魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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三者三様の人外街道

 実行犯という肩書を使ってつかさの素性を明るみに出した悠元。次々と指示を出した上でレオと幹比古に視線を向けた。

 

「レオに幹比古、今回は協力してもらえるか?」

「……構わないよ。将来は悠元と同じ立場に立たされるんだ。これぐらいの苦労を負えないと話にならないからね」

「俺も構わねえぜ。エリカに任せると犯人の首が飛びそうだからな」

「あたしでもそこまで血気が逸るような行為は慎むわよ、バカ」

 

 幹比古は将来の東道家当主としての自覚から、レオはエリカの行動を抑える役目に回るような言い方をした。エリカはやや不満げながらもレオの言葉に反論したが、頬が若干紅く染まっている時点で照れているのが丸分かりであった。

 

「あの、香澄ちゃんや私は詩奈ちゃんの捜索を手伝わなくて宜しいでしょうか?」

「相手が師族二十八家の一つに加えて国防陸軍の精鋭だからな。対軍人魔法師との戦闘経験の点で同行は推奨できない。逆に、泉美と香澄にお願いしたいことがある」

「何、悠元兄?」

「君らの姉に『こちらのトラブルに首を突っ込むな』とだけ言っておいてくれ。彼女経由なら十文字先輩も聞き入れると思うから」

 

 今日の達也たちが向かった会談の場所は泉美だけでなく香澄も知らない。七草家の関係者に聞けば教えてくれるだろうが、真由美絡みで首を突っ込むことも考慮した上で強めの口調の言葉を発した。

 ここで克人の名を出したのは、神楽坂家当主として十山家が関与している以上は十文字家に関与されて欲しくないという思惑も含んでいる。

 

「ところで、詩奈の行方はどうやって洗うの? 兄貴たちを動かしてカメラの情報を拾う?」

「もっと確実な方法がある。いくら情報部の人間と言えども私物の車両を使うことは国防軍法に違反するからな」

 

 裏の手続きで入手したとしても、書面上は国防軍の軍事車両として取り扱わなければならない。だが、事情を知っているエリカたちはともかくとして、ここには香澄と泉美がいる。その点についてはどうするのかというエリカの疑問に先んじる形で悠元が口を開く。

 

「エリカ、今の俺がどんな立場にいるのか分かるよな?」

「……あー、成程。でもいいの?」

 

 エリカが危惧したのは、神楽坂家が国防陸軍情報部に喧嘩を売るという形が明るみになった場合の話だろう。だが、悠元の決意が揺らぐことは無かった。

 

「一昨年だけでなく、ここ最近の行動は目に余るし、おまけに今週の前半で情報部絡みのトラブルを処理したからな。主に対象となったのは達也と深雪だが」

「えっ、二人ともそんな素振りなんて一度も見せてなかったんだけれど」

「言えるわけないだろ? 国防陸軍情報部が十師族の一角を担う四葉家をテストしただなんて知られたら、国内はおろか国外まで巻き込んだ大事になりかねん」

 

 原作だと開示されなかった情報だが、二人が既に四葉家の関係者という事実が公表されており、師族会議は政府や国防軍から独立した立場となった。だからこそ、悠元は情報開示を躊躇うつもりもなかった。

 新ソ連による佐渡の一件は殆ど開示されていないし、宗谷海峡の件もメディアでは“新ソ連による軍事的挑発”と報じられていた。真っ先に浮かぶのは新ソ連だろうが、ここに加えてイギリスやUSNAも含まれて来る。

 

「自浄作用で片が付けば御の字なんだが、今回はいくら自主的についていった可能性が残るとはいえ詩奈を巻き込んだことは事実。その為の準備時間が必要になる」

「悠元は合法的に対処するような口ぶりだけど、方法はあるのかい?」

「もう既に手は打った」

「え、もう?」

 

 彼らがいくら裏方で動く国防軍情報部所縁の軍人とはいえ、書面上で言えば“国家公務員”―――つまり、国の立法府が定めた法律を遵守しなければならない立場に置かれる。その彼らが表立って()()()()を犯せば、彼らとて如何なる理由があろうとも罰せられる対象に含まれる。

 軍事的な演習だとかの言い訳など全く通用しない事由を以て、警察に犯罪者を取り締まってもらう算段は既に立てている。彼らが異議を唱える可能性は残っているが、三矢家に喧嘩を売った時点で神楽坂家(悠元)・上泉家(元継)・矢車家(詩鶴・侍郎)・四葉家(佳奈)・十文字家(美嘉)にまで波及する話となってしまった訳だ。

