魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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マイナスの感情をプラスにする者同士の会話

 話題が新ソ連に大分裂かれたが、もう一つの話題であるウィリアム・マクロードとカーラ・シュミットのほうに意識を向けた。

 マクロードのほうは英国の女王への要請でケンブリッジ大学の客員教授へ就任させた。その際に『エシェロンⅢ』絡みの通信機もケンブリッジ郊外に用意された邸宅内に運ばれたのも確認している。

 

「一つ聞くが、セリアも『七賢人』―――『フリズスキャルヴ』のオペレーターの一人なんだろう?」

「そうなっちゃうね。ていうか、あのレイモンド・クラークって奴、私のプライベートを明るみにしておいて『付き合いたい』なんて言ってきたのよ。ムカついてぶっ壊すことも覚悟で『フリズスキャルヴ』の端末を魔改造したら……」

「したら?」

「『エシェロンⅢ』までのぞけるようになっちゃった。テヘペロ」

「……埒外がここにもいたか」

 

 彼女が苛立って『フリズスキャルヴ』の端末を壊すのも厭わずに魔改造した、というのは彼女のレイモンドに対する評価の言葉で明らかだった。セリアのしでかしたことが、前に苛立って変哲もない木を精霊標に変えてしまった自分と重なり、血というのは争えないと何故か思ってしまった。

 しかし、『フリズスキャルヴ』のオペレーターがエドワード・クラーク(管理者(アドミニストレーター)なのでオペレーターではないかも知れないが)とレイモンド・クラーク、四葉真夜と神楽坂千姫、顧傑にセリア……残る一人ないし二人は不明だが、少なくともクラークが選ぶ人間となればロクな人間とは思えなかった。

 そう思いながら、悠元は持ち込んでいたスポーツバッグからヘッドマウントディスプレイの端末を取り出してテーブルに置いた。

 

「お兄ちゃん、これ『フリズスキャルヴ』の端末だよね? どこで手に入れたの?」

「これは顧傑がいた隠れ家から見つけた。壊れていたが復元しておいた」

 

 顧傑を回収した後、壊れていた端末(恐らく顧傑が使えなくなったことに腹を立てて壊したと思われる)を回収してもののついでに改造したところ、何故か管理者(アドミニストレーター)権限が付与された『フリズスキャルヴ』の端末として復活した。とはいえ、これを神楽坂家で運用する気にもならないと思っていた。

 

「ただ、こちらとしても無尽蔵に情報を手に入れる手段があるのに、これを運用する気にもならんからな……というわけで、こいつは渡そうと思う」

「渡すって……私は要らないよ?」

「分かってる。なので、これを渡す相手はヴァージニア・バランス大佐殿かワイアット・カーティス上院議員にしようと思う」

 

 いきなり復活した顧傑の『フリズスキャルヴ』を流石にクラーク親子も訝しむだろうが、それだったら同じUSNAの人間が使用してくれればいい。それも、政府とのコンタクトが取れる重要人物に引き渡した方が効率的に使ってくれるだろうし、政府高官はどうせ『エシェロンⅢ』だけでなく『フリズスキャルヴ』のことも知り得ている。

 日本国内で使うと「どうせトーラス・シルバーあたりがどうにかした」などと難癖をつけてくるのは想定されるため、それなら大統領や長官クラスと渡りを付けられる人に託した方がまだマシだ。

 手に入れられる情報量が増えて胃薬にお世話になるデメリットもあるが……そこは我慢してほしい所だ。

 

「うーん、どちらもUSNA政府に影響力があるから有効に使ってくれそうだね……私はバランス大佐がいいと思う。今の大佐は確か大統領直属の軍事顧問も兼任してるはずだから、スターズの情報を欲しがる意味でも、後のお姉ちゃんのことを鑑みても有効だと思う」

「パラサイトのことを考えれば妥当か……セリア、バランス大佐に手紙を送れるか? どこまで伝えるかはセリアの裁量に任せる」

「了解だよ、お兄ちゃん」

 

 ちなみにだが、セリアの協力を得て試験的に動かした感じでは、セリアの端末から悠元が直した端末の検索情報が読み取れなかったし、顧傑のアカウントが復活したという認識で動いているのではないと判明した。。

