「本格的な話に入ろう。達也、お前は基本的に十文字先輩の下で動いてもらい、顧傑捕縛に動いてくれ。最悪顧傑が死んだ最終位置さえ把握できればいい」
「……まさか、顧傑を
「それは最終手段になるかな。何せ、今回は爺さんが自ら動くわけだし」
スターズの先代の“シリウス”が使っていた『分子ディバイダー』。現代魔法においては最強クラスの魔法だが、天神魔法からすれば“自殺技”と化してしまう。
何せ、天神魔法による想子掌握からすれば高密度の『分子ディバイダー』の展開領域は格好の燃料となるし、剛三の魔法体質の特性として「相手の力全てを食らう」というえげつない能力を有している。とりわけ剛三の武術面での技巧は達人級なため、相手がどこに居ようとも追いつめて殺すことが容易に出来てしまう。
イタリアマフィアの抗争に巻き込まれたとき、剛三は「儂のピザとお気に入りの店を壊した恨み」という名目でイタリアにいる五本の指に入るであろう大きな勢力のマフィアを四つほど殲滅した。そこで得たお金はお店の再建費用ということで店主に支払われた。
その店主はイタリアでも屈指の技術を持つシェフで、その息子は神楽坂家お抱えの三ツ星レストランで料理長に就いている。剛三が繋いだ絆を千姫が育むことで世界各地にシンパが多く、国外のメディア買収工作が成功したのもこのコネを利用したものだ。
「俺は当分部活連会頭として人間主義者が生徒を襲わないか目を光らせておく必要があるからな。レオやエリカ、幹比古達にはコンペの時と同じように当分一人で帰らないように言い含めておく」
今度はその対象が魔法科高校の全生徒に掛かってくるし、しかも魔法大学や防衛大学校もその対象になると睨んでいる。更に、顧傑が『ブランシュ』や『
現状の魔法科高校の生徒にこれを真正面から打ち破れる人間の数が少ない。そのため、FLT経由で特殊な防犯ブザーの開発をすることにした。使い方自体は一般的な防犯ブザーと変わりないが、魔法を使える生徒がこれに想子を流し込むと、ノイズ状態の『キャスト・ジャミング』に構造という“秩序”を与えられ、発動基点のアンティナイトを中心に約2メートルほど一種の催涙状態を引き起こすフィールドが張られる。
有機物干渉は禁忌とされているが、それだったら移動魔法で相手を吹き飛ばすのだって有機物の情報に干渉して飛翔させているということになるし、『爆裂』なんて有機物干渉の極みだ。別に相手を殺傷するわけではなく無力化するためのものだし、犯罪の凶暴化を防ぐという意味では理に適っていると考える。
既に量産にまで漕ぎ着けており、表向きは人間主義者による被害を未然に防ぐための防犯ブザーとして魔法科高校の生徒に貸与されている。
「そこが一段落次第、顧傑を拘束する。恐らく妨害にUSNA軍―――スターズも出てくるだろうが、達也は気にせず任に当たってくれ。事前に解除した『
それが先日悠元の使っていた『ドレッドノート』と同型の戦闘用二輪車だということは達也もすぐに理解して頷いていた。
明日には顧傑が犯行声明を出すのだろうが、自身を正当化したい輩は何故か神やら聖戦という言葉を持ち出すことが多い。自らに理があることを示したいがために分かり易い対象を選んでいるのだろうが、宗教的な倫理観で法治主義における犯罪行為を正当化するとなれば、これは最早“戦争”でしかない。
「今回は周公瑾の時のように人員を割くことは難しい……そういえば達也、現状『
達也は『
深雪が昔のように弱い訳でもなく、今では信頼できる親友もいる。それでも達也自身に残っている深雪への感情が全てを解除するという訳にはいかなかった。
「そうだな、増えた魔法力のお陰で1割弱程度のリソースさえあれば以前と同じようにカバーリングできるようになった。最終的には解除するつもりだが、今はその時じゃないからな。そういう悠元も深雪にリソースを割いているのだろう?」
「まあ、大体1億分の1パーセントで達也と同じぐらいの規模だよ……反論しろよ」
「無理だな」
「おい」
悠元の持つ『
