魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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今日は連投。


他所は他所、うちはうち

 九校戦中止の影響は直ぐに広まったが、第一高校は現部活連会頭の悠元の呼び掛けもあってすぐに鎮静化した。九校戦中止の理由も『世界情勢を鑑み、魔法競技の在り方を見直す』という通達によって、特段誰かを攻撃するようなものではなかった。

 だが、それとは同時に妙な噂が魔法科高校九校の間に広がっていた。それは、『[トーラス・シルバー]が第一高校の生徒ではないか』という一見すると根も葉もない噂。出所はハッキリとせず、時期を探ると先月の第一回若手会議の後に突如国立魔法大学のネットワーク上に出てきたもので、この噂は今のところ魔法大学の生徒もしくは魔法科高校の生徒の間にしか広まっていない。

 

 この世界における殆どの非魔法師―――日本国民からすれば、[トーラス・シルバー]は医療面で非魔法師に恩恵を与えた技術者という認識が強く、それが高校生となれば将来の日本にとって有益な人物である、と考えるものは少なくない。国外からすれば、その繋がりを得たいと画策したり、最悪暗殺に踏み切るという過激な考え方まで出てくる。

 ただ、魔法科高校の生徒からすれば、[トーラス・シルバー]に匹敵し得るであろう人物がエンジニアとして活躍し、『不敗神話』まで作り上げてしまった達也に疑いの目が向けられることは想像に難くない。

 

「そういうわけでして、第一高校の設備を使うことも視野に入れて動こうかと思います」

『委員会の弱腰は治っておりませんか。なら、今回は私が運営委員長になりましょうか』

「……止めはしませんが、程々にしてください」

 

 九校戦中止に伴う魔法科高校交流会・運営委員会の陣容として、烈には特別にオブザーバーとしての仕事をお願いした。昨年のやらかしの汚名返上をする意味でも、烈に断る理由は存在しなかった。そして、運営委員長は千姫が立候補したため、断る理由が無くなった。

 

『にしても、部活連にはそういう風に話したのに、悠君は何を考えているのかしら?』

「……先日、情報部が自分や達也を粛清リストに載せやがりましたからね。反撃は追々しますが、その代償として富士演習場南東エリアを丸々神坂グループで買い上げようと思いまして」

 

 元々、国防軍の演習場は神楽坂家か上泉家の所有地を政府が借りる形(表向きの書面では国有地という扱い)で取り扱っており、国防軍の演習場を“買い戻す”こととした。情報部の自浄作用が作用しなかった場合、その粛清を国防軍(独立魔装大隊)に実行させた上で該当エリア―――九校戦の競技エリアを接収する方向性で話を纏める。

 

「代わりの土地は演習場北東のエリアに用意しましたし、元継兄さんには事前に説明して外国将校向けのホテル建設を既に進めています。何かマズかったですか?」

『ふふっ、元々好きにしなさいと言っているのに、そこまで機嫌を窺わなくていいですよ』

「流石に財界や政府まで巻き込んでますので、自分でも裁量の判断が難しいんですよ」

 

 実を言うとフェンスの移設工事自体は既に開始しており、富士演習場のエリア変更に関する部分は蘇我大将や空・海軍の総司令官、そして総理大臣や防衛大臣にも話を通している。

 民有地となる関係で交通網の整備も行わなければならず、ここは財界の伝手を使ってホクザングループの関連企業も事業に参加してくれている。この辺は他のライバルグループと海外の案件で争っていたところに神坂グループ取締役として斡旋を行い、お互いが納得する形で仕事を分け合った形となった。

 

「最終的には[恒星炉]の水素燃料発電によって会場や宿泊するホテルの電気を全て魔法技術で賄うという構図にまでもっていきます。問題があるとすれば……」

『アメリカ……いえ、エドワード・クラークなる小僧ですか。流石に悠君を敵に回せなかったようですが、悠君が表立って残している功績は精々[クリムゾン・プリンス]を完封したことぐらいですし』

 

