魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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無自覚の戦略級魔法(女性限定)

 ―――誕生日。

 

 それは当該人物が生まれた日のことを指す。誰かに言われなくても解りそうな事柄だ。

 自分の場合は『とあるイベント』と被っているためにプレゼントが変則的だが、それを毎年続けられると慣れてしまう。別に慣れたくて慣れたわけではないが。

 

『悠元お兄様! プレゼントのチョコです! 去年より更に磨きをかけました!』

 

 だからと言って詩奈(いもうと)よ、おいしいものを食べてほしいという気概は買うにせよ、力を入れる方向を間違えてどうする。

 自分は血の繋がった兄であり、無理にこだわらなくてもシンプルなのでいいと言ったのだが……それを受け取るとき、彼女の後ろにいた侍郎から羨ましいような嫉妬のような複雑な感情を向けられていた。

 妹はこれだけで済むのでまだよかったのだが……まあ、思い出すだけでも辛い記憶は思い出さないほうがいい。

 

 そんなことはさておき、時はブランシュの一件が片付いた後。

 悠元が居間で端末のキーボードを叩いていると、深雪が声をかけようかどうしようかと悩む表情を見せていた。その様子が可愛いと思いつつも表情に出さないように努めながら問いかけた。

 

「どうした、深雪? 相談事があるのなら乗るけど?」

「あ……えっと、実は明日のことでご相談がありまして……」

 

 深雪が相談したかったことは明日―――4月24日。それは達也の誕生日であった。

 彼女としては、達也のためにいつもより気合を入れた料理を振る舞い、高校に入ってから入り浸るようになった喫茶店「アイネブリーゼ」でクラスメイトを呼んで軽めの誕生日パーティーの予定だ。

 後半の部分に関しては自分からということではなく、エリカが予約していた。なお、パーティーの代金についてはエリカからの話を聞いた後に一括払いしている……それでも口座の桁が微動だにしないのは喜ぶべきなのか、悲しむべきなのかわからないが。

 それで、都合がついたのは司波家にいる三人以外だとレオ、エリカ、美月、燈也、雫、ほのかの六人となった。なお、電話をかけてきたエリカ以外の五人は達也の誕生会だということを知らない。

 

「その、悠元さんに和食の心得があるのならお手伝いを、お願いしたかったのですが……」

「それぐらいなら、言ってくれれば手伝うよ?」

「本当ですか!? ありがとうございます」

 

 にしても、少々意外な提案である。深雪のことだから『私一人でもできますから』と言い張りそうなものなのにだ。その辺を聞いたところ、深雪はこう返した。

 

「お菓子作りはいつも泣かされてますから、料理ぐらいは驚いてもらおうかと思いまして」

 

 泣かしてるつもりは微塵もないんだが……というか、そのせいで司波家のキッチンの出入りをかなり厳しく制限されている。達也としては一向に構わないのだが、妹に勝てないということで民主主義のルールが働いているというわけだ。

 それでも深雪が外出している時を見計らって菓子作りはしている。それぐらいなら……と深雪も渋々認めているというわけだ。

 

「まあ、料理の手伝いはさんざんやってきたから、手伝うけど……今日は仕込みまでかな?」

 

 CAD製作の延長上で手先を器用に動かせる練習はないか、と考えた結果料理と菓子作りを三矢家の実家や上泉家で学んできた。これでも味に煩いうちの姉(長女)や従姉を納得させるだけの腕前はある。それでも深雪には勝てないだろうなと思う。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 何をやらせても得意な人はいる。そういうのはお伽噺だと思っていました。

 お兄様の誕生日のために美味しい料理を作る。それには手を抜くつもりなんてありません。なので、今年は悠元さんにもその手伝いをお願いしたのですが……様になっているというか、動きに淀みがありません。まるで一流の料理人のような手捌きなのです。

 聞けば、三矢家の使用人から教わったり、上泉家では門下生の食事番をすることが多く、その際に学んだと教えてくれました。

 

「味を見てもらえる?」

「あ、はい……大丈夫です」

 

 美味しいのです。確かに美味しいことは事実です。それは、私ですらまだ届いていない領域。

 私も努力は欠かさずにしてきたつもりです……でも、時に『天才』という存在はそれを凌駕する。こういう考えをしている時でも、油断はしません。包丁を扱う以上は指を切る危険性もありますし、この程度でお兄様を煩わせるわけにはいかないのです。

 

(悠元さんは……逆に何ができないのですか?)

