魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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『十』の入れ替わり

 房総半島にある国防軍の秘密収容所の件はメディアで取り上げられることは無かった。何せ、襲撃者が立ち去った後には何事も無かったかのように無事な状態の収容所が存在していたし、そもそもこの場所の所在が明るみになれば、国防軍への非難が強まるのは避けられず、政府がらみのスキャンダルに発展する。故に、水面下で箝口令が敷かれたのは間違いない。

 その事情を悠元が知ることになったのは、翌日の防衛省庁舎内にある国防陸軍総司令官室で、蘇我大将の口から聞かされたからだ。

 

「休みの日に特務中将を呼び出して済まなく思っているが、これが今回の一件に関する報告書だ。流石に事が事ゆえ、連絡では漏洩する危険性も高いからな」

「拝見いたします……今回の件は自分が関与しておりますが、司令官閣下の判断をお聞かせ願いたい」

 

 今回の顛末を蘇我が聞いた時点で、確実に悠元が関与していることはそれとなく察していた。だが、そもそも事の発端を起こしたのは国防軍情報部であり、同盟国の兵士を人形として工作活動に用いるという“禁じ手”を用いたことは極めて遺憾なことであった。

 本来ならば国防軍としてケジメを付けるべき案件を神楽坂・上泉・三矢・矢車の四家が担ってくれただけでなく、四葉家が同盟国の兵士救出に尽力してくれた。潜在的な敵国と言えども、軍事同盟を結ぶ相手の面子を潰すのは、軍だけでなく日本政府の問題にも波及する。

 

「今回の一件は中将の尽力に感謝する。寧ろ深く頭を下げたいところなのだがね」

「そこまで畏まられると自分の胃がやられますので勘弁してください」

 

 そのことを『遠山』―――十山家の人間が認識していない筈など無いのだが、危うくそうなってもおかしくない状態となっていたことに、蘇我は報告を聞いた段階で深い溜息を洩らした。最悪の事態を回避してくれたことに感謝しつつ、“遠山家の暴走を止めた”見返りとして無罪放免と判断した。

 いくら立場が定まったとはいえ、気苦労を必要以上に背負いたくないという意思が垣間見えている悠元の表情を見て、蘇我は思わず笑みを漏らした。

 

「君の協力者についても無罪放免で構わないだろう。元は情報部の独断によって危うくUSNAとの関係まで拗れるところだったのだから、この決定に異論は唱えさせないと公言しよう。なお、今回の問題を受けて情報部は当面内情(内閣府情報管理局)の監視下に置かれることが決まった」

「政府による情報機関の文民統制(シビリアンコントロール)、ということですか?」

「そうなるな。全く、かの[アンタッチャブル]の逆鱗どころか一番触れてはならぬ逆鱗まで侵して、命があるだけマシだと思ってほしい所だ」

 

 国防軍情報部は国防軍そのものから切り離されて、内閣府と防衛省による新設組織である国家安全保障情報局に組み込まれる。日本政府による文民統制を確固たるものにする意味でも、国内外の工作活動を把握しておく必要があるという判断の下で新設された。

 

「一部の強硬派は自分や達也を危険視する可能性は残っておりますが」

「仮にそうなった場合、軍事法廷による“粛清”も選択肢に入ってしまうのだろう。尤も、そうなった場合は全面的に責を負う、と防衛大臣や総理大臣閣下からも言伝を頂いている」

 

 その前段階として、情報部を内情の監視下に置くことで組織の解体を進めていき、それが完了次第政府機関として吸収するとみている。この部分の利点は七草家が持っていたコネクションの力を相対的に弱めることにも繋がる為、悠元としても異議を唱えるつもりはない。

 

「それと、君が一番懸念していたであろう遠山つかさ曹長の処遇だが、彼女は来月一日付で北海道方面部隊に転属が決まった。当然異論は各方面から出ていたが、剛三殿が全て一蹴された」

「うちの爺さんがすみません」

「気にしないでいい。剛三殿の言い分も尤もだろうからな」

 

 『盾があるから「自分達だけ無事でいられる」と思うておるからこそ、国の政に命を賭けようなどという気概のあるやつが生まれぬ。ならば連中の頭を冷やす意味でも、遠山の盾は国の守りに生かしてもらうべきだ』

 

