魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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埃を被らせるほど勿体ないなら使うべし

 第二回の若手会議は悠元の説教こそあったものの、今後も定期的に開催していくことで合意した。魔法使い同士の因縁や秘密主義はあれども、基本的な技術の共有と研鑽は師族二十八家のみならず百家や魔法資質保有者にとっての課題として、各々で対策を講じていくことでも合意に至った。

 世間ではゴールデンウィークの大型連休だが、カリキュラム上平日は基本授業が入っている魔法科高校の生徒に休みはない。当然、それに対して弱音や愚痴を吐く生徒も少なからずいるわけだが、こと二科生に至ってはそんな空気など一切見られなかった。

 

「いいのかね、俺が授業を抜けるようなことになって」

「そんなことを言ったら私も似たようなものですよ」

 

 その二科生の授業を見学しているのは悠元と深雪―――現三年の成績優秀者のワン・ツーが揃って自分のクラスの授業を抜け出すような格好となっているが、別に彼ら自身から『授業を学んでも意味がない』という形で抜け出したいと申し出たわけではない。授業の担当教官が急遽休んでしまったために座学で自習する形となった。

 自習だけでは単に暇なため、佳奈とジェニファーに話を通して二科生の授業を見学するという形となった。最初は悠元だけ抜け出すつもりだったが、それを察した深雪に見つかって已む無く同行を許した。

 

 現行の現代魔法はとりわけCADの重要性が高いため、魔工科の生徒の実地研修という形で魔工科の生徒が二科生にCADの取り扱い方をレクチャーしている。特に今年度の二科生は魔工科を目指すものも少なくないため、九校戦のエンジニアとして活躍している達也に人気が集まるのは当然の流れと言えた。

 

「やる気があるのはいいことだと思う。今の状況でも、同じ一年一科生の約3分の1が成績で追い抜かれる格好だろう……酷だと思うか?」

「いえ、努力しないとそれに見合った実力が身につかないのは事実ですから。せめてお兄様や悠元さんのように自発的に努力なさるのが一番ですが」

「流石に俺や達也のような方法は悪手極まりないがな」

 

 幼少期から感情を殺すよう躾けられてきた達也、そんな彼と対等に並べるよう死に物狂いの努力を重ねた悠元。流石にそこまでのことをしろなどとは言えないが、自発的に努力できるようになればいいという深雪の意見には賛成だった。

 今年の二科生の教育方針を仕向けたのは他ならぬ悠元だが、ここについて教職員からは特に問題視するような発言は聞こえなかった。槍玉に挙げられそうな廿楽からも特に相談されてはいないし、カウンセリング関連で怜美と会話した時もその辺の追及は聞かなかった。

 

 そんな一幕もある第一高校の放課後、悠元は珍しく部活連の本部室に詰めて書類に目を通していた。流石に会頭を通さなければならない予算執行の決裁や、各クラブへの九校戦に関する話し合いの段取りを始める時期で、過去の資料を見つつ書類作成に取り掛かっていた悠元だが、傍に置いた情報端末にニュースの着信が入ったことで作業の手を止めた。

 

「(大方、大亜連合のアフリカ侵攻が原作の流れだが……)……はあ?」

 

 悠元がニュースを見て、思わず気の抜けるような疑問を浮かべた。何故かといえば、そのニュースは欧州メディアを通してのものだが、その内容があまりにもファンタジーすぎた。

 事の起こりは日本時間の昨晩。ニジェール・デルタ地域の奪還を目論んだ大亜連合軍が侵攻し、大亜連合軍側は戦略級魔法[霹靂塔]を使用したものの、援軍として現地を防衛していた二個大隊のフランス軍魔法師部隊[閃光の翼(ヴォワチュール・リュミエール)]が戦略級魔法に怯むことなく約五万の大亜連合軍を壊滅に追い込んだ、とのこと。

 現地に住む住民やフランス側に死者は出なかったが、怪我人が十数人。大亜連合軍側は連合政府の発表で数百人の死者が出たとしているが、アフリカ連邦政府の公式発表によると『少なくとも二万人の死者と身元不明者が約一万人にも及ぶ』と発表している。

 

「戦略級魔法でインフラは破壊されてるだろうが、フランスが表立って軍を派遣したとは随分思い切ったな……というか、大亜連合は馬鹿か?」

 

 これは大亜連合のみならず、当該国の軍事行動を看過した東南アジアとインド・ペルシア連邦、それとアラブ同盟にまで責任が波及する問題。当然、アフリカ連邦は大亜連合軍の通過を許した諸国に責任の所在と行動の把握の有無を問い質すだろう。

 その辺の仲裁をするよう南米連邦と日本政府に急いで暗号メールを送ったので、この辺の問題はすぐに解決するとみている。何せ、日本としては経済同盟を結んだ相手を講和状態の大亜連合が攻めた以上、厳しい態度を取らなければならない。

 