 同じ『フリズスキャルヴ』ではなく『エシェロンⅢ』自体にアクセスしているような感じであり、これにはセリアから「お兄ちゃんの手に掛かると、『フリズスキャルヴ』ですらも玩具になるの?」と言われた。

 それには甚だ遺憾の意を示したい、と言いたいが話題を戻すことにした。

 

「にしても、カーラ・シュミットがウィリアム・マクロードと連絡を取ってたことね……亡命の打診でもしたんでしょ。ドイツは反魔法主義政策を掲げる政治勢力が若者の支持を取り付けてるみたいだし」

 

 世界の大半を占める資本主義国家における経済格差によって、その原因が魔法によるものだと断じられる政策を掲げる勢力が勢い付かせている。単にそれだけならば『ブランシュ』がかつてやっていたことの焼き直しのようなものになるわけだが、戦略級魔法が使われたに等しい状況がそれに追い打ちを掛けている。

 

「非魔法師は魔法にファンタジーやメルヘンを追い求め過ぎていると思うんだがな。現代魔法でも使い方次第で十分凶器になるのは確かなことだが、そもそも魔法に関する基礎知識を全員に学ばせないという時点でおかしいと思う」

 

 魔法の資質の有無にかかわらず、魔法に関する正しい認識を学ぶ意味でも基礎知識を学ばせるべきなのだ。創作物だと、仮に魔法資質がなくとも魔法に関する基礎知識を学ぶ機会はいくらでも存在する。だが、この世界にはその根本的な機会がほぼ皆無に近い。

 その主な要因は魔法が軍事力と密接に繋がっているためだ。いくら国立魔法大学と魔法科高校が国立の高等教育機関であろうとも、卒業後の進路先の半数近くが軍関係に偏っている時点で昨年春のメディアの指摘も決して間違ってはいない。

 

「魔法を使えようが使えまいが、魔法の仕組みぐらいは知識として勉強したとしても、直に魔法が使える訳じゃない。安全を期す意味でも最低限の知識は必要だと思うんだがな」

「その意味で平和利用を掲げている研究者には肩身が狭い訳だよね……まさか、ディオーネー計画にカーラ・シュミットを引き入れることでお兄ちゃんやお兄様への説得材料とするつもりなの?」

「それこそ愚か者の思考だと思うがな」

 

 仮に魔法科高校は置いておくとしても、これで国立魔法大学まで卒業単位認定なんて馬鹿げた話を持ち上げるつもりなら、それは明らかに職権の濫用に踏み込むことになる。その最大の理由は真紅郎や佳奈がいることだ。

 基本(カーディナル)コードの発見という現代魔法における画期的な発表をしたにもかかわらず、佳奈はもとより真紅郎も高校卒業の面で便宜は図られていない。それで『トーラス・シルバー』だからといって卒業単位認定なんかすれば、明らかに百山が自らの権威を高めたいとしか思えない行動をしているとしか言えなくなる。

 政府やメディアに学校運営を干渉されたくないという表向きの理由があるとはいえ、原作では神田議員に対して毅然と対応した学校長として情けない姿を晒すことに繋がる。

 

「そもそも、今の俺は師族会議議長にして神楽坂家現当主だ。だが、エドワード・クラークやウィリアム・マクロード、イーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフのように表向きの社会的立場を明確に出していない。ま、達也や深雪にはクラーク親子のことと『トーラス・シルバー』の件も既に掴んでいると教えているし、四葉本家も把握している」

「そうなると、リーナが帰国する関係で私も否応なく巻き込まれそうだよ……レイモンドが顔を見せに来たら、容赦なくボコボコにしてやった上で堂々と“国外追放”で帰るけど」

 

 セリアの知る原作知識では生き残ったレイモンドだが、本気で怒らせたセリア相手に逃げ切れるとは思えず、心の中で合掌した。彼の自業自得なので同情する気など皆無だが。

 

「仮に、このまま佐渡でひと当てあったとするなら、少なくとも達也に動員が掛かるのは間違いないだろう。俺も『サード・アイ・エクリプス』の使用許可を求められるだろうな」

 