 この剛三の鶴の一声と奏姫の支持、そして千姫の後押しによってつかさは国防軍情報部から切り離され、国防陸軍の軍人魔法師として最前線に送られる。十山家の貢献欲を工作セクションではなく実戦部隊に活用することで満たし、彼女を目立たせることによって裏舞台で使いづらくしてしまう。

 加えて北海道は新ソ連を睨む最前線でもあるため、いくら[元老院]が出てきても簡単に利用できなくなってしまうし、仮に呼び出せば簡単に足が着くようになってしまう。彼女が動くことで四大老の一角の動きまで連動して見えてしまうという利点を策として用いることにした。

 一度は剛三も家諸共潰そうかと考えたが、奏姫が『生きているものを死なせるのは簡単ですが、利用価値があるのならば十二分に使い倒しましょう』という助言で決まったらしい。どちらにせよ、国防軍に飼い殺しされるのが決まったようなものであった。

 

 そして、剛三の忠告を破るどころか国際問題に発展しかねない事態を生み出したとして、悠元は師族会議議長の権限で十山家に師族二十八家からの除名処分を通告、『遠山家』としての再出発に踏み切らせた。

 一花家と七倉家以降出ていなかった除名処分が出たことに、他の師族二十七家も様々な反応がみられた。“数字落ち(エクストラ)”に対する差別は禁止されている形だが、今回の裏に何があったのかを探る家は出てくるだろう。そのことを一々咎めるつもりはないし、今度の臨時師族会議で改めて説明するつもりだ。

 

 その入れ替わりとなる形で同じ旧第十研出身である遠上家が十神家として復帰。十神家は永らく“数字落ち(エクストラ)”の状態だったために基盤も抱える魔法師もいないため、神楽坂家現当主と懇意であることから当面は神楽坂家の傘下に入る形で家の存続を図ることとなった。

 今度の若手会議は十山家が除名されたために対象外となり、十神家が対象に含まれる。なので、本来ならば長男の遼介が出てこなければならないが、当の本人はUSNAに留学したきりで行方知れずの為、已む無く茉莉花が対象に含まれる。それを聞いた当人から『どこかで女の子に現でも抜かしてるのかしら、あのバカ兄貴』という発言が出た。

 その推測が大方間違っていないというのが、一番性質(タチ)が悪い話なのかもしれない。

 

「君も大変のようだね。聞けば、婚約者が複数人いるそうではないか。妻も『彼も若いのに大変ね。貴方は魔法師でなくてよかったわね』と零していたぐらいだからな」

「……なってしまったものに後悔は出来ませんが」

 

 収容所での一件を終えて司波家にとんぼ返りした後、着替えてシャワーを浴びてから自室に戻ったところで深雪に抱き着かれた。放課後の分の穴埋めとして甘えられた(正確な表現で言うと文章表現が出来ない有様だが)形となり、今日は深雪の我儘に付き合うと決めた先の呼び出しだった。

 別にすっぽかしているわけではないので深雪は渋々納得し、水波は苦笑を漏らしていた。なお、達也はFLTでやることがあると言って早朝に出掛けていた。

 

「何にせよ、情報部の独断を許したという意味で三矢家には改めて謝罪せねばなるまい。ところで、USNAの兵士は全員無事かね?」

「ええ。聞いた話では、一部を除いて無事にアルバカーキ行きの民間機で帰国したとのことです」

 

 悠元が“一部”という表現を用いたのは、現在リーナと同居しているシルヴィア・マーキュリーのことについてだった。彼女の立ち位置は[十三使徒]アンジー・シリウスの補佐という形で来日しているが、リーナの生活能力を鍛えるためにセリアからのお願いで日本に留まってもらうこととなった。

 事情を聞いたリーナは猛抗議したが、セリアの満面の笑みで迫ってくる有様に涙目を浮かべて鎮圧された。これではどちらが上なのかが分からない、と内心で苦笑してしまった。

 

「アンジェリーナ・シールズ嬢についてですが、今は九島閣下に魔法を教授されておりますので……彼女はれっきとした日本人として帰化させますので、軍に引き入れる真似なんかしたら許しません」

「無論分かっている。空や海も君の機嫌を損なうような真似は慎むと述べていたからね。無論、私にもそんな気概は無いよ。力があるから、と言って本人が望まぬ未来を押し付けるなど、この国の法理を逸脱した行為でしかない」

 