そのリソースを分ける作業は神楽坂本邸にいるときにやったわけだが、その時に婚約者(当時は深雪と雫と姫梨)の裸の映像が流れ込んできた(丁度温泉に入っていた)のだ。その反省もあって、沓子以降の婚約者には事前に説明した上でリソースを振り分けている。
「お兄様の『眼』のことは聞いていましたが、悠元さんもですか……あの時、視られた感覚がしたのは気のせいじゃなかったんですね」
「悪気はなかったんだよ」
「知ってますよ。今夜は寝かせないでくださいね」
「明日も学校なんだがな……」
達也がリソースの割合を減らすのは、深雪の感情が昂ってしまう場合にも流れ込んできてしまい、深雪の性欲が達也にも影響を及ぼしているためであった。一昨年の夏以降、よもや一般的な男子の欲情を抱くようになったことに達也は動揺を覚えていた。
深雪への家族愛を除いて激しい情動こそ抱けないが、人並の欲情を抱くことは可能な達也からすれば、どんどん綺麗になっていく従妹をフォローしきれている親友に尊敬の念を抱いていた。
「……正直、顧傑がいることも問題だけど、いないことによって発生する問題の抑止力にもなってる気がするのは俺だけかな?」
「大丈夫だ、悠元。俺もそう思う」
「?」
別に顧傑に対して感謝などする気なんてないが、顧傑がいないことで起こり得る問題―――婚約者とのバランスを保つという問題を回避できているということに、何だか釈然としない気分を抱いた悠元と達也の姿に、深雪と水波は揃って首を傾げたのだった。
話し合いを終えた後、達也から相談をされた。その内容は『
「『鬼門遁甲』の本質は、漠然とした時間と方向の分岐点を術者の望む通りに操る術法で、精神干渉系魔法―――幻術の類に属する」
「幻術か。ただ、魔法力が上がっても才能自体が偏っている俺にも破れるのか?」
「ここで重要なのは、自身がその幻術に掛かっていることを自覚できるかどうか。強いて言うなら、自我を如何に『その場にいる』と自覚し続けられるかが重要になる」
確かに現代魔法の部分で偏っていても、それを補うために学んでいる武術の影響で古流の秘術に対する耐性は極めて高い。この辺は彼が上泉と神楽坂の血を引いている影響もあるのだろう。
「自覚と言っても別段難しい話じゃない。例えば、弛緩させている筋肉を一気に締め上げることで相手の組み技に対抗できる技法もあるんだが、これの要領でサイオンを放出することで疑似的な『接触型
「……『意気』は想子流だとするなら、『波』は想子波動で『流れ』は想子経路といったところか?」
「そんなところかな。知識を教えたところで、実践と行こうか」
その瞬間、達也は目の前にいる悠元が本当に目の前にいるのか掴めなかった。周公瑾を捕らえようと追跡した時、あの時は名倉三郎の血の針によって何とか追いかけることが出来た。サイオンの流れを見ても悠元が目前にいるように視えた。
その時は周公瑾へ意識を割いていたからか、魔法力を制限されていたこともあったせいかもしれないが、今は敵意を向ける相手ではないことから達也は自身の置かれている状態に集中できていた。
達也は全身を神経インパルスではなく想子によって完全に掌握した時には、目前に悠元の姿がなく、背後から声が聞こえてきた。
「程度を弱めていたとはいえ、あっさり破るか。流石達也だわ」
「……いや、悠元の知識が無ければ破るのは難しかったな。もしもの時は師匠に教えてもらうつもりだったが」
「あの先生なら、色々難癖付けそうな気がするけど」
今のは『鬼門遁甲』の初歩位のものだが、周公瑾の追跡の経験がある達也なら対『鬼門遁甲』も極められるだろう。なお、達也との魔法の講義を横で聞いていた深雪は目を輝かせており、話が終わると悠元を引き摺る様にしながら地下室を出て行った。
その光景を見た達也が、内心で悠元に詫びたのは言うまでもない。
◇ ◇ ◇
翌日、達也が日課の朝練から帰ってくると何だか複雑な表情をしていたので尋ねたところ、リーナが九重寺にいたとのこと。話を聞くに、九島烈の紹介で体術を学びに来たらしい。八雲はセリアを養女にしている関係でやる気になっていて、いきなり手合わせをしたらしい。
それでも、世捨て人と自認しているあたり、不注意にリーナの身体に触れないよう防御魔法を挟む形で打撃を撃ち込んでいた。リーナもすっかりやる気になっていて、これには傍から見ていた達也も呆れ返ったらしい。
