魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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何時から「撃てない」と錯覚していた?

 その日の授業終了後、達也が珍しく2年A組の教室を訪れた。その目的が悠元や深雪ではなく将輝にあったことは明白だが、悠元が率先して廊下に出る形で声を掛けた。

 

「おや、達也が来るのは珍しいな。一条に用事か?」

「ああ。頼めるか?」

「それぐらいなら構わない。後は頼んだぞ」

 

 悠元は将輝に声を掛け、達也が来ていることを伝えた上でそのまま部活連本部室に向かう。無論と言うべきか雫と深雪が付いていく形となり、これに対して将輝が視線を送っていることに悠元は気付いている。

 その視線にどういった感情が含まれているのかも。

 

 悠元がテロリスト捕縛に率先して加わらないのは人間主義者の対処を先決したからだが、その情報交換にまで顔を出さないのは顧傑が『フリズスキャルヴ』による情報収集を懸念していたからだ。

 それに、部活連の活動とは言っても、今の時期は注意喚起に加えて風紀委員会との合同警備をするぐらいしかできない。なお、言うまでもない事だろうが琢磨と香澄の両者は敢えて別になるよう組ませているので問題はない。

 あと、強いて言うなら将輝の“横槍”に対する深雪のメンタルケアをすることと、深雪の身辺警護をすることで達也の負担を減らしてやりたい思いがあった。友人としての厚意だし、特に損得勘定なんて持ち込めないのだが、こういった気遣いですら達也にとっては“借り”になるらしく、これには深雪も苦笑を漏らしたほどだ。

 

「甘えん坊だな、深雪は」

「別に甘えん坊でも良いです。悠元さんは、こんな私はお嫌いですか?」

「いんや、仮にそれだったら一緒に寝る事すら拒否してるからな?」

「もう、悠元さんったら、そんなこと言われると悠元さんに襲われたくなります」

「……」

 

 深雪も流石に他の人がいる前で甘えたりはしないし、寧ろ正式な婚約者になったことで適切な距離感を測っている節がみられる。その反面、二人きりだったり身内しかいない時になると甘えてくることが多くなり、この辺りは身内譲りなのだろうと思う。

 今の状況を述べると、机で端末のキーボードを叩いている寝間着姿の悠元に後ろから同じく寝間着姿の深雪が抱き着いている。椅子越しという形になる為、悠元の後頭部にはクッションのような柔らかい感触に当たるわけだが、明らかに下着を身に付けてないのは布一枚を隔てての感触で分かってしまい、悠元は内心で溜息を吐いた。

 嫌という訳ではないし寧ろ冥利に尽きるわけだが、もう少し節度ぐらいは保ってほしくある……尤も、深雪の側から「従属したい」なんて言われたことを受け入れた以上、スキンシップとしてはまだマシだと割り切った。

 

 捜査の進捗に関しては、真夜が達也に連絡をして四葉家の暗号通信が傍受されている危険性を示唆した上で手紙による連絡をするとした。『精霊の鏡(カーヴァンクル)』を使わなかったのは相手の出方を見るためらしく、今後は用いる形で達也との連絡をすると言っていた。この辺は今まで出来なかった親子の団欒という意味でも許可することにした。

 

 翌日、いつものように鍛錬を終えて帰ってきた達也が四葉の関係者から渡された手紙を読み、悠元に差し出した。流石に読んでいいのかと思ったが、達也からは「正確な判断が欲しい」と言われたので大人しく読むことにした。

 そこには、顧傑の逃亡に国防軍が関与している可能性を示唆する内容が書かれていた。

 

「悠元はどう思う?」

「腐敗してないなんて確たる証拠はないからな。出来なくもないとは思う」

 

 その発言の根拠にあるのは、原作における情報部関連の動きだった。この世界ではなっていないが、元々原作では他のパラサイトを釣り出すためにピクシーを青山に連れ出していた。その時に監視出来ていたのだから、顧傑を事前に把握できていてもおかしくはない。

 ただ、少なくとも七草家の息が掛かったセクションで把握しているとは言い難い。もし把握していたとしたら、内密に襲撃して点数稼ぎをする可能性もあるわけだが、周公瑾との繋がりが切れていないのではないかと疑われる可能性も出てくる。

 悠元は見せてもらった便箋を達也に返し、達也はそれを封筒に仕舞った。

 

「国防軍も本来あるべき姿への改革中だが、それに反した動きを取る人間はどうしても出てくるだろう。何にせよ、どこかで距離を取る必要はあったんだ。それが早まったと言うべきだろうな」