 

 前日にできる仕込みを終え、空いた時間でコーヒーを淹れようと豆を挽きながら考え込んでいた。お兄様以外の異性でここまでの思考を割く人は、正直言って悠元さん以外に考えられない。

 入学してから色んな異性の人に話しかけられるが、そのどれもが耳障りのよくない言葉ばかりでウンザリしてしまっていた。

 

―――貴女のような素晴らしい方と同じ学科に入れる栄誉を……

 

―――一科生(ブルーム)の名の通り、我が校に咲き誇る花……

 

 学校の評価システム上、お兄様とは同じクラスになれない。それは仕方ないとしても、せめて悠元さん……その時は素性のことを知らなかったので、佑都さんが同じ学年でいてくれたらいいなとは思っていた。

 

 そんな淡い願いが通じたかのように、彼は同じ学年の生徒となっていた。彼は十師族の人間だと明かし、お兄様と握手を交わした。

 この時、私の思考では彼が三矢家の人間だということをどこかに追いやっていた。理由はうまく言えないが、私にとって大切な人と一緒の学校に通える……それが嬉しいと思えたのだろう。

 その前には彼の出自など些細なことだと……これは私が自分の出自を理解していたからこそ、そう言い切れたのかもしれない。

 

 お兄様からは『お前は悠元のことが好きじゃないのか?』と聞かれたことは何度もあるが、私は誤魔化した。

 私にとって、その命を投げ出してまで私を救ってくれた人。

 こんな私と上辺だけでなく正面から向き合ってくれる人でもあり、私の力ではなく私自身を見てくれる人。

 

 この気持ちは……まだ私にも解らない。

 お母様も私の遺伝上の父親とは政略結婚だったため、恋愛ということを知るには書物などの知識を得るだけ。悠元さんへの気持ちは敬愛……今の私には、お兄様と同じぐらい大切な人。

 でも、それが恋愛と呼べるものなのかどうかはハッキリとしない。

 

 それに、悠元さんは私が思っていたよりも手強い。けれど『俺のように感情が乏しいわけではなく、彼の心は俺以上に苦しんでいるだろう』と以前お兄様が仰っていた。

 だから、せめてお兄様や悠元さんに並ぶぐらいに強くはなりたい。あくまでも、私にできることを突き詰めていくだけなのだと……

 

(あ……また、やってしまいました……)

 

 気が付けば、魔法がほんの少し漏れていた。これは少し恥ずかしかったが、お兄様が飛んでこなかったことと言葉に出なかったことだけは幸いだった。

 

 ……お二人は優しいけれど、その二人を癒せるようになりたい。

 それだけは、今自信を持って言えることだから。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 4月24日。

 

 達也はいつものように九重寺へ鍛錬をしに行く。

 料理の準備は基本的に深雪が担当し、自分はその味見兼バックアップだ。

 達也が帰ってくると、着物に割烹着という装いの深雪に驚くような素振りを見せていた。

 

「今日は誕生日じゃないか、達也の」

「悠元……ああ、そうだったな。忘れていたよ」

「ささ、お兄様は席に座ってくださいね」

 

 そうして達也は深雪の準備した朝食を頂く。その空気を壊さないために自分の朝食は自分で作って先に頂いたのだが……その時の深雪はムスッとしていた。深雪には達也の朝食の準備があるため、手が離せなかったので仕方がない。ついでに深雪の分の朝食も作ることにした……どこか納得いかないような顔をされてしまったが。

 

「……うん。腕を上げたな、深雪」

「あ、はい! お兄様に喜んでもらえて嬉しいです!」

 

 こうして見ると微笑ましい兄妹ですね、と思う。そんなことを思っていると、いつの間にか背後にいた深雪が満面の笑みで両肩を掴んでいた。地味に力が入っていて痛い。

 

「悠元さん、後でお話ししましょうか?」

「いや、俺が何したっていうんだ? 二人を見てたのだって、微笑ましい兄妹だなって思ったぐらいだし……深雪はいい奥さんになれると思うぞ」

「……悠元さんはズルいです、卑怯です、ジゴロです」

 

 それだけを言われても、理由が解らないと答えようもないし考えようもない。褒めたのが拙かったの? とは思いつつも貶す要素もない。頬を紅く染めながらズルいとか卑怯とか言われても……こっちが困る。

 そして、いつの間にかそれを見ていた達也が一言。

 

「頼む」

「何を!?」

 

 俺は改めてこう思う。司波兄妹は色んな意味で難解な兄妹なのだと……原作でエリカが『この兄妹にツッコミを入れるほうが間違ってる』と言っていたが、まさしくその言葉通りだと思う。

 

 

「悠元……盛大に疲れてない?」

「まあ、色々あってな……パーティーまでには立ち直るから、気にしないでくれ」

 

 その夜、アイネブリーゼを貸し切る形で達也の細やかな誕生会が開かれた。

 実は達也の母親である深夜も行きたがったのだが、下手に行くと七草家の諜報に引っかかるため、日付が変わった直後に達也へ直接言葉だけで祝った。プレゼントは既に送っているとのことらしい。

 達也の叔母も行きたかったらしいのだが……これ以上語ると別の意味で闇を見そうだから慎むことにする。

 すると、料理を持ってきたアイネブリーゼのマスターが尋ねてきた。

 

「しかし、今日は一体何の日かな?」

「お疲れ様会みたいなものですよ」

「実は達也君のお誕生会だったり!」

『ええっ!?』

 