そんなイベントが挟むほどの平穏は昼休みまでしか持たなかった。
悠元らが食事を始めてすぐ、緊急ニュースが流れて、テロリストの犯行声明が読み上げられていく中、悠元が口を開く。
「……何が“聖戦”だ。まるで自分たちが『神の代理人』とでも言うつもりなのかね。こんな奴を野放しにしてた
「あの、悠元さん? 今USNAって言いませんでしたか?」
「言ったけど、純然な米国人じゃないことは言っておく。俗に言う“難民”の類だよ」
それを聞いて騒ぎ立てたりすることはないし、今は昼食の時間ということでそちらに集中しつつ犯行声明を聞く。すると、その声明の中に矛盾点が生じていることにエリカが首を傾げた。
「あれ? 和兄から聞いた話だと死者は出ていないって聞いたけど、“犠牲”ってなんか変じゃない? ……もしかして悠元、あんたがテロリストを騙したの?」
「まあ正解。実際のところ、そのテロリストは殺人未遂と住居不法侵入の罪確定だけど」
大型ディスプレイは更に緊急ニュースが流れ、内閣総理大臣によって今回の爆破テロがテロ対策特措法の適用条件内にあると発表し、テロリストを強く非難。更には「我が国の力を損なおうとする不逞の輩に対し、テロ対策特措法に基づき緊急事態宣言を発令する」と宣言した。国策機関である国立魔法大学とその付属高校には十師族関係者も在学しているため、原作も本来ならばここまでやるべきなのだろうが、日本政府が完全に及び腰になっただけでなくUSNA政府からの圧力があったのだろうと思われる。
「……なあ、さっきの声明を出してたテロリストの存在感が明らかに薄れていくような気がするんだが」
「犯罪者のことを覚える必要がある時は、それこそ指名手配で顔写真が出たぐらいでいいと思う。道行く人全てを覚えるわけにもいかんだろうし……ごちそうさま、姫梨」
「はい、お粗末様でした」
お昼の弁当生活はかれこれ1ヶ月を過ぎようとしているわけだが、腕前を知っている深雪と水波はともかく、姫梨とセリアに雫もちゃんとした出来栄えのお弁当となっていた。
特に雫のお弁当を見たほのかが「これ、雫が作ったの?」という疑問を投げかけた際、雫がほのかを連れて食堂を出て行った。その数分後、顔を真っ赤にしているほのかと何かをやり遂げた雫の表情で大体を察してしまったわけだが。味は「申し分無かった」とだけ言っておく。
「悠元からすれば、あまり興味がない感じですか?」
「相手がテロリストだからな。言い換えてしまえば無差別殺人鬼と同義な存在に関心はあっても、興味なんて持つ気にもならん」
周公瑾(というか、亡霊の方)の記憶からするに、顧傑の復讐心は一種の「祟り」だろうと周公瑾は吐き捨てていた。ただ、顧傑の手前でそのようなことは一切言わなかった。漸く手に入れた安寧を自分から壊す気にもならなかったのだろう。その意味で自分に対するちょっかいが「ブランシュ」以降なかったのも頷ける。
「精々反面教師になるぐらいが関の山だろうな」
今にして思えば、顧傑が弟子を連れて大亜連合に下らなかったのは自明の理とも言えるだろう。何せ、あの大陸は2000年の間に分裂・統一を繰り返し続けている。それも広義的に見れば同じ中国人が争っている。
何分相手を簡単に信じ切れない性分だからこそ、仮に顧傑が大亜連合に崑崙方院の情報を持ち込んだとしても、その情報を出し切った時点で顧傑に何らかの罪をかぶせて殺す可能性もあった。全てそうであるとは言い切れないが、騙し合いや殺し合いを続けてきたことは歴史が証明してしまっている。
テロリストもとい顧傑の犯行声明と、それに対して日本政府が発表した非難声明。魔法師と言えどもこの国に住む以上は日本国にとっての“財産”であり、それを侵す行為は認められないとハッキリ述べたことで、食堂に居る生徒の反応は様々であった。
ただ、テロリストを擁護するような意見は一切見られなかったことだけ明記しておく。
今回はキリ良くするために短めとなりました。ここから捜査体制に掛かる話になるわけですが、変更点が結構多いので、その都度後書きに説明を入れます。