魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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面倒事の前の面倒事

 達也―――正確には魔法で姿を偽った悠元―――がものの3分で兵士を片付けたことに、つかさは眉を顰めた。だが、その表情が別の意味合いに変化したのは、公園に存在する街路カメラに()()()()()()()()()()()()ことが発生したためだ。これは彼女のみならずスタッフや指揮官も焦りを見せていた。

 

「何が起きた!? 状況を報告しろ!!」

「わ、分かりません! カメラはおろか、センサーにもターゲットAの反応が消失しています!」

(想子センサーにも反応がない? 一体何が起きたというのです?)

 

 街路カメラに併設されている想子センサーのモニターにも魔法の発動兆候と思しき傾向は全く観測されなかった。本来の予定とは異なる展開につかさは訝しむも、スクールの監視カメラに視線を移した上で自分に気合を入れるように“命じた”。

 

「隊長」

「何だね、曹長」

「オペレーションに入ろうと思いますので、席を外して宜しいでしょうか?」

「―――分かった、許可する」

 

 指揮官の少尉は状況が混乱している中での申し出に眉を顰めたが、この任務を授かるにあたり上官から言い含められたこと―――遠山曹長の要望に最大限の便宜を図れ―――を思い出し、つかさに許可を出した。

 命令系統に多大な支障を及ぼされるぐらいならば、いなくなってもらった方が良い。そう考えた少尉はつかさの申し出を幸いと見て、彼女を追い出すことにした。

 その判断が指揮官にとって良かったのかどうか……当の本人にも分からなかったのは言うまでもない事実として。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 その頃、公園から少し離れた人通りの多い場所にて悠元と八雲は並んで歩いていた。周りの人々は彼らをまるで避けるように歩いていくが、彼らには二人を認識しているという感覚はない。まるで、予め二人をあたかも電柱などの様な“通れない場所”と認識しているが如くであった。

 

「お手数をお掛けします、九重先生」

「いやはや、この程度は苦にもならないよ。弟子たちにとってもいい鍛錬になるからね。ところで、深雪君や水波君のほうはいいのかい?」

「今の彼女たちが現代魔法の分野で後れを取るのはほぼ皆無ですし、それに“最凶のボディーガード”が控えていますので」

 

 婚約者や愛人という筋ならば手を出すべきなのだが、今回は達也が二人のカバーリングを担うこととなった。曰く『悠元への借りを少しは清算しないと、面目が無くなる』とのこと。これにはその台詞を聞かされた対象が苦笑を滲ませ、彼の妹が笑みを禁じえなかったことも追記しておく。

 

「最強ではなく最凶……確かに、言い得て妙なことだね。それでも、君なら理由を付けてでも参加しそうなものだけれど」

「ただでさえ深雪のことで達也から強い恩義を感じるというのに、見知らぬ間に貸しが増えても困るんです。それに、復讐劇の後片付けもありますから」

「身に覚えがない貸しが増える、ねえ。確かに僕でも困る案件だ」

 

 四葉の復讐劇の後片付け―――それは、剛三以外に参加した四葉家先々代当主・四葉元造を含む四葉一族の遺体に関する案件であった。悠元は魔法を駆使して30名の遺体を全て発見して復元し、密かに日本へと運び入れた。

 この件で剛三から新陰流剣武術の総師範に関する騒ぎとなったことは言うまでもないが、それは置いといて、改めて四葉一族の葬儀がしめやかに執り行われ、復元された肉体は火葬されて四葉の村に小さな墓を作って弔われた。菩提寺は縁の繋がりで九重寺が務めることとなった。

 

「それはさておいて、35年近くも経過した死体を全て見つけて供養した……四葉殿や執事の葉山殿はいたく感謝していたね」

「その後が大変でしたけどね」

 

 流石に真夜から襲われるという事態は避けたが、深夜と深雪、水波や夕歌の四人から同時に襲われるという事態に発展した。不幸中の幸いなのは、それが春休み中の出来事であったという点ぐらいだろう。なお、それを聞いた千姫が笑っていたのは言うまでもない。