 魔法界で見れば膨大な功績を残しているが、一般社会で見れば佐渡侵攻を食い止めた[クリムゾン・プリンス]以上の実力者、という認識でしかなく、使われた魔法もその詳細が不明というまさに[殲滅の奇術師(ティターニア)]の異名そのもの。

 情報部の粛清リストは内密に入手したが、達也はともかくとして悠元や修司、由夢は対象に含まれなかった。克人の言葉をつかさが読み切れなかったか、あるいは箝口するように釘を刺されたか。この場合はまだ楽観視が出来ないと判断するほかに無いだろう。

 

「多分、第一高校や魔法協会にまで根回しが来ることが想定されます。なので、師族会議議長として動く際は達也を擁護する形で動きます……実質的には、の部分が付きますが」

『小僧や小娘たちは滅私奉公の本質を分かっていませんからね。10年以上も国外を飛び回るという辛さを味わっていない輩に言えた台詞はありません』

 

 千姫だけでなく、剛三も世界群発戦争で長いこと国を空けていた。国を守るために世界中を飛び回ったのは40~50歳代の時。魔法師の数や質が安定しなかったとはいえ、実力のある人間に全てを任せるような形となったことに対して十分な補償をしたとも言えない。

 政府としては一応補償はしたが、元老院の暴走を止められなかった意味でも神楽坂家と上泉家に負い目がある。何故かというと、千姫にとって魔法の師匠にあたる人物の娘が剛三の息子に嫁ぐ予定だったが、その人物も樫和家に殺されたとのことだ。そのため、千姫は師の代わりに復讐を果たす意味でも、剛三と共に先代の樫和と東道を殺したらしい。

 

 聞くに陰陽師系列の蘆屋(あしや)氏の血を継ぐ人間だったそうだが、元を辿れば蘆屋道満の不義によって安倍晴明を怒らせたのが原因の為、蘆屋氏は安倍氏の怒りをこれ以上買わないために陰陽師の道から遠ざかって、京から離れた遠方の地で占い師という形で魔法を後世に継いでいた。

 そして、千姫の祖父に当たる人物が蘆屋氏を許し、京都に戻った。当時の蘆屋家当主が極めて優れた資質を有していたこともあり、当時から神童とも噂された千姫の師となったそうだ。なお、亡くなってしまった娘には妹が三人いて、いずれも千姫の斡旋で魔法師の家に嫁いだと聞いている。

 

 閑話休題。

 

「一番重みのある人間が言うと、断然違いますね」

『むー、私はまだしわくちゃになってませんよぉ』

「誰も母上の容姿と実年齢の話はしていないのですが」

 

 ともかく、九校戦中止に関する対案は自分を中心に進める必要がある。既に護人はおろか元老院の中核に就くことは未だ実感がないというのが正直な感想だ。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 第一高校はなんだかんだ言って達也のシンパが多い上、九校戦で打ち立てた実績を見れば誰も文句のつけようがなく、加えて現会頭の悠元のことを考えれば誰も達也を咎めようなどという気など起きなかった。

 だが、他校の生徒からすれば、今回いきなり中止となった九校戦の裏に何かがあると邪推する人間は少なくない上、ネット上に流れていた噂を鵜呑みで信じてしまい、達也に対する批判へと繋がるケースが後を絶たなかった。

 その一例を翌日の放課後、悠元はカフェテリアで休憩していた時に聞いた。

 

「金沢―――三高に戻るよう言われたって?」

「ええ、その通りです。私だけでなく、沓子や栞も同様に言われていることでしょう」

 

 周りからすれば、悠元が複数の婚約者を持つことは風の噂程度に流れており(一昨年の時点で深雪、雫、姫梨がいたために例が増えた程度で済んでいた)、愛梨もその一人ではないかという噂も存在した。特に否定する理由は無い訳だが、互いに師族会議の家として話す内容は当然遮音フィールドを張っている。

 

「九校戦中止だけならそこまで神経質にならないが……例の噂のせいか?」

「ええ。父の話を聞くに、単に達也さんを悪者に仕立ててストレスの捌け口を作りたいようにしか見えませんもの。なので『戻る理由がない』と前田校長にお伝えしました」

「将輝はともかく、真紅郎(ジョージ)の胃が心配だから胃薬でも送ろうかな」

「十代で胃痛に悩まされそうな性分ですものね、彼は。誰のせいがとは口に出しませんが」

 

