魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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線引きの境目

 達也のほうはというと、十文字家で今後の捜査に関する確認が行われた。とはいっても、七草家が東京・千葉方面の監視に人員が割かれるため、メインとなる神奈川・伊豆方面は三矢家も動員される形となり、十文字家と面識が深い美嘉が代表として出向いていた。

 

「昨日のテロ事件のことは両名とも聞いていると思うが、二人の力を借りたい」

 

 達也はここで美嘉の表情を見やるが、何時になく真剣な表情を浮かべている様子であった。

 

「その件については、母上と悠元から頼まれている件ですので、勿論俺は協力します」

「助かる。六塚には連絡という形だが了解の旨を貰っている」

 

 燈也は当主である温子との会談が先に入っていたため、十文字家の話し合いには参加できないという旨を伝えられていた。克人としては、燈也から協力を取り付けられただけでも御の字と思っていたので、家の事情を優先しても構わないと伝えている。

 その上で、克人は美嘉に表情を向けた。

 

「美嘉先輩。今回は変則的な体制故、貴女には三矢殿との連絡役をお願いしたい」

「ま、それが妥当よね。で、真由美は今回関わらせない方向でいいの?」

「そうしていただけると助かります」

 

 美嘉は事前に師族会議の様子を元の表情からある程度は察しており、今回の体制に七草家がリーダーシップを取らないとなると、間違いなく悠元絡みだということは言うまでもなかった。克人が部隊の責任者となり、達也に燈也、それと将輝が実働部隊、そのバックアップに三矢家と七宝家が担うこととなっている。

 今までの流れからすれば考えられなかった“七草抜き”での捜査体制の裏側には、七草家と九島家の不祥事があるということは流石に達也と美嘉にすら言えない、と克人は思いながら話を続ける。

 

「ただ、秘密情報網などの関係でどうしても通せない情報があると思いますので、そこに関しては美嘉先輩の判断に委ねます」

「かっちゃんは手厳しいことを言うね。未来の妻候補にも容赦ないね」

「……美嘉先輩、今の話は初めて聞いたのですが」

「ありゃ、“たっくん”は知ってると思ったけど……ま、テロの関係で発表が延期になっちゃったけど、かっちゃんと婚約を結んだの」

 

 よもや実母以外にそう呼ばれる羽目になるとは露にも思わず、達也は柄にもなく苦笑にも似た表情を滲ませていた。悠元といい、三矢家は十師族の中でも非常に特異的な存在だと思わずにはいられなかった。

 

「それで、どうするの? 私はともかく、流石に大学や高校を休むわけにはいかないでしょ? それに、相手が師族会議の場所を探り当てた以上、盗聴対策も必要だし」

「その件も含めて相談したく思い、呼ばせてもらった次第です。司波、有力な手掛かりが出るまでは各自で動けるようにしておきたいが、進捗を確認する場を設けて情報交換を行っておきたい」

 

 人間主義のことも気がかりだが、先日のテロの一件を考えると連絡を取り合うのは危険だと考えた。それなら、狙われるリスクを考慮しても直接会って話をしたほうがまだ盗聴対策がしやすい。克人との提案に対し、達也は異論を唱えなかった。

 

「俺は構いません」

「そうか。六塚には……確か、司波と同じ魔工科だったな。そちらもお願いできるか?」

「分かりました」

 

 盗聴を意識するならば、達也が燈也に伝えるのが一番合理的であり、そのお願い程度ならば苦にもならないと判断した。残るは美嘉の返答だったが、美嘉は異論を唱えなかった。

 

「私も問題ないよ。ただ、魔法大学の近くだといいかも。私は毎日出てこれないけど、場合によっては佳奈姉にもお願いするから」

 

 美嘉は昨年大学に提出した魔法医療に関する論文の関係で、夏休み明けから国立魔法医療大学の非常勤講師を任される形となった。元々姉の詩鶴の影響で魔法治療に関わる免許(魔法に関するものというより医療従事に関する免許)を特例で取得していたため、国立魔法大学の教授陣は点数稼ぎを睨み、美嘉の非常勤講師の勤務を単位認定としていた。

 これを耳にした美嘉が「やってることが百山と何ら変わらない」と評したのは言うまでもない。

 