 高校生の身分なので色に溺れたくはないが、婚約者や愛人に配慮しなければならないという矛盾に近いジレンマを抱えている身として、正直どう反応すべきなのか困ることが多々ある。結局手を出しているという点で思春期の男子の性には諍えないということなのだろう。それでも気心を許せる相手にしかそういう態度を取らないように細心の注意を払っている。

 

「仏門なら破戒僧と言うべきものだけど、噂に聞く初代様も大層女子に好かれていたらしいからね。僕には到底難しい世界だ」

「到底どころか、悟りを開くために精進する仏僧として欲に浸かることなどあってはならぬのでは?」

「これは手厳しいお言葉だね」

 

 情報部の司令部は既に居場所を特定したため、そちらは八雲の弟子と黒羽の部隊―――文弥と亜夜子が対処する算段となった。当初の目的通りにつかさを除く全員を拘束し、彼らは九重寺で一時的に拘束した後、東道青波が身柄を引き取ることで決着した。此方としても諍いの種を抱える気になどならないため、その提案を呑んだ。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 深雪が通っているマナースクールは、良家の子女(このご時世において身分というものはないため、高額の月謝を支払うことが出来る()()()()の子女、という文言が付くが)が預けられており、警備員も民間の犯罪組織程度であれば問題なく排除できるレベルの女性が配備されている。なので、男子禁制という時代錯誤の規則があれども安心して預けている親が少なくない。

 そんな『安全神話』も今日崩壊することとなった。

 

「深雪様」

「お二人の懸念が的中してしまったことは複雑です」

 

 深雪と水波が小声で話す間、女性講師が深雪を含めた十人の生徒に対して慌てたような様子でセーフルームへの避難を促していた。生徒は深雪以外にもう一人だけ魔法師だが、護衛の方は全員が魔法師で、年代としては二十歳代から三十歳代のように見受けられる。

 事前に悠元と達也から襲撃の可能性を言い含められており、達也もスクールへの襲撃を考慮して遊撃の姿勢を取るが、あくまでもスクールが緊急事態に陥らない限りは手を出さない、と明言していた。そこは男子禁制という建前があるからなのだが、そう言ったルールを律儀に守るあたりはお兄様らしいと思った。

 何もなければそれで良かったわけだが、結局襲撃は起きてしまった。懸念が的中した慧眼は褒めるべきだが、トラブルが起きたことに関して喜ばしいことではないという点で深雪は『複雑』という言葉を選んだ。

 

「セーフルームに籠るのは悪手でしょうが、私たちが勝手な行動をして他の生徒に迷惑が掛かるのは拙いでしょうし、お兄様が駆逐するのを待つぐらいは問題ないでしょう。水波ちゃんもそれでいい?」

「はい」

 

 そう決めた深雪の行動は早く、他のスクール生に声を掛けて先導する形で決められたルートを通りセーフルームに向かう。深雪と水波、他のスクール生と護衛、講師の順で列を成す形で。

 

  ◇ ◇ ◇

 

(ほぼ予定通りか……まったく、悠元には恐れ入る)

 

 その頃、[仮装行列(パレード)]で銀髪と金の瞳というファンタジー色強めな姿に偽った達也は自分専用にカスタマイズされた[ドレッドノート]と同タイプの軍用バイク[イントレピッド]に跨って、スクール近くに停車しつつ、仮想モニターでスクール内部を観察していた。

 [イントレピッド]には達也の[精霊の眼(エレメンタル・サイト)]と連動する形で情報体次元を可視化することで必要な情報のみを達也に伝達する。個々の思考に連動する形で魔法を経由して得られる情報を選定する科学技術と魔法技術の融合は達也でも考えが及ばない領域であった。

 

 悠元が事前に今回の襲撃の予測情報を立てた上で、十分なバックアップを付けて臨んでおり、万が一の時ということで達也にも当然サポート役は存在する。そのサポート役はというと既に非魔法師の生徒という形で扮して配置しており、その情報は深雪と水波にも知らされていない。理由は『不測の事態が起こり得ない保障など無い』というもので、これには達也も納得していた。