 そして、大亜連合の新たな戦略級魔法師として劉麗雷(リウリーレイ)の名を公表した。傍から見れば影武者という線は捨てきれないが、実際に当人と会ったことのある悠元は画像に移っている彼女が本人であるとすぐに理解できた。

 今回の作戦を大亜連合の抑止力が健在というアピールに繋げたかったのだろうが、そもそも原作ではブラジルが[シンクロライナー・フュージョン]を使ったせいで非難を浴びているところに大亜連合が戦略級魔法を投じた。当然、大亜連合に対する非難が起きても不思議ではない。まあ、かの国の過去を振り返ったところで、そんな非難など痛くも痒くもないと開き直るのがオチだが。

 

 達也たちと合流した喫茶店アイネブリーゼでも、先程の戦略級魔法についての話が真っ先に出てきた。先月初めに新ソ連国内で[トゥマーン・ボンバ]と目される戦略級魔法が使われただけに、魔法を使う人間としては気が気でないのだろう。

 

「魔法を公表したのは他国への挑発ってことなんでしょうけど、部隊が壊滅した事実を隠すためのカモフラージュに聞こえてくるわね」

「その線が濃厚だろうね」

 

 被害を隠すために強大な力を誇示する―――古今東西で行われてきたことの繰り返しにエリカが正直な感想を述べると、それに対して答えたのは幹比古であった。人が好い彼らしからぬ台詞ではあるが、今どきの男子高校生と考えれば妥当な受け答えであった。

 

「にしても、[十三使徒]として公表されたのが14歳とは。俺らよりも年下というのがな」

 

 世界で公表されている戦略級魔法師でいえば最年少なのは間違いないが、その点で言えば悠元は僅か12歳で戦略級魔法師となっている。この事実は国防に関わる国家機密として伏せられているのは言うまでもないが。

 

「年齢を聞いて驚きましたけど、あんなちっちゃな女の子が戦略級魔法師だなんて……」

「国の事情が違うとはいえ、何だかやりきれないですね……」

 

 ここにいる面子の中で比較的穏健な部類に入るほのかと美月がそう感想を述べてもおかしくはない。何せ、普通なら公表することすら避けるであろう戦略級魔法師をあえて表舞台に出したのだ。すると、達也が問いかけてくる。

 

「悠元、あの映像に映る少女は本物だと思うか?」

「間違いなく劉麗雷本人だと断言できる」

「どうして?」

「俺が爺さんの旅行に付き合っていたという話は散々聞いていると思うが、大亜連合に行った際に劉雲徳と劉麗雷の二人に会っているからな」

 

 各国の[十三使徒]自体、普通ならば政府要人として会うことが難しいレベル。だが、悠元は殆どの戦略級魔法師と面識を有しており、その一人が[灼熱と極光のハロウィン]で亡くなった劉雲徳だった。

 

「二人の関係性が実の血縁関係というのも知っている。ここだけの話、劉雲徳本人から孫娘の縁談を組まれそうになった……本人が死んだお陰で白紙になったが」

「死んだって……それ本当なの?」

「劉麗雷とはたまにプライベートのメールでやり取りしていたからな……抓らないでくれ、深雪さんや」

 

 交友関係の広さは元々祖父の影響であり、原作でも重要な立場にいる人間なのでそれとなく気に掛けていただけに過ぎない。尤も、隣に座る婚約者(婚姻は確定事項)から焼きもちを妬かれている状況に、悠元は一息吐いた。

 

「悠元にかかると、全ての秘密が公然の事実になってしまいますね」

「好きでそうなった訳じゃないんだがな」

 

 好奇心は猫を殺す、の言葉を悠元は誰よりも知っている。表社会で有名となった前世の親族のせいで割を食い、面倒事に巻き込もうとする大人たちや同年代の少年少女を快く思わなかった。だからこそ、人が忌避しがちな系統の趣味に没頭した結果、『魔法科高校の劣等生』を知るきっかけになった。

 その性根は転生しても健在であり、自分に力があろうとも栄光や名誉を必要以上に追い求める気はない。要らぬ妬みや恨みを買わないためだが、万が一の場合は自らの手で守れるだけの力を欲した。

 

 行きついた先がかの陰陽師すら超えてしまい、婚約者だけでなく愛人まで囲う羽目になってしまった。結局、自分のストレスが性欲に昇華された挙句、複数人で誘惑してくる相手を無碍にできずに押し倒す日々。

 それを苦に思わないどころか、寧ろ被独占欲を剥き出しにしてくる自分の婚約者たち。そして、とうとう一条茜にまで及んでしまった。事後の彼女は『あんなに愛されてしまったら、今すぐにでも東京に転校したくなります』と寧ろ好意が強まっていた。

 こうなったのは自分のせいだが、色々解せぬ。

 

「それにしてもよ、アフリカには既に大きな国家があるだろ? 大亜連合がそこまで躍起になる理由が正直分からねえんだが……」

 

 レオの疑問は尤もで、何の事情も知らなければ大亜連合が新興国家相手に喧嘩を売る―――それも戦略級魔法を用いての攻撃など、世界情勢を考えれば針の筵になりかねない行為。ここで雫の視線が悠元のほうを向いた。悠元ならば何か知っているかもしれない、という期待を込めてのものだった。

 

「……悠元、何か知ってる?」

「俺は便利な道具を出す猫型ロボットじゃないんだが。まあ、さっき言った爺さんとの旅行絡みでニジェール・デルタ地方を訪れて大亜連合軍とひと悶着あったのは事実だ……誰か異論を唱えろよ」

「いんや、無理ね」

「だな」

 

 大亜連合軍が躍起になった理由が目の前にいる人物のせいとなると、逆に納得できるというエリカとレオの頷きに引き攣った笑みを浮かべそうになったが、何とか堪えた上で話を続ける。

 

「大本の原因は憶測が飛んでいるだろうが、心当たりがあるところとなるとそれぐらいしかない。細かいことは聞かないでくれると助かる」

「そうだな……聞かないほうがよさそうだな」

 

 達也からすれば、祖父世代の親友にして四葉の復讐劇の生き証人が関与した時点でロクなことにならないだろうと察し、悠元も戦略級魔法師クラスの実力者という事実を知るからこそ、それ以上の追及が飛ばないように声を出すことで余計なところに首を突っ込まないようにした。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 アフリカでの大亜連合軍壊滅、そしてフランスの介入があったとはいえ勝利したアフリカ連邦は国家としての発言力を強めることとなった。政府発表では『今回の一件に対する報復行動が行わない』と明言した上で、インド・ペルシア連邦およびアラブ同盟、東南アジアや日本・台湾と連携して対新ソ連・大亜連合包囲網を構築する方針で一致した。

 この状況で新ソ連と大亜連合が手を組む可能性も示唆されたが、現状では皆無に等しい。何故ならば、[ブランシュ]絡みでアンティナイトをウクライナ・ベラルーシ分離独立派から入手している繋がりもあり、その部分で相容れない溝が存在している。

 [アクティブ・エアー・マイン]についても軍事転用できないように威力をかなり低減させているだけでなく、必要以上の威力を出そうとすると起動式の読み込みが変化して[オゾンサークル]を発動するように組み込まれている。元々旧EUはおろかイギリス連邦構成国間でも起動式のデータが融通されているため、誰がどこから入手したとしても何ら不思議ではない。

 

 ここまでの要素もあって、達也が非難を浴びたり魔法大学がメディアに追及されることはなかったものの、西暦2097年5月10日、金曜日の放課後にその事態は起こった。職員室に呼び出された悠元は、そのままの足取りで部活連本部室に向かった。

 幹部メンバーのみではあったが、悠元は一息吐いたうえで声を出した。

 

「今年の九校戦だが、委員会の情報管理体制の問題があるという理由で中止の通達が成された。生徒会でもその報告が行われてる」

「……まあ、昨年がアレだったというのもあるでしょうけどね。深雪のフォローはしなかったの?」

 

 悠元の言葉に対して最初に反応したのはエリカ。本人も選手として出場したため、軍事色の強い競技への変更というアクシデントに巻き込まれた形だ。この発言にはレオや琢磨も納得するような様子を見せていた。

 その上で、エリカは同じように話を聞いていたであろう深雪を気遣う様な質問を投げかけた。

 

「一応しておいたが、万が一は達也が何とかするだろう。それはともかく、九校戦が行われないというのならば別の手段を講じる必要がある」

「別の手段ですか?」

「どうせ教職員が積極的に動くとは思えんから、九校戦中止による不満の捌け口をこちらで用意する。幸い、一昨年の魔法競技ぐらいなら一高の設備があるし、使わずに放っておくのも忍びない。いざとなれば財界の伝手でスポンサー協力はいくらでも付けられるしな」

「……つくづく、アンタの存在がバグってるわね」

 

 エリカの率直な感想はまだしも、まずは部活連で他校の会頭と話をつける必要がある。最低でも『国立魔法大学付属高校・九校魔法競技交流会』の体に持っていくつもりだ。この辺の話はネットの噂が出た時点で千姫にも伝えており、切磋琢磨による魔法技術の向上という点で理に適っているということで話はついている。

 

「そういうわけで、時期自体はあまり変えないがその前提で話を進める。競技自体も一昨年の種目と成績に基づいた人数構成で各校と打ち合わせるから、エリカたちは出場選手の選定を頼む」

「ま、大きな打ち合わせは悠元に任せちまうからな。俺らでやれることはやるか」

「そうね。七宝も頼むわよ、次期会頭」

「は、はい!」

 

 原作だとモノリス・コードのみの交流戦を“九島烈を偲ぶ”という理由で開催されたが、それで出れなかった選手の不満が解消されるわけではない。

 そこのフォローをする意図も含まれているが、本来意を汲むべき大人たちの怠慢にため息が出そうだった。

 




今回と次回は九校戦中止あたりのお話。三高周りの話は原作と被らない程度にする予定。
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