 

「正直、一昨年の正月に俺が襲われた時点で詩奈がトラブルに巻き込まれる可能性は考慮していた。だが、魔法師として動ける詩奈よりも動けない存在が巻き込まれる危険を考えて、見て見ぬ振りをしていた俺にも責任がある話だ」

「……待ってください。そうなると、詩奈に彼女の危険性を理解していて伝えなかったのですか?」

「その通りだ、侍郎。俺が一番危惧したのは詩歩母さんや元治兄さんの妻である穂波さん、それに三矢の係累となったラウラやアリサに被害が及ぶこと。ひいてはリーナにも関係してくる話だ。そこまで襲撃の可能性を広げられると、俺でも即決即断で対処できなくなる」

 

 原作よりも魔法師としてフォローできる範囲が広がったせいで、結果的に十山家や国防陸軍情報部のターゲットに成り得る存在が増えてしまっている。単純に潰して人員を入れ替えるだけで済むのならばまだいいが、その背景にいるのが元老院四大老の一角という有様。

 正直、情報部に関して表立って関与する気にはならないが、降り掛かる火の粉を放置することもできない。侍郎は三矢家の事情を知る近しい立場にいるためか、悠元を咎めることはしなかった。

 

「やっぱ、悠元は優しいね」

「そうか? 見方によっては、実の妹を生贄(スケープゴート)にしてるようなものだぞ?」

「そうとも言えるけど、ちゃんと後のフォローもしてるから墜ちていく女子が多い。私もその一人だし」

「……」

 

 雫やほのかと同じ中学に通っていた時、上泉家での出会いがあったとはいえ雫とは良き友人関係という間柄だった。それが変わったのは、冬休みに雫がほのかと街で買い物をしていた際に誘拐された事件だ。

 その時、偶々近くを通った悠元がワゴンタイプの自走車に二人が連れ込まれる場面を目撃し、テストも兼ねて[雲散霧消(ミスト・ディスパージョン)]でバッテリーを分解して起動不能状態にした後、慌てて出てきた男たちを全員武術だけで気絶させた。

 その一件以降、雫から時折熱い視線を感じるようになった。

 

 今回もそういったフォローの一環なのは否定しないが、いくらそうだとしても血縁で繋がった妹を娶る気なんて毛頭ないし、愛人なんて以ての外だ。なので、詩奈のフォローは全面的に侍郎へ投げることが確定している。

 

「ほのかは私が責任を持って送り届けるから安心して。お父さんやお母さんも納得してくれるだろうから」

「ま、今の雫に対して不安は感じていないが……何故抓る」

「もう少し心配してほしい」

「ええー……」

 

 雫の実力は深雪に追随している状態で、寧ろ喧嘩を売る相手が不憫に思えてしまう。その事実を口にすると、雫が不満げな表情を浮かべて悠元の脇腹を抓っていた。どう言えばよかったものかと言いたげな悠元に対し、ほのかが思わずクスッと笑みを漏らした。

 

「話が逸れたが、今回の件はその罪滅ぼしも兼ねている。言っておくが侍郎、お前も詩奈の救出に参加することは決定済みだ」

「え、ええっ!? 父はただ『悠元様に迷惑を掛けるなよ』とだけしか言っていませんでしたよ!?」

「そう言うしかないだろうよ。仕郎さんの立場上の問題でもあるんだからな」

「え、あ、そ、そうですね……」

 

 いくら矢車本家が神楽坂家系列に連なる古式魔法の家柄とはいえ、分家が三矢家と雇用主-使用人の契約関係を築いている以上は三矢家の意向に従わざるを得ない。仕郎が侍郎へ簡潔にそう伝えたのも無理からぬことだ。

 悠元の場合は三矢家の係累に加えて神楽坂家現当主であるため、仕郎も侍郎の指示について一任することで一定の理解を示した。三矢家も使用人の矢車家も家単位で動けないとなると、残るは個人で動ける面々となる。

 

「ともかく、今後の方針は示した。エリカ、最終の打ち合わせはどうする?」

「そうね……癪だけれど、本家(うち)の方が何かと都合がつきそうね」

 

 悠元の問いかけに対し、エリカは渋々といった感じでそう答えた。警察への根回しも含めると、千葉家で話し合った方が動きやすいという利点もあったりする。

 

「そういや、悠元はお兄さんやお姉さんたちに連絡しなくていいの?」

「さっきメールは送った。この時を想定して合言葉も決めていたからな」

「……上から下まで家族思いなのが少し妬けるわね」

 