「分かりました。手配もあるので、情報交換は明後日からにしたい」

 

 克人から指定されたのは、明後日の18時に魔法大学の正門前に集合すること。その時間なら生徒会を休んで一度自宅に戻ってからでも十分間に合うと素早く計算して、達也は頷いたのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 言う迄もなく、テロリストの捜索に当たっているのは十師族だけではない。

 首都の目と鼻の先で起こった爆破テロは警察の矜持を傷つけ、首脳部は当然怒り狂った。このため、当該地域である神奈川・静岡の地方警察ではなく、警察省の広域特捜チーム(通称「日本版FBI」)が担当に割り当てられた。本来だと各地方に派遣されていたチームが神奈川・伊豆方面にマンパワーを集中させていた。

 千葉寿和警部は、元々横須賀の不審者情報が箱根方面に向かったというタレコミを受けて調べていた最中、神坂グループのホテルテロを目撃し、魔法師の警察官ということで急遽十師族の取り調べをする羽目になった。

 そんな寿和の心労を加速させるが如く、捜査は早くも行き詰まっていた。

 

「……犯人が全員死亡済みってどういうことだ?」

 

 爆弾を括りつけられていた実行犯は、爆弾こそ全て取り外されていた(『神将会』と名乗った人々の素性こそ知らないが、皇宮警察の組織だということは聞き及んでいたので、爆薬の処理は彼らに任せた)ものの、明らかにホテルの中で息絶えた形跡がなかった。

 寿和のぼやきに運転手をしている稲垣警部補が寿和を宥めるように応じた。

 

「自爆テロなら、そういうこともあると思いますが」

「にしてもだ。彼らの肌色が明らかに死んでから時間が経ち過ぎているし、爆発した形跡の無い死体まで既に死んでいたんだろう?」

 

 検死の結果、実行犯とされている死体の死亡推定時刻は一日以上前。最大十日前後にまで遡る、という結果にはさしもの寿和ですら顔を顰めるほどだった。

 

「B級オカルト映画でも見せられてるのかよ! って笑い飛ばせたらどれだけ楽な事か」

「警部は、死体を操る魔法があるとお考えなのですね?」

 

 稲垣の問いかけに対し、寿和は渋々頷いた。運転中の稲垣に余所見をさせるわけにはいかないので、「そうだよ」と取って付けた上で呟く。

 

「そう考えるのが妥当だろうな……忌々しいことに」

 

 魔法という非現実的なファクターを虚構の産物として捜査から除外していたのは前世紀迄の話で、魔法が技術として体系化された以上、現代の警察捜査に魔法というファクターは外せないものとなっている。

 とはいえ、現代魔法の使い手である寿和にとって死体を操る魔法という存在は、どうにもうさん臭さを感じずにはいられなかった。

 

「やはり、専門家に聞くしかないんじゃありませんか?」

死霊魔術(ネクロマンシー)の専門家なんているのか? 確かにこっちはまるっきり素人だ。講釈してくれる相手がいれば助かるんだが」

「……彼を頼ってみませんか?」

 

 稲垣が出した“彼”という発言に寿和は頭を抱えた。確かに、寿和の知り合いに古式魔法の使い手はいるし、その中でも彼の技術は世界屈指の魔法技術を有すると寿和も認識している。

 だが、その選択肢に対して寿和は拒否の姿勢を示した。

 

「いや、ダメだ」

「何故ですか、警部。警部に近い人間で古式魔法を詳しく知っているとなれば彼しかいませんよ?」

「……エリカのことに加えて早苗の一件で親父がやらかしたんだよ」

「ええ……お嬢様は西城君と付き合っていますよね? しかも、その件って一度断られたはずでは?」

 

 千刃流の門下生からすれば、エリカの恋人であるレオに対してまるで親心のように厳しい目を向けているが、当のレオ本人の実力は九校戦で示されており、エリカとレオの付き合いは道場公認となっていた。

 レオのことを悪しく言う輩がいれば、エリカが手解きという形で今や寿和はおろか修次ですら勝てなくなってきている実力によって叩き伏せられる。それでも相手の悪かったところを的確に指導する辺りは単なる八つ当たりではない為か、却ってワザと受けようとして寿和や修次が制裁することも起きていた。