 蘇我の目の前にいる少年は、これからの日本魔法界を背負うに相応しい実力と実績を兼ね備えている。若輩ゆえにそんな彼を認めない輩が少なくないのも事実であるが、蘇我は魔法という技術によって人々の常識も変わるべき時にいる……と、そんな風に感じていたのだった。

 

「改めて、ご苦労であった上条特務中将。これからも互いの領分を弁え、共に国を護るべく尽力してくれることを切に願う。そうそう、一つ言い忘れていたが、今回の一件によって君の階級は特務大将に昇格となった。正式な通達は後日行うこととする」

「……最後に爆弾を投下しないでください、閣下。昇進はもとより、私は派閥争いに関与する気などありません」

「それを分かっているからこそ、今言ったのだ。なので、今後は対等に話してくれたまえ」

 

 国防軍もとい防衛省からの通達によって、悠元は陸軍の魔法師でも史上最高位となる特務大将に昇進。陸軍総司令官の蘇我と実質的に同じ立ち位置となるが、元々ワンマンアーミーとしての運用を想定しているために陸軍とは別の指揮系統を有する、と蘇我が公的に認めた形となる。

 裏の事情として、今上天皇の直下にいる神楽坂家当主が国防陸軍総司令官の直下にいるという状態は宜しくないという防衛省の制服組のみならず、現内閣―――主に総理大臣や防衛大臣からの突き上げがあったというのは蘇我の心の内に秘められることとなった。

 

「……了解いたしました」

 

 やや困惑しながらも敬礼をする悠元に対し、蘇我も敬礼を返した。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 同じ頃、十文字家の自室のベッドで横になっていた克人。[ファランクス]のお陰で命に別状はなかったが打撲と軽い内出血程度の負傷を受け、魔法演算領域の過度な負荷によって一日は安静にするべきという医師の判断に従う形で療養していた。

 上半身を起こした克人は、自身の身体の感覚を確かめるように掌を見つめていた。

 

 4月20日に起きた南総収容所(房総半島の秘密収容所の名称)への襲撃。克人は自室で趣味の音楽鑑賞に耽っていた時、父親である和樹が克人のもとを訪ねてきた。呼び出しならば使用人を遣わせばいいと考えていた克人であったが、態々父親が息子の部屋を訪ねた理由は、その同行者の存在にあった。

 同行者の名は十山信夫。師補十八家・十山家当主の彼が和樹を介して克人を訪ねた理由を、克人は口にした。

 

『―――つかささんを助けて欲しい? 一体どういうことなのですか?』

 

 克人からすれば要領を得ない話であった。いくら彼女が師補十八家の魔法師と言えども、それ以前に国防軍の軍人魔法師。軍務に従事している以上は戦闘行為で命を落とすことも有り得なくはない。

 十山家の魔法は十文字の[ファランクス]とは強度も規模も比較にならないが、魔法師の如何を問わず防御能力を付与できる点で国防軍におけるプレゼンスを獲得したことは聞かされている。

 その十山家の魔法が通用出来ない人間となれば、克人も数人ほど心当たりはある。もしや……と心の中で推察した克人は信夫の続きの言葉を待った。

 

『無理を承知でお願いをしたい。今ここでつかさを失えば、十山家の信頼は地に落ちます』

『ちなみに、そこまで急を要するとなれば狙う相手も当然理解されている筈だ。一体どこの誰だというのですか?』

『それは……』

 

 信夫が言い淀む時点で、克人はこの場で口に出せば断られる相手だと察した。そうなると、一番可能性が高いのは一昨年の襲撃に対する復讐という名目を有する神楽坂家現当主。そして、魔法を無力化出来るという意味では彼の姉の一人も該当する。いずれも三矢家の係累という時点で、克人に助ける義理は無くなっていた。

 そんな克人の様子を察したのか、和樹が信夫の助け舟を出す形で言葉を発した。

 

『克人。私からもお願いをしたい』

『……親父殿。今回のことを引き受ける代わりに、親父殿はこれ以上十文字家の舵取りに意見を出さないでくれ。それが呑めないとなれば、俺はこの話を引き受けない』

『それは……分かった、お前の意向を汲もう』

 

 克人の条件―――家業はともかくとして、家督を継いだ以上は十文字家の舵取りに意見を述べたとしても、最終決定権は克人がすべて請け負うという形。これには和樹も渋々認めた。そして、克人がつかさの救出に赴いた折、その相手が[神将会]―――悠元という現実だけでなく、たった一撃で勝敗を決されてしまった。