 こんな事態を100パーセントの確定事項として考えていたわけではない。元々は人間主義者などの危険思想主義者に詩奈が誘拐・拉致された時を考慮してのものだが、結局は原作通りに起きてしまったトラブルの為に使う羽目となったことは正直喜べるものではなかった。

 

「侍郎はそうだな……念のために一度三矢の本家へ帰って、仕郎さんに確認しろ。最悪単独行動を取ることも想定して動くと了解を貰って来い」

「あ、はい。そういえば、詩奈の私物はどうしますか?」

「ここに置いとく訳にもいかんだろう。ついでに持ち帰ってくれるか?」

「分かりました」

 

 詩奈の私物を持ち帰らせるついでに、侍郎には矢車家の人から了解を貰ってくるように言い含めた。二度手間にならずに済むし、侍郎なら詩奈の持ち物を大切に扱ってくれると理解している。

 

「でも、本当に三矢家や侍郎の家族まで動かさなくていいの?」

「連中が四葉家―――達也や深雪をターゲットにしているだけならば、まだ分かりやすい。だが、三矢家まで巻き込まれたとなれば対象範囲が一気に広がってしまう。下手すれば、十師族はおろか師族二十八家の半数以上すら巻き込む大騒動に発展しかねない」

 

 とりわけ悠元がターゲットにされた場合、一条(茜)・一色(愛梨)・二木(真由美)・三矢(アリサ)・四葉(深雪)・五輪(澪)・六塚(泉美)・九島(セリア)と十師族だけでなく師族二十八家まで巻き込むことに繋がる。

 婚約者関連でも十分すぎるのに、友人関係にまで広げると更に多くの魔法使いの家まで巻き込むし、古式魔法にまで範囲を広げると旧『伝統派』の魔法師まで悠元の味方に付くのが容易に想定される。

 

「ともかく、十山家については一昨年以上のペナルティを課すことが確定事項だ。正直、いくら現在の師族会議議長とはいえ、大人の尻拭いを何でまだ十代の俺がやらなきゃいけんのだ、とは思うが」

「その気持ちは痛いほどよくわかるわ。あたしもあのクソ親父のせいでレオとのんびりイチャイチャできなかったし」

「と、未来の奥方がそう言っているみたいだけど、レオはどうなの?」

「奥方って……」

 

 ある意味吹っ切れた悠元とエリカの発言を聞いた幹比古の問いかけに対し、レオは「もう諦めた」とでも言わんばかりに深い溜息を吐いたのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 そこから少し時間は遡り、深雪は馴染みの美容室にいた。「一見さんお断り」の看板すらも出していないこのお店は警固を要する重要人物を相手にした高級店。そういう店だからこそ予約もすんなり取れたため、ついでに水波の方もお願いしている。

 深雪はメールの着信音が鳴ったことに気付き、後ろで電子書籍を読んでいた達也に声を掛けた。

 

「お兄様、端末のメールを確認していただけませんか?」

「メールか? 分かった」

 

 深雪の私信を無神経に覗くほどの性格ではないが、深雪からお願いされたとあればそれを拒むほど遠慮深くもない。鞄から通信端末を取り出すと、メールを確認する。

 

「雫からのメールだ。詩奈がいなくなったそうだが、その辺の対処は悠元が主導するそうだ」

「悠元さんがですか?」

 

 流石に整髪中なので深雪は美容師の邪魔にならないようにしつつも驚きの表情を見せた。妹離れを気にしていた立ち位置だからこそ、ここで積極的に関わることに驚きを見せた形だ。なお、こうやって普通にメールの内容を話せるのも、美容師の口の堅さを信用しているからに他ならない。

 

「俺にはほのかから同様の内容のメールが届いた。俺たちには先輩方との会談に専念してほしいのだろう。なお、彼女の救出には悠元の兄や姉たちも加わるそうだ」

「……そうですね。ここで悠元さんの気遣いを無駄には出来ません。お兄様はそれで本当に宜しいのですか?」

「悠元の兄である元継さんの実力だけでも師匠曰く『反則級』と言っていたからな。相手がトラウマを抱えそうな気がしないでもないが(すまない、悠元)」

 

 達也の内心では、深雪が本来週末に構ってくれる時間を奪われた格好となる為、明日は深雪が悠元に引っ付いて離れないのではないかという懸念が最優先事項として浮上した。仮に詩奈の身の安全が問題ないとしても、代償として悠元の心の安寧が消えるという有様に対して達也は心の中で謝罪したのだった。

