見下していたことになる。

 

「魔法科高校に入れたからエリート気取りって、国家公務員のように難関を潜り抜けたわけでもないのに、何でそんなことが出来るんだかって思うよ。そんなに凄いんなら『カーディナル・ジョージ』のように世界を驚かせるような論文の一つでも書いてみせろってんだ」

「お前が言うと嫌に説得力が増すな」

 

 別に魔法に限った話ではないが、あらゆる技能を一足飛びの形で修得できるだなんてそうそう美味い話なんてものは存在しない(但し度を越えたチートは除く)。世界に名立たるアスリートやアーティストだって、自分にしかない武器を得るために時として血の滲む様な努力を重ねたりすることもある。

 

「それで思い出した。昨年の論文コンペの際、選考論文提出を廿楽先生に言われてさ。『現代魔法に関する三つの欠陥』というテーマの論文を見せたら先生が気絶した」 

「……それは確実に気絶するだろうに」

 

 悠元がその論文で触れた内容は、以下の三つ。

 

―――基本(カーディナル)コードは全16種ではなく、系統および系統外魔法も含めて全64種存在すること。

―――継続型魔法障壁の術式構成に関すること。

―――魔法力は不変のものではなく、特定の行動を起こすことで高めることが可能であること。

 

 現代魔法の権威であるUSNAにでも見せれば、確実に国内がパニックになりかねない代物。いや、USNA国内のみならず全世界すら巻き込んだ大事になる、と元継はテーマの題名を聞いただけでそう思った。

 なお、その論文は意識を取り戻した廿楽がその場でシュレッダー行きになった。曰く「自分の手には負えないが、下手に他の人にも見せられない」とのこと。

 




 七草家があんなことになったのに、四葉家と十文字家が庇うのはどうなのか、という疑問があるので補足説明。
 関東地方の調査に関して言えば七草家に一日の長があることと、後に出てくるテロリストの犯行声明対策で人間主義や模倣犯を抑える必要があります。彼らが白昼堂々爆破テロを起こす可能性もある為、警察だけでカバーリングできない部分を補助してもらう形と考えてください。
 真夜がその提案をしたのは、弘一を庇うためではなく、自分の周りをウロチョロされるぐらいなら何かしら仕事を与えて縛り付けてしまった方がいい、という遠回しのアドバイスも含んでのことです。
 意訳すると「悠君にあれだけ迷惑を掛けたんだから、せめて任されたテリトリーぐらい守り切ってほしいものよね」みたいな感じ。

 七草家に対するペナルティの一部を公開しましたが、今まで出した案を複合させる形で出しています。これで終わりという訳ではありませんが。
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