 ここで達也が市街地に[エレメンタル・サイト]を向けると、公園で兵士を次々と無力化する達也に扮した悠元の姿があった。達也自身でも気付いていなかった癖まで再現する辺り、敵に回した時の代償が計り知れないが、幸いにして従妹の婿にして自身の遺伝上の再従弟という点では達也にとっての安心材料となっていた。

 

「さて、こちらも動くとしようか」

 

 この緊急事態に男子禁制という文言や体裁を気にしていては守りたい者も守れなくなる。そう自分に言い聞かせるようにして、スクールの襲撃者を排除すべく動き出した。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 本来なら十分程度のラグが生じたとはいえ、襲撃者についてはあっさりと片が付いた。深雪や水波と合流した達也だが、ここで生徒の一人であった綱島(つなしま)という女子生徒が進み出てきた。

 護衛の津永(つなが)が挨拶をしようとしたところで、達也が敵意に気付いて津永を突き飛ばすと同時に、綱島が無関係の女子生徒を人質に取ろうとした。ここで綱島が災難だったのは、その女子生徒が“悠元の用意した保険”―――[仮装行列(パレード)]で日本人に扮したラウラ・カーティスであったことだ。

 彼女は記憶を失っていたとはいえ、れっきとした魔法師。更には記憶喪失中に三矢(みつや)舞元(まいと)から魔法だけでなく琉球空手の手解きを受けていた。その結果として生み出されたのは、ラウラによってナイフを瞬時に叩き落とされた上に意識を飛ばされた綱島の姿であった。これには事情を知らない深雪や水波のみならず、事情を聞かされている達也ですらも思わず面を食らったような様子を見せていた。

 

「あっ、つい癖でやってしまいました」

「……(このことは事前に悠元から聞いてはいたが、正直要らぬお節介だったかもしれないな)」

 

 ただ、達也としても戦闘中に抱いた疑問がある。それは兵士との戦闘ではなく、津永を突き飛ばして気絶させた後に生じた現象―――気絶している筈の津永が魔法障壁を展開していたことだ。

 離れた場所に[ファランクス]などといった障壁を展開するという方法は達也自身も一昨年の九校戦で見ている為、それ自体が特段おかしなことではない。本来気絶している人間が無意識で魔法を行使するという事象は本来起こり得ないが、任意の人間を中継点として魔法障壁を展開するという遠隔行使だけに限れば、特段不思議な事ではない。

 問題は、対象の意識の有無に拘わらず魔法を行使するという技術の存在。

 

 その後、スクールに侵入した襲撃者は全員警察によって引き取られることとなり、相手が魔法師ということで否応なく寿和が陣頭指揮に立っていた。生徒たちへの聞き取りは女性警官の魔法師が受け持つことになった。

 

「この場合は災難と呼ぶべきなのかな、司波君」

「そう呼んでも差し支えはないかと思います、寿和さん。それでは、後のことをお任せしても宜しいですか?」

「ああ。帰りも気を付けるといい」

 

 取り調べ自体は達也本人ではなく達也に扮した悠元が受け持ち(状況や経過は達也本人から全て聞き及んでいる)、寿和も止むを得ない判断だと認識しており、詳しい話がある場合は後日学校に伺うと明言して学業に支障が出ないような配慮をすると明言した。

 深雪や水波を連れだって自走車に乗り込んで少し走り出したところで、悠元は[パレード]を解除して元の姿に戻った。それを見た深雪が悠元に労いの言葉を掛けた。

 

「お疲れ様です、悠元さん」

「ありがとう、深雪。尤も、そこまでの労力を払ったわけではないけど」

 

 国防軍情報部については黒羽の部隊によって制圧し、身柄の引き取りは八雲が引き受けた。その後の彼らの処遇は全て放り投げた形だが、こちらに不利益を被ることがないようにすると八雲が公言したため、特に問題はないと判断した。