 

「それに、エリカもやる気だそうだからな」

「そうなりますと、警察が動いてくれることになりそうですね」

「そうなるだろうな」

 

 ただ、雫から深雪に送られたメールとほのかから達也に送られたものでは内容に一部違いが生じている。それは、今回の実行犯の片割れに十山家が関与しているという内容を達也は把握しているが、深雪に送られたメールには記載されていなかった。

 今回の一件を起こした相手への制裁は三矢家が関与すべきものであり、四葉家はいわば被害者の立場に置かれる。今の四葉家にいくら実力があろうとも、迷惑を掛けた側として後始末は己の手で済ませる……という意図が多かれ少なかれ含まれている。

 

 エリカが動くとなれば千葉家の伝手で警察も動くことになるし、悠元の伝手で下手すると八雲まで動く可能性が生じてくる。この時点で詩奈を連れ去った相手が“詰み”になっているということに、心なしか同情の念を覚えた達也であった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 エリカは近しい側だから無論だが、悠元からしても久しぶりの千葉本家はあまり心地の良いものとは言えない。何せ、一度断った婚約を蒸し返しただけでなく、お互いに納得した関係をぶち壊す様な申し出をしてきたのだ。

 結局、千葉家の次期当主は寿和が、千刃流の師範は修次が継ぐことで決着がついた。これでエリカが将来千葉の姓を捨てることは確定したわけだが、元々降って湧いたようなものだったし、そこまで未練に思っていないどころか「かえってせいせいするわ」とあっさり言い放った。

 とはいえ、詩奈を救出するという意味で『背に腹は代えられない』と己の中で納得しつつ、敷地の中に足を踏み入れた。そんな幼馴染を気遣ってか、隣に立つエリカが声を掛けてきた。

 

「……悪いわね」

「気にするな。俺の生まれの時点でエリカが巻き込まれるのは想定の内だ。しっかし、丁重に断った婚約を復活させるとか当主の正気を疑ったが」

「多分、泉美のことで行けると踏んだんじゃないの?」

「事情が明らかに違うだろう」

 

 泉美の場合は双方共に穏当な流れの中で婚約を結び、七草家当主のヘマで一度解消された。エリカとの婚約打診の場合は当人同士がお互いにその気がないのに、千葉家側が強引に押してきていたところを三矢家側が丁重に断った。

 一度破棄された婚約が復活したから行ける、というのは些か剣術家として思慮が足りないように思えてしまう。

 

「大体、修次さんがこのままいけば間接的に三矢家とつながりを持てるんだぞ。仮に俺とエリカが婚約したとして、百家本流が十師族の外戚になったところで俺はどの道三矢家を出ていくのが確定している。つまり、躍起になったところで意味がない」

「とんだ皮算用に巻き込まれたって訳ね。あたしもアンタも」

「そういうことになるな。万が一強引に来るようなら、俺自ら剣を使ってお前の父親を叩き潰してたが」

 

 いくら自分でも婚約者の数には限界がある。たとえ今の母親から『もう少しいても咎める人はいないと思いますよ』と発言されたとしても。それだけでも腹一杯なのに、愛人兼専属使用人を三人も抱えているのだ。正直高校を卒業したら山奥に隠居したい気分を覚えなくもない。

 なお、向こうの会談前に送られたと思しき深雪からのメールには『明日は一緒に居ましょう』の一文だけが書かれていた。この時点で司波家に帰ったら何が起きるのかを悟れてしまうあたり、自分も大分毒されたのだろうと思う。

 

「物理的に潰れそうね、ソレ……何だか、ミキも含めて三人でワイワイやってた時が一番平穏だったわね」

「確かに」

 

 十師族・三矢家に生まれ、護人・神楽坂家当主となった悠元。

 精霊魔法を得意とする吉田家に生まれ、東道家次期当主と目される幹比古。

 百家本流・千葉家の隠し子として生を受け、将来はレオの愛人予定であるエリカ(なお、剣術の部分で上泉家は養子縁組が出来るかどうか動いている模様)。

 

 三者三様だが、生家を出て魔法師として生きるという部分で共通してしまった幼馴染三人衆。出会った頃の賑やかさが思わず恋しくなったというエリカの言葉に対し、悠元は短く答えつつ肯定の意を示した。

 




 正直、旧態依然の秩序維持って諸外国の事情すら完全に無視しています。何の話かと言えば、原作続編を読んだ上でこの段階での話となりますが。次回は原作で描写されなかった部分とオリジナル要素が多少含みます(予定)。
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