 

(神楽坂のあの魔法……間違いなく加減をされていた)

 

 克人は相対した人物が悠元だということを認識していた。だが、彼が使ったのは[円卓の剣(ラウンド・ブレード)]とは明らかに異なる黄金の光の槍による攻撃魔法。その攻撃を受けた直後、十分以上ロクに体を動かすことすら出来ていなかった。

 それでも、彼が本気でその魔法を放ったとは到底思えなかった。寧ろ片手間にその魔法で吹き飛ばしたとしか考えられなかった。

 そんな風に考えていると、扉の向こうからノックの音の後に使用人の声が聞こえてきた。

 

『御当主様、起きていらっしゃいますか?』

「―――ああ、起きている。来客か?」

『見舞いの客にてございます。三矢美嘉様が参られておりますが』

 

 使用人の口から出た人物の名は、克人がたった今考えていた人物の近親者。そして、自身の婚約者。体調不良を理由に追い返すこともできるが、克人の中には悠元が今回の一件に関与していた理由を知りたいと思い、美嘉を招き入れることにした。

 

「構わない。入れてくれ」

『畏まりました』

 

 使用人の声が途切れると、扉が開いて私服姿の美嘉が現れた。手には果物入りの籠があり、克人がこうなっていることを想定して持参したのだろう。

 

「やっほ、かっちゃん。弟にこっぴどくやられたみたいだね」

「……それは否定しません。先輩は知っていたのですか?」

「だって、詩奈が巻き込まれたんだもの。お祖父ちゃんの忠告すら破って身内に手を出した報いは受けて当然でしょ。私も詩奈の救出に参加したし」

 

 克人が戦闘で負傷して十文字家に戻った後、父親の和樹から改めて事の詳細を聞いた。

 

 十山つかさが三矢家の娘を騙して誘拐騒ぎを起こした挙句、()()()()()()()()に立て籠もったのだ。一昨年の剛三との約束を破った以上、遠慮する必要が無いと三矢家の兄妹姉妹五人が動き、国防軍情報部の部隊が拘束され、更にUSNA軍の兵士を処分しようと目論んだとして十山つかさへの報復が行われた。

 なお、米軍の兵士は四葉家まで動く事態となり、今回の一件は日本政府とUSNA政府の依頼でもあるという神楽坂家からの書状で沈黙せざるを得なくなった。

 

「今回は十山家を庇ったことに対して、その程度の怪我で済んだのがマシってことで納得しなさい。悠元が本気で怒ったら、かっちゃんが消し飛んでいたんだから」

「ええ……加減されたというのは、身を以て感じました」

 

 克人が軽い打撲や内出血程度で済んだのは、自身の魔法のお陰というよりも悠元の恩情に助けられたに近い。それを肌で感じてしまった克人だからこそ、美嘉の忠告に対して素直に頷いていた。

 

「まあ、私に色々聞きたいんでしょうけど、私が知っているのはそれぐらい。後は悠元に直接聞いてみることだね。尤も、教えてくれるかどうかはかっちゃん次第だけど……はい」

 

 そう言って美嘉が差し出したのは一通の手紙。一緒にペーパーナイフも添えられており、克人は黙ってそれを受け取った上で、封を開けて中身の便箋に目を通した。そして、克人の表情には珍しく驚きの表情が垣間見えていた。

 

「……先輩はこの内容をご存知ですか?」

「ううん、父からかっちゃんに渡してくれって頼まれただけだから。何があったの?」

「第二回の若手会議の招待状だ。発起人は……四家合同となっている」

 

 敬語を使うことすら忘れている克人が驚くのも無理はない。若手会議の提唱者として書かれているのは、神楽坂家当主・神楽坂悠元、上泉家当主・上泉元継、三矢家当主・三矢元、そして四葉家当主・四葉真夜とそうそうたる顔ぶれとなっている。当然後者の二家は次期当主がいるので、会議については元の長男である元治と真夜の実子である達也が出てくることになるだろう。

 

 先日達也らの説得を終えて次の若手会議を開く準備をしようと思っていたところに、別の家が共同提唱して若手会議を開催する。一応前回の提唱者である克人を配慮して“第二回”という体裁を取っているが、七草家と十文字家に一切の断りを入れることなく実施したあたり、両家が信用されていないと思っても何ら不思議ではない。