 モスクワの新ソ連政府内部の様子は把握済みだ。ベゾブラゾフの提案に基づき、黒海基地の動きも慌ただしくなっている。それに合わせてモスクワ駅の軍用列車も動きを見せている。いくら偽ろうが、人と物の動きまで完全に誤魔化すことは魔法で光学迷彩を展開し続けない限り不可能に近い。

 現時点でベゾブラゾフは達也を敵視していない可能性が高い。彼が本格的に敵視するのはディオーネー計画が発表された後だが、油断はできない。寧ろ悠元が敵視される可能性が高い訳だが、不幸中の幸いは悠元の戦略級魔法『星天極光鳳(スターライトブレイカー)』がクラーク親子を以てしても解析しきれていない点にある。

 

「お兄ちゃんが対処する可能性はないってこと?」

「そもそも、俺は独立魔装大隊の特務士官ではあっても“非戦闘員”―――余程の非常時でない限りは戦列に加わる命令など出来ないようになっている。俺への命令権限は今上天皇陛下にしかないからな。ようは英国でいうところの女王陛下直属の魔法師みたいなものだ」

 

 事実上の“最終防衛ライン”に差し迫らなければ命令権限が発動することはない。沖縄防衛戦の時も当時所属していた兵器開発部ではなく統合幕僚会議の要請を受けて戦列に加わっている。無論、それに助言したのは祖父の剛三だということは後で聞いた話だが。

 

「昨年の九校戦以降、佐伯少将の行動が目に余り始めたから俺は昇進の話を受諾した。非公式ながら国防陸軍特務中将って……普通なら20年から30年ぐらい勤務して漸く座れる椅子の筈だが」

「お姉ちゃんを超えてるし……」

「リーナの場合は仕方がないだろう。それこそ十代で常任の大佐や准将クラスになんて上げたら、スターズだけでなくUSNA軍からも要らぬやっかみを買うことになる」

 

 正式に軍へ入っている(厳密には“入っていた”なのだが)リーナと特別な形で軍属を持つ悠元とでは置かれている立場が異なる。正直、リーナが総隊長になるのはまだしも、その副隊長兼総隊長補佐としてベンジャミン・カノープスを置けばまだ違ったのかもしれない。

 いくら失った“シリウス”の穴埋めとはいえ、USNA軍統合参謀本部の性急すぎた行いによってスターズ内部で軋轢が生まれていた、というのはリーナの身近にいたセリアが一番よく理解していた。

 

「私もそれとなくフォローはしてたし、“シリウス”を暫く空席にしてでもお姉ちゃんの実績を積ませるべきだと訴えたんだけど……何も分かってない」

「その結果の一端が辞めていった軍人や議員というわけか」

「そっちは単純にリーナや私とか、あとは女性隊員にセクハラとかしようとしたからね。自ら喜んで的役になってくれたんだけどなあ」

 

 それは確実に“脅した”と解釈しても差し支えがない話だが、悠元はそれ以上の追及を取り止めた。単に色々ツッコミを入れるのが面倒になっただけだが。

 

「ともかく、近日中にベゾブラゾフが動くのは確定している。達也に『トゥマーン・ボンバ』の詳細を聞かれたら教えるつもりだ。昨年の春に七宝と戦った際、その改良した技術を使ってるからな。多分達也も気付くだろう」

「何かそんな気がしたんだよね。支倉さんの件からしてお兄ちゃんが周公瑾の亡霊を食っちゃったんでしょ?」

「物理的に食った覚えはない。知識だけ引っこ抜いて消滅はさせたが」

 

 何だかんだ原作人物との関わりを先取りしていることには溜息しか出てこないが。すると、セリアが思い出したように悠元へ向けて拝む様な形で頭を下げた。

 

「お兄ちゃん、お願い。『アルテミス』は流石に持ち運べないから、別のCADを作ってほしい」

「……まあ、そう来るかもとは思ってた。入学祝という形で今製作中だから……主に牛山さんの役割だが」

「あの人のことだから、明日ぐらいには仕上げて来るんじゃない?」

「有り得なくもない、というのが本音だな」

 

 そもそも『アルテミス』自体が達也の『サード・アイ・エクリプス』みたいな扱いの代物なので、普段使いする用のCADを渡すことは考えていた。仮にリーナがセリアを同行させたときの案として護石を搭載したCADを引き渡すことにしたのだ。