「……そうだな」

 

 いくら十師族を含めた魔法師社会の在り方を変えるとは言っても、国防という定義自体は人によって様々だ。相手を一方的に負かす力は無論の事、そうさせない為の別の力による抑止への奉仕も国防に繋がる。『恒星炉』も上手に使えば一種の抑止力として立派に機能することとなるのだ。

 単に魔法を使う事だけが魔法を使える者に課せられた義務としたくない。あくまでも魔法は技術であり、それを行使する可否の選択権は特定の場合を除いて魔法師が有するべき権利である。

 勝ち過ぎれば、それが面倒なこととなるのは歴史が示しているのだから。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 2年A組の一時限目は実習だった。内容は「魔法の終了条件定義」である。

 この世界において、魔法は永続しない。刻印型術式であれ、魔法の燃料である『魔力』を注ぎ続けない事には継続発動できないようになっている。終了条件を定義していない魔法は、何時切れるか分からない状態で発動対象上に残り続ける。

 魔法を別の魔法で上書きするためには、元々の魔法が持っている事象干渉力を上回る必要がある。『術式解体(グラム・デモリッション)』や『術式解散(グラム・ディスパージョン)』、或いは『キャスト・サイレント』を使わない限り、その法則は揺らがない。これはサイオンとプシオンの関係に大きく影響しており、現状の現代魔法はそれ以外の方法で相手の魔法を無効化する方法は確立していない。なので、魔法式の終了条件定義は魔法師の技量を評価する上で重要なファクターである。

 魔法式の終了条件定義は、発動時間を定めるものと魔法の結果を定義するものの二つに分類される。前者はトーラス・シルバーの飛行魔法で評価されており、後者は実践の場面で用いられていることが多い。

 

 今日の授業は、作用時間を変数として自分で定義する実習だ。具体的には、白いプラスチックの球を赤、緑、青の順番で変化させる魔法を30秒間で10セット行うもの。なお、実習ごとに時間と回数は異なるが、平均1秒という作用時間は変わらない。

 この実習は二人一組が基本となるわけだが、2年A組は奇数で一人は必ず余る。言うまでもなく悠元が一人で練習していたわけだが、別に退屈と思うこともなかった。寧ろ、奇抜過ぎる練習をして生徒のみならず指導教官ですら黙らせていた。

 それは、作用時間を平均1秒ではなくその百分の一で作用させ、30秒間に1000セットこなすものだった。そこまで精密な作用時間定義が必要なのかと思うだろうが、緻密な制御練習と膨大な魔法力を錆びらせない為の練習だった。

 流石に将輝が加わったとはいえ将輝と深雪をペアにするつもりもなかったため、姫梨に目配せをすると彼女は深雪に声を掛けた。それを見てから悠元はいつものように一人で練習でもしようかと思ったところ、意外なところから声を掛けられた。

 

「神楽坂、ペアを組まないか?」

「……ああ、いいぞ」

 

 そう言いだしたのは将輝であった。これには思わず目をパチクリさせたが、将輝の視線から感じられたのはライバル心にも似た心境だった。周囲が騒めく中、別段断る理由もなかったので悠元はその申し出を受けた。

 第三高校のカリキュラムや授業内容は時折真紅郎から聞いていたため、より実践的な魔法実習をしていることは知っている。一昨年の時点で深雪に匹敵する魔法の実力を見せていた将輝からすれば「簡単」なのだと思っている節は見られた。

 

「……30秒ジャスト。流石だな」

「それはどうも。そしたら、次は一条の番だな。カウントは?」

「必要ない」

 

 将輝からすれば悠元への対抗心が働いた結果、意地になっている部分があると思いながら、ストップウォッチを構えて合図を出した。将輝は別のグループで練習している深雪にいいところを見せようと臨戦態勢に入った。悠元の合図で将輝が魔法を使い始めたが、悠元はラップスイッチを押しつつ作用時間のばらつきを見る。

 そして、30秒が経過してプラスチック球の色が白に戻ったところで悠元が終了の合図を出した。

 

「余り、0.9秒。カウント無しにしては上出来だと思うぞ」

「……どうも」

 

 悠元の言葉に将輝は何とか礼を述べたが、カウント無しかつジャストで合わせた悠元と比べれば少し不甲斐ない結果に終わったことに納得できなかった。結局、将輝は一時限を丸々使って課題をクリアしたのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 お昼休みになり、ほのかが将輝に声を掛けていた。その根底にあるのは単なる親切心で、将輝としても少なからず顔見知りがいた方がいいだろう、というほのかなりの気遣いだった。ほのかは予め雫と深雪に聞いていて、最終的には自分にも「大丈夫かな?」と聞かれてしまったので、これについては了承した。