 

「手紙を渡される際、三矢殿は何か仰っていましたか?」

「父さんから? あー、そういえば『十文字殿から何か言われたときは、悠元を怒らせた結果として会議の提唱をしたと伝えてくれ』と言っていたかな」

 

 先日の若手会議でも神輿として担ごうとした深雪は悠元の婚約者として師族二十八家に通達されている。その事実すらも無視するような形で案を出した七草家も、それを咎めなかった十文字家にも憤りを感じていてもおかしくはない。

 美嘉は最初、それを聞いたときに『四葉家を除け者にしようと画策したとしか思えないんだけど』と思ったほどであり、人の婚約者を槍玉に挙げるという性根自体が腐っているとしか思えなかった。

 

「私は会議に出ていないから詳しいことは言えないけど……会議の秩序を守りたいって気概は分かるけど、まずは現状の置かれている状況を整理し切ってから具体的な対策の話し合いに持ち込むべきだったと思う。そこがかっちゃんに求められる役割だったんじゃないの? 一朝一夕で反魔法主義への対策なんて出る訳がないでしょう」

「仰る通りでございます……」

 

 歳の差があるとはいえ、珍しくしっかりとした意見を口に出す美嘉に対し、克人は頭が上がらない思いで彼女の言葉に耳を傾けていた。

 

「大体、師族二十八家の若手が各々家業に関与しているならまだしも、国防軍や防衛大に在籍しているから欠席するとかどういう領分なの? 恐らくだけど今度の会議、悠元や元継兄さんはそれを理由にすることを許さない」

「そこまで断言できると?」

「できるね。あの二人の性格なら、所属している別の組織に慮るぐらいなら師族会議を抜けろと勧告も辞さないと思う」

 

 護人二家の当主であり、特に悠元は国防軍と深く関わりを持つ。前回の会議は政府要人との会談が先に入っていたために欠席したが、仮に前回の会議で参加していたら会議が破綻することも織り込んだ上で厳しい発言を放っていただろう、と美嘉はそう見ている。

 今年の第一高校の入学式では、悠元が師族会議議長として厳しい祝辞を新入生に投げかけた。それぐらいのことを平気でやるのだから、もっと厳しい現実を突きつけてもおかしくは無いとみている。

 

「何にせよ、かっちゃんは音頭を取る側から意見を述べる側に変わったんだし、もう少し気楽にやりなさいよ」

「……ええ、そうですね」

 

 既に将来の夫婦間で力関係が形成されつつある二人。なお、現当主夫人である慶子は美嘉のような女性が前妻の子である克人を諫めてくれる立場になることをとても歓迎しており、十文字家で暮らす克人の弟や妹たちも美嘉を慕っている。正式に婚約を結んでから数ヶ月で、美嘉は十文字家の信頼を勝ち取るにまで至っていた。

 なお、先代当主の和樹に対しては、アリサの一件があるためにあまり快く思っていない。その感情があるから寧ろ他の十文字家の人たちに受け入れられている側面があったりする。

 

「それじゃ、果物を切ってあげるから大人しく看病されなさい」

「いえ、そこまでしていただかなくとも」

「ダメ?」

「……分かりました。甘んじて受けましょう」

 

 将来、美嘉が十文字家に嫁いで家を支える女性社長として辣腕を揮うことになるのは……まだ先の話である。

 




 補足説明。十文字家が十山家に協力する形としたのは、あくまでも第十研の繋がりによるもので、克人は和樹に今後十文字家の舵取りに対する決定権と引き換えにつかさの救助を承諾した形になります。ただ、つかさが敵に回した相手が相手なので、十山家を庇うのは今回までということです。
 加えて婚約を敢えて解消しないのは、克人と美嘉の力関係に加えて今回の一件について十文字家も一応“十山つかさに巻き込まれた側”と置く形にしたからです。

 最初は全部排除しようか悩みましたが、どちらにせよ十山つかさを情報部から切り離すことで、情報部の盾を引き剥がすことに重点を置きました。政府の監視下に置いたところで情報部の連中が大人しくなるかはまた別の問題ですが(フラグかどうかは神のみぞが知る)

 遠上家を十神家として昇格させるのは十山家の穴埋めもありますが、別の目的も兼ねています。この辺は後のネタとして語る予定なのでこれ以上は言いません。

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