 早苗の婚約の件は噂程度のものだが、エリカが愚痴をこぼしていたことを道場の人間の大半が知っていたため、事実であると認識していた。

 

「以前ならばまだ穏便に済んでいた。だが、今の彼は神楽坂家の当主だ。その意味で親父と同格になる。まだ親父が引退しろなどと言われていないだけマシなんだろうが」

「流石に彼でもそれぐらいの分別は付けると思いますが」

 

 稲垣の言い分も理解はするが、迷惑を掛けている側が現在進行形で諦めていないことも問題なのだと寿和は呟きつつ千葉家の事情を口にした。

 

「加えてエリカの件で、エリカは西城君の家に転がり込んで、修次は渡辺家に逃げ込んだ」

「……警部が頑なに帰ろうとしないのは、その被害を受けない為ですね?」

「そういうことだ」

 

 父親が悠元とエリカの婚約をゴリ押そうとしたことは寿和にとっても頭の痛い問題だった。なので、寿和はマンスリーマンションを借りて本家に帰らない生活をかれこれ1ヶ月以上続けていた。元はと言えば千葉家当主の過失なのに、そのとばっちりを受ける羽目になった寿和に稲垣は同情の視線を向けていた。

 

「ともかく、情報がない以上は動けない。稲垣君、ロッテルバルトへ向かってくれ」

「あの情報屋ですか……。了解です」

 

 ここまで聞かされては稲垣も諦めざるを得ず、言われたとおりに車を走らせたのだった。

 

 横浜・山手の丘の中ほどにある喫茶店「ロッテルバルト」。寿和は数年前に偶然立ち寄って、ここのマスターが所謂「情報屋」であることを知り、特に情報を買ったりすることが無くてもコーヒーを飲みに立ち寄ることが多い。この喫茶店の常連ぐらいになっている寿和は、寿和はカウンターの奥にいる女性が目に入り、その女性―――藤林響子も寿和と稲垣の姿が目に入った。

 

「あら、警部さん。ご休憩ですか?」

「ええ、藤林さん」

 

 流石にこの喫茶店のマスターのことは響子も知っている範疇だが、響子はあくまでも「今日は非番ですので」と返すにとどまった。コーヒーを頼みつつメモ書きを差し出すと、マスターは一切動揺することなく受け取り、寿和らが注文したコーヒーを淹れる作業に取り掛かる。

 寿和と響子の関係はというと、原作ならば響子が寿和に接触して警察―――千葉家を動かす形となった訳だが、この世界では『神将会』と三矢家が中心に動き、千葉家はあくまでも避難する魔法科高校の生徒の避難誘導に当たっていた。その時、襲撃してきた正体不明の部隊に関する引継ぎで顔を合わせた程度でしかない。

 だが、寿和は響子が古式魔法に詳しい藤林家の人間ということは知っていたため、それを聞き出そうとしたところでマスターがコーヒーを差し出し、更には寿和にメモ書きを渡した。寿和はそれに目を通したところでそのメモ書きをマスターに返した。

 寿和は響子にお願いがあると言って情報料も含めた支払いを済ませ、コーヒーを味わってから店を出たのだった。

 

 ロッテルバルトを出た寿和は響子の案内で彼女の車に乗った。当然その後ろには稲垣の運転する覆面パトカーが付いてきている。

 

「―――それで警部さん、お伺いしたいことは先日のテロ事件に関することでしょうか?」

 

 情報に携わる身として、事件の詳細は響子も把握している。ただ、響子ですら思いもしなかった魔法の数々が投入されており、十師族はおろか民間人に怪我人こそ出たものの、関係者以外で死人は確認されなかった(厳密に言えば、顧傑の絡みで死者は出ているが、悠元が蘇生したために事無きを得ている)。

 そのことよりも寿和が聞きたいのは、実行犯に関する部分であると響子は思いながら寿和の話を聞くことにした。

 

「あのテロ事件には奇妙な点がありまして、実行犯に生存者がいなかったのです」

「それは、自爆テロで亡くなったのではなく?」

「ええ」

 

 実行犯が全て街路カメラに映っていたにもかかわらず、爆発物を検知する探知機に一切引っ掛からなかったこと。その実行犯がホテルに入ったが出てこなかったことはホテルの敷地内にある監視カメラの映像でも確認されている。

