魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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降ろそうとしたら雪だるま式に増えていく

 明日、4月7日は魔法科高校九校の入学式だ。

 一昨年は新入生総代だったが、独立魔装大隊というか佐伯少将の“非常識な要請”によって出ることが出来ず、結果的に深雪へ負担を押し付ける格好となった。合わせて達也に苦労を強いる格好となり、結局ほぼ原作通りの流れを辿る羽目となった。

 昨年は生徒会役員として来賓の応対を任され、その際に克人や七草姉妹との再会、七草真由美(こあくませんぱい)の暴走の一幕もあった訳だが、比較的穏便に事が進んだ形となった。

 

 そして、今年は部活連会頭として入学式の手伝いをすることになるわけだが、来賓の顔ぶれを考慮すると深雪だけに任せるのは良からぬ考えを持つ輩を近づけることにもなる為、自分が応対する必要が出てくるだろう。

 まあ、原作に比べると生徒会のメンバーも7名と増員したため、役割分担によって深雪や達也の負担が減るのは確かであるし、風邪が治ったほのかも張り切っている。それを見た雫が「今度は張り切り過ぎて知恵熱で倒れなきゃいいけどね」と釘を刺す様に辛辣な言葉を吐いたのは、いつものことである。

 

 負担が減ったとはいえ、明日の為に早めに寝るのは達也たちも同意見であったが、先に風呂に入った(最近は達也、悠元、深雪の順になることが多く、その後に水波が入っている)悠元が自室に戻ると、極秘の暗号メールが着信していた。

 すぐに目を通した悠元は端末を立ち上げ、『八咫鏡(ヤタノカガミ)』で北陸―――佐渡島を基点に成層圏カメラや各種データなど、周辺の情報変更履歴をすべて集めた。人伝に聞く情報も有用だが、まずは現地の情報を全て把握しておく。

 その情報を整理し終えた所で司波家のキャビネットに情報を転送した。それが完了したのを見計らったかのように達也からの内線が掛かってきたのは、悠元が自室に戻ってから45分後だった。

 

 達也ならすぐに情報を伝えるものかと思ったが、どうやら深雪と水波が風呂から上がるのを待っていたようだった。悠元がリビングに姿を見せると、既に座っていた達也と深雪、水波が悠元のほうに視線を向けた。

 窓は既にシャッターが締められており、こちらを覗いて情報が漏れる可能性は極めて低いだろう。悠元は深雪の隣に開いている席に座り、達也と向き合った。

 

「すまない、待たせたか?」

「いや、俺も少し考えたかったからな。情報のほうは集められたか?」

「時間をくれたお陰でな。キャビネット、コード“イクシオン”」

 

 悠元の言葉でキャビネットに今回の一件―――佐渡島を中心とした周辺地図が表示される。これにはまだ何も知らされていない深雪と水波は首を傾げているが、達也は既に四葉本家からメールを貰っているようであり、その地図が出たことに対して驚きはしなかった。

 

「本日の午後、佐渡島の北端から北に50海里(92.6キロメートル)のところに不審な貨物船が昨日より出没というか漂流に近い形で停泊していた。その船を調査しようとしていた一条家の調査船が魔法攻撃を受けた。早い話が、その不審船が敵の仕掛けた罠だろうな」

 

 正直、忠告はしなかった。流石に5年前のことが穏便に済んだ以上、下手なリスクを負う方が危険だと理解する、と判断していたからだ。だが、一条家当主は敵の正体を暴くためにリスクを承知で敵の仕掛けた罠に飛び込んだ形となった。

 

「広範囲の海上爆撃を防御しようとして、一条剛毅殿が重態の状態に陥ったそうだ。意識はあるものの、肉体が満足に動けないらしい」

「本家は魔法演算領域の過負荷による麻痺状態ではないか、と推測しているが……悠元の見解はどう見る?」

「概ねその認識で間違いない。俺も立場上こういう症状の人間は見たことがあるからな」

 

 深雪は口に両手を当て、驚きを露わにしている。水波に至っては表情が抜け落ちてしまったような驚きを垣間見せていた。これには悠元と達也がお互いに見合い、思わず苦笑を漏らしてしまった。