 今のところ、護石を渡したのは達也、深雪、幹比古、レオ、エリカの五人。残る波長適合者は……セリアとリーナが確定して、ほのかと雫、それと水波も含まれていた。パラサイトの軍事利用にも抵触しかねない為、また増えるであろうパラサイトを封印して護石化したとしても誰かに使わせる気など無い。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 悠元とセリアが話し合っていた頃、都内の高級料亭で泉美は第一高校の制服を着て一人で待っていた。普通ならば保護者となる泉美の母か弘一、そうでなくとも彼女の兄たちが同伴していないと彼女がこの場にいることに違和感を持つ者が少なくない。

 だが、今日彼女がここにいることは七草家の殆どの人間が知らない。双子の勘で気付きそうな香澄には事前に話したが、それを聞かされた香澄は頭を抱えつつも「ボクは何も聞かなかったことにしておくよ」と答えた。

 その理由は、襖が開いて姿を見せた人物―――十師族・六塚家当主の六塚温子であった。

 

「泉美さん。いえ、これからは泉美ちゃんと呼ぶべきかしら。待たせてしまってごめんなさいね」

「いえ、私もつい先程来たばかりですので」

「そうなの。形式上は私の養女ということになるけど、年齢を考えたら姉妹のように接してほしいの」

 

 この話は最初、七草家の件で頭を悩ませていた弘一の妻が千姫へ内密に相談し、そこから泉美の格を出来る限り落とさない方向で五十嵐家に話が持ち込まれ、亜実と燈也の繋がりで六塚家に話が回ってきた。

 

「分かりました、温子お姉様。この度は父が皆様の敵と言える人物に内応し、多大なご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。本来ならばこのような機会を頂けることなど有り得ないと覚悟しておりました故、六塚家の器の大きさにただ感謝するばかりです」

「……えーと、泉美ちゃん。もしかして、師族会議の顛末を誰かから聞いたのかしら?」

 

 話を持ち込まれたのが師族会議の前だったこともあり、温子は初めて聞いたときに七草親子の不仲を疑った。実際、燈也からの証言を得る形でそれが分かり、温子としても悠元を介する形で四葉家と縁を持てるのならばいいと判断して話を受けた。

 

「はい、悠元お兄様―――神楽坂殿より『当事者側として一連の事情を知った方がいい』とのご厚意で。二木家と縁を結ぶ真由美お姉様は昨年の論文コンペのあたりで聞かされていたと伺っています」

「成程、神楽坂殿が……にしても、血の繋がった七草殿に対して辛辣な評価なのね」

 

 温子は以前、悠元がまだ三矢家にいた頃に泉美と婚約を結んでいて、国防軍襲撃の件で婚約を解消された件を聞いていた。温子の問いかけに泉美は顔を俯かせつつハッキリとした口調で答えた。

 

「元はと言えば、姉と私自身の我儘のせいでもございますが、本来娘を止めるべきであろう父親がお兄様のご実家である三矢家、それと四葉家の繋がりを警戒した結果としてお止めにならなかったのです」

「そうだったの……何にせよ、私は六塚家が神楽坂家の外戚になっても、それを笠に着るような真似は致しません。ただ、何か御助力してほしいことがありましたら遠慮なくご相談していただきたいと神楽坂殿にお伝えしていただけますか?」

「分かりました。それでは……七草泉美改め六塚泉美、温子お姉様の娘として何卒宜しくお願い致します」

 

 泉美も悠元と婚約する際、七草家と縁を切ることを真っ先に考えていた。自分の癇癪のせいで迷惑を掛けた部分もあるわけだが、それすらも勘案した上で婚約を復活してくれたのは本当に嬉しかった。

 ならばこそ、その恩情に応える最も分かりやすい方法―――七草家との縁を切って嫁入りすることで、悠元に対する礼儀としたかったのだ。同じ十師族である六塚家の養女となることに抵抗が無かったのは、そのことが念頭にあったためである。

 ただ、一つ上の燈也を“叔父”と呼ぶのはどうかと思わなくもなかった泉美であった。

 




 悠元とセリアの会話だけで埋まり切らなかったので、泉美の六塚家入りの話を入れました。普通なら法的手続きとか細かい話はどうしているのだと思いますが、そういうこまけえこたあいいんだよ(何
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