 

「不幸中の幸いだったのは、今回の会議に使われたのが建て替え工事が予定されていたことで、当時そのホテルに宿泊する筈だった客は全て神坂グループが経営するリゾートホテルに代わりの宿が用意されていました」

「……(悠元君なら、その辺を全て予測してテロリストを誘き寄せてもおかしくないでしょうけど)」

 

 寿和の状況説明を聞く中で、響子は今や神楽坂家当主となった悠元がテロの首謀者を陥れるために張り巡らせた罠ではないか、と思い始めていた。そんな響子の思考を遮る様な形で寿和は話を続けた。

 

「これが一番大事な事ですが、実行犯たちは恐らくテロの前日までに亡くなっていると考えられるんです」

「そうでしたか……それで、警部さんは『人形師』のところへ話を聞きに行かれるんですね」

「『人形師』ですか?」

 

 寿和がロッテルバルトのマスターから紹介されたのは、「反魂術」に詳しいとされている魔法研究家の家だ。決して人形制作者や人形操者を尋ねるつもりなどなかったため、響子の言葉に寿和が首を傾げた。

 

「警部さんが尋ねようとしている人物は単なる魔法研究家ではなく、『人形師』とあだ名される古式魔法師です。死体を操り人形に変える禁断の魔法を使うと噂され、魔法協会から要注意人物としてマークされている魔法師です」

「それは……」

「確かに彼ならば、死体を操作する術について詳しく教えてもらえるでしょう。表向きは魔法研究家ですから……ですが警部さん、くれぐれも気を付けてください。『人形師』近江(おうみ)円磨(かずきよ)大漢(ダーハン)出身の魔法師と浅からぬ交流があると言われています」

 

 命の危険すらあるという響子の忠告に対し、寿和は顔を引き締めて頷いた。すると、響子はもう一つの懸念を口に出した。

 

「正直にお尋ねしますが、警部さんの妹さんの友人には古式魔法に詳しい神楽坂家や上泉家、吉田家の人間がいるはずです。何故其方を尋ねられなかったのですか?」

「……その妹を神楽坂家の婚約に押し込もうと父が画策し、妹が激怒して『家に帰る気なんてない』と家出に近い有様になりまして。しかも、そのとばっちりという形で自分や弟も家に居づらくなりまして」

 

 ここで隠す理由も無いと判断し、寿和は千葉家の現状を正直に吐露した。それを聞いた響子は藤林家がそこまでのことになっていないことが“奇跡”としか表現できない、と心なしか思ってしまった。

 

「そうですか……分かりました。私が取り次ぎますので、その方を尋ねた後は東京にある神楽坂家の別邸を訪れてください」

「藤林さんは、神楽坂家と伝手をお持ちなのですか?」

「以前仕事の関係で顔見知りになりまして、何か困ったことがあれば相談に乗ると快く連絡先を頂きましたので」

 

 実際には響子と悠元が国防軍の仕事の関係でプライベートナンバーをお互いに交換していて、その辺を適当にぼかしつつ響子が答えた。態々危険を冒す必要もないと言いたかったが、千葉家の事情を聞くと強く引き止めるわけにもいかなかった。なので、古式魔法に関しても自分以上の知識量を有するであろう悠元に寿和を任せる事にした。

 寿和らと別れた後、響子は早速プライベートナンバーで悠元に連絡を取ったところ、映像通話で悠元が姿を見せた。背景を見る限りでは司波家の自室だろうと響子は直ぐに察した。

 

「こんばんは、悠元君。今は大丈夫かしら?」

『ええ……こちらから傍受対策はしておきました。それで、今日はどうしたんですか? 独立魔装大隊の装備絡みの依頼ですか?』

「そっちじゃなくて、実は先日のテロ事件の絡みなんだけれど……」

 

 響子はテロ事件の捜査をしている寿和と稲垣に会い、ロッテルバルトのマスターに死体操作に関する魔法の術者を紹介してほしいということで『人形師』を紹介され、二人はそちらを尋ねるとのことらしい。これには悠元が思わず頭を抱えていた。

 