 円滑な学校生活を送りたいと思う以上、こちらから変な諍いなど作りたくない。将輝は躊躇っていたが、深雪の言葉で同席することにしたようだ。

 昼食の際、エリカが捜査のことについて尋ねてきたが、現状は特に変化は無いと答えるに止まった。話題は今日の実習に移っていった。

 

「悠元さんは一回で終わらせていましたね」

「まあ、作用時間が1秒程度なら安定はするさ」

「この前の時は30秒1000セットとかいうことをしてたけどね」

「それは言わないでくれ、雫」

 

 雫が明かした内容に他の面々が食いつき、ごく短い作用時間の連続発動という離れ業を以前やっていたことに将輝は驚きを隠せなかった。飛行魔法でもCADのサポートという形で0.5秒間隔なのに、その50分の1となれば人間業ではなくなる。

 

「それにしても、一条さんが羨ましいです」

「羨ましい、ですか?」

 

 突然深雪にそう言われ、将輝は気になる人からそう言われたのもあってか激しく動揺していた。この反応に面白可笑しいような笑みを見せたのは、母親譲りともいえる深雪は将輝の質問に答えるように述べる。

 

「だって、悠元さんが感情をむき出しにする相手は非常に限られますから」

「……深雪。間違ってはいないが、別に態々言うことでもないだろうに」

 

 根底にあるのは間違いなく深雪の嫉妬からくる言動に、悠元は溜息を吐きながら深雪の言葉を嗜めるように呟いた。

 悠元でも感情を吐き出す相手を慎重に選んでいる節があるのは認める。節操なしに負の感情を吐き出すばかりでは相手にとって気が休まらないだろう。なので、悠元が毒を吐く相手は相当信頼されている証でもある。

 いくら婚約者とはいえ、心優しい深雪が必要以上に思い悩んでほしくないからこそ、悠元は深雪に対して正直な気持ちを吐露することはあっても、悩みなどを必要以上に零したりしない。深雪にとってはそれがやきもきする部分なのだろうとは思う。

 

「そうだね。普段の悠元なら作用時間を途中でわざと変えつつ30秒ジャストに収めたりしてたのに、今日は全部一律だったし」

「……まあ、柄にもなくムキになってた部分は否定しない」

「わざとばらけさせつつ収めるなんて、僕でも難しいですよ」

 

 普通なら指導教官が物申す様な事をしているが、それでも強く言われないのは悠元が試験の際に誰の文句も言えないような結果を出しているためだ。雫の指摘に対して悠元は諦め気味に呟くと、ここに反応したのは燈也だった。

 

「その点、達也はきちんと一律にしていましたね」

「俺は悠元ほど魔法力の制御に長けているわけではないからな。こういった細かい制御も訓練の一環だと思ってる」

「あれだけの魔法力を手にしたのにですか?」

「手にしたからこそ、というのもあるがな」

 

 その話題には将輝が首を傾げるも、達也から感じる魔法力が以前京都で一緒に戦った時よりも増大しているのは感じていた。それでも一滴も漏らさないように抑え込まれているサイオンの挙動によって、正確な魔法力までは推し量れなかった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 悠元は放課後、部活連の副会頭である琢磨とエリカに事の次第を任せて、司波家に戻ってライディングスーツに着替えた後、『ドレッドノート』を駆って霞ヶ浦の独立魔装大隊本部に到着した。

 元々『ドレッドノート』が登録上軍用車両にあるため、IDカードでのパスによってヘルメットを取った状態で難なく基地に入り、司令部のあるビル前にバイクを停めた。

 

 当面人間主義者を中心に対処した上で顧傑を捕縛する方針に変わりはないが、達也に見せてもらった手紙の部分に魔法戦力を有する知己の部隊まで侵食されているのは正直気が休まらなくなる。

 それに、顧傑はジェネレーターの調達先を本来の強化兵ではないところから行っているため、顧傑と関係のある組織―――周公瑾の知識から読み取れた関係各所の捜査を警察だけでは明らかに人手が足りない。

 

 正直、風間の都合を電話で聞くのも躊躇ったが、面会の約束をする以上は仕方がなかった。面会の時間までまだ時間はあったが、こちらの到着を聞いてなのか、直ぐに部屋に通された。この辺は自分が風間よりも上の立場にいるせいもあるのだろう。

 事実、部屋に入る際の礼儀も軍規に則ったものとなったのは言うまでもない。

 