 これで東道青波から受けた依頼は完遂したが、まだやるべきことが残っている。

 

「悠元様、これで一段落でしょうか」

「そうなってくれたら一番いいがな」

 

 大体、国家を守る国防軍の一セクションに過ぎない情報部()()に秩序の保全を疑われるような権限などないし、師族二十八家の一つである十山家にもそんな権利は存在しない。いくら師族会議と政府・国防軍との取り決めを全面的に変更したとはいえ、その権利を行使するのはまた別の問題なのだ。

 今回、動いたのが十山つかさ個人であったとしても、情報部の遠山つかさ曹長であろうとも、彼女に他の魔法師の物差しとなるべき様な模範的な知識を有した状態で事に及んだとはとても言い難い。

 その責任を問うのは、()()()()()()に片を付けてからということとなるのは確定事項であった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 4月18日の夜、マンションの自室にいた悠元は真由美との通信をしていた。その用件はというと、達也と深雪に対して『会って話がしたい』というものであった。

 

「まあ、先日の会議のことなんでしょうが、それでしたらお二人に直接連絡を取ればいいのでは? 真由美先輩でしたらお二人の番号ぐらいご存知でしょう」

『……呼び捨てにしてもいいのに』

「どちらにせよ、誰が聞いているか分かりませんので」

 

 真由美の言い分としては、達也はもとより悠元の婚約者である深雪に対して心証を悪くするような発言を彼女の兄がしてしまったことに対する“お詫び”も込めてであり、まずは二人に近しい関係者である悠元に話を通すべきだと判断した。これは真由美だけでなく、摩利や亜実、そして克人の判断によるものであった。

 遮音フィールドとて物理的に遮断しているだけで、電気信号から通信内容を読み取られるリスクもある為、下手に藪蛇を出さないようにしていることを理解はするが、それでも先輩と呼ばれることに不満げな真由美の姿を見つつ、悠元は真剣な表情を浮かべた。

 

「と言いますか、十文字先輩はまだしも発言の当事者である七草智一は同席するんですか?」

『その場には出させないつもりよ。兄が良からぬことを企みそうな気がするから』

 

 謝罪という意味では当人にやらせるべきだが、そこは真由美が今回のことで“実家に対する最後の孝行”と一区切りするために申し出たらしい。どうせ会議で顔を突き合わせるのだから、説教が先になるか後になるかの違いでしかないと判断した。

 

「いいですよ。達也と深雪には自分から話をしておきます。今週の土曜で、場所は赤坂の料亭に夕方5時でよろしいですね?」

『ええ、お願いするわね。悠君は来ないの?』

「自分が参加していない会議の問題に巻き込まれる意味が分かりません。当事者同士でちゃんと解決してください」

 

 拗れた部分を当事者間で話し合って納得するのならばそれでいい。それに、予測が正しければその日にトラブルが発生するとみている為、当日は久々に侍郎の鍛錬を学内で見てやろうと考えていた。

 

『当事者って……悠君もある意味無関係じゃないのに?』

「自分が出ていって後の諍いの種になるのは御免ですので」

 

 達也に進言した以上は当事者とも言えなくはないが、会議当日の様子を燈也から聞いた範囲では悠元の名を使わずに会場のヘイトを集めるような形にしたらしい。恩義とかの貸借関係を考慮してのことなのだろうが、もう少し気を抜くようなことを覚えて欲しいと思わなくもなかった。

 




 戦闘シーンは犠牲となったのだ。犠牲の犠牲にな。
 たまには出番を上げないと、ということで寿和の登場。ラウラは達也らと認識はありますが、その辺すらも魔法で誤魔化している形です。達也にはどうやっても筒抜けとなるので事前に事情を明かしています。
 本編では軽くしか触れられなかった真由美との通話シーンを追加。この時点ではまだマンションに引っ越していません。どうしているのかという説明はわざとしていません。理由はネタ稼ぎ(ぇ
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