『……別に寿和さん自身に恨みはないですし、パラサイト事件のことを考えればまだ好意的な部類なんですが……あのマスターもなんで現代魔法の人間にあの人間を紹介したんだか』

「何か懸念があるの?」

『テロリストの首謀者、ジード・ヘイグ。中国名は顧傑。彼は大漢(ダーハン)出身の古式魔法師なんですよ』

 

 悠元から伝えられた情報に響子は一抹の懸念を覚えた。今日は確かに寿和へ「『人形師』近江(おうみ)円磨(かずきよ)大漢(ダーハン)出身の魔法師と浅からぬ交流がある」と伝えていた。今回のテロの首謀者がその大漢出身の古式魔法師となれば、彼と『人形師』が繋がっていてもおかしくはない。

 

「……一応、彼を尋ねた後に神楽坂家の別邸を訪れるように念を押しておいたの」

『なら、まだ対処は出来ますね。分かりました、自分が対処します』

「私も同席させて。流石に私が引き留めなかったことも責任になるわけだし」

 

 悠元の言葉に対し、響子は協力を申し出た。いつもならば断ることなどなかった悠元だが、今回ばかりは事情が明らかに違っていた。

 

『すみません、響子さん。今回ばかりはお引き取りください』

「どうして? もしかして、光宣君の治療の条件に関わる話なの?」

『それはありませんが……国防陸軍第101旅団・独立魔装大隊副官の()()()()()()、自分は国防陸軍特務中将として貴官のこれ以上の関与は現状として認められない』

「えっ……」

 

 家としての話ではなく、よもや国防軍としての体裁に関わる話を持ち出されるとは思わず、響子は思わず驚きの声を口に出していた。

 悠元が態々「上条達三」としての体を持ち出したのには理由があり、神楽坂家は既に師族会議を統治する立場として裏舞台に君臨している。無論政府や国防軍にも要請は出しているが、悠元が出した“任意の応援要請”に未だ旗色を示していない独立魔装大隊もとい第101旅団の構成員である響子を関わらせるのは、どちらの立場からしても望ましくない事であった。

 仮に響子個人で関わらせたとしても、彼女が九島烈の孫娘ということから九島家が擦り寄ってくる危険性があるし、パラサイドールの一件では藤林家が黙認していた。知っていて黙っていたとなれば本来なら同罪だが、それでも九島家の再生を鑑みて甘い裁定にしたのだ。なので、この件で九島家所縁の人間が関われるとすれば、分家のような存在になるリーナとセリアだけと決めている。

 

『任意ながらもこちらの協力要請に対しての姿勢が見られない以上、非協力的であると対応せざるを得なくなる。これは統合軍令部および統合幕僚会議の了解も得ている。もし中尉が個人として協力を申し出たとしても、今回の一件が明るみになれば九島家が中尉を頼ることも想定されるだろう。よって、協力は受けられない。分かりましたか、()()()()?』

「……ごめんなさい、悠元君。そして、どうか宜しくお願いします」

 

 最後の呼び方で国防陸軍ではなく先程の喋り方に戻ったことを理解しつつ、響子は深く頭を下げて謝罪の言葉を口にした。

 そうして通話を終えた後、響子は神妙な表情を浮かべていた。

 

(……一体、何を考えているのですか)

 

 響子は自分の上官だけでなく、その上司―――第101旅団長である佐伯少将に対しても疑念を抱いていた。

 第101旅団や独立魔装大隊の設立理念は理解しているわけだが、九島烈の血を引く響子や四葉家の達也、そして悠元を大隊内に引き込んでいる時点でその論理が破綻してしまっている。

 十師族に頼らない魔法戦力といいつつも、結局は決定的な一手となる戦力の魔法師を十師族ひいては師族会議に依存してしまっている。戦略級魔法師に至っては十師族内に関係者が多く、打つ手が無いに等しい有様だった。

 個人的な繋がりで辛うじて保たれている関係を断つような真似をして、一体何を考えているのかと響子はそう思わずにはいられなかった。

 




 真由美を関わらせると七草家が出しゃばる為、美嘉もしくは佳奈が出張る形となります。そして、警察サイドとして寿和の登場。ただ、この辺は横浜事変編の影響から響子との関わりが大分削減されています。

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