「失礼します、風間中佐」

「態々お越しいただき感謝いたします、上条閣下」

「楽にしてください。それと、ここには二人しかいませんので、年功に応じた話し方をしてください」

「では、失礼して……今日はどのような用件で?」

 

 正直なところ、こうやって話すのは年明けぶりで、最近は装備関連の依頼も入ってこない。いくら悠元が既に十師族でないとはいえ、実質上の上官に当たる人物を技術士官として扱うのは気難しい部分があるのは否定しない。

 お互いにソファーに座ったところで放たれた風間の問いかけに対し、悠元は真剣な表情を浮かべた。

 

「中佐は既に今回の事件のことは御存知だと思いますし、その絡みで警察省の人間を使って元凶を炙り出そうとしたことも掴んでおります。まあ、その件に関して私が罰するつもりもないですが……蘇我大将閣下より第101旅団に協力要請があったことは御存知ですか?」

「(やはり、掴んでいたか)……ええ。ですが、佐伯閣下より今回の事件に関わる事はしないと厳命を受けています」

 

 まどろっこしいことをしておいて関与しないというのは明らかに筋が通らない話だが、大隊長である風間に文句を言ったところで、その上にいる佐伯少将が動かないことにはどうにもならない。

 そもそも、今回の問題は最早十師族だけの問題ではない。テロリストが十師族を標的にしたということは、人間主義者に魔法師殺しの聖戦を謳っているも同じ。模倣犯を防ぐにも古式魔法に通じた面々を現代魔法だけで対処するのは厳しい。

 そのために上泉家や神楽坂家が先頭として動いているが、各家の動きは正直に言って鈍い。

 

「何故ですか? よもや佐伯少将の立場故に動けないと申されるつもりですか?」

「……」

「風間中佐。私は別にあなたを責めるつもりはない。立場故に動けないことも承知している。なら、何故味方を犠牲にするような協力を認めたのですか? 最悪、千葉家が反国防軍の旗を振り翳すところでしたよ?」

 

 千葉家の修める千刃流の門下生は国防軍や警察も含めて各種の治安維持組織に就いている人間が多い。千葉家の長男とその門下生をある意味嵌めたにも等しい行為が明るみになれば、千葉家の鶴の一声で組織間の連携が一気に崩壊する。

 最悪、千葉家の武術の本流に当たる上泉家にまで影響が波及しかねない問題となり、国防軍の組織そのものの武力による浄化が加速するのは目に見えている。流石の剛三もそうなると多くの血を流すことになると懸念を示しており、今のところは自浄作用の経過を見ている段階だ。

 

「幸い、千葉家と武術的なつながりのある上泉家は『まだ本格的に動かない』と言伝を貰っています。ここからが本題なのですが、今回の作戦から大黒特尉に関する軍事関連魔法の権限はすべて私が管理することになりました」

「……それはまさか」

「神楽坂家当主として、大黒特尉の『質量爆散(マテリアル・バースト)』を含めた管理権限を一旅団が管理すべきものではないと判断し、蘇我大将閣下より権限の附託を受けた次第です」

 

 政府が取り決めていた十師族当主に関する権限と合わせて、国防軍と十師族の間にあった各種の取り決めも全て護人の二家が管理することとなった。その中には独立魔装大隊と四葉家の契約に関するものも含まれており、達也の『質量爆散(マテリアル・バースト)』や『雲散霧消(ミスト・ディスパージョン)』、『ホーリー・トライデント』や『トリリオン・ドライブ』といった魔法の最終解除権限は悠元が保持することになった。

 このことは達也に話しており、正直達也の魔法を管理するのは「骨が折れる」と吐露したところ、達也からは「お前の魔法を管理する方が骨が折れそうだ」と返された。誠に遺憾であると言わざるを得ない。

 なお、上泉家―――元継からは「流石に爺さんのことで一杯だから、悠元に任せる」と言われた。早い話が面倒事を押し付けられたような気分だが、仕方が無いと割り切った。

 

 そして、『サード・アイ・エクリプス』に関してはその所持を悠元がすることとなった。理由としては、ハード面に関して触れる人間が悠元しかいない為だ。正直なところ、その気になれば自前でそれを超えるCADを製作することは可能だが、そこまでの必要性が無いということで使い続けるつもりだ。

 万が一達也が宇宙に出ることになった際、その後継機を作って地球外から『質量爆散(マテリアル・バースト)』を撃てるようにするのも吝かではない。

 




 ガチャ爆死で心折れてました。笑えよ、ベ〇ータ。
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