 達也は殺し合いも前提とした魔法師との戦闘訓練を受けてきていたし、悠元は第三研や祖父の絡みで軍人魔法師と手合わせしたり、魔法演算領域の過負荷による現象も目撃していた。単に経験値の違いなので深雪や水波の反応も仕方がないと思う。

 

「物理的に神経系統が損傷を受けているわけではないし、意識があるのなら回復の目途も立つ。ただ、一条殿も無茶をしたな」

 

 原作を知っているからこそ、その流れに沿っていることには色々複雑な気持ちである。達也のメールに書かれた四葉本家の報告書によると、剛毅は魔法師を守る為に四枚の魔法障壁を張って防御した。三枚も破られたが、残る一枚で辛うじて止めることが出来た。

 だが、剛毅は大人数の魔法師を守る為に現代魔法では効率が悪いとされている障壁魔法を選択した。剛毅が部下の魔法師をどのように思っているかは知っている為、『仲間』を守る為に命を張ったと考えるべきだろう。

 

「一条殿がこういう状況になったからと言って、将輝がスライドして一条家の当主へ簡単になれる訳じゃない。何より神楽坂の現当主である俺がそれを一番よく理解している」

 

 魔法力だけを見れば将輝は当主足り得る資質を有するが、一条家のネームバリューというのは単に魔法力だけで語れないプレゼンスを有する。それを明確に示したのは5年前の佐渡侵攻に際して一条家を中心とした義勇兵の存在だ。

 戦場で活躍したのは将輝(プラス民間人扱いだった燈也)だが、そこに至るまでの強い働きかけで義勇兵を起こせたのは現当主の剛毅の尽力によるものだ。

 

 悠元は魔法の実力を見せることで神楽坂家の次期当主となったが、そこから『伝統派』の解散と聖域構築を功績として当主となった。誰しもが無視できない尽力の功績という意味で、将輝は当主としての箔が足りないのだ。

 

「一条家にも無論当主不在の際の対処法はあるだろう。一ノ倉家や新たに十師族となった一色家もサポートはするだろうが、守護地域が隣り合う四葉も他人事では済まされないだろうな」

「私達が派遣されるのでしょうか? それとも、悠元さんが?」

「流石にそれはリスクが高すぎるし、何より俺自身一条家と因縁を持ってしまっている。緊急時にいがみ合うこと自体馬鹿げているが、将輝が絶対にいい顔をしない」

 

 悠元の固有魔法『領域強化(リインフォース)』による魔法治療は確かに強力だが、その副次効果を考えると一条家相手には使いたくない。それに、深雪の件で将輝と蟠りを持っている部分も大きい。

 一条家当主が動けない状態となっている時に何を言っているのかと思うが、仮に悠元が剛毅を治療したとしても、将輝が悠元に対する感情を改めるかは別の問題。しかも、一条家の次期当主ということからして、この先数十年は顔を突き合わせることになる相手と必要以上に諍いなど起こしたくなどない。

 なので、悠元は次善策を既に三矢家と四葉家、それと北海道方面を監視・守護する七宝家へ提示した。

 

「三矢家には当分太平洋方面の国外情報収集に専念してもらうことにした。七宝家には新ソ連方面への警戒を強めるよう進言しておいたし、四葉本家には夕歌さんを神楽坂家の魔法治療師として派遣する方針を伝えた」

「夕歌さんは魔法師の治療が出来るのですか?」

「俺が魔法治療の技術や魔法演算領域の知識を全て叩き込んだ。司波家にしょっちゅう来ていたのは単に婚約者としての絡みだけじゃなかったんだ」

 

 国立魔法大学大学院で『魔法演算領域のオーバーヒート』に関する研究をしている夕歌に、悠元は現行の魔法技術では解明されていない魔法演算領域の仕組みや、『リンカーコア』、『ゲート』を含めた魔法師特有の『魔術回路(マテリアル・サーキット)』の知識を全て教えた。

 なお、それを聞いた夕歌曰く「そのどれか一つでも発表したら、平気で一生食べていけれるわね」と溜息交じりに言われた。非常識なことは認めるが、納得がいかなそうに言われたことは解せぬ。

 

「必要最低限の護身術なども教えているが、本人の得意分野を生かす意味で教えたんだが……当たってますよ、深雪さん」

「当ててますから」

「……いちゃつくのは部屋に戻ってからにしてくれ」

 

 魔法演算領域自体、ブラックボックスの要素が多すぎて現行の魔法技術では解明できていないとされている。だが、達也の目の前にいる人物はその領域すらも既に解明していた。驚くことが多すぎて、もう何が出てきてもおかしくはない埒外の天才だな、と達也は改めて思った。

 

「それで悠元、強力な爆撃による魔法攻撃と言っていたが」

「こっちの分析から推測するに、攻撃は水を分解して生成される酸水素ガスを点火することで広範囲を爆発させる魔法という解析結果が得られた」

 

 そもそも、悠元は『灼熱と極光のハロウィン』で『トゥマーン・ボンバ』を読み取っている。なので、魔法の性質やそれに使われている技術、魔法の効果も既に把握しているが、今すぐに言うことでもないのでその部分に関しては言わなかった。

 

「威力としてはどうだ?」

「単発としての火力で言うなら『マテリアル・バースト』と比べて遥かに劣る。だが、この魔法は複数地点で同時に点火させることで威力を重ねたり、広範囲を爆撃できる可能性がある。先日モスクワ郊外で使われた魔法の結果と酷似していることから、恐らく同一の魔法の威力を落として発動させたとみるべきだ」

 

 そもそも、単発火力を『マテリアル・バースト』と比べること自体おかしいことだが、達也が受けた戦略級魔法だとそれ以外なら『ヘビィ・メタル・バースト』しかないためだ。下手にその他の戦略級魔法と比較するわけにもいかないので、悠元は話を続けた。

 

「たかが船一隻相手にとは思うが……多分情報が国防軍から流れてきてないから言っておくが、3日前に新ソ連の黒海基地でレオニード・コントラチェンコとイーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフが会談した。新ソ連の『十三使徒』が揃って会談した3日後にご覧の有様だ。多分、達也が超遠距離魔法による支援という形で招集が掛かる可能性がある」

「やはりか……悠元が情報を纏めている間、俺もその可能性について考えていた」

「新ソ連が攻めてくる、ということですか?」

「本格的な侵攻とは思えんが、念には念を入れておくつもりだ」

 

 本来、達也に流すべき情報を意図的に流していないことはとうに知っていた。響子に確認すると「ごめんなさい」と謝罪されたほどだ。別に個人的な誼を持ったとしても、達也の戦略級魔法を使う最終許可を出すのは悠元だ。

 仮に達也の戦略級魔法を使わせようと婚約者や家族を人質にとるような真似をした場合、『鏡の扉(ミラーゲート)』で乗り込んだ上に『流星群(ミーティア・ライン)』で全員あの世に行ってもらうことも辞さない。

 欲の為に法の倫理を破れば、こちらが超法規的措置に乗り出しても誰も咎めるものは存在しない。そういう気質は良くも悪くも今の母親譲りなのかもしれないが。

 

「今の国防軍……というか、達也が四葉家の人間だと明確にした以上、独立魔装大隊としては距離を置くことを選択するだろう」

「……俺の戦略級魔法『質量爆散(マテリアル・バースト)』か」

「そういうこと。俺が一応特務中将として陸軍総司令部所属になっているが、最悪蘇我大将の提案を呑まざるを得ないだろう」

 

 今年初めに悠元が特務中将へ昇進した際、蘇我大将―――正確には()()しての話だが―――から大友参謀長の件と合わせてもう一つの話を持ち込まれていた。それは、統合軍令部への転属の話だった。

 

 悠元が発注して完成した「ずいかく」と「ずいほう」。この二隻の空母の扱いが一番問題視されたのだ。空母自体は海軍の管轄だが、艦載機は現行の国防軍法と経済規模・人員を鑑みて空軍の管轄となっている。

 そこで、元々の提案者である悠元が国防陸軍の特務士官であることに防衛省の制服組が目を付け、空軍と海軍の階位を与えようと考えたのだ。その結果、悠元―――上条達三という軍人は陸軍特務中将兼海軍特務大将兼空軍特務少将という何ともちぐはぐな階位になってしまったのだ。

 

 階位の上げ方は当初少将で揃える予定だったが、佐伯の動きを見た蘇我が陸軍総司令部への転属を含めて九島烈ですら成し得なかった特務中将に昇進。それを聞いた海軍が「ずいほう」の就役に合わせて異例の特務大将へ昇進。空軍も現在特務大将への昇進をさせようと画策しているらしく、それを蘇我経由で聞いた悠元は深い溜息を洩らした。

 

「何かあったのか?」

「実はな、大人たちの醜い争いのせいで三軍の将官クラスの階位を持ってる。非常任職だが一応給料も出る……別に昇進したくないし、ただ魔法装備の開発と解析をしてただけだというのに……その件で蘇我大将から統合軍令部への転属提案を話された。一応保留にしたが」

 

 ちなみに、空軍と海軍の階位については第101旅団および独立魔装大隊に対して通達されていない。変に調子に乗ったり暴走する可能性があるためらしい。防衛省側も国防軍の改革にあたって反十師族・反九島烈のグループの扱いに困っているらしく、この前は防衛省に呼び出された挙句防衛大臣の大人気ない愚痴に付き合う羽目となった。

 その後、事情を聞きつけた総理大臣が防衛大臣に拳骨をお見舞いし、揃って土下座するという有様に引き攣った笑みしか出てこなかったのは決して俺のせいではないと思う。寧ろ、摩利に拳骨と説教を喰らう真由美のような既視感を思い出しての苦笑であった。

 

「常任職じゃないから、いつでも辞められるという利点はあるが、達也のことを考えると縁を切るということにはならんだろうな。それは別に構わないが……もしもの場合、沖縄の時のように大黒特尉を自分の部下―――総司令部参謀補佐官として引っこ抜くことも考えないといけない」

 

 セリアから聞いた話では、原作における未来の達也はベゾブラゾフのこととリーナの一件を皮切りに軍との関係を切っているが、『マテリアル・バースト』のことを鑑みると達也の“公的な場における社会的地位”は別にあったとしても問題はない。

 大体、師族会議成立時に定めた“軍関係組織や政府と深い関わりを持たない”なんて、提唱者の九島烈自身が国防軍に強い影響力を有している時点で矛盾しているのだ。

 

「それは、お兄様の魔法を公に使うための便宜ということですか?」

「有体に言えばそうなる。他人に管理できないものを無理矢理管理しようとしている時点で破綻するんだ……ま、新ソ連の動きがどうなるにせよ、今のうちに言っておく。俺は国防軍特務中将の権限を以て大黒竜也特尉の魔法使用および『サード・アイ・エクリプス』の使用許可を出すつもりだ」

 

 新ソ連の動きが本格的な侵攻とは程遠い動きの為、今回はあくまでも“演習”の要素が色濃い。だが、物事というのは感情の爆発で思わぬ方向に舵が切れることもある為、今回は達也の魔法使用に関して特に制限を設けるつもりはなかった。

 

「そうか……どこまでやったほうがいい?」

「勝ち過ぎるのもあれだから、船の溶接を『分解』して一隻ぐらい沈めれば、新ソ連の兵士にはいい運動になると思うけど……相手の魔法を防げればそれ以上手を出す必要もないだろう。必要なら俺が止めを刺す」

 

 それに、達也が別に全ての責めを負う必要は無い。悠元も遠距離魔法で支援できるため、もしもの時は艦隊全部を『鳳凰』で灰燼に帰してもお釣りは十分に来るだろうとみている。新ソ連の対日感情が悪化するかもしれないが、佐渡の件を意固地として認めていない新ソ連政府の責任であり、こちらに何ら咎められる謂れなど皆無だ。

 

 撃ったということは撃たれる覚悟を以て行った、と解釈するほかにないのだから。

 




 普通なら有り得ないことですが、非常任職ということと二隻の空母とその艦載機の扱いは慎重にならざるを得ない結果として悠元が複数の階位を持つ形になったと解釈してください。

 これまでも後書きで触れていましたが、魔法の根幹部分は原作やその続編小説でもまだ断片的でしかない為、ほぼオリジナル要素に基づく推測が多くなります。
 ただ、古式魔法と現代魔法で出来ることに差が出るということから、術式の構成か触媒あるいは思考のプロセスに“情報”を制御する仕組みが備わっている可能性が高いと思われます。この辺は原作の八雲と達也のやり取りもヒントになるかと。
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