 天才肌の人間でも天然には勝てない、という一例を垣間見たことはさて置き、愛梨から詳しい内容を聞くと、あまりにも稚拙という他ない内容だった。

 九校戦中止に関して動揺がみられたが、更に稚拙だと思ったのは三高にとって一番の悪役(ヒール)として達也が挙げられた上、今回の九校戦中止の原因を達也にぶつけているらしい。将輝はそれに賛同せず咎めているが、そこまで効果がないそうだ。

 

「一高にいることで家の悪評が広がるというのなら、俺が声明を出してでも咎める用意はある。俺が言うのもどうかと思うが、高校生の分際でエリート気取りなんて誰と比較しての話なんだ、ということになりかねん」

「……そう言われてしまうと、中学校時代の自分に対して助走をつけて(はた)きたくなりますわね」

「別に愛梨のことを咎めたつもりはないんだが」

 

 達也に対する個人攻撃の部分は九校の部活連会頭による会合でも見られ、悠元が八校からの追及に対して応対したが、『噂だけでこちらの生徒個人を誹謗中傷するならば、各校の生徒の品位を疑うだけでなく、将来の魔法師としての品位にも繋がる。沈静化させるつもりがないのならば、国立魔法大学学長に直接訴えることも視野に入れる』という言葉に他校の会頭達は狼狽えていた。

 この程度で狼狽えるのならば、クラブ活動の統括なんて性分ではないと示したようなものではないのだろうか……と思わなくもない。

 

「しかし、勝てないからと言って陰口を言うのは別に構わないが、大事にするのは看過できん。挙句の果てには『一高は出場するな』とか、勝つための努力云々ではなく自ら『勝てない』と諦めたに等しい」

 

 文句や不平を持つことは別に咎めはしない。だが、それを相手への誹謗中傷へ繋げること自体が正気を疑いかねない。愛梨と沓子、それに栞は『三高に戻る気は無い』と宣言したようなもので、この辺は学校の事情よりも家の事情を優先してくれた形になるだろう。

 

「無論、十師族や師補十八家としてのアドバンテージは否定しないが、それだったら渡辺先輩やエリカは勿論、それこそレオはどうなるんだって話だ」

「……まあ、その辺は悠元さんの協力があってこそでしょうけど」

「否定はしないが、ただでさえ強い卒業生や在校生まで『達也のお陰で勝てた』とでもいうつもりなのかね? それこそ“恥を知れ”だな」

 

 この日の夜、悠元は国立魔法大学学長に対して根も葉もない噂による生徒個人への誹謗中傷を咎める様に要請。昨春の一件もあって学長は事態を深く受け止め、第一高校以外の魔法科高校に対して『出自不明の風説による生徒個人への誹謗中傷は、極めて魔法科高校の生徒にそぐわぬ行為であり、直ちに騒動を収束させること』の内容を通知。

 これで達也個人への攻撃となるような状態は一旦終息したものの、それを再度焚き付けるような事態が海の向こうから齎されたのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 日本時間5月12日の日曜日。ロサンゼルスで現地時間前日13時。海の向こうから届いたニュースは、国際プロジェクトに関するものだった。

 提唱者はエドワード・クラーク。北アメリカ合衆国・国家科学局(NSA:National Science Agency)に所属している政府お抱えのシステムエンジニア。その声明はUSNAが各国に呼び掛けるという性質を持つものだ。

 

 現状は何の根回しも出来ていない、一方的に打ち上げたプロジェクト―――『ディオーネー計画』の概要は、木星圏の資源を用いて金星をテラフォーミングするという夢物語。

 金星は、星の直径と重力が太陽系の惑星の中で地球にほど近いものの、分厚い二酸化炭素の大気と硫酸の雲という従来の科学技術では膨大な労力を有する難題により、火星のテラフォーミング計画が優先して進められている。