 案の定、達也の誕生日を知らない人間は絶句。

 エリカも誕生月は知っていたが、誕生日を深雪に確認した時に色々誤魔化されたことに睨んだが、深雪は何食わぬ顔で微笑んでいた。こういう芸当をシレっとできるあたりは母親譲りなのだろう。

 呼ばれた面々はプレゼントを用意できなかったことに申し訳なさそうな表情を見せていたが、ここでマスターが助け舟を出した。

 

「まあまあ、達也君も君たちに気を使わせたくなかったのだろう。このザッハトルテを僕と君たちからのプレゼントということにして、手を打たないか?」

「マスター、ありがとうございます!」

 

 ケーキにロウソクを刺し、火を付けて達也が息でそれを消す。そして深雪の手で綺麗に十等分するという奇跡を垣間見た。

 そして、ザッハトルテを食することになるのだが、ここで表情が変わる人間が数名出た。厳密に言えば『その人物のお菓子を口にしたことのある女子』―――深雪、エリカ、雫の三人だった。

 

「美味しいです! ……って、深雪ちゃん?」

「ん? どうしたの、美月?」

「その、口に合わなかったのかなって?」

「う、ううん。そういうことじゃないの。確かに美味しいんだけれど……マスターさん、このザッハトルテは一体どなたが?」

 

 美月が心配そうに尋ねてきたので、深雪は上手く取り成しつつもマスターに聞いてみた。すると、マスターは苦笑しながらこう答えた。

 

「いやー、これについては悠元君が『大切な人の誕生日も近いので』ということで作ったんだよ。彼がこの前作ってくれたこれが美味しくて、レシピまで教えてもらったんだ」

 

 その言葉に女性陣の面々が固まる。これにはマスターが苦笑し、悠元が首を傾げた。

 

「君も大変だね。色々と」

「うーん、やっぱり若干甘すぎたんですかね……うん、味は悪くないと思うんだが」

「美味いことは確かだな。お店でも開けるんじゃないかってレベルだ」

 

 二人の言葉に達也は頷きつつザッハトルテを一口ずつ食べていく。

 そこにレオと燈也が口を挟んだ。

 

「達也の言う通り、確かに美味しいんだが……勉強ができて容姿もよくて魔法も使えて、おまけに菓子作りもできるって反則じゃねえか?」

「むしろレッドカードクラスですね」

「一発退場ってそりゃねえよ……レオと燈也だってモテる容姿と思うんだがな」

「この中では俺が一番平凡だろうな」

 

 別に菓子作りが上手な男性ぐらいいてもおかしくないと思う。料理や菓子作りは時として力仕事ともいえるし、それぐらいは許容範囲内ではないのか?

 あと達也。容姿云々は抜きにしても、平凡という言葉はお前に似合わない。寧ろお前から一番遠い言葉だと思う。

 

 この前、爺さん絡みの詫びも兼ねて七草家に手作りのクッキーを山ほど持って行った。

 当主の娘たち……香澄は『悠元(にい)、ありがとう!』と喜んでくれた。泉美は『悠元お兄様、ありがとうございます。大事に食べますね』と言いながらキラキラ輝くような笑顔を見せていた。真由美は『悠君は鬼畜よ……』といいつつ部屋の片隅で体育座りをして落ち込んでいた。

 綺麗に反応が分かれるって相当レアな光景だと思う。

 あと、鬼畜は甚だ心外である……もしかして、体重を気にしてたのかな? それは失念してた。

 

 他の反応はホワイトデーの時から思い返すと……響子は『君って女心を擽るのは上手いわね』といい、澪から『私、大人の女性になるから!』と宣言され、将輝の妹である(あかね)からは『私、お兄様のために一条家の者として精進致します。あと、あのどうしようもないバカ兄が申し訳ありません』とまるで実の兄を軽く貶すようなメッセージが届けられた。頑張れ将輝(にいさん)

 ここ最近は会っていないが、一色家の令嬢からは『いいですか、覚悟してくださいませ!』と宣戦布告のような返信文を投げつけられ、津久葉家にいるうちの姉の親友からは『君のこと、もっと知りたくなったわ』とメッセージが返ってきた……おかしい、ただ普通にホワイトデーということでお返しという名の手作りクッキーを送っただけなのにだ。

 

 それで、ここにいる三名の反応は―――こうなる。

 

「まったく、悠元は相変わらずねー……ま、割り切れない人もいるみたいだけれど」

「………」

「………」

「二人とも、脇腹を抓らないでくれ」

 

 割とさばさばした言葉だが、内心では『料理の勉強もしないと……』と思っているエリカ。そして、雫と深雪は揃ってムスッとした表情を浮かべつつ悠元の脇腹を抓っていた。これには美月とほのかが揃って苦笑を零したのは言うまでもなかった。

 




タイトル自体は暫定的だったのですが、コメントの意見を拾って以後はこれで行きます。コロコロ変わってしまって申し訳ありません(ジャパニーズドゲザ)
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