 地球からの距離はともかくとしても、ただでさえ低重力による人体の影響は過去の宇宙開発競争で証明されており、金星が開発可能になれば悪影響は低く抑えられる。その理想を実現するために魔法技術で大気改造を行うというのが『ディオーネー計画』の概要だ。

 

 エドワード・クラークは『ディオーネー計画』の推進に必要な人材として九人の名を挙げた。主だったところで目立ったのは[十三使徒]の一角であるイギリスのウィリアム・マクロード、新ソ連のイーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフの名が挙がった。実現性の可否はともかくとしても、名立たる魔法学の権威として協力を求めたのは当然の流れとも言えた。

 魔法技術を用いるということで、研究者以外にも[マクシミリアン・デバイス]の社長ポール・マクシミリアン、[ローゼン・マギクラフト]の社長フリードリヒ・ローゼンの名が挙げられた。いずれも世界に名立たる魔法工学メーカーのトップまで名が挙がったのは妥当だろうと納得感があった。

 そして、エドワードを含む九人が発表されたところで、残る一人の名に注目が集まることを見越した上で彼はこう告げた。

 

『そして、プロジェクトに是非参加してほしい技術者がいます。居住国の法律で未成年の為に実名は申し上げられませんが、[トーラス・シルバー]の名で活動している日本の高校生です』

 

「……アメリカには懲りるという文字が辞書の中に存在しないのか?」

「酷く辛辣だな、悠元」

 

 朝食を終え、自動録画されたニュースを見て吐き捨てた悠元の台詞に対して、達也は一つ息を吐いた上で窘めるように呟いた。元々[トーラス・シルバー]の公表は()()()()高校卒業時にすると決めていたし、四葉家にも事情は説明済みのため、特に動揺は見られなかった。

 原作だと深雪が泣いてしまう事態になったが、この辺の事情を話している為か特に取り乱す様な素振りは見られなかった。その代わりに深雪からせがまれて(物理的に)熱い夜を過ごしているわけだが。

 なお、洗い物のために深雪と水波はキッチンに立っているため、リビングには悠元と達也しかいない。

 

「水面下で[恒星炉]の計画を進めていたのは、これがあったからか」

「そういうことになる。これで破壊工作を仕掛けた場合、当該国に莫大の賠償を支払わせる腹積もりだが。その意味で、達也は当分忙しくなるだろう」

「それは悠元にも言えたことだろうに」

 

 原作における『孤立編』にあたるが、裏を返せば『多忙編』という変哲もない名が付きそうなぐらい忙しくなるのは目に見えている。[トーラス・シルバー]絡みはCAD関連もあるので仕方がないにせよ、未だ高校生の身分で社会人のような忙しさを体感すること自体感覚が狂いそうになる。

 

「ともかく、[トーラス・シルバー]公表の前倒しを前提で考える必要がある。達也には言ってなかったが、真夜さんには[トーラス・シルバー]の正体がバレている前提の話を通しているから、対処は考えてくれているはずだ」

「そもそも、あの母上が考えない筈もないだろうし、葉山さんも賛同するだろうな」

 

 実の息子を地球外に飛ばそうというのだ。しかも四葉家の次期当主を。それが明るみになった際、真夜が怒ってUSNAに[流星群(ミーティア・ライン)]を乱発しかねない事態になる方がかなりヤバいことになる。

 その意味でも、達也を国外はおろか宇宙になんて行かせる選択肢など“ゼロ”に等しい。正直、エドワードは破滅願望でも有しているのかと邪推したくなってしまう。

 




 二つの流れが形成されている理由ですが、あくまでも部活連会頭としては一高が主体となって九校戦に代わる交流会の開催打診であり、神楽坂家当主として九校戦の会場となる場所を国防軍の管轄から切り離すというもの。
 国立魔法大学自体が元々国防軍の基地跡に建てられている為、ここら辺は問題なく行けると踏んでのものです。ただでさえ、国防軍は悠元に多大な借りを作ってしまっている為、早めに返さないと大変なことになりますからね。
 それを仮に妨害しようとすれば、千姫が出てきて初手で詰むという地獄待ち。

某弓兵『その先は